※この作品はR-18です。

感度3000倍の世界で非モテは吠える   作:Re鯖

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家族麻雀は悪い文明、破壊する(三暗刻)


第7話 通信教育で剣道6級だった腕を見せてやる!

 あー、死ぬかと思った。

 不知火さんがめっちゃシリアスな表情してたからやっぱヤバイ所に来ちまったって思って緊張でガチガチに固まっていたと思ったらいきなりウトウトし始めるしさ、目が覚めたと思ったらなんか爺さんが冷や汗かいてるしいきなり化け物って言われるしさぁ……

 

 うるっさいなぁ! 化け物って自覚は本人が一番持ってんだからほっといてくれよぉ!!

 

 ってな感じで怒り心頭で杭を出したら爺さんもわかってくれたのか帰っていいって言われた。いい人で良かったね、うん。

 病室に戻ってきてからも、不知火さんはどこかぎこちない感じだった。やっぱりあの爺さん偉い人っぽかったし俺何かやらかしたのだろうか。これでも空気が読める方の人間(自称)である俺も、若干居心地が悪くなってしまった。

 

「ねえ、京士郎」

「……何?」

 

 っと、そんな事を考えていたら花瓶の水を入れ替えていた不知火さんが戻ってきた。未だにまともに話せないけどそれでも無視はご法度だ。

 

「あの人に言ったことは……本当なの?」

「……うん」

 

 言ったことっていうとブラック関連のことか。まぁ、俺自身ブラックがまさかあそこまでお偉いさんから重要視されてる人物だとは思わなかったからまぁビビったよね。俺としては当たるも八卦当たらぬも八卦なハッタリ的な感じで言ったことがまさかあそこまで効果的だなんて思わなかったよ。

 

「……京士郎、前のあなたに、一体何があったの?」

 

 ……おおっと、これはまずい。

 今の俺には串刺し生活より前の記憶がない。ゆきかぜや不知火さんの話からどういうやつだったとか何があったのかとかは大体わかってはいるけど何がどうして串刺しになったのかとかは覚えていない。まぁ、不知火さんも知らない様子だし適当にやり過ごせばいいだけの話なのかも知れないけどそれでもいつもお世話になってる人が真剣に聞いているのにそうやって嘘をついてやり過ごすのは若干の罪悪感がある。

 

「……気がついた時には、不快だった」

 

 故に、ここは適当にはぐらかす! いや、自分でも中々の屑だなとは思うけどしょうがないじゃん。覚えてないんだもん。

 ただ、連れ去られる前に何があったかは知ることが出来た。騙すような真似になってしまうのは心が痛むが、これでもし俺が何も覚えていない、下手したら京士郎ですらない誰かだという事実が判明したら事態が余計ややこしくなることは明らかだし、何より不知火さんやゆきかぜを深く傷つけてしまう。それだけは何としてでも避けたい。

 

「気がついた時にって……」

「……痛かった、苦しかった」

 

 あんな状態にされた上に身体を串刺しにされて地面に縫い付けられるとかいうどんなドMでもお断りな状況に置かれていた上に、身体を吸血鬼に作り変えられてしまった俺のことだ。きっと仮面の下で涙を流すバイク乗りよろしく改造手術的な何かを受けたことは間違いない。きっととんでもなく痛かっただろうし苦しかったに違いないはずだ。

 

「……それだけ、しか、覚えてない」

「……そう」

 

 そして、水城京士郎としての意識を手放すくらいには、それを覚えたくなかったはずだ。まぁ、元々の水城京士郎っていう人格を消して俺を作った可能性は無きにしもあらずだけどそんな事を不知火さんが知っているはずもない。

 

「……ごめんなさい」

「ううん、思い出したくもない事聞いてごめんね?」

「……大丈夫」

 

 俺の適当な出任せをそのまま信じてくれる不知火さんに罪悪感から精神崩壊しそうになったがどうにかこらえた。

 いつか、本当のことを言える日が来るのだろうか。

 それとも、それより前に俺という人格が消えるほうが早いのだろうか。

 ……やばい、考えたらちょっと怖くなってきた。誰だって死ぬのはごめんだからね。

 

「京士郎? 大丈夫?」

「っ、大丈夫」

 

 と思ってたら普段仕事しないはずの俺の表情筋が仕事していたのか不知火さんに心配されてしまった。自分で勝手にいらん事想定して勝手に不安になって心配されるとか間抜けすぎる。

 

―――――――――――――――――――

 

 不知火は、自分の不甲斐なさが情けなくなった。京士郎の前では笑顔を保つことが出来たものの、病室を出てからのその表情は若干険しいものだった。

 京士郎は、おそらく五車町を離れていた間の記憶が曖昧である。京士郎との少ない会話から不知火がたてた予測がそれだ。

 京士郎は、人の身体から吸血鬼にされる際に耐え難いほどの苦痛を受けた。それ故に、思い出そうとしても身体が勝手にストッパーをかけてしまうのだ。早い話が一種のトラウマと言える。

 そんな事を何の思慮もなしに聞いてしまった自分も、あの時確かにその苦痛を思い出して震えていた京士郎をみて、その京士郎に助けられた自分にそんな事が許されるのかという考えが頭をよぎり、ただ抱きしめる事すらできなかった弱い自分に、不知火は嫌気が差していた。

 

「不知火さん?」

「あら、凜子ちゃん?」

 

 とりあえず家にかえってやることをやらねばと考えを切り替えた不知火は廊下で凜子と出会った。凜子は何かを迷っているような様子だったが、その足取りが確かなものであることから道に迷っているというわけではなさそうだった。

 

「京士郎に会いに来たの?」

「はい、目を覚ましたと聞いて……面会駄目でしたか?」

「ううん、そんな事ないわ」

 

 凜子は、少し険しい表情をしている不知火に向かって若干引き気味に尋ねる。そこでようやく自分の表情が険しい事に気づいた不知火は険しい表情を引っ込めて笑みを浮かべる。

 彼女のように、長い間疎遠になっていたにも関わらず京士郎に親しくしてくれる友人がいることを、不知火は嬉しく思っていた。京士郎の周囲にいる人間は決して悪人ばかりではないのだ。

 

―・―・―・―

 

 秋山凜子は、将来有望な対魔忍の見習いだ。

 未だに若いながらも、逸刀流の免許皆伝まであと少しの所まで来ており、現役の対魔忍を相手取っても剣術ならば引けを取らないレベルに到達している。

 そんな彼女には、一つ確かめたいことがあった。

 いや、彼の状況を考えるのならば、その結果はわかりきっていることだ。

 でも、確かめずにはいられないのだ。

 

「京士郎、入るぞ……」

「ん…………」

 

 一つ深呼吸をした後にノックをして京士郎がいる病室に入った。そこでは、最後に凜子が見た時には文字通り死んだように眠ってしまっていた京士郎が読書をしていた。その肌は以前にもまして白くなっており、もはやアルビノの一種なのではないかと思わずにはいられないほどになっていた。

 そのまま消えていってしまいそうなほどに白くなっていく京士郎だが、当の本人はそんな事は起こらないと確信しているのか、それともただ単純に状況を理解していないだけなのか、のんきに読書をしていた。

 ここ最近、京士郎のことは五車町の中では小さな眉唾ものの噂となっていた。

 曰く、魔族の精鋭達を相手に京士郎が一歩も退くこと無く闘い、不知火を守り抜いたと。

 不知火は五車町の中でも五指の中に入る超実力者だ。普通に考えるのならば、出来損ないの烙印を押され、数年前に死亡したはずの京士郎がそんなことが出来るなどとは誰も考えるはずもない。

 

「えっと……目を覚ましたと聞いて来たんだが、身体の方は大丈夫なのか?」

「……明日には、退院」

「そ、そうか」

 

 だが、凜子は違った。

 彼女は知っているのだ。京士郎が時折見せる恐ろしいほどに空虚な瞳を。感情と呼べるもの全てが排され、まるで人形になってしまったような瞳を知っているのだ。何をやってしまってもおかしくないような彼を知っているからこそ、凜子はその噂を信じていた。

 

「……京士郎、もしよかったら、また稽古に付き合ってくれないか?」

「……わかった」

 

 凜子の申し出に対して、京士郎は少しだけ考えるような素振りを見せた後に頷いた。とりあえず了承してくれたことに対して、凜子は胸を撫で下ろした。

 

「……け、京士郎。大丈夫、なのか?」

「…………?」

 

 凜子の申し出に対して答えを返してから、再び黙りこくってしまった京士郎に対して凜子が唐突に質問を投げかけた。その質問は脈絡を得ないものであり、京士郎も何が? とでも言いたげに無表情の中にほんの少し不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。

 

「ああ、いや、すまない。お前はもう長いこと鍛錬をしていないだろうと思ってな。頼んでおいて何だが、いきなりで大丈夫かと思ったのだが……」

「……大丈夫」

 

 京士郎はそんなことかとでも言いたげに再び頷いてみせた。

 

―・―・―・―

 

 うん、まぁ断れるわけなかったよね! 凜子ちゃんも美少女だからしょうがない!

 そんなわけで無事退院した俺が今いるのは凜子が普段鍛錬しているらしい道場。事前情報によれば凜子はそこでは師範代以外には負け無しとのこと。そんな奴と剣なんて握ったことない俺が戦えって? HAHAHA! 随分と笑えない冗談だぜ。

 ゆきかぜ曰く、串刺し生活以前の俺は凜子と同じくらいの実力を持っていたらしいけどそんなこと俺には少しも関係ない。とりあえず凜子の構え方真似してるけどほんとなら構えすらも知らねえよ。

 

「よろしく頼む、京士郎」

「……ん」

 

 凜子は何故か若干緊張した様子で向かい合っている。そして向かい合っている俺と凜子を見ている大量の観客。俺は知ってるぞ、皆どうせ俺を笑うために来たんだろ。事前に凜子に言われたから知ってんだぞ。何か凜子もちょっと悲しそうな表情してるしやっぱりやってる人には見よう見まねの構えだってはっきり見抜かれるんだね。

 

「では、始め!」

「はああああ!!」

 

 と思ったら審判さんの声とほぼ同時に凜子が距離を詰めて俺に向かって剣を思いっきり振り下ろしてきた。いや容赦ないね!? 今絶対殺る気だったでしょ!? 少なくともあれが直撃してたら俺の頭が愉快なことになっていたことは間違いない一撃をどうにか木刀で受け止める。とりあえず素人丸出しだったとしても反撃しないことには始まらない。とりあえず振ってみた一撃は凜子にあっさりと受け止められてしまった。

 

「っ……はぁ!!」

「んっ……」

 

 うおわああああ!? ものすごい連撃が飛んできたあああ!? もう描写とか知らねえよ! 常時命の危機に置かれてるのにんなこと考えてる暇ねえよ! 受けるのだけで精一杯だよ!

 構えもクソもあったものではなく時に躱し時に木刀で受けながらどうにかその連撃をやり過ごすが、その騙し騙しの対応も流石に限界が来た。とりあえず距離を取るけど、このままじゃまた距離を詰められてさっきの二の舞いだ。どうすれば……

 と、その時下らないひらめきが頭をよぎった。

 

(どうせ慣れてないんだったら兄様みたいに逆手持ちの方がワンチャンあるのでは……?)

 

 ねーよ。って普通なら言えるところだろうけどこの体はなんたってあのヒャッハーな闘い方が得意なベイ中尉の身体だ。身体が覚えているとしたら型にはまった闘い方じゃなくて荒々しい闘い方のは確かだ。よしそれで行こうそうしよう。

 

「……足りない」

 

 冷静になって考えたら兄様はクナイを両手持ちして戦ってたのを今更になって気がついた。1本足りない。うん、バカだね。

 とは言え、今更構え直すのは非常に良くない。既に皆からの何やってんだこいつって感じの視線が強いからここで構え直したらただでさえ嫌な視線が突き刺さっているのにそれが強くなったら羞恥心から創造をやらかしかねない。

 というか、もうやだ、これ以上見せ物みたいな扱いを受けたくない。

 もう俺が勝っても負けてもどっちでもいいから速く終わらせたかった俺は、体勢を低くして、いつもオーク狩りの時に使っている奇襲戦法よろしくひとっとびで凜子との距離を詰めて怪我をしないレベルで思いっきり木刀を振るった。

 結果として、俺の放った一撃は凜子の木刀を弾き飛ばすことには成功した。

 が、俺は1つ大事な事を忘れていた。

 俺がオークを狩る時にこうして飛びかかる時には、そのままの勢いでオークの巨体に張り付いてそのままの勢いで吸い殺すことを。

 それがどういう結果をもたらすかというと、

 

「あっ」

「ふぇっ? け、京士郎!?」

 

 これがゲームならば間違いなくイベントCGが入るであろうシチュエーションになった。端的に言ってしまえば、俺が凜子を押し倒しているかのような体勢になっていた。いや、駄目だろ。この体でこんなイベントが起こるわけがないし、何よりまだ男のおの字も知らなさそうな凜子にこれ以上の辱めを与える訳にはいかない。

 

「ごめん……審判」

「え……そ、そこまで!」

 

 俺が凜子の首に木刀を添える。これだけやりゃいいよね? ってな感じで審判さんに確認をとったら審判さんも気がついてくれた。

 

「……じゃあ」

 

 とりあえず、俺は周囲の「え、なにこいつ試合中に女の子押し倒してんの」的な視線に耐えられなくなった俺は道場から出ていた。

 

―――――――――――――――――――――

 

 凜子が普段鍛錬しており、かつては京士郎もそこで鍛錬をしていた道場にて、京士郎と凜子が向かい合っていた。もはやこの道場では師範代以外には殆ど負け無しの凜子と、最近何かと噂になっている死んだものとばかり思われていた京士郎が打ち合うということもあり、彼らの周囲には見物している人々が多めに居た。

 

「よろしく頼む、京士郎」

「……ん」

 

 それぞれの手には木刀が握られており、一定の距離を置いた後に凜子は正眼の構えを取り、京士郎もそれに従い、ややぎこちないながらも正眼の構えを取った。そのぎこちなさは、この道場では負け無しの凜子の前に立つには力不足であることを声高に言っているようなものであり、周囲からも失笑が聞こえてきた。

 その構えには、非常に都合がいい事とはわかっていても、誘った凜子も少しだけ動揺していた。わかっていたことだとしてもだ。

 京士郎が置かれていた状況を、凜子はよく把握してはいない。だがそれでも、京士郎が普通じゃない仕打ちを受けたことくらいは、真っ白になってしまった彼の容姿からみても明らかだ。

 それでも、基本に忠実でどこまでも真っ直ぐだった彼の剣がなくなってしまったということに、何も思わないわけではなかった。

 

「…………」

「っ………」

 

 だが、そんな彼女の思いも、目の前で剣を構えて凜子の方を見据える京士郎の瞳の前では、何の意味もなさなくなってしまった。

 相も変わらず何を瞳に映しているのかわからないその空虚な瞳は、何かの決意に満ち溢れていた。

 

「では、始め!」

 

 審判が振り下ろした手刀と共に、まず最初に動き出したのは凜子だった。

 

「はあああああ!!」

「っ!……」

 

 裂帛の気合と共に振り下ろされた凜子の上段からの振り下ろしは、京士郎が冷静に木刀を横に構えて防いだ。当然、凜子の木刀は横に構えた京士郎の木刀に直撃するのだが、

 

「なっ!?」

「…………」

 

 その時、凜子が感じた手応えは異常の一言だった。普通、凜子ほどの腕前の者の一撃を受ければどんなに僅かであったとしても後ずさったり、受け止めたとしても勢いに押されたるするはずなのだ。

 だが、それらの感覚が一切凜子には無かった。文字通り巨木に向けて剣を打ち付けたかのような、打ち込んだ衝撃が全て跳ね返ってきたような感覚を凜子は感じていた。

 

「……ふっ」

「くっ……!」

 

 そのままの勢いで体勢が崩れた凜子の隙をついて京士郎は片手で以て軽く息を吐きながら木刀を横薙ぎに振る。構えも何もあったものではないメチャクチャな動きだったが、一応それなりの重さがあるはずの木刀を片手で小枝を振るかのように振っているその一撃が軽いはずがない。そんな力任せの一撃に、防御にまわったはずの凜子の木刀が弾かれかけた。

 単純な力による一撃。凜子が知っている基本にどこまでも忠実な京士郎の剣とは対極を為すその剣は、間違いなく凜子が知っている京士郎の剣よりも強かった。

 

「っ……はぁ!!」

「んっ……」

 

 だが、凜子とて決して劣っているわけではない。凜子もこの数年間で京士郎がいなくなってしまった穴を埋めようとするかのように己を鍛え続けたのだ。たとえどんなに京士郎の身体が人の道を踏み外していようが彼女が磨き上げてきた剣術も決して劣るものではないのだ。

 攻めに転じた凜子によるまるで流れるようになめらかな動きで繰り出される連撃に、京士郎も防戦一方になる。

 

「っ…………」

 

 が、いよいよ裁き切れなくなったのか、京士郎が大きく後ろへと飛び退いた。それを追おうとする凜子だが、牽制の意味合いが強いであろう京士郎の一撃によってそれを阻まれた。

 

「…………」

「……京士郎?」

 

 再び距離を取ろうとした凜子の前で、京士郎は何を考えたのか木刀を逆手に持ち始めた。

 確かにこの試合は剣道の試合もなんでもないため、厳格なルールはない。実戦ならば相手の命を奪える所まで持って行った方が勝ちということだけがルールのため、例え木刀を逆手に持ったとしても不備があるわけではない。だが、普通ならクナイなどの類を持つときの持ち方であろうそれを木刀でやった所で利点があるとは思えない。

 凜子が疑問に思うのは至極当然のことであり、見物していた人たちも疑問に思うのは当然のことだ。終いには野次まで飛ばす者まで出る始末だが、京士郎はそう言った者達の事を気に留める様子も無く、ただポツリと一言呟いた。

 

「……足りない」

 

 足りない、その一言が何を意味するものなのか、その場にいる誰もがすぐに理解をすることは出来なかった。

 次の瞬間、まるで大砲でも発射されたかのような轟音が道場に響き渡った。

 それが京士郎が床を蹴った音だと周囲が理解するのに、少し時間がかかった。

 

「なっ!?」

「ふっ」

「ぐぅっ!!」

 

 京士郎はまるで野生の獣のような跳躍を見せていた。ただ単純に長距離を跳ぶだけではなく、そこに圧倒的な速さも込められた跳躍だった。そして、それだけで少々開いていた凜子との距離を詰めた京士郎は、その跳躍の勢いそのままに空中で回転し、全体重を乗せた一撃を凜子に叩き込んだ。

 その速さから回避しきれないと踏んだ凜子は再び防御しようとするものの、そのあまりの勢いに、思わず剣を手放してしまった。

 

「あっ」

「ふぇっ? け、京士郎!?」

 

 そして、そのままの勢いで京士郎は凜子の動きを封じるために飛びかかった勢いを殺しつつ凜子を押し倒して動きを封じた。いくら彼女がここ数年を鍛錬に費やしてきて、自分のことよりも弟の方が気になるブラコンだったとしても、いくら京士郎が人間をやめて化け物の領域に全身を突っ込んでいたとしても、京士郎の容姿は整ったものであり、それに押し倒されて何も感じないほど凜子は女を捨てた覚えはないのだ。

 早い話が床ドンになっている今の体勢で、相変わらずの無表情で凜子を見つめている京士郎に対して凜子は顔を若干赤くしていた。

 

「ごめん……審判」

「え……そ、そこまで!」

 

 が、それも長くは続かず、木刀を凜子の首に優しく添えて、京士郎は審判に声をかけた。未だ呆然としていた審判に京士郎が声をかけると、呆然としていた審判はハッとしたかのように我に返り、試合の終了を宣言した。

 

「……じゃあ」

「け、京士郎……」

「……何?」

「……すまない、何でもない」

「……そう」

 

 京士郎と凜子が互いに一礼した後、汗一つかいていない京士郎がその場に居た人に対しても一礼した後に道場を出ていった。凜子は呼び止めようとしたものの、やめた。今、自分には京士郎を呼び止める資格がないような気がしたからだ。

 

 足りない。

 

 その意味を、この場にいる誰もが理解した。

 足りないのだ。

 京士郎と相対する者の、力も、速さも、技量も。技も何もあったものではない力任せの京士郎の剣で軽くあしらえる程度のものでしかないのだ。

 悪く言ってしまえば、才能任せの剣。

 だが、それがいかに強く、才能を持たないものからしてみれば残酷なものなのかを京士郎は知っている。だからこそ、京士郎はこの場に自分がいらない存在だと思い。出ていったのだ。

 自分のほうが先を行っていると思っていたのに、気がつけば京士郎に孤独を感じさせてしまうほどに実力を突き放されていた。

 その事実が異様なほどに悔しくて、凜子は拳を握りしめた。




エッチなのはしっかりおとなになってからにしましょーねー()
……一番書きたがってるのは作者です。
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