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まだ秋なのに寒い。なんとなく暗くなったリビングでそう思う。
久しぶりに母さんとまともに顔を合わせた。朝はそれぞれに食事をし、昼食は学食で食べろと千円が投げ置かれている。夕飯は帰ってこないから、昼のお釣りで適当に食べる。夜遅くに帰ってくる音がすることもあれば、そのまま何日も外泊を続けることもあった。
僕の成績を確認するのは、どうやら今も習慣であるらしい。二学期の中間考査の結果を一瞥すると、母さんは深いため息をついた。
「学校だってタダじゃないのよ。オナってる暇があったら勉強しなさい」
冷たい、吐き捨てる言い方に僕は全身を、とりわけ股間を硬くする。
「はい……」
「私が気づいてないと思ってた?」
「え?」
「驚いてるから」
「……ちょっと、びっくりしたけど……」
「知ってるわよ、なんたって『お母さん』なんだものね。子供のことはちゃんとわかってる。あなたは勉強に集中したいのよね?」
「……はい」
「そう。じゃあ私、出張を引き受けるわね。一週間家を空けるから、ちゃんと戸締りしなさい」
「はい」
母さんとの会話は、それだけだった。
母さんは気付いているのだろうか。僕が気付いていることに、気付いているのだろうか。
冷蔵庫には腐りかけの野菜が転がっているばかりになっていて、部屋の隅には埃がたまっていて、風呂場には水垢がこびりついていて、家に溢れていた愛が消え失せていること。母さんの下着が派手になっていること。僕の将来のためにと貯めてくれていたお金が、母さんのスカートや香水に変わったこと。それでは足りぬほどにお金が減っていること。
それから……母さんがネットで晒されていること。
K国のサイトだから、ご近所さんは知らないかもしれないけれど、僕は知っている。あのナントカというK国人が投稿していることも。
最後の書き込みにはわざわざ僕に向けてN国語で、「息子が下着泥棒のオナ猿でやりやすかった」と書いてあるのだ。僕は何度も流した涙と我慢汁をまた垂れ流しながら、掲示板をスクロールしていく。最初の日付は母さんが飲み会に行った日になっている。明らかに正常ではない母さんの全裸写真があげられ、K国語でこう書かれていた。
「N国の知り合いに紹介させた女は上玉だ。聞いてた話ではN国で言う『良妻賢母』(夫は死んでるけど)らしいが、薬と酒で潰してハメたらあっさり陥落。これじゃつまらないと思ったから、わざと焦らしてみようと思う。あくまでも俺は、真面目な留学生」
母さんがいかに躰に正直な淫乱女であるかを馬鹿にしながら、男に傾く様がつづられていた。
八月の終わりごろからは、一気にアブノーマルなプレイが増える。一週間くらい前の食事に二人の出した液体が混じっているのだと知ったときには、思わず吐いてしまった。久しぶりの手料理に浮かれあがった自分が馬鹿みたいだ。
そして最後の書き込みには、僕への言葉の他に、参加者募集という書き込みがある。明後日からK国に連れて帰るから希望者は抱かせてやる、というのだ。
母さんの「出張」は、K国へのセックス旅行というわけだ。何人もの男に、慰み者にされるのだ。僕の……僕だけの美しい、優しい母さんが、男たちの玩具になる。おそらくそれを、自分の幸福と信じて。
僕はふらふらと、下半身を丸出しで歩いた。勃起がおさまらなくて、ズボンも穿けない。リビングの机に一週間分の食費として二万円が置かれていたけれど、とても買い物にも行けない。
母さんの寝室に忍び込む。部屋の主がどこかでセックスに溺れている。父さんの写真は、いつの間にかなくなっていた。
それでもまだここは、優しい母さんの匂いに満ちている。心が落ち着く。
ごそごそとタンスを漁る。色とりどりの下着類。何も隠せそうにない透けたもの。隠す気もない穴開き。テラテラと男を刺激する素材。どれもこれも、夏からの一ヵ月ちょっとに買い揃えられたものだ。適当な何枚かを手に取って、母さんのベッドに倒れ込む。
綿の中にしみ込んだ母さんの匂いが舞い上がる。掛け布団の中に潜り込む。
勃起したモノに母さんの下着を巻き付ける。そしてうつ伏せになって、枕に顔を埋めて腰を振る。カクカク、カクカクと。母さんのベッドを突く衝撃。母さんの下着に包まれている感触。射精感はすぐに襲ってくる。
母さんの匂いがするまくら。
母さん、僕だけの母さん、
「あっあっあっああッ! 母さん! 母さん! 気持ちいいだろ、和美。僕のちんこだって、気持ちいいだろ!」
だらだらと射精が始まる。構わずに腰を振り続ける。
「和美ぃ、僕だけの和美なんだ……帰ってきたら今度はちゃんと、抱くから……気持ちよくしてあげるから……」
そんな日はこないのだ、と思った瞬間、一番強い爆発が起こってしばらく動けなくなる。
机の上の二万円を思い出す。
最後に残った母さんの愛。僕に向けられた母さんの気持ち。
その最後の一滴さえ喪失する恐怖に、僕は期待さえしていた――