@
母さんがキスをしてきた日から、女のにおいが強くなった。それは僕が母さんを女として意識しているからだろうか。それでもたしかに、夏が近づいて暑いせいか、母さんの体臭は間違いなく強くなっていた。
それに母さんが考え事をするときに、人差し指の中節を唇ではさむように甘噛みするのを、僕はどうしても見てしまう。そんなクセは最近までなかったのに。はっとして口を離す瞬間、唾液で指が光るのが艶めかしい。
「それじゃあ和彦。お母さん先に行くわね」
まったくいつも通りに出勤する母さん。
「今日も残業?」
「そうなると思う。ごめんなさい」
残業続きなことも、最近では当たり前になっていた。僕は「じゃあ勉強でもしてるよ」と母さんを見送る。
それでも夜の六時を回り、七時を回り、時間が進むほどにズボンの中が窮屈になってしまう。母さんの帰りが遅い。そのわずかな不安がじくじくと陰嚢から這い上がるように海綿体を血で満たす。
母さんと繋がった血。
勉強など手につかなくなって、僕は自慰に耽ってしまう。
母さんの顔を、声を、下着を、唇を……快感が高まるほどにそんなことばかりを思い出す。
「うっ……くうっ……」
僕は歯を食いしばって射精をこらえ、適当なエロ動画サイトを検索し、とにかく母さん以外の女性をオカズにしようとする。そうしなければ、本当におかしくなるような恐怖があった。
モニターに映し出された女の子は複数の男に嬲られて、されるがままになっている。獣じみた喘ぎ声は乱暴な抽挿に押し込められていた。
僕はその本能のぶつかる様を見ながら、たぶん母さんのことを考えて果てた。
口を開けっ放しにしていたらしい。カラカラに乾いていた。ペニスがしぼむのに合わせて、冷静さが甦ってくる。
スピーカーから流れる言葉は外国の言葉だった。動画タイトルは英語だけれど、もっと別の言語だ。えっと……タイトルは……
「中学生N国女……調教完了……?」
動画投稿者の名前は「Kim」だ。キム……。
息苦しさを覚える。何か……嫌な予感……。翻訳サイトでK国語に変換した適当な単語を組み合わせて検索をかけていく。K国、N国、調教、セックス、慰安婦、犯罪、奴隷…………。出てきたページを無作為に開く。いくつめかのページはK国の匿名掲示板だった。女性の裸の写真がいくつか投稿されていて、多くはアブノーマルなプレイに興じているようだった。読むことのできないK国語をコピーして、翻訳サイトでN国語に変換する。機械的に訳された不可解な文章。
単語単語を拾っていくと……誰が一番美人のN国人を奴隷にできるか、という遊びをしているようだった。
「本物……じゃないよな……?」
読めもしない掲示板をスクロールしていると、母さんが帰ってきた音がした。
「ただいま」
「おっ……おかえり!」
僕は慌ててパソコンをシャットダウンして、オナニーの後処理をする。飛び散ったモノをティッシュでふき取り、窓を開けて換気する。母さんがリビングに入ったのを確かめてから、トイレに寄って手を洗った。それからリビングへ行く。
「おかえり」
「ただいま。ごめんね、こんなに遅くなっちゃって。すぐに作るから」
母さんの笑顔はどこか蕩けたように、妖しい雰囲気が混じっている。出したばかりの股間が、ぴくりと反応した。
目をそらすように時計を見た。八時半。今日も母さんは外で食べてきたのだろうか。
@
あの後、テウン君はいつも通りだった。変に緊張して、彼の家の前で長いことためらってチャイムを鳴らした自分がばかみたいと思えるほど、いつもと変わらない。大学で先生とこんな話をしたとか、最近どんな本を読んだとか。私ばかりが事故のようなキスを気にして、しきりに唇をなめてしまっていた。
手早く調理を終えて午後七時前に、私はエプロンを外した。盛り付けもテウン君にまかせて、早く帰ろう。今日を何事もなく終えれば明日からはいつもの私。
「あれ、もう帰るんですか」
「え、ええ、今日は――」
口をふさがれた。テウン君のぷくりと弾力のある唇が、それ以上は言わせないという意思を持って、私の口をふさいでいた。呼吸も思考も止まった数秒のあと、最後まで触れ合う一点をさぐるような緩慢さで、彼の顔が離れていく。まるで追うように、顎を上げる自分がいた。
「今日は、食べて行ってください。ね?」
「……はい」
まだ動き出さない頭には、彼の言葉はやさしく沁み込んだ。操られるみたいにして私はこくりと肯いた。
それからはもうなし崩し的に、夕飯はテウン君の家で食べるのが当然になった。家でお腹を空かせているはずの和彦を想えば、悪い母親だと反省する。けれども毎日一人で食べなければならないテウン君を放っておくのも、とてもいけないことをしているような気がした。私はN国でのお母さんみたいなものなのだから、一緒に食べてあげるくらいのことは、してあげてもバチは当たらないだろう。和彦が食べるときには一緒にいるわけだし……。
そんな言い訳をかき消すように、テウン君は食事を終えると、デザートだとでもいうように私の口に吸いついた。これもまったくなし崩しで、私たちはそうして唇を重ねるようになった。
抱き合うように胸を合わせて、私たちはお互いの唇をついばんだ。にゅるりと彼の熱い舌が口内に侵入する。体に押し付けられるように存在を主張する彼の陰茎が、そうして私に割り込む瞬間を想像してしまい、濡れた下着がひやりとする。
舌を伝ってくる彼の唾液はまるで甘露。
「和美さん」
あくまで紳士的な彼のささやきが私の耳を愛撫する。声の優しさとは裏腹に、彼の手はいやらしく私の躰をまさぐった。髪をかきみだし、背筋を撫でおろし、臀部の肉を揉みしだき、反対の手では胸を弄ぶ。ぐいと躰を引き寄せられて、下腹部に彼の男が当てられる。
テウン君が私の首筋にキスをする。
「和美さん……ね?」
ほんの少し熱を帯びた声とともに、するりと彼の手が私の下半身に伸びる。タックボタンを簡単に外し、下着の上から恥丘に指を這わす。若い男に求められる。それはたぶん私くらいの年齢の女なら、誰しも気恥ずかしくも嬉しいことだろうけれど、そんなことでは収まりがつかないほどの渇きを覚えていた。
本能の命じるままに、私の手は彼の物を包む。やはり、大きい。
「あぁ……ダメよ。それは、ダメ……」
桃色の声音。拒絶の言葉はほとんど、誘うのと同義だった。
最初はこうじゃなかった――と、痺れる頭の片隅で考える。軽いキスが日常になって、それが次第に深くなり……転げ落ちるように、相手の性に触れ合うようになってしまった。
でも、これ以上はダメ。母としての良心がこの一線で踏みとどまらせている。
母……。ふと、時計が目に入った。もう八時だ。
「て……テウン君。ごめんなさい。私、もう帰らないと……」
名残惜しそうにもう一度、触れ合うだけのキスをして、ゆっくりと離れていく。
あがった呼吸と乱れた服を整えて、私は母親に戻っていく。何をしていたんだろう。羞恥心がこみあげる。
急いで帰らないと……。