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「ああ、お邪魔しました」
と、目つきの悪い男が僕とすれ違った。体が大きくて威圧的な態度。骨ばった顔がより不遜さを増している。僕を見下すような視線。
嗅ぎなれたにおいに混じって、母さんの香り。
家の中に目を向けると、いかにも慌てて彼を見送りに走ったというふうの母さんが、壁にもたれかかるように立っていた。
玄関扉が無造作に閉められると、居心地の悪い沈黙がおりた。
「母さん、今の人は?」
「え……? ああ、ええっと……前に話さなかった? 会社に新しく来た、テウン君よ」
「テウン……?」
「そう。K国から留学してきてるの。偉いでしょう」
まるで……そう、それはまるで、子供の自慢話をするような口ぶりだった。
K国という言葉が、ショックを受ける僕の頭の中に反響する。息苦しい焦燥感。
母さん……どうしてだよ。子供みたいに可愛がってるのなら……それも嫌だけど、まあ、いいよ。
なのに、どうしてなんだ。どうして肩で息をしているんだ。どうして頬が赤いんだ。どうして物欲しそうなんだ。どうしてスカートなんて穿いていて、どうしてかばうように股間に手を当てているんだ。どうしてあいつから母さんのにおいがして、母さんからザーメンの臭いがするんだ。どうしてグロスを塗ったみたいに、唇がてらてらと光っているの……?
どうして……。
「母さん、あいつは……あいつはダメだよ……」
「あいつなんて言っちゃダメでしょ。イム・テウン君よ。優しい、イイ人なんだから」
「優しい……? 母さんは騙されてるんだ」
あんなに冷淡そうな、まるで罠にかかった獲物を嘲るような表情をする男が、優しいはずがない。
「騙されてる……って。誰が誰に?」
戸惑うように眉をひそめる。身を固く緊張させるのがわかった。たぶん母さんも、心当たりがないわけではないのだ。でもそれを信じたくはないだけ。そうに違いない。
そうだ、掲示板だ。あのK国人たちが嬉々として書き込んでいた、鬼畜じみた掲示板……! あれを見せれば母さんだって……。
よろよろと母さんに歩み寄りながら説得する。だんだんと強くなる淫臭に心がかき乱される。
「そ、そうだ、母さん。ネット、見てよ。K国人がさ、N国の女の人をおもちゃみたいにして、それで……」
「和彦、それはネットの話でしょう?」
「そうだけど、でも……あいつだって絶対――」
母さんの手がひらめいた。鋭い衝撃は、遅れてやってきた。
何が起こったのかがわからなかった。
「そんなッ――!」
聞いたこともないような、母さんの激しい声。戸惑いを打ち消すような、硬質な怒りが込められていた。
ビンタされたんだ……。はじめて、叩かれた……。
「お母さんはあなたを……! ちゃんと知りもしない人を疑うような、そんな子に育てた覚えはないわッ!」
ヒステリックな叫び声を残して、母さんは足早にリビングへと歩いて行く。僕は呆然とそれを見ていることしかできなかった。
久しぶりに、ずいぶんと手の込んだ夕食だった。母さんは何かを取り繕うように明るくふるまい、しきりに僕に話しかけた。しかし僕は料理の味も、話の内容も、全然わからなかった。
母さんに叩かれた頬が、じんじんと痛みを発していた。いや、たぶんそれは気のせいだ。けれどもずっと、手の感触を、痛みを、頭がリフレインし続ける。
抜け殻のように一日を終えてベッドに入ったが寝つけずに、むしろ目はさえていた。
母さんはたぶん……あのK国人に何かされた。あの鬼のような顔を下品にゆがませて、母さんを好き放題している。そのせいで母さんは、僕の母さんは……。母さんは僕の、僕だけのものだ。そうだろう、だって、僕だけが母さんの家族で……僕は息子で、父さんの代わりで……。
そうだ……父さんの代わりにならないと……。父さんの代わりに母さんを守って、幸せにして……それで……。
頬の痛みがそのまま、局部へと移動する。痛いほどの勃起。僕は思いついたままに母さんの部屋へ行く。
光は漏れていない。寝ているのだろうか。そっとドアを開ける。
窓から射しいる月光の中で、母さんは静かな寝息を立てていた。
ベッドに膝をのせたると沈むように軋んだ。
「んっ……和彦……?」
起きた。
僕は布団を引きはがして馬乗りになる。
「えっ? ちょっ……和彦!? やめなさい! やめてッ!」
母さんは抵抗するけれど、力は僕のほうがずっとある。押さえつけ、はやる気持ちのままに、母さんのパジャマのボタンを千切るようにして脱がせた。青白い月光の中に蠱惑的な美しい躰が露わになる。なめらかなラインを描く、重力に広がった胸。うっすらと肋骨を浮かべて、くびれていく腰。
「母さん……僕が母さんを、幸せにするから……父さんのかわりに……」
うわ言のように呟きながら、僕は逃れようとする母さんのズボンとぱんつをまとめて引き下ろす。白い肌を汚すように茂る陰毛が、生々しいエロさを感じさせる。暴れ回って形を変える肉体が、たまらなく刺激的だ。
僕は自分のものを取り出して母さんに迫る。
「いいでしょ、母さん……。ねえ……?」
「やっ……ダメっ……」
母さんの入口を、指先よりも鋭敏な先端でさぐる。すべすべとした肌の感触で暴発しそうになる。鈴口に突起物が触れる。この下だ。
「いや……!」
ぎゅっと包まれる感触。快感が迸る。
母さんの中……膣内……!
孕め、孕めッ!
我慢なんてできない。
本能が叫ぶ。
僕のモノになれ和美!
鮮烈で暴力的なまでの焼け付くような快感。ほとんど痙攣するようにカクカクと、僕のすべてを吐き出した。
「えっ? うそ……」
母さんの鼻で笑ったみたいな冷めた声。一瞬でマラソンを走り切ったような疲労感の中で、徐々に状況を把握する。
僕のちんこは確かに包まれていた。
母さんの手に。
抵抗する母さんが握ったその刺激だけで、僕は無様に果てたのだ。
逃げ出したいほど恥ずかしいのに、全身のどこにも力が入らぬほどの虚脱感に襲われていた。絶望的な快楽がまだ股間にわだかまっている。はぁはぁと情けない呼吸が止まらない。
手についた僕の精液を自分のパジャマで拭うと母さんは、服も整えずに僕のことをあやすみたいに優しく抱きしめた。
肌と肌が密着する。場違いな多幸感が僕をみたす。汗ばんだ背中をとんとんと叩く。ああ、こうして寝かしつけられものだ。
「大丈夫よ、だいじょうぶ」
まったく母親の声で、母さんは言った。「大丈夫よ。お母さんはこんなことで、あなたを嫌いになったりしないわ。ちょっと早過ぎるけど……あっ、お母さん、強く握りすぎちゃったから、しかたないわよね。ふふっ、ねえ、和彦。こういうことは親子でしちゃいけないのよ。あなただって、わかってるでしょう? 最近、私が忙しくしてたせいで、寂しい思いしてたのよね。だから、甘えたかっただけなのよね?」
慈母のような声音の中に、肯定しなさいという圧力があった。
「……うん」
「ごめんね、お母さんのせいで。でも、あなたももう十七になるでしょう。いつまでもお母さんにべったりじゃ、ダメでしょう?」
「……うん」
「ちょっと前に、たまには一人になりたいって言ってたわよね。和彦の成績も下がり気味だし、一人でゆっくり考えて、勉強する時間、必要よね」
「母さん、それは……」
「だからね? 受験に向けて塾にも行かないといけないし、お母さん、もう少し残業増やすわ。夕飯は……そうね、考えるけど。お母さんも和彦のために頑張るから、ね?」
僕のため――と、それが言い訳であると、僕の反論を封じるための言い回しであると、気づいてはいたけれど、母さんの豊かな膨らみに顔をうずめていると、麻酔にかかったみたいに頭がしびれて、指摘することができなかった。
「うん」
僕は肯きながら、最後の一押しを自分がしてしまったような、取り返しのつかない気持ちに、早漏なペニスへと血が送りこまれるのがわかった。