IS 《IF》 闇の少女とペンダント(R-18) 作:tamatyann
梅雨も明けて蒸し暑くなり始めた夜半……
一日の授業が終わってからずっと寮に居るトモカは、自室の中でボンヤリと携帯を弄っていた。
ベッドの上でウトウトとしながら携帯でメールを打っていたトモカは、扉をノックする音を聞いてそっちに意識を向けた。
出入り口の木製の扉の向こうから一夏の呼びかける声が聞こえてくる。
「ちょっといいか?」
時計を見ると消灯時間の30分前という微妙な時間だった。 いきなり来た一夏にトモカは不信感を覚えたが、これまでに何度か同じようなことがあったのでソレと同じだろうと考えて無警戒に扉を開けた。
一夏は寝巻きにしているらしい黒のジャージ姿で、なにやらDVDらしいものを手に持っていた。
一夏の顔は少しだけ緊張しているようで強張っていた。
DVDをなぜ持っているのかはわからなかったが、何かあったのだろうとトモカは察して一夏を中に入れることにした。
「いいけど、入る?」
「あっあぁ……すまん」
一夏は口調がどもらせて断りを言いながら部屋に入ってきた。
部屋に入った一夏はいつもならば椅子に座るはずなのに、今日は立ちっぱなしだった。
なので、トモカは一夏に椅子を勧めたが、一夏はイイとなぜか断ってきた。
いつもだったら躊躇なく椅子に座るはずの一夏の様子に困惑したトモカは、何か一夏にとって気まずいものでも部屋に落ちているのかと疑って部屋の中をキョロキョロと見回した。
その間に一夏は深呼吸をしていたが、トモカはその事に一切気付かなかった。
そして部屋を一通り見回して変なものが落ちていない事を確認したトモカは、目の前にいる一夏を見つめた。
トモカと同じ黒髪で背が高い、少し自己中心的で朴念仁なところがある、目の前の一夏は復讐相手の血族だが金なる木として重宝している。
何本かの髪だけでも末端価格が数万円。
どこぞの麻薬かと思われるほどだが、バイヤーさえ捕まえれれば楽に売りさばくことが出来る。
もちろん学園外の人間でも髪を回収する事は可能だが、一夏はIS学園からあまり出ないため、髪を入手する機会は少ない。
そのためトモカは、お金を稼ぐ為に一夏の髪を回収しては売ったりしている。
他にも白式のデータ、本人の肉体的データなどを国家やIS企業に漏洩させることで莫大な金額を稼いでいるのだ。
一夏の護衛の仕事だけでなくそう言った副収入で莫大な金額が手に入るのだから復讐の為だと言ってもIS学園で生きるのは楽しい。
一夏は殺しても憎い相手でもあるが家畜みたいに利益ももたらす相手だったので、思わず一夏に合掌してしまった。
「えっと、トモカ? 何で合掌してるんだ?」
「一夏にだけど……」
「俺は神かよ」
緊張していた一夏は、トモカが一夏の緊張をほぐすようにボケたのを見て、強張っていた肩を緩めて顔を緩ませた。
「それで一夏、こんな時間に一体なんなの?」
顔を緩ませていた一夏だったが、トモカの一言で現実に戻された。
「トモカ聞いたことないか? 闇の少女って言う渾名の傭兵の事なんだが……」
「……知らないですね、どっかのゲームのキャラクターですか?」
いきなり一夏から飛び出してきた言葉にトモカは内心焦りながらも、表面上は知らないフリをした。
「本当に知らないんだな?」
一夏はそう言うと、先ほどの自然な笑みとは違う歪んだ笑みを浮かべた。
(やばい……私が一夏を半殺しにしたのバレてる?)
闇の少女と言うあだ名は第二回モンドグロッソで一夏を攫った誘拐犯にメディアによってつけられたあだ名だ。
インターポールに逮捕状が回ってないことから一夏はスッカリと顔を忘れてくれたと思っていたが、トモカは思い違いをしていたらしい。
(この場で殺すべき? いや、今殺すよりも人質にしてやったほうが利用価値があるかな?)
トモカは困惑しているように演技しながら壁にすり寄ると、植木鉢に隠してあるベレッタM92と呼ばれる自動拳銃を手に取った。
トモカは黙秘を保ちながら後ろ手で安全装置を外して、何食わぬ顔でスライドを引いた。
ゆっくりスライドを引いて薬室に初弾を装填すると、カチンと言う音が部屋に響く。
トモカはその事に顔を引きつらせたが、一夏は気付かなかったのかいやらしく笑いながらこちらを見てきた。
「……じゃあ、質問を変える。 第二回モンドグロッソで俺を攫って痛めつけたのはお前か? トモカ?」
「証拠でもあるの?」
トモカはそう言って植木鉢の近くにあった椅子に座ると、一夏に笑いかけた。
「その証拠にはならないが、お前が傭兵だという証拠はある」
その一夏の言動にどこまで知っているのかと言うことに恐怖心を覚え、後ろ手に持つベレッタの引き金に指をかけた。
その事を知ってか知らずか、一夏はトモカにDVDを投げつけてきた。
それにはトモカは少しだけ驚いて一夏に発砲しようとしたが、投げられたものがDVDだとわかって発砲を止めた。
「再生してみろ、お前の悪行の一つが分かるだろ。 あと、コピーはあるし、もし何か俺にしたらネット上にばら撒くぞ……」
トモカはその尊大な言い方に少し呆れたが、仕方無しに怯えたフリをする事にした。
(ここで証拠隠滅に殺されるなんて事態を想定してないの? やっぱり馬鹿ね……)
ベレッタの安全装置をかけ、スカートの間にベレッタを挟むと、ビクビクと怯える演技をしながら机の上にあるパソコンにDVDをセットして動画を再生した。
その動画は私が最近行ったISで行った傭兵家業の一部始終だった。
中東の砂漠地帯、アメリカ軍の前線基地がその動画に写っていた。
その前線基地は、対テロリスト戦に終止符を打つ為に設けられた前線基地で、最終的な作戦に出る直前の映像だった。
山のような物資や人が集まる前線基地の空、何気ない基地風景が撮られている中、空に突如として飛行機が現れた。
カメラがその方向にズームすると、その飛行機雲の先には一機のISが空を飛翔していた。
黒い全面装甲に覆われたISは、いきなり巨大なバルカン砲を展開させると、アメリカ軍の前線基地にそれらを向け銃口を光らせた。
その瞬間爆発音が前線基地中に響き渡る。
すぐにビデオカメラは前線基地を映し始め、ビデオカメラのマイクはバルカン砲が発する重苦しい発射音を捉えた。
動画は地上基地の様子を映し始めた……
バルカン砲の直撃で穴だらけになったアメリカのM1A2(第3.5世代戦車)は、貫通した劣化ウラン弾の燃焼効果によって弾薬庫に貯蔵していた砲弾が誘爆し始める。
角ばった戦車の砲身からは勢いよく煙を吐き出されている、その戦車のハッチを開けて飛び出してきたのは火達磨になった兵士だった。
そんな動画が続き、他の方向をカメラは撮り始めた。
ガトリング砲で上半身や下半身が別れて飛び散っている身体や、爆風で吹き飛ばされる兵士の死体などが映っていた。
しばらくすると、地上からISに向けて何発ものスティンガーミサイル(地対空ミサイル)が放たれた。
白煙を幾重にも引いてISへ向かうミサイルだったが、全て重火器と斬撃によって打ち落とされていった。
迎撃と同時にISは、スティンガーミサイルを放った兵士がいた場所に重火器による掃射とロケット弾を徹底的にばら撒いていた。
その後、一切抵抗のなくなった前線基地上空をISがゆっくりと飛翔している。
時折レーザーや火器が地上に照射され、生き残りに対する掃討作戦に出ている事が分かった。
何度か地上に攻撃を加えた後、何かを察知したのかISがカメラの近くを飛んだ。
その場面でISの黒い装甲が透明となり、地上を血眼になって見つめている操縦者の姿が映った。
その操縦者が私ことトモカだとはっきりとわかる映像だった。
その瞬間、ISからバルカン砲が発射され機械音と共にカメラの映像は唐突に切れた。
――これは、まさにトモカが行った仕事の一つだった。
これだけでも米軍への武力行使、アラスカ条約違反などで軍事裁判にかけられて処刑されかねないほどのものだった……
(なんで一夏がこんなのを持っているの?)
素の表情で驚くトモカに一夏は不敵な笑みを浮かべていた。
そんな中、トモカは必死に頭をめぐらせていた。
この動画を持っているなかで一番有力なのは米軍だ。
実際にこの映像が撮られたのは数ヶ月前なので、ばれているなら何らかのアクションをトモカに取るはずなのだ。
なのにアメリカがアクションを撮らなかったのは米軍ではなく第三者がこの動画を入手した可能性も浮上する。
もし、米軍なら取引でなんとでもなるが、第三者だと取引すら出来ないかもしれない。
となれば、一夏にこのデータを渡した時点でその第三者は何かを私に対して仕組んでいるに違いない。
目の前で過去の復讐がしたいであろう一夏にこの動画を提供した人物を一夏から速やかに拷問して吐かせないと身が危ない。
もしもこの動画がインターネットにでもばら撒かれた日には笑えない。 確実に遺族からは狙われ、世界中でこの動画が報道されるだろう。
そうすればアメリカも動くし、世界中で私を排斥するだろう。
そうならない為にトモカは椅子から立ち上がり、スカートに挟んでいた黒塗りのベレッタを両手で構えた。
安全装置を外して一夏に銃口を向けたトモカは、トリガーに指をかけた。
「一度だけ聞く、入手先はどこ? 織斑一夏?」
トモカはそう言うと目を細めた。
まさかトモカがいきなり自動拳銃を向けてくるとは思わなかったのだろう。 一夏はISを展開させることも忘れて慌てて後ずさった。
トモカは一夏を攫った時と同じような殺気を纏わせながら、一夏の過去のトラウマを刺激するように声を低くした。
トモカはベレッタを向けながらじわりじわりと一夏に接近すると、一夏は恐怖でひっくり返りながら扉に背を付けるまで顔に恐怖を浮かべながら後ずさった。
「冥土の土産に教えてあげるわ、モンドグロッソで一夏を誘拐して暴行したのは確かに私よ、一夏?」
トモカは一瞬でベレッタの安全装置を付けると、一夏に向かって一直線に飛び掛った。
後の拷問の為、ベレッタのグリップで一夏の首を強打し、腹や足に蹴りを入れて気絶させた。
きちんと一夏が気絶したことを確認すると、一夏を手錠で手足を拘束した。
一夏の服の中から鍵を取り出すと、トモカは何度か腹に蹴りを入れた後にシーツを被せると、一息を入れる間もなく部屋から飛び出し、一夏の部屋へと向かった。
一夏の持つ鍵で部屋に入ると、まずは一夏の携帯を鹵獲した。
その後、最近まで無かったはずのパソコンやUSB、私物だろうDVDなどデータが保存できそうなものを全て漁って回収した。
トモカは一夏の部屋から出て鍵を閉め、自室へと戻った。
鹵獲したDVDなどは情報が残っていないかを確認してから用心のため全てシュレッダーで破砕し、携帯電話とパソコンから情報を別のパソコンに抜き取った。
その後に、一夏のパソコンをデータ消去ソフトで完全に情報を上書きして消去してからバラバラに分解して内部のメモリを焼いた。
ハードディスクはバラバラに分解してからハンマーで叩き潰し、植木鉢の土に隠した……
そんな作業を行うこと6時間。
とっくに消灯時間を過ぎていたが、無視して作業を続けていく。 作業が全て終わってからトモカは一夏の腹に何発か蹴りを入れて無理矢理起こした。
「グハッ、ゲホッゲホッ……」
「織斑一夏、洗いざらい事の顛末を話す? それとも死ぬ?」
意識を取り戻して混乱している一夏に対してベレッタを向けなおすと、一夏は児戯のように首を振った。
「まっ……まってくれよ!」
「死人に口なしよね」
トモカが無表情のまま銃口を頭に突きつけられて、一夏の顔は真っ青になっていた。
そして、一夏は震える声で叫んだ。
「おっ……俺を殺したら絶対にその動画は流出するし、こっ殺されるぞ!」
「どうやって? 織斑一夏の部屋にあった電子情報が隠されていそうなものは全て破壊したけど」
「俺の小遣いで買った男物のDVDコレクションもか?」
「当たり前でしょ……」
それを聞いた時、一夏の顔は更に暗くなった。
論点が違うでしょ……と、トモカは内心突っ込みつつ一夏の頭から銃口を離した。
だが、トモカは銃口を一夏の向けたまま、トモカは自前のパソコンで一夏のパソコンの解析中のデータを確認し始めた。
「今、織斑一夏の部屋にあったパソコンと携帯電話のデータの洗い出しを行っている。 もし入手経路が見つかったらここで消えてもらうし、見つからなかったら拷問にかけてでも聞き出してあげるね」
「とっトモカ、話を……」
「捕虜は黙ってろ!」
そう言って罵倒すると、一夏はようやく黙った。
スッキリとした面持ちでパソコンを眺めると、丁度解析が終了したとの文字が浮かんでいた。
トモカは一夏を復讐の道具として使う事を諦め、将来の生活の保全の為にここで消えてもらわなければならないと腹を括った。
「ふぅん……最近の通信記録は篠ノ之束と友人だけねぇ……」
トモカがそう言っても一夏は反応しなかったので、この際だから最近まで演技して感じていたイライラもついでに解消してやろうとトモカは画策した。
(一般人って嗜好をバラされるのが苦手よね……この際だし精神的なダメージで弱らせよっかな)
やると決めたトモカは早い。
手早く一夏の消去されていたインターネットの履歴や一時データを修復し、閲覧し始めた。
「インターネットの履歴は……っと、やっぱりイヤラシイのばっかりね。」
と、一言つぶやくと一夏は突如反応した。
まさか、殺されかけているときにそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。 一夏は口をあんぐりと開けてトモカのほうを見つめていた。
「へぇ、監禁物と陵辱物好きなんだ。 昨日も見てるのね? ふぅん、女子高生の腕を縛ってとかキモッ」
一夏に聞こえるようにトモカは独り言を大きくすると、これみよがしにインターネットの履歴を漁りだした。
果てはDVDの事からゲームの事まで題名を羅列しながら一夏を侮辱し続けた。
一夏は顔を真っ青にしたまま止めてくれ、止めてくれと懇願しはじめた。
「DVDもそんなのが多いかったけど一夏ってそんな趣味なのね」
(いい気味よ)
一夏の憔悴した顔を見てそう思いながら通話履歴をグラフ化してみると、最近の通信記録でおかしな点を見つけた。
2週間前からまったく連絡を取ってなかった篠ノ之束との通話やメールが爆発的に増えているのだ。
もしやと感づいてトモカは一夏に訪ねる事にした。
「織斑一夏、篠ノ之束とはどのような関係?」
篠ノ之束と言う単語を発すると、さっきまでの憔悴しきった顔をが急に明るくなり、一夏の瞳に突然爛々とした火が灯った。
活力が急に戻った一夏に、何かあるとトモカが警戒していると、一夏はさっきとは別人のようにイキイキしながらニヤリと笑ってから口を開いた……
次はR-18です。