IS 《IF》 闇の少女とペンダント(R-18) 作:tamatyann
トモカは一夏が部屋から出て行った後、口を丹念にゆすいでからシャワーを浴び始めた。
一夏の顔を思い浮かべただけでトモカは憂鬱な気分になりながら、思考を嫌な方向に濁らせながらも不快な汗と白濁を洗い流していった。
既に時刻は起床時間になっている。
なのですぐに一夏と会わなければならないと考えると、学校にすら行きたくなくなる。
だが、行かなかったら行かなかったで一夏が部屋に入り浸る可能性も捨てきれない。
しかも、私を脅して口や太股を穢した一夏が今後、どのような行動を取るかがほとんどわからなかった。
だが、既に折れかけている私の心を攻撃して、完全に心を壊わして復讐を終えようと画策しているのだけは分かりきっていただった。
心を壊すにしても、肉体的に犯されるのだけは勘弁して欲しかった。
トモカは一夏の悪魔のような所業の最中、昔の嫌な思い出が脳裏に浮かんできて、ほとんど無抵抗にさせられたからだ。
犯されて殺されるなら、最低でも静間の無事を確保しなければ死んでも死に切れない。
私が一夏を消したりすれば篠ノ之束が静間を殺すだろうから、一夏に抵抗して一撃を食らわせるにはどう考えても篠ノ之束と言う強大な外堀を埋めるしかない。
(出来ることなんでまったくないけどね……)
シャワーを浴びながら苦笑したトモカには、一つだけ納得がいかない事があった。
ISを一から作り出して、そのデモンストレーションに弾道ミサイルを発射させるような篠ノ之束が、自身や知り合いを脅かす人間を消さないで、間接的に脅すと言う方法をそもそも取るだろうか?
本当なら一夏の暗殺依頼を受けていた事が篠ノ之束に気付かれたなら、その時確実に私は消されていたはずなのだ。
なのに、私を間接的に脅すという消極的な行動に留まった篠ノ之束の行動はトモカに謎と一緒に一縷の希望を与えてくれた。
一夏が頼んだとしても、自己の欲望のままに動くとされる篠ノ之束が傭兵を殺さずに脅すと言う面倒な手伝いに協力するだろうか? いや、違うはず。
もしかすると篠ノ之束は一夏に何かの貸しがあったか、何かを握られているのかもしれない。
もし渋々引き受けたのならばチャンスが生まれてくる。
あの天才の篠ノ之束も私と同類の女なのだ。
傭兵と分かっていても、一人の少女が何度も何度も犯されて脅されているのに学校では健気に笑って裏で一人で泣くような姿を毎日監視し続けなければならないのは、どれだけの苦痛になるだろうか?
もし暗殺しようとしたことを一人で後悔して懺悔している少女が、一夏に許されずに何度も犯されて一人で嗚咽を殺して泣いているのを監視し続ける事はどれだけ精神的な苦痛になるだろうか?
もし篠ノ之束に少しでも同情心などと言った人間的な心があれば、感情に流されて一夏への協力を消極的にするかもしれない。
今のところ静間を助ける為に取れる方法はこれぐらいしか無い。
(篠ノ之束に人間性が無かったら静間を助けられないんだけどね)
一度心を一夏に潰され、肉体的にも軽く犯されたトモカは暗い心を覆い隠しながら、肢体に張り付いた黒髪を手櫛で掻きあげて軽く水を切り、シャワー室から出て行った。
そしてシャワー室から出てからドライヤーで髪を乾かすと、トモカは着慣れた制服に着替えて食堂へ足を向けた。
◇
「おはようございますトモカさん、今日は朝食が少ないですわね……」
食堂の机でサラダとお茶だけの食事を取っていると、セシリアが反対側に座って話しかけてきた。
「うん、ちょっとね……」
「大丈夫ですの?」
心配してこちらを見るセシリアに相談できないのは辛かったが、少しでも話せば静間の身に害意が及んでしまうかもしれないのだ。
だからトモカは、「大丈夫」と返した。
だけど本当に食欲が無い。
一夏の逸物から出た白濁を胃に流し込んだと言う事実が、胃や口に食事を入れることを拒否してしまっているのだ。
だから逸物を連想させる肉を感じさせるものを口に入れたくないので、野菜とお茶だけなのだ。
「寝不足で食欲がないだけだから……」
「お肌に悪いですわよ」
「うん、心配かけてごめんね……」
「ライバルの体調を気にかけるのもイギリス人として当然ですわ!」
「イギリス人って凄いんだね」
「ふふっ、そうでもないですわよ……」
そうやって楽しげに装って談笑しながら食事をしていると、不意に食堂がざわめきだした。 騒ぎ出した彼女らの視線の先には一夏が居た。
一夏は一人でニヤニヤしながらこちらへズンズンと向かってくる。
それを見たトモカは、思わず肩が震わせて顔を伏せた。
「おはようセリシアにトモカ」
「おはようございます、一夏さん」
「……おは、よう」
いくらトモカが戦場で培った精神力を持ったとしても、トラウマとなっている事をしてきた一夏を見ただけで気分が悪くなって気が動転し始めてしまった。
口だけでなく、私の全身を犯してくる可能性が高い相手と一緒に居たくないと、トモカは思考を半ば放棄して逃避に走った。
「た、食べ終わったから先に行ってるね」
セリシアの隣に座った一夏とは入れ替わりにトモカが立ち上がって逃げようとして一夏の横を横切ったとき、トモカにしか聞こえない声で一夏がボソッと呟いた。
「そんな反抗的な態度を取るならどうなっても知らないからな……」
その声で更にトモカの心は更に恐怖で締め付けられ、余計に思考を空回りさせたまま走り去ってしまった。
それを呆然と見ていたセシリアは一夏へ不思議そうに質問した。
「……トモカさん、何かあったのでしょうか?」
「何かあったにしても、トモカが言いたくないなら無理して聞くのも悪いんじゃないか?」
「ですが……」
「俺がそれとなく聞いておくから、セシリアは他の人にも普段通り接してあげてって伝えてくれないか? みんなで質問攻めにするほうが可哀想だ」
「――そうですね、私から言っておきますわ。 朴念仁の一夏さんに言われるとは思いませんでしたけど」
上手くセシリアを誘導した一夏は、一瞬だけいやらしい顔を浮かべた。
(これで邪魔者が減る……)
そう思ってほくそ笑んだ一夏は、セシリアと一緒にのんびりとした朝食を取っていた。
その一夏の頭の中は、どうやってトモカを堕落させて自分好みに染め上げようかと言う事で一杯になっていた。
そんな機嫌が良い一夏を怪訝な顔でセシリアは見ていたが、一夏は全然気にしていなかった。
そして5分ほど経った頃、急に織斑先生が食堂へ駆け込んできた。
「お前ら、今日は時間割変更だ。 一時間目の数学は教師の都合で一組と二組の合同IS実習となった。 急げ、時間が無いぞ!」
一夏とセシリアは慌てて朝食を食べ切ると、二人は慌てて更衣室へ向かって走り出した……
◇
一夏を見て逃げ出したトモカは、屋上で息を整えながら一人でうな垂れていた。
「もう最悪、何で学校では普通にする予定だったのに……なんで一夏を見ただけで逃げちゃうの?」
トモカは恐怖に駆られた軽率な行動を後悔しながらも、仕方がないことだと無理矢理自身を納得させた。
始業時間ギリギリまで屋上で深呼吸しながら精神を落ち着けると、階段を降りて一組の教室へと向かった。
だが、始業時間ギリギリに教室に到着したにも関わらずそこには誰もいなかった。
誰も居ない代わりに黒板には『一時間目の数学はIS実習となりました』と書かれていた。
「えぇっ!?」
トモカは少し奇声を上げると慌てて女子更衣室に入り、着替えを済ませた。
◇
「――留宮、遅刻だ」
「えっと、すいません……」
「朝の職員朝礼で急に変更が決定したからな、情状酌量してやる」
「ありがとうございます」
きっと私だけが遅刻したのではないだろう。 数人の女子生徒が息を荒げていたので寒い目で見られる心配は無かった。
だが、織斑先生の情状酌量は1滴の水滴よりも少なかった。
「じゃあ留宮、遅れた罰として射撃回避の手本を見せろ」
「えっと、誰が射撃をするんですか?」
「山田先生が適任だと思うんだが異存ないな?」
「……はい」
あの射撃上手な山田先生の弾幕を避ける大変さを思い出してテンションが下がったトモカはISを展開しようとした。
その時、一夏がニンマリこちらを見ながら嗜虐的に笑っているのがチラリと見えてしまった。
そのことで更にテンションを落としたトモカは、無表情のままISを展開させようとした。
いつものように軽い光が出てISが展開し……なかった。
トモカは少し顔を引きつらせて、待機状態のISである弾丸をリリーフしたネックレスがあることを確認した。
そこには問題なくネックレスが存在し、装着するのを忘れたわけではなかった。
それから何度かISを起動しようとしたが、一向として起動しなかったため、以前セシリアがしたように口にISの名前を出して展開することにした。
さすがに恥ずかしかったので、出来る限り小声で唱えたけど……
「起動、ツィタデレ!」
セシリアと同様に口に出して呼び出してもISは起動することは無く、口で唱えてもうんともすんとも言わない事でトモカは混乱し始めた。
えっ、なんでISが起動しないの?
トモカは何度も小さくISの名前を口に出していたが、まったく反応しない事で更に錯乱し始めた。
徐々に発する声が大きくなり、ISの名前を叫びだしたトモカの挙動不審さを見て、流石にクラスメート達が何事かと騒ぎ出した。
ざわめく周囲の視線や言葉で、余計にトモカは緊張が増してしまい、息苦しさを覚え始めた結果、自然と呼吸を早めていった。
次第に頭痛と動機が強くなり過呼吸だと理性で理解したが対処法が頭からすっぽりと抜け落ち、息が吸えなくなる恐怖から更に呼吸を早めてしまった。
トモカは半ば気を飛ばしながら、意地でその場に立っていた。
だが、そんな状況になっているとはつゆほども考えていなかった織斑先生は、山田先生と打ち合わせをした後にトモカを一瞥することも無く授業を進めようとした。
「おい、早く起動しろ」
「……」
何も話さないトモカに織斑千冬が不審がってトモカのほうに向き直った。
「無視か、反抗でもする………って、留宮大丈夫か!?」
織斑先生が反応するまでも無く、過呼吸で朦朧としていたトモカは無言のまま硬いグラウンドに倒れこんだ。
生徒の悲鳴や織斑先生の叫び声を耳にしながらトモカは意識を失った……