※この作品はR-18です。

プレデター♀のおよめさん   作:範馬勇太郎

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Chapter11.『Alamo』

  

 西暦2004年

 USAワシントン州某所

 

「驚異的なテクノロジーね」

 

 無機質なオフィスの一室にて、日系人と思われる一人の女性がアタッシュケース内に収められた筒状の機械を見つめる。

 筒状の機械は銃口が象られており、まるでSF映画の武器のような非現実的なフォルムであった。

 

「我々が長年追いかけてきた“ハンター型異星人”の遺物です。解析も試みましたが、素材からして未知の元素で構成されています。正直、オーバーテクノロジー以外の表現が見当たりません」

 

 黒スーツを着た壮年の米国人が、女性と同じようにアタッシュケース内を見つめながら言葉を述べる。

 米国人の後ろには同じ黒スーツを着た人間、そして合衆国陸軍の制服を着た将官が数名立っており、アタッシュケース内の武器が米国内でも最重要機密物件である事を匂わせていた。

 

「湯谷さん。あなた方ならこの未知のテクノロジーを解析し、人類の発展に寄与出来ると、私は思います」

 

 アタッシュケースを閉じながら壮年の米国人が湯谷と呼ばれた女性を見て微笑を浮かべる。

 それを泰然と流した湯谷はアタッシュケースを横に控える秘書に持たせると、壮年の米国人に向け同じような微笑を向けた。

 

「私達のような他国の人間に、このような重要な機密を任せてもいいのかしら。大佐」

「ユタニ社は日本企業ですが、実質は多国籍企業だ。本社は日本にあれど、米国の資本が多数参加している状態ならば我々の国益に損なう行動を取るとは思いません。それに、ケイコ・湯谷は我々とは長年の付き合いだ」

 

 大佐と呼ばれた米国人は不敵な笑みを返す。

 ユタニ社は創業100年を超える老舗日本企業であったが、長い企業活動により国際企業化……実質には米国にその資本の殆どを握られており、米国企業といっても差し支えなかった。

 またユタニグループ会長である湯谷慶子も米国政府要人に多額の献金を行っており、米国内での企業活動の便宜を計るよう日々袖の下を通す事に余念が無かった。

 

「このテクノロジーの解析が進めばユタニ社の利益も莫大な物になる。顧客を裏切らないあなた方を信用しているのですよ」

「お褒めに預かり光栄ね大佐。でも、流石にこれは私達だけじゃ手に余るわ」

 

 湯谷はデスクの上に置かれた米国機関による解析表を手にしながら大佐に言葉を返す。

 ユタニ社の主力製品はエネルギー関連機器、産業機械、自動車、航空機、ロケット、軍事兵器に至るまで幅広い分野で世界中に商品を販売していた。当然、その規模に見合った技術力を保持していたが、流石に未知の、それも異星の文明技術の解析はユタニ社単独では厳しい物があった。

 

「ピーターに手伝ってもらうわ。別に良いでしょう?」

「ピーター……確か、チャールズ・ビショップ・ウェイランド氏の……」

「ええ。あの子は技術者としてもとても優秀よ。それに、チャールズと私は友人だったわ」

「しかしピーター・ウェイランドはまだ14歳……」

「神童とはあの子の事を言うのね。大人の科学者顔負けの実力があるわ。ウェイランド社も私達がバックアップする予定よ」

 

 湯谷の言葉を受け、大佐は顎に手を当て暫しの間思考する。

 ピーター・ウェイランドは先日南極大陸にて発見された先史文明、そして異星人が遺した遺跡探査に向かい、不慮の事故(・・・・・)で死亡したウェイランド・コーポレーション社長チャールズ・ビショップ・ウェイランドの一人息子であった。

 ウェイランド社の後継者指名されたピーターがこの一件に関与する事は、チャールズの死亡によって株価が急落したウェイランド社の立て直しにも繋がる。

 

 そう結論付けた大佐は、湯谷に向けしっかりと頷いた。

 ウェイランド社もユタニ社に勝るとも劣らない程の世界的企業であり、ユタニ社のバックアップを受け米国屈指の企業が復活する事はむしろ願ったり叶ったりであった。

 

「お任せします。湯谷さん」

「ええ。任されたわ」

 

 大佐は短く言葉を述べる。

 様々な思惑を秘め、湯谷は秘書を伴いオフィスを後にする。

 残された大佐はそれを満足気に見送っていた。

 

 

 ウェイランド社とユタニ社がこの異星のテクノロジーを解析し、惑星間航行を可能とさせる程の核融合エンジンを開発する事は、まだ数十年の時が必要であった。

 だが、この“異星の落とし物”がなければ人類の宇宙進出は100年は遅れていただろうと言われている。

 もっとも、それらの情報が開示されるのは西暦2300年代になってからであり、後に合併しウェイランド・ユタニ社と名を改めた企業が倒産するまでこの一連のやり取りは秘匿され続ける事となった。

 

 そして、ウェイランド・ユタニ社が最期まで追い求めていたのは、強酸性体液を持つ醜悪な怪物ではなく、高度なテクノロジーを持つ“異星の狩人”であった事は、永遠に明らかになる事は無かった。

 

 

 

──────────────

 

 西暦2192年

 惑星BG-386

 ジャングル

 

「少尉! 急いでください!」

 

 エミリオの後方からチャベス上等兵が急かすように声を荒らげる。

 チャベスはM42Cスコープドライフルを構え、猛追するエイリアンを確実に仕留めていく。

 だが、ジャングル中のエイリアンが集まっているのか、その数は一向に減らない。

 チャベスはエミリオ達の後を駆けながらスコープドライフルの弾倉を交換する。

 既に予備弾倉は尽き、これが最後の一つであった。弾倉の装弾数は6発。

 

(これは、厳しいな……)

 

 チャベスは厳しい表情を浮かべる。どう考えても手持ちの弾薬では無数のエイリアンの追撃から逃れられる事は不可能であった。

 

 憔悴感に駆られながらエミリオ達は駆ける。ジャングルが若干開けた箇所に差し掛かると、深い渓谷がエミリオ達の前に立ち塞がる。

 崖下では濁流となった川が流れており、落ちたら一巻の終わりであることは想像に難くなかった。

 

 エミリオは鋭い目つきで周囲を見渡すと、一本の倒木が丁度橋のように対岸を繋げていた。

 対岸との距離は10メートル程。エミリオは即座にそこへ走り、倒木を蹴って渡るに足る安定があるか確かめた。

 シシュを背負った状態でも揺れず、しっかりと対岸まで架かった倒木の強度を確かめたエミリオは後続するチャベスへと声をかけた。

 

「チャベス上等兵! ここなら渡れそうだ!」

 

 エミリオの言葉にチャベスは頷く。

 エミリオの怪力ならば渡った後、この倒木を崖の下へと落とせる事はそこまで難しい事ではない。

 即座にエミリオの意図を感じ取ったチャベス上等兵は、追いすがるエイリアンを少しでも減らそうと走りながら後ろを振り向く。

 すると、チャベスの眼の前に猛然とエイリアンの一匹が跳躍した。

 

「ウオッ!?」

 

 咄嗟にスコープドライフルを構え、射撃する。

 至近距離で脳天を撃ち抜かれたエイリアンは、脳漿と黄色い体液を撒き散らして絶命する。飛散した酸の血液がかかりそうになるも、チャベスは咄嗟にスコープドライフルでその強酸性血液を防御した。

 

「グゥッ!」

 

 ほんの数滴、ライフルの防御から逃れた酸の血液がチャベスの腕にかかる。鋭く、熱した針を抉り込まれたかのような激痛に苛まれたチャベスは苦悶の表情を強めた。

 

「チャベス上等兵!」

 

 エミリオはシシュを背負いながらチャベスを見やる。

 チャベスは苦悶の表情を浮かべつつ、スコープドライフルがシュウシュウと煙を立て銃身を溶かしているのを目撃し舌打ちをする。

 即座にライフルを捨て、エミリオへと顔を向けた。

 

「少尉! 先に行ってください! 渡り終えたら倒木を川へ!」

 

 チャベスは装具を外し、背中に差していたマチェット山刀を抜きながらエミリオへと言葉をかけた。

 

「馬鹿言うな! 置いていく訳には!」

「行くんだ! 少尉ッ!」

 

 エミリオへ一喝し、チャベスは真正面を見据える。

 エイリアンが群れをなしてチャベスの周りを囲もうと猛然と追いすがって来るのが見えた。

 

「少尉! 貴方とシシュがいないと皆は無事に帰れない! だから早くッ!」

「しかし!」

「いいから早く行くんだッ!」

 

 逡巡するエミリオを一喝し、先に行くように促すチャベス。

 エミリオとシシュが持つ多大な戦闘力は、この先第3小隊の生き残りが確実に地球へと帰還するために必要不可欠である事を、このアパッチの末裔はよく理解していた。

 

 エミリオは俯きながら尚も逡巡するも、やがてぐっと唇を噛み締め、シシュを背負いながら倒木を渡る。

 そのエミリオに向け、ジャングルを見据えながらチャベスの言葉が響いた。

 

「少尉。スコット……シンシアに伝えてください。『約束を破ってすまなかった』と」

「……了解した」

 

 やがてエミリオは渓谷を渡り終えると、シシュを地面に下ろし渾身の力を込めて倒木を持ち上げる。ドッグエイリアンとの戦闘で負傷したエミリオは片腕しかまともに力が入らなかったが、その怪力は片腕でも10メートルはある倒木を川へと落としめる事が出来た。

 落とし切る前、エミリオの片方しかない視界に対岸へと残るチャベスが無数のエイリアンと対峙するのが映る。

 

「チャベス……!」

 

 エイリアン達と対峙するチャベスを見やる。

 チャベスは上衣も脱ぎ去り、筋肉質な上半身を露わにしながらゆっくりと自身の胸を薄皮一枚、真一文字に切り裂いた。

 胸から血が滴り落ち、血の一滴一滴が地面に落ちる度に、チャベスの中に眠る勇敢なアパッチ族戦士の遺伝子が呼び起こされていった。

 

 

「オオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 

 異星の森の中、アパッチの雄叫びが木霊する。

 その勢いに気圧されたのか、周りと取り囲むエイリアン達は一瞬怯むも、すぐさま獰猛な牙を剥き出しにしながらアパッチの戦士へと踊りかかった。

 

 シシュを背負い直したエミリオは無数のエイリアンに集られ、姿が見えなくなったチャベスから目を逸らす。

 そのまま僅かに首を振ると、エミリオはジャングルを脱出するべく身を翻し、木々をかき分けながら駆け出した。

 

「う……うう……」

 

 駆けながら、嗚咽を漏らすエミリオ。

 初めての実戦、そして異星での怪物達との異常な戦闘。

 アーメイ軍曹達が死んだ時は、生き残りの小隊員達を無事に連れて帰る責任感からか、エミリオはさして取り乱さずにその後の戦闘を戦い抜いた。

 だが、僅かな間とはいえ共にエイリアン達の襲撃を生き延び、こうして助けに来てくれたチャベス上等兵を見殺しにせざるを得ない状況は、この若い士官にとって耐え難い現実であった。

 

 走る内に、それまで押さえていた様々な感情が湧き上がっていく。

 感情が押さえられなくなったエミリオは、滂沱の涙を流しながら走る。

 

「うわああああああああ!!!」

 

 泣き叫びながら、エミリオは駆ける。

 

 左目と、焼けただれた右目から涙を流し、鼻水と汗を垂らしながらエミリオはジャングルを駆ける。

 

 愛する異星の伴侶を背負いながら、エミリオは泣きながらジャングルを駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

──────────────

 

 惑星BG-386

 ジャングルと精錬所の間にある渓谷

 

 ジャングルでチャベス上等兵と別れたライバック伍長達は、その後幸運にもエイリアンとまったく遭遇する事なく無事にジャングルを抜ける事が出来た。

 ジャングルを抜け、精錬所が見下ろせる場所に立ったライバック達は一様に安堵の表情を浮かべる。

 

「一時はどうなる事かと思ったが……ブラヴォ中隊はまだ健在のようだな」

 

 ライバックがサバイバルバッグの中から双眼鏡を取り出し、ブラヴォ中隊が陣取る精錬所へと双眼鏡を向ける。

 スコープ越しにはブラヴォ中隊員が陣地内にて油断なくパルスライフルを構え、エイリアンの襲撃に備えている様子が伺えた。

 

「早く行こうぜライバック! ロスを治療しねえと!」

 

 パクストン上等兵が上ずった声を上げる。

 担架に寝かされたロス一等兵の容態は鎮痛剤にて安定した様子を見せていたが、時折苦しそうな表情を浮かべて身じろぎをしていた。

 エイリアンの強酸性血液により腹部を無残に焼け爛らせたロスの怪我を一刻も早く治療を施す必要があったのだ。

 

「よし。コナー、先行してくれ。ある程度まで近づいたら発煙筒で合図して──」

 

 ライバックがそこまで言いかけると、突然彼方から轟々としたエンジン音が響く。

 顔を上げ、そこへ双眼鏡を向けると一機のドロップシップが精錬所へ向かってくるのが見えた。

 

「ドロップシップ!?」

「まだ生き残ってたんだね! きっとアルファ中隊の機体だよ!」

「どこの連中だっていいぜ! ドロップシップの火力ならジャングルのバケモン共根こそぎぶち殺せる!」

 

 スコット上等兵、コナー上等兵、パクストン上等兵がドロップシップの機影を見留め、弾んだ声を上げる。

 ドロップシップが搭載する火器はナパーム弾等広範囲を掃滅せしめる程の威力の高いものであり、救援が来るまでジャングルから湧き出るエイリアンの襲撃を払いのける実力があった。

 にわかに地球への帰還が現実味を帯びてきたことに、パクストン達の声は増々弾んでいく。

 

「……いや、少しおかしいぞ」

 

 双眼鏡を向けるライバックが怪訝な声をあげる。

 双眼鏡越しに見えるドロップシップの機体は黒く塗りつぶされており、所属部隊等が記された識別マークの類が一切見当たらなかった。

 更にいえばドロップシップのウェポン・ベイは開け放たれており、ロケット弾やミサイルが即座に放たれる状態になっていた。

 

 ライバックが尚も怪訝な表情を浮かべていると、ドロップシップが精錬所上空へと到達する。

 精錬所ではブラヴォ中隊の兵士達が歓声を上げながら上空のドロップシップへと手を振っている。

 

 ドロップシップは精錬所上空をゆっくりと旋回し、その機首を兵士達に向けると──

 

「なっ!?」

 

 突如ドロップシップの砲火が精錬所のブラヴォ中隊へと降りかかる。

 無数のロケット弾、ミサイルの雨がブラヴォ中隊へと降り注ぎ、精錬所の陣地は猛烈な爆撃に晒された。

 爆発が陣地の各所で起こり、ブラヴォ中隊の兵士達が吹き飛ばされる。一瞬にして陣地は阿鼻叫喚の火炎地獄の様相を呈し、突然の出来事にブラヴォ中隊の兵士達は為す術もなくその身を四散させる。

 僅かに生き残った兵士達がパルスライフルをドロップシップへ向け射撃するも、厚い装甲に阻まれまったく効果を認められなかった。

 ドロップシップはゆっくりと旋回しつつ、その火力を浴びせ続ける。運良く生き延びた兵士達に向け丹念な機銃掃射を浴びせた。機銃掃射を受けた兵士達は四肢を千切られ、無残な死体を晒す。

 

 やがて陣地内に動くものがいなくなると、ドロップシップは機首を翻し飛び去っていった。

 僅かな一時でブラヴォ中隊は全滅し、陣地内は爆発の跡で変わり果てた惨状を晒していた。

 

「ハハ……おい、嘘だろ……これは夢だろ……」

 

 呆然とドロップシップの爆撃を見つめていたパクストンが虚ろげに言葉を吐き出す。

 ライバック、コナー、スコットもまた目の前の現実を受け入れる事が出来なかった。

 

「終わりだよ……! 今度こそゲームオーバーだ! もうおしまいだよ!」

「うるさいよパクストン!」

「じゃあどうすれば良いんだよ! 教えてくれよ!」

「それは……!」

 

 コナーがパクストンを一喝するも、直後に返されたパクストンの言葉に応える事が出来ない。

 スコットも沈鬱な表情を浮かべ、俯く事しか出来なかった。

 

「もう俺達の運命は決まってるんだ! 地獄だよココは! バケモンにぶっ殺されるか、正体不明の敵にぶっ殺されるかのどっちかしか──」

「黙れ! パクストン!」

 

 喚き散らすパクストンの胸ぐらをライバックは乱暴に掴み上げる。

 荒い呼吸を吐きながらパクストンの瞳は涙で濡れており、ライバックはその瞳を鷹のような目で睨みつけていた。

 

 やがてパクストンを離したライバックは深く、長い溜息を吐く。

 目の前に繰り広げられた絶望的な状況に、ライバックもまた弱音を吐き散らしたい衝動に駆られる。

 だが、この歴戦の兵士の闘志は、まだ萎えていなかった。

 

「……精錬所ではまだ無事な施設が残っている。そこで新たにバリケードを設置し、救援が来るまで籠城しよう」

「俺達だけでか!? ハッ! 馬鹿言ってんじゃねえよ! 弾薬も残り少ない! 医療ポッドも焼けちまった! もうおしまいなんだよ!」

「陣地跡を探せばまだ使える武器弾薬が残っているかもしれない。施設をくまなく探せば医療ポッドだって」

「そんなもんあるわけねえだろ! おしまいなんだよッ!」

「パクストン」

 

 尚も喚き散らすパクストンに向け、ライバックは静かにその名前を呼ぶ。

 有無を言わさないその怜悧な言葉に、パクストンは思わず口を閉じ、ライバックの顔を見つめた。

 

「俺はここで死ぬつもりはない。兵士になったからには戦争で死ぬこともあるだろう。だが、あの怪物共にやられっぱなしで死ぬのはゴメンだ。俺は最期まで諦めるつもりはない」

 

 力強いライバックの言葉に、コナーやシンシアも表情を変える。パクストンもライバックの言葉を受け、渋々といった感じで頷いた。

 

「コナー、先行して籠城に使えそうな精錬所施設を探してくれ。この爆撃の後だ、エイリアン共もしばらくは近寄ってこないだろう。スコット、パクストン。コナーが籠城場所を見つけたらロスを移し、医療ポッドを探してくれ。俺は陣地跡から使えそうな武器弾薬を掻き集める。バリケード設置も平行して進めててくれ」

「了解!」

「了解したわ。少尉達がちゃんと戻ってこれるようにしなくちゃね」

「……了解。くそ、もうどうにでもなれってんだ。まるでアラモの砦だぜ」

 

 コナーが元気良く精錬所へと駆け出し、スコットがロスの元へと駆け寄る。パクストンも毒付きながらもスコットの後に続いた。

 ライバックの指示を受けた第3小隊の生き残り達は再びその肉体に活を入れ、生き残る為の戦いを再開する。

 絶望的な状況化でも、この若い兵士達は希望を捨てる事は無かった。

 

 

 エミリオ達植民地海兵隊第501大隊が惑星BG-386へと降り立ってから、3回目の夜が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

──────────────

 

「うう……う……」

 

 チャベスの命と引き換えにエイリアンの猛追から逃げ延びたエミリオとシシュは、精錬所にほど近い川べりにてその身を休めていた。

 途中、精錬所の方向から爆発音が聞こえたが、心身ともに憔悴したエミリオにとってその音を気にする余裕はなかった。

 エミリオの無尽蔵ともいえる体力を持ってしても、これ以上シシュを抱えて走る事は出来ず。チャベスの死に打ちのめされた事もあってか、エミリオは走る事を止めシシュを地面に下ろすと、川べりにて腰を下ろし一歩も動けないでいた。

 既に辺りは暗くなり、月明かりがエミリオ達を照らしている。

 

 シシュの傍らにて膝を抱えて蹲るエミリオは、時折嗚咽を漏らしていた。

 エイリアンによって受けた傷の痛み、そしてそれ以上にチャベスの遺志がエミリオに重く伸し掛かっていた。

 

(僕は、なんて無力なんだ……)

 

 自責の念がエミリオを苛む。

 助けに来てくれたチャベスを犠牲にしてでも自分は生き残る価値はあるのか。

 結局、アーメイ軍曹達も助ける事は出来なかった。

 目の前で、カッシュ一等兵がエイリアンに連れ去られていった。

 生き残りの小隊員達も、今も生きているのか分からない。

 

 自分が行った行動の何もかもが、無意味だったのではないか──

 そのような思いが、エミリオの中で渦を巻いていた。

 

「grr……」

 

 エミリオが膝を抱え俯いていると、シシュが呻き声を上げる。

 僅かに首を振ると、上体を起こし周囲を見回した。

 

「シシュ……」

「krr!」

 

 覚醒したシシュを胡乱げな瞳で見やるエミリオ。

 シシュは愛する雄の姿を見留めると即座にその身体に飛びつく。

 

「うっ……」

「grr!?」

 

 エミリオに覆いかぶさるように抱きすくめたシシュだったが、僅かに漏らしたエミリオの苦悶の声に、その焼け爛れた右目と腕に気付く。

 大慌てでエミリオから離れたシシュはメディコンプを取り出そうと腰のホルスターに手を伸ばした。

 

「grrー!?」

 

 しかし不運にもプレデリアンとの戦闘で腰のホルスターは破損しており、中に収納されているはずのメディコンプも無残な状態を呈していた。

 薬剤が入ったカプセルも破損しており、中は一滴の薬剤も残っておらず全て零れ落ちてしまっている。

 肩に装着したプラズマキャノン、腰に付けたスラッシャーウィップ、二本のシュリケン、レーザーネット、両腕のコンピューターガントレットにリストブレイド、ネットランチャー。

 それらの装備は無事に残っているのに、肝心のメディコンプだけが無い。

 シシュはこの理不尽な状況に思わず地団駄踏んでいた。

 

「よかった、怪我は大丈夫みたいだね……」

 

 エミリオはシシュが思ったより軽傷であった事に、安堵の溜息と共に力なく呟く。

 そんなエミリオに向け、シシュは焦った様子を隠そうともせずエミリオへ駆け寄った。

 

「grr! grr!」

「僕は、大丈夫……ちょっと疲れただけだから……」

 

 力なく微笑むエミリオに、シシュは増々慌てた様子をみせる。

 わたわたとエミリオの傍で膝を付き、手をこまねいている事しか出来ないシシュに、エミリオはそっとその顔に手を伸ばす。

 

「ちょっと休めば大丈夫だから……」

「krr……」

 

 マスク越しにそっとシシュの顔を撫でるエミリオ。

 その手をシシュはしっかりと握りしめていた。

 

 しばらくエミリオの手を握りしめ、心配そうに見つめているだけのシシュであったが、やがておもむろに装着していたマスクに手をかけた。

 

「シシュ……?」

 

 繋げられていた管を引き抜き、マスクを剥がしたシシュの瞳は濡れており、心配のあまりに泣きはらした跡が浮かんでいた。

 シシュは両手にてエミリオの頭をそっと抱えると、口器を開けエミリオの爛れた右目に舌を這わせた。

 

「シ、シシュ……」

 

 ピチャリ、ピチャリと湿った音が響く。

 丹念に、丁寧にエミリオの右目の傷跡を舐めていた。

 

「シシュ、そんな事しなくていいよ……」

「krr!」

 

 エミリオがやんわりとシシュを止めようとするも、シシュはうるさいと言わんばかりに甘い顫動音を鳴らす。

 そのままエミリオの上衣に手をかけた。

 

「あっ」

 

 抵抗する間もなくエミリオの上半身は露わになる。

 焼け爛れた右腕が露出すると、シシュは苦しそうな表情を浮かべる。愛する雄の無残な姿が、この異星の乙女には耐え難く辛い光景であった。

 

「krr……エミリオ……」

 

 切なげな吐息と共にシシュはその右腕へそっと舌を這わせた。

 

「シシュっ……」

 

 ピチャ、ピチャと水音が響く。

 シシュは懸命にエミリオの腕を舐め、その傷を癒そうとした。

 一生懸命に治療するシシュに、エミリオはそっとその頭に手を伸ばし、優しくシシュのドレッドヘアーのような髪を梳いた。

 

「シシュ……僕は、ダメな奴だ。皆を助けるどころか、皆をどんどん死なせてしまった。だからもう……」

「……」

 

 シシュはエミリオに撫でられ、腕に舌を這わせる行為を止める。

 エミリオの力無く言葉を吐き出す様子を、その無垢な瞳で見つめていた。

 

「シシュ……僕は……どうしたら……」

 

 エミリオの左目から一筋の涙が流れる。初めて見る愛しい雄の情けなく、頼りない姿を、シシュはじっとその無垢な瞳を向け続けていた。

 シシュは暫くエミリオの顔を見つめていたが、やがてエミリオの左手を掴み自身の胸に押し当てた。

 

「シシュ……?」

 

 網状のボディスーツ越しに、シシュの豊満な乳房にエミリオの手が押し当てられる。

 僅かに頬を染めたシシュは、しっかりとエミリオの瞳を見続けていた。

 

「あっ……」

 

 トクン、トクン、とシシュの鼓動が伝わる。

 シシュはエミリオの手を胸に当て、潤んだ瞳を向け続けていた。

 その瞳に宿った意思をエミリオは左手から伝わる鼓動と共に感じ取る。

 

 私は、こうして生きている──

 エミリオのおかげで生きている──

 私は、エミリオに救われた──

 

 異星の乙女の、純真な想いがエミリオの心に届く。

 涙を流しながら、愛する乙女の想いを受け、エミリオの瞳に徐々に火が灯り始めた。

 

「シシュ……」

「krr……」

 

 甘い顫動音を鳴らし、シシュはエミリオの唇に口器を這わせる。

 啄むような口づけの後、異星の番は互いの舌を優しく絡ませていった。

 

「あむ……んちゅ……」

「krr……クチュ……」

 

 甘く、芳しい淫靡な匂いがシシュの身体から発せられる。

 その匂いを吸い込んだエミリオのペニスは徐々に血が巡り、逞しく屹立していった。

 

「krr……」

 

 潤んだ瞳でシシュは口を離す。つう、と糸を引いた粘液が、月明かりに照らされ淫靡で幻想的な光景を映し出していた。

 シシュはそのままエミリオの首筋に舌を這わせる。

 

「シシュ……!」

 

 エミリオの甘い声が響く。

 丹念にシシュはエミリオの首筋に舌を這わせていた。そのまま鎖骨、胸元、腹部を舐めていく。

 下腹部まで舌を這わせたシシュは、カーゴパンツを押し上げるエミリオのペニスを丁寧な手つきで撫でた。

 

「krrr……」

 

 シシュはエミリオのカーゴパンツを丁寧な手つきで下ろす。パンツをずり下げ、反り返るエミリオのペニスを見て陶然と吐息を吐き出した。

 そのまま、ゆっくりとエミリオのペニスに舌を這わせる。

 

「あっ、シシュ……!」

 

 ゆっくりと、優しくエミリオのペニスを舐め上げる。ピチャ、クチュ、と淫靡な音が響いていた。

 一通り舐めあげると、今度はエミリオの亀頭を優しく口腔内へ納めた。

 

「あぅ!」

 

 包こ込むようにエミリオのペニスを頬張るシシュ。

 嘗て幼少のエミリオにしたような激しく、野性的な口淫とは違い、傷ついた愛しい雄を癒やすかのような、慈愛に満ちた奉仕だった。

 

「はぁっ、シシュ、シシュぅ……!」

 

 エミリオは切なげな声を上げる。シシュは上目遣いでエミリオを見つめ、その瞳は淫靡な光を宿しつつ奥底にある慈愛の光をエミリオへ向けていた。

 シシュの優しい奉仕を受けるエミリオのペニスは口器の中で脈動し、より力強く屹立する。

 亀頭から溢れんばかりに出る透明な雫を、シシュは優しく飲み込み続けていた。

 

 やがてシシュはエミリオのペニスから口を離す。

 腰の装具を外し、露わになったヴァギナへと自信の指を這わせた。

 むせ返るような淫靡な獣臭がエミリオの鼻を突き抜け、脳を溶かす。

 シシュはそっとペニスを掴むと、自身のヴァギナへとあてがった。

 

「ぅ、ぁ」

「krr……」

 

 エミリオの対面に座り込むように腰を落とすシシュ。

 チュプ、ジュブ、と湿った肉と肉が擦れ合う音と共にエミリオのペニスはシシュの膣内へと収められていった。

 根本までエミリオのペニスを咥え込んだシシュは、そのまま動かずにエミリオの頭を掻き抱く。

 じっと、優しく包むように、エミリオを抱き締めていた。

 

「シシュ……」

「krrrr……」

 

 上気したシシュの身体は月明かりに照らされ、汗で濡れた肉体は淫靡な匂いを放ち続けている。エミリオはシシュのくびれた腰に手を回し、シシュをしっかりと抱きとめていた。

 

「は、はぁ」

「krr……」

 

 シシュの豊満な乳房に顔を埋め、その腰をしっかりと抱き締めるエミリオ。シシュはエミリオの頭を抱き締め、愛する雄を包み込む。

 エミリオは腰を動かす事はせず、じっとシシュの肉体を感じ続けていた。

 シシュも腰を上下せず、じっとエミリオの熱を感じ続けている。

 だが、腰は動かしてなくともシシュの膣内は艶かしく蠕動し、エミリオのペニスを粘りつくように扱いていた。

 結合部からはシシュの熱い体液と、エミリオの透明な雫が混ざり合い、トロトロと蜜のように互いの肉体を伝い、地面へと垂れていった。

 

「シシュ……!」

「kyrrr……!」

 

 やがてエミリオはぎゅっと力強くシシュの腰を抱き締める。

 エミリオのペニスはひときわ怒張した後、ゆっくりと精液を吐き出した。

 トクン、トクン、トクンと脈動しながら精液がシシュの膣内に出される。

 ゆっくりと、しかし長い射精に、シシュもまた静かに達していた。

 愛しい雄と、獣のような激しい性交しか経験してこなかった異星の乙女は、愛する雄の命が自身の体内に溢れる幸せを全身で味わっていた。

 

 ゴプっと、シシュとエミリオを繋げた結合部から精液が溢れる。それでも尚、エミリオのペニスはトクトクと精液を吐き出し続けた。

 

「シシュ……ごめん……ありがとう……」

「krr……」

 

 シシュの胸に顔を埋めたまま、エミリオはポソっと呟く。

 シシュは慈愛に満ちた表情でエミリオの頭を優しく撫で続けていた。

 

 月明かりが、繋がりあった異星の番を照らす。

 やがて精液を全て吐き出したエミリオの左目に、爛々とした火が灯り始めていた。

 

 

 一度は折れかかった若い士官の心が、異星の乙女によって繋ぎ止められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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