惑星BG-386
精錬所付近の小川
さらさらと川の流れる音が辺りを包んでいる。白み始めた周囲は川の流れる音と合わせ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ん……」
川の流れる音と、自身を包む心地よい体温を感じ、エミリオは目を覚ました。
月明かりの元、シシュと静かに繋がり合っていたエミリオの肉体は本能的に休息を求めており、精を吐き出した後はそのままシシュに包まれながら意識を落としていた。
覚醒したエミリオをシシュはその無垢な瞳で覗き込む。
シシュはマスクを外しており、エミリオを優しく撫でながらその頭を自身の膝の上に乗せていた。
「krr……」
シシュは甘い顫動音を鳴らしている。この異星の乙女はエミリオに膝枕をしながら一晩中エイリアンの襲撃を警戒し、傷ついた愛しい雄を見守っていた。
「シシュ……!」
エミリオはシシュを見つめながら喜びと申し訳無さが入り混じった感情を吐露する。本来ならば自分が守ってあげなくてはならない愛しい存在に、逆に守られている自分がひどく情けなく感じていた。
エミリオは直ぐに起き上がろうとしたが、シシュはエミリオの頭を自分の膝の上に押さえつけ、無理やり膝枕を続けた。
「krr!」
「わっ!」
気にするな、今は寝ていろ、とでも言わんばかりに弾んだ顫動音を鳴らし、エミリオの頭を押さえつけるシシュ。
この愛しい雄の為なら文字通り不眠不休でも構わないとばかりにエミリオに膝枕を施し続けていた。
シシュの野性的で、どこか芳しい匂いがエミリオの鼻孔をくすぐる。目の前にあるシシュの逞しく割れた腹筋がじわりと汗で濡れていた。
「し、シシュ! もう大丈夫だから……」
「krr! ヤスム!」
エミリオの抗議の声をシシュは元気の良い声で遮る。ふんすっと、鼻息を鳴らしエミリオの頭を撫で回していた。
満足気にエミリオの髪を弄り、ポンポンと頭を撫でるシシュにエミリオは溜息をつきながらその様子を眺める。
眺めていく内に、もうしばらくこの逞しい乙女の膝を借り続けたいという衝動に駆られたが、脳裏に第3小隊のメンバーの顔がチラついた。
「シシュ……もうちょっと休んだら出発しよう。皆を助けなきゃ」
「krrr……」
ミリオの言葉にシシュは切なげに顫動音を鳴らした。異星の乙女は愛しい雄の固い決意を見て、ただ黙ってその目を見つめる。
エミリオの右目はエイリアンの強酸性血液を浴び、白く濁っている。恐らくはもう見えていないのだろう。
だが、残った左目には爛とした火が灯っており、力強い輝きを放っていた。
エミリオは横たわりながらその片方の瞳で周囲を見渡す。
見ればエミリオ達がいる小川の対岸では切り立った崖があり、その上には薄っすらと煙が上がっている。
僅かだが精錬所施設が崖の上から見えており、エミリオは今更ながら自分が目的地付近まで到達していた事に気付いた。
(精錬所……皆は無事に辿り着いているのかな……)
エミリオはぼんやりと思考を巡らす。
チャベス上等兵を置き去りにし、絶望に打ちひしがれる最中聞こえてきたあの爆発音。
第3小隊の生き残りは無事にブラヴォ中隊と合流出来たのか。
いや、そもそもあの爆発音はブラヴォ中隊の陣地から聞こえてきたものなのではないのか?
エミリオは嫌な想像が脳裏を過り、その肉体を捩らせた。
「シシュ、精錬所の様子を確かめ──」
エミリオはそこまで言いかけると、丁度くぅ、と腹の虫が鳴る音がした。
「あ……」
頬に朱を浮かべるエミリオ。
プレデリアンとの一戦、その後の逃走、そしてシシュとの月明かりの下での営み。
いかに強靭な肉体を持つエミリオでも、空腹と喉の渇きは抑える事は出来なかった。
「krr!」
そんなエミリオの様子を見てシシュは鼻息を荒くしながらいそいそとボディスーツに手をかける。
破れていた網状のボディスーツに手をかけると、シシュの乳房が露出した。
「シシュ?」
シシュの突然のこの行動に増々顔を赤らめながら怪訝な目を向けるエミリオ。
そのエミリオに向け、シシュは元気よく片乳房を突き出した。
「krr!」
「ええ……」
目の前にシシュの豊満な乳房が突き出される。黄土色の肌色に僅かに桜色が残る乳首が汗で濡れており、エミリオの鼻息がかかったのか乳首はピンと突起していた。
「あの、シシュ。まさか、吸えって言うの……?」
「krrr!」
エミリオの問いかけに勢い良く首を縦に振るシシュ。
異星の乙女のこの突拍子もない行動にエミリオはただ困惑するしかなかった。
「あのね、シシュ。おっぱいは、赤ちゃんが出来ないと出ないんだよ……」
「grr!?」
そんなシシュにエミリオはひどくマイペースに道理を説く。エミリオの言葉を受けてシシュは愕然とした表情を浮かべていた。
あれだけ激しく交わったのにもかかわらず、どこか男女の生理について抜けてるように思えるシシュに、エミリオは思わず苦笑を漏らしていた。
(あ、でも……)
これまで3回シシュと交わり、その精液を全てシシュの膣内に吐き出していた事を思い出すエミリオ。
もしかしたら、シシュは──
「grrー!」
「むぐっ!?」
そこまで考えていると、シシュはエミリオの頭を掻き抱きその口元に強引に己の乳房を押し付ける。
突然乳房を押し付けられたエミリオは窒息気味に呻き声を漏らした。シシュはやや涙目になりながらエミリオに乳房を押し付けている。
そんなシシュを見て、エミリオは愛おしい気持ちが溢れ、この異星の伴侶の献身を無下に出来ないと思いおずおずと唇を動かした。
唇にシシュの乳首を感じると、エミリオはその突起を唇で優しく食んだ。
「kyrr……」
はむはむと唇でシシュの乳首を挟むエミリオ。優しいエミリオの愛撫にシシュは甘く、切なげな顫動音を上げた。
「ん……ちゅ」
「kyuuu!」
突起した乳首に舌を這わせ、コロコロとその突起を舌で転がす。
そのまま、シシュの濡れた乳首を吸い込むと、シシュは嬌声めいた甘い顫動音を鳴らした。
「ちゅう……ちゅ」
「kyuu! kyuu!」
エミリオの頭を掻き抱きながら襲い来る快感に耐えるシシュ。エミリオはぼうとした思考の中、取り憑かれたようにその甘い乳首を吸い続けた。
シシュの乳首からは母乳は出ない。だが、乳房から汗が滴り、シシュの淫靡な雫がエミリオの渇きを癒やしていた。
しばらく陶然とシシュの乳房を吸っていたエミリオだったが、再びくぅと腹の虫がなり、静かにシシュの乳首から口を離した。
「シ、シシュ……あ、ありがとう……」
「krrr……」
赤面しながら口を離すエミリオをどこか未練がましく見つめるシシュ。完全に目的を履き違えていたシシュに、エミリオは再び優しげな苦笑を漏らした。
やがてシシュの膝に乗せていた頭を起こし、上体を起こすエミリオ。シシュはそれを甲斐甲斐しく補助していた。
「少し、お腹に入れようか」
「krr!」
エミリオの言葉に元気よく頷くシシュ。
兎に角、この空腹をどうにかせねば。そう思ったエミリオは辺りを見回し、流れる川に目を向ける。
工業施設がある精錬所の傍に流れる川であったが、川の流れはジャングルから流れており、精錬所の汚水が混ざっている様子は無かった。存外に透き通った川の中で漂う魚の影を見つけたエミリオはふらつく身体を起こし、コンビスティックを手に取った。
「krr!」
「大丈夫。魚がいるから、そいつを取ろう」
ふらつくエミリオを支えるシシュに、エミリオは優しげな笑みを向ける。
支えながら、川べりへと一緒に向かうシシュにエミリオはしっかりとコンビスティックを握りしめ、獲物を取るべく穂先を川へ向けた。
川の中には数匹の鱒に似た川魚がゆらゆらと泳いでいる。魚が泳いでいる辺りは水深は深くなく、朝もやの中でもその動きはよく見えていた。
エミリオは作戦前に惑星BG-386の環境についてもブリーフィングを受けており、BG-386の原生生物が食用に足る事も把握していた。
「ッ!」
コンビスティックを川魚へ向け投擲するエミリオ。バシャンッと、水しぶきを上げてコンビスティックは川底へと突き刺さる。
だが、その穂先にはお目当ての魚は刺さっておらず。エミリオは今更ながら自身が隻眼となった事で遠近感が狂っている事に気付いた。
「krr!」
「シシュ……」
狙いを外したエミリオの肩をポンポンと叩き、慰めるかのように顫動音を鳴らすシシュ。やや情けない表情を浮かべながらエミリオは異星の乙女の慰めを苦笑で応えていた。
「grrー!」
「わっ!」
シシュはエミリオを川べりに座らせると、元気一杯に川中へと跳躍する。
ザブンッ! と、盛大に水しぶきが上がり付近にいる魚は一目散に逃散した。
「grr!」
だがシシュは素早く装着したコンピューターガントレットを操作し、その拳を振りかぶる。
コンピューターガントレットから鳴り響く機械音と共にシシュの剛拳が川底へと叩きつけられると、激しい重低音と共にシシュが跳躍した時より更に大きな水しぶきが上がった。
「わっ! すごい!」
「grr!」
水しぶきが収まり、水面の波が落ち着くと衝撃で気絶した魚が数匹浮かんで来る。所謂ガチンコ漁の要領で魚を得たシシュにエミリオは思わず純真な賞賛を送る。シシュは誇らしげに浮かんだ魚を集め、エミリオの元へと駆け寄った。
「grr!」
「ありがとう、シシュ」
両手に数匹の魚を持ちエミリオへ嬉しそうに差し出すシシュ。それをエミリオは丁寧な手つきで受け取った。
「とりあえず火を起こしてから──」
そう言いかけたエミリオの目に、シシュが魚の一匹を生で咀嚼している光景が飛び込んできた。
「シ、シシュ! おスシじゃないんだから!」
「grr?」
エミリオの声にきょとんとした表情を浮かべながらムシャムシャと魚を頭から頬張るシシュ。
あまりにも野性的すぎるシシュの行動に、エミリオは頭を抱える。
海兵隊の最新鋭の装備を遥かに上回る武装、テクノロジーを持つシシュ達であったが、食文化等の文化的な成熟は地球の人類より遥かに劣っている事が伺えた。
エミリオはどこかちぐはぐな印象を受けるシシュの種族について今更ながらその実態がどういった物なのか思考を巡らす。
だが、首をかしげながら魚を咀嚼するシシュのつぶらな瞳を見ていく内に、エミリオはやがて溜息を一つ吐きそれ以上シシュの種族について考えるのを止めた。
「シシュ、魚は焼いて食べるともっと美味しいんだよ」
「grrー?」
なおもムシャムシャと魚を咀嚼するシシュ。エミリオはシシュに微笑を向け、火を起こすべくふらつく身体に気合を入れた。
「薪を集めて……焚付はシャツでいいかな。あとは、火おこしだけど……」
エミリオは小川の先にあるジャングルに目を向ける。
湿気が多いジャングルで薪を集める事は難しいと思われたが、目につく範囲でも枯れ葉や枯れ木がある程度は落ちており、焚き火を起こす事はそれほどの難事では無さそうであった。
薪を集めるべく立ち上がろうとしたエミリオをシシュは慌てて支えようと駆け寄る。
「シシュ、僕は大丈夫だからあっちで薪になりそうな枯れ木や枯れ葉を集めてくれないかな」
「krr?」
駆け寄るシシュを制し、エミリオはジャングルを指しながら異星の乙女に薪集めを指示する。
シシュはやや訝しげに首をかしげるも、直ぐに愛しの雄の願いを叶えるべく猛然とジャングルへと駆け出した。
「シシュ、あいつらが出てくるかもしれないから気をつけ……早いね」
「grr!」
エイリアンの襲撃に注意を促すべく声をかけたエミリオであったが、シシュは瞬く間にジャングルから薪を拾い集め、その健脚を持ってエミリオの元へ即座に戻る。
両手一杯に枯れ木や枯れ葉を抱えたシシュに、エミリオはやや疲れた笑みを浮かべていた。
「よし、じゃあ火を……」
エミリオは自身のシャツを一切れ引き千切り、丁寧な手つきで繊維を解して綿状にする。
併せて火きり棒、火きり板に適した枯れ木を探り、用意する。
一連のエミリオの作業を異星の乙女は興味津々といった様子で見つめていた。
「んん……」
丸めた繊維を火きり板の上に置き、慣れない手つきで火きり棒を挟み、擦り付ける。
ジリジリとひたすらに火きり棒を擦るエミリオを心配しつつ、シシュは火きり板の上に視線を注いでいた。
しばらく火きり棒を擦っていたエミリオだが、一向に種火が灯る様子は無かった。
「ふぅ。やっぱ、付け焼き刃の知識じゃうまくいかないね」
「krr……」
きまりが悪そうにはにかんだ笑みを向けるエミリオ。そんな愛しの雄に、シシュは慰めるかのような顫動音を上げる。
シシュがぽんぽんとエミリオの肩を叩くと、エミリオは増々気落ちした笑顔を浮かべていた。
「もう少し待っててね。今、火を起こすから」
気を取り直したエミリオは再び火きり棒を両手で挟み、火おこしを再開する。
額に汗を浮かべながら一生懸命に擦るエミリオを見つめるシシュは、おもむろにエミリオの後ろに周りその両手に自身の手を重ねた。
「シシュ?」
シシュはペロリとエミリオの顔を舐めながらその体躯に覆いかぶさる。そのまま、エミリオと一緒に火きり棒を回し始めた。
シシュは張りのある乳房を惜しみなくエミリオの背中に押し付けており、エミリオは赤面しつつも異星の乙女の気遣いに感謝していた。
「手伝ってくれるんだね。ありがとう」
「krr!」
エミリオの両手を優しく包み、シシュは辿々しい手つきではあったが愛しい雄と共に火きり棒を回す。
しばらく悪戦苦闘していたが、やがて火きり板からブスブスと煙が立ち込め始めた。
「ついた!」
「krr!」
エミリオは急いで火きり板に息を吹きかけ、焚付の火を強める。ポッと小さな火がつくと、そのまま薪の中に入れた。
ブスブスと燻っていた小さな火が勢い良く燃え上がると、エミリオはシシュの頬に口づけをし、喜びを露わにした。
「やった! 火が付いたよ!」
「grr-!」
喜びながら互いの顔に口づけする異星の番。火はエミリオ達の愛情と比例するかのように勢いを増していた。
ひとしきり喜びあった後、エミリオは薪から串になるような枝を何本か取り出し、残った魚に刺す。
炙るように火の近くに串を置いたエミリオは逸る気持ちを抑えて魚が焼きあがるのを待っていた。
シシュは相変わらずエミリオに覆いかぶさり、時折スリスリとエミリオの顔に頬ずりしていた。
やがて魚が焼き上がると、エミリオはシシュに串を手渡した。
「ほら、シシュ。熱いから気をつけてね」
「grr!」
シシュは手渡された串魚を受け取るとふうふうと息を吹きかける。程よく冷めた魚におずおずと口をつけ、一口咀嚼した。
「grrー!?」
一口食べたシシュはそのままガツガツと魚に食らいつく。一心不乱に魚を貪るシシュをエミリオは満足げに微笑みながら見つめていた。
「本当は塩とかあればよかったんだけどね……」
エミリオも魚を口にしながらそう呟く。軍隊での濃い味付けに慣れた舌には物足りない代物ではあったが、空腹のエミリオにとってただ焼いただけの魚でも十分にごちそうであった。
朝もやにまぎれて、焚き火の煙がもうもうと上がる。
その焚き火の前で、地球と異星の番は仲睦まじく黙々と魚を食し続けるのであった。
──────────────
「煙……?」
ライバック伍長は陣地跡で小川の方向から一筋の煙が立ち込めるのに気付く。
コナー上等兵達が籠城出来る場所を探している間、ライバックはこの凄惨な爆撃の跡が残る陣地内にて使える武器弾薬を探していた。
千切れた腕や足、内蔵を露出させながら絶命している死体がそこかしこに散乱している。だが、この地獄の様な光景を見てもライバックは鋭い目つきで弾薬を探していた。
生存者はいない。ライバックはもし生存者がいたとしても、この爆撃の跡では五体満足に生き残っている兵士がいるとはとても思えなかった。
「もしかしたらエミリオ少尉が……?」
ライバックは武器の捜索を中断し、小川が見下ろせる場所へと駆ける。サイドバックから双眼鏡を取り出し、煙の方向へと視線を向ける。
朝もやで良く見えなかったが、スコープ越しに密着しながら魚を頬張るエミリオとシシュの姿が見て取れた。
「少尉! 無事だったんですね……!」
ライバックはエミリオの無事な姿を見留めると安堵の溜息を漏らす。同時に、やたらエミリオと仲睦まじい様子で魚を食している異形の姿を見て、訝しげな表情を浮かべていた。
「あいつは……やはり味方なのか……?」
エミリオがライバック達の囮となり、単身エイリアンの群れに飛び込んでいったあの夜。
ライバックはエミリオを抱き支える異形に発砲した事を思い出し、警戒感を露わにしていた。が、どうみても仲良く密着しながら魚を食す異形……シシュを見ていく内に、エミリオの言う通り味方である事は疑いようも無かった。
「兎に角、少尉に気付いてもらわなければ」
ライバックは空に目を向ける。朝もやは晴れつつあり、辺りは朝日の光が降り注いでいた。
胸のホルダーからコンバットナイフを取り出したライバックはその刀身を朝日に向ける。ナイフに反射した光をチラチラとエミリオ達に向け始めた。
しばらく反射した光を向けていると、エミリオがライバックへと視線を向け、笑顔を見せながら手を振った。
「よし。こちらに気付いたな」
ライバックは再びふうっと安堵の溜息を吐く。こちらに気付いたエミリオ達は焚き火の火を消すと、ライバックの元へと向かうべく歩き始めた。
「ううむ……しかしここまで来るのに大分回り道する必要があるな。エイリアン共に襲われなければいいが」
エミリオ達がいる小川はライバックがいる陣地跡の遥か崖下に位置し、崖上の陣地跡までたどり着くのに相当の回り道をする必要があった。
切り立った崖は数十メートルはあり、とてもじゃないが崖を直坂する事は専門の訓練を受けていなければ不可能であった。
ライバックはエミリオを迎えに行くルートを選定する為、しばらく思考を続ける。が、突然シシュがエミリオを横抱きにすると勢いよく跳躍を開始した。
「うおっ!?」
切り立った崖のテラスを飛び跳ねながら猛然とライバックの元へと向かうエミリオとシシュ。エミリオを横抱き……所謂お姫様抱っこしながら軽々と崖を登っていくシシュの姿に、ライバックは驚きの声を上げ、それを呆然とした表情で見つめていた。
やがて勢い良く跳躍しながらライバックの前に降り立つエミリオとシシュ。ライバックは呆気にとられつつもエミリオへと海兵隊式の敬礼を向けた。
「少尉。ご無事……とは言い難いですが、また会えて嬉しいです」
「ライバック、君も無事で何よりだ」
相変わらずシシュに横抱きされながら敬礼を返すエミリオ。負傷している姿が痛々しい様子を見せていたが、シシュに抱きかかえられた状態は全く締まらない姿であり、その姿を見てライバックは思わず笑顔を浮かべていた。
シシュはマスクを装着しており、その表情は見えなかったが、自身に発砲したライバックの姿を見留めるとやや警戒心を露わにしていた。
「シシュ、大丈夫だよ」
「grrrr……」
唸り声を上げるシシュを宥めるエミリオ。変わらず警戒心を露わにしていたシシュであったが、やがてゆっくりとエミリオを降ろした。ライバックもやや警戒心を強めていたが、ともあれエミリオと無事に合流出来たことは喜ばしい事であると気を取り直し、エミリオへと言葉をかける。
「少尉。チャベスは……」
「……すまない」
「そうですか……残念です……」
ライバックの言葉に沈鬱な表情を浮かべるエミリオ。その表情を見て、百戦錬磨の兵士はチャベス上等兵がエミリオをその身を挺して無事に逃した事を察した。
共に戦場を渡り歩いた戦友の死に、ライバックもまた沈鬱な表情を浮かべチャベスの死を悼んでいた。
「ライバック。僕はこれ以上仲間を失いたくない。救援が来るまで何が何でも持ちこたえよう」
「はっ。少尉」
やがて顔を上げたエミリオは確りとした目でライバックを見つめる。右目は白濁としていたが、残る左目に闘志を宿らせるエミリオを見て、ライバックもまた確りと頷いた。
「ライバック。ひとまず今の状況を教えてくれ」
「はっ!」
ライバックはブラヴォ中隊が正体不明の敵により壊滅した事、コナー達が籠城できる場所を探している事や自身がブラヴォ中隊の残存兵器を集めている事を簡潔に伝える。エミリオはブラヴォ中隊が壊滅した事を聞くと、マリア・コンチータ大尉の快活な笑顔を思い出し、再び表情を暗くする。だが、直ぐに顔を上げ、ライバックへと言葉を返した。
「了解した。兎に角、救援が来るまで持ちこたえるしかないんだね」
「はい。ご覧の通り状況はかなり厳しいです。ですが、爆撃を警戒してかジャングルのエイリアンは暫くこちらへは近寄らんと思います。今の内に体勢を整えるべきかと」
「分かった。ライバック、僕達も武器捜索に加わるよ。コナー上等兵達にも連絡を入れてくれ」
「了解しました」
エミリオとライバックは短い時間で今後の方針を立てる。頼りにしていたブラヴォ中隊が壊滅した現状ではあったが、エミリオとライバックは再会した事で互いにその存在に頼もしさを感じていた。
そんなエミリオとライバックを尻目に、シシュは爆撃跡も尚燻る燃え滓を足で踏み潰していた。
「あの、ところで少尉。その、そいつは一体何者なんです?」
手持ち無沙汰を燃え滓潰しで解消していたシシュに怪訝な表情を向けながらライバックがエミリオへ問いかける。
エミリオはシシュの様子を苦笑しながら見つつライバックへと応えた。
「シシュっていうんだ。僕の……大切な“人”だ」
「は、はぁ……」
ライバックはチャベスと同じようにやや引きつった顔でエミリオを見やる。
だが、この百戦錬磨の伍長は最も重要な事のみエミリオへと確認した。
「ともかく、敵ではないのですね?」
「ああ。頼りになる味方だよ。正直、シシュがいないとこの状況は乗り切れないと思う」
エミリオの言葉を受け、シシュがふんすっと腰に手を当てその豊満な胸を張る。
乳首が露出しているのを見て、エミリオは慌ててシシュの元へ駆け寄りその大きな乳房を自身の上衣で隠した。
「シシュ、見えてるよ。隠さないとダメじゃないか。ほら、両手あげて」
「grr?」
いそいそとシシュの胸部へと上衣を巻きつけるエミリオ。シシュはエミリオの行動に首をかしげつつも、大人しくバンザイポーズを取っていた。
そんな二人の様子を見て、ライバックは漸くシシュに対する警戒を解く。
シシュに対する疑問はまだ尽きないが、それはおいおい聞いていけばいいと思ったライバックは装着していたインカムを操作し、籠城場所を捜索していたコナーを呼び出した。
「コナー、聞こえるか? 少尉と合流した」
『ライバック! 少尉が見つかったんだね!』
「ああ。まぁ、詳しくは後で話すが、少尉以外にももう一人いる」
『もう一人? チャベスはどうしたんだい?』
ライバックはコナーの言葉に一瞬言葉を詰まらせるも、直ぐにチャベスが戦死した事実を伝えた。
『そうかい……スコットには、アタシから上手く話すよ』
「助かる……。それで、籠城場所は見つける事が出来たか?」
『精錬所の連中が使ってた宿泊施設があったよ。医療ポッドは無かったけど医薬品ならしこたま見つけた。今、スコットがロスの治療をしている。パクストンが施設内を捜索しているけどエイリアンはいないみたいだよ。バリケードを組めばなんとか救援が来るまで凌げると思う』
「了解した。少尉達と武器弾薬を調達してからそこへ向かう」
ライバックはインカムのスイッチを切るとエミリオへと顔を向けた。
「少尉。コナーが籠城場所を見つけました。現場を見ないとなんとも言えませんが、なんとか救援が来るまで持ちこたえられそうです」
「了解したライバック。シシュ、武器を探すの手伝ってくれるかな?」
エミリオは上衣をシシュに巻きつけながらライバックの言葉に頷く。シシュは上衣を巻きつけられてやや窮屈そうにしていたが、エミリオの武器捜索を手伝う事をコクコクと頷いて応えていた。
残骸から使えそうな武器を探す二人の地球の海兵隊と一人の異星の狩人。
凶悪な怪物達がひしめくBG-386の精錬所にて、地球と異星の連合軍は粛々と残存武器を捜索し続けるのであった。
弟想いの、最強の姉が率いる無敵の軍団が到着するまで、後12日──
プレデターの食性が全く設定されてないっぽいのでやや蛮族ちっくな描写になっておりますが、『プレデター2』で冷凍肉ムシャムシャしてるっぽかったし別にいいかなって。