西暦2179年
惑星LV-426
開拓コロニー“ハドリーズ・ホープ”
医療研究施設診療室
「それじゃあ、ぐっすり眠るのよ。疲れたでしょう」
ジャンパーを羽織った長身の女性が、金髪の少女をベッドへと優しく横たわせる。
女性は自分の癖のある栗毛と違い、少女のさらりとした金髪を梳いていた。
「眠りたくない……怖い夢見るから……」
少女は横たわりながら不安げな表情で女性を見やる。薄汚れ、疲れ果てた少女の姿が、それまでの少女が経験した苛酷な現実を物語っていた。
女性は一瞬、考えるような素振りを見せた後、優しげに少女に言葉をかける。
「ケイシーは怖い夢なんて見ないと思うわ? どれ見せて……ほら、怖い物なんて入ってない。あなたもケイシーと同じように出来るわね?」
女性は少女が持つ胴体が無く、首だけとなった人形を手にし、その頭部内に何も入っていないことを芝居がかった仕草で伝える。
それを見た少女はやや呆れ顔を浮かべ女性へと呟いた。
「リプリー……ケイシーはプラスチックだから怖い夢なんて見ないのよ?」
「そ、そうよね。ごめんなさい」
女性……エレン・リプリーは、横たわる少女、ニュートへと苦笑しながらその柔らかい髪を撫でた。
リプリーの慈愛に満ちた手つきに、ニュートは気持ちよさそうに目を細めている。
しばらくニュートは黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「リプリー……あの怪物にもママがいるの?」
「……分からないわ。本当よ」
リプリーは困ったような微笑を浮かべる。
あの醜悪な怪物達、自分の運命を狂わせ続けたエイリアンの生態など、正直考えたくもなかった。
「赤ちゃんは皆、ママのおなかの中で大きくなるの」
「ええ。人間はね」
ニュートの言葉に、リプリーは微笑を浮かべながら応える。
少女の無垢な言葉に、凄惨な状況に置かれた現実を忘れ穏やかな気持ちを覚えたリプリーは、変わらずニュートの頭を撫で続けた。
「リプリーにも赤ちゃんはいるの?」
「ええ、いたわ。女の子がね」
「どこに?」
ニュートの素朴な疑問を受け、リプリーの表情から微笑みが消えた。
撫でる手を止め、無言で少女を見つめていたが、やがて絞り出すように言葉を紡ぐ。
「遠くに……」
リプリーは愛娘、アマンダの姿を思い浮かべる。
ノストロモ号に乗り込む際、10歳の誕生日までに帰ってくると約束した、愛娘との大切な、大切な約束。
だが、その約束は果たされることは無かった。
57年間。
リプリーがノストロモ号から脱出し、脱出艇の冷凍睡眠装置内で孤独に宇宙を漂流し続けてから、既に57年の歳月が経っていた。
愛娘のアマンダは2年前、66歳で亡くなっていた。
「死んじゃったの?」
ニュートはリプリーへ、その無垢な瞳を向ける。
「……そうだわ、良い物をあげる。お守りよ」
リプリーは誤魔化すように微笑むと、装着していた腕時計型発信機を少女に取り付ける。
これは、運命を共にする植民地海兵隊のヒックス伍長が民間人であるリプリーを気遣って渡した物であったが、リプリーはヒックスに少々悪いと思いつつもより弱い存在であるニュートへと発信機を渡していた。
発信機をニュートのか細い手首に付けたリプリーは、少女の髪をひと撫でしベッドから離れようとする。
「これで安心ね。さぁ、もう寝ましょう」
「イヤッ! 行かないで!」
ニュートはひしっとリプリーへとしがみつく。
ずっと、一人ぼっちでエイリアンの襲撃から逃れ続けてきたニュート。
やっと出会えた母親のようなリプリーの存在は、出会ってから数時間しか経っていないにもかかわらず、少女の中で大きな存在となっていた。
「大丈夫。隣にいるわ。あそこのカメラでずっと見ててあげる」
リプリーは少女を宥めつつ、診療室に設置してある監視カメラを指差す。モニタールームにはここ以外にも施設全体に監視網を敷いており、
「あなたを置いていったりはしないわ……本当に。約束する」
ニュートへ優しく微笑みかけ、決して見捨てないことを約束するリプリー。
確かな想いを込めて、少女へと慈しみを込めた眼差しを送り続けていた。
「本当に約束する?」
「神様に約束するわ」
「命かけて?」
「命かけて」
誓約の言葉を受け、ニュートは強くリプリーへと抱きつく。
リプリーも強く、強くニュートを抱き締めていた。
「お休みなさいニュート。夢はみないでね」
少女の頭にキスをし、リプリーはそっとベッドへと横たわらせる。
ニュートはおもむろにリプリーの胸を指差し、顔を下げたリプリーの鼻面を指で弾いた。
「っ、もう。悪い子ね」
悪戯をするニュートを軽く叱り、リプリーは診療室を後にする。
少女を、この地獄から救い、あの怪物達を絶滅させることを誓い、リプリーは海兵隊の
ニュートはリプリーが診療室を出てからも直ぐには眠らず、ずっと発信機を見つめ続けていた。
不思議と、発信機を見つめている間は、少女は怪物達の恐怖を感じることはなかった。
──────────────
西暦2192年
惑星BG-386
精錬所宿泊施設
「こちらパクストン。セントリーガンA、B設置完了!」
精錬所宿泊施設と精錬所外周を繋ぐ通路内にて、パクストン上等兵がインカムを操作する。
宿泊施設は爆撃があったブラヴォ中隊陣地跡地から少し離れた場所の地下に建設されており、施設内と精錬所へ至る外周部を繋ぐ通路は一本しかない。
パクストンとコナー上等兵は通路を塞ぐようにセントリーガンを設置していた。
通路の周囲は分厚いコンクリートで固められており、この通路以外を通って外部から宿泊施設へと侵入するルートは無く、設置されたセントリーガンが銃身を左右に揺らしながら未だ見えぬ敵へと照準を定めていた。
『了解。ディスプレイを起動した。射撃テストを頼む』
インカムの先からライバック伍長の声が聞こえる。ライバックは各種モニターが設置された宿泊施設内の一画にて、要塞と化しつつある施設全体を管制していた。
「よし、コナー。試射をするぞ。目標を投げてくれ」
パクストンの合図に、設置作業を共に行っていたコナーが大きめのバケツを手にする。
そのまま、勢いを付けてセントリーガンの前方へと放り投げた。
「そら! 撃ちまくれぇッ!!」
コナーの気合と共に投げられたステンレス製のバケツがセントリーガンの射線に入った瞬間、2基のセントリーガンから激しい銃撃が浴びせられ、一瞬にしてバケツは木っ端微塵になる。
設置したセントリーガンは問題なく稼働していた。
「よしいいぞ。こちらパクストン。セントリーガンのテスト完了!」
『確認した。通路のゲートを溶接して、セントリーガンC、D、E、Fの設置作業に移ってくれ』
「了解!」
ライバックとの通信を終えたパクストンは大急ぎで未設置のセントリーガンが積まれた台車を押し、ゲートの開閉スイッチを押した。
「おい、コナー。早く入れよ」
「ああ」
射線の先を睨むコナーにパクストンが急かすように声をかける。
コナーはしばらく睨むのを止めなかったが、やがて締まりつつあるゲートの下をくぐった。
「何か気になることでもあったのかよ?」
「いや……」
曖昧な返事をしつつ、締められたゲートの端を溶接するコナー。パクストンも溶接バーナーを操作しながら、コナーへと再び声をかける。
「何だよ。その言い方だと気になるじゃねえか」
「……」
尚も黙って溶接作業を続けるコナー。ジリジリと鋼鉄製のゲートを溶接する音だけが響いていたが、やがてコナーが重たい口を開いた。
「ここのゲートは突破されるだろうなって思っただけさね」
「……」
その言葉を聞き、今度はパクストンが押し黙る。
無数のエイリアンの襲撃が予想される現状、とてもじゃないがゲート前のセントリーガンだけでは防ぎきれるとは思えず。
押し黙った二人の海兵隊員は黙々と溶接作業を続けていた。
「こっちだよシシュ」
「krr」
エミリオとシシュはエントランスゲート付近で作業していたパクストン達から少し離れた場所でバリケード設置を行っていた。
共に驚異的な膂力を備えるこのコンビは、率先して重量があり常人では設置が困難なバリケードを築いていた。
昨晩、獣のようにシシュの身体を貪っていたエミリオ。
朝になり、目覚めたエミリオは互いの体液に塗れながら泥のように眠るシシュを見て、その身体を慌ててタオルで拭い、自身も身だしなみを整えた。
淫らに濡れるシシュの肉体を拭っていたエミリオは、朝ということもあり肉棒に熱が篭もるのを感じ、目の前の雌肉を再び喰らいたくなる欲情に駆られる。
しばらく悶々とシシュの身体を拭っていたが、やおら目覚めたシシュが慌ててエミリオからタオルを奪い取ると、おずおずと自分で身体を拭き始めた。
汗と性汁で濡れたシシュの肉体。筋肉質な肉体であったが、くびれた腰や張りのある大きな乳房が、体液で妖しく濡れている。
濡れた身体を拭うシシュの仕草は、その淫靡で逞しい肉体を増々強調していた。エミリオはこの異星の乙女の妙な可憐さ、そして淫靡な仕草に、増々獣欲が湧き上がって来るのを感じていた。
実はこの時のシシュは、もはや自分はセックスではエミリオに敵わないということを悟り若干ヘコんでいた。
しおらしくヘコむシシュの姿に、エミリオは得も言われぬ情欲が湧き上がり、今すぐにでもこの異星の乙女を押し倒し滾った獣欲をぶつけたくなる。
だが、朝っぱらからシシュを滅茶苦茶に犯すというのは流石に憚られ、エミリオは鋼鉄の意思で獣欲を押さえつけていた。
そんな朝を迎えたエミリオとシシュであったが、互いにギクシャクとしながらもなんとか身支度を整え、ライバック達が待つモニタールームへと向かった。
その後“防衛計画”を練ったエミリオ達。当初は未だ負傷が完治していないエミリオを気遣いライバック達はバリケード設置作業から外れるよう進言する。
だが、エミリオはライバック達の言葉を受け、おもむろに負傷した右腕だけでシシュを抱き上げた。突然のエミリオのこの行動に、ライバック達は顔を引き攣らせながら頷くことしか出来ず。
シシュの巨体を持ち上げたエミリオは確かに本調子ではなかったが、元々がこの若い士官が規格外の存在だったのことを思い出し、ライバックは苦笑いを浮かべながらエントランスと居住スペースを繋ぐ通路のバリケード設置を依頼していた。
ちなみに、いきなり抱き上げられたシシュはマスクの下で厳つい顔を真っ赤に染め、ぺしぺしとエミリオの頭を叩いていた。
「シシュ。そっち持って」
「krr」
エミリオとシシュは厚さが1メートルもある大きなステンレス鋼ブロックを、エントランスと居住スペースを繋ぐ通路を塞ぐように積み上げている。
この鋼材は精錬所に積み上げられていた建築用資材を運び込んだ物であり、耐酸性があるニッケルやクロムがふんだんに含まれた合金建材であった。
通常の建材としては異様に耐食性が強い建材が多く残されており、エミリオはその事をやや不審に思うもエイリアンの強酸性血液に有効なバリケードである事実は変わらない為、訝しみながらも鋼材を活用していた。
「っと、と……!」
「grrー!?」
持ち上げた際、鋼材の重さで少々ふらつくエミリオ。それを見た異星の乙女は即座に鋼材の下に潜り、重量挙げの如く鋼材を両手で支えた。
「grrー!」
引き締まった筋肉をしならせ、重い鋼材を持ち上げるシシュ。
しっとりと濡れた腹筋から、力強い芳香が漂っていた。
「あ、ありがとうシシュ。シシュは、力持ちだね」
「krrー!」
シシュは鋼材をそのまま勢い良く放り投げ、積み上げられたバリケードの山を高くする。
エミリオは苦笑いしながら異星の乙女の腰をぽんぽん、と優しげに撫でた。
「シシュ、コナー達が戻れるように隙間は少し空けておこうね」
「krr!」
エントランスからはコナー達がセントリーガンの射撃テストをしているのか、時折激しい銃撃音が聞こえる。
エミリオはシシュを撫でながら、ライバック達と練った“防衛計画”を思い出していた。
「セントリーガンの設置はここと、ここに。バリケードはエントランスを中心に複数設置する」
エミリオは全員と朝食をとった後、モニタールームにて施設全体の見取り図を広げながら防衛網構築を指示していた。
初めて食べたチョコバーやミルクセーキにテンションが上がったシシュを宥めつつ、エミリオは計画の内容をライバック達へ明かす。
エミリオの計画は、まず外周を繋ぐ施設ゲート前の通路にバリケードとセントリーガンを設置し、第一の防衛戦を構築することから始まる。
エイリアンが侵入した時の事も考え、エントランスに残りのセントリーガンを集中し、モニタールームへと繋ぐ通路にも堅牢なバリケードを築くのが第ニの防衛線。
更にそこも突破された事を想定し、モニタールームから先の各個人が寝泊まりする宿泊室へと繋がる通路にもバリケードを築き、最終防衛ラインを構築する。
一見手堅く見えるエミリオの計画を黙って聞いていたライバックであったが、大きな“穴”を見つけるとおもむろに口を開いた。
「少尉殿。この宿泊室の奥にある非常口にはバリケードを設置しなくていいのですか?」
「ああ。そこはいざとなったら脱出用に使いたいからね」
宿泊室の奥にある非常通路は地下の宿泊施設と地上を梯子で繋いでおり、救援隊が来た際、もしくは宿泊施設が持たない場合にはそこから脱出する手はずであった。
「しかし、そこからもエイリアン共が侵入して来る可能性が高いです。たしかに奴らは動物並の知性しか感じられないが、妙に狡猾な所もある。緊急脱出用の出口ですから開閉口は溶接もできませんし……」
ライバックはもっともな疑問をエミリオへと投げかける。
それに対し、エミリオは傍らに立つシシュの背中を叩きながらライバックへと応えた。
「シシュの罠がある。非常口にはそれを設置するよ」
エミリオがそう言うと、シシュは腰部にある収納ケースからレーザーネット発射装置を一つ取り出す。
これは高温のレーザー網を張り巡らせ、対象を焼き切る
「そんなので本当に大丈夫ですか?」
「説明するより見てもらう方が早いかな。シシュ、お願い」
シシュは頷くと装置を壁面へと投げつける。
ミシリ、と装置が壁面へと食い込む音がすると、即座に装置から蜘蛛の巣のようなレーザー網が張り巡らされた。
驚くライバック達に構わず、エミリオがそのレーザー網へとステンレス製のマグボトルを投げつけると、マグボトルは細切れとなってレーザー網の向こう側へと落ちていった。
「す、凄え……。この装置が大量にあればバリケードはいらないんじゃないですかね?」
驚愕した声を上げるパクストンに、エミリオは頭を振ってそれに応える。
「残念ながら非常口に張る分しか持ってないみたいなんだ。シシュはあまりこの手の罠は好きじゃないみたいで……」
「grr!」
申し訳なさそうにパクストンへと応えるエミリオ。その横で、シシュは何か文句でもあるのかと言わんばかりにパクストンへと低い顫動音を鳴らした。
「わ、わかったよ。わかったからそんな脅かすような声上げるんじゃねえよ……」
威嚇するシシュにパクストンは情けない声を上げながら後ずさる。何故かシシュは満足そうに頷いており、その様子を見たライバック達は苦笑しつつも、シシュが持つテクノロジーに静かに畏怖の念を抱いていた。
「よし。もう何もなければ少尉殿の計画で進めるぞ。各自作業を割り当てるから迅速に行動するように」
「了解!」
「了解しましたよ」
コナーとパクストンはしっかりと頷き、早速作業に取り掛かるべく準備を始める。
スコットは少しだけ訝しむようにシシュへ視線を向けていたが、やがてコナー達と同じように準備に取り掛かった。
「うう……みんな、ごめんなさい。役立たずで……」
ソファに寝かされたロスが申し訳なさそうに声を上げる。意識がしっかりしているとはいえ、ロスは作業に従事できる程回復しているとは言い難く。
ソファの上で落ち込むロスに、おもむろに近づいたシシュはぐりぐりとその頭を撫で回した。
「わ、わわ!」
「krr……キニシナイデ!」
思いもかけない異星人からの気遣い。エミリオ以外の全員が驚愕の眼差しをシシュへと向けていた。エミリオは微笑ましい物を見るかのように目を細めてシシュを見つめていた。
「あ、ありがとう……?」
困惑しつつ礼を述べるロスに満足そうに頷くシシュ。少しづつだが、シシュは海兵隊の兵士達と溶け込みつつあった。
微笑ましいその様子を見て、エミリオは安心したように静かに息を漏らす。
当初よりスムーズにシシュが受け入れられている事は喜ばしい事であり、この調子なら救援隊が来るまでエイリアンの襲撃に耐え凌ぐことが出来そうだと、密かに手応えを感じていた。
(シシュ……救援隊が来たら、その時は……)
エミリオは何回もシシュに対し、愛を伝えて来た。
だが、救援隊が来たら具体的にどうするかは未だに考えてはいなかった。
どうすれば、この異星の伴侶と共に居続けられることが出来るか。
何をすれば、この愛しい伴侶を守り続けることが出来るか。
エミリオは防衛計画とは別に、全てが終わった後のことについても、静かに考えを巡らせ続けていた。
愛する伴侶を、不幸にさせない一心で、エミリオはぎゅっと拳を握りしめていた。
「あぅ、あぅぅ。あ、あの、いつまで、撫でて、いるんですか?」
「krrー」
ロスのことが気に入ったのか、シシュは撫でる手を止めずぐりぐりと撫で続ける。
いい加減首が痛くなって来たロスは抗議の声を上げるも、シシュはそれを一切無視し撫でる手を止めない。
異星の乙女が見せる和やかな様子に、ライバックやコナー、パクストン、そしてエミリオは思わず笑い声を上げ、その微笑ましい光景を見続けていた。
獰猛なエイリアンの群れに囲まれ、孤立無援な極限の状況にもかかわらず、海兵隊員達の間には穏やかな空気が漂っていた。
スコットだけが、冷たい瞳でシシュを見つめ続けているのを、エミリオ達は気付くことは無かった。
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女王は、悲哀の咆哮を上げていた。
産卵管に繋がれた大きな身体を捩り、心配そうに駆け寄る親衛隊の戦士達へ理不尽に当たり散らした。
戦士達を蹴り飛ばし、体液を撒き散らし、
いつ果てるともなく続けられる女王の暴虐。
狂乱した女王の脳裏には、殺された愛娘の最期のイメージが浮かんでいた。
“お母さん! お母さん! 助けて!”
“痛い! 痛いよ……! お母さん……!”
“お母さん……たすけて……おかあさん……”
“おかあさん……さむいよ……こわいよ……”
“おかあさん……おかあ……さん……か……さん……”
ジャングルで自由に生きていた、狩人から生まれた娘。
三人の娘の内、最後に生まれた可愛い可愛い末娘。
たまに様子見で思念を送ると、“心配しないで! 私は元気にやっているから!”と愛情が篭った返事をくれた愛娘。
自分と同じようにクレーシュを作り、聖戦を戦っていた長女や次女と違い、自由にジャングルを駆け回り、同胞を増やしていた、愛しい、愛しい、愛娘。
それが、人間の雄と狩人の雌によって、無残に殺された。
許せない!
許せない!
許せないッ!!
激情に駆られた女王は咆哮を上げ、繋がれた産卵管を引きちぎらんばかりにのたうち回る。
彼女達は良心や、哀れみや、道徳という名の妄想によって眩惑されることはない。だが、遠く離れた姉妹の悲惨な最期、そして娘の無残な死に様を見せつけられた女王だけは、憤怒の感情を抑えることが出来ず、目に映る何もかもにその激情をぶつけていた。
女王の破壊はしばらく続いていたが、やがて糸の切れた人形のように唐突にその暴虐を止めた。
物陰で怯え、嵐が過ぎ去るのを身を潜めて待ち続けていた親衛隊の戦士達が、おそるおそる女王へと近づく。
感情の一切が死滅したかのように、女王は頭を垂れながら動きを止めていた。
戦士の一人が、意を決して女王へと短く声をかける。
戦士の言葉にも反応せず、女王は身じろぎ一つせず静止し続けていた。
困惑する親衛隊の戦士達。
ここまで様々な苦難があり、その都度女王と戦士達は協力して苦難を乗り越えてきた。
だが、女王がここまで取り乱した事は今まで一度も無く。
戦士達も狩人から生まれた三女の死に心を痛めていたが、自分達を導いていた女王の変わり様に、ただただ困惑し続けるしか無かった。
女王が鎮座する玉座の間、未来の子供達を産み出す産卵場が静寂に包まれる。
娘の死に黙祷を捧げるかのように、女王は沈黙を保ち続けていた。
“ママ。泣かないで”
突然聞こえてきた、女王が産んだ三人の娘の一人……次女からのメッセージ。
はっとしたように頭を上げた女王は、愛娘からの思念を受け、再びその巨躯を震わす。
戦士達は女王と次女のテレパシーを聞くことは出来ない。
だが、次女と思念を交わす内に、女王の肉体から再び活力が湧き上がってくるのを感じ取っていた。
女王は頭を振りながら呻き声を一つ上げる。
そして目の前の親衛隊に、クレーシュ全体の戦士達にその勅命を下した。
娘を、あの子を殺した人間、狩人を殺せ!
苦しみ抜いてから、無様に死ぬように殺せ!
大事なものを、愛しいものを無くす悲しみを味あわせてから殺せ!
復讐に臨むのはお前達だけではない。
私が産んだ女王の一人……次女の軍団も、お前達と共にこの弔いに参加する。
精強なる戦士達よ! 悲しみを分かち合う同胞達よ!
今こそ娘の無念を晴らすのだ!
末娘が産み育てた森の戦士達も、この鎮魂の戦いを待ちわびている!
我々は、完璧な生命体だ。
だが、無残に殺された肉親の仇を取らず、この惑星に君臨することは出来ない。
復讐を果たし、この星に棲まう我々以外の全ての生物を、殺し尽くすのだ!
女王の命を受け、クレーシュで眠っていた戦士達がその身を起こし、クレーシュの外へ駆け始める。
惑星BG-386の各地から、エイリアンの大群が精錬所へと向かっていった。