乾いた、砂の惑星。
灼熱の熱風の中、昆虫のような顔をした怪物が一人の
怪物は人型ではあったが、背中に羽根や脚のような器官を生やし、体中に小さな虫を這わせていた。
見るも悍ましい異形と対峙しているプレデターの周辺には、異形と同種の死骸がいくつも転がっており、肩に装着したプラズマキャノンはオーバーヒートを起こしたのか砲身は真っ赤に焼けている。
マスク越しに冷静に怪物の動きを見ていたプレデターは、身につけていたリストブレイドを取り出し、怪物に向けその刃を向けた。
「gshaaaaaaa!」
咆哮を上げ突進する怪物。
肉薄した怪物はヒュンッと、風を切る音と共に、プレデターの横を通り過ぎていった。
しばらくバタバタと走っていた怪物だが、見るとその頭部は存在しておらず。
首なしの怪物は20メートル程走った後、ドウと砂埃を立てながら倒れ伏した。
「grrrr……」
唸り声を上げるプレデターのリストブレイドには怪物の血液がべったりと付着しており、その足元には怪物の頭部が無造作に転がっていた。
シュッとリストブレイドを一振りし、血糊を落としたプレデターはマスク越しに周囲を見回す。
どうやら、この星にいる獲物共は全て狩り尽くしたようだ。
満足気に頷いたプレデターはリストブレイドを収納し、怪物の頭部を掴むと自身の宇宙船へと足を向ける。
「te'dqi……!」
歩きながら、プレデター……クリーナーは、この程度の獲物に不覚を取った氏族の戦士達の情けなさに毒づいていた。
氏族の戦士達の力量は、自分が知る昔の戦士達に比べ遥かに劣っている。
少なくともほんの200年前までは、この程度の獲物に不覚を取る戦士はおらず、逆にこの獲物を生きたまま捕獲して猟場へと放すツワモノもいた。
クリーナーは手にしている獲物の頭部を見て、一つ溜息を吐く。
この獲物のトロフィーは、果たして持ち帰る価値があるのだろうか。
あの“
その脆弱な存在に殺された氏族の戦士は、まだ成人の儀式を終えてない若者だったとはいえ、あまりにも不甲斐ない。
クリーナーは過去に存在した強者、自分の師匠である先代クリーナーを思い出した。
先代は獲物との戦闘で片目は失明し、爪上口器の一つは千切れていたが、彼は間違いなく当時の氏族では最強の存在であった。
あの青い惑星で志半ばで倒れた先代。後を継いだ自分は、果たして先代と同じくらい強くなれたのだろうか。
マスクの下で、クリーナーは自嘲気味に口器を上げる。
結局、自分も若い戦士達を笑えないなと、戒めの心を強くしていた。
「grrr……」
クリーナーは隠してあった宇宙船の場所まで行くと、宇宙船に施された
紫電と共に現れた宇宙船のハッチが開くと、クリーナーは跳躍して船内へと乗り込んだ。
操縦席へと座り、獲物の頭部を無造作に置くと、クリーナーはようやく人心地がついたように緊張を緩めた。
操縦パネルを操作し、宇宙船の自動操縦を起動したクリーナーは、しばらくまんじりと座席の上で寛いでいた。
ちらりと獲物の頭部を見て、トロフィー作成は帰ってからでもいいかと、座席に深く腰をかけながらぼうと思考する。
近頃は自身を滾らせる獲物はなく、仕事に対し少しばかり倦怠感を感じていたクリーナーは、そのままマスクを付けたまま微睡んでいた。
「……?」
宇宙船が離陸し砂の惑星を離れ宇宙空間に出ると、操縦パネル上にホログラムが浮かぶ。
ホログラムには緊急事のメッセージが表示されていた。
休む間もなく駆り出されることを想像し、うんざりしつつもクリーナーは身を起こしてそのメッセージに目を通す。
「……!」
クリーナーは短いメッセージの内容を見て、それまでの倦怠感が一気に吹き飛ぶのを感じてた。
メッセージの内容は、氏族の墳墓を奪還すべくクリーナーにも出動するようにと、エルダーからの直々の指令が表示されていた。
メッセージを読み終えたクリーナーは即座にパネルを操作し、宇宙船の進路を氏族の墳墓がある惑星へと向ける。
目的地までは10日程かかり、しばしの休息の後再び始まる“狩り”に備え、クリーナーは改めて座席に深く腰をかけた。
瞑目しながらクリーナーはふと、墳墓がある惑星にはあの愛弟子も向かっていた事を思い出す。情けない氏族の戦士達よりも遥かに頼りになる愛弟子がいても尚、エルダーは応援を要請していた。
ということは、余程手強い“獲物”が墳墓にはいるのだろうか。
クリーナーはまだ見ぬ強敵を想い、それまで気だるく萎えていた闘争心に再び火が灯るのを感じていた。
それと同時に、あの妹のような存在でもある愛弟子の安否も気になり、闘争心と共に妙な胸騒ぎも感じていた。
「Shesh……」
愛弟子であり、妹分でもある女狩人の名前を、クリーナーは静かに呟いていた。
──────────────
惑星BG-386
精錬所宿泊施設
モニタールーム
「これで、持つといいんだが」
バリケード設置、セントリーガン設置を終え、ライバック達はモニタールームに集合し、疲れた表情を浮かべつつもとりあえずの安全を手に入れたことで互いにほっとした表情を浮かべていた。
「少尉達はまだ“罠”を張っているのかい?」
この場にいないエミリオとシシュに、コナーが気遣うように声を上げる。
バリケード設置の最後の仕上げに、エミリオとシシュは非常通路でレーザーネットの設置作業を行っていた。
「ったく、底なしのスタミナだよな少尉とシシュちゃんは……」
パクストンが椅子にもたれかかりながら呆れたように声を上げると、ライバック達はそれに同意するかのように頷いた。
常人ではとても持ち上げられない資材を軽々と持ち上げ、瞬く間に強靭なバリケードを設置したエミリオとシシュ。
特に負傷を感じさせないエミリオの体力とその腕力は、正しく驚異的の一言につきた。
もっとも、疲労した状況にもかかわらず獣のように激しく交わる事が出来る二人の底なしの精力については、ライバック達は気付く事は無かったのだが。
「そろそろ戻ってきてもいいとは思うがな。誰か様子を見てきてくれないか」
「じゃあ私が見てくるわ」
ライバックの言葉を受け、スミスが非常通路へと向かうべく腰を上げる。
表情は普段と変わらないが、その瞳にはやや暗い光が灯っており、ライバックは少々訝しみながらもスコットへ頷いた。
「ああ。頼んだ」
ライバックはスコットの後ろ姿を見つつ、少しだけ心配そうに呟いた。
「スコットは大丈夫か……?」
ライバックの言葉に、コナーもまた心配そうに口を開いた。
「チャベスの事、まだ引きずっているのかも……」
そう言葉を述べるコナーは、宿泊施設に来てからスミスが時折悲しげにチャベスのお守りを見つめているのを目にし、同情の念を抱いていた。
自身も相棒ともいえるクルス一等兵を亡くしており、長年連れ添った戦友の、それも想いが通じ合った相手を亡くした悲しみは理解出来た。
少しばかり沈鬱な雰囲気が漂い、海兵隊員達は一様に口を噤む。
だが、やがてパクストンが鬱屈した雰囲気を変えるべく快活に声を上げた。
「そういえば言ってなかったけどよ、どうやらこの施設には“ジャパニーズ・バス・ユニット”があるみたいだぜ。バリケードも設置したし、せっかくだから交代で疲れを癒すことにしようや」
パクストンの一声に、ライバックやコナー、そしてロスまでもが色めきたつ。
日系企業であるウェイランド・ユタニ社が保有する施設には随所に日本文化が取り入れられており、この宿泊施設には日本文化の典型である風呂、つまり大浴場が備えられていた。
ウェイランド社が関わる様々な施設、備品には漢字や片仮名、平仮名が書かれた物もあり、これらは22世紀の現在では広く普及していた。
ちなみに和式便器については本家本元の日本ですらとっくの昔に廃れている。
「一番風呂は俺が入るぜ! こういうの“エドッコ”って言うんだよな!」
一人はしゃぐパクストンを、コナーがやや冷めた視線で見やる。
「あんたみたいな出歯亀ドブ虫ゴミ助平丸の後に入ったらイカ臭くて堪らないよ。レディ・ファーストだろこういうのは」
「ただの悪口じゃねえかそれ……ていうかレディて。メスゴリラの間違いじゃ」
「なんか言ったかい?」
「なんでもありません、上等兵殿!」
パクストンは妙にかしこまった調子でコナーへと応える。
コナーは溜息を吐きつつライバックへと視線を向けた。
「そういうわけだからアタシから先に入らせてもらうよ」
「ああ、分かった。エイリアンの襲撃があったらすぐに出てこいよ」
「ライバック、あたしに素っ裸でバケモンと戦えっていうのかい?」
「得意だろ?」
「バカタレ」
ライバックを小突きつつ、コナーは浴場へと向かうべくモニタールームを後にする。
途中、「メスゴリラの裸とか魔女の婆さんのファックの方がまだマシだぜ」と呟いたパクストンに強烈なボディブローをぶちかましていた。
「いいなぁ、お風呂……」
意気揚々と浴場へ向かうコナーを、ロスが羨ましそうに見つめる。
怪我が完治していない現状では、ロスが湯船に浸かることは土台無理な話であった。
羨ましそうに見つめるロスに、脂汗を浮かべつつ痛そうに腹をさすっていたパクストンが、ややゲスな笑みを浮かべながら声をかけた。
「ロス、俺が入浴介助してやろうか?」
「……変態ナマコ小僧が」
辛辣なロスの言葉に、パクストンは殴られた腹に痛みが増していくのを感じていた。
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宿泊施設
非常用通路内
ブンッと、レーザーが起動する音が響く。
非常用通路内でレーザーネットの設置作業を行っていたエミリオとシシュ。通路内から地上の開閉口へと至る梯子を登りながら複数の装置を設置し終え、するすると下に降りてきたエミリオを確認したシシュが装置を起動すると、エミリオはその驚異的なテクノロジーに驚嘆の声を上げた。
「やっぱ、シシュは凄いね。頼りになるよ本当に」
「grr!」
ふんす、と大きな乳房を強調しながら得意げに胸を張るシシュ。
頼もしくもどこか可愛げのある異星の乙女の様子に、エミリオは苦笑しながらその頭を撫でた。
「シシュは、頼りになるお嫁さんだね」
「krrー……」
エミリオへ擦り寄り、シシュは甘い顫動音を鳴らしながらマスクの下でだらしなく表情を崩す。
エミリオにこうして撫でられることが、シシュにとって最も至福の時間であった。セックスの時はまた違う至福の時間でもあったが。
「シシュ……ひとつだけ、約束してほしいことがあるんだ」
「krr?」
エミリオはシシュを撫でながら優しげに言葉を紡ぐ。シシュは、マスクの下で不思議そうな表情を浮かべていた。
「これからエイリアンの襲撃を皆で団結して凌がなきゃならない。だから、ロス以外とも仲良くしてね」
「……krr」
エミリオの言葉に、シシュはしばし考えるような素振りを見せるも、やがてこくりと頷く。
正直、シシュにとってエミリオ以外の人間はどうでも良い存在であり、ロスに対して見せた優しさも捕食者が持つ一種の気まぐれであった。
だが、この愛しい雄が大切にしている存在は、番である自分にとっても大切なことは事実であり。
シシュが頷いたのを見て、エミリオは微笑を浮かべてその頭をきゅっと抱きすくめた。
「良い子だね」
「grrー……」
シシュはエミリオにべったりと密着し、思う存分に甘えたい衝動に駆られる。だが、マスクや身に付けたプラズマキャノン等の装備が邪魔をして愛しい雄にそれ以上くっつくことが出来なかった。
もどかしさを感じたシシュは不満げに唸り声を一つあげる。
「シシュ?」
だからというのか、シシュはおもむろにエミリオの股間へと手を伸ばし、やや乱暴にカーゴパンツ越しにペニスを擦った。
「シ、シシュ!」
「grr!」
分かり易いシシュの発情に、エミリオは上ずった声を上げる。マスク越しでも伝わる程、シシュの顔は上気していた。
「だ、だめだって!」
「grr……! grr……!」
身じろぎしながらシシュの手を掴むエミリオであったが、シシュは構わずふうふうと息を荒くしながらその下腹部に手を伸ばす。
調子に乗るとまたエミリオに無茶苦茶に犯されるかもしれない。素直に言うことを聞くことが、それを回避出来る唯一の手段であることをシシュは理解していた。
「あ、シシュ……!」
「grrrr……!」
だが、シシュはエミリオに滅茶苦茶にされたい願望が勝り、あえて言うことを聞かずにいた。
マスクの下で、淫らな期待から増々だらしなく表情を崩す異星の雌狩人は、愛しの雄の股間をまさぐるのに夢中になっていった。
「はぁ、はぁ……シシュぅ……!」
「gkyurrrr……!」
切なげに吐息を漏らすエミリオに、シシュは喘ぐような声を上げ、陶然とした表情を浮かべる。カーゴパンツ越しに伝わるエミリオの火のような熱量に、異星の雌は完全に発情してしまった。
辛抱できなくなったシシュは直接その熱棒を口内へと収めるべく、マスクの管に手をかけた。
vi! vi!
突然、シシュが装着するコンピュータガントレットから電子音が鳴る。
その音を聞いた瞬間、シシュはピタリと動きを止めた。
「はぁ、はぁ……シシュ……?」
荒い吐息を吐きながら、エミリオは急に動きを止めたシシュを心配そうに見つめる。
シシュは黙ったままエミリオの傍から離れると、そのままスタスタと歩き始めた。
「あ、シシュ……」
「コナイデ」
追いかけようとしたエミリオへ、シシュは無機質な声で遮る。
乙女の突然の拒絶に、エミリオは悲痛な表情を浮かべていた。
シシュはエミリオの表情を見て一瞬戸惑うも、そのまま踵を返してエミリオの前から姿を消した。
「シシュ……」
残されたエミリオは、しばらく呆然とその場に立ちすくんでいた。
「grrr……」
エミリオから離れたシシュは、宿泊施設内の資材置き場として使用している一室へと入り、誰もいないことを確認するとコンピュータガントレットを操作する。
やや苛ついた声をあげ、エミリオを悲しませた元凶であるガントレットを憎々しげに睨むも、愛しい伴侶との逢瀬を中断せざるを得ない理由が存在した。
ガントレットからは、母船からの“緊急指令”を示すシグナルが表示されており、氏族の戦士であるシシュは戸惑いながらもそれを確認していた。
「……!」
ガントレットから電子音が響くと、精巧なホログラム映像が投影される。
映像にはシシュ達の氏族の母船が表示され、その下にはシシュ達の氏族の言語が添えられてた。
シシュは表示された文字を、フルフルと震えながら読み進める。
異星の乙女は母船からのメッセージを、ただ震えながら読み進めることしか出来なかった。
やがてホログラム映像は途切れ、ガントレットは通常の状態に戻る。
シシュは映像が終わっても尚、項垂れたまま震え続けていた。
母船からの通達。
その内容は、この惑星にシシュと同じくエイリアン……シシュ達の言葉でいう“
生き残っている戦士達へ、数日後には母船の降着場所へと集合するように通達がされている。
恐らく、氏族の戦士達を集中させて一気に墳墓を奪還し、人間とサーペントを皆殺しにする腹積もりなのだろう。
エルダーの娘でもあるシシュは、その命令に従う義務があった。
シシュは自分の肩を抱き、膝をついて震えていた。
嗚咽にも似た鳴き声が、無機質なマスクの下から漏れ出ていた。
離れたくない。離れたくない。
愛しい、愛しいエミリオと、離れ離れになりたくない。
シシュは氏族の使命を決して忘れ去っていたわけではない。
ただ、目の前の現実から目を背けていただけだ。
呑気にエミリオとの逃避行を考えていたことが、耐え難いほど愚かな発想であったことを乙女は今更痛感していた。
エルダーが、氏族が持つ武力はここの人間達やサーペント共のそれとは比べものにもならない。
氏族の使命から逃れた“悪しき血”は、必ず粛清される運命にある。
そして、恐らく自分を“狩り”に来るであろう刺客は、自分に狩りの何もかもを教えたあの“クリーナー”であることは想像に難くなかった。
シシュはそこまで考え、震えながらエルダーからの通達を反芻していた。
どうすればいいのか、乙女にはもう何もわからなくなってしまっていた。
ただ、エミリオの優しい笑顔だけが、シシュの脳裏に浮かび続けていた。
悲しみに打ち震えるシシュを、扉の隙間からスミスが氷のような視線を向けていた。
──────────────
「少尉殿。顔色が優れないようですが……」
モニタールームへと戻ってきたエミリオを見て、ライバックが気遣うように声をかける。
幽鬼のような表情を浮かべていたエミリオは、ライバックへと力なく言葉を返した。
「ああ、ちょっとね……」
要領を得ないエミリオの言葉に、ライバックは増々心配そうに若き少尉へと視線を向ける。
その様子を横で聞いていたパクストンが茶化すように声を上げた。
「大方シシュちゃんと喧嘩でもしたんでしょう? 夫婦喧嘩は犬も食わないってジャパンのコトダマにもありますし」
ニヤニヤと口角を上げるパクストンに、ライバックはたしなめるように声を上げる。
「おいパクストン、少尉殿にそういうジョークは──」
「いや、いいよライバック。パクストンの言うとおり、シシュを怒らせてしまったようなんだ。でも、なんで急にシシュが怒ったのか、僕には見当がつかない」
力なく項垂れるエミリオを見て、パクストンはニヤついていた笑みを消した。
「少尉、シシュちゃんは俺達とは違いますからね。そりゃあ何が癇に障ったかなんて見当もつかんでしょうよ」
「……」
パクストンの指摘に、エミリオは沈鬱な表情を浮かべる。
シシュは人間ではなく、異星人だ。
容姿も、文化も、思想も、モラルも、何もかもが違う。
「ま、チョコバーでも持ってご機嫌取りに行くしかないと思いますよ。俺の分まで食っちまうくらい気に入ってましたし」
「……そう、だね」
おどけた様子で肩をすくめるパクストンを見て、エミリオは少しだけ笑みを浮かべる。
シシュに嫌われたとは思いたくはなかったが、彼女の現金な性格を考えたら食べ物で釣るのは妙案に思えた。
(どちらにせよ、話をしないと分からないな……)
エミリオはパクストンの不器用な気遣いに感謝しつつ、改めてシシュと話すべくモニタールームから離れようとした。
「ああ、少尉殿。そういえばこいつを渡すのを忘れていたました」
立ち去ろうとするエミリオに、ライバックが声をかける。エミリオはライバックから手渡された物を見て首をかしげた。
「ライバック。これは何だい? 腕時計のように見えるけど」
「発信機です。この受信機で位置が分かります」
ライバックは棒状の受信機を取り出しながらエミリオへと説明を続ける。
腕時計型の発信機からの信号を受信し、対象が近づくにつれ受信機が発する音が大きくなる仕組みだった。
「簡易ディスプレイでおおよその方向と距離が分かります。持っててください」
「ライバック。僕には必要ないように思えるんだけど……」
逡巡しながら発信機を返そうとするエミリオに、ライバックは手を振りながら制した。
「いえ、少尉殿が持っててください。正直、またジャングルの時みたいな事をされちゃかなわんですからね」
ライバックの言葉を受け、エミリオはやや恐縮したように頭を掻く。見ればパクストンやロスも咎めるような目でエミリオを見ており、この若い少尉がまた無茶をして無謀な行動に出ることを心配していた。
エミリオはライバック達の視線を受け、ため息をひとつ吐き腕時計型発信機を装着した。
「了解した。でも、僕が行方不明になっても探そうとせず自分の身の安全を優先してくれ」
「そいつは命令ですか。少尉」
「命令だよ。ライバック」
不服そうに顔をしかめるライバックを背に、エミリオはシシュを探しにモニタールームを後にした。
「あら。少尉。こちらにいらしたのね」
エミリオがモニタールームから出ると、丁度シンシア・スコット一等兵が寝室から出てきた。
見ると、スコットの後ろには俯きながら佇むシシュの姿もあった。
「シシュ! 急にいなくなったから心配したよ」
スコットに構わずシシュへと駆け寄ろうとするエミリオ。だが、スコットがそれを手で制した。
「少尉。これからシシュとお風呂に行くんです。“お嫁さん”が大事なのは分かりますが、少しシシュをお借りしますね。女同士で親睦を深めようかと思って」
「え、あ、ああ。了解した……」
妖しい笑みを浮かべながら、有無を言わせないスコット。シシュは夢遊病患者のようにスコットに手を引かれており、エミリオはただ困惑した様子でそれを見ているしかなかった。
「ではまた。少尉、シシュちゃんにこれから身だしなみも気を使うように言ってくださいね。ちょっと臭いますよ彼女」
「あ、り、了解した」
無抵抗に連れ去られるシシュに、エミリオはただ茫然と立ちすくむのみ。
スコットの表情は、エミリオからは見えなかった。
──────────────
「おや。スコットにシシュちゃんじゃないか」
浴場の脱衣所にて、コナーがスコットとシシュへと声をかける。
スポーツブラとスパッツのみを身に着けていたコナーは、風呂上りなのかしっとりと濡れた短髪から湯気が上っている。
逞しく割れた腹筋には所々傷跡が残っており、コナーもまた歴戦の海兵であることを伺わせていた。
「コナー。お風呂どうだった?」
「中々よかったよ。一人で入るにはもったいないくらい広かったし」
コナーはスコットの後ろに黙って佇むシシュへ訝しげな視線を送りつつも、望外に上等だった風呂の状態をスコットへと語った。
「そう。それは良かったわ。これから、私達もお風呂に入ろうと思ってたの」
薄く笑うスコット。尚も黙ったままのシシュを訝しみつつ、コナーはスコットへと視線を向けた。
「あんたは良いとして、シシュちゃんは風呂の入り方が分かるのかね?」
「だから私が一緒に入るのよ。あなたももう一回入る?」
上着を籠に入れ、カーゴパンツを脱ぎながらスコットがコナーへ妖しい視線を返す。
コナーはなんともいえない表情を浮かべながら、未だにぼんやりと立っているシシュへと声をかけた。
「シシュちゃん。風呂に入るなら、身に着けてるもん全部ここに置きな」
「grr……」
シシュはコナーが指差す籠をマスク越しに見つめる。エミリオ以外の人間の前では無防備な姿を晒したくないシシュは、やや警戒するかのように後ずさった。
「シシュ。脱ぎなさい」
唐突に、スコットの底冷えするような声が響く。
ビクッと肩を震わせたシシュは、少し戸惑うも、やがて装備の一つ一つを外し、籠の中へと入れていった。
「大丈夫よ。あなたの装備に悪さする人なんてここにはいないわ。そんなことしたら少尉が黙っていないでしょうし」
既に裸になったスコットがシシュへと近寄り、網状のボディスーツを脱ぐのに手を貸す。
スコットの乳房はコナーやシシュよりも小さかったが、張りのある乳首や兵隊らしく引き締まった身体が妖しい色香を放っていた。
コナーはスコットの様子に訝し気な視線を送っていたが、大人しく装備を脱ぎ、裸になったシシュがマスクに手をかけ、露わになったその厳つい顔を見ると思わず身構えた。
「な、なんだか……話に聞く以上に個性的な顔だね」
「そう、ね……」
「……」
黄土色の体色に、爬虫類のような鱗や模様を備えたシシュの肉体。そして節足動物のような大きな顎に、2対4本の爪上口器が、シシュの異形の面相を強調していた。
コナーとスコットは厳つい異星の乙女の風貌に、本能的な恐怖を覚える。
シシュは顔を引きつらせているコナー達を全く見ようともせず、相変わらず消沈した様子で口器を閉じていた。
だが、長い睫毛を垂らせシュンとしているシシュを見たコナーは、その様子を餌にありつけず落ち込んでいるライオンのようだと思い、先程覚えた恐怖心がいささか和らいでいくのを感じていた。
一息ついたコナーは、シシュを励ますようにその肩に手を置く。
「何を落ち込んでいるのかしらないけどさ、とりあえずひとっ風呂浴びればスッキリするよ」
「そうよシシュ。さあ、風邪引いちゃう前にお風呂に入りましょう」
「……」
シシュの肩をポンっと叩きながら、コナーは気遣う様に声をかける。その横でスコットはシシュの手を引き、浴室へとやや強引に引っ張っていった。
手を引かれ、トボトボと浴場へ向かうシシュの後ろ姿は、得も言われぬ哀愁が漂っていた。
「あんなにしおらしい子だったかね……」
コナーは少々首をかしげなからも、手早く上着とカーゴパンツを身に付け、トレードマークのバンダナを巻き直すとライバック達がいるモニタールームへと向かっていった。
「これで、二人っきりになれたわね」
「……」
浴室に入ったスコットはおずおずとついてきたシシュに向けニコリと微笑みかける。
だが、シシュを見つめるスコットの瞳のハイライトは消えており、ただ無機質な視線をシシュへ向け続けていた。
「とりあえずそこに座りなさいな。背中を流してあげるわ」
スコットはシシュを風呂イスに座らせ、手にボディソープをつけシシュの背中を妖しく撫でた。
「krr!」
「動かないでね」
ヌタヌタとシシュが泡に包まれていく。シシュは初めて味わう界面活性剤の感触にびくっと身体を震わせるも、スコットが背中に手を這わせるのをただ大人しく受け入れていた。
「凄い身体ね……人間とあまり変わらないように見えるし、興味深いわ……」
シシュの黄土色の体色で彩られた筋肉質な肉体に、スコットは興味深そうに視線を這わせる。
まるで視姦するかのような、ネットリとしたスコットの視線。シシュは背中から悪寒が走るのを感じていた。
「grr!?」
「動かないで」
逃れようとするシシュを押さえつけるスコット。本来、シシュの膂力ならスコットを跳ね除けるのは容易い。
だが、シシュは身じろぎしながらスコットを跳ね除けることはしなかった。
「grr!?」
スコットの手が、シシュの胸へと回される。
ボディソープによってテラテラと濡れたシシュの乳房。それを強めに掴み、揉み回すスコットの表情は、嗜虐的な愉悦に満ちていた。
「kyu……kyuu!」
シシュの突起した乳首をつまみ、ギリッと捻り上げるスコット。シシュはぎゅっと目を閉じ、この女兵士の暴虐をただ耐えることしか出来なかった。
「ふふ……本当、人間の女のような反応するのね……バケモノのくせに!」
「kyu!?」
スコットはつまみ上げていた乳首から手を離し、そのままシシュの陰部へと手を伸ばす。
中指を強引にヴァギナへと捩じ込み、グチュリ、とシシュの陰裂を侵略した。
「kyu、kyuu……!」
シシュは目と口器をきゅっと閉じて耐えている。異星の乙女は、愛しの雄との約束を健気に守り続けていた。
理不尽に自分を蹂躙するスコットであったが、それでもこの人間の雌はエミリオの仲間だ。
グチッグチッと、スコットの指がシシュの陰裂を掻き回す。
シシュは快感を感じることはなく、ただ不快感だけが下腹部から湧き上がっているのを感じていた。
「あなた、一体なにを企んでいるの?」
指を動かしながら、スコットが冷たい声色で呟く。
資材置き場では、シシュを探しに来たエミリオのせいであれ以上問い詰めることは出来なかった。
「あなた以外にも仲間はいるの?」
「g……grr……!」
ギチ、ギチと乱暴にヴァギナへと指を出し入れするスコット。
問い詰めるその声色は、凍りつくような冷たい温度を放っていた。
「あなた達が、アスタミューゼを沈めたの?」
「grr……!」
陰核をギリッと捻る。シシュは痛みと羞恥に耐え、その大きな身体を震わせる。
スコットの問いかけに否定も肯定も出来なかったシシュは、母船からの通達を見られてしまった迂闊さを呪い、ただ耐える事しか出来なかった。
「あなた達が、あのバケモノを解き放ったの?」
「kyuuッ!」
身じろぎして逃れようとするシシュの乳首を、スコットは強めに抓る。
ヴァギナを蹂躙していた手を離し、両手にてシシュの乳首を同時に捻り上げた。
「gkyuuuu!!」
堪らず、シシュは嬌声めいた唸り声を上げる。
エミリオの、愛しい雄以外の手によって与えられた
「あなた達が……あなたが、リチャードを殺したの?」
スコットは怨念を吐きながらシシュの乳首を蹂躙する。その表情は般若の様な怨嗟に満ち溢れていた。
ギチリ、と、爪がシシュの乳房に食い込む。緑色の蛍光塗料のような血液が、シシュの乳房からにじみ出ていた。
それまで理不尽な暴虐に耐えていたシシュであったが、己から流れる血を見た瞬間、カッと頭に血が上った。
「grraaッ!!」
「キャアッ!?」
シシュは咆哮を上げ、シコットを強引に振り払う。
爪上口器が大きく開けられ、怒りで肩を震わせながら、倒れたスコットを見下ろしていた。
「馬脚を現したわね……!」
「grrrrr……!」
倒れながらもスコットは挑発的な視線をシシュへと向ける。
両者の視線が交差し、その間には火花が散るかのような熱い空気が流れていた。
しばらく睨み合っていた両者であったが、やがてスコットがシシュから視線を外し、面白くもなさそうに口を歪めた。
「冗談よ……」
「……」
尚も警戒するシシュに構わず、桶から湯を汲み、自身の身体にかけたスコットはそのまま湯船へと入った。
「でも、これだけは覚えておきなさい」
温かい湯の中で、スコットは底冷えするような声を上げる。
シシュは未だにスコットへ鋭い視線を向けていた。
「救援隊が来たら、あなたは少尉の前から姿を消しなさい」
「……ッ」
スコットの一言を受け、シシュは驚愕と、恐怖と、慟哭がないまぜになった表情を浮かべる。
その表情を見て、スコットは自分の捻くれた復讐を成し遂げたのを感じ、溜飲を下げるかのように薄ら笑いを浮かべていた。
ただの八つ当たりというのはスコット自身も理解している。だが、想いを通じ合ったチャベスとの死別は、この凄惨な状況下に耐えるスコットの精神を十分に歪ませていた。
「少尉とあなたは“違う”のよ……それに、軍は少尉ほど優しくは無いわ」
「……」
続くスコットの一言。それは、残酷なまでの現実を直視させられ、シシュは握りしめた拳をふるふると震わせた。
全てが終わったら、エミリオと二人で愛の逃避行に望むつもりだったシシュ。
人間共の軍隊から逃げ切るのはシシュにとって容易い事であったが、氏族の追手から逃れるとなると、いくらエミリオやシシュが手練れとはいえ到底無理な話であった。
いや、並の戦士ならば返り討ちにする自信はある。
だが、追手があのクリーナーだったら……
シシュは震わせていた拳を浴室の壁面へと叩き込み、肩で息をしながらぎゅっと目を閉じていた。
異星の乙女のやるせない想いが乗った剛拳により、壁面のタイルは破砕され大きな穴が空いていた。
シシュが元来持っている暴力を目の当たりにしたスコットは息を呑むも、そのままフラフラと浴室から出ようとするシシュへ皮肉めいた口調で言葉を向けた。
「泡ぐらい流していったら?」
「……」
ボディソープの泡を付けたまま、シシュはそのまま浴室から出る。
一人残されたスコットはしばらくは勝ち誇ったかのように笑みを浮かべていたが、やがて沈鬱な表情を浮かべ呟いた。
「リチャード……」
温かい湯に浸かりながら、スコットは嗚咽を噛み殺すようにチャベスの名前を呟き続けていた。