USA
バージニア州ノーフォーク
植民地海兵隊総軍司令部
「来客?」
デスクにそなえつけられたテレフォンスタンドに来客を告げる音声が流れる。
忙しなくデスクワークをこなしていた植民地海兵隊フランクリン・カービィ准将は、怪訝な表情を浮かべつつ秘書官に言葉を返した。
「本日の来客予定は無かったはずだが」
『申し訳ありません。こちらもアポイトメント無しの来客だったので断ろうと思ったのですが、その……』
電話越しに躊躇いがちにカービィ将軍へ応答する秘書官の女性。突然の来客対応にはそれなりに経験値があるはずの彼女であったが、ここまで躊躇するのは珍しいことであった。
尚も訝しみながら続きを促すと、秘書官の口から意外な名前が出る。
『クロサワ、と言えば分かるとの一点張りで』
「ッ!? 直ぐにお通ししろ! それから、応接中は誰も通すな!」
『は、はい。承知致しました』
通話を切り、慌てて書類を整理し応接準備を整えるカービィ准将。
一通りの準備を整えた直後、件の人物が快活な空気を纏わせながらカービィ准将の前に現れた。
「よう、フランク」
「マスター! どうして!」
立ち上がり驚愕が混じった声を上げるカービィ准将に、フレンドリーに話しかける一人の老人。
その出で立ちは革のジャケットにジーンズで、オールバックの白髪頭、彫りの深い顔立ち、蓄えられた豊かな髭、鷹の目のような鋭い目つきを備えている。老人の立ち振舞いは壮年男性のそれと比較しても矍鑠としており、実年齢よりも若い空気を纏わせていた。
「なに、ちょいと野暮用で近くまで寄っただけだからな。弟子の様子を見るのは師匠の努めだろ?」
「はぁ……」
カービィ准将のデスクの向かいに備えられた応接用の椅子に腰掛けるマスターと呼ばれた老人。
戸惑いつつも、カービィ准将は水指しから来客用の飲料水をコップに注ぎ老人に差し出す。無言でコップを受け取った老人はぐいと水を飲み干すと、太く熱い息を吐き出した。
人心地ついた後、カービィ准将は旧交を温めるかのように老人へ言葉をかけた。
「そういえばキングコブラに噛まれたという噂を耳にしましたが、存外に元気そうですな。本当に噛まれたので?」
「ああ、噛まれたよ。その後5日間苦しみのたうち回って──」
老人はジャケットの裾を捲くる。すると、明らかに蛇に噛まれたと思われる生々しい傷跡が現れた。
「コブラが死んだ」
腕を捲りながら、老人は諧謔味のある笑みをカービィ准将へ向ける。それを受け、カービィ准将は引きつった笑みを浮かべながら自身の椅子に座ることしか出来なかった。
「……マスター・クロサワの伝説に陰りはありませんな」
「いや、近頃は調子悪いよ。腰も痛えし字は見え辛くなってるし。もう年だな」
マスター・クロサワ。
本名は黒澤剛三。
日本から帰化したアメリカ人。そして、古武術黒澤流を継承する武術の達人。
世界中の軍隊や警察の特殊部隊、更にPMCやフリーランスの傭兵、企業のセキュリティーサービス、はては非合法の犯罪組織やテロリスト、惑星植民地を根城とする海賊集団にまで弟子を持つ伝説の武人。
暴力を生業とする全ての裏の人間が知る伝説の存在は、その経歴に見合わなぬ柔らかな物腰でカービィ准将へ相対していた。
「マスター。貴方はとっくに引退した人間だ。その貴方がここに来るというのは、何か重要な話があってのことではないですか?」
カービィ准将は居住まいを正しながら鋭い視線でクロサワを見る。
事実、引退してからは半ば世捨て人のような生活を送るクロサワが、ここ植民地海兵隊の本部、それも情報組織を統括する自身に何も用件が無く会いに来たとはとても思えず。
カービィ准将の言葉を受け、ポリポリと後頭部を掻いたクロサワはそれまでの笑みを消すと、カービィ准将よりも鋭く、射抜くような視線を返した。
「“スターゲイザー”が動いているぞ」
「ッ!?」
クロサワの口から語られた“スターゲイザー”という言葉。
カービィ准将はその“組織”を多少なりとも知っており、予想外のその名前に動揺を隠せずにいた。
「お前さんが今進めているウェイランド社の追い出しは、ちと派手に協力者を募りすぎたな。おかげで世界中のその筋が大凡の話を知っているぜ」
「それは折込み済みです。我々の決意表明でもありますから。しかし、マスターも大体のことはご存知のようですな」
「まあな。本当は関わるつもりはなかったんだが、孫の命がかかっているとなればそうもいかねえ」
マスター・クロサワの実孫、エミリオ・クロサワ。
彼がBG-386に派遣された部隊にいる以上、いつかはクロサワが自身を訪れるとカービィ准将は予想はしていた。
だが、かの口から語られた組織の名は、さすがのカービィ准将も予想することは出来ず。
顎に手を当て、深く体を沈ませながら椅子を軋ませるカービィ准将。これから起こり得る様々な事態に対処するべく、その頭脳を働かせていた。
「しかしスターゲイザーとは……」
「21世紀の頃に比べたらだいぶ規模は縮小しているがな。その分ディープな性格になっちまってるらしいが。まあ奴らが動いているってことは、お前さんが思っている以上にこの件は深刻だってことだ」
「彼らが動いたということは、やはり“ハンター型異星人”が絡んでいるということですか?」
「だろうなぁ。俺もそこまで詳しくは知らねえけどよ。ただなぁ……」
クロサワはカービィ准将と同じように椅子に深く腰を落とす。憂いを帯びたその表情を、カービィ准将へ向けた。
「このままじゃエミ坊もリンのバカタレも、無事に帰ってくる保証はねえってことだ」
BG-386へ向け出撃した第13独立部隊。
その中核を成す一騎当千の強者であるリン・クロサワ中尉。彼女もまた、マスター・クロサワが手ずから育てた弟子の一人であり、愛すべき孫でもあった。
クロサワはずいと体を乗り出し、カービィ准将の眼を真っ直ぐに見据えた。
「フランク。ショウの嬢ちゃん……今はいい年こいたオバハンだが、俺は嬢ちゃんにでけえ貸しがある。間に入るから、一旦手打ちにしねえか?」
「それは……!」
「ウェイランド社の連中だけでもなんとかしねえとよ。スターゲイザーは独自の戦闘部隊をBG-386に送り込んだって話だ。ちょうど、お前さんがリン達を送り込んだのと同じタイミングで」
次々と語られる想定外の事実に、カービィ准将の脳髄の温度が上がる。額に薄い汗をかくと、軍服の袖でそれを拭った。
それに構わず、クロサワの言葉は続く。
「リン達とかち合うと不味いぜ。奴らは目撃者を一切残さねえ」
「シェーファー少佐の部隊が遅れを取るとは思えませんが……」
「普通の殴り合いならな。ただ、奴らは核を持ち込んでるって話だぞ」
「なんと……!」
更に語られし想定外。22世紀の現状、核兵器の使用は議会の承認を得ず現場の判断で行使可能な状態ではあったが、その管理は旧世紀から依然変わらず厳重に行われている。
おいそれと気軽に持ち出すことは植民地海兵隊でも難しく、非公然の組織がそれを常備しているとは信じられないことであった。
だが、カービィ准将は自身の師匠であり、世界中の裏の情報に精緻するクロサワの言葉を疑うことはせず、すぐに次の一手を打つべく思考を巡らした。
それは、自身の宿敵であるウェイランド・ユタニ社との一時的な同盟も視野に入れたものであった。
「まごまごしてると先を越されるぜ。今は奴らも敵同士だが、スターゲイザーとウェイランド社が手を組んじまったら“詰み”だ。そうなる前に、ウェイランド社も使って奴らに圧力をかけるんだ。核が使われちまったら曾孫の顔が拝めねえ」
「……マスター。貴方のおかげで計画を大幅に修正する必要がありそうです」
「そこはしょうがねえだろ。むしろ、リークしてくれた俺の弟子達に感謝してほしいね」
やがて椅子から重たそうに立ち上がるマスター・クロサワ。
ぐぐっと腰に手を当て、背筋を伸ばすと改めてカービィ准将へ顔を向けた。
「後藤の小僧にも声かけてんだろ? 話を通しておいてくれ。東京でのセッティングは小僧に任せればいい。あいつのことだ、ショウの嬢ちゃんが逃げられねえネタを十分に集めてるはずさ。お前さんから伝えれば小僧も嫌とは言わねえし」
「そういえば後藤三佐も貴方の弟子でしたな。いや、まったく……貴方がその気になれば、明日にでも世界の黒幕になれそうだ」
世界中の裏組織に弟子を持つマスター・クロサワに、カービィ准将は畏れが籠もった眼差しを向ける。
クロサワは、にやりと口角を上げながらそれに応えた。
「俺はそういうのは興味ねえよ。今はただ、孫の無事を願い奔走する一人の老人さ」
また連絡すると言い残し、オフィスから去る老武人の後ろ姿を、カービィ准将は黙って見つめていた。
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BG-386
精錬所宿泊施設
精錬所にて籠城を続ける第三小隊の生き残り達。
設置したセントリーガンの殆どを撃ち尽くす程の激戦は、ひとまずはエミリオ達の勝利で終わった。
だが、一時の勝利は次の襲撃時に鋼鉄の雨で防衛することが不可能という事実を表していた。
「あと5日か……」
モニタールームに備え付けられた監視ディスプレイの前で、ライバック伍長は深く息を吐く。
エントランスでの激しい攻防から一日経過していたが、新たなエイリアンの襲撃は無く。
このまま救援隊が到着するまでの5日間、果たしてこのままやり過ごすことが出来るのだろうか。
百戦錬磨の海兵隊員は、まんじりとした不安を抱えながらディスプレイを注視し続けていた。
「ライバック、交代だよ。状況は?」
「少尉」
ふと、モニタールームにエミリオの声が響く。
顔を上げたライバックは、エミリオとその後方にぴったりと張り付くシシュの姿を見とどめた。
ライバックからは見えなかったが、シシュはエミリオの上衣の裾をきゅっと摘んでおり、まるで迷子にならないように親にしがみつく幼子のような様相を呈していた。
もっとも、無骨なマスクで表情は見えないのだが。
「現状外周モニターにエイリアンの姿は見受けられません。このまま諦めてくれたら良いのですが……」
「それは無い。もう一度、奴らは来るよ」
ライバックの希望的観測を即座に切り捨てるエミリオ。
エイリアンの再来襲を予言するエミリオに、ライバックはやや固い表情を浮かべながら言葉を返した。
「だとしたら接近戦になりますね。バリケードがどれだけ持つかにもよりますが」
「その時は僕とシシュが前面に出るよ。ライバックは脱出経路の確保を意識しておいてくれ」
「少尉……」
やや刹那的な言を述べるエミリオに、ライバックは更に顔を顰めながら若い少尉を見つめる。
エミリオはややばつが悪そうにライバックへと視線を返した。
「無茶はしないよ。むしろ、シシュの足を引っ張らないようにおとなしく立ち回るよ」
「krrー。エミリオ、ツヨイ。シシュ、アンシン」
「うん、シシュも強いから安心だね」
「krrー……」
ぽやぽやと呑気な調子を見せる異星のカップル。ライバックはいわゆる“バカップル”ぷりをまざまざと見せつけられ、それまでの緊張感がみるみる萎えていくのを感じていた。この非常時ではむしろ頼もしさを感じさせる物ではあったが。
「はぁ……とりあえず、自分は休ませてもらいます……」
「うん、しっかり休んでくれ」
「grr! ヤスンデクレ!」
「了解しました……」
それまでの疲労感に加え、何だかよくわからない倦怠感に包まれたライバックは重たい足を引き摺りながら自身に割り当てられた部屋へと向かっていった。
「ライバック、疲れてたんだな……」
「krrー……」
その後姿を心配そうに見つめる一人の天然青年士官と一匹のゆるふわ異星人乙女。彼らが持つ戦闘力は宿泊所で籠城する屈強な兵士達の誰よりも強力であり、その双牙は無数のエイリアンを鏖殺することを可能たらしめていた。
エミリオは先程までライバックが座っていた席につくと、後ろから覆いかぶさるように抱きつくシシュの頬を揉む。
いつのまにかマスクを外していたシシュは、気持ちよさそうにその長い睫毛をくりくりと揺らしていた。
「シシュ、奴らはいつ来ると思う?」
「krr?」
わしわしとシシュの頭を撫でながら、ディスプレイを注視するエミリオ。
愛しの伴侶の何気ない問いかけに、シシュは少しだけ首をかしげた。
「ワカンナイ。デモ、スグクル」
「そっか……」
きゅっとシシュの腕を握る。これからまた凄惨な修羅場が起こることを想像したエミリオは、不安と恐怖がないまぜになった感情が湧き上がるのを感じていた。
部下達、今となっては孤独で絶望的な戦いを共にする戦友達。誰一人として、失いたくない。
「krr……」
そして、この不器用だが優しく、強い、それでいて弱さも持つ愛しの乙女。
この存在だけは、何に変えても守らなければと、エミリオはきつく唇を噛み締める。
だが、戦友たちと両天秤をかけなければならない事態が起こったのなら──
「シシュ……」
「krrrrr」
シシュは変わらず甘い顫動音を鳴らしながらスリスリとエミリオへ頬ずりしている。
冷徹な覚悟を持つことは、若い海兵隊士官にとって非常に難しい。若い者にありがちな一時的な問題の先送りをすることしか、エミリオには出来なかった。
「krr……エミ、エミリオ……」
そんなエミリオの心を感じているのか、シシュはただただ優しく抱擁を続ける。
口器を僅かに広げ、おずおずとエミリオの頬に舌を這わせた。
「ん……」
クチュ、と水音がひとつ。自身の頬に感じる生暖かい温度を感じ、エミリオは僅かに顔を上気させた。
「シシュ、今はだめだよ」
「krrー……」
エミリオがシシュの頬を揉みながら優しく乙女の発情を抑える。乙女もまたこの状況化で盛るのが憚られたのか、それ以上行為をエスカレートせずおとなしくエミリオの言うことを聞いていた。
「……あ、あのさ」
「krr?」
しばらくシシュの頬に手をあて、ディスプレイを見つめていたエミリオであったが、やがて顔を赤らめながら絞り出すように声を上げた。
「キ、キスくらいだったらいいよ……」
「kr!?」
エミリオの言葉に、シシュは喜色がこもった顫動音をひとつ上げた。
もう何度もケダモノのような交合を交わした間柄であったが、未だに初心さが抜けきらないこの地球人の男に、シシュは下腹に得も言われぬ多幸感が湧き上がるのを感じる。
それだけ、自分をいつまでも大切に扱ってくれるのだと再認識した異星の乙女は、お預けを解除された飼い犬のようにエミリオにむしゃぶりついた。
「krr! grrr!!」
「わ、シ、シシュ!むぐっ!」
思い切り口器を開き、全力でエミリオの口内へ舌をねじ入れるシシュ。
「ん、んむう、んんっ」
「grrr、grrrrr……」
淫らな水音と興奮気味の顫動音が響く。侵入するシシュの舌を優しく自身の舌で受け止め、時にはシシュの口内へ自身の舌を優しく這わせるエミリオ。
異星の乙女から香るむわりとした獣臭に、はやくもエミリオは自身の剛直が硬さを増していくのを感じ取っていた。
「んっ、ぷはっ……シ、シシュ。もうそろそろ止めようね……」
「grrrrrr……」
エミリオの“お預け”に、シシュは厳つい唸り声を上げる。エミリオ以外が聞けば獰猛な肉食獣が獲物を前にお預けされたかのような恐ろしい唸り声にしか聞こえないが、エミリオは不満そうに頬を膨らませる可憐な乙女にしか見えなかった。
「grr!」
「うわっ」
シシュは不満げな表情のままエミリオの膝の上に自身の大きな尻を滑り込ませた。
ギシシッ! とエミリオが座る椅子が軋む音が響くも、耐荷重ギリギリのところでこの椅子は異星の番を支えていた。
「もう、シシュは甘えん坊さんだなぁ」
「krrrー……」
大好きなエミリオの首に手を回し、椅子の上でお姫様抱っこのような姿勢になるシシュ。
マスク以外の装具を身に着けたままだったので、常人ならば骨が圧砕されかねないほどの重量であったが、強靭な肉体を持つエミリオは身体に感じる乙女の重さを心地よく感じ、よしよしと乙女の頭を撫でた。
「krr……エミリオ、スキ……」
「僕も好きだよ、シシュ……」
甘い時間を慈しむように、膝の上で猫のように甘えるシシュ。エミリオはただ優しくその頭を撫でていた。
「……?」
不意に、モニタールームの片隅に、僅かではあるが物音が響く。エミリオは即座にその音の発生源に眼を向けた。
「なん──ッ!?」
瞬間。
エミリオの眼の前に、人間の手と蜘蛛の足をかけ合わせたかのような異形が飛び込んできた。
「シシュッ!」
「grr!?」
エミリオは即座に膝の上のシシュを庇い、その異形を受け止める。
「ガッ!?」
「grrrrッ!?」
だが、異形はエミリオに取り付くと即座にその長い尻尾のようなものを這わせ、エミリオの頸部をギリリと締め付ける。
エミリオの肩幅もあろうかという醜悪な節足を広げ、獰猛なサソリにも似たその異形は、爛れた女性器にも似た経口から管を伸ばし、エミリオの口を犯すべく締め付ける力を強めていた。
「grrrーーッッ!!」
怒気を孕んだ唸り声を上げ、シシュが異形を剥がすべくその尻尾を掴む。乙女の怪力により、僅かに異形の拘束が緩んだ。
「シシュッ!」
「ッ!?」
だが、もう一匹の異形がこつ然と現れシシュへと襲いかかる。
顔面へ一直線に張り付かれたシシュはたまらず床へ転がり異形の侵略に抗っていた。
「シ、シシュ……ッ!」
万力の如き力で頸部を締め付ける異形と格闘しながら、エミリオは乙女の名を叫ぶ。
みしり、みしりと肉が軋む音を響かせながら、玉のような汗を浮かべる。
視線の片隅に、愛しい乙女が異形に犯されている光景が写り、エミリオは怒りと共に渾身の力を込める。
「ぐぅぅ……ッ! このぉ……ッ!」
血管を盛り上がらせながら異形を引き剥がすエミリオ。
みし、みしと異形が徐々に離れ、そのまま勢いをつけて異形を放る。
「ッ!」
即座にホルスターから拳銃を引き抜く。
ガウン! ガウン! と銃声が響くと、異形は四肢を断裂させながら絶命した。
「シシュッ!」
異形が死亡したと同時にエミリオは踵を返しシシュの元へ駆ける。
モニタールームに備えられたあらゆる物を破壊しつつ、異星の乙女はのたうち回りながら異形の侵入と戦っていた。
「少尉ッ!」
「一体何事なんです!?」
そこへ、銃声を聞きつけたライバック達がが駆けつける。
顔面に何かを張り付かせたシシュがのたうち回る姿を見て、ライバックが即座に乙女に駆け寄った。
「ライバック! こいつを剥がずのを手伝ってくれ!」
「了解しました! パクストンッ! こっちを手伝え!」
「了解!」
三人がかりでシシュに取り付いた異形を剥がす海兵隊員達。
ただでさえ規格外の剛力を持つエミリオに加え、屈強な海兵隊の膂力が加われば異形を剥がずのはさほど苦労は無く。
「いいぞ! このまま放り投げるぞ!」
ライバックが引き剥がした異形を抱える。異形は尻尾を縦横に振り回しながら抵抗するも、ライバックはそれに構わずパルスライフルを構えるコナーへと目配せをした。
「いくぞ!」
「OKッ!」
先程のエミリオと同じように異形を放おるライバック。宙に投げ出された異形へ向け、コナーは正確無比な射撃を叩き込んだ。
「死ねぇッ!」
ガガガガガッ! とパルスライフルの砲火が上がる。異形の躰はズタズタに弾き飛ばされ、強酸性の体液を撒き散らせながら絶命した。
「シシュッ! シシュッ!!」
エミリオが必死の形相を浮かべながら乙女を抱き抱く。
シシュは意識を飛ばしており、エミリオは泣きそうになりながら乙女の巨体を揺さぶり続けていた。
「少尉、私が」
「スコット……頼む」
スコットが救急キットを抱えながらエミリオとシシュへ駆け寄る。思うところはあれど、現状最強戦力であるシシュの容態を診るのを躊躇うことはせず、スコットは己の職務を全うすべく乙女の診断を開始した。
「こいつら一体どこから来やがったんだ……」
異形の死骸を睨みながら、パクストンはやや怯えが籠もった眼差しを浮かべる。
「恐らくバリケードの隙間から侵入したんだろう。クソ、デカブツに気を取られすぎたな」
ライバックが額に汗を浮かべながら異形の侵入経路を分析する。
幅は50センチ、尻尾を含めた体長は1メートルはあろうかという異形。
設営したバリケードは体長2メートルは超えるエイリアンを想定しており、この小型の侵入者を防ぐ想定はしておらず。
「少尉、シシュは気を失っているだけです。特に外傷はありません」
「そうか……良かった……」
取り急ぎの診断を終えたスコットの報告を聞き、エミリオは安堵のため息を一つ吐く。
気を失ったシシュの巨体を抱きすくめるエミリオの姿を、スコットは冷えた視線で見つめていた。
「とりあえずバリケードの隙間を塞ぐぞ。コナー、パクストン、充填材になるようなものを──」
ライバックがそこまで言った刹那。
「ッ!?」
「なッ!?」
「なんだよこりゃッ!」
唐突に、部屋の照明が消える。
それまでの人工的なLEDの明かりが消え失せ、モニタールームは非常灯の赤い光だけが照らされた。
「電源を落とされたんだ……」
「電源を落とされたって、誰に?」
エミリオの呟きに、パクストンは焦燥感を隠しきれずに言葉を返す。
数瞬経って、パクストンは最悪の想像に思い至った。
「あいつらが落としたって言うんですかい!? 動物だぜ!?」
「コナー! パクストン! バリケードの様子を見てこい! スコットはロスをこっちに連れてこい!」
即座にライバックが兵士達に指示を飛ばす。
コナーとパクストンはそれぞれライフルとモーショントラッカーを抱えモニタールームから出る。
スコットも自力で動けぬロスを連れてくるべく部屋を後にした。
「少尉、シシュは動けそうですか?」
「……だめだ、完全に気を失っている」
エミリオが何度かシシュを揺り動かし、頬を軽めに叩くも、シシュは依然意識を落としたままだった。
「少尉、少尉はシシュを見ててください」
「ライバック……」
「シシュを抱えられるのは少尉だけですからね」
ライバックはエミリオの瞳を覗きながら笑みを一つ向ける。頼もしい海兵隊員の笑みを見て、エミリオは幾分か落ち着きを取り戻していた。
ライバックはそのままインカムを装着すると、バリケード前へ到達したコナーとパクストンへ通信を開始する。
「こちらモニタールーム。様子はどうだ」
ライバックがそう言うと、パクストンが緊迫した声とモーショントラッカーのPi、Pi、という動体音が返ってきた。
『……ッ、何かいるぞ……! そこら中で動いていやがる!』
『パクストンの言う通りだよ。何かが侵入してきた』
「モニタールームに戻ってこい!」
ライバックは即座にコナー達へ指示を飛ばす。そして、未だシシュを抱くエミリオに向け、パルスライフルのコッキングレバーを引きながらニヤリと不敵な笑みを向けた。
「さあ、戦争だ──!」
百戦錬磨の兵士の不屈の闘志を受け、エミリオもまたふつふつと闘志が湧いてくるのを感じていた。