「エミィ!」
「リ、リン姉さん……?」
壁面を打ち砕き、突如現れた軍用パワーローダー。
ガンメタル色の装甲。それは民生品である作業ローダーとは一線を画する程の威容を誇り、搭載された各種兵器も戦車級の火力を持つ。
全長は4メートルを超え、怪物達の女王、エイリアンクイーンに伍する程の大きさだ。
「エミィ……!」
そして、それを内部で操るのはエミリオのたった一人の姉……リン・クロサワ。
第13独立部隊所属、海兵特務中尉。女だてらにスペシャルフォースの中核を担い、第13独立部隊の“
リンはボロボロとなった最愛の弟を見留め、般若の如き形相を装甲の中で浮かべていた。
「このバケモンッ! アタシのエミィに何してくれてんのよッッ!!」
装甲パワーローダーが駆動音を鳴らし、クイーンの巨体へと吶喊する。
「kishyaaaaaaaaaaaッ!!!」
轟然と振り抜かれたアームをまともに受け、クイーンは粘液を撒き散らせながら巨体を揺らす。
だが、仰け反りながらも鋭利な尻尾を振り下ろし、鞭のようにローダーへ放つ。
「フンッ!!」
「kyuiiッ!?」
が、その打鞭は鋼鉄の腕足にて阻まれた。
「け、蹴り足ハサミ殺し!?」
エミリオは負傷を忘れ思わず驚愕の声を上げる。
リンはローダーを巧みに操り、肘鉄と膝にて尻尾を挟み込む高等空手技、“蹴り足ハサミ殺し”を繰り出す。
エミリオは目の前に繰り広げられたこの光景を呆然とした表情で見つめていた。とてもではないが、装甲パワーローダーがして良い動きではない。
ローダーをここまで操れる人間は、恐らく全宇宙を探してもリン・クロサワのみであろう。
それだけ、エミリオは自身の姉もまた、規格外の存在なのだと改めて認識していた。
「しゃあっ!」
「ッ!?」
更に、エミリオは信じられぬ光景を目撃する。
クイーンへ瞬時に距離を詰め、まるで曲芸師のように足尖を叩き込む鋼鉄の機兵。
宙空に飛び上がりながら、人体でいう“金的”、“水月”、“喉”、“人中”の箇所へと鉄脚を叩き込む。
「正中線四連突き!? あんなの写真でしか見たことないっていうか、なんでローダーでそんなことが出来るの!?」
発狂寸前まで自身を追い込む鍛錬の果てに得られる神技。
生身ですら難しいその技を、まさかローダーで繰り出すとは。
姉の救援という突発的な事態を飲み込む間もなく繰り出されるこの異様な光景。エミリオは、これが夢なのではと、若干の錯乱状態に陥っていた。
「shaaaaaaaッ!」
「っ!?」
だが、異形であるクイーンに人体の急所打ちが通じるはずがなく。
シリコンのような硬く、分厚い皮膚は、ローダーが繰り出す打撃の威力を減殺する。
「ぐぅっ!?」
「姉さん!!」
クイーンは倒れつつローダーのアームを掴むと、機体を自身の胸に引き込む。
そのまま複腕も駆使し、ベアバックの要領でローダーを締め上げた。
「舐めるなぁっ! バケモンのチープな寝技なら目ェ瞑ってでも返せるわっ!」
「kyuii!?」
しかしそれに怯まぬ鋼鉄の乙女。
一流の柔術家の如き動きで二対の巨腕から脱出すると、逆にクイーンの主椀を掴み腕ひしぎ十字固めを極める。
「ペニスみたいな頭してイヤらしいにもホドがあるわよ!」
「kyuiiiiiiッ!!」
ギチリと生々しい音が鳴り、クイーンは苦悶の叫びを上げる。リンは関節を極めつつ、ついでとばかりに鉄脚にてクイーンの頭部をガシガシと蹴りまくっていた。
「姉さん! 距離を取って火器を使うんだ!」
先程から繰り広げられる姉の非常識な戦闘に、エミリオはたまらず声を上げた。
ローダーが保有する各種重火器を使えば、クイーンは即座に殺害する事が出来る。
なのに、姉はその利を用いず肉弾戦にてクイーンを仕留めようとしていた。
不可解な疑問に囚われるエミリオに、リンは武骨な言葉を返す。
「ここに来た時で弾切れよ!」
「ええ!?」
単純明快な姉の言葉に、エミリオは呆気にとられるしかなかった。
「kshaaaaaaaッ!!」
「っ!?」
瞬間、クイーンは猛烈な負荷をかけられている己の腕を
バキリ、とクイーンの腕がへし折れると、関節部分から強酸性の血液が溢れ出た。
「姉さんッ!!」
ローダーの胴体に酸の血液が降りかかる。
強化セラミックで造られた装甲ですらその猛威には耐えられず、鋼鉄の機兵はジュウジュウと音を立てて溶け崩れ始めた。
「ちいぃっ!!」
直後、リンは緊急脱出装置を起動させローダーの装甲をパージし、酸で崩れたローダーから脱出する。
鉄が溶け落ちる煙を纏わせながら、戦闘用プロテクターに身を包んだ生身の乙女がクイーンの前に対峙していた。
「ふん、やるじゃない」
「shaaaaaa……!」
腰に差したサムライソードを抜きつつ、リンは不敵な面構えをクイーンへ向ける。
へし折れた腕から強酸性血液を垂れ流しつつ、クイーンは怒りが籠もった唸り声をリンへ返していた。
「ね、姉さん!」
「エミィ、心配しないで。お姉ちゃんがこんなバケモン如きに負けると思う?」
エミリオへ向け精悍な笑みを向けるリン。
その表情を見て、エミリオの胸に説明のつかない安心感が生まれる。
「さっさとコイツぶっ殺して──」
まるで、幼少の時。
『帰るよ──』
姉に手を引かれて歩いた、あの時のように。
「shaaaaaaaッ!」
「しぃっ!」
クイーンが雄叫びを上げつつ、刃物の如き尻尾を振る。
が、リンは即座にサムライソードでそれを迎撃。
「kyuiii!?」
「くっ!?」
サムライソードはクイーンの鋭利な尻尾を切断するも、刀身は強酸性血液に塗れ即座に溶け始める。
お互いに不覚を取った鋼鉄の乙女と、怪物の女王。
リンは使い物にならなくなったサムライソードを投げ捨てると、クイーンへ殺意の籠もった眼差しを向けた。
「やってくれたわね! 高くつくわよ!」
「shaaaaaaaa……!!」
再び対峙するリンとクイーン。
互いに発する戦意が空間を歪め、ぐにゃりと渦を巻く。
リンは胸部と肩部に装着されたプロテクターを乱暴に外し、身軽となった身体で黒澤流の構えを取っていた。
「姉さん……!」
エミリオは、その様子を固唾を呑んで見守る。
最強の姉が、凶悪な怪物から勝利を掴むのを信じながら。
「来いっ!!」
「kshaaaaaaaaaッッ!!!」
生意気な海兵娘を殺戮せんべく、猛然と突進を開始するクイーン。
リンは腰を深く落とし、重戦車の如きクイーンの突進を前に静かな闘気を燃やしていた。
「姉さんッ!!」
そして。
クイーンがその頭部をリンへ打ち付ける直前。
「ハアアアアアアアアッッ!!!」
まるで竜巻のような旋風が巻き起こり、クイーンの頭部が破砕した。
「……ッ!!!」
クイーンに僅かに残る自我が、驚愕の渦に叩き込まれる。
リンが繰り出した重爆蹴。
深く腰を落とした状態から、身体を回転させながら蹴り足を上空へと叩き込む。
それは、黒澤流の奥義──!
「虎影脚!!!」
リンの激声と共にクイーンの巨体が重厚な音を立てて倒れる。
しばらくピクピクと巨体を震わせるも、やがてその生命活動は停止した。
「オオオオオオッッッ!!!」
拳を突き上げながら勝利の雄叫びを上げるリン。
そして、ニヤリと諧謔味のある笑みを浮かべた。
エミリオは、祖父に瓜二つなその笑みを、戦慄の思いが籠もった眼差しで見つめていた。
「やっぱりバケモノなんかより──」
「格闘技の方が強いわッ!!」
「は、ははは……」
勝ち名乗りを上げる最強の姉の姿に、エミリオは一生勝てそうもないなと、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「あ、ね、姉さん!」
だが、エミリオは慌てたように姉へ駆け寄る。
仁王立ちにて立つリンの右脚。それが、ブスブスと肉が焼ける臭いを発し、みるみる焼けただれていく。
蹴撃を叩き込んだ際、クイーンの強酸性の返り血が、乙女の脚部を溶かしていたのだ。
「エミィ!」
「わっ!? リ、リン姉さん!?」
しかし、そのような負傷を物ともせず、リンは最愛の弟を抱きしめる。
胸部プロテクターがエミリオの頭部に当たり、更に力強い姉の抱擁。エミリオは思わずその抱擁から逃れようとするが。
「エミィ……馬鹿……心配したんだから……!」
「リン姉さん……」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる力を強めるリン。エミリオの頭髪に顔を埋め、いくつかの口づけをし、涙をひとつ落とす。
エミリオは姉の野性味のある慈愛の芳香を嗅ぐと、全身を弛緩させその抱擁に身を委ねていた。
「ね、姉さん……」
「ん……」
とはいえ、このまま女傑の慈愛に包まれるには状況は許さず。
エミリオの声を受け、リンは名残惜しそうに最愛の弟を放していた。
「姉さん。僕は大丈夫。それより、姉さんの方が……」
「ん? ああ、アタシなら平気よ」
「平気って、姉さんの足が……え?」
エミリオはいまだに強酸を浴び煙を燻ぶらせるリンの足を心配そうに見つめるも、直ぐにその足が
「こ、これって」
「びっくりした? これ、最新サイバネ手術を受けて義足にしたの。めちゃ高性能よ」
そう言いつつ、リンは腐食に侵されている右脚を上げる。見ると、表皮の内側からは金属質なフレームを覗かせていた。
「義足……」
「酸の血液はフレームまで侵食していないわ。このまま地球まで歩いて帰れちゃうんだから」
リンのあっけらかんとした物言いに、エミリオは困惑を露わにする。
大切な肉親、それも女性が己の肉体を機械で改造している事実を、一体どう受け止めればいいのか。
「ふふ、安心しなさい。両脚以外は生身の乙女よ」
「わ、ね、姉さん」
そのような内心を見透かしてか、リンはプロテクターの留め金を外し、タンクトップ越しに備える豊満な乳房にエミリオの頭を埋めた。
確かに、伝わる体温は生身の人間そのものだ。
エミリオは姉の生々しく、そして妙に熱い体温を感じ、顔を上気させていた。
「ふふーん。エミリオ少尉どの、久しぶりのお姉ちゃんのおっぱいの味についてどう思う?」
「姉さん……」
「どう思う?」
「……すごく……大きいです」
久々に味わう実姉のセクハラ紛いのスキンシップに、エミリオは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「さ、エミィ。いい加減このクソッタレな惑星からとっとと帰るよ」
「了解。でも、僕はまだここから離れるわけにはいかないんだ」
しばしの姉弟のスキンシップの後、リンは表情を引き締めエミリオにそう告げる。
姉の言葉に頷きつつも、エミリオは最愛の存在が未だ囚われの身にある事実を見過ごすわけにはいかなかった。
リンはエミリオの言葉を受け、訝しげな表情を浮かべる。
「どういうこと?」
「……助けなきゃいけない“人”がいるんだ」
真っ直ぐにリンの瞳を見据えながらそう言ったエミリオ。
リンもまた、弟の瞳をじっと見つめる。
「ここの民間人?」
「いや、民間人……じゃない。軍属でも無いけど」
「話が見えないわね」
「姉さん、詳しく説明している時間は無いんだ。でも、絶対に助けないと、僕は……」
エミリオの絶対に譲らぬ意志。それを見たリンはしばし考えるも、やがてため息をひとつ吐いた。
「しょうがないわね。寄り道している時間はないんだけれど」
「ごめん、姉さん」
「でも、本当にのんびり探し回っている時間は無いわよ。アタシの仲間がここの管制システムをハッキングしているけど、それも時間の問題。直ぐにウェイランド社の戦闘アンドロイドがすっ飛んでくるわ。その“人”が捕まっている場所に心当たりはあるの?」
「それは……」
第13独立部隊は敵地潜入、情報収集、後方撹乱、要人救出など単独で幅広い任務をこなせるよう電子戦の装備も整えている。
そもそも部隊長であるダッチ少佐自身が凄腕のハッカーなのもあり、研究施設の管制システムをハッキング、無力化するのは造作もなかった。とはいえ、それは時間制限付きの事ではあったが。
「研究施設に突入したのはアタシだけ。部隊の仲間は皆外にいるわ。手分けして探し様も無いし……」
「ね、姉さんは単独で突入したの?」
「だってしょうがないじゃない。エミィの部下が、エミィがここに連行されたって言うし」
「皆無事だったの!?」
姉の口から伝えられるライバックらの安否。
エミリオは喜びを隠せずといった調子で姉に聞き返す。
「ええ。ライバック伍長、コナー上等兵、ロス一等兵。それから、501大隊アルファ中隊の生き残り7名」
「アルファ中隊!? じゃあ、大隊長も!?」
「レン少佐も。流石に五体満足とまではいかないけど、バケモン共の攻撃を躱す為に研究施設周辺に潜伏してたみたいね。今頃部隊の仲間と一緒に研究施設外周に待機しているはずだわ」
それから、リンは簡潔ではあるがここに至る経緯をエミリオに語る。
第13独立部隊がBG-386に到着し、そこから揚陸艇を用い降下。ちょうど精錬所付近に降下した際、エイリアンの群れに追われるライバック伍長達を発見。
エイリアンを排撃しつつ、ライバック伍長達を回収した第13独立部隊は、そのまま研究施設へ直行。ステルス性に優れた独立部隊の揚陸艇は、ウェイランド社が張り巡らせたレーダー網に探知されることもなく容易に目的地まで辿り着く。
研究施設に到着した第13独立部隊は、周辺に潜伏していたレン少佐らアルファ中隊の生き残りと合流。そのまま電子戦をしかけ施設の管制をハッキングすると、リンは単独で突入を開始したといった経緯だ。
(ライバックはシシュの事を話さなかったのか……)
エミリオはシシュの存在を秘匿してくれたライバックに感謝の念を浮かべる。肉親が所属する部隊とはいえ、シシュの存在を軍に漏らすのは危険であり、下手をすれば今度は植民地海兵隊に囚われかねない。
故に、意図的にエミリオだけが捕まっていると伝えたのだろう。
「あ……」
ライバックの顔を思い浮かべたエミリオ。そして、ある事実に気付いた。
「姉さん。姉さんの装備に、小型発信機の探知機はある?」
「PDAならあるわ。味方の発信機の電波も拾える」
リンはサイドバッグからPDAを取り出しエミリオへ渡す。
「よし。これなら……」
PDAを操作し、エミリオはシシュに渡した腕時計型発信機のコードを入力する。
身につけていた何もかもを剥ぎ取られていたシシュであり、発信機の電波を辿ってもシシュの元へ辿り着ける保証は無い。
だが、闇雲に探し回るよりは有効である。
「行こう姉さん」
「ええ。でも、後でちゃんと説明しなさいよ」
エミリオがPDAを操作している間、リンは弟の負傷を手早く応急処置をしていた。エミリオは予備の拳銃をリンから受け取りつつ、肩を何度か回し行動に支障が無い事を確認する。
「シシュ……!」
そして、最強の姉と共に、エミリオは最愛の乙女の元へと走り始めた。
「ウォルター! 一体どうなっている!」
第13独立部隊、リンが単身での突入を開始した時。
モニター越しに映るエミリオの“試験”を愉悦に満ちた表情で見つめていたビショップであったが、直後にモニターがブラックアウトし、施設の電子機器のコントロールが失われた事で普段の冷静さを失い、怒声と共にウォルターの名前を叫ぶ。
「管制システムにハッキングを受けています。恐らく植民地海兵隊の救援部隊かと」
「なんだとッ!? 何故奴らの接近に気づかなかったのだ!?」
「軌道上の監視衛星システムはハンター達に無力化されています。施設の管制は現在復旧に努めていますが、しばらく時間はかかるかと」
狼狽するビショップ、そして対応に追われる職員達とは対照的に、ウォルターは冷めきった表情で応える。
備えられたコンピュータを無表情で操作しているウォルターに、ビショップは増々表情を歪めていた。
「戦闘ヒューマノイド部隊は!?」
「こちらでは管制できません。自動迎撃システムにより各個で戦闘を開始しています。現在施設外周部に向かっているようです」
「くそ!」
荒々しく自身のデスクチェアへ座り、悪態をつくビショップ。
変わらず、ウォルターは淡々とコンピュータを操作し復旧に努めていた。
「管制はこのエリアを中心に優先して復旧を……?」
そこまで言ったウォルターは、ふと操作する手を止める。
「どうした?」
「侵入者です」
「海兵隊か?」
「はい……いえ、一人は海兵隊……ローダーですが、
ウォルターの言葉を受け、ビショップは更に訝しげに表情を歪める。
「ハンターか」
「はい。ハンター特有のシグナルを感知しました」
ビショップは自身のデスクに備えられたラップトップコンピュータを睨む。
施設のマップが表示され、侵入者を示すシグナルが二つ表示されていた。
ひとつは、エミリオとクイーンがいる隔離ブロック。
もうひとつは──
「女型の所か……!」
もうひとつのシグナルは、シシュを捉えている研究室へと向かっていた。
時々停滞している様子は、配備された戦闘アンドロイドとの戦闘によるものだろう。
だが、管制システムをハッキングされているせいで、施設内のアンドロイド達を効果的に迎撃配置する事は叶わず、各個に撃破される様子をただ眺めている事しか出来なかった。
「忌々しい糞共め!」
ビショップはデスクを乱暴に叩き苛立ちを露わにする。しかし、それ以上は取り乱す事はなく、じっと管制システムの復旧を待っていた。
予想される植民地海兵隊の救援部隊は小規模なものだ。こちらが掌握している戦力はまだまだ十分にあり、それらが施設へ攻撃を仕掛けて来たとしても十分に対処可能だ。
管制システムが復旧すれば、施設に備えられた射程距離10万キロの800メガボルト中性粒子ビーム砲、連装レールガン、80メガワット赤外線レーザー砲を始めとした各種重火器も使用可能になり、侵入者共々殲滅する事は可能である。
例えハンター……プレデターの母船が乗り込んで来ても、撃沈する事は可能だろう。
また、施設は非常時には外郭ドームが展開し、核攻撃にすら耐えられる防御力も備えている。
これらの過剰とまでいえる研究施設の装備はウェイランド社ですら把握していない。兵器開発部門のトップであったビショップゆえに行えた独断専行である。
「……?」
既に発生している施設への被害も考慮し、計画スケジュールの遅延をどう取り戻すかと考えをめぐらせていたビショップは、ふとラップトップコンピュータの通信アプリにシグナルが入るのを見留める。
通信が妨害されている中、一体誰がどのようにして、それもビショップの個人端末にアクセスしたのか。
不審げにアプリを開き、表示されたメッセージを読む。
「……」
読み進める内に、ビショップの口角は凶悪に引き攣っていった。
「ビショップ様。何か」
その様子を見て、今度はウォルターがやや訝しげな表情を浮かべる。もっとも、アンドロイドである為かその変化は微々たるものであったが。
ウォルターの言葉を受け、ビショップは口角を引き攣らせながら低い声で応えた。
「ふん、まだツキはこちら側にあるという事だ」
「?」
そう嘯くビショップに、ウォルターは首をかしげつつ、復旧作業に戻る。
ビショップのコンピュータに表示されたメッセージ。
メッセージの最期には、“Stargazer”と表記されていた。