※この作品はR-18です。

プレデター♀のおよめさん   作:範馬勇太郎

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Chapter27.『Squad』

 

 地球

 JPN・TKY・丸の内

 ウェイランド湯谷コーポレーション本社ビル

 プレジデント・オフィス

 

「ええ、ではそのように。ええ、植民地海兵隊とは今後も友好な関係を築きたいと思っていますわ。ではごきげんよう……カービィ准将」

 

 シックなスカートスーツに身を包んだ妙齢の女性。デスクに座り、備えつけられたスピーカーフォンへ流暢な英語で応えると、そのままスイッチを消した。

 女性のロングヘアの黒髪はケアが行き届いており、スキンケアもそれに応じて良くされている。身長は170cmを超えており、スタイルは良く、少し大きめの臀部と括れた腰のラインが艶めかしい。

 彼女の実年齢は50を超えていたが、傍から見れば30台後半でも十分通用する容姿だった。

 バイオティクスに優れた自社の美容製品を日常的に使用しているから、というのもあるが、どちらかといえば、彼女の美しさは本人の努力による所が大きいだろう。

 

「これでいいのかしら?」

 

 熟れた美貌に、少しだけ挑発的な眼差しを浮かべながら、女性は対面でどっしりと構える和服姿の老齢の男──こちらも逞しく鍛え上げられた肉体は、40台にしか見えないが──へ、今度は日本語でそう声をかけた。

 

「ま、いいんじゃねえかな。後藤の小僧もそう思うだろ?」

「落とし所としては良いと思いますよぉ、黒澤さん」

 

 老齢の男……エミリオとリンの祖父、マスター・黒澤は、隣に座る航宙自衛隊三佐、後藤へと呑気な声をかける。

 後藤もまた、昼行灯、といった体で、黒澤へと応える。くたびれたブラックスーツが、より後藤の表六ぶりを増していた。

 女性は二人のやり取りを見て、やや顔を顰めながらため息を吐いていた。

 

「貴方達の前だと気を張っているのが馬鹿らしくなるわね……」

「いいじゃねえか。肩肘張ってばかりだと疲れるぜ、ショウの嬢ちゃん」

「世界的な大企業のCEOサマですからねぇ。我々下々の人間じゃあ想像もつかない苦労をされているんですよ。きっと」

「……ほんと、現在進行系で苦労をしているわ」

 

 ショウと呼ばれた女性──世界一の巨大コングロマリット、ウェイランド・ユタニ社を率いる女傑──ショウ・湯谷は、脅しに近いアポを取り付けて現れた黒澤と後藤に、普段の冴えた美貌を顰めるばかりだ。

 

「ああもう」

 

 ショウはおざなりにデスクチェアにもたれかかると、とぼけた表情を浮かべながら、秘書が差し出した緑茶を啜る黒澤を睨む。

 ちなみに、彼女の聖域ともいえる社長室は人払いがされており、この場ではショウ、黒澤、後藤の三人しかいなかった。

 

「LV-426やセヴァストポリ宇宙ステーションの損失補填として期待していたBG-386の開発も失敗。安定した兵器納入先の植民地海兵隊からも取引制限をかけられる。特別損失は計り知れないわ」

「今まで金を稼ぎすぎたツケだよ。ちょっとくらい良いじゃねえか」

「健全な企業運営には安定した利益を常に生み出し続けないといけないの。それに、昔からの負債を一気に解決出来るチャンスだったのよ。これ以上保険屋はアテに出来ないし、風来坊の貴方には分からないわよ」

「そうかい。ま、真面目な所は相変わらずだな、嬢ちゃんは」

「その“嬢ちゃん”っていうのはいい加減止めて頂戴。もういい年なのよ、お互い」

「可愛いから気に入っているだがね、俺は」

「もうあの頃の初心な小娘とは違うのよ、私は」

 

 先程と違い、ややくだけた様子で会話を交わすショウと黒澤。どこか昔を懐かしむような空気も流れている。

 この二人の“過去”を少しだけ知る後藤は、口角を面白げに引き攣らせながら会話を聞いていた。

 

 伝説の武人として裏社会で活躍していたマスター・黒澤。

 ウェイランド社の表も裏も統括し、暗躍を続けていたショウ・湯谷。

 幾度となく対決をしていた黒澤とショウ。そして、戦い続ける内に、まるでスパイ映画さながらのラブロマンスが、二人の間に芽生えていた。

 二人が肉体関係にまで至っていたかどうかは後藤にとって知る由もない。

 どちらにせよ、黒澤はアメリカ人女性と結婚し子供をもうけていたし、ショウは独身のままであるからには、切ないストーリーが二人の間にはあったのだろうと思っている。

 だが、そこを深堀りするほどの野暮はしたくもなく。

 深堀りした所で教えてくれるとは思えなかったし、アレコレ妄想している方が楽しいというのもあった。

 

「まあいいじゃないですか。おたくの日本国内での()()()()()()()はチャラにするんですし」

「我が社の渉外部も質が落ちたわね。自衛隊如きに尻尾を掴まれるなんて」

「いやぁ、恐縮です」

 

 そう言いながら、わざとらしく頭を掻く後藤。

 様々な企業不正の証拠を握られたショウは、部下の手際の悪さにも辟易していた。

 しかし、痛い懐を容赦無く探ってきた男が、それを“無かった事にしよう”と提案をしてきたのは、ショウにとって魅力的であり。

 事実、不正の証拠を耳を揃えて返してきたのは、後藤の言葉を信用する根拠となっていた。コピーを取っていようと、直接的な証拠さえこちらで隠滅できれば、後から糾弾を受けようといかようにも躱せる。

 もっとも、後藤としてもそれをするには、実際の所憚られる所があった。

 それをすれば、今度こそ部下の言う通り、血で血を洗うスパイ戦が繰り広げられるのは必至であったからだ。

 彼自身の保身のためにも、ここでショウに恩を売るのは、悪くない取引だった。

 

「まあ、これでウェイランド社は今まで通りクリーンなイメージを保てるという事でひとつ」

「そうね」

 

 おべっかを使うような後藤に、ショウはそっけない返事をする。

 ウェイランド社は国家権力にも影響を及ぼすほどの強大な権力を誇っていたが、表向きはクリーンな企業イメージで運営をしている。

 致命的とはいかないまでも、不正情報を露呈させられたら、購買者はもちろん、株主にも悪印象を与え、会社の体力にも響いてくるだろう。

 創業者一族とはいえ、既にBG-386での件──ビショップの造反により、ショウの社内での立場は危ういものとなりつつあった。

 取締役会での追求を受けるのは必至であり、これ以上の失点は彼女の去就にも影響を与えるだろう。

 

 故に、目の前の難事をとりあえずは片付けられる、後藤──実際には黒澤の提案を、ショウは渋々ではあるが受け入れていた。

 それは、水面下で敵対する植民地海兵隊との和解。

 BG-386での造反行為──ビショップ一味を闇に葬りさるべく、海兵隊を利用した事に対する謝罪、補填。

 更には海兵隊に対する影響を削減する為、米国法人の綱紀粛正の実行も約束すると、ショウは植民地海兵隊カービィ准将へ申し入れていた。

 

「といっても、状況はちょいと複雑になってきていますがね」

 

 そう言って、後藤は黒澤の方へ顔を向ける。

 黙って茶を啜っていた黒澤は、重たげに口を開けた。

 

「ただの鉄火場なら口出す事も無かったんだけどな。孫達が可愛いってのはあるが、あいつらは自分で兵隊になる事を選んだんだ。ドンパチやっておっ死んじまうようなら、それまでの連中だったって事だ」

 

 孫可愛さで奔走していたとは思えないほど、冷酷な言葉を発する黒澤。

 事実、リンやエミリオが戦いの果てに命を落とすのは、伝説の武人として生きていた自身を鑑みても、仕方のない事として受け入れられるだろう。

 しかし。

 

「だが、それは人間相手だったらの話だ」

 

 黒澤がそう言うと、ショウと後藤は表情を固くさせた。

 

「ハンターの事?」

「そうだ。ハンター絡みじゃ、呼ばれてねえ連中まで出張ってきちまう」

 

 ショウの問いかけに頷く黒澤。

 ショウもまた、何かを思い出すように言葉を重ねた。

 

「1987年からの因縁ね。実際、会社が──曾祖母が関わったのは、2004年からだけど」

「実際はもっと前みたいですよぉ。ウチの先輩方もガダルカナルやら硫黄島やらでやり合ったと聞きますし」

 

 ショウの言葉に同調するように、後藤もまたまことしやかに囁かれる自衛隊内での“伝説”に言及する。

 正確な記録は残ってはいないし、信憑性のある情報というには、あまりにもオカルトめいた話。しかし、自衛隊の前身──旧日本軍が遭遇した“未知の狩人”の話は、限られた人間にだけ口伝にて伝承され続けていた。

 

「ハンターはもっと前から俺たち人類に関わっているぜ。我が家もちょいとした因縁があってな」

 

 そう言って、黒澤は懐からある物品を取り出す。

 それを見たショウと後藤は、それぞれが驚愕を隠せない様子を見せていた。

 

「それって……」

「先祖伝来のハンターの遺品だよ」

 

 黒澤が取り出したのは、かつて日本──戦国の世に現れ、数多の侍と死闘を繰り広げたハンター……プレデターの遺品だった。

 30センチほどの筒状の金属。見れば、剣の柄のようにも見える。

 刀身なき柄は、数百年にも及ぶ年月の経過を伺わせるほど、古ぼけた外観をしていた。

 

「黒澤家のご先祖が仕えていた大名家の姫が、こいつを巡って邪教集団の特殊忍者とハンターと戦った際、とある座頭に救われたという話さ。その座頭は居合の達人だったとか」

「座頭市ってやつですか。で、それは何かの部品なんですか?」

「いわゆる光線剣ってやつだな。とっくの昔にエネルギー切れを起こしているから、こいつはもうただの金属の棒でしかねえけど」

 

 黒澤の話を半信半疑といった体で聞く後藤だったが、目の前の物品を見る限り、それは事実なのだろう。

 どちらにせよ、後藤にとってそれ自体はどうでも良く。

 

「ハンターだけでも大変なのに、ハンターが関わっているなら彼らも出てきますからねえ」

「その通り。ウェイランド社と海兵隊でやり合っている場合じゃねえってことさ」

 

 黒澤と後藤の会話を黙って聞いていたショウ。

 おもむろに口を開く。

 

「敵の敵は味方って所ね」

「そうだよ。嬢ちゃんとしても丁度良かっただろ? ()()()()()から手を引くいい機会だ」

「……」

 

 もはや隠し事はしても無駄だろう。黒澤は何もかもを知れる立場にいるのだ。

 ショウは諦めたようにため息をひとつ吐いた。

 

「そうね。今回の件は、アレに固執する古株役員達を一掃するいい機会だわ。それに、個人的には、アレは人が飼いならせるような動物じゃないと思うわね」

「だろうな。地球に持ち込まないように尽力したエレン・リプリーに感謝するこった」

「……そうね」

 

 どこまで知っているのか。この男は。

 

「フィオリーナ161に関しては残念でしたねえ」

「……」

 

 そして、この昼行灯も、どこまで知っているのか。

 会社の機密が筒抜けなのを受け、ショウは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 もっとも、この二人が特別なのだと思うと、ショウはもはや怒る気にもなれなかった。

 

「とにかく、海兵隊の生き残りが無事に戻ってこれるよう、嬢ちゃんの方でも動いてくれると助かる。特に連中への対処は、海兵隊や自衛隊だけじゃ厳しい」

「ええ。わかったわ」

 

 黒澤の言に確と頷くショウ・湯谷。

 ハンターと対決し続けていたあの組織──スターゲイザー。未だに米国政府中枢にメンバーがいる、ある意味ではウェイランド社より強大な組織だ。

 彼らが“最終的な解決”をしないよう、ショウはありとあらゆる人脈を使い、それを阻止する事を誓っていた。

 

「でも、スキャンダルの隠蔽だけじゃちょっと割に合わないわ。何かご褒美が欲しいわね」

 

 からかうようにそう言ったショウに、黒澤は諧謔味のある笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、俺と一緒になるか?」

「はぁ?」

 

 突然の黒澤の申し出に、翻弄されっぱなしのショウ。

 素の表情で固まるショウを見て、後藤は必死で笑いを堪えていた。

 

 

 

 


 

 惑星BG-386

 研究施設

 

 クリーナーがシシュの異変に気付いたのは、脱出を阻む戦闘アンドロイドの一体を始末した時だった。

 

「シシュ、大丈夫?」

「krr……」

 

 弱々しげにエミリオへもたれかかるシシュ。

 先程までは、再会の喜び、そして悍ましい人間に陵辱されかけた反動からか、エミリオへ過剰なまでにスキンシップをとっていたシシュ。

 しかし、寄りかかっていたのは甘えていただけ、というわけではなかった。

 

「grr!」

 

 長いリストブレイドでアンドロイドを真っ二つに断ち切り、残心するクリーナー。

 その後、コンピューターガントレットを操作し、マスクの視界を透析モードへと変え、シシュへ視線を向けた。

 

「r……」

 

 乙女の体内を透視するクリーナー。

 そして、胸部に蠢く醜悪な怪物──その幼生の姿を見留めた。

 

「Shesh」

 

 短くシシュの名を呼ぶクリーナー。

 見立てでは、直ぐにシシュの胸を食い破ってくる事は無いだろう。

 しかし、そう時間が経たない内に、シシュの体内からサーペントの幼生(チェストバスター)が飛び出してくるのは必然であった。

 

「krr……」

 

 弱々しげにクリーナーへ応えるシシュ。

 普通なら、この場でシシュはチェストバスターごと“処分”される決まりだった。

 氏族から生まれたサーペントは、ただのサーペントではない。

 屈強なプレデターのDNAを存分に取り入れたその個体は、並のサーペントとはわけが違う。

 なにせ、あの先代クリーナー“Uhuru”が仕留めきれなかったのだ。

 そのサーペントは、“Scar”という若く才能溢れる戦士から産まれたという。

 シシュを宿主にしたのなら、その脅威度は推して知るべしであった。

 

「grr……」

 

 サーペント──プレデリアンの誕生を恐れたクリーナーは、しばらく家族と義務の天秤に揺れる。

 しかし、母船に連れて帰っても医療ポッドに“サーペントの除去”という()()()()()機能はない。

 “悪しき血”に染まった同胞は、氏族の名誉の為に“処分”される定めであった。

 

「krr……」

 

 シシュはマスク越しにクリーナーを見つめる。

 氏族の定めは乙女も理解はしていた。

 そして、信頼するクリーナーの判断も、甘んじて受け入れようと。

 しかし、どこかでそれを拒絶しているのもあり、乙女は力のない声を上げるしか出来なかった。

 

「駄目だよ」

 

 ふと、シシュを庇うように、その大きな身体を抱きすくめるエミリオ。

 力のある黒い瞳を、クリーナーへと向けていた。

 

「ちょっと、エミィ」

 

 ただならぬ空気が流れるのを受け、リンがエミリオへ近付く。

 

「grr」

 

 その様子を受け、クリーナーは不機嫌そうな唸り声をひとつ。

 そして。

 

「グッ!?」

「ッ!? エミィ!!」

 

 クリーナーはエミリオの喉を掴み、片手で軽々と持ち上げ、壁面へ叩きつける。

 即座に拳銃をクリーナーへ向けるリン。

 

「grr」

「ッ!?」

 

 しかし、プラズマキャスターの照準がリンの額に当てられる。

 少しでも引き金を動かせば、至近距離からのプラズマ弾がリンへ射出されるだろう。

 突然殺気を発し、エミリオへ加害の手を加えるクリーナーに、リンは首筋に冷えた汗を流すのみである。

 

「krr!」

 

 エミリオの支えを失い、床へ膝をつくシシュ。

 恐らく、クリーナーは己の処刑を断行するつもりなのだろう。

 “家族”と“氏族”を両天秤にかければ、クリーナーの行為は必然ともいえた。

 

「シシュ……!」

 

 押さえつけられていても尚、エミリオはシシュの身を案じる。

 それを見たクリーナーは、特に感情を露わにせず、冷徹にリストブレイドを刃を、エミリオの首筋に当てた。

 

「お願い、します……」

 

 しかし、エミリオは自身に向けられた殺意には、どこか無頓着な反応を見せた。

 何かを懇願するも、それは自身の助命嘆願ではなく。

 

「僕は、どうなってもいい……でも、シシュと……」

 

 愛しい、とても愛おしい異星の伴侶。

 唯一無二の存在であるシシュ。

 だが、エミリオにとって、もうひとつ大切な存在が、シシュの胎内にあった。

 

「シシュと、お腹の子は……」

 

 そう、悲痛な声を上げるエミリオ。

 乙女と、乙女との間に出来た、大切な存在を守る。

 しかし、シシュの“家族”に手向かうわけにはいかない。

 意味のない事かもしれない。

 だが、それでも。

 

 自分の命と引換えに、シシュとまだ見ぬ子供の命を救うよう懇願していた。

 

「エ、エミィ……」

 

 リンはエミリオの言葉にショックを受け、思考が滞るのを実感していた。

 ただでさえ異星人、異形の存在と親しくしているだけで異常だというのに、まさかセックスまでしていたなんて。

 そのような異常行動を、愛する弟が平然と行っていたのを、リンは信じたくもなかった。

 

「grr……」

 

 クリーナーは拘束の手を緩める事はなかった。

 だが、ふと顔を動かし、膝をつくシシュへ目を向ける。

 マスクの透析機能を操作し、乙女の内部──今度は胸ではなく、下腹部を透視した。

 

「……」

 

 子宮内を透析すると、既に子宮内膜に極小の胚が根付いていた。

 ちなみにプレデターの生殖生態は人間のそれと違い、非常に早いスピードで妊娠から出産が可能であり。

 人間では十ヶ月かかる妊娠期間。それが、プレデターだと三ヶ月から四ヶ月ほどで出産が可能であった。

 高位存在──“エンジニア”から戦闘種族としてデザインされたが故の生態である。

 

「……grr」

「くっ!」

「エミ!」

 

 クリーナーはエミリオを解放する。崩れ落ちるエミリオへ、シシュが苦痛に悶える身体を押して駆け寄った。

 

「……」

「……エミィ。どうするつもり?」

 

 クリーナーは無言でエミリオを見つめている。

 それを見たリンは、まるでクリーナーの言葉を代弁するかのようにそう言った。

 

「……ここにある施設なら、シシュからエイリアンを除去できる。嘘かもしれないけど、今はそれに賭けるしか」

 

 自信なさげにそう応えるエミリオ。

 ビショップが取引材料にしていたチェストバスターの除去手術。

 実際に安全にシシュから寄生体を除去できる保証はない。

 だが、それでも。

 

「それに賭けるしかないんだ……!」

「エミィ……」

 

 それに縋るしかない。

 シシュを救い、己の子を救う為には。

 エミリオの悲痛な呟きに、リンは口元を引き締めて弟の姿を見つめていた。

 

「grr」

 

 すると、クリーナーがコンピューターガントレットを操作する。

 ホログラフで研究施設全体の図面が浮かび上がると、クリーナーは一箇所を指差した。

 

「そこが医療研究室って事ね?」

「grr」

 

 リンの言葉に頷くクリーナー。

 どういう思惑かは分からぬが、ともあれクリーナーが指し示す医療研究室までは、ここからそう離れてはいない。

 

「あ、ありがとう……ございます」

「……」

 

 医療研究室への道筋を教えてもらい、礼を述べるエミリオ。だが、それを無視するかのように、クリーナーはホログラムを消すと再び歩み出す。

 とはいえ、内心は可愛い弟子にして妹分を救いたい気持ちもあった。

 氏族の掟に逆らう形となったが、それはそれ。

 掟破りは日常茶飯事だ。

 

「ッ! 敵襲ッ!」

「!!」

 

 突として、前方から新手の戦闘アンドロイドが現れる。

 管制機能を回復させているのか、散発的だった今までとは違い、その数は多い。

 

「チィ!」

「grr!」

 

 リンがハンドガンを連射し、呼応するようにクリーナーがプラズマキャスターを射出する。

 だが、遮蔽物を有効に活用しているアンドロイド達には届かず。お返しのパレットライフルが射撃され、リン達も残置されていたコンテナ等の遮蔽物に身を潜ませた。

 

「ちょっと! アンタのそれもっと威力上げられないの!? 遮蔽物ごとぶち抜きなさいよ!」

「grr……!」

 

 銃撃戦が展開される中、リンはクリーナーへそう文句をつける。

 しかし、高出力のキャノンはチャージに時間がかかる。エネルギー自体は無限に等しいが、無制限に撃ちまくれる代物ではなかった。

 

「ッ!?」

 

 アンドロイド側の激しい制圧射撃が行われ、リンはろくな反撃も出来ず。

 それはクリーナーも同じ。少々のライフル弾なら耐えられるが、弾丸の嵐に身を晒せるほどの耐久力は無い。

 そして、遠距離攻撃の手段が無いエミリオとシシュも、リン達の後方で互いに身を寄せ合いながら火線から逃れていた。

 

「grr!」

「ッ!?」

 

 ふと、クリーナーの唸り声を聞き、リンが顔を向ける。

 クリーナーはガントレットを操作し、再び施設のホログラムを投影していた。

 そして、くいと指を動かし、前方のアンドロイド達を指し示す。

 そのまま敵の戦力が集中しているであろう箇所も指差し、リンの自身の顔を交互に指差した。

 

「……陽動ね!」

「grr」

 

 クリーナーの意思を十全に汲み取ったリン。

 互いの大切な存在を守るべく、即座に行動を開始した。

 

「エミィ!」

「ッ! 姉さん!?」

 

 そして、リンは弟の瞳を見つめる。

 短い間、姉弟はアイコンタクトで意思の疎通を果たす。

 姉の想いを汲み取ったエミリオ。

 囮になるから、その間にシシュを助けろ。

 姉の想いに、エミリオは瞳を濡らしながら確りと頷いていた。

 

「行くわよ!!」

「grraaaaaaa!!」

 

 リンの声を受け、クリーナーが吠える。

 スモークグレネードを投げ、煙幕を展開。わずかに怯んだアンドロイドの射撃を掻い潜り、鉄脚の乙女と異星の掃除屋は吶喊していった。

 

「おらあああああッッッ!」

「graaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 瞬く間にショートレンジでの戦いを繰り広げる二頭の獣。

 サムライソード、リストブレイドが稲妻のように閃き、アンドロイド達を斬り刻む。

 だが、態勢を立て直したアンドロイド達もやられっぱなしではない。

 即座にリン達へ射線を合わせ、銃撃をしながら追い詰めていく。

 

「こっちよ! ブリキ野郎!」

「grrrrr!」

 

 だが、リン達は巧みにアンドロイド達の動きを誘導しており。また、リン達が後退する先は、ビショップが控える管制室に通じる道。

 杓子定規的な戦闘プログラムのせいか、アンドロイド達は脅威度が低いエミリオとシシュを放置。

 機械的な動きでリン達を追撃していった。

 

「シシュ、今のうちだよ」

「krr……」

 

 医療研究室へ至るまでの障害が取り払われた事で、エミリオはシシュの手を引く。

 だが、胸が苦しいのか、満足に走れないシシュ。

 それを見たエミリオ。

 決断は早かった。

 

「シシュ、しっかり捕まっててね!」

「krr!?」

 

 素早い動きでシシュを横抱きに抱え、走り出すエミリオ。

 大きく、重いシシュの身体を抱えても、エミリオの足取りは安定したものであった。

 

「krr……」

 

 エミリオの首に手を回し、ひしとしがみつくシシュ。

 この細い腕のどこにこのような力があるのだろう。

 エミリオの底力に毎度驚きを覚えるシシュ。

 

「……」

 

 ぎゅっと、エミリオへしがみつく力を強めるシシュ。

 乳房が胸板に密着すると、愛しい伴侶の力強い鼓動が感じられた。

 そして、それはエミリオも同じ。

 薄く頬に朱を差すエミリオに、シシュは説明のつかない安心感を覚えていた。

 

 同時に、愛おしさが溢れる。下腹も疼いてきた。

 このような時に──いや、あのような事があったからこそ。

 穢らわしい人間に陵辱されかけた事が、乙女にとって忌むべき記憶となって植え付けれいた。

 そして、それを一刻も早く、己の内部に巣食うサーペントと共に洗い流してほしい。

 

 そう想ったシシュは、エミリオの腕の中で、大きな身体をことさら小さく屈め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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