「grr!!」
気合十分の顫動音を鳴らし、強烈なパンチで医療ポッドのキャノピーをぶち破るシシュ。
湿度の高いポッド内へ少々の未練を残しつつ、ひしゃげた強化アクリルの隙間からその大きな体躯をポッドの外へ押し出した。
非常灯の明かりで照らされた研究室内は人間の裸眼では非常に視認性は低い視界となっていたが、シシュにとってそれは大した問題ではない。
元々光源に頼らない視力を持っているプレデターの一族であるシシュ。室内を見回し、動くものが無い事を確認する。
「grrr……」
ふと、床に転がる空の容器を見留め、僅かに唸る。
医療ポッドの動力と連動していたのか、プレデリアンの幼生を収めた容器の封印が解かれていた。
幸い、幼体のままじゃ勝負にならないと思ったのか、プレデリアンは排気ダクトの中へ逃走しており。
シシュは少しばかり安堵した後、ポッド内に横たわるエミリオへ視線を向けた。
「う……うぅ……」
エミリオは息も絶え絶え、といった体でポッド内に身を横たわらせており。
全身をシシュの汗、愛液で濡らし、ずり降ろされたままのパンツを上げる気力も残されていないようだ。
そして、テラテラと濡れたペニスは、未だ硬さを保ったまま露出していた。
「grrr……!」
シシュはそれを見ると、また下腹部に熱が篭もるのを感じていた。
興奮気味に顫動音を鳴らすも、それは戦闘に由来するものではない。
だが、シシュの我儘ともいえる強姦を受け入れていたエミリオ。
シシュもまた、それ以上の自儘は自重していた。
乙女が一番望んでいた、愛する男の体液による“浄化”は、十分に成されていたのだ。
これ以上望むのは、いささか強欲すぎる。
「シ、シシュ……」
「!?」
しかし、許しを請うかのように濡れた瞳を向けるエミリオを見たシシュ。
乙女の自制心は簡単に崩れてしまった。
「kyuuuu!!」
「あぅ!?」
爪上口器を大きく開き、半勃ちのエミリオのペニスを勢い良く頬張るシシュ。
敏感な所を更に生暖かい粘膜に包まれたエミリオは、何度目か分からぬ嬌声を上げた。
「kyu──!!」
そして、シシュは思い切りペニスを吸い上げた。
尿道に残った精液のみならず、睾丸に残った残弾精子まで吸い尽くさんばかりに吸引する。
「うああああっ!!」
ズチュウウウウッ!! と、空気が漏れるような吸引音と共に、エミリオの腰が
シシュの頭を掴みながら、エミリオは痛みと快感の狭間に悶えながら、自分の体液がどんどん乙女の胃の腑へと流し込まれていくのを感じていた。
「あ……ぁ……」
やがて出すものを出し切ると、エミリオはガクガクと腰を震わせながら身体をくの字に曲げる。
その間、シシュは目を瞑りながら舌をクチュクチュと器用に動かし、口腔内に広がるエミリオの“味”、その余韻をソムリエのように反芻していた。
先程の強姦で下半身を満たした乙女は、今度は愛する男の精液で上半身も満たし、満足気に喉を上下させる。
「……krrrr」
スッポンのように吸い付いて離さなかった乙女は、やがて満足げな顫動音を鳴らし、クチュリと粘ついた糸を引きながらペニスから口を離していた。
「シ……シュ……」
「krrrrr!!!」
朦朧とした状態に陥ったエミリオ。
対して、シシュは良質なタンパク源を補給し、寄生体の除去手術をした直後とは思えないほど元気いっぱいだ。
「krrrr……エミ!」
そして、まだポッド内でぐったりと身を横たわらせるエミリオへ厳しく叱咤する。
「うぅ……」
エミリオはヨロヨロと身を起こすと、下半身の感覚が曖昧なのか、カーゴパンツを押し上げるのも覚束ない様子だ。
立ち上がるも、よろりとシシュの胸へもたれかかってしまう。
「krrー」
そのようなエミリオを、やれやれ、仕方のない人。と、シシュはどこか嬉しそうに自身の豊満な乳房にエミリオの頭を埋め、その黒髪をワシワシと梳いていた。
これまでも自身の強引な性交渉でエミリオへ挑みかかっていたシシュ。
しかし、尽く返り討ちに合い、最後には汁塗れで潰れたカエルのようになっているのが常だった。
それが、不意打ちに近い形ではるが、セックスでエミリオに完勝した。
乙女はこのような非常事態にも関わらず、何故か自信に満ち溢れ、根拠のない無敵感に支配されていた。
「ご、ごめんね、シシュ……」
シシュの胸に顔を埋めるエミリオは、情けない己の現状に弱々しい声を上げた。
この時のシシュの表情。
「kyukyukyu……」
ドヤ顔である。
それはもう、憎たらしいまでの。
エミリオはマスク越しである為、その小憎たらしい表情は見えず、ただ頭を下げるのみだった。
「うぅ……よ、よし。もう、自分で歩けるから」
「krr!?」
とはいえ、体液を全て吸い尽くさんばかりに口淫したのに、もう回復しつつあるエミリオに驚くシシュ。
やはり一筋縄ではいかない。
マスクの中で緩めた表情を引き締め直す異星の乙女。
完全勝利には、まだまだ時間がかかるだろう。
同時に、やはりこの愛しい愛しい雄は、自分が見込んだ通りの雄だと再確認していた。
異常なまでのタフネス、そして自身の種族とはかけ離れた異形であるはずの自分を、とことん愛し慈しんでくれる心。
「krr……エミ……」
「シシュ?」
ぎゅっと、両の腕でエミリオを包むシシュ。
胎内にこの愛しい雄との“新しい命”を授かった事を、本能で察知していた乙女。
ああ、きっと、エミリオは良い父親になるだろう。
逞しい子供を、二人で育てるのだ。
乙女は完遂すべき未来に想いを馳せる。
氏族がなんだ。
サーペントがなんだ。
ニンゲン共の軍隊がなんだ。
墓荒らし共の人形がなんだ。
もはやそれらの障害は、シシュにとってさしたる障害では無くなっていた。
エミリオと、幸せに暮らしていく事だけ。
それだけが、シシュにとって最大の願いであり、それは初めて出会った時から全く変わらない想いだった。
「スキ……」
「え……」
溢れる想いを抑えきれず、ぎゅうぎゅうとエミリオを抱き懐きながら、短く愛を囁くシシュ。
「……僕も、好きだよ。愛してる」
「krr……」
エミリオはシシュの大きな背中に腕を回し、力強い抱擁を交わす。
エミリオもまた、シシュと想いを同じくしていた。
そして、その想いが真剣なものであるが故に。
「シシュ」
「krr?」
エミリオはシシュに抱きつきながら顔を上げる。
まっすぐに視線を向けるエミリオに、シシュもまたマスク越しに視線を返した。
「決着をつけよう」
「……grr!」
エミリオの言葉に力強く頷くシシュ。
お互い、何もかもを捨てて逃避行に走るには、いささかしがらみが多すぎる。
だから、それらと決別する為にも。
ここで大暴れする必要があった。
「シシュ、姉さん達は……」
「grr!」
シシュがコンピューターガントレットを操作すると、宙空にホログラムが投影される。研究施設内部の映像が浮かび上がると、クリーナーと思われる光点が動いていた。
そして、それは徐々に施設の中心部へと移動しているのが見て取れた。
「行こう!」
「grr!」
コンビスティックを構え直し、姉達の援軍へと向かうエミリオ。
その足取りはしっかりとしており、迷いはない。
乙女はそれに頼もしさを感じつつ、自身もまたスラッシャー・ウィップを掴みながら後へ続いた。
「シィッ!」
気合一閃。
サムライソードがアンドロイドの頸部を断ち、白い液体が噴水のように湧き出た後、戦闘機械としての機能を停止させた。
「grr!」
その横では、厳つい顫動音と共にリストブレイドが煌めき、アンドロイドの頭部を縦に割れる。
これもまた、白い体液を撒き散らしながら、その活動を停止させた。
「やるじゃん!」
「grr」
どこか嬉しそうにそう言いながら、研究施設内を暴れまわる海兵中尉リン・クロサワ。
即席タッグパートナーとなったプレデター・クリーナーは、煩わしそうな顫動音を返すのみだった。
「チッ!」
全力で走りながらアンドロイドと戦闘を続ける海兵と狩人。
しかし、自分たちが陽動であるのを理解しているからか、自分たちが猟犬に追い込まれた狼であるのも自覚していた。
「クソッタレ!」
「grr!」
絶え間なく降り注ぐライフルの火線を避けていく内に、リンとクリーナーは広い場所──研究施設内屋上へと続く、大きな貨物エレベーターへと辿り着いていた。
「雪隠詰めね。これからどうする?」
「……」
そこかしこに積まれたカーゴコンテナに身を隠しながら、リンは傍らにいるクリーナーへと口角を歪ませていた。
クリーナーはマスクのセンサーを稼働させ、周囲に複数の戦闘アンドロイドが布陣しているのを確認する。
完全に包囲されている。
リンに言われるまでもなく、クリーナーにとってそれは既知の事実であり、問題はどうやって突破口を見出すかに尽きた。
「む?」
「……」
ふと、それまで間断なく降り注いでいた銃撃が止む。
何事かと周囲へ視線を這わせる前に、リン達へ向け抑揚の無い声が響いた。
「大したものだな。プロの兵隊と凄腕のハンターのコンビというものは」
声がする方向は、リン達の頭上、十数メートルは離れた所だった。
視線を向けると、タラップにトレンチコートを着た一人の男が、忌々しげにリン達を見下ろしていた。
彼の両側には戦闘アンドロイド達が何体か警護しており、少し離れた所では金髪のアンドロイドが、無表情にリン達を俯瞰していた。
「ああ、よくやった、よくやってくれたよ。君たちのおかげで計画の進捗が15%も遅延してしまった」
そう言って、トレンチコートの男──ビショップは、タラップの手すりを握る力を強める。
「だがそれももう終わりだ。せめてもの情けだ、大人しく投降すれば赤十字条約に則った人道的な捕虜待遇を約束しよう」
「ハッ」
投降を促すビショップに、リンは鼻で笑って応える。
命の保証はどこにもないのに加え、隣にいる人外にも人間のルールを適用しようとするビショップに笑いが抑えられなかったのだ。
「……」
当然、クリーナーもビショップの提案を真に受ける事は無い。
もっと言えば、彼はクリーナー……氏族の墳墓を穢した張本人であり、抹殺対象に投降するような趣味は持ち合わせていなかった。
「聞き入れてくれないかね。こちらとしてもこれ以上無駄な血を流したくない」
「アタシを捕虜にしても外の仲間は止まらないわよ。むしろ、容赦なく攻撃を再開するでしょうね」
「外の海兵隊は我々の部隊と睨み合っている最中だが、それも長くは保たない。ゼノモーフは我々を攻撃しない。しかし、君たち海兵隊はその限りではない。君が投降すれば、外のお仲間も我々が
「あほくさ」
露骨な時間稼ぎだ。
そう判断したリンは、それ以上ビショップと問答を続ける気は起こらなかった。
しかし、何を待っているのやら。
ロケットランチャーでも持ってきて、コンテナごとアタシ達を吹っ飛ばす気かしら?
「grr……」
そう思っていると、クリーナーが険しげに顫動音を鳴らす。
コンピューターガントレットを操作していたクリーナーは、やむを得ないといった体で首を横に振った。
「何よ。本当に投降する気? アンタ厳つい風体の割に随分とケツの穴が小さいわね」
「……」
随分な言い草だが、もとから投降するつもりはクリーナーにもない。
首を振ったのは、クリーナーがあるシグナルを氏族の母船へ発したからだ。
「これ以上は待てない。投降するか、このまま死ぬか。今すぐ選びたまえ!」
「……仕方ないわね。運が良かったら死なずに済むかも。覚悟はいい?」
「……」
しびれを切らしたかのように声を荒げるビショップ。
その直ぐ後ろで、戦闘アンドロイドの一体がカチューシャ6対人ロケットランチャーを担いで来るのを見留めたリンは、破れかぶれの特攻をクリーナーへ提案していた。
そして、その直後。
「なッ!?」
ビショップの驚愕の声が響く。
ロケットランチャーを担いだアンドロイドが、彼方より飛来したコンビスティックに貫かれ、文字通り田楽刺しとなり壁面へ打ち付けられた。
「うぐあッ!?」
すわ敵襲かとアンドロイド達が身構えるも、主であるビショップの身体が宙空に
傍らにいたウォルターは、陽炎のような何かが、ビショップの首を締め上げているのを知覚していた。
「……エミリオ少尉。いつの間に」
まったく大したものだ。我々に気付かれずに背後を取るとは。
流石、マスター黒澤の薫陶を受けただけはある。隠形にも長けているのだろう。階下の通路から気配を殺し、ここまで素早く登ってきたのだろうか。
そう冷静に分析をするウォルター。
視線の先に、右目を白濁とさせ、半裸となった青年がいた。
少しばかり頬が痩けていたが、左目には十分な生気が宿っていた。
「シシュ、こっちへ」
「grrr!」
光学迷彩を解除し、シシュが姿を現した。
片手でビショップを拘束しながら、タラップの端に立つエミリオの元へ駆け寄る。
「ぐっ……! ク、クソ! 離せ……!」
「形勢逆転だビショップ。姉さん達の包囲を解除しろ」
「ぐう……!」
乙女の逞しい腕に拘束されたビショップ。首根っこを捕まれたまま悪態をつくも、それ以上の抵抗は出来ずにいた。
「エミリオ少尉。ビショップ様を解放する事をお勧めします。貴方達だけでは、この状況を覆す事は出来ない」
「ウォルター、君と話をしている暇は僕には無い。早くアンドロイド達へ引くように指示を出すんだ!」
「ぐ……!」
機械的な言葉を発するウォルターを一瞥し、エミリオはビショップへ語気を荒げる。
苦しそうに呻くビショップは、憎々しげにエミリオへ視線を返していた。
「早く──!?」
エミリオがそう言った瞬間。
赤い照射線──“∴”の照射が、シシュの腕へと当てられた。
「シシュッッ!!」
「grr!?」
思い切りシシュを押しのけるエミリオ。
直後、プラズマ弾が射出される砲撃音が鳴る。
そして、乙女の代わりに、エミリオの左腕が弾け飛んだ。
「があああああッッ!!」
「ッッッ!?」
たたらを踏み、ビショップの拘束を解いたシシュは、目の前の光景に大きなショックを受けていた。
タラップの床に突っ伏し、千切れた左腕を押さえるエミリオ。
「エミッッッッ!!!」
乙女の動きは素早かった。
即座にエミリオへ駆け寄り介抱する。
「エミッ! エミッ! エミッッ!!」
「ぐううう……!」
しかし、応急処置もままならぬ現状。
乙女は必死で伴侶の名を叫ぶ事しか出来ず、その黄土色の皮膚を愛する男の体液で赤く染めていった。
「……遅かったな」
シシュの拘束から逃れ、ウォルター達アンドロイドの元へ逃げおおせたビショップ。
しかし、彼は首元をさすりながら、配下のアンドロイド達とは全く別方向──虚空へと話かけていた。
「いえ、予定通りですよ。こちらとしても恩を売るタイミングというのがありますから」
「ふん……」
紫電を纏わせた陽炎が、ビショップへと言葉を返す。
電子的な音を交えながら、陽炎が実体化を完了させると、2メートルほどの体躯、鋼鉄の鎧が現出した。
その造形は、シシュやクリーナーによく似ており──そして、同様の装備を身に着けたプレデターを殺す鎧。
“プレデターキラー”の姿が現れていた。
「ジェイコブ・マッケナと申します。所属は対異星人機関スターゲイザー。海兵隊よりは役に立ちますよ」
「そうみたいだな。早速仕事をしてくれると助かる」
「ええ。ご期待に応えましょう」
仮面の下でやや陽気な声を上げるプレデターキラー──ジェイコブは、再びプラズマキャノンの照準をシシュへ向ける。
シシュやクリーナーが装備するプラズマキャノンより長く、戦闘艦艇のレールガンにも似た形状のそれは、正確にシシュの頭部へ砲口を向けていた。
「悪いが、これも仕事なんでね」
「……ッッ!!」
苦しむエミリオの傍らで、シシュはマスク越しにジェイコブを睨む。
ジェイコブもまた、マスク越しにシシュを見つめるが、その表情は伺い知れなかった。
「死──」
しかし、処刑を実行しようとしたその時。
「ッ!!」
正確無比な銃撃が、ジェイコブのプラズマキャノン、その砲口へ叩き込まれた。
深刻な損傷、とまでは行かないが、プラズマキャノンはチャージしていたエネルギーを喪失し、照準レーザーも明後日の方向を向く。
「うおッ!?」
そして、飛来する一振りの刀。
神速で放たれた一本刀は、プレデターキラーの装甲を貫通し、ジェイコブの肩へ深々と突き刺さっていた。
「エミィィィィ!!!」
眼下で猛烈な勢いで駆ける女兵士。
脚部が猛烈に膨らんだかと思うと、一気に跳躍する。
「らあああああッ!!」
「ぐぁッ!?」
巨大なバッタが跳躍するかのように、リンがジェイコブの前へと降り立つ。
そのまま一気に距離を詰め、鋭い下段回し蹴りを放つ。
100kgはゆうに超える装甲を軽々と転ばし、そのまま突き刺さった刀の柄を掴んだ。
「シィィりゃあああッ!!」
「うおおおおッッ!?」
そして、腹の底から気合を入れると、背負投げの要領でプレデターキラーを担いだ。
「集落投ッッ!!」
豪快な投げ。
リンはジェイコブを巻き込むように、タラップを超えて十数メートル落下する。
鋼鉄合金とカーボン複合素材で拵えられた床面に思い切り叩きつけられたジェイコブは、装甲の下で一瞬意識を飛ばしていた。
「何をしている! 奴らを殺せ!!」
ビショップの激声が響く。
一瞬の隙を突かれ、リンの接近を許してしまったアンドロイド達へ苛立ちを向けていた。
「うおっ!?」
しかし、声を発した直後、隣にいた戦闘アンドロイドの頭部が吹っ飛ぶ。
見ると、プラズマキャノンの照準を向けたクリーナーの姿。
「下の連中は何をしている!」
そのようなビショップの声は虚しいものだった。
一瞬の隙を突いたのはクリーナーも同様。
備えていたレイザーディスク、シュリケンを猛然と射出。
階下で包囲をしていたアンドロイド達を、まるで射的の的のように次々と打ち倒していた。
僅かの間で配下のアンドロイド達、その大半を倒されたビショップは、額に脂汗を流しながら奥歯を噛み締めていた。
「ビショップ様、ここは危険です」
「くそっ!」
ウォルターに促されたビショップは、表情を歪めながら僅かに残った手勢を引き連れ、研究施設内の深部へと撤退していった。
「クソッタレ!」
「くっ!?」
プレデターキラーの中で悪態をついたジェイコブは、自身に跨るリンを殴りつける。
ガードごとリンを吹っ飛ばすと、プレデターキラーは駆動音を鳴らしながら轟然と立ち上がった。
プレデターキラーの装甲から短刀を引き抜き、床へ捨てる。
肩部から赤い血を流すジェイコブは、そのままリンへ向け義憤とも言える感情をぶつけた。
「貴様ら! 何故異星人に味方する!?」
「知るか馬鹿タレ!」
しかしリンはジェイコブの言葉を一蹴すると、床を蹴り上げて再び距離を詰めるべく駆け出す。
迎え撃つべく再びプラズマキャノンの照準を合わせるジェイコブ。
チャージは完了しており、“∴”がリンの額に合わせられた。
「ッ!?」
しかし、爆裂音が鳴ると、プレデターキラーのプラズマキャノンは機能を喪失した。
クリーナーのプラズマキャノンだ。
「舐めるなよ!」
体勢を崩しながら、ジェイコブは冷静に反撃を繰り出す。
腕部に装着されたネットランチャーをクリーナーへ射出。
「grr!?」
予想外の反撃を受け、クリーナーはネットランチャーをまともに喰らってしまう。
壁面へ縫い付けられ、特殊繊維で編み込まれた鋼線が黄土色の体皮へ食い込む。
緑色の血液を流しながら、クリーナーは同族と同じ装備を持つプレデターキラーの戦力を見誤っていた事を恥じた。
以前、氏族の一人が、“悪しき血達”の野望を止めるべく、エンジニア達の遺産を用い作り上げた地球人用の戦闘装具“プレデターキラー”。
彼は地球を植民地化しようと企む“悪しき血達”に反抗し、プレデターキラーを地球へ送り届け、その後遺伝子改造を施した
もっとも、彼は地球を植民地にするより、地球はあくまで良質な“狩場”として保持するべきとの信条を持っていたが故、その行動原理は慈愛によるものではなかった。
「grrrr!!」
肉に食い込む鋼線に耐えるクリーナー。
まったく、容赦のない装備を拵えたものだ。下手な氏族の戦士より優秀じゃないか。
地球で散ったフュージティブ・プレデターへそう恨みを向けるクリーナーは、腰部に装着したレイザーディスクへ必死に手を伸ばし続けていた。
「くっ!?」
しかし、このクリーナーの犠牲は無駄ではなく。
ネトランチャーを射出したプレデターキラーへ接近したリン。
ピタリとその装甲へ、己の両拳を当てた。
「双剄破!」
「ぐわぁッ!!」
氣当てだ!
黒澤流の秘奥、古流武術の極地。
「ガハッ!!」
血反吐を吐き倒れたジェイコブ。
内蔵を痛めつけられたせいか、床面をのたうち回り悶え苦しむ。
「終わりよ!」
打ち捨てられた短刀“鬼包丁”を拾い、リンはプレデターキラーへ吶喊する。
止めを刺すべく、プレデターキラーの心臓部へと狙いを定め、短刀を突き入れようとした。
「ガァッ!!」
「ッッ!?」
しかし、ここでもジェイコブは冷静な反撃を繰り出す。
ネットランチャーを射出した腕部から、更に別の兵器を射出。
スピアガンだ!
驚異の身体能力を持つリンでも、特殊合金の鏃を至近距離から射出されれば躱しきれるはずもなく。
「ぐああッ!!」
咄嗟に頸部、心臓部を腕でガードするも、複数の鏃が海兵乙女の腕に突き刺さる。
生身の部分を抉られたリンは、赤い鮮血を撒き散らしながら床へ倒れた。
「ぐ……こ、今度こそ形勢逆転だな……!」
「うぅ……!」
「grr……!」
ゆるりと立ち上がるプレデターキラー、ジェイコブ。
マスクの中で盛大に吐血したせいか、マスクの異物排出機能が作動しており、両目部分からダラリと血液が流れている。
まるで血涙の如き有様であるが、ジェイコブ自身はそこまで感情を昂ぶらせているわけではなかった。
これは、仕事だ。
先祖代々続く義務であり、つまらない仕事。
淡々と片付けるのみである。
「死ね」
再起動したプレデターキラーのプラズマキャノン、その照準が、再びリンの頭部へと合わせられる。
もはや、リンの命は風前の灯火といえた。
「クソ……!」
だが、リンの目は死んでいなかった。
闘志をむき出しにし、プレデターキラーを睨みつける。
しかし、どうあがいても状況をひっくり返すような策は思いつかなかった。
クリーナーは未だ壁に縫い留められている。
エミリオは片腕を喪い、シシュも動けない。
ああ、ちきしょう。
もう少し、もう少しだったのに。
諦観の念が僅かに浮かぶも、やがてリンの視界は赤い照準光に照らされ、赤く染まっていった。
「krrr……エミ、エミ……!」
階下でクリーナーとリンがプレデターキラーと死闘を繰り広げていた最中、シシュは哀れみを誘うような弱々しい声を発し、エミリオの傷口を必死で押さえていた。
「ぐうう……!」
「エミ……!」
苦しげに切断された腕を押さえるエミリオ。
切断面はプラズマ弾の暴威に晒され、赤黒い肉を剥き出しにしている。
千切れた腕は無残に転がっており、シシュは痛ましい想いに苛まれていた。
「krr……!」
しかし、文字通り腹が据わった乙女は、今出来る処置をエミリオへ施していた。
自身の腕に巻かれた大切な思い出。
幼少期のエミリオが巻いてくれた、色あせたハンカチーフ。
一瞬、淡い想いがシシュの胸に沸き立つも、即座にハンカチを解き、本来の持ち主、その腕へときつく巻いた。
不幸中の幸いなのか、それだけでエミリオの出血は止まっており。
プラズマ弾は質量弾ではなく、高熱のエネルギー弾である。
つまり、命中したと同時に傷口はある程度焼灼され、出血は少なかったのだ。
とはいえ、腕部を切断されたという重傷であるのは変わらないが。
「シシュ……怪我は無い……?」
「エミ……!」
エミリオはそのような重傷を負っても、あくまでシシュを心配していた。
残った右手で、シシュのマスクを優しく撫でる。
シシュはエミリオの手を握りながら、キュウと安堵が混じった鳴き声をひとつ上げる。
とりあえず、伴侶の命は繋がった。
それだけが救いだった。
「ぐああっ!」
「ッ!」
直後、階下でリンの悲鳴が聞こえた。
即座に視線を向けると、被弾し、血を流しながら倒れるリンの姿。
そして、壁面に縫い留められているクリーナーの姿。
「grr!」
加勢に向かわなければ。
そう思い、腰を浮かせるシシュ。
だが、即座に身体を硬直させる。
傷ついたエミリオを置いていくのか?
そんなことは出来ない!
「kyuu……!」
困ったように情けない鳴き声を漏らすシシュ。
刹那の瞬間、愛する男が、乙女の“枷”となっていた。
「シシュ……!」
そのような乙女の姿を見て、エミリオは丹田に力を込めた。
「グッ……!」
「エ、エミ!?」
シシュの肩に捕まりながら身体を強引に起こす。
傷口から血が溢れかけ、ハンカチを赤く染め上げる。
シシュは狼狽するも、エミリオへと肩を貸し、立ち上がる伴侶を支えた。
「シシュ、僕に構わず姉さん達を──」
そして。
エミリオがそう言った瞬間。
「うおおおおおおおッッ!!??」
プレデターキラー──ジェイコブの驚愕の声が響き渡る。
「なっ!?」
「grr!?」
エミリオとシシュは、階下に現れた
「kishaaaaaaaaaaaaッッ!!」
僅かの時間で驚異的な成長を遂げた異形。
咆哮と共に、2メートルを超える巨体をプレデターキラーへぶつける。
完璧な生命体、ゼノモーフ。
無敵の生命体、プレデター。
その両方のDNAを併せ持つ、兇悪の異形生命体。
シシュから産まれ出たプレデリアン。
プレデターキラーへ、その闘争本能を剥き出しにしていた。