※この作品はR-18です。

プレデター♀のおよめさん   作:範馬勇太郎

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Chapter3.『Descent』

 

「では、これより作戦要項を説明する」

 

 アスタミューゼ号ブリーフィングルームにて、植民地海兵隊第501大隊の各指揮官が集まっていた。

 大隊作戦主任のアンダーソン大尉がスクリーンの前にて後ろに手を組み、居並ぶ将校達をじっとりとした瞳で睥睨していた。

 

「まず、事前に通達した通り、惑星BG-386は正体不明の武装組織の襲撃を受けた。3週間前に救援要請が入って以降、現地との連絡は途絶している」

 

 アンダーソン大尉の説明を聞く501大隊の士官達は一様に真剣な表情でスクリーンを見つめている。

 エミリオは隣に座るチャーリー中隊第2小隊長ジェイムズ・キャロン少尉がせわしなく膝を揺すっているのを見て、小声で声をかけた。

 

「キャロン少尉、行儀が悪いですよ」

 

 エミリオの言葉に、キャロン少尉はジロリと視線を向けるも、直ぐに膝を揺らすのを止めた。

 アンダーソン大尉の説明は続く。

 

「BG-386の施設は大まかに3つに分かれている。希少鉱物の精錬所、その希少鉱物や惑星で採取された植物の研究施設、そしてそこで働くウェイランド社の社員とその家族が住む居住区だ」

 

 スクリーンに投影される施設の概要を見つめる士官達。

 エミリオはBG-386の研究施設が映し出されると、鉱物や植物の研究施設にしてはやけに大掛かりで物々しい施設の姿に僅かに眉をひそめていた。

 

「BG-386はウェイランド社の治安部隊が警護していたが、これらの部隊は恐らく全滅したと思われる。事前の軌道上からの高高度偵察も行ったが、施設は戦闘による損傷はほとんど見受けられない。敵勢力の火力はそこまで高くはないと思われる」

 

 アンダーソン大尉の不可解な説明に居並んだ士官達は一斉にざわめく。

 どうにもあやふやな説明に、エミリオもまた訝しげな表情を浮かべていた。

 

「各施設とも連絡は取れない状況だ。敵対勢力に生存者が人質に捕らわれている可能性もある。そこで、大隊の3つの中隊はそれぞれの施設に強襲をかけ、施設奪還、人質がいた場合その救出に当ってもらう」

「治安部隊を全滅させた奴らに1個中隊だけで突っ込めっていうの……」

 

 エミリオは前に座る501大隊ブラヴォ中隊長マリア・コンチータ大尉がボソリと呟くのを聞いた。

 コンチータ大尉は短めに切りそろえた自身の髪を苛立たしげに掻いており、アンダーソン大尉を憎々しげに睨みつけていた。

 

「ブラヴォ中隊は精錬所、チャーリー中隊は居住区、大隊長直卒のアルファ中隊は研究施設の奪還に赴いてもらう。ここまでで何か質問は?」

 

 アンダーソン大尉の説明が終わると、一斉に士官達は挙手した。

 アンダーソン大尉は先程から強烈な視線を送るコンチータ大尉に発言を促す。

 

「敵戦力の詳細は?」

「不明だ。だが、治安部隊にはアンドロイド部隊……失礼、ヒューマノイド部隊も駐屯していた。それらを制圧できるだけの戦力は保持していると思われる」

 

 ブリーフィングルームの奥に佇むヒューマノイド達に視線を向けつつ、アンダーソン大尉はコンチータ大尉に応える。

 その言葉を聞き、士官達はより一層ざわめき始めていた。

 

「こちらの支援は? ドロップシップ(降下艇)の空爆による援護は受けられるのですか?」

「ドロップシップからの上空支援は期待しないでもらいたい。惑星施設を損傷せずに奪還せよと海兵隊総軍(・・・・・)からのお達しだ。代わりといっては何だが、今回の降下はAPC(装甲兵員輸送車)に搭乗した状態で降下してもらう。APCからの火力支援を有効に活用してもらいたい」

「論外だわ……」

 

 コンチータ大尉の言葉に同調するかのように士官達は異口同音に不満を口にする。

 十分な支援を受けられない状態で、このような作戦を実行する事はまさに自殺行為としか思えなかった。

 

「諸君。不満はもっともだが、我々は誇りある海兵隊だ。そして、練度十分な諸君ならこの理不尽に打ち勝つ事が出来ると私は信じている」

 

 先程から顰めっ面で作戦概要を聞いていたレン少佐が言葉を発する。

 レン少佐の言葉を受け、士官達は不満の声を飲み込んでいた。

 

「とはいえ、当然ながら諸君を無駄死にさせるつもりは毛頭無い。施設奪還が困難と判断したら即座に各中隊はドロップシップで母艦へと撤退しろ。撤退の判断は各中隊長に一任する」

 

 レン少佐の言葉に今度はアンダーソン大尉が顔を顰める。

 とはいえ、アンダーソン大尉もいくらウェイランド社の意向があるとはいえこの作戦に無理がある事は十分に承知していた為、レン少佐の言葉に特に異論を挟む事は無かった。

 レン少佐に続き、艦長のヴェレス中佐も口を開いた。

 

「諸君。アスタミューゼは常に諸君らの頭上にいる。大隊がたとえ最後の一人になろうとも、私は海兵隊軍人として諸君らを絶対に見捨てない。海兵隊に栄光あれ」

 

 ヴェレス中佐が言葉の終わりに海兵隊式の敬礼を行う。第501大隊士官達はそれを受け、一斉に起立し敬礼を返した。

 

「以上で作戦要項の説明は終了する。7時間後に各部隊は降下デッキに集合、装備の点検後に降下を開始しろ」

 

 アンダーソン大尉の締めの言葉を受け、士官達はぞろぞろとブリーフィングルームを後にする。

 エミリオもブリーフィングルームから退出しようとすると、丁度コンチータ大尉から声をかけられた。

 

「あなたがエミリオ・クロサワ少尉ね。私はマリア・コンチータ大尉よ。よろしくね」

「はっ! 大尉殿。よろしくお願いします」

 

 敬礼し、やや緊張気味に返事をするエミリオをコンチータ大尉は微笑を浮かべて見つめていた。

 

「そうかしこまらなくていいわ。私はあなたのお姉さんとちょっとした知り合いなの」

「リン姉ぇ……失礼、姉のリン・クロサワ中尉をご存知で?」

「ええ。士官学校で同期だったのよ」

「それは……さぞかしご迷惑を……」

 

 思いもがけず、姉の知り合いが同じ部隊にいた事に、エミリオはますます緊張の度合いを高めていた。

 恐縮するエミリオに、コンチータ大尉は瀟洒な笑い声を上げた。

 

「ふふっ。まぁ苦労はしたけど楽しい思い出だったわ。それにしても、珍しい名字だから気になって調べたら、まさかあの子の弟が同じ部隊に配属されているとは思わなかったわ」

「自分も姉の知り合いがいるとは思いませんでした」

「リンは元気? もう何年も会ってないから気になって。あの子はスペシャル・フォースに所属しているのよね?」

「はい。たしか第13独立部隊に配属しているはずです。ただ、自分も士官学校に入学してから一回も会っていませんので詳しくは……それに、会えば色々言われますし……」

 

 伏し目がちにやや顔を曇らせるエミリオを見て、コンチータ大尉は同情しつつ、姉弟の会話が容易に想像できて再びくすりと笑いを上げた。

 

 しばらく恐縮するエミリオを弄っていたが、やがてコンチータ大尉はその美麗な顔を引き締め、真剣な眼差しでエミリオに言葉をかけた。

 

「エミリオ少尉。今回の作戦は何かおかしいわ。大隊長や艦長までがあんな事言うなんて今までなかった」

「はぁ。確かに、ドロップシップからの支援が受けられないのは厳しいですが……」

「支援有り無しなんて関係ないわ。あなたはまだこの大隊に来て日が浅いけど、大隊長が事前に撤退を許可するなんて今まで一度も無かった」

「それは……」

 

 コンチータ大尉の言葉にエミリオは困惑した表情を浮かべる。

 コンチータ大尉はエミリオに話しかけつつ、ブリーフィングルームの隅にてアンダーソン大尉とホープ大尉が何事かをヒソヒソと話をしているのを見て、眉をひそめながら言葉を続けた。

 

「エミリオ少尉。決して英雄になんてなろうとしないで。それと、部下を、仲間を見捨てない事。それからホープ大尉には気をつけなさい。いざとなったら私の中隊に合流しても良いわ」

「は、はぁ……」

 

 コンチータ大尉はそこまで言い終えると、エミリオの肩をポンと叩き、降着デッキへと向かう。

 残されたエミリオは暫し佇んでいたが、コンチータ大尉の言葉をしっかりと胸に刻み、自身も降着デッキへと向かって行った。

 

 

 

──────────────

 

 USSアスタミューゼ降着デッキ

 

「ようし! 整列しろ!」

 

 アーメイ軍曹の裂帛の気合の元、チャーリー中隊第3小隊の面々が居並ぶ。

 全ての準備を整え、完全武装で臨む兵士達の表情は男女関係なく精悍な面構えを見せていた。

 

「いいか! ここまで来たのは敵を根こそぎぶち殺す為だ! 貴様らは何だ!」

「「「海兵隊だ!」」」

「そうだ! 貴様らに敵などいない! さぁいくぞ出撃だ!」

「「「Yes sir!」」」

 

 アーメイ軍曹の気合と共にAPCのドアが開かれた。

 屈強な海兵隊員達が続々とAPCに乗り込み、席につく。

 同じような光景が降下デッキの各所で見受けられ、デッキは異様な熱気に包まれていた。

 エミリオもまた兵士達に続きAPCに乗り込み、指揮官席に着席した。

 

「いいぞ。ロス一等兵、APCを発進させてくれ」

「了解致しました」

 

 エミリオの指示を受け、リッコ・ロス一等兵がAPCを操縦しドロップシップのカーゴ内へと進入させる。

 APCがカーゴに収まると、ドロップシップのエンジンが唸りを上げて点火した。

 

「ヴィラノ伍長。APCの格納が完了した。降下準備に入れ」

『了解しました。降下準備に入ります』

 

 操縦士のユリア・ヴィラノ伍長がドロップシップを操縦し、アスタミューゼのデッキ射出口へ機体を固定する。

 ガクン、と機体が揺れ、降下の準備が整った。

 

『APCの準備確認願います』

「パクストン、全員のロックを確認しろ」

 

 パクストン上等兵がアーメイ軍曹の指示を受け、小隊全員の座席ロックを確認する。

 ロックを確認する度に、興奮気味に兵士達を鼓舞していた。

 

「いよいよ戦争だぜ皆! いつでもかかってきやがれってんだ!」

「いいぞ! パクストン!」

「その意気だぜ!」

 

 APC内は兵士達の熱気に包まれ、その士気はまさに最高潮へと達していた。

 パクストンは全員の座席ロックを確認し終えると素早く自身の席につき、意気揚々とロックを下げた。

 

「よおチャベス、この前よぉ、彼女のアソコに鼻突っ込んでこう言ったんだ。『オオッ、ホントにでけえな! オオッ、ホントにでけえな!』って。なんで二度も言うのよって聞くから、『言ってねえよ』って」

「……」

「へヘっわかるか? 二度目は()()()だ」

「……フフ、フハハハハハハハハッッ」

 

 パクストンは隣に座るチャベス上等兵へ、そう小粋な下ネタを飛ばす。

 耐えきれぬ、といった風に、チャベスは豪快な笑い声を上げていた。

 

「ほんと最低な男共ね。そう思わないスコット?」

「そうね……チャベスったら、黙っていればクールなのに……」

 

 その様子を呆れたように見やる小隊の女性陣。

 カリロ上等兵は隣に座るスコット一等兵に同意を求めるように言い、スコットは下らない下ネタに弱いチャベスの姿を、なんとも残念そうに見つめていた。

 

「野郎ども! 地獄行きのフリーフォールだぜぇ! いざしゅっぱぁつ!」

「パクストン! いい加減その喧しい口を閉じろ! 舌を噛むぞ!」

 

 エアロックが開かれ、ドロップシップが降下姿勢に入る。

 眼下にある惑星BG-386は不気味な程灰色な雲に覆われていた。

 

『降下秒読み開始します……3、2、1、降下』

「イヤッホオオオオオオウ!!!」

 

 パクストンの叫びと共に、ドロップシップが勢い良くアスタミューゼから射出される。

 複数あるアスタミューゼの射出口から、第501大隊のドロップシップが続々とBG-386へ向け降下を開始していた。

 

 

 

「大気圏突入……進路異常なし。カートライト、レーダーをDCSに切り替えて」

「了解」

 

 操縦席でヴィラノ伍長が副操縦士のカートライト上等兵に指示を出す。

 二人の操縦士が操るドロップシップは順調に惑星施設へ向けて飛行していた。

 

「乱気流に突入。少し揺れるわね」

「目標周辺の天候は大荒れです。これは着陸も苦労しそうだ」

「カートライト。この程度の天候で根を上げたらドロップシップの操縦士は務まらないわよ? 順調に飛行中!」

 

 激しく揺れるドロップシップを余裕の表情で操舵するヴィラノ伍長を見て、カートライト上等兵はにやりと口角を上げる。

 海兵隊では女性操縦士は得てして軽く見られがちであったが、ヴィラノ伍長に限ってはその心配はなさそうだと、カートライトは改めてその腕前に感心をしていた。

 

「それに、お客さんも乗っている事だしね」

 

 ヴィラノ伍長は副操縦席の後ろに座るヒューマノイドのウォルターをちらりと見やる。

 目があったウォルターはヴィラノ伍長に向け無機質な笑顔を浮かべていた。

 

「よぉ……なんだか今回は嫌な予感がするぜ」

「またかよマシューズ。お前降下する度に同じ事言ってんじゃねえよ」

「わかったよ、俺が生き残ったらお前の立派な墓を立ててやるよ」

「へっ、抜かしてろ」

 

 APC内では第3小隊の兵士達が互いに軽口を叩きあっていた。

 降下に慣れたその様子に、エミリオもまた兵士達に感心しつつ頼もしい兵士達の表情を見つめていた。

 ライバック伍長にいたっては揺れる機内など全く気にならないのか、座席に深く腰をかけ口を半開きにして眠りこけていた。

 

『目標まであと5分』

「よし準備しろ! 着陸5分前だ! 急げ! あと誰かライバックを起こせ!!」

 

 アーメイ軍曹の号令の元、兵士達は座席のロックを上げそれぞれの銃器を構える。

 ピンと張り詰めた空気の中、エミリオも自身のM-41A2パルスライフルを構え着陸に備えた。

 

『少尉。中隊長から通信が入っています』

「了解した。繋いでくれ」

 

 エミリオが機器を操作すると、APC内にホープ大尉の声が響く。

 ホープ大尉の声を聞いた瞬間、兵士達は露骨に表情を顰めていた。

 

『少尉。事前に通達した通り第3小隊は居住区管制エリアへ降下しろ。第2小隊は居住区中心部、我々第1小隊は中隊のドロップシップ降着場を確保すべく居住区外周へ降下する。事前の偵察では敵影は見受けられないので対空射撃の心配はしなくていいぞ』

「了解しました。管制エリアを確保します」

 

 エミリオは通信機器を操作し終えると、座席の背もたれに凭れ掛かり溜息を一つ吐く。

 どうにも、食堂での一件以来露骨に嫌われてしまったようだと思い、兵士達をそれに付き合わせてしまっている事に罪悪感を感じていた。また、それにより兵士達の士気が低下している事を心配していた。

 

「また中助がへたれてやがるぜ」

「絶対に安全にならないと前線に出やがらねえからな。ちったぁ前に出て指揮してみろってんだ」

「ほんと、嫌な野郎だよ」

 

 しかしエミリオの心配を他所に兵士達は口々にホープ大尉に毒づくも、その瞳の闘志が萎える事はなかった。

 

『目標上空です。着陸前に目標上空を旋回します』

「了解した」

 

 ドロップシップが居住区管制エリアの上空を旋回する。

 エミリオとアーメイ軍曹はモニタで管制エリアの様子を伺っていた。

 

「防風シャッターが降りているな」

「電気も生きているようです。人の気配が無いですな……」

 

 居住区管制エリアの外灯が煌々と辺りを照らしている。

 建物に目立った損傷は無く、遺棄されたフォークリフト等の建設機器が散見されていたが、その周囲は無人でありエミリオはまるで打ち捨てられたゴーストタウンのようだと感じていた。

 

「よし。着陸して突入だ。待ち伏せの可能性もあるから十分注意して進もう」

「了解しました。よし! 貴様ら! 戦闘準備!」

 

 アーメイ軍曹の号令の元、兵士達は次々に座席から立ち上がり、武器を構える。

 エミリオはヘルメットに備え付けられたインカムを操作し、ヴィラノ伍長に指示を出した。

 

「ヴィラノ伍長。着陸後は速やかに離陸し、第1小隊が確保する降着場で待機してくれ」

『了解。いつでも迎えにいけるよう待機していますね』

『クロサワ少尉』

 

 ヴィラノ伍長の声に続き、ウォルターの声が聞こえる。

 エミリオはやや訝しげにウォルターに応えた。

 

「ウォルターか。どうしたんだ?」

『いえ……どうか、お気をつけて(・・・・・・)

「……了解した」

 

 不気味な程抑揚のないウォルターの声に、エミリオは少しだけ違和感を感じるも、やがてズシンッと機体が揺れた事で直ぐに意識を任務へと向けていた。

 

「よし。APCを発進させろ」

 

 ドロップシップのカーゴが開き、APCのエンジンが唸りを上げ、勢い良く発進する。

 居住区管制エリアのゲート付近に停車すると、アーメイ軍曹がAPCのドアを開け兵士達に激を飛ばした。

 

「ほら行け! モタモタするな! 素早く綺麗に散開しろ! クルス、コナー! 先行しろ!」

 

 APCから兵士達が勢い良く飛び出す。

 腰部に可動式アームで接続されたM56スマートガンを抱えながらクルス一等兵とコナー上等兵が先陣を切る。

 車外は風雨に曝されていたが、第3小隊の兵士達はそれを物ともせず、良く訓練された動きでゲート付近へと展開していた。

 

「ロス! いつでも発進できるようエンジンは切るなよ! 機銃もいつでも撃てるようにしておけ!」

「了解です!」

 

アーメイ軍曹はそこまで兵士達に指示を終えると、ちらりとエミリオを見やる。

 エミリオはパルスライフルを握りしめ、少しだけ緊張した面持ちを浮かべていた。

 

「少尉殿、我々も続きましょう」

「了解した。軍曹、僕は実戦経験が少ない。現場の指揮を頼むよ」

「はい。少尉殿。大船に乗ったつもりでいてください」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたアーメイ軍曹と共に、エミリオもAPCを降車し、ゲート付近へと駆ける。

 雨が強く降っており、昼間であるにも関わらず辺りは薄暗く、視界は非常に悪い状態であった。

 

「軍曹、あれを見てください」

 

 ライバック伍長がアーメイ軍曹に駆け寄り、管制エリアのゲートを指差す。

 アーメイ軍曹はヘルメットのバイザーを下ろし、ライバック伍長が指し示す場所をバイザー越しに見つめた。

 

「セントリーガンか」

「まだ動いてます。周囲に人はいません。グレネードで破壊しますか?」

「いや、裏から回って端末を操作し、無力化しろ」

「了解。パクストン、ついてこい」

「了解!」

 

 ゲートの正面にはUA571-Cオートメイテッド・セントリーガンが8基設置されており、銃身を左右に揺らしながらゲート正面に鎮座していた。

 アーメイ軍曹の指示を受けたライバック伍長とパクストン上等兵が遮蔽物に身を隠しながら素早くセントリーガンの後方へと回る。エミリオ達はセントリーガンの射線に入らぬよう身を隠しながら、二人を援護できるよう周囲を警戒していた。

 やがてライバック伍長とパクストン上等兵がセントリーガンの端末へと取り付く。

 パクストン上等兵がセントリーガンの端末を操作し、手慣れた手つきで射撃モードを解除した。

 

『軍曹。セントリーガンを無力化しました』

「よし。全員前進! 管制塔の入り口を確保しろ!」

 

 ライバック伍長の無線が入ると、アーメイ軍曹は小隊の前進を命じた。

 素早くセントリーガンが配置されている場所へと取り付いた小隊は、そのままゲートを潜り居住区管制エリアへと進入する。

 エミリオとアーメイ軍曹も続こうとしたが、未だセントリーガンの端末の前に佇むライバック伍長に呼び止められた。

 

「少尉、軍曹……どうも妙な事になってます」

「どうしたライバック?」

 

 ライバック伍長が不可解な表情を浮かべながらエミリオとアーメイ軍曹に声をかける。

 見ると、端末を操作するパクストン上等兵も怪訝な表情を浮かべていた。

 

「見てください。残弾表示がゼロです。このセントリーガンは既に全弾撃ち尽くしています」

「なんだと?」

「休み無く撃ちまくってますねぇ。8基全部、あっという間に弾切れ起こしてますぜ軍曹」

 

 パクストン上等兵の言葉を受け、エミリオとアーメイ軍曹はセントリーガンの射線の先に視線を向ける。

 雨で視界が悪かったが、よく見ると激しい射撃に晒された銃痕の跡が残るゲート付近の様子が見て取れた。

 

「セントリーガンが稼働していたのは2週間前ですねぇ。丁度、俺たちが出航したタイミングだ」

「よほど激しい攻撃があったみたいですね……重装甲車で突っ込んだのでしょうか?」

「いや、ここまで車両が進入できるスペースはなかった。装甲パワーローダーの侵攻を受けたのかもしれん」

「軍曹、このセントリーガンは強化徹甲弾を使用してますぜ。装甲ローダーなんて一瞬で蜂の巣にされますよ」

「それに、このセントリーガンは無傷です。撃ち返された様子が全くない……」

 

 端末の履歴を見ながらライバック伍長とパクストン上等兵がアーメイ軍曹の分析に異を唱える。

 激しい銃撃に晒されたのにも関わらず、破壊されたローダーの痕跡や、セントリーガンに損傷が全く見られない不可解な状況に、それまで黙っていたエミリオがぽつりと呟いた。

 

大群(・・)に襲われたのかもしれないな……」

 

 エミリオの言葉を受け、アーメイ軍曹達は怪訝な表情を浮かべる。

 暫し不可解な状況に考えを巡らせていたが、やがて先行していたチャベス上等兵から無線が入った。

 

『少尉、軍曹。管制塔の入り口を確保しました。周囲に敵影はありません』

「了解した。直ぐにそちらに向かう。ライバック、パクストン、お前らも行け」

 

 アーメイ軍曹の言葉を受け、ライバック伍長とパクストン上等兵が管制塔へと駆ける。

 エミリオも続くべく駆け出そうとしたが、セントリーガンに付着する緑色(・・)の液体に気がついた。

 

「……」

 

 激しい雨に流される事なく、僅かに残る緑色の液体はぼんやりと発光しており、まるでホタルが放つ淡い光を連想させた。

 エミリオは指先でその液体を掬い、まじまじと見つめる。

 

 記憶に残る、あの異形の狩人が同じような液体を身体から流していた事を思い出したエミリオは、じっとその液体を見つめ続けていた。

 

 

 

「少尉殿! 早く行きましょう!」

「あ、ああ……了解した」

 

 アーメイ軍曹に急かされたエミリオは、慌ててカーゴパンツに指先を擦りつけ、パルスライフルを構え直すと管制塔入り口へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

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