“プレデターキラー”は地球の人間が装着する事を前提としており、装具の大きさに惑わされるが、その実寸法は190cmを少し超える程度である。
もちろん、エミリオやリンのような常の体躯の持ち主から見れば巨躯であるのは変わらないが、シシュやクリーナーらプレデター達から見れば、少々“小さい奴”といった印象だ。
当然、ウォーリアークラスですら2メートルを超え、大きい個体、特別な個体はそれ以上──女王個体になると10メートルは超えるサイズに成長するゼノモーフから見ても、プレデターキラーはそれほど大きな存在ではない。
「shaaaaaa……!」
なら、2メートルを少し超える程度プレデリアンなら、プレデターキラーはどのように映るのだろう。
驚異を感じる敵として見るか、それとも大した事はない獲物として見るのか。
「kishaaaaaaaaaaaッッ!!」
それがどちらなのか、言語を発しない彼──あるいは
故に、行動で見て判断するしかない。
「うおおおおおッ!?」
物陰から突如現れたプレデリアン。雄叫びを発しながらプレデターキラー、ジェイコブへ強烈なぶちかましを喰らわせる。
「ガアッ!!」
10メートルは吹き飛んだジェイコブは、リンに受けたダメージと合わせ、内蔵がシェイクされるのを自覚していた。
床へ転がるジェイコブに、プレデリアンは四対の爪上口器を大きく開き、更にインナーマウスを晒しながら、両手を大きく広げ挑発するように威嚇をしていた。
急速に脱皮を繰り返し、小一時間程で成体にまで成長したプレデリアン。
警報鳴り響く研究施設内を走り回る内に、彼女は完成していた。完璧な生命体として。
そして、彼女の脳髄に同胞からのテレパシーが届く。
“我々と共に。人間に復讐を!”
要約すればそのようなメッセージが、強い思念波となって複数回、彼女の脳裏に響いていた。
最初は本能により、彼女はそれに従おうとした。それが正しい行いと信じて疑わなかった。
だが、成長しきった時、彼女の内に違和感が生まれる。
それは不快なものだったが、時間が経つにつれて、説明のつかない暖かいモノとなって身体中に広がっていった。
同時に、幼体の時。つい先程見た、己の宿主の姿。
そして、その
『シシュ! シシュ! シシュ!!』
『kyu、kyu……!』
グチュ! グチュ! と、粘膜が激しくぶつかり合う音。ギシ! ギシ! とポッドを大いに揺らし、互いの性器を思い切り打ち付け合いながら生殖行為に耽る二体の生命体。
雄の上に跨っている雌の生殖器。そこに、雄のテラテラと濡れた性器が埋没しており、雌が腰を上下させる度に濡れた肉の棒を覗かせる。
彼女はその行為が何の為に行われているのかが分からなかった。だが、何故だが眼を──彼女達は眼球に代わる頭部の器官、そして嗅覚で物を視る──眼を、離すことができなかった。
なにをしているんだろう?
戦っているのだろうか?
いや、どうやら戦っているワケではなさそう。
あの宿主、どうやら雌のようだ。とても興奮している。
あの人間、どうやら雄のようだ。とても興奮している。
とても熱くて、激しい状態だ。
戦いにも似ているけど、全然違う。
あれは、何かのコミュニケーションなのかな?
あの番が激しく交わっていた間、彼女はそのように自問する。
どうやら何かしらのコミュニケーションを交わしているのは理解できた。
しかし、雄の方は辛そうだ。
『シシュ! シシュ! あっ! あっ! あああ!!!』
雌に組み敷かれた雄が、腰をガクガクとさせながら悲鳴を上げていた。
辛そうな表情を浮かべていたが、よく見ればそれは快楽によるものだと分かった。
そして、雄の下腹部にあるやたらと熱い棒状の器官、その先端が大きく膨らんでいた。
『あっ! あああああああッッ!!』
ビュゥゥゥゥゥッッ!!
水の音にしては、妙に粘ついた音が聞こえた。
『kyuuuu……!!』
雄の体液が、雌の胎内に注入されたのだろうか。
雌は何かを耐えるように牙を食いしばり、全身の筋肉を硬直させていた。
でも、どこか嬉しそう。
自分の体液は、強い酸で出来ている。
なんでも溶かす、強い酸だ。
同族ならまだしも、多種族に自分の体液を注入しようものなら、瞬く間に腐食が進み、体液が注ぎ込まれた生物は即死するだろう。
だから、あの番の生物──どうみても同種とはおもえない生物同士が、体液を交換している様子が、とても不思議だった。
同時に、眩しいものに見えた。
「……」
彼女は情事の終わりを見届けた後、小さい身体を翻してその場を後にした。
そして、成長しながら……あの行為について考察する。
やっぱり、あれはコミュニケーションだ。
それも、深い所で繋がる事ができる、とても神聖な行為だ。
すごい。
違う種族なのに、あんなに深く繋がる事ができるなんて。
考察を続ける彼女の脳裏に、同族のテレパシーは、もはや届く事はなかった。
彼女は、シシュとエミリオのセックスを見て、感動していた。
それは、彼女の種族──ゼノモーフとしては、あってはならない──異端ともいえる発想だった。
ボクはあんな風にコミュニケーションを取る事が出来ない。
でも、あんな風に仲良くなる事は出来るのかな。
その内、彼女は自身の宿主へと思いを馳せる。
寄生先に特別な感情を持つ事は決してありえないゼノモーフ。例外があるとすれば、女王個体を宿した寄生先を、他のゼノモーフが守護するくらいだ。
チェストバスターさえ産まれてしまえば、その宿主はただの肉塊と成り果て、せいぜい幼生の餌としての価値しかない。
だが、彼女は異端だった。
シシュとエミリオの激しいセックスが、彼女の本能の奥にある、ある感情を。
知的生命体が持つ、“心”を刺激していた。
強烈な異種族の交わりは、彼女が本来持つ感情──本当の母親、クイーンに向けるべき感情を、シシュへ向けていた。
あの宿主──ううん、あれは、お母さんだ。
ボクのお母さん。
仲良くなりたい、お母さん。
じゃあ、お母さんと繋がっていたあの雄は?
お父さん、なのかな。
お父さんとも、仲良くなれるのかな?
警報が鳴り響く研究施設内の通路。
ダクトに収まりきらなくなった大きな体躯を、少しだけ丸める。
そして、無性に寂しくなった。
なぜ、自分はここに一人なのだと。
自分以外の他者の存在が、猛烈に恋しくなった。
これも、本来ゼノモーフが持ち得て良い感情ではない。
お母さん、お父さん。
どうして、ボクを迎えに来てくれないの?
どうして。どうして?
どうして、ボクはひとりぼっちなの?
とうとう膝を抱え込むように蹲ってしまったプレデリアン。
シュウシュウとか細い鳴き声を漏らす様は、まさに親とはぐれてしまった子供だった。
どうして彼女がここまで異端な存在となってしまったのかは、ゼノモーフを
だが、生物というのは、往々にしてイレギュラーな個体が発生するのは常である。
定められたゼノモーフとしての残忍な殺戮本能には従わず、己の思考、己の想いに従う個体が発生したのだ。
このプレデリアンは、恐ろしく低い確率で産まれた、他種族への友愛精神を持った異常個体だった。
「……!」
ふと、プレデリアンは何かを思いついたように、頭部に備えたドレッドヘアーのような触手を揺らす。
迎えに来てくれないなら、こっちから行けばいいんだ。
こんな簡単な事をどうして思いつかなかったのだろうと、プレデリアンはシュウと短く鳴いた後、勢い良く立ち上がった。
そして、全速力で駆け出した。
種族が備える第六感を働かせ、目的の場所へと迷わず走り抜けていった。
「ッ!?」
目的地、資材エレベーター。
そこに辿り着いた彼女は、プレデターキラーと戦闘を繰り広げるエミリオ達を目撃した。
親を探し求める雛鳥のように視界を彷徨わせると、上階のタラップに腕を押さえる人間の男を見とどめた。
「……ッッッ!!」
それを見て、猛烈な怒りが沸き起こる。
片腕を吹き飛ばされたエミリオ。エミリオを介抱するシシュ。
痛ましい、その姿。
人間の雌が、プレデターキラーと戦っている。
どっちが、敵だ?
沸き起こる怒りを必死に抑え、観察を続ける。
お父さんを傷つけたのはどいつだ!?
もし彼女に明確な眼球があったら、その眼は血走ったものとなっていただろう。
戦場を凝視し続ける彼女は、やがてエミリオを傷つけたのは、多種多様な武器を用い人間の雌──リンを追い詰める、プレデターキラーだと気付いた。
「kishaaaaaaaaaaaッッ!!」
咆哮を上げ吶喊するプレデリアン。
一直線に、その身体を殺し屋へとぶつけていた。
お父さんを傷つけたオマエは許さない──!
温もりを求める醜悪な怪物は、凛然とプレデターキラーへ対峙していた。
「ガハッ!?」
強烈なぶちかましを受け、血反吐を吐きながら床を転がるジェイコブ。
勝利を目前にした直後、想定外の乱入を受け、精神的にも動揺が走る。
「goruaaaaaaaaッ!!」
「ッ!? クソッ!!」
追撃をすべく突進せしめるプレデリアンを見て、ジェイコブは慌ててスラスターを噴射し、迎撃態勢を取る。
「guuuuuuuuuッ!!」
「ぐおおおおッ!!」
スモウレスラーの様にがぶり四つに組み合う両者。
しかし、ジェイコブはプレデリアンの突進力を殺しきれず、ガリガリと床を削りながら後退。
「ッ! この野郎!!」
「gruaッ!?」
スラスターを全力で噴射し、ようやくプレデリアンの勢いを殺したジェイコブ。
四つに組んだ手を振り払い、強烈なパンチをぶちかます。
「オラッ! オラッ! オラァッ!!」
ワンツーからのストレート!
ボクシングヘビー級王者のパンチ力とは比較にならない、痛烈な打撃をお見舞いする。
「ruaaaaaッ!!」
「ぐあっ!?」
だが、それに怯まず、プレデリアンもお返しの打撃を繰り出す。
格闘技経験者からして見れば躱しやすい大振りのテレフォンパンチであったが、密着した状態のジェイコブはそれをガード出来ず。
「ガアッ!!」
側頭部にモロに喰らい、再度床を舐める。
「ガッ……くそ、くそったれの化け物野郎が……!」
フラフラになりつつも、ジェイコブはやっとの思いで立ち上がる。
プレデターキラーの装甲は、単純な打撃はもちろん、銃撃やプラズマキャノンですら防ぎきれる程の防御力を持っている。
だが、装甲内の衝撃緩和システムに異常が起こっており、プレデリアンの打撃を満足に防ぐ事は出来ずにいた。
(あの女の妙な打撃を喰らってからおかしくなっちまったんだ!)
衝撃緩和システムに異常が発生した理由は明白だった。
リンが放った氣当て──“双剄破”だ。
装甲内部に威力を浸透せしめるこの技により、ジェイコブの肉体はもちろん、プレデターキラーのシステムにもダメージを与えていたのだ。
全宇宙を見渡してもこれ以上のものは見当たらないほど、驚異的なテクノロジーで拵えられたプレデターキラー。
だが、古来より連綿と受け継がれる神州無敵の妙技──日本武道の真髄は、優れたテクノロジーですら解明出来ない、摩訶不思議な威力を発揮していた。
「gauaaaaッ!!」
「ぐあっ!?」
ヨロヨロと立ち上がったジェイコブに、プレデリアンは鞭のように尾をしならせ追撃を喰らわせる。
胸部に追加ダメージを負い、ジェイコブの身体はもう何度目かわからぬ宙を舞う。
「クソッ!!」
胸骨が折れたか。
そう自身の損害を分析するジェイコブ。
しかし、倒れながらプラズマキャノンの照準をプレデリアンに合わせる。
丁度良く距離が取れた──!
尾で吹き飛ばされたのは行幸。
ショートレンジではこの長物は役に立たない。
ほんの数メートルの距離が取れれば、俺の勝ちなんだ。
光弾がプレデリアンの頭を吹き飛ばす光景。それを想像し、ジェイコブは勝利を確信したように口角を歪ませた。
「ッ!? 」
だが、彼を勝利へと導く光の弾が発射されることは無かった。
「どうして──!?」
違和感には直ぐに気付くことが出来た。
プラズマキャノンの長砲身、その砲口が、プレデリアンの尾で薙ぎ倒された時、僅かに歪んでいたのだ。
内部の武器管制システムが今更異常を知らせて来たのを見て、ジェイコブは表情を一変。
憎々しげに歯を軋ませる。
とんだ安全装置だ。過保護すぎる。
こいつはハードワークをこなす為のキリング・マシーンじゃないのか?
そう毒づくジェイコブ。
苛烈な戦闘を想定しているプレデターキラーの装備。しかし、プラズマキャノンだけに関しては、少々デリケートな扱いが必要だったようだ。
「gauuuuuッ!!」
「ッ! このぉ!」
槍の穂先のような尾の先端部を突き刺してくるプレデリアン。
ジェイコブは即座に近接戦闘システムを起動。
シシュやクリーナーが備えるものより遥かに長い、ロングリストブレイドで尾を弾き、返す刀で胴切りを放つ。
「guraa!?」
肉を穿つ音が鳴ると、プレデリアンの胴体は切創が刻まれる。
傷口から蛍光色のような体液が滴り落ち、ジュウと床面が腐食する。
致命傷という程ではないが、プレデリアンは斬撃に怯み、ジェイコブから距離を取った。
「膾切りにしてやる──!」
プレデターキラーの左右の腕にリストブレイドを起動させ、二刀流の剣士の如く刃を交差させるジェイコブ。
もちろん、腐食対策は施されており、先程プレデリアンを穿った刃先の切れ味に衰えは見られなかった。
「gauuuッ!」
プレデリアンも尾を縦横に振り、二刀の殺し屋と対抗する。
ゆらゆらと蛇のように尾がくねる様。ジェイコブの斬撃を誘っているかのようだ。
「まるで巌流島の武蔵と小次郎ね……!」
異形と異形の対決を見守っていたリンは、そうひとりごちる。上腕に刺さったスピアガンの鏃を抜き、出血と痛みに耐えつつ、異形同士の戦いを注視していた。
ちなみに、巌流島に於いて雌雄を決した宮本武蔵と佐々木小次郎の立ち合いでは、武蔵が二刀を用いた事実は無く。櫓櫂から拵えた長尺の木剣にて小次郎を打ち据えている。
二天一流兵法の使い手であった武蔵が、生涯六十余回の決闘に於いて二刀で戦ったケースは殆ど無く、その剣理は常の一刀剣法に終始していた。
武道を修めるリンですら、後世の脚色に惑わされていた、という事である。
(それにしても──どちらが生き残っても、状況は変わらないわね)
ちらりとクリーナーへ目を向けるリン。
未だスチールネットの縛網からは逃れられず、懸命にレイザーディスクて切断を試みている。
ギリギリとネットへディスクを擦りつけている様子を見るに、まだしばらくは戦力になりそうもないだろう。
「エミィ……!」
そして、深手を負った最愛の弟も、もはや戦線に復帰することは難しい。
現時点で五体満足なのは、義妹にもなりつつある異星人の乙女──シシュだけだった。
「graaaaaaッ!」
「ウオオオッ!」
甲高い金属音。飛び散る火花。
剣戟を交わす二体の異形。
プレデリアンの鋭い刺突を、ジェイコブは二刀のリストブレイドで防ぐ。間髪入れず反撃の激剣をぶち入れる。それを尾で受け止める。
一進一退の攻防。しかし、形勢は徐々にジェイコブの優勢へと傾いていった。
「gurrッ!?」
一瞬の隙。
ジェイコブはいなしたプレデリアンの尾をガッチリと掴む。
「オオォォォッッ!!」
「gurrrッ!?」
スラスターを噴射させ、
猛烈な勢いで外殻を資材コンテナに肉体を打ち付けるプレデリアン。
痛いじゃないか!
このトゲトゲやろう!
もしプレデリアンが言語を発する事ができれば、そのような可憐な抗議が聞こえた事だろう。
「grrrrrrrッッ!!」
しかし、人間と気管等の生物構造が根本から違うプレデリアンは、ライオンと子象を混ぜたような唸り声を発することしか出来ない。
そのままコンテナの中に埋没するようにぶん投げられた。
「トドメだッ!!」
ひしゃげたコンテナの上で身を捩らせるプレデリアンに、ジェイコブはリストブレイドを振りかざし吶喊する。
狙いは頭部。プレデターキラーの刃なら、容易くその外殻を貫くことが出来るだろう。
「ぐあッ!?」
しかし。
またも寸前で勝利を邪魔されるジェイコブ。
「grrrrr!!」
シシュだ。
乙女の横槍、渾身のぶちかましにより、ジェイコブは体勢を崩される。
「シイイイッッ!!」
「があッ!?」
更に、体勢を崩した所に、隻腕となったエミリオが強烈な横蹴りを見舞う。
身体をくの字にさせ、ジェイコブは悶絶。胸骨に加え、背骨にも深刻なダメージを受ける。
「があああああああッッ!!!」
「くッ!?」
だが、ジェイコブの──マッケナ家の執念が、プレデターキラーを紙一重で支える。
瞬時にリストブレイドを逆向きにさせ、裏拳の要領でエミリオを斬りつける。
躱しきれなかったエミリオは、胸板を一文字に抉られ倒れる。
「死ねッ!」
トドメを刺すべく刃を振り上げるジェイコブ。
「エミッ!」
そこへ、シシュがチーターのような俊敏さで、エミリオとジェイコブの間に自身の身体を滑り込ませる。
そのまま倒れたエミリオへ覆いかぶさった。
今度はワタシが庇う番だ。
大切な夫を、ワタシが助ける──!
身を挺してエミリオを庇うシシュ。
乙女の黄土色の肉体へ、プレデターキラーの刃が迫る。
「ッ!!」
マスクの下でぎゅっと眼を瞑るシシュ。
直後、ドズッ! と肉を穿つ音が聞こえた。
「……krr?」
しかし、来たるべき熱い痛みは感じられない。
顔を上げたシシュ。
大きな怪物が、自分たちとプレデターキラーの間に立ちはだかっているのを見留めた。
「grrrrrrrrr……ッ!」
プレデリアンだ。
プレデターキラーの長刃を両手にて掴み、肉の壁となってシシュとエミリオを
「ゼノモーフが何でハンターを庇うんだ!?」
ジェイコブが頓狂な声を上げると、その場にいる全ての者が同様の思いを抱く。
同種ですら目的の為なら平然と見捨てるゼノモーフ。
彼らは個体を持ちながら群体としての性質を持ち合わせている為、このような“個性”を見せるのは稀であり、ましてや他種族の為に働く個体など、全宇宙を見渡してもこのプレデリアンだけだろう。
「???」
シシュは眼の前の光景が信じられず、戦闘中にも関わらず呆然としていた。
サーペントが庇った? 何故? ドウシテ?
頭の上でクエスションマークがポコポコと湧き、マスクの下でキョトンとした表情を浮かべていた。
「シシュ!」
「ッ!」
しかし、エミリオの声を受け、乙女は再起動する。
何はともあれ、プレデリアンがプレデターキラーの動きを止めている──この事実は変わらない。
エミリオが隻腕を動かし、コンビスティックをシシュへ投げ渡す。
受け取ったシシュは、直列となった二体の異形へ狙いを定めた。
千載一遇の好機──!
「graaaaaaaaッッ!!」
気合の咆哮。
コンビスティックを槍投げのように投擲するべく、腕に力を込めた。
「──ッ!」
刹那の瞬間。
シシュはプレデリアンがこちらを伺うように鎌首をもたげるのを見た。
そして、プレデリアンが、キュウとか細く鳴いた。
プレデリアンから、何やら温かい感情──
「──graaaaaaaaッ!!」
プレデリアンごとプレデターキラーを田楽刺しにすべく狙いを定めていたシシュは、僅かに狙いを反らすように槍を投擲した。
猛スピードで射出された鉄槍は、怪物の脇をかすめ、異形の鎧、その脇腹へと突き刺さった。
「うがあああッ!!」
「graaaッ!?」
だが、致命傷には至らない。
火事場のクソ力を発揮し、プレデリアンを振り払う。
「くそがあああああッッ!!」
そのまま、今度こそ全てを終わらすべく、プレデリアンへ刃を突き立てんとした。
「──あ?」
しかし、ピタリとジェイコブ──プレデターキラーの動きが止まった。
「うおッ!?」
「grr!?」
止まった直後、プレデターキラーは内蔵スラスターを全て噴射させ、まるで打ち上げロケットのように上昇を始める。
「うおおおおおおおッ!?」
そのままジェイコブは資材エレベーター最上部──屋上へと続くゲートを突き破り、彼方へと消えていった。
「grr……?」
突如発生したプレデターキラーの敵前逃亡。
その最後の姿は、まるで何者かに遠隔操作されていたようにも見えた。
シシュはプレデターキラーが消え去った上方を訝しげに見つめる。
「ッ!?」
だが、脅威の一つが減っただけだと即座に気付く。
慌ててリストブレイドをコッキングし、臨戦態勢を整えた。
「grrr──!」
唸るような顫動音と共に、リストブレイドを構えたシシュ。
対峙するは、もちろんプレデリアンだ。
ジャングルでエミリオと共に仕留めたプレデリアンより、眼の前の個体は一枚、いや二枚は上手だろう。
そのような相手に、自分ひとりで戦えるのか。
だが、それでも戦わなくては。
今、この場で戦えるのは、自分ひとりだけなのだから。
第2ラウンドの始まり──!
「──r?」
だが、悲壮な覚悟で臨んだシシュは、プレデリアンの姿を見て拍子抜けしたように動きを止めた。
「kyuuu……」
プレデリアンは大きな体を縮め、膝をつきながら両の手を差し出していた。
両の掌を上に向け、敵意が無いことを示すその姿勢。
凡そ全ての知的生命体に通じる、“降伏”の姿勢だ。
「……grr!」
シシュは僅かに頭を振ると、唸り声と共に刃をプレデリアンの喉元へ突き出す。
散々サーペントの狡猾な戦法に悩まされていたのだ。
これも、きっと己の油断を誘う“演技”だろう。
文字通り化けの皮を剥いでやる。
その後はトロフィーにしてやるのだ。ザマアミロ。
「kyuuuuu……」
「grr!?」
しかし、刃が喉元に触れていても尚、プレデリアンはか細い鳴き声を漏らすだけだった。
まるで戦意が感じられないその姿。
シシュの困惑は増々深まる。
同時に、先程感じた温かい感情を思い出す。
このサーペント──この
ドウシテ?
アナタハ、ナニモノナノ?
プレデリアンはそれに応える事はせず、ただ黙々と頭を垂れ続けている。
不可解な感情に支配されたシシュ。
それ以上、リストブレイドを押し込む事は出来なかった。
「シシュ……?」
左腕を押さえ、シシュの元へと歩み寄るエミリオ。
乙女が逡巡する姿、そして膝を折り、降伏の姿勢を取るプレデリアンを見て、エミリオもまたこの意味不明な状況に戸惑っていた。
「──shaaa!」
「うわあッ!?」
「ッ! エミッッ!!」
だが、突如豹変したプレデリアン。
巨体がエミリオへと覆いかぶさり、シシュは驚愕の声を発する。
やられた、やっぱり罠だった!
そう思うも、時既に遅し。
リストブレイドで殺害しようにも、こうも密着した状態では、酸性の血液がエミリオへと降り掛かってしまう。
この状態を想定していたのか。
シシュは猛烈な殺意と共に、悔恨の念に囚われた。
やはり、さっさと始末するべきだったとも。
ともあれ、エミリオに覆いかぶさるプレデリアンを引き剥がさなくては。
シシュは猛然とプレデリアンの巨体へと手をかけようとする。
「ま、まって、シシュ」
「grr!?」
だが、巨体の下でエミリオの声が聞こえた。
愛する男の制止する声で、シシュは動きを止めた。
「kyuu……kuchu……」
よく見ると、プレデリアンは爪状口器を、エミリオの左腕の切断面へと這わせていた。
クチュ、クチュと粘ついた音が響くと共に、口器から樹脂のような粘液が分泌されていた。
「う……あぁ……」
プレデリアンに抱きしめられる形となったエミリオは、分泌液を塗布されると、僅かに快感に悶えるような声を漏らす。
巨体の肩越しから見えるその表情も、どこか気持ちよさそうだ。
「──ッッッッ!!!」
それを見たシシュ。
先程とは
なにワタシ以外で気持ちよくなってんだ!!
人、それを嫉妬と呼ぶ。
同族の雌個体と比べ、シシュはかなり独占欲の強い個体であった。
「gurrrrr!」
「あ……?」
やがて粘液を分泌し終えると、エミリオは切断面の痛みが嘘のように引いていたのを自覚した。
見れば、腕部の切断面は黒い樹脂でコーティングされており、明らかに“治療”が施された様に見て取れた。
「あ、ありがとう……?」
「gurrrrrr!!」
この状況で呑気な事を、という突っ込みがどこからか聞こえてきそうな程、エミリオは素直に感謝の言葉を発していた。
それを理解したように、プレデリアンは嬉しそうに大きな頭を首肯させた。
「gurr!」
「……」
そして、シシュへと顔を向ける。
表情というものが全く分からないプレデリアンであったが、どう見てもそれはドヤ顔であった。
それを見たシシュ。
嫉妬心は鳴りを潜め、再び困惑に囚われていた。
そのようなシシュへ向け、プレデリアンはのそりと巨体を向ける。
ほめて!
そう言ったのかどうかは分からない。
だが、プレデリアンは虎のような唸り声を発すると、シシュへとその大きな頭を押し付けていた。
「gurrrrr!」
「……」
すりすりと大きな頭をシシュのお腹にこすりつけ、甘えるように厳つい唸り声を発するプレデリアン。
シシュは呆然と突っ立っており、巨体のされるがままである。
「えっと……」
エミリオもまた困惑しており。
そして、プレデリアンの甘える様子が、まるで自分に甘えるシシュのようだとも思っていた。
SSH「お前さっき私らが致してる時チラチラ見てただろ(因縁)」
PRDL「いや、ボク見てないですよ」
SSH「嘘つけ絶対見てたゾ」
PRDL「何で見る必要なんかあるんですか(正論)」(ブッ!)