「エミィッ!」
「Shesh」
ハンドガン、プラズマキャノンのレーザーポインターが照準される。
プレデターキラーの鏃を抜き、気合で立ち上がりハンドガンを構えるリン。
鋼線の縛網を断ち切り、ショルダープラズマキャノンを作動させるクリーナー。
身体中を流血させた二人の戦士が、シシュに抱きつくプレデリアンへ“敵意”を露わにしていた。
「ね、姉さん」
エミリオはプレデリアンへ銃火器を向けるリンとクリーナーへ、制止すればよいのか。
それとも、自分も攻撃に加わればよいのか。
全く判断が出来ないでいた。
(……よく見れば、ジャングルで戦った奴と少し違う)
変わらずシュウシュウと妙な声を漏らしつつ、シシュの腰にしがみつきながら頭を擦りつけるプレデリアン。
エミリオはその姿を観察しつつ、ジャングルでシシュと共に打倒した同一個体とは少々見た目が異なる事に気付いた。
ジャングルで戦ったプレデリアンは、頭部にプレデターと同じドレッドヘアーの様な管を備えていた。それは目の前の個体も変わらない。
しかし、ジャングルの個体は、少々その管が短く、まるで清掃用のモップのようにも見えた。
目の前のシシュに甘える個体は、管が長く、文字通りドレッドヘアーの様に見える。そして、それがこの個体の個性──仕草を含め、女の子らしさを醸し出していた。
「姉さん、少し待って──」
「Shesh」
もう少し観察を続けたいエミリオであったが、クリーナーは冷然とその声を遮り、シシュへと冷たい声を向ける。
シシュは呆と突っ立っていたが、師匠であり義兄の言葉にハッとしたように身体を強張らせる。
「krr……」
クリーナーの意思は明快だ。
そのサーペントを始末するから、さっさと離れろ。
それに、仮にそのサーペントの生存を、この場で許したとしても。
「krrrr……」
氏族の戦士達……エルダーは、その生存を許さないだろう。
そのような意思を汲み取ったシシュ。
困惑しつつも、プレデリアンを引き離す為、その頭部へ手をかける。
「gurrrr」
すると、プレデリアンがシシュの少しだけ膨らんだ下腹部へと視線(実際に眼孔は確認出来ないが)を向けた。
「ッッ!?」
シシュの血の気が引く。
おなかには、大切な──エミリオとの、大切な赤ちゃんがいる。
それが、あまりにも無防備な状態で、プレデリアンの前に置かれているのだ。
プレデリアンはまるで狙いを定めたかのように、粘液に濡れたインナーマウスを露出させている。
それがパイルバンカーの如き威力を持っているのは、シシュは十分に理解していた。
「gurrrrrr……」
しかし、シシュのそのような戦慄めいた憂慮は杞憂に終わる。
「rrrr……」
「krr!?」
プレデリアンは、愛おしそうにシシュの下腹を撫でると、インナーマウスの口器で甘く舐め始めた。
「krr……!」
クチュリ、と、粘液が這う音が鳴る。
シシュは不快とも快感ともつかない妙な刺激を受け、甘く切ない顫動音を漏らしていた。
「gurrr」
「kyu……krrr……!」
シシュは怪物の巨体を引き離そうと藻掻く。だが、プレデリアンはシシュの健康的な臀部をがっちりと掴んで乙女の抵抗を塞いでおり。
「kyuuu……!」
プレデリアンの細長い舌がへその中に侵入し、インナーマウスの小さな口で臍を甘く噛む。すると、シシュはたまらず悶絶の声を上げた。
身体を折り曲げ、無垢な陵辱に必死に耐える。
「gurrr!」
プレデリアンはその様子が面白かったのか、愛情に加え、ちょっとした嗜虐心を持ってシシュのへそを責め続けていた。
「えぇ……」
「……」
乙女が悶え、怪物がねぶる。
シュールすぎるその異様な光景に、リンとクリーナーはフリーズしたように動きを止めていた。
というより、見知った存在が快楽に悶える様子は、とてもじゃないが正常な思考を保てる光景とは言えず。
リンはもちろん、百戦錬磨のクリーナーですら、呆然とその様子を眺め続けるしかなく。
「kchu……gurrr」
「kyu……kyuu……!」
しばしの間、場には粘ついた音と、シシュが悶絶する声だけが響いていた。
「コラッ!!」
「gukyuu!?」
その沈黙を破ったのはエミリオだった。
呆然としていたのはエミリオも同じだったが、愛する妻がこれ以上辱めを受けるのを良しとせず。
というより。
(僕以外がシシュを気持ちよくさせるな!)
そのような本音を滲ませつつ、エミリオは残った右腕にてプレデリアンの頭部を掴み、強引にシシュから引き剥がした。
「だめだよ! こんな……こんな、シシュを、こんな!」
嫉妬心がバーストしたのか、やや語彙力が低下したエミリオの叱責。
引きずり倒したプレデリアンへ、顔を真っ赤にさせながら叱り飛ばしていた。
「ちょ、エミィ!」
だが、それは危険な光景だ。
リンは
「gurrrrrr……」
しかし、その心配も杞憂に終わっていた。
ちょこんと体育座りするように、その大きな身体を屈めたプレデリアン。
エミリオの叱責を甘んじて受けているかのように、大人しく頭を垂れていた。
まるでイタズラがバレて、父親に叱られるヤンチャ娘のような──。
「いやいやいやいや」
頭を振り、そのような発想を打ち消すリン。
「ていうかそんな事している場合じゃないでしょ!」
先程から続くシュールな異常事態に、たまりかねたようにそう叫んでいた。
「……」
一方のクリーナー。
プレデリアンが大人しく頭を垂れているのを見て、思考を放棄したように身を翻し、資材エレベーターの操作盤へと向かう。
実際半分ほど思考を放棄していたのもあったが、とりあえずこのサーペントに危険は無さそうだと判断しており。
氏族の戦士の中では、危険な獲物を使役する者も少なからず存在する。
異形の怪物を猟犬のように訓練し、己の手足として使役するのだ。
だから、このような事態はありえなくもないと。
だから、多分エルダー達も、その存在を許す……かもしれない。
「……」
もっとも、サーペントを使役した者は、氏族の長い歴史上これまでに存在しておらず、もはや己に言い聞かせる為の詭弁のような思考ではあったのだが。
クリーナーは無言で操作盤に触れると、マスクの視界をコンピューターガントレットと連動させ、その操作方法を解読していた。
「ちょっと! アンタはそれでいいの!?」
「……」
リンの問いかけを無視し、クリーナーはエレベーターを上昇させるべく操作し続けていた。
「あ、あの、姉さん。この子は……」
「いーや! 聞きたくない! もうワケわからないわよ!」
おずおずと声をかけるエミリオに、リンは若干ヒステリーめいた状態に陥っており。
「krrr……オネーチャン……」
「gurrrrr……」
「なんなの!?」
そして、エミリオの両隣で、心配そうに覗き込むシシュとプレデリアンを見て、増々声を荒げていた。
「あの、姉さん。この子は他の怪物……エイリアンとは違うと思うんだ。多分シシュから産まれたから、シシュに懐いてて……」
エミリオは困惑をしつつ、リンへプレデリアンが大人しく自分たちに懐いている理由を懸命に説明する。
シシュと同じ形状の口器、そしてドレッドヘアのような頭部の管を見て、この怪物が医療研究室で摘出したシシュの寄生体だと判断したエミリオ。
おそらくは何かしらの理由で、この怪物は敵対行動を取らず、自分たちの味方となって戦ったのだろうと。
「なんで僕にまで懐くのかよくわからないけど……」
「gurrー?」
おすわりした体勢でエミリオを見上げるプレデリアン。
何を言っているの? あなたはボクのお父さんじゃない。
お母さんが大好きな、お父さん。
だから、ボクも大好き!
言葉を話す事ができれば、プレデリアンはそう言っていただろう。
「ああ、もう!」
エミリオの説明を聞き終えると、リンはガシガシと己のポニーテールを乱暴に掻きむしる。
途中、構ってほしいゴールデンレトリバーのように、大きな頭をドシドシと己の腰にぶつけるプレデリアンに体勢を崩されそうになるも、もはや攻撃を加える気すら起こらなかった。
「……地球に連れていくわけにはいかないわよ」
やがて、リンは努めて真顔でエミリオへそう言った。
常識的に考えて、この怪物が他の人間を襲わないという保証はない。
目を離した隙に、同胞の海兵隊員へ襲いかからないとも限らないのだ。
そして、それはシシュも同じ。
更にいえば、例えシシュ達人外がこちらに危害を加えなくても。
こちらが、人間達が、彼女達に危害を加えないとも限らないのだ。
「……」
言外にそう伝える姉に、エミリオは沈鬱した表情を浮かべる。
もちろん、そのような事は分かりきっている。
だから、当初はシシュと共に何もかもを捨て、二人っきりでこの星を脱出しようと計画していた。
「gurrrr!」
だが、ゴロゴロとライオンのように喉を鳴らし、エミリオの腰へスリスリと頭を擦りつけるこのプレデリアンが、エミリオの計画を大いに狂わせていた。
シシュが乗り込んでいた宇宙船に、プレデリアンの巨体を収めるスペースは無い。
しかし、この短時間で妙な愛着が湧いてしまったエミリオ。
もともと優しい心根を持つこの青年将校は、無垢な様子を見せるプレデリアンを置き去りに──ましてや、殺害するような非道は、もう出来なかった。
「ごめん、姉さん。僕は……僕は、地球へは戻らない」
「はぁ!?」
故に、エミリオの言葉は真に迫った言葉だった。
リンは信じられないものを見るかのように、実弟へと鋭い視線を向ける。
「あんた……ッ!」
リンは怒りを滲ませていた。
大切な弟。それを救うためにわざわざ地球から遠く離れた惑星を訪れ、怪物達と死闘を繰り広げた。
そして、それは自分ひとりだけではない。
外では未だにウェイランド製の戦闘アンドロイド、そして無数のエイリアンと戦っている仲間達がいる。
加えて、エミリオの上司や部下達──植民地海兵隊第501大隊の兵士達もいるのだ。
そんな繋がりやしがらみを捨てて、無責任にどこかへ逃げる?
冗談じゃあないわ!
エミリオの実姉だからこそのこの想い。
実弟の無茶苦茶な考えを正すのは、姉としての責務だ。
「この莫迦ッ!」
「ッ!」
思い切り振りかぶり、エミリオの頬を引っ叩くリン。
バシン! と強烈な音が響き、エミリオの口から僅かに血が滴り落ちた。
「あんた、本当に──ッ!?」
実弟の目を覚まさせるべく、更に手を振り上げるリン。
しかし、二発目の平手打ちが放たれる事は無かった。
「……なによ?」
「krr……」
リンの振り上げた手を、シシュが掴んでいた。
掴んだ手をそのままに、残った片手にてマスクを外す。
「krr……オネー……チャン……」
透き通るような濡れた瞳が現れる。
シシュは長いまつ毛を揺らし、か細い声をリンへ向けた。
「krrrr……」
「ちょ、ちょっと!」
それから、シシュはおもむろにリンを優しく抱き寄せた。
リンの頭ひとつほど背が高いシシュの抱擁。リンはむせ返るような乙女臭を放つシシュの豊満な胸元へ、その顔を埋める。
離れようともがくリンを、シシュは優しく抱きしめ続けていた。
「オネーチャン……ゴメンナサイ……」
「……」
リンの頭を掻き抱き、たどたどしい謝罪を向けるシシュ。
「……この匂い」
そして、リンはシシュの野性味溢れる体臭を嗅ぐと、それが初めて嗅いだ匂いではないと気付いた。
思い出す。
幼少期、エミリオと手を繋いで歩いた、あの頃の思い出を。
「あんた達は──」
昔から、一緒だったのね。
「krr……」
切ない顫動音が、リンの言葉を肯定していた。
「……」
ゴウン、と、資材エレベーターが起動する。
研究施設屋上へ向け上昇を始めたエレベーター。
それを操作していたクリーナーは、シシュ達を黙って見つめていた。
先程のシシュの謝罪の言葉。
それは、リンだけではなく、クリーナーにも向けられていた。
「krr……」
「……」
クリーナーは、ただ黙ってそれを聞いていた。
許しているのか、それとも冷酷に突き放しているのか。
どちらなのかは、シシュとクリーナーにしか分からなかった。
「……本当に、後悔しないのね?」
やがて、リンは自然とシシュの抱擁から解かれると、エミリオへとそう問いかける。
今度は、怒りの感情は無かった。
「……うん。後悔しない。だから──」
「もういいわ」
エミリオの言葉を遮り、リンは弟から背を向ける。
少しだけ、その肩は震えていた。
「……これが、今生の別れだなんて、許さないからね」
震えた声でそう言ったリン。
リンの表情を唯一見れるのは、操作盤の前に立つクリーナーだけだった。
「姉さん……」
エミリオは、隻腕で姉を後ろから抱きしめる。
弟の隻腕を、リンはぎゅっとその手で掴んでいた。
「krrr……」
「shuu……」
シシュとプレデリアンは、その様子を、少し悲しげな声を漏らしながら見つめていた。
「……で、どうするの? その子を連れてこの星から脱出する算段はあるの?」
落ち着いたのか、リンは赤らんだ瞳を浮かべながら、そう弟へ問い詰める。
現実的な問題を突きつけられ、エミリオは難しい表情を浮かべていた。
「その子はドロップシップクラスのペイロードじゃないと厳しいんじゃないかしら。その子、どうみても重たそうだし」
「それはそうだけど、この子は──」
「ああ、もう! その子だとかあの子だとかこの子とかまどろっこしいわね! 名前とかないの!?」
「え?」
問答中、またもたまりかねたように唐突にそう言ったリン。
下手に名付けては愛着が湧いてしまい、プレデリアンから弟達を引き離し辛いとは思っていたが、それはそれとして名無しのままでは不便だ。
という体のリンだったが、ツンとした表情の奥底に、若干のデレを滲ませているのは確かであり。
「gurrrr!?」
それを感じ取ったのか、プレデリアンは喜悦に満ちた唸り声を上げていた。
「え、名前……名前かぁ……」
「gurrrー!」
ふりふりと長く鋭い尻尾を揺らし、エミリオの背中へ抱きつくプレデリアン。
ヒグマが獲物に覆いかぶさるような体勢となったが、片腕を失ったのにも関わらず、エミリオの体幹は揺らいでいない。
もちろん超人的な身体能力を備えるエミリオだからこそというのもあるが、プレデリアンが容赦なく体重を掛けているのを、シシュがその棒状の背ビレを掴んで支え、荷重を減殺していたから、という要因もあった。
「シシュ、この子の名前……」
「grr……」
首を後ろへと向け、シシュへ視線を向けるエミリオ。
マスクを装着し直したシシュの表情は掴み辛かったが、その声もまたエミリオと同じ様に困惑した様子を見せていた。
「……Shesh・dy」
「え?」
「krr?」
ふと、それまで黙していたクリーナーが、短い言葉を発する。
「シシュ・ディ?」
「……」
エミリオの言葉に、沈黙を返すクリーナー。
それ以上言葉を発するつもりは無いようだ。
「krr……dy……チイサイ……」
「え?」
代わりに、シシュが代弁するかのようにそう言った。
dyとは、氏族の言葉──プレデターの言語で、“小さい”という意味だ。
「シシュより小さくはないわね……」
それを聞き、リンは呆れたようにそう呟く。
無論、エミリオもそれに無言で同意していた。
「gurrrrrrr!!」
しかし、プレデリアン──シシュ・ディは、全身で喜びを露わにする。
先程よりも激しく尾を振り、シシュが慌ててそれを避けていた。
「じゃあ、ディで……」
「gurrrrrr!!!」
ディはエミリオに抱きつきながら、まるでこの瞬間が自分が産まれたのだと。
「わっ」
「krrッ」
そのような昂りからか、ディは長い腕を伸ばし、エミリオごとシシュを抱きかかえる。
ぶんぶんと二人を振り揺らしながら、無邪気に喜び続けていた。
「はぁ……結局どうするか決められなかったじゃない。でも、当然アンタは何か考えはあるんでしょうね? さっき、お仲間と連絡を取ってたんでしょう?」
「……」
やがて屋上のゲートが開き、一行は研究施設屋上へと到達した。
BG-386の眩しい夕日に照らされながら、リンはクリーナーへと視線を向ける。
ビショップ達に包囲されていた時、コンピューターガントレットを操作していたクリーナーへ、やや訝しげな表情を向けていた。
「grr」
クリーナーは、抑揚のない顫動音を、リンへ返していた。
「ネブラスカ! 一体どういうつもりだ!」
研究施設から離れた荒野に、黒塗りのドロップシップが駐機されている。
識別番号が全て塗りつぶされたドロップシップ内で、プレデターキラーの装具を外したジェイコブが、上司であるネブラスカへ気炎を上げていた。
「君の不満は分かるが、少々ダメージを受けすぎたんだ。だから遠隔で撤退させたんだよ。まったく、クイン・マッケナ以外がロクに動かせなかった理由がよく分かったよ」
「くっ……!」
淡々とジェイコブに応えるネブラスカ。
ドロップシップクルーの簡易的な治療を受けながら、ジェイコブは悔しそうに表情を歪ませていた。
「骨折、打撲に加え、内臓にも損傷を受けている……本当は喋るのも辛いはずだ」
ネブラスカは労るような言葉を向けるも、その瞳はひどく冷めたものを浮かべており。
そして、クルー達へ目線を向けた。
「お、俺はまだ……!」
「もういい。ジェイコブを医療ポッドへ」
「ま、待ってくれ! 俺は──!」
苦痛に耐えつつ、尚も食い下がろうとするジェイコブ。
しかし、ネブラスカが指示すると、クルー達はジェイコブへ鎮静剤を打つ。意識を落としたジェイコブを、そのまま医療ポッド内へと搬送していった。
「結局、前時代の遺物って事だったんですかね、これは」
ネブラスカの副官が、機内に安置されたプレデターキラーを見ながらそう言う。
ジェイコブのダメージに比例するかのように、損傷が激しいプレデターキラーを、ネブラスカは変わらす冷めた目で見ていた。
「クイン・マッケナ向けにチューンナップされすぎたんだよ。ローリーは余程実の父親をヒーローにしたかったらしい。まあ、あの頃はそれで良かったのかもしれないが」
そう言って、ネブラスカはドロップシップの発進を指示する。
クルー達が発進準備を整えている間、自身も座席に身体を固定させると、やがてドロップシップは機体を振動させながら軌道上の母艦へと上昇を始めた。
「しかし、とんだ横やりが入ったものだ」
ネブラスカが不満げにそう言うと、副官も無言で頷く。
フォールド通信で入った緊急電。
それには、地球での“手打ち劇”が伝えられており。
ウェイランド・ユタニ社が米国政府に圧力をかけた結果、スターゲイザーはネブラスカ達へ即時撤退を指示していた。
「ですが、ジェイコブはよくやりましたよ。役割は果たしてくれた」
だが、不満げなネブラスカを慰めるように、副官がそう嘯いた。
「そもそも、ビショップ氏が我々の援軍を受け入れた時点で、我々の目的は達成したようなものでしたからね」
副官の言葉に、ネブラスカは薄い笑みを浮かべた。
そして、手元のタブレットコンピューターに視線を落とす。
そこには、ビショップがプレデターの墳墓から収集した、ある情報が収められていた。
「悪くない取引だったよ。向こうとしては、安物買いの銭失いだったのかもしれんが」
「どうでしょう? ビショップ氏はあくまでエンジニアの遺産しか興味がなかったようですし、
「だったら、尚更真面目に働く必要は無かったってことだ」
タブレットの情報──そこには、地球から遠く離れたBG-386よりも、更に遠い宇宙の果て。
プレデターの母星の座標が収められていた。
「まだ我々がハンター共を滅ぼす力はない」
成層圏を突破し、宇宙空間へと上昇を続けるドロップシップ。
モニターに表示される地上の様子を見ながら、ネブラスカは滔々と言葉を続けた。
「だが、いつの日か我々人類はハンターを上回る科学技術を手にすることが出来るだろう……その時になったら、この座標情報が、人類の反撃の狼煙になる。今まで狩られるだけだった獲物が、逆に狩る立場に変わるんだ」
ネブラスカ達、スターゲイザーの目的。
それは至極単純なもので、プレデターの母星の座標を持ち帰る事だった。
進化を続ける人類。日々急速に発展する科学技術。
それは、近い将来、人類がプレデターのテクノロジーを上回る事を示唆していた。
「その光景を見られますかね、我々は」
「そればかりは分からないな。だが──」
そう言いながら、ネブラスカは地上を映し出すモニターの隣に設置されたもうひとつのモニターへ目を向ける。
そこには、軌道上に待機するスターゲイザーの母艦が映し出されており。
そして──。
「目の前のハンター共やゼノモーフ共は、生かしてはおけない」
冷淡なネブラスカの言葉と共に、母艦から軌道ミサイルが発射された。
瞬く間に惑星中間層へ達すると、ミサイルは無数の子弾を射出。
その全てが、20トンの中性子弾──放射性強化爆弾だった。
「4000個の子弾がパラシュートで降下。一時間後に地上で同時爆発します」
「海兵隊やコマンドー連中には気の毒だが……まあ、これこそ彼らが言う“コラテラル・ダメージ”というものだろうな。致し方ない、犠牲だ」
下された指令は、“帰還せよ”。ただそれだけ。
なら、この大掃除は現場判断の範疇だろう。まったく、自由裁量とは素晴らしい。
間もなく行われる惑星規模の大量破壊を想像し、ネブラスカはこの“出張”が成功した事を確信していた。
じゃあ俺、座標もらって帰るから(棒読み)