満天の星空。巨大な自然衛星がいくつも公転し、この惑星を見下ろしている。
鬱蒼としたジャングルを照らす星明かり。ジャングルから少し離れた場所に目を移すと、切り立った崖があった。
そして、そこには異星のテクノロジーで建てられた巨大な建造物──鉱山採掘施設が存在した。
数百年は放置されたであろう採掘施設。外壁には緑が侵食し、まるで建物を
しかし、構造材は特殊な合金で作られているのか、錆等の劣化、腐食はまったく見られず、この建物はあと1000年は崩壊せずに存在し続ける事を伺わせていた。
プレデターの氏族、
本来の用途ではなく、狩りから逃れた獲物の隠れ家として。
そして。
ここには新たな住民が棲み着いていた。
「シシュ、シシュ、シシュ……!」
新たな棲家で
エミリオとシシュの、何度も何度も繰り返された、愛の営み。
日が落ちても蒸し暑い屋内。肉を打ち付ける音と体液で湿った音が響き、室内の湿度は更に上がる。
しかし、愛し合うエミリオとシシュにとって、蒸し暑い室内は些細な問題であり。
お互いの灼熱の体温──肉体を焦がすような快感に比べたら、不快な室温は、むしろお互いを高める良いアクセントになっていた。
「シシュ、気持ちいい、気持ちいい……!」
ベッドの上で静かに、深く繋がり合う。
横たわるシシュの後ろからその片足を持ち上げ、ゆっくりと腰をグラインドさせるエミリオ。空調などという気の利いたものはない。運動と室温で玉のような汗を滴らせながら、互いの身体を擦りつけ、滑らせる。
エミリオが腰を動かす度にグチュ! グチュ! と淫らな水音が響き、シシュの大きな乳房がゆさゆさと揺れる。
ベッドは二人のゆるやかなグラインドでギシギシと音を立てていた。
「ku、kyuu、kyuuu……!」
ピストンの度に切なそうに喘ぐシシュ。
涙を流しながら、下腹部から突き抜ける快感に喘いでいた。
「kyuu、エミ、エミ」
子犬が縋るようにエミリオの名を呼ぶシシュ。首を動かし、懸命にエミリオの舌を求める。
「シシュ、んっ、ん、んぅ」
「kyu、kuchu、kuchu」
クチュクチュと、互いの舌をこすり付けるように絡ませる。
そのまま、エミリオはゆっくりと、深いストロークで腰を入れる。
「ku、kyuuu……!」
グリィッと、膣壁を擦られると、シシュは愛液を噴射させながら、何度目か分からぬオーガズムを感じた。
「シシュ、シシュ……ああ、イク、イクよ……!」
「kyu、kuuu……!」
ゆっくりと、深くペニスを挿入しながら、エミリオが射精を告げる。
シシュはきゅっと目を瞑り、熱い濁流に備えた。
「イク、イク、イク……!」
グチュ! グチュ! グブ! グブ!
湿った肉がぶつかり合う音と、膣口から放屁のような空気の漏れる音が鳴る。
ラストスパート。数度の抽挿。
「クウゥゥゥッ!」
深く腰を突き出し最奥までペニスを埋める。
埋まった直後、ビュグ! ビュグ! と、複数回射精を繰り返す。熱い精液が流し込まれる度に、シシュの膣肉が痙攣した。
密着射精。本日3度目の、緩く、長い射精。
「kyuuuuuu……!」
激しい快感、強烈な多幸感。
それに必死で耐えるシシュ。
かろうじて、意識は落とさなかった。
「ウ、クゥ!」
ビクッ! ビクッ! とペニスを痙攣させ、精管に残った精子を絞り出す。
「ウッ、フゥ、フゥ……!」
まだ硬いペニス。射精しながら丹念に抽挿を繰り返し、最後の一滴を、最奥まで絞り出した。
「フゥ……!」
ジュポッと音を立て、エミリオはようやく半勃ちのペニスを引き抜く。
引き抜かれたシシュの陰口からとゴポゴポと精液が零れていた。
「kyu、krrr……」
パクパクと爪上口器を開閉し、シシュは浅い呼吸を繰り返す。見れば、だらしなく開かれた口器から涎も垂らしていた。
快楽で焼けた脳内で、乙女は幸せに酔う。
「シシュ……」
そうしていると、エミリオがシシュの下腹部へ手を伸ばした。
ぽっこりと
よく見ると、シシュは全身、特に張りのある大きな乳房をテラテラと濡らしていた。
エミリオの汗と精液。そして、僅かに漏れ出た
この日の営みは、これで終わっていた。
「シシュ……あまり無茶しちゃだめだよ?」
「kyu……!」
湿っぽい声質でそう囁くエミリオ。
艶めかしい吐息を耳元に感じたシシュは、返事の代わりにチョロチョロと精液混じりの小水を漏らしていた。
「シシュ……」
シシュの排泄物で下半身を汚すエミリオだが、それを全く気にしておらず。そのまま、シシュを後ろから抱きしめ、乙女の野性的な体臭を吸い込んだ。
例えどれだけ暑く、湿度の高い夜でも、エミリオとシシュは毎晩全裸で、汗だくとなり、互いの体液で汚れ、肉体を絡ませながら眠っていた。
エミリオは濡れた肉体をシシュにぴったりとくっつけ、愛する異形の大きなおなかを大切に抱きながら寝息を立てる。
シシュもまた、背中とおなかに大好きなエミリオの温もりを感じ、イキ疲れるように眠りに落ちていた。
「shaaa……」
しばらくして、部屋の片隅で眠っていたディがのそりと鎌首をもたげる。
“飽きないなぁ”と呆れたように鳴き声をひとつ上げると、大きな身体を猫のように丸め、再び眠りについていた。
エミリオとシシュ、そしてディが、氏族の“忌み星”へ降り立ってから3ヶ月が経過していた。
日に日に大きくなるシシュのお腹。安定期が過ぎてから、先程のような緩い──あくまで彼らにとって穏やかな性交を続ける日々。
激しく交わり、お互いに気絶するように果てた初日から。
そして、性液のプールで眠る二人をディが叩き起こしてから、この惑星での湿度の高い営みが始まっていた。
新生活を始めるべく、まずは宇宙船付近の探索を始めようとしたエミリオとシシュ。
しかし、装備を整えいざ出発! とはいかず、ひと悶着が発生しており。
「シシュ、ズボン返してよ……」
「grr!」
全裸のエミリオがそう情けない声を上げる。
対し、シシュは愛する男の臭いが染み付いたカーゴパンツを抱え、イヤイヤと頭を振っていた。
シシュは、未だにエミリオとの裸族生活に拘泥していた。
プラズマキャノンやコンピューターガンドレッド等基本的な狩猟武具は身につけているものの、ネットスーツや腰布は身につけておらず。
全体的に筋肉質で大きな身体だが、締まる所は締り、出る所は出ている性的な肉感。Gカップはあろうかという張りのある大きな乳房をたゆんと揺らし、ピンと尖った乳首を惜しみなく露出させながら、エミリオの股間を意識的に煽っていた。
「いやだから」
「grrr!」
エミリオのカーゴパンツを抱え、ガーッと口器を開き、抵抗を表すシシュ。
ちなみに、下着は先程の営みでエミリオ自身が破り捨てていた為、現在彼が全裸なのは半分自業自得だった。
「grrr」
「あっ」
シシュはエミリオのカーゴパンツを雑に畳むと、自身の巨乳の谷間へと押し込んだ。
「krrr……」
「う……」
乳房を掴み、こねこねと揉みしだきながら、扇情的にエミリオを煽るシシュ。
ホラ、取れるものなら、とってみたら?
そう言うかのように、上目使いでエミリオを見る。
「シ、シシュ……」
発情した雌の芳香を嗅ぐと、エミリオの下半身は熱を帯び始める。
ムクムクと膨らみ、先端をひくつかせながら戦闘態勢に入る肉の棒。
小生意気なメスプレを容赦無くわからせる、疲れ知らずの海兵棒だ。
「……」
それを、うっとりとした表情で見つめるシシュ。
興奮したエミリオにメチャクチャに犯され、暴力的に精液を流し込まれた記憶が蘇る。
その麻薬のような快感、そして“激しく愛されている”という多幸感に、シシュはちょっとハマっていた。
前からその
「シシュ……」
「krr……エミ……」
ポタリとカウパーを滴らせながら、一歩ずつシシュへ近付くエミリオ。
シシュはハァハァと熱い呼吸を吐きながら舌を出して待ち構える。
二人の距離が縮まり、粘膜と粘膜が接触しようとする。
熱く、激しい交尾がまた始まろうと──
「shaaaaaッッ!!」
「うわ!?」
「grr!?」
瞬間、“いい加減にしろー!”とでも言わんばかりに、ディが怒りを滲ませながら割って入った。
勢いのままシシュからカーゴパンツをひったくり、エミリオへ差し出す。
「shaaa! kishaaaa!!」
「う、うん。ごめん、ディ……」
「grrrr……」
ディの言っている事は不明だが、意思は明快だった。
お父さんとお母さんが仲よしなのは結構。ボクもうれしいよ。でも時と場所をもう少し考えて欲しいというかエッチしすぎいつまでヤッてんだいい加減にしてもういくよ!
大凡そのような意思を表明したディ。
それを受け、恐縮しながらいそいそとカーゴパンツを履くエミリオに、憮然と顫動音を鳴らすシシュ。
シシュとしては、“その時と場所を選ばずにセックスしまくりたいからここに来たのだ”という乙女の言い分があった。
とはいえ、いつまでもセックスばかりでは先に進めないというジレンマもあり、不承不承ではあるが結局エミリオの着衣を許していた。
「よ、よし。じゃあ行こうか」
「shaaaaa!」
ともあれこれで準備は整った。
エミリオの号令にディは元気よく応える。
「……」
一方のシシュは、腰布を巻き、無言でマスクを装着しており。
乙女は不機嫌オーラMAXで船外へ出た。
「シシュ」
「……」
追いつくエミリオを無視するシシュ。
はあとため息を吐きながら、エミリオはやや強引にシシュの手を引いた。
「ッ!?」
ぐいと引っ張られ、エミリオに抱き寄せられたシシュ。
シシュの方が背が高いので、エミリオの顔は必然、乙女の首元に当たる。
「ん……」
「krr……!」
そのままシシュの首筋を吸うエミリオ。
乙女はそれだけで腰布を濡らした。
「……今夜、沢山してあげるから」
「~~ッ」
そして、トドメのウィスパーボイス。
シシュはマスクの中でだらしない表情を浮かべていた。
「grrrrr!!」
「あ、待ってよシシュ」
「shaaa……」
結局、シシュの機嫌は一瞬で直っており。
テンションMAXでジャングルを進み始める乙女を、エミリオは苦笑しながら追いかけ、ディは呆れながら二人の後を付いていった。
ようやく探索行を開始したエミリオ達。
しかし、鬱蒼としたジャングルを進む内に、最初の問題にぶち当たった。
「虫が多いな……」
半裸でジャングルに分け入ったエミリオ。当然、蚊やアブ、蛭のような吸血昆虫に集られる。
BG-386に出発する前、部隊でワクチンを一通り摂取していたので、早々病気になる可能性は低い。だが、虫が未知の病気を媒介する恐れもあったし、そもそも虫に集られるのは単純に不快である。
高温多湿のジャングルでも、極力長袖の着用が望ましいのだ。
現在のエミリオの装いは、カーゴパンツに化繊靴下、コンバットブーツのみ。下着が無い為、股擦れも注意しなければならなかった。
「krr?」
「shaa」
エミリオに比べ、シシュとディは全く虫に刺されていなかった。
シシュ達プレデターの体皮は爬虫類のような硬い外皮で覆われて保護されており、乳房は弾力があり柔らかいものの、基本的にはあまり気を使わなくてよい。唯一気にするのは、粘膜を露出させている口器や陰部だけだった。
ディに関しては言うまでもなかった。体皮云々以前に、その身体に吸血しようものなら、一瞬にして酸により溶解するからだ。
「……そうだ」
ふと、エミリオは水溜りを見つけると、何かを思いついたようにそこへ行く。
淵は泥濘化しており、エミリオは泥を掬い始めると、自身の身体に塗り始めた。
「これで虫に──」
「grrrrー!!」
「うわっ!?」
泥による肌の
もうエッチが我慢できなくなったか、と少々呆れつつ、注意しようとしたエミリオ。
しかし。
「krr……ヤダ……ヤダ……」
「え、シ、シシュ?」
乙女はマスクの下で、悲しみに塗れた声を上げる。
キュウキュウとか細い鳴き声を漏らしながら、付着した泥を一心不乱に落としていた。
「シシュ、どうしたの?」
ゴシゴシとエミリオの泥を落とすシシュ。
その様子に戸惑うエミリオに、シシュは泣きそうな声で応えた。
「エミ、ミエナイ、ヤダ、ヤダ……!」
「えっ」
乙女の悲痛にして切実な想い。
愛する男の姿が見えなくなるという、種族の特性による障害。
プレデターの視覚は通常の人間とは異なり、基本的には赤外線を知覚することで視界を確保している。
ヘビのピット器官のような視覚は、マスクの補助により人間よりも優れた視覚を備えていた。
だが、唯一の弱点が存在する。
それは、泥などの砕屑物で赤外線を遮断されると、極端に見え辛くなるというものだ。
「そっか、泥が……」
「krr……」
たどたどしい説明ながらも、涙声でそう説明したシシュ。
愛する男の姿、愛おしくてたまらないエミリオが、突然視界から消失する恐怖。
シシュは、それに耐えられなかったのだ。
「ごめんね、もうしないよ」
「krrー……」
しょんぼりと項垂れるシシュを抱きしめ、慰めるようにポンポンと背中を叩くエミリオ。
思いがけずシシュを悲しませた罪悪感が広がり、エミリオもまた気落ちしていた。
とはいえ、これ以上乙女を悲しませるわけにはいかない。
エミリオは多少の虫食いを覚悟し、再びジャングルを進もうと立ち上がった。
「shaaaaaaa!」
「わぁ!?」
すると、今度はディがドシンと後ろから抱きついて来た。
「えっ、ディも見えなくなるの?」
「gurrr、shaaa」
そう疑問を上げたエミリオに、ふりふりと大きな頭を振るディ。
そして。
「えっ、ちょ、ディ!?」
「grr!?」
ディはエミリオの身体のあちこちにインナーマウスを這わせはじめた。
戸惑うエミリオ。そして、急なディスキンシップに乙女心を警戒させるシシュ。
しかし、嫉妬心昂ぶらせる乙女の心配をよそに、ディは大量の粘液を分泌。
瞬く間にエミリオの上半身をヌルヌルにした。
「ディ、これって」
「shaaaa!」
“どうよ?”と、どこか得意げな調子のディ。
戸惑い続けるエミリオだったが、やがてディの行動の意味が理解った。
「あ、虫……」
ディの粘液。ローションのように塗布されたエミリオに、もう昆虫類はまったく寄り付かなくなっていた。
調べてみなければ分からぬが、何かしらの防虫成分でも入っているのだろうか。
そう思いつつも、エミリオはディに感謝する。
「ありがとう、ディ」
「shaaaa!」
ゴシゴシとディの頭を掻く。うれしそうな鳴き声で、ディは尾をふりふりと揺らした。
「……」
そして、また不機嫌になるシシュ。
エミリオが見えなくなるという問題が解決したのに、どこか納得行かない様子だ。
マスクの下でムスっとした表情を浮かべていると、エミリオが手招きをした。
「シシュ、おいで」
「krr?」
不機嫌でもエミリオが呼べばホイホイ付いていってしまうのがシシュという生き物だ。
手招きするエミリオに近付く。
すると。
「ほら、シシュも塗りなよ」
「krr!?」
唐突に感じたぞわりとする快感。
エミリオがディの
「ここも……」
「kyu……ッ!」
ローションを剥き出しの乳房にも塗る。揉みしだくように塗布させ、シシュの乳房はヌルヌルと濡れていく。
「kyuu……ッ」
エミリオの指が、突起した乳首に触れる。
クリクリと、丹念にローションを塗布される。
シシュは先端から感じる痺れるような快感に腰が砕け、エミリオの肩へ寄りかかった。
「……ここも」
そして、シシュの腰布の中に、そっと手を入れるエミリオ。
「kyuuuuuuu……!!」
敏感になっているカラダに、エミリオの熱い体温が触れる。
ローションを塗らなくても、シシュの膣口はトロリとした愛液で濡れていた。
「シシュ……」
「kyu……エミ、エミ……!」
手を引き抜き、濡れ塗れた指先を見たエミリオ。
呼吸が荒くなる。シシュは、何かを期待するように乳房を押し付け、カーゴパンツを押し上げるエミリオの腰へ、自身の下半身を擦りつけていた。
エミリオはシシュのマスクを外そうと、吸気管へ手をかけた。
「gisyaaaaaaaaaaaaッッ!!」
「わぁぁ!?」
「grrrrr!!」
“またかい!”と言わんばかりの、ディによる本日二度目のインターセプト。
セックスは別に今じゃなくてもいいだろ! と、巨体を番の間に割り込ませる。
もはや怒りを通り越して若干の呆れを見せつつも、怪物娘は健気に義両親を更生しようとしていた。
「ご、ごめんなさい」
「grrr……!」
恐縮しながら素直に謝るエミリオ。
いいところだったのに邪魔しやがって、と逆ギレするシシュ。
ディは力なく頭を垂れ、隙きあらば
「じゃ、じゃあ行こうか……」
「grrrr……」
「shaaa……」
これから何度コレが繰り返されるのだろうか。
ディはため息のような鳴き声を上げながら、ジャングルを進むエミリオとシシュへ追従していった。
「ここって……」
しばらくジャングルを進むと、開けた空き地に出た。
そして、明らかに自然物ではない、人工的なオブジェがあり。
「これは……」
苔むしたオブジェ。長い年月を感じられるその様子。
形状はなんとも形容し難いが、エミリオはそれがどことなくクレーンのようにも見えた。
「grr……」
シシュはここが“狩猟キャンプ地”だと気付くと、マスクの下で僅かに不快そうな表情を浮かべた。
ここを縄張りにしていた連中は、氏族から追放された“悪しき血”達だ。
かつてクリーナーから聞かされたミスター・ブラック・プレデター達の醜悪な狩猟ぶりは、乙女の狩りに対する矜持に反しており。
あまつさえ、遺伝子改良による自身の強化などもってのほかだ。
「krr?」
ふと、何かを見つけたのか、シシュがその場にしゃがみこむ。
「シシュ、何か見つけた?」
「krr」
見ると、シシュはオブジェと同様に劣化した、氏族のマスクを手にしていた。
「それって、シシュ達の……」
エミリオの言葉に頷くシシュ。
傷付いたマスク。
何か、強敵と戦った後なのだろうか。
もう少し探せば、このマスクの持ち主──白骨化した氏族の遺体も見つかるかもしれない。
「……」
シシュはおもむろに自身のマスクを外す。
そして、拾ったマスクを装着した。
「シシュ、何かわかった?」
「……」
百年以上は放置されたマスクでも、マスクに残されたアーカイブは問題なく見れるようだ。
シシュはじっとマスクに残された情報を見る。
「krr」
そして、マスクを外した。
その後、瞑目。
このマスクの本来の持ち主を弔うかのように、静かにマスクに手を這わせ、頭を垂れた。
「……」
その様子を見て、エミリオもシシュの隣にしゃがみ込むと、片手で拝む。
しばらくの間、番は死者を弔い、厳かな時を過ごしていた。
「shaa……」
ディはその様子を大人しく見守っていた。
死者を弔うという文化は、ディにはまだ理解は出来ない。
しかし、この番が、何かしらの敬意を表しているのは理解できた。
それを邪魔するような無粋な子ではない。
「krr」
やがて鎮魂の儀式が終わると、シシュは得た情報をエミリオへ共有した。
この先をもう少し進むと、氏族が残した鉱山採掘施設があり、そこには長期的に居住していた“人間”もいたという。
先住者は既にいないが、まだ居住はできそうだとも。
「じゃあ、僕達もそこで暮らせそうだね」
「krr!」
ともあれ、当面の棲家の宛てが出来た。
一行は採掘施設を目指し、再びジャングルを進み始めた。
「……」
しばらくジャングルを進むと、また開けた場所に出た。
先程のようなキャンプ地ではなく、ただの開けた草むら。
「……?」
草むらを進むと、今度はエミリオが何かを見つけた。
「刀……?」
赤錆びた金属の棒。
柄巻きが施され、朽ちた鍔が装着された、古来日本より伝わる伝統的な近接武器。
刀が折れないよう、慎重にそれを手にする。
「……」
ともすれば折れそうな程錆びきった日本刀。
しかし、エミリオはこの刀が決して折れないだろうとも思っていた。
この刀を用いて最後の戦いを繰り広げた者の魂──サムライの魂が込められているのを感じ取っていたからだ。
「……」
刀を地面に突き立てると、先程のように片手で拝む。
地球から遠く離れたこの惑星で、玉のように砕け散った武魂を慰めるように、エミリオは真摯な祈りを捧げた。
「krr」
シシュもまた、エミリオのマネをするように両手を合わせた。
マスクのアーカイブを見なくても、この刀の持ち主が、栄誉ある戦いを繰り広げたのは想像に難くなく。
「行こうか」
「krr」
厳かな祈りを捧げた後、再び採掘施設を目指す。
どこか故郷──地球への郷愁の想いに囚われたエミリオ。
しかし、それは僅かな間だけだった。
これから始まる、愛しい人との新しい生活。
寂しさなど感じる暇もないだろうとも想っていた。
エミリオ達が忌み星へたどり着いて3ヶ月が経過していた。
採掘施設にたどり着き、新しい生活を始めたエミリオとシシュ、そしてディ。
施設の居住スペースには、生活に役立つ様々な物資が残されており、シシュが宇宙船から持参した品物と合わさり、それほど不便を感じる事はなかった。
水場も近く、飲料水や生活用水には事欠かない。
食料もディが付近の四足獣を狩り持ってきてくれるし、時折エミリオやシシュも狩りに参加した。
火起こしはシシュが持ち込んだ簡易コンロがあり、更にその燃料は太陽光を変換している為、半永久的に使えた。
調理した肉をシシュとディが美味しそうに食べる光景を見て、エミリオは満足気に微笑んでいた。
また、先住者が残したメモもあり、そこには周辺の状況──岩塩、薬草の在処など、食糧事情や健康面を改善する様々な情報が記されていた。
更に、少々離れた場所には海もあり、海魚が豊富に棲息していた。
エミリオ達の食卓に海鮮が現れるのも、そう時がかからなかった。
生活面での不安がなくなると、やることはひとつだけだった。
エミリオとシシュによる、濃厚な交尾。
何もかもを忘れ、二人はただひたすらお互いを求め合う。
そして、それは長時間行われるのが常であり、一度は5日間も繋がりっぱなしだった事もある。
食事も排泄もセックスしながらという無茶な行為は、流石のディも放置するしかなかった。
自身の
ともあれ、汁まみれになりながらも穏やかな時を過ごしていたエミリオ達。
日に日に大きくなるシシュのお腹に比例して、二人のセックスもまた穏やかなものとなっていた。
無論、ディから見ると無茶なのは変わりなかったが。
このような愛と欲に塗れた日々を過ごしていたエミリオ達。
そして、あくる日の事。
エミリオとシシュ、そしてディにとって、忘れられぬ時が訪れようとしていた。
「シシュ、がんばって……!」
「grr……!」
ベッドの上で苦しそうに呻くシシュ。
その手を握り、懸命に励ますエミリオ。
陰部から血が混じった大量の液体が、泉のように漏れ出ていた。
出産だ。
この惑星で、新しい命が産まれようとしていた。
「shaaa……」
不安そうにシシュを見守るのはディも同じだ。
見ると、お湯が張られた桶を大事そうに抱えている。
シシュのお腹が波打つ度に、共感めいた苦痛が、ディも感じ取っていた。
「シシュ、がんばって……!」
吹き出る汗を拭い、自身も汗まみれになりながら、懸命にシシュを励ます。
エミリオは、それ以上の事が出来なかった。
鎮痛作用のある薬草はあれど、シシュはそれを飲もうとしなかった。
この苦痛は、愛おしいものだ。
そう言って、夫が差し出す薬を拒んでいた。
「grrrr……ッ!」
「シシュ……!」
シシュが苦悶の声を上げ、救いを求めるようにエミリオの手を握る。
エミリオは、なぜ士官学校でお産の講義がなかったのだろうと、益体もない事を考えてしまう。
こんな事なら、スコットやカリロから助産の知識も教わっておけばよかったとも。
もっとも、彼女達がいかに優秀な衛生兵だったとはいえ、助産の知識を持っていたかどうかは定かではなかった。
「graaaaaッッ!!」
一際大きな咆哮で、苦痛に耐えるシシュ。
灼けるような猛烈な痛み。容赦なく押し寄せる圧力。
それに耐えながら、肉体の全機能を出産の為に使っていた。
陰部から噴出した血混じりの羊水が、股の間からベッドへ伝い落ちる。
「ッ! ……がんばって!」
握られた手が軋む。
しかし、エミリオは文句のひとつも言わず、シシュを励まし続ける。
その痛みは、シシュが感じる痛みの、ほんの僅かにも及ばない。
見ると、シシュの片方の手はベッドのパイプを掴んでおり、鉄製のパイプは乙女の握力により無残にひしゃげていた。
「gruuuuッッ!」
脈動する腹部。
陰部から血飛沫が噴き上がる。
何度も何度も、何かが膣肉を突き上げていた。
「──ッ!」
エミリオは目をしばたいた。
何か、頭のようなものが、シシュの避けた膣から飛び出そうとしているのを見留めた。
「シシュ、もう少しだよ!」
粘膜を突き破ろうとしている赤ん坊の頭。
はっきりと見える、赤黒い頭部。
エミリオの言葉を受け、シシュは最後の力、最後の悲鳴を上げた。
「guraaaaaaaaaaッッ!!」
まるで戦闘時の咆哮。しかし、どこか艶っぽい叫び。
同時に、母の子宮──狭い空間から解き放たれた、“新生児”の産声が上がった。
ふええ、ふええと、泣き声を上げる赤児。
へその緒で繋がれた母子の姿を、エミリオはしばし呆然と見つめていた。
胸から溢れる様々な感情──感動で、エミリオは動けなかったのだ。
「shaaa!」
すると、ディが素早い動きで新生児を抱きかかえた。
へその緒をインナーマウスで千切り、美術品を扱うかのように丁重な仕草で産湯に浸からせる。
まるで熟練の助産婦のようだと、エミリオはどこか感心したように見つめていた。
超常的な感応能力を持つディは、まだ意識もはっきりしない赤児が何を望んでいるのか、的確に察知していた。
「shaa」
「ああ……」
大きな手を器用に動かし、手早く血を落とすディ。
そして、清潔に整えられた赤ん坊をエミリオへ差し出した。
おずおずと、片手で受け取るエミリオ。
「ほら、シシュ……僕達の、赤ちゃんだよ」
「krr……」
涙を零しながら、シシュへ赤ん坊を見せるエミリオ。
激痛から解放されたシシュは、穏やかな表情で赤ん坊を見つめた。
「シシュに似てるね」
「krrー……」
未だ激しく泣く赤ん坊。
その頭部は、シシュのようにドレッドヘアのような管が生えている。
顔にも二対四本の爪状口器があり、皮膚の色も母の特徴をよく受け継いだ黄土色だった。
「krr、エミ、ニテル」
「え、そうかな?」
しかし、爪上口器の内には、人間と同じ唇があり。
また、その目も、プレデターというよりは人間と同じ組成となっていた。
まだ開かれていないが、きっとその瞳はエミリオにそっくりだろう。
そう言ったシシュに、エミリオははにかんだ笑みを浮かべていた。
「ほら、シシュも抱いてあげて」
「krr」
エミリオに差し出された赤ん坊を受け取り、大切に抱きかかえるシシュ。
泣く赤ん坊を抱くと、シシュの乳首が濡れた。
人間とプレデターの間の子は、本能に従い母親の乳首へと吸い付いていた。
「krr」
ちゅうちゅうと乳を吸われ、シシュは恍惚とした表情を浮かべた。
エミリオに吸われる時は、得も言われぬ快感が突き抜け、幸せになれる。
しかし、今は、それとはまた違った幸福が、彼女の脳を焦がしていた。
「……女の子だ」
そして、エミリオはんくんくと母乳を飲む赤ん坊、その股間を見て、そう呟いた。
「きっとシシュに似たおてんばさんになるね」
「krrー」
エミリオはシシュを労るようにその頭を撫でる。
そして、溢れる涙を拭おうともせず、エミリオは赤ん坊ごとシシュを抱いた。
「ありがとう、シシュ」
「krr……」
シシュは、エミリオの腕に包まれ。
そして、胸に感じる赤ん坊の温かい体温を感じ。
幸せそうに、微笑んでいた。
「shaaa」
ディはその様子をじっと見つめていた。
まるで、美し蝶々のようだ。
そう想いながら、新しい家族の様子を見つめていた。