これからどうするの?
私達、どこへ行けばいいの?
そんなの……わからないわ
本当にわからないのよ
だって、私も
西暦2470年
地球.eur.
旧パリ市郊外
かつて世界中が憧れた花の都は、今では見る影もなく荒廃していた。
ランドマークとして建てられたエッフェル塔は、中心部から折れ、まるで墓標のように旧パリ市街中心部に朽ちた鉄身を晒している。
倒壊したビル群。まともに残っている建物は、もう殆ど存在しなかった。
文化的な生活を送っていたパリジャン、パリジェンヌ達もとうに絶滅していた。今、旧パリ市に棲まう住人は、過酷な地球環境に取り残された哀れな落伍者のみ。
人口爆発、環境汚染、自然災害、そして戦争。
科学の発展は、人類に平和と安寧をもたらす事はなく、人類の格差拡大に貢献しただけだった。
上位数%の限られた者達は皆、豊かな自然にあふれる
連合政府もその首都機能を月と火星に移しており、地球はほぼ無政府状態といっても過言ではなかった。
そして、取り残された数十億の人間達は、このディストピアで過酷な生活を強いられる事となる。
食料も資源も枯れ果てた地球。他者から奪う事でしか、明日の生命をつなげる事が出来ない。
民衆を守るはずの
地球は、弱者が強者に踏みにじられる、原始的な暴力が支配していた。
「……」
旧パリ市街を見下ろせる丘の上。
一人の女性が岩に腰をかけ、折れたエッフェル塔を見つめていた。
『地球か──“クソ溜め”だ』
彼女は、以前、ある男に言われた言葉を思い出していた。
地球で一生を終えるよりも悲惨な死に方はあるのかと、彼はあの怪物達との戦いを終えても尚、そう言い放っていた。
醜い傷跡が残る凶相を、ことさら歪めながら。
そうかしら?
この灼ける様な夕陽に照らされた街は、とても美しいのに。
夕陽が廃墟と化したパリを照らし、スモッグがその光を朧げなものとしている。
幻想的な光景。しかし、地上に棲まう者達は、この世の地獄を味わっている。
彼女はその事実を、どこか他人事のように感じ、ただ眼下の光景を美しいと想っていた。
否。事実他人事だ。
なぜなら、彼女はもう人間じゃなかったから。
人間の営みなど、彼女にとって最早興味を引くようなものではなかった。
エレン・ルイーズ・リプリー。
ウェイランド・ユタニ社所属。
資源運搬船ノストロモ号二等航海士。
識別番号9156170。
それが、彼女が人間
いや、人間だったというのは、少し語弊があるのかもしれない。
彼女──リプリーは、科学の狂気によって生み出されたクローンであり、人間とは全く違う生物として再生され──新生していたからだ。
人間と。
そして、エイリアンの遺伝子が混ざった、新たなる種として。
資源運搬船ノストロモ号、植民惑星LV-426、流刑惑星フィオリーナ161。
三度にも及ぶ、エイリアンとの凄絶な戦い。
気心が知れた大切な仲間達。
勇敢な植民地海兵隊の兵士達。
そして、最後には心を通わせた、不屈の精神を見せた囚人達。
共闘した者達の死と引き換えに、彼女はエイリアンとの戦いに全て打ち勝っていた。
そして、最後は溶鉱炉の中に身を投げ、クイーンの幼生を道連れにしたリプリー。
そこで、彼女の人生──戦いは終わりを告げたはずだった。
ウェイランド・ユタニ社が23世紀初頭にウォルマート社に買収された時、凍結されていた極秘プロジェクトも、そのまま闇に葬られるはずだった。
しかし、ウォルマート社の実質的な親会社である機構連合が、ウェイランド社が秘匿し続けていたそのプロジェクトに目を付けた。
22世紀終わり頃にCEOを務めていたショウ・ユタニ。彼女が隠蔽した、エイリアンの情報。
洗いざらい掘り起こした頃には、計画は機構連合軍事部門を中心に再び動き出していた。
新素材の開発、ワクチンの開発、そして、エイリアンを軍事利用する為に。
廃棄されたフィオリーナ161でリプリーの血液と体組織のサンプルを入手し、冷凍保存するまでは計画は順調だった。
しかし、残されたサンプルはDNAがめちゃくちゃに
エイリアンの胎児──クイーンの幼生が、既にエレン・リプリーのDNAにまで影響を及ぼしていたのは驚くべき発見だった。宿主の生きた細胞ひとつひとつに侵入し、それらを変化させ、胎児の生育を保証させる適応進化。
だがそれは、エイリアンのDNAとリプリーのDNAを分離させるのは不可能だという、覆す事の出来ない事実を科学者達にもたらしていた。
ならば、そのまま育ててしまえば良い。
科学者達は実に合理的な発想で計画を進めていった。
DNAを解析して、RNAを抽出し、復元して、それらが機能するように培養して──。
とてつもなく辛い、苛立たしいその作業は、数年間続いた。
そして、ある程度形になり、胎児を人工培養する頃になると、計画はより秘匿性の高いものとなっていた。
倫理規定から逃れるべく、軍事医療研究艦オリガ号に移された計画は、最終段階へと進む。
そこで、
エイリアンの、クイーンの胎児と共に。
胎児を安全に摘出した後は、廃棄されるはずだったリプリー。
しかし、主任研究員メイスン・レン博士、そして副主任のジョナサン・ゲディマン博士が、計画責任者であるベレス将軍の反対を押し切って、リプリーは“保存”された。
エイリアンと人間のDNAが混じった全く新しい生命体は、彼らの科学的好奇心を大いに刺激していたのだ。
クイーンが産卵し、
予期しなかった、繁殖したエイリアン達の脱走。そして混乱。
それから行われた、相次ぐ虐殺。
研究員や軍人達、ベティクルー達──そして、七人目のリプリーの、悲惨な運命。
凄惨な地獄が、オリガ号に現出していた。
そして、リプリーはその地獄から、四度目にして、最初の生還を果たした。
自爆したオリガ号に残された
リプリーは、生き残ったベディクルー達──ヒューマノイドのコール、保安員のジョナー、機関士のブリースと共に、ベティ号で地球に降り立っていた。
ヒューマノイドのコールと共に、パリ市街を見下ろしたリプリー。
故障したベティ号と格闘するジョナー、ブリースを置いて、二人だけでパリを見つめる。
対立し合っていたジョナーとブリースは、共に死線を乗り越えてからは、常に一緒に行動する程の仲となっていた。
もっとも、ブリースはジョナーが懐いて来るのを、少々疎ましく感じてはいたが。
「もうじき軍隊がやってくる……これからどうするの?」
そう言って、コールは不安そうな表情でリプリーを見つめる。
コールはただのヒューマノイドではなく、オートンと呼ばれる存在だった。
ヒューマノイドが創造した、新しいヒューマノイド。
そして、人類の為に、人類の敵──秘匿されたエイリアンの情報をハッキングし、その抹殺を使命とした、お人好しヒューマノイド。
最初は自分をも殺そうとしたコールに、リプリーは静かに応えた。
「そんなのわからないわ。ここに来るのは初めてだから……」
リプリーにとって地球は故郷ではなく、未知の惑星だった。
かつて、人間だった頃の家族──娘のアマンダ、そして、LV-426で出会った少女ニュート。
もう、彼女達の顔すら思い出せなかったリプリー。
地球への郷愁など、抱けるはずがなかった。
彼女にとって娘と呼べるのは、あの醜悪な怪物──ニューボーン・エイリアンだけだった。
「……ブリース達を手伝ってくる」
コールは押し黙ってしまったリプリーを気遣い、ベティ号へと戻っていった。
一人残されたリプリーは、ここまで人を想ってくれるヒューマノイドを見て、かすかな記憶が蘇っていた。
『生きて帰る望みはないが、君たちに同情する』
『人間にしては、やるね』
窮地に陥れたアッシュ。
窮地を救ってくれたビショップ。
そして、共に窮地から脱したコール。
同じヒューマノイドなのに、どうしてこうも違いが出るのだろう?
リプリーはそのような想いに囚われる。
そして、自嘲気味な笑いを零した。
娘の──娘達の名前すら思い出せないのに、ヒューマノイドの名前は思い出せるなんて!
どうしてこの様な記憶ばかり思い出せるんだろう。
いや、そもそも、この記憶は自分の記憶じゃなく、人間だったエレン・リプリーの記憶だ。
私はリプリー。
でも、人間のリプリーじゃない。
「……ッ」
リプリーは急に胸が苦しくなった。
自分という存在が、この世界では異物として扱われているように思えたからだ。
唯一、今の自分が感じられる、明確な繋がりが消えていたのも、彼女の苦悩を増長していた。
「うっ…うぅ……ッ」
嗚咽を噛み殺すように、リプリーは涙を流した。
ベティで地球へ降下した時の、ほんの少し前の記憶。
頭の中で、記憶がせめぎ合い、やかましく騒ぎ立てる。
ベティ号の貨物室に侵入していたニューボーン・エイリアン。
新しいカタチの、新しいエイリアン。
そして、リプリーの遺伝子をも受け継ぐ、怪物の娘。
それを、自らの手で、殺した。
穴の空いた窓に、凄まじい吸引力で張り付けられたニューボーン。
生き延びようと必死にもがき、窓から身体を引き離そうとした。
だが、リプリーの血液により腐食した窓は、より大きな穴となり、ニューボーンの身体を容赦なく吸い込んでいた。
強烈な冷気により皮膚が凍り始め、ふいに宇宙空間に向け破裂し、体組織と血液が噴出し、瞬く間に凍りついていった。
ニューボーンは甲高い悲鳴を上げ、凄まじい苦痛に顔を歪めていた。
死にものぐるいで身体を引き離そうとするも、ぼきんと何かが折れる音がして、ニューボーンの肉体は徐々に体積を失っていった。
ニューボーンは、想像だにしなかった耐え難い苦痛を感じながら、縋るようにリプリーを見つめた。
喋る事もできず、ただ叫ぶだけだったが、リプリーは自分に良く似たその瞳と目が合うと、不思議とニューボーンが欲している事を理解していた。
そして、ニューボーンも、リプリーが欲している事を理解し、求めていた。
母親が、子供に助けの手を差し伸べず、見殺しにする事ができるのだろうか。
ニューボーンは、最後の、最期まで、リプリーに懇願し続けていた。
助けて!
お母さん!
私を助けて!
殺して!
お母さん!
私を殺して!
お願い!
私を殺して!
リプリーは、ニューボーン──娘の最期を思い出し、あの悲鳴のような鳴き声が脳を貫き、電流のような衝撃が走っていた。
脳内で反芻する、我が子の断末魔を、聞くまいとして頭を押さえる。
「う、うぅ……うぁ……ッ」
しかし、涙が止まらない。
嗚咽も、抑えきれない。
涙、鼻水、涎。
悲しみに苛まれ、リプリーは自らの行いに恐怖した。
ニューボーンの四肢が、筋肉が、骨が、内蔵が排出され。
徐々に溶けていくニューボーンの姿から、目が離せなかった。
ああ、もう死んだと言ってちょうだい。
あなたは、死ななくちゃだめなの!
そう願い続けていたリプリー。
しかし、ニューボーンの瞳がそれを否定していた。
肺が飛ばされたのか、ぞっとするような悲鳴はもう聞こえなくなっていた。
だが、悍ましい口はまだ動き続け、救いを求めるように蠢いていた。
ニューボーンは、まだリプリーと繋がっている事を理解していた。
助けて。
助けて。
囁くような思念。
頭部だけを残した、ニューボーンの最期の願い。
かすかな糸で繋がった、最期の囚われ。
リプリーは、もうすぐ死のうとしている、この子の存在を憐れみ、嘆く。
ニューボーンの後頭部が破裂し、脳漿が噴き出した時、まとわりつくような思念、絆は消失していた。
「ああ、うあぁぁッ!」
半分は安堵感から。もう半分は悲しみから。
リプリーは、荒野の大地に突伏し、声を上げて泣き崩れた。
ああ、神様。
感謝します。
あの子は死んだ。
死んでくれた。
ああ、神様。
お許しください。
あの子が死んだ。
死なせてしまった。
泣き続けるリプリー。
その姿は、誰にも見られる事はなかった。
ひとつだけ、除いて。
「クルルル……」
ふと、虚空から、か細い顫動音が鳴った。
「……?」
泣き顔を上げ、周囲を見回すリプリー。
最初は、ベティ号から戻ってきたコールかと思った。
しかし、誰もいない。
コールも、ジョナーも、ブリースも、離れた場所で駐機しているベティ号にいる。
この場では、自分以外の動物は見られなかった。
「キャンディ、食べル?」
しかし、今度ははっきりとその“声”が聞こえた。
少女のような、可憐な声。
しかし、どこか非人間的な、厳つい声色。
「誰……?」
涙を拭いながら、リプリーは虚空へと言葉を返した。
すると、目の前の空間から、ピリピリと紫電が迸った。
「?」
リプリーはこの超常現象にさして驚きを感じなかった。
ただ、不思議そうに紫電を見つめる。
見るめる内に、紫電を纏わせた陽炎が浮かび上がり、徐々に実体化していった。
「クルルルル……」
浮かび上がった存在を見て、リプリーは先程まで苛まれていた悲しみが、不思議と和らいでいくのを感じた。
どうにも奇妙な存在。人のカタチをした、人ではない存在。
それをまじまじと見つめる。
無骨なマスク、腕に装着したコンピューターガントレット、肩に背負ったショルダープラズマキャノンなど、およそ人類が作り出したとは思えない、数々の異質な装具。
背丈はリプリーよりも少し低い程度。もっとも、180cmは優に超えるリプリーと比べてなので、普通に比べたら十分に高身長だ。
厳つい装備を纏っている割には、身につけている衣服は最小限だ。
使い込まれた腰布、網目のようなボディースーツ。
そして、肩に巻かれた、色あせたハンカチ。
「……女の子?」
突如現れた異形の姿を見て、リプリーはそう呟いた。
ボディースーツは肉体の露出を覆い隠せてはおらず、上半身は装具を除けば、ほぼ裸といっても差し支えなかった。
スラリとしたボディライン。
慎ましく膨らんだ乳房。
ピンと尖った桃色の乳首。
それらは、その異形が女性であるのを表していた。
しかし、見れば見るほど、それは人間のものではなかった。
筋張った筋肉を覆う、黄土色の体皮。
ドレッドヘアのような髪は、ところどころチューブのような管も生えていた。
そして、それらはマスクにも繋がっている。
なにかの呼吸器だろうか。
「クルルル……」
しばらく見つめていると、異形はマスクへと手を這わせる。
取り付けられた管を引き抜くと、蒸気が漏れるような音が鳴った。
それから、マスクへ手をかける。
ゆっくりと、取り外した。
「クルル」
異形の少女。その素顔が晒される。
亀の甲羅のような前頭部。しかし、黒いドレッドヘアに覆われているので、そこまで非人間的ではない。
目は、人間だ。
黒い瞳。どこか、東洋人を思わせる瞳だった。
鼻は、人間の少女のように可憐に整っていた。
ここまで見ると、少し変わったファッションの人間のようにも見える。
しかし、顔の下半分は、明らかに人間ではなかった。
頬から生やした、二対四本の爪上口器。
その下に、人間の口。
人間ではない少女。
人間だったリプリー。
同じ、異形の存在。
視線を交わしただけで、お互いが異質な存在であるのが理解できた。
「クルル」
「……」
異形の少女は、まったく無警戒にリプリーの隣へ腰を下ろした。
体育座りのように膝を抱えると、ちらりとリプリーへ顔を向ける。
「ミシャ」
「えっ?」
「わたシ、ミシャ。あなたは、ダアレ?」
妙な発音でそう問いかける、ハーフプレデターのミシャ。
少し戸惑うリプリーだったが、無垢な少女の瞳を覗くと、自然と暖かい気持ちが湧き起こっていた。
「リプリーよ」
そう返したリプリー。
ミシャはふうんと、ポケポケとした空気を纏わせる。
「ミシャはどこから来たの?」
今度はリプリーがそう問いかける。
ミシャは、短く応えた。
「遠いとコ」
「遠いって、どれくらい?」
「うんと遠ク。ここ、来るの初めテ」
「そう。私も、ここに来たのは初めてよ」
どこか牧歌的な空気が漂う中、リプリーとミシャは会話を続けた。
「どうやって来たの?」
「マーマの宇宙船で来タ」
「ママの? ママも一緒に来たの?」
「来てナイ。ディねえとお留守番」
リプリーはミシャが地球外生命体であるのを察していた。
しかし、妙な愛嬌を漂わせるミシャを敵視する事はなかった。
人間よりも、気心が知れる。
そう感じていた。
「そう……じゃあ、パパはどうしているのかしら?」
ふと、そう疑問を浮かべたリプリー。
ミシャはそれを聞いた瞬間、悲しげに視線を落とした。
「パーパ、モウいなイ……」
「……ごめんなさい」
悲しげな表情を浮かべるミシャ。
リプリーは、思わず少女を抱き寄せた。
ミシャは少し戸惑うも、やがてリプリーの肩へ頭を預けていた。
「……その、お姉ちゃん以外に兄弟はいるの? お兄ちゃんとか」
話題を変えるべくそう言ったリプリー。
同じ様な質問は、あの金髪の少女にもしていたなと、かすれていた記憶を思い出していた。
「いなイ」
「弟や、妹はいる?」
「いなイ。ディねえだけ」
「そう……」
「でも、ディねえ、チョットミシャと違ウ。パーパとマーマ、たくさん腰ぶつけっこしてたケド、パーパとマーマから生まれたノ、ミシャだケ」
「そ、そう……腰ぶつけっこ……」
少々複雑な家庭、そして赤裸々な両親の性生活を垣間見せたミシャに、苦笑いを浮かべるリプリー。
とはいえ、ある程度ミシャの正体を想像出来た。
この子は、人間と異星人のハーフだ。
自分のような、狂気と欲望の果てに生み出された存在ではなく。
人間と異星人が愛し合って生まれた、奇跡の存在なのだろう。
人間と異星人──プレデターとのハーフであるミシャ。
しかし、いくら遺伝子的な類似点があるとはいえ、人間とプレデターの生殖で、新しい生命が産まれる確率は極めて低かった。
所詮、異なる種族同士。
だからこそ、ミシャは奇跡の存在だった。
深い愛。そして、激しい戦意。
その二つがなければ、プレデターは、人間の子を孕む事は出来なかった。
深い悲しみに包まれていたリプリーを、慰めるように現れたミシャ。
リプリーは感謝と同時に、この異星の少女をとても慈しいとも思っていた。
優しい子。
きっと、素敵な両親に育てられたんだわ。
そう、想っていた。
そして、そう思っていると。
「マーマ、腰ぶつけっこ超スキ。パーパも大スキ」
「えっ」
唐突なミシャによる両親の詳しい性生活の開陳。
少女の無垢な性癖暴露が始まった。
「パーパ、白いおしっこ、たくさんマーマに出してタ」
「え、ちょ」
「パーパとマーマ、一回腰ぶつけっこでおうちのベッド壊しタ。ディねえキレた」
「ちょっと待って」
「毎日、ミシャが寝てルときに腰ぶつけっこしてた。うるさくてミシャ起きた。何回モ」
「でしょうね」
「パーパ、白いおしっこ出しながラ、ずーっと腰ぶつけっこシテた。マーマ、おしっこ漏らしてタ」
「そんなに」
「マーマ、パーパのパーパ棒に負けるのスキ。パーパ、いつもマーマをワカらせてタ。たまにケダモノになル」
「凄いわね」
少々赤面しながらそれを聞くリプリー。
人間だった頃、出産も経験していたリプリー。当たり前だが、セックスは良く知っている。
しかし、ここまで激しい交尾は経験した事はなく。
あけすけな物言いのミシャに、ちょっと食い気味になっていた。
「パーパとマーマ、たくさん気持ちよさそうだっタ。たくさん幸せそうだっタ」
そう言って、ちょっと遠い目で明後日の方向を見つめるミシャ。
頬を、少し赤らめながら。
「その、とても仲良しだったのね。パパとママは」
「ウン。ミシャも、パーパとマーマがナカヨシ、大スキ」
花が咲いたような可憐な笑顔を浮かべるミシャ。
つい、リプリーも微笑みを浮かべる。
「ダカラ、ミシャも腰ぶつけっこしたイ」
「えっ」
しかし、直後に真顔になる。
もしや、このハーフプレデターの少女は。
「ミシャ、オムコさん、探しに来タ」
「えぇ……」
まさかの婚活!
ミシャが地球に来た目的が予想外過ぎたのを受け、リプリーはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「ミシャ、パーパみたいな子と、腰ぶつけっこしたイ」
「そ、そうなの……見つかるといいわね」
「ウン。でも、ナカナカみつからナイ……」
「そ、そうね……」
妙な空気が漂う。
どうも、ミシャは地球に辿り着く前から、あちこちの惑星で意中の相手を探す日々を過ごしていたようだ。
だが、その成果は芳しくないようだった。
「……ッ」
ふと、ミシャは鋭い視線を浮かべ、身を硬くさせる。
「ッ」
リプリーもまた、何者かの気配を感じ取り、表情を強張らせた。
コール達ではない。
ベティが駐機する場所ではなく、街の方から感じられた。
「グルルッ!」
突然、ミシャが弾け飛ぶように起き上がった。
岩陰に潜む何者かを警戒し、威嚇するように厳つい唸り声を上げる。
「誰?」
リプリーも立ち上がり、岩陰に向け誰何する。
気配はひとつ。
敵意が感じられた。
「動くなッ!」
すると、岩陰からライフルを構えた一人の兵士が現れた。
群青色の軍服、バイザーを下げたヘルメット、灰色のボディーアーマー、パルスライフル。
機構連合の兵士だ。
少年のような幼さを残した兵士。まだ入隊して日が浅いのか、慎重にリプリーとミシャへライフルを向ける。
「頭をふっ飛ばされたくなければ大人しくしてろ! ……こちらクリス・クロサワ二等兵、標的と接触。標的と行動している不明生物もあり」
無線で部隊と連絡を取りながら、クリス二等兵は警戒を続ける。
直に、大勢の兵士達に囲まれるだろう。
そう思ったリプリーは、行動を起こそうと身構えた。
「グルル!」
「なっ!?」
しかし、何かが発射される音が響く。
ノーモーションで放たれたプラズマ弾。
クリスのライフルが一瞬で破壊された。
「クソっ!」
しかし、それに怯む事なく、クリスはナイフを取り出し、ミシャへ向け吶喊した。
リプリーはミシャへ助太刀をしようと駆け寄ろうとする。
しかし。
「シッ──!」
突き出されたナイフをいなすミシャ。
流れるような動きでクリスの腕を取る。
「クルルッ!」
「がぁッ!?」
間髪入れず小手を返し。鋭い投げを決める。
更に肩関節を極め、クリスの動きを封じた。
「凄いわね。それはジュージュツかしら?」
一連の動きを見たリプリー。
完璧な
「く、くそ、なんで!?」
動きを封じられたクリス。
投げられた時にヘルメットをふっ飛ばされ、その素顔を晒す。
茶色が混じった黒髪、黒い瞳。東洋系が混じった顔。
そして、どこか少年のような、青々しい素顔を晒していた。
「なんでお前が黒澤流を!?」
ミシャに受けた技は、クリスにとって覚えがあるものだった。
この時代、とうに廃れた古武術。
しかし、クリスはその技を父から受け継いでいた。
何代もの間、連綿と受け継がれていた古武術の妙技。
ただの小手返しにはない、独特のクセを受け、その技の正体、流派に気付いていた。
そして、なぜミシャがそれを──黒澤流を使えるのか。
肩の痛みに耐えつつ、クリスは困惑を露わにしていた。
「……」
ミシャは、クリスの肩を極めつつ、じっとその顔を見つめていた。
しばし見つめた、その後。
「クルル!」
「うわっ!?」
くるりとクリスの身体を転ばし、仰向けにさせる。
そのまま馬乗りになり、クリスの腕を押さえる。
「く、くそ……!」
「……」
両腕を押さえつけられたクリス。
細い身体からは考えられない、凄まじい剛力で押さえつけられ、身動きが取れない。
クリスを押さえつけながら、ミシャは顔を近付ける。
「……みつけタ」
「え──?」
そして。
「んっ──!?」
ミシャは、クリスの口を塞いだ。
クチュ、と粘膜が合わさり、ほのかな甘味がクリスの舌に広がる。
歯を押しのけ、舌を絡ませるミシャ。
クリスの唾液を啜り、口内を蹂躙した。
「あらあら……」
馬乗りになりながらクリスの口を貪るミシャを見て、リプリーはそう呆れたような声を上げた。
なんて急展開。
これは、運命の出会いってやつなのかしら。
情熱的な光景を見つつ、そう思考していた。
「──ッ、お、おまえ、いきなり何を」
「キュゥ!」
「わああ!?」
突然の口吻に、更に困惑を強めるクリス。
しかし、甘えた声を上げ、ぎゅっと抱きついてきたミシャ。
クリスは、少女の野性味のある芳しい体臭を嗅ぎ、その頬を真っ赤に染めていた。
「リプリー! 何が──何!?」
そうしていると、プラズマキャノンの発砲音を聞きつけたコールが、慌てて駆け寄ってきた。
直後に、ミシャがクリスをホールドしている光景を見て、AIを混乱させる。
「コール、邪魔しちゃだめよ」
「え、いや、でも」
優しげにコールへそう言ったリプリー。
視線は、ミシャ達に向けれたままで、その表情も穏やかであり。
どこか、親しい友人の娘が、彼氏を連れてきたのを見たような、そのような感情を覗かせていた。
「ベティの修理は終わった?」
「え、ええ……終わってるけど……」
「そう。じゃあ、グズグズしてられないわね」
「ちょっとリプリー、何があったのか説明してよ」
「それは追々。ただ、ベティの乗組員が二人増えるかも」
「はあ!?」
そして、リプリーは、何か吹っ切れたように。
目の前の、異星のカップルを見つめる。
エイミー、ダラス、ニュート、ヒックス、クレメンス、ディロン。
そして、私の、エイリアンの娘。
かつて深い絆を交わした者達の思い出は、もう痛みを伴うものではなかった。
ミシャとクリスの存在が、リプリーを暖かな気持ちにさせていた。
そして、自分はやっぱり人間なのだと。
そう感じさせられた。
かつての人格、かつての姿が、リプリーの一部となって蘇る。
リプリーは人間を愛し、人間に愛されてきた。
だから、異形の存在である自分も、再び人間を愛してもいいのだ。
目の前の、ミシャのように。
リプリーは闘い、守り、愛する人達を救うために命を落とした。
必要があれば、もう一度そうするだろう。
今は、それを受け入れる事が出来た。
だから、今度は。
目の前の、人間と、異星人のカップルを、守りたいと想っていた。
リプリーはコールへ微笑みかける。
口元に笑顔を浮かべながら、新しい人生に想いを馳せていた。
「ねえコール、さっきどうすればいいか分からないって言ったけど、今はどうすればいいか分かるわ。私、あなたみたいなお人好しになるの」
『プレデター♀のおよめさん』
完
くぅ~疲れましたwこれにて完結です!(一度言ってみたかった)
創作の場を無償で提供し続けるハーメルン運営様に感謝と敬意を。
そして、改めて読者の皆様に感謝致します。
ありがとうございました。
令和三年七月
ヤザン体位