※この作品はR-18です。

プレデター♀のおよめさん   作:範馬勇太郎

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Chapter4.『This time it's war.』

 

 

 ママはいつも怪物なんていないって言ってた。

 本物の怪物はいないって。

 

 でも、嘘よ。

 

 怪物は、本当にいたの──

 

 

 

 

 

 

 

 BG-386居住区管制塔制御室

 

「少尉。この区域には誰もいないようですな。原因は不明です」

 

 パルスライフルを抱えたアーメイ軍曹が、制御室のコンピューターのモニターを見つめるエミリオに声をかけた。

 セントリーガンが配置されていたゲートを潜り、管制塔に進入した第3小隊は建物内を隈なく捜索したが、人っ子一人いない建物内の様子に兵士達は首をかしげつつも、管制塔を完全に制圧下においていた。

 エミリオの隣でシンシア・スコット一等兵が端末を操作すると、下がっていた防風シャッターが低い音を立てながら上がっていく。シャッターが上がりきると、激しい雨がガラスを叩きつけていた。

 

「軍曹。ここで一体何があったのか、君の意見を聞かせてほしい」

 

 エミリオはモニターで管制エリアの図面を睨みながらアーメイ軍曹に声をかける。

 アーメイ軍曹はしばし考えを纏めるかのように自身の顎を撫でていたが、やがてその胸の内をエミリオへ明かした。

 

「ここに来るまでに通路にバリケードがいくつも組んでありました。階段もプレートで溶接されて通れなくしてあります。でも、結局は突破されたようですな……敵の正体は掴めませんが、よっぽどの激戦だったようです」

「探索中に死体は見つけたか?」

「いえ、治安部隊やここの住民、敵の死体すらありませんでした。ただ、ライバックが探索中に通路で妙な物を見つけています」

「妙な物?」

 

 アーメイ軍曹は懐から取り出したタブレット端末を操作し、ライバック伍長のヘルメットに内臓されていたカメラの映像をエミリオに見せる。

 通路の途中に直径2メートル程の大きな穴が空いており、穴の縁はまるで強い酸で溶かされた(・・・・・・・・・)かのようにドロドロになっていた。

 

「穴……? 爆薬でも使ったのだろうか?」

「わかりません。同じような穴は管制塔内でいくつも見つかりました」

 

 アーメイ軍曹はタブレットを懐に納めながらエミリオに視線を向ける。

 初陣と言っても差し支えないこの新品の少尉にとって、この不可解な状況はさぞかし辛い物であろうと同情の視線を向けていた。

 だがエミリオはそんなアーメイ軍曹の思いとは裏腹に、冷静にこの状況を分析していた。

 

「軍曹。どうやらBG-386はどの教本にも載っていないような事態が発生したようだ。敵の正体が掴めない以上、これ以上ここに留まるのは危険だ。一度、第1小隊が確保している降着場へ引こう」

 

 アーメイ軍曹は冷静に指示を出すエミリオに目を丸くしてその端正な顔立ちを見つめる。

 得てして経験の浅い将校は功にあせって蛮勇を振るいがちだが、エミリオに限ってはその心配はなさそうだと好意に満ちた視線を向けていた。

 

「了解です。早速移動を──」

「待て……。中隊長から通信が入った」

 

 小隊に号令をかけようとしたアーメイ軍曹を制し、エミリオはインカムを操作する。

 インカムからホープ大尉のやや苛立った声が聞こえてきた。

 

『クロサワ少尉。居住区中心部へ向かった第2小隊との連絡が途絶えた。直ぐに小隊を居住区中心部へ向かわせ、第2小隊の現状を確認しろ』

「大尉殿。ここは何かおかしいです。一度降着場まで──」

『通信は以上だ』

 

 エミリオが言い切らぬ内に、ホープ大尉は一方的に通信を切る。

 深く溜息をついたエミリオは諦めの色を浮かべながらアーメイ軍曹にホープ大尉の命令を伝えた。

 アーメイ軍曹は第2小隊が通信途絶した状況を聞き、疑問の表情を浮かべていた。

 

「妙ですね。キャロン少尉は兵隊からの叩き上げで実戦経験は豊富です。待ち伏せに引っかかって全滅するような下手を打つはずがないのですが……」

「とにかく、ホープ大尉の命令だ。通信を妨害されているだけかもしれないし、どちらにせよ行ってみない事には確認しようがない」

「仕方ないですね……小隊集合!」

 

 アーメイ軍曹が号令をかけ、第3小隊の海兵隊員が集まる。

 居並んだ兵士達にアーメイ軍曹は手早く指示を飛ばした。

 

「第2小隊との連絡が途絶えた。我々はこれから第2小隊の状況を確認する為に居住区中心部へと向かう。チャベス、スコット。お前らはこの制御室で待機。残りはAPCに搭乗しろ」

 

 指示を受けた海兵隊員達は駆け足でAPCの元へ向かう。

 アーメイ軍曹は無線でAPCに搭乗するロス一等兵を呼び出した。

 

「ロス。これからAPCで居住区中心部へ向かう。ルートを確認しておけ」

『了解でっす!』

 

 ロス一等兵の元気一杯の声を聞いたアーメイ軍曹は、未だモニターの前に座るエミリオへ声をかけた。

 

「少尉殿も制御室に残って……」

「軍曹。僕も行くよ」

 

 パルスライフルを肩にかけ、立ち上がったエミリオにアーメイ軍曹は一瞬戸惑うも、直ぐに笑みを浮かべながら若い少尉の背中を叩いた。

 

「それでこそ少尉殿です! 率先垂範は海兵隊の伝統ですからな!」

 

 背中を叩かれたエミリオはその優しい口元に笑みを浮かべ、アーメイ軍曹と共にAPCへと向かった。

 

 

 

 

──────────────

 

 BG-386居住区外周ドロップシップ降着場

 

「くそ、第2小隊との連絡はまだ取れんのか?」

 

 居住区外周部にて、激しい雨に曝されながらチャーリー中隊所属の3機のドロップシップが駐機している。

 その傍らに設営された天幕で、苛立たしげにホープ大尉が声を荒らげていた。

 降下してから数時間が経過していたが、居住区中心部に向かった第2小隊との連絡が途絶え、更に全く姿を現さない敵にホープ大尉は爪を噛み締めながら苛ついた様子を隠そうともしなかった。

 

「だめです。居住区中心部の菜園プラントに向かった報告以降連絡はありません。こちらからの呼びかけにも全く応答しません」

 

 設置された通信機の前で第1小隊の兵士がホープ大尉に諦め顔で報告する。

 天幕の隅に立つヒラー中尉がそれを聞き、ホープ大尉に意見を述べるべくその濡れた唇を動かした。

 

「大尉。状況が掴めない以上、一度第3小隊を呼び戻して体勢を整えた方が……」

「お前は黙ってろ」

 

 ヒラー中尉の言葉に陰険で粘着質な声を上げるホープ大尉。

 粘ついた視線をヒラー中尉に向け、苛立ちを強めながら言葉を発した。

 

「ヒラー中尉。お前は以前もそうやっていらぬ進言をして部隊を混乱に陥れたな。あげく私に無断で撤退命令を出し、部隊に壊滅的な損害をもたらした」

「あれは大尉が無茶な前進を命じたから──」

「口ごたえするなッ!」

「ッ!」

 

 ヒラー中尉の美しい顔に、ホープ大尉の平手打ちが飛ぶ。

 ピシャリと、肉を打つ音が天幕の中に響き渡った。

 ヒラー中尉は頬を押さえながら、射抜くような視線をホープ大尉へと向ける。

 ホープ大尉はその視線を受け、眉をひそめながらヒラー中尉の美しい顔へと睨み返していた。

 

「ふん。なんだその顔は? 本来なら指揮系統を混乱させた張本人として軍法会議で裁かれるはずだったのだぞ。それを、私の尽力で救ってやった恩をもう忘れたのか?」

「……」

 

 ホープ大尉の憎々しげな言葉を受け、ヒラー中尉は俯きながら唇を噛み締め、ホープ大尉の暴虐に耐えていた。

 ヒラー中尉には地球に残している育ち盛りの妹がいた。

 両親が事故で既に亡く、頼る親戚もいないヒラー中尉にとって妹の学費や生活費を稼ぐ為には軍隊に残り続ける必要があった。

 たとえ、自分がどんな辱めを受けようとも、妹には真っ当な暮らしをさせてあげたい。その一心で、ヒラー中尉はホープ大尉の理不尽な暴虐に耐え続けていた。

 

「作戦が終わったらたっぷりと可愛がってやる。ようくアソコを洗っておけよ」

「……了解しました」

 

 ヒラー中尉が俯きながら弱々しく言葉を発する。

 一連のやり取りを通信機を操作しながら聞いていた第1小隊の兵士はこの美しい中尉に同情するも、決してホープ大尉の暴虐を咎めるような事はしない。

 ホープ大尉に逆らった者の末路がどうなるのか、この兵士はよく知っていたからだ。

 

「ホープ大尉」

 

 天幕内にヒューマノイドのウィルターが入り、ホープ大尉にその無機質な声をかける。

 ホープ大尉はちらりとウォルターを見ると苛立たしげに言葉を返した。

 

「なんだウォルター。貴様も私に口ごたえするのか? アンドロイドの分際で!」

「いえ。外にいる皆様に温かいココアを差し入れしたくて。許可を貰いたいのです」

 

 見ると、ウォルターの後ろにはチャーリー中隊に同行している他のヒューマノイドが同様に無機質な笑顔を浮かべて佇んでいた。

 手にはステンレス製のマグボトルを抱えており、何人かは軽食が入っているであろうバッグを抱えている。

 ホープ大尉は無機質な表情を浮かべるヒューマノイド達に一瞬怯んだ表情を見せるも、直ぐに鼻を鳴らしておざなりな言葉をかけた。

 

「ふん。いちいちそんな事で許可を求めるな」

「ありがとうございます。ドロップシップの操縦士の皆様にも差し入れを届けますね」

「勝手にしろ」

 

 ウォルターはにこやかにホープ大尉に微笑みかけると、踵を返して天幕を後にする。

 ヒラー中尉はウォルターが天幕から出る際、不気味な程不自然な笑みを浮かべているのを見て得体の知れぬ悍ましさを感じ、その表情を強張らせた。

 

 そんなヒラー中尉の視線に気付いた様子も無く、この不気味なヒューマノイド達は第1小隊の兵士達を慰撫する為、降着場の各所へと散っていった。

 

 

 

 

──────────────

 

 BG-386居住区中心部菜園プラント

 

「第2小隊のシグナルはここで途絶えておりますな」

 

 管制エリアを発った第3小隊が搭乗するAPCが居住区菜園プラントの入り口へと停車する。

 既に管制エリアを出てから1時間程経過していたが、第2小隊への通信は未だに途絶したままであった。

 アーメイ軍曹はAPC内の指揮官席に備え付けられたモニターを厳つい表情で見つめながらエミリオに声をかける。

 APCの各モニターには第2小隊のシグナル反応や第3小隊兵士達のバイタルサイン、兵士達のヘルメットに内蔵されたカメラ映像が映し出されていた。

 

「よし、早速向かうとしよう」

「少尉殿。少尉殿はここで小隊のモニターをしててください」

 

 パルスライフルを掴み、座席から立ち上がろうとしたエミリオをアーメイ軍曹がやんわりと制する。

 エミリオは不満げな表情を浮かべながらアーメイ軍曹の厳つい顔へと視線を向けた。

 

「軍曹。ここで僕が残っていたら示しがつかない」

「少尉殿。指揮官は最期まで部隊を統率しなければなりません。少尉殿と自分に万が一があったら、誰が小隊を率いるのですか?」

 

 アーメイ軍曹が聞き分けのない子供を諭すかのように、エミリオへ丁寧な言葉をかける。

 好感が持てるこの新品少尉には、軍人としてしっかり育って欲しい。そんなアーメイ軍曹の“親心”が伺えた。

 

「少尉殿! 軍曹の言うこと聞いといた方が良いですぜ!」

「第2の連中は俺達に任せてください」

「指揮官はどっしりと構えているもんですよ。少尉」

「あたし達に任せておきなクロサワ少尉!」

 

 尚も逡巡するエミリオに、第3小隊の兵士達が快活に笑いながら言葉をかける。

 事実、小隊の帝王ともいえるアーメイ軍曹の言うことを聞かない士官は兵士達とって悪夢以外何物でもなく、また食堂での一件以来アーメイ軍曹と同じように第3小隊の兵士達はエミリオに対し好意的な感情を抱いていた。

 

「そういう事です。ロス、少尉殿は任せたぞ」

「了解でっす! 皆も気をつけて!」

 

 アーメイ軍曹がロス一等兵に声をかけ、パルスライフルを構えながらAPCの装甲ドアを開ける。

 続々とAPCのから降車する兵士達を見て、エミリオは一つ溜息を吐くと、半ば諦めたかのような笑みを浮かべてアーメイ軍曹へと言葉を返した。

 

「了解した軍曹。ここからしっかり指揮を取るよ」

「現場は任せてください。よし! V字隊形で前進! A分隊は右方向、B分隊は左だ! 接敵に備えろよ!」

 

 頼もしい笑顔を見せ、アーメイ軍曹もAPCから降車する。

 小隊は練度の高い動きで菜園プラントへと進入していった。

 

 

「ロス一等兵、僕はそんなに頼りないのかな?」

「皆少尉の事が好きなんですよ、きっと!」

 

 ロス一等兵がエミリオにニコニコと微笑みかけ、その可愛らしい声を響かせる。

 リッコ・ロス一等兵は荒くれ者が集う海兵隊では珍しく大人しい性格の女兵士であり、その子猫のような愛くるしい姿から小隊全員から可愛がられていた。パクストン上等兵が小隊のムードメーカーならロス一等兵は小隊のマスコットであった。

 ただし、感情が一定以上高ぶると手がつけられない程狂暴になるので、アーメイ軍曹の判断でAPCの運転手に任じられていた。迂闊に前線に向かわないよう配慮される程、その暴れっぷりは味方も巻き込みかねない程の暴力的な様相を呈していた。

 それゆえに、ロス一等兵を可愛がる者はいても、色目を使う者は誰一人としていなかった。

 

 エミリオはロス一等兵の愛らしい笑顔を見て、自身もまた優しい笑顔を浮かべながらモニターへと視線を向けた。

 

 

 

『少尉殿。菜園プラント1階の捜索が完了しましたが、人影はありません』

 

 しばらくエミリオが菜園プラントの図面が表示されたモニターに目を向けていると、アーメイ軍曹から無線が入る。

 菜園プラントの1階はトウモロコシの人口栽培所が広がっており、モニターには兵士達のシグナルが栽培所の隙間を縫うように進んでいた。

 

「軍曹。菜園プラントは地下に動力施設がある。もう少し先に地下へ行ける階段があるから、そこへ向かってくれ」

『了解しました。パクストン! コナーの後ろにつけ! モーショントラッカー(動体検知機)を起動しておけよ! ライバックは殿(しんがり)につけ!』

 

 エミリオが無線で指示を飛ばすと、小隊のシグナルがプラント地下へと進んでいく。

 小隊が地下へと続く階段を下りていくと、先頭を進むコナー上等兵のカメラ映像にノイズが入り始めた。

 

「軍曹、カメラの映りが悪いな」

『地下に入ったから電波が届き辛くなったのでしょう。パクストン、モーショントラッカーに反応はあるか?』

『反応なし。30メートル四方に動くもんはありませんよ』

 

 無線の先から、モーショントラッカーが発するブツ、ブツ、という探知音が聞こえる。

 エミリオは緊張した面持ちでモニターを見つめていたが、やがて小隊が動力施設の入り口へ到達すると、そこには変わり果てた(・・・・・・)施設の光景が映し出されていた。

 

「パクストン上等兵……一体なんだそれは?」

『なんでしょうねぇ、俺にもわかりませんよ』

 

 画面には、生理的な悍ましさを感じさせる異様な光景が広がっていた。施設の壁面には本来の姿からは遠くかけ離れた黒々とした樹脂のような壁が形成されており、壁面や天井からは粘性のある液体が滴り落ちている。

 壁面や天井には黒いシリコンのようなツヤが浮き出ていたが、所々血管のような管が縱橫に走っており、まるでモンスター映画に出てくる怪物達の巣窟のような雰囲気を醸し出していた。

 勇猛果敢な海兵隊の兵士達は突如現出したこの異様な光景に言葉を失い、息を飲んでその黒色の壁面を見つめていた。

 

「少尉……あたし、なんだか怖いです……」

 

 エミリオの傍らでモニターを見つめていたリッコ・ロス一等兵が、怯えた子猫のような不安げな表情を浮かべている。

 エミリオもまた表情を強張らせ、モニターを凝視し続けていた。

 

 

 

 

「撃つ時は必ず標的を確認しろ……味方への誤射に気をつけろよ。ゆっくり進め」

 

 動力施設へと前進を開始した第3小隊兵士達に、アーメイ軍曹が注意を促しながらパルスライフルを油断なく構え、慎重に動力施設内へ前進する。

 一歩進む毎に、まるで自分達がグロテスクで巨大な蟻の巣へと迷いこんだかのような錯覚に陥っていた。

 

「なんだか松ヤニみたいだわ」

「本当だ。どっから流れて来ているんだ……」

 

 殿を務めるライバック伍長に、壁面の一部をむしり取ったエレナ・カリロ上等兵が訝しげな表情を浮かべながら声をかける。

 樹脂のような壁面には湯気がもうもうと昇っており、空調が止まっているのか纏わりつくような嫌な暑さが海兵隊員達を包んでいた。

 ライバック伍長は周囲を鋭い目つきで見回した後、抱えていたパルスライフルを仕舞い背中に挿していたポンプアクション式のショットガンを取り出す。

 

「俺はこいつを使う。狭い場所での接近戦じゃ一番だ」

 

 ジャコンッと、使い込まれたショットガンのハンドグリップを前後させながら、ライバック伍長は得意げな顔でカリロ上等兵を見やる。

 カリロ上等兵は時代遅れも甚だしいライバック伍長のショットガンを見て、呆れたような表情を浮かべながら前進を続けた。

 

「やけに暑いな」

「まるで蒸し風呂だぜ!」

「黙ってろマシューズ、パクストン!」

 

 うだるような暑さに文句を垂れるマシューズ一等兵とパクストン上等兵に、アーメイ軍曹が一喝する。

 パクストン上等兵の口調はやや震えが混じっており、恐怖をごまかすようにモーショントラッカーのディスプレイに視線を向け続けていた。

 

 

「おい……なんだこりゃ……」

「こいつは……」

 

 動力施設内中心部へと到達した第3小隊の兵士達は、その動きを止め呆然と辺りを見回す。

 黒色の樹脂の壁面には、第2小隊の兵士達がまるで()にされているかのように樹脂で塗り固められており、ボディアーマーを突き破られたのか胸元には大きな穴が空いていた。

 苦しみ抜いて死んだのだろう。繋ぎ止められていた第2小隊の兵士達は一様に苦悶の表情を浮かべて絶命していた。

 

「少尉殿……第2小隊を発見しました……今のところ、生存者はいません」

『軍曹。ここからだとよく見えない。状況を説明してくれ』

「それが……」

 

 アーメイ軍曹がエミリオに見たままを説明するも、自身もこの状況がどこか現実味が無いように思えてならなかった。

 第2小隊の兵士達の死体の前にはテラテラと濡れた卵のようなものが置いてあり、上部には十字状の花弁のような開口部があった。鶏卵の殻のような硬質感はない。開口部は開ききっており内部には血管や神経のようなものが見られた。

 そして、その卵の傍らには人間の手にクモのような節足動物を掛け合わせたような生物の死骸が打ち捨てられており、ライバック伍長がショットガンの銃身でその死骸をつついていた。

 

「ひでえ事しやがる……腹ん中根こそぎぶっこ抜いてやがるぜ。拷問の後かな」

「おい、ちょっとおかしいぞ。肋骨が内側からめくれていやがる。まるで中から何かが出てきた(・・・・・・・・・・)みたいだ」

 

 第3小隊の兵士達は油断なく周囲を警戒する。

 パクストン上等兵が持つモーショントラッカーは、依然何も動体を検知する事はなかった。

 

「キャロン少尉だわ……」

 

 カリロ上等兵が縫い付けられている兵士……キャロン少尉の前に進み、俯いている顔を上げさせる。

 ボディアーマーが剥がされており、何も装備も身につけていないキャロン少尉の顔を見つめていると、突然、キャロン少尉はカッと目を開き、血走った目でカリロ上等兵を見やった。

 

「が……ぁ……!」

「ッ!? 軍曹! 生存者です! キャロン少尉です!」

 

 カリロ上等兵の声に、アーメイ軍曹が駆け寄る。

 何人かの兵士と共にキャロン少尉の拘束を剥がすべく樹脂に取り付いた。

 

「キャロン少尉! 今助けます!」

「に……にげろ……にげろ……」

 

 必死になって樹脂を引き剥がそうとするアーメイ軍曹達に、キャロン少尉は蚊の鳴くような声を発する。

 樹脂を剥がすのに苦戦していると、キャロン少尉は顔を蒼白にし苦悶の声を上げながらブルブルと震え出した。

 

「ウッウウウウッ!」

「発作です! 鎮痛剤を!」

 

 突然苦しみだしたキャロン少尉に、カリロ上等兵は慌てて鎮痛剤を取り出す。

 しかし、直後にキャロン少尉のシャツの胸元が鮮血に染まり、何かが身体の中から突き破ろうと盛り上がっていった。

 

「ウグエアアアアッッ!!!」

「ッ!?」

「下がってろカリロ!」

 

 バキャッと、胸骨を突き破る音がすると、大量の血液と共にキャロン少尉の胸元からグロテスクな生物が飛び出した。

 

「kshaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 血に塗れた生物が居並ぶ海兵隊員達に威嚇するかのように甲高い鳴き声を発する。

 生物はヘビのような形をしていたが、よく見ると短い手が生えており、頭部には鼻や耳、目などは存在しない。

 頭部は前後に細長い形状をしており、まるで男性器と骸骨を合わせたかのような悍ましい姿に、海兵隊員達はその顔に恐怖を張り付かせ息を飲んだ。

 

「おい何だありゃ!?」

「ば、バケモンだ!」

「マシューズ! カリロ! 火炎放射器だ! 焼き殺せ!」

 

 アーメイ軍曹の指示を受け、マシューズ一等兵とカリロ上等兵がM240A1火炎放射器を抱え引き金を引く。

 ゴオオッと、激しい炎が発射され、キャロン少尉ごと怪物を焼き払った。

 

「kyuiiiiiiiiii!!!」

 

 孔雀と子象の鳴き声を混ぜたかのような甲高い悲鳴を上げ、小さな怪物は絶命する。

 第3小隊の全員がこの現実感の無い光景に、ただただ立ち竦んでいた。

 

 

 shaaaaaaaaaaaa……

 

 

 周囲から、不気味な鳴き声が響く。

 怪物の甲高い断末魔が合図となったかのように、シュー、シューと不気味な音を響かせ、何かが動き出す気配が辺りを包んでいた。

 

「ッ!?」

 

 直後、pi、pi、とパクストン上等兵が持つモーショントラッカーが反応音を響かせる。

 慌ててディスプレイを確認したパクストン上等兵は、その表情を更に恐怖で歪めていた。

 

「は、反応です!」

「どっちの方向だ?」

「と、特定できません……!」

 

 パクストン上等兵のあやふやな返事に、アーメイ軍曹は苛立った声を上げる。

 

「はっきりしろパクストン!」

「ふ、複数の反応です! 特定できません! こっちへ向かってきます!」

 

 モーショントラッカーの反応音が間断なく響く。

 ディスプレイに表示される大量の動体に、パクストン上等兵は増々恐怖を浮かべながらパルスライフルを握りしめていた。

 

「赤外線バイザーをつけろ。油断するな!」

 

 アーメイ軍曹の言葉を受け、第3小隊の兵士達は一斉にヘルメットのバイザーを下ろす。

 油断なく銃を構え、周囲を警戒するも動く物を見つける事はできなかった。

 

「こっちに向かってきます! 前からも、後ろからも!」

「どこにいやがる! 何も見えやしねえ!」

「パクストン! 探知機の故障じゃないのか!?」

「嘘じゃねえ! 何かいるんだ! ものすごい数だ!」

 

 ディスプレイには夥しい数の光点(フリップ)が点滅している。

 探知音がけたたましく鳴り響き、それに合わせて第3小隊の兵士達の焦燥感も高まっていった。

 

「フリップが動かなくなった……! 完全に囲まれてるぞ! どうなってるんだよ!」

「赤外線じゃ見えないのかしら……」

 

 カリロ上等兵が火炎放射器を抱えながら後ずさり、壁面へと背を向ける。

 赤外線バイザー越しにはただの黒い樹脂の壁面しか見えず、カリロ上等兵はごくりと生唾を飲み込んでいた。

 

 shaaaaaaaaaaaa!

 

「ッ!? イヤアアアアアアッ!!!」

 

 突然、背後の壁面から2メートルを超える大きな黒い怪物が襲いかかる。

 瞬く間にカリロ上等兵を捕獲した怪物は、そのまま天井へと引き上げた。

 暴れるカリロ上等兵は火炎放射器のトリガーを引き、半狂乱になって辺りに炎を撒き散らした。

 

「ギャアアアアアッ!!」

「マシューズ!」

 

 カリロ上等兵の火炎放射をまともに受け、マシューズ一等兵が炎に包まれる。

 火だるまになりながらのたうち回るマシューズ一等兵を、兵士達は狼狽して見ているしかなかった。

 

「ッ!? 逃げろ! グレネードが誘爆するぞ!」

 

 ライバック伍長がマシューズ一等兵が装備するM40HEDPグレネードに火が移るのを目にし、慌てて声を張り上げる。

 数秒後、猛烈な爆裂音と共に周囲の兵士達を巻き込みながら爆炎が舞い上がった。

 

「うわあああああああ!!」

「くそ! 何が起こった!? 状況を報告しろ!」

「カリロとマシューズがやられました!」

「こっちも4人やられた!」

 

 一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

 カッシュ一等兵は壁面で蠢く怪物を、恐怖に満ちた表情で見つめていた。

 

「shaaaaaaaaaa……!」

 

 壁面から、先ほどキャロン少尉の胸を突き破った怪物を大きくし、黒いシリコン樹脂のような外殻を纏った異形の化物が現れる。

 男性器を連想させる細長い頭部を揺らし、銀色の牙を剥き出しにしながら粘液めいた涎を垂らし、カッシュ一等兵を威嚇するかのように唸り声を上げていた。

 

「うおおおおああああ!!??」

 

 カッシュ一等兵が怪物に向けパルスライフルのトリガーを引く。

 ドガガガガッと閃光と共に銃口が火を吹き、怪物は体中から黄色い体液を噴き出しながら倒れた。

 

「ぶっ殺せえぇぇぇッッッ!!!」

「オオオオォォォォッッッ!!!」

 

 カッシュ一等兵の銃声が合図となり、コナー上等兵が吠え、クルス一等兵も咆哮を上げながらスマートガンのトリガーを引く。

 猛烈な発砲音と共に銃口から高速徹甲弾が連射され、射線にいた怪物達は木っ端微塵に粉砕された。

 

 動力施設は銃声と海兵隊の咆哮、怪物達の甲高い鳴き声で満たされた地獄の戦場と化していた。

 

『アーメイ軍曹! 一体なにが起こった!?』

「敵襲です! 現在応戦中! 6人やられました!」

 

 アーメイ軍曹もパルスライフルを撃ちながらエミリオの無線に応える。

 四方から現れる異形の怪物に、アーメイ軍曹は闘志を奮い立たせながらパルスライフルを乱射していた。

 

『軍曹! 今直ぐAPCまで撤退しろ!』

「なんです!? APCがどうかしましたか!?」

 

 銃声と怪物の鳴き声が響くせいか、エミリオの指示が良く聞こえないアーメイ軍曹はインカムを押さえながら言葉を返す。

 必死に声を張り上げるアーメイ軍曹の頭上で、静かに張り付いていた黒色の怪物が奇声を上げながらアーメイ軍曹に飛びかかった。

 

「ッ!? うがああああああッ!!」

『軍曹!? アーメイ軍曹!?』

 

 エミリオの必死な呼びかけも虚しく、アーメイ軍曹は怪物達の巣窟へと連れ去られていった。

 

「ライバック! こんなとこ早く出ようぜ!」

「軍曹がいないぞ!」

「もうやられちまったんだよッ! 早く行こうぜ!」

「クソッ! 皆行くぞ! 撤退だ!」

 

 半狂乱のパクストン上等兵がライバック伍長の元へ必死になって駆け寄る。

 残る海兵隊員を纏め、ライバック伍長は菜園プラントを脱出するべくショットガンを構え直した。

 

 

 

「しょ、少尉……!」

 

 半泣きでモニターを見つめるロス一等兵に、エミリオもまた表情を強張らせモニターを凝視していた。

 兵士達のバイタルサインが次々と“死亡”を表示するのを見て、エミリオはパルスライフルを掴みロス一等兵へと声をかける。

 

「ロス一等兵、運転席についてAPCをいつでも発進できるようにしろ」

「しょ、少尉!?」

「僕は皆を助けにいく」

 

 狼狽えるロス一等兵に指示を出したエミリオは、ヘルメットを装着しパルスライフルを抱えながら装甲ドアを開く。

 プラントの内部から僅かに漏れる銃声と、兵士達の叫び声を聞いたエミリオは唇を噛み締め、猛然とプラント内へと走り出した。

 

 

 

「死ねぇ!」

 

 クルス一等兵がスマートガンを向け、怪物へと銃火を浴びせる。

 ライバック伍長を先頭に、パクストン上等兵、カッシュ一等兵、コナー上等兵が階段を駆け上がり、プラント1階のトウモロコシ栽培場へと到達する。

 殿を務めるクルス一等兵も階段を登りきり、援護するべくスマートガンを構えるコナー上等兵へと声をかけた。

 

「サラ! 先に行けぇ!」

「でもっ!」

「いいから先に行け!」

 

 スマートガンを乱射し、トウモロコシを薙ぎ倒しながら蠢く怪物達に火線を浴びせるクルス一等兵。

 ドゴゴゴゴゴッと、激しい銃撃を浴びせ続けるクルス一等兵の死角から、怪物がのそりと鎌首をもたげ飛びかかろうとしていた。

 

「クルス!? 危ない!!」

 

 コナー上等兵がクルス一等兵を狙う怪物に向けスマートガンを発砲する。

 近距離からスマートガンの射撃を受けた怪物は、黄色の血しぶきを撒き散らしながら四肢をズタズタに飛び散らせた。

 が、その血しぶきをクルス一等兵はまともに浴びてしまい、肉が焼ける音と共にクルス一等兵は断末魔を上げ倒れ伏す。

 

「がああぁぁぁッッ!!」

「クルス! クルス!!」

 

 怪物の強酸性の血液がクルス一等兵の肉を溶かす。

 倒れ伏したクルス一等兵はしばらくのたうち回っていたが、やがてビクンッと身体を震わせた後、動かなくなった。

 

「コナー! 早く撤退しろ!」

 

 クルス一等兵に駆け寄ろうとしたコナー上等兵をライバック伍長が押さえる。

 コナー上等兵は必死になってライバック伍長をの制止を振りほどこうとしていた。

 

「嫌だ! クルスを助けに行くんだ!」

「諦めろ! あいつは死んだよ!」

 

 胸ぐらを掴み、声を張り上げるライバック伍長に、コナー上等兵は力なく項垂れるしかなかった。

 

「クルス……! チキショウ……!」

「行くぞ! 早く引き上げるんだ!」

 

 コナー上等兵を引っ張りながらライバック伍長はプラント入り口へと駆け出す。

 しかし、黒色の怪物がライバック伍長へと猛然と襲いかかった。

 

「ッ!?」

 

 牙をむき出しにし飛びかかる怪物に、ライバック伍長はショットガンの銃口を突き出す。

 口腔内にショットガンを突き刺された怪物は一瞬怯み、その動きを止めた。

 

「こいつを喰らえ!」

 

 ショットガンのトリガーを引き、撃ち出された散弾が怪物の頭部を破砕する。

 飛び散った怪物の強酸性の血液がライバック伍長の腕にかかり、肉を焦がす臭いと共にライバック伍長の苦悶の声が上がった。

 

「ぐうう!」

「ライバック!?」

 

 今度はコナー上等兵がライバック伍長へと駆け寄る。スマートガンを捨て、負傷した腕を抱え苦悶の表情を浮かべるライバック伍長を肩に担ぎ、必死になってプラントの入り口を目指した。

 

「shaaaaaaaaa!」

 

 怪物の声が響き、コナー上等兵が後ろを振り返る。

 粘性のある涎を垂らし、唇を震わせながらガチガチと歯を鳴らす怪物が、二人に襲いかからんと身をかがめていた。

 コナー上等兵はそれを見て、観念したかのようにぎゅっと目を瞑った。

 

「伏せろ!」

 

 突然響いた声に、ライバック伍長とコナー上等兵は身体を伏せる。

 パルスライフルの射撃音と共に、コナー上等兵達の後ろにいた怪物は悲鳴を上げて絶命した。

 

「クロサワ少尉!」

「コナー上等兵、ライバック伍長! 早くAPCまで撤退しろ!」

 

 パルスライフルを撃ちながらコナー上等兵達に指示を出すエミリオ。

 正確無比なその射撃は湧き出る怪物達を確実に仕留めていった。

 やがてプラント入り口へと到達した第3小隊の生き残りは、ロス一等兵が運転するAPCへと駆け出す。

 パクストン上等兵がAPCの装甲ドアを開け、コナー上等兵とライバック伍長をAPC内へと押し込んだ。

 

「カッシュ! お前も早く乗れ!」

「まだ少尉殿が残ってる! 見捨てる事は出来ねえよ!」

 

 パルスライフルを構えたカッシュ一等兵が、未だプラント内で足止めに徹しているエミリオの元へ駆け出す。

 エミリオはプラント入り口付近でパルスライフルの銃火を怪物達に浴びせ続けていた。

 

「少尉殿! 早く引きましょう!」

「カッシュ一等兵! 早くAPCに乗るんだ!」

「あんたを置いていけるわけないでしょうが!!」

 

 エミリオの横でパルスライフルを撃ちながらカッシュ一等兵が声を上げる。

 二人は互いに援護しつつ、APCのドアへとジリジリと向かっていった。

 

「ロス一等兵! 機銃を撃て!」

『了解!』

 

 APCに装備されている自動照準機能付きの20ミリ機関砲が猛然と火を噴く。

 プラント入り口から無数に湧いてくる怪物達を一掃し、エミリオとカッシュ一等兵はAPCのドアへと取り付いた。

 

「少尉殿、先に乗ってください!」

 

 カッシュ一等兵はエミリオをAPCへと押し込むと、自身もAPCへと入ろうとするべくドアの取っ手に手をかけた。

 

「ッ!?」

 

 しかしAPCへと入ろうとした瞬間、カッシュ一等兵の腕を掴む異形の手が現れる。

 黒色の怪物が、低い唸り声を上げてカッシュ一等兵を引きずり下ろした。

 

「ギャアアッ!!」

「カッシュ一等兵!」

 

 エミリオは必死に手を伸ばすも、瞬く間に怪物はカッシュ一等兵を連れ去っていった。

 無念に打ちひしがれるエミリオは、しばしカッシュ一等兵が連れ去られた方向を見つめるも、直ぐに頭を振ってAPCのドアを締めた。

 

「ロス一等兵! APCを発進させるんだ!」

「りょ、了解です!」

 

 APCが機銃を掃射しながら勢い良く発進する。

 運転席に座るロス一等兵は必死の形相でAPCを居住区中心部から脱出させるべく、操作レバーを握りしめていた。

 

「ッ!? キャアアアアアッ!!」

 

 突然、APCの防弾ガラスが音を立てて割れ、APCに張り付いた怪物の尻尾がロス一等兵へ襲いかかる。

 尻尾の先端は槍の穂先ように尖っており、鞭のように振り回しながらロス一等兵の顔を掠めた。

 つう、と、ロス一等兵の可憐な頬に一筋の血が滴る。

 APCの操作レバーを握りながら、ロス一等兵は徐々にその可憐な表情を鬼の形相へと変えていった。

 

「な、な、な……!」

 

 APC内でブチっと何かがキレる音が響く。

 エミリオ以外の第3小隊の生き残り達は、その音を聞いた瞬間今まで味わったのとはまた違った恐怖に苛まれた。

 

「なめんじゃないわよぉぉぉッッ!!」

 

 ロス一等兵の金切り声がAPCに響く。

 急ブレーキをかけ、怪物を振り落としたロス一等兵はアクセルを全開にし、猛然と怪物を轢き殺さんとAPCを怪物へ向け発車した。

 

「kyuiiiiiiii!?」

 

 怪物が甲高い悲鳴を上げAPCの強化タイヤに踏み潰される。

 ロス一等兵は前進と後退を何度か繰り返し、丹念に怪物をミンチにする作業を行っていた。

 

「死ねゴキブリ野郎! タマ切り取ってグズの遺伝子を根絶やしにしてやる!! 目玉えぐり取って頭蓋でファックしてやる!!!」

「ロスがこうなっちまったらもう止まらねえぞ……」

 

 パクストン上等兵の諦めが混じった呟きがAPC内に響く。

 やがて怪物をミンチにし終えた後、ロス一等兵はアクセルを全開にして居住区外周へとAPCを走らせる。

 猛スピードで居住区外周ゲートへと到達したAPCは、そのままゲートを破壊し居住区の外へと到達した。

 

「ロス! ここまで来れば安全だよ! トランスアクスルが壊れちまう! 無茶すると危ないよ!」

 

 コナー上等兵がロス一等兵の傍へと駆け寄り声を張り上げる。

 ロス一等兵は血走った目でフーッ! フーッ! と興奮した猛獣のような荒い息を上げていた。

 

「もうぶん殴って止めるしかねえよ! コナー! はやくロスを止めろ!」

「女の子殴れるわけないじゃないか!」

「女の子じゃねえよ! 猛獣だ!」

 

 パクストン上等兵とコナー上等兵が声を荒げる中、エミリオがそっとロス一等兵の隣へと向かい、優しく声をかけた。

 

「ロス一等兵」

 

 ロス一等兵の肩に手を置き、努めて優しい声色で言葉をかけるエミリオに、ロス一等兵の呼吸は徐々に落ち着いていった。

 

「落ち着いて。深呼吸をするんだ……そう、ゆっくりブレーキをかけて」

 

 徐々にAPCのスピードが落ち、やがて完全に停車したAPC車内で、エミリオ達は深く溜息をついた。

 

 

「あ……あの、少尉殿……」

「ロス一等兵、よくやった」

 

 ポンっとロス一等兵の頭をひと撫でし、エミリオは車内へと顔を向ける。

 パクストン上等兵が俯きながら座席にぐったりと座り込み、ライバック伍長も座席に深く腰をかけていた。コナー上等兵は救急箱を手にライバック伍長の傷の手当を始めていた。

 しばし沈黙が車内を包んだが、やがて顔を上げたパクストン伍長がAPCのモニターを見つめ、声を上げた。

 

「おい……見ろよ、軍曹とカッシュ、カリロはまだ生きてるぜ! 弱いけど脈も呼吸もある!」

 

 小隊のバイタルサインを表示するモニターに、アーメイ軍曹とカッシュ一等兵、カリロ上等兵の生存を示すサインが表示されている。

 それを見たコナー上等兵は立ち上がり、パルスライフルを片手に声を張り上げた。

 

「良かった! 助けに行こうよ!」

「冗談じゃねえ! またあそこに行けって言うのかよ!」

「仲間を見殺しに出来ないだろ!」

「じゃあお前だけで行けよ! 俺は絶対に行かねえぞ!」

 

 大声を上げるパクストン上等兵とコナー上等兵に、腕に巻かれた包帯を擦りながらライバック伍長がボソリと呟いた。

 

「もう遅い。軍曹達も“繭”にされちまってるよ……」

 

 ライバック伍長の言葉に、言い合いをしていた二人は唇を噛み締め俯く。

 アーメイ軍曹達もキャロン少尉と同じ運命を辿る事は容易に想像が出来た。

 エミリオは深く息を吐くと、APCの無線機を操作し管制塔に残るチャベス上等兵達を呼び出した。

 

「チャベス上等兵、聞こえるか?」

『こちら制御室、どうしました?』

「正体不明の敵……敵性生物の襲撃を受けた。軍曹以下9名が戦死、戦闘中行方不明になった。第3小隊は第1小隊が確保する降着場へと撤退する。チャベス上等兵達は即座に撤収し、管制エリアゲート前へと向かえ。APCで迎えに行く」

『りょ、了解しました。即座にここを撤収します』

 

 チャベス上等兵達との通信を終えたエミリオは深く深呼吸をし、降着場を確保する第1小隊を呼び出した。

 

「こちら第3小隊長エミリオ・クロサワ少尉。第1小隊、チャーリー中隊本部応答願います」

 

 しかし、無線は全くエミリオの呼びかけに応答することはなく、ザーザーとノイズ音を響かせるばかりであった。

 

「こちら第3小隊、本部応答願います!」

 

 何度か呼びかけを継続するも、まったく反応しない中隊本部に車内は陰鬱とした空気に包まれていた。

 

「少尉……第1小隊は……」

 

 ライバック伍長がエミリオへ声をかける。

 表情を強張らせるエミリオに、第3小隊の生き残り全員がその表情を見つめ続けていた。

 

「……とにかく、チャベス上等兵達を迎えに行こう。ヴィラノ伍長に直接連絡し、ドロップシップを管制エリアへ──」

 

 そこまでエミリオが言いかけると、突然車外から大きな爆発音が響く。

 ドオオオオンっと、火山が爆発したかのようなその音は、降着場の方向から聞こえていた。

 

 

 

 

 

 植民地海兵隊第501大隊と異形の怪物達との地獄の戦争は、まだ始まったばかりであった──

 

 

 

 

 

 

 

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