※この作品はR-18です。

プレデター♀のおよめさん   作:範馬勇太郎

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Chapter8.『Call of Commando』

 

 ウェイランド・ユタニ社特級秘匿資料

 USCSSノストロモ号最終報告

 

『西暦2122年○月○日。USCSSノストロモ号は惑星LV-426にてエイリアンの宇宙船残骸から信号を受信。ノストロモ号は調査の為LV-426へ降下。一等航海士ギルバート・ケイン以下3名の乗組員が船外活動を実施。宇宙船にてエイリアンの寄生体を発見。ケイン一等航海士が寄生され、ノストロモ号へと搬送しましたが間もなく死亡。その後、ケイン一等航海士から生まれたエイリアンによりアーサー・ダラス船長以下乗組員4名死亡。科学主任、アンドロイドのアッシュは乗組員に対する造反行為の為破壊措置を実施。ノストロモ号も爆破しました。脱出艇に紛れ込んでいたエイリアンは宇宙へ放出する事に成功しています。脱出艇は6週間後太陽系に到達する予定。回収を期待します』

 

『私は、エレン・リプリー二等航海士』

 

『ただ一人の、生存者です……』

 

 

 該当のフライトレコーダーは西暦2137年KG348軌道上“セヴァストポリ宇宙ステーション”にて回収された物を複製。

 該当資料の閲覧権限は上級執行役員のみ許可。

 

 

 

 

 

──────────────

 

 西暦2192年

 地球USA西海岸

 海上都市“サン・ドラド”

 植民地海兵隊第13独立部隊駐屯地

 

 

「まるで出来の悪いホラー映画ね」

 

 黒髪のポニーテールを揺らした一人の女性がデスクに足をかけ、タブレットに表示された報告書を気だるけな表情で見つめていた。

 ダークグリーンのタンクトップを身に着け、カーゴパンツを履きコンバットブーツを乱暴にデスクの上に放り出している。

 大きな乳房を隠しきれないタンクトップからは張りのある乳首が少し浮き上がっていたが、この場にいる男性はそれに対し性的な魅力を感じる事はなかった。

 

「スペースホラーとしては名作だとは思うがな」

 

 女性の正面に座る短髪の筋骨隆々の男が同じようにタブレットに目を落としながら呟いた。

 女性と同じ装いの男はタブレットを操作しながら椅子に深く腰をかけている。

 太い指でタブレットを操作する男の様子に、女性は口をへの字に曲げながら視線を送っていた。

 

「ダッチ。前から思ってたけど、アナタ趣味が悪いわよ」

「文句しか言えないとか呆れ返った暇人だなリン。お前がミステリーめいた資料が読みたいと言ったからわざわざこうして秘蔵の資料を見せてやってるのに……」

「フェイクもいいとこじゃない。まだロズウェルに宇宙人が捕まっているって言われた方が信憑性があるわ」

「むぅ……」

 

 今度はダッチと呼ばれた男が口をへの字に曲げて押し黙ってしまう。

 外見からは想像もつかない事であったが、ダッチは度々大企業や政府機関のCPUにハッキングを仕掛け、証拠も残さずに各種極秘資料を収集する趣味を持っていた。また、その趣味が彼自身の“仕事”にも関わる事が、ダッチのこの行為を正当化たらしめる要因でもあった。

 

 とはいえ、手に入れたこの資料は信憑性があるとはいえず、オカルトめいた読み物でしかなかったのだが。

 

 リンと呼ばれたポニーテールの女性は、つまらなそうにタブレットの電源を落とす。

 ギシっと椅子を軋ませ、天井に顔を向け両手を頭の後ろに組みながら一つ溜息を吐いた。

 

「ねえダッチ。いつまでこのクソったれな謹慎が続くのかしら。もうアナタのヘンテココレクションを読み続けるのにも飽きてきたわ」

「お前が他の部隊の上官をぶん殴ったからこうして罰を受けているんだろうが」

「だってしょうがないじゃない。あのクソったれ、アタシのお尻を触ったのよ?」

「本来は営倉にぶち込まれてもおかしくなかったんだぞ……。付き合わされる俺の身にもなってみろ」

「部下の不始末は上官の責任じゃないの?」

「だったら少しは上官に対する敬意を見せろ」

 

 ダッチは自身のデスクに立てかけられたネームプレートをトントンと叩きながらタブレットを操作する。

 ネームプレートには“アラン・ダッチ・シェーファー海兵隊少佐”と刻まれていた。

 

「ダッチ。異星人(エイリアン)って本当にいると思う?」

 

 ぼんやりと天井を見つめながらリンは呟く。

 

「さあな……。だが、この報告書以外にも異星人を匂わせる資料は実は沢山あるんだ」

 

 リンの呟きを受け、ダッチ少佐は喜々としてタブレットを操作する。

 彼がこれまで合法、非合法を問わず収集した“コレクション”のフォルダを開かれると、リンは身を乗り出してダッチのタブレットを覗き込んだ。

 

「これってあの“ハンター”の資料?」

「そうだ。こいつは1987年、中南米バル・ベルデ共和国内でCIAと陸軍の特殊部隊を壊滅に追い込んだ異星人の資料だ。生存者の話によると、最期には自爆して300区画分の熱帯雨林を吹き飛ばしている」

 

 フォルダには焼け野原となったジャングルの様子が映し出されている。

 画像には疲れ果てた筋骨隆々の軍人と、ラテンアメリカ人の女性の姿が映し出されていた。

 

「なんだか……この人ダッチに似てるわね……」

「お前もそう思うか。妙に他人とは思えないんだよな」

 

 ダッチはタブレットをフリックし、資料のページを捲る。

 

「こいつは1997年にL.A.に現れた異星人の資料だ。こいつはすごいぞぉ。二つの麻薬組織を壊滅させ、ロス市警の警官とFBIの特殊捜査班を何人も殺している。それ以外にも硫黄島、カンボジア、ベイルート……暑さと戦場に誘われて、こいつらは“狩り”をしに来るんだ」

 

 画像には逆さ吊りにされ皮を剥がされた無残な死体が何体も映し出されており、リンはそれを見て僅かに顔をしかめた。

 傍らに表示された画像にはフリントロック式のレトロな短銃を持った埃まみれの黒人の姿が映し出されており、先程の軍人と同様に疲れ切った表情を浮かべていた。

 

「なんとも恐ろしいヤツね。ハンターというより捕食者(プレデター)だわ」

「そいつは言い得て妙だな」

 

 顔をしかめるリンに、ダッチはお構いなしに喜々としてフォルダを開く。それを見たリンはやや呆れた表情を浮かべていた。

 

「極めつけはこいつだ。2004年コロラド州ガニソン市に現れた異星人と異形の怪物達。街を一つ焼き払う事態にまでなった」

 

 次に表示された画像にはタンクトップ姿の女性と、それに寄り添うように沈鬱な表情を浮かべる少女、担架に乗せられた青年とそれに付きそう青年の姿が映し出されていた。

 これもまた、先程の画像に表示されていた人物達と勝るとも劣らない程疲れきった表情を浮かべている。

 表示された画像を見て、リンは呆れたような声を上げた。

 

「どれもこれも肝心の異星人は映ってないじゃないの。それに、ガニソン市の事は教科書にも載っているわ。あれは原子力発電所の爆発事故じゃない」

「公式では原発の爆発事故だが、真相は軍の核攻撃による事態の収拾さ」

 

 フォルダを閉じ、口角を上げながらリンを見やるダッチ少佐。

 それを見たリンは再び椅子にどっかりと腰を下ろし、天井を見上げながら深い溜息を吐いていた。

 

 

 しばらくまんじりとした時間を過ごしていたが、やがてバタバタと足音を立てながら一人の兵士がリン達の部屋へと入ってきた。

 

「シェーファー少佐、クロサワ中尉! カービイ将軍がお呼びです! 緊急招集との事です!」

 

 息を切らせながらそう伝える兵士を見て、リンとダッチは互いに顔を見合わせながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

「よかったな。謹慎期間は解けたみたいだ」

「そうね。でも、今日は7時から空手の稽古があるのに」

「今日は休め」

 

 上衣を羽織りながら立ち上がるリンとダッチは、それまでの鬱屈とした気分を晴らすかのように勢い良く部屋を出る。

 駆け足で将軍の元へ向かう二人は、最高の訓練を受けた海兵隊員らしくその鍛え抜かれた肉体を躍動させていた。

 

 

 

 

 

──────────────

 

 惑星BG-386

 ジャングル内の洞窟

 

「シシュ……いい加減放してくれないかな?」

「grrrr……」

 

 ジャングルの洞窟で獣のような性交を交わしたエミリオとシシュは、裸で抱き合ったまま未だに洞窟内に留まっていた。

 お互いに初めてを捧げた後、寝入ってしまったエミリオを掻き抱き続けたシシュはエミリオが目を覚ましてもぎゅっとその身体を抱きしめ続けていた。

 目を覚まし、起き上がろうとしたエミリオであったが、力強く己を抱き続けるシシュに困り顔を浮かべながら身を捩らせるしかなかった。

 

「シシュ。僕は部下を、仲間を助けにいかなければならないんだ」

「grr!」

 

 優しく言葉をかけるエミリオに、シシュはぷいとそっぽを向く。

 エミリオが目を覚ましたら即座に仲間の元へ向かう事を想定していたシシュ。

 再会し、神聖な契を交わしたこの愛おしい雄と、また別れてしまう事を嫌ったシシュはどうすればエミリオとずっと一緒にいられるかと考えていた。だが、結局は何も思いつかなかったシシュはエミリオを抱き続ける事でその問題を棚上げしていた。

 

「シシュ!」

「krr!?」

 

 そっぽを向くシシュに、エミリオはやや強い口調で言葉を放つ。

 ビクッと身体を震わせたシシュは恐る恐るエミリオへと顔を向けた。

 

「僕は、どこにもいかないよ」

「krr……」

 

 優しく微笑みながら、シシュの瞳を見つめるエミリオ。

 その優しい眼差しに、シシュは僅かに身体を震わせながらおずおずと抱きしめていた力を緩めた。

 

 身体を起こしたエミリオはシシュの頬をひと撫でした後、干されていた衣類を手早く身につける。

 先程からシシュの匂いを嗅ぎ続け、再び股間を腫らしていたエミリオであったが、湧き上がる獣欲を鉄の精神で押さえながらカーゴパンツを強引にずり上げた。

 エミリオもまたこのまま洞窟内でシシュと溶け合っていたい衝動に駆られていたが、脳裏に浮かぶ第3小隊の面々を考えると流石にこれ以上洞窟内に留まる訳にはいかなかった。

 

 やがて衣服を整えたエミリオが振り返ると、いじけたように膝を抱え洞窟内の壁面を向いて座っているシシュの姿があった。

 その姿を見てフッと笑みを漏らしたエミリオは、シシュを後ろからそっと抱きしめ優しく言葉をかけた。

 

「シシュ。僕はずっと君といたい。でも、今は仲間を救いたいんだ」

「……」

 

 シシュはエミリオの腕を掴みながらじっと押し黙っている。

 抱きしめる力を強め、エミリオはシシュへ言葉をかけ続けた。

 

「仲間を救ったら、ずっと一緒にいよう。僕は地球へは帰らない。シシュの星へ行ってもいい」

「ズット、イッショ……」

 

 きゅっとエミリオの腕を掴み、エミリオの言葉を反芻するシシュ。

 愛しい雄が自分と同じ事を考えていてくれた事に、シシュは身体の深部から喜びが湧き上がってくるのを感じていた。

 

「だから、少しだけ僕に力を貸してくれないか」

「krr……」

 

 ゆっくりと振り返ったシシュは、エミリオの真っ直ぐな瞳へと視線を向ける。

 しばらく見つめ合っていた地球の若者と異星の女狩人は、やがて啄むような口づけを交わす。クチュ、クチュと互いの舌を舐めあった二人は、上気した顔で互いの瞳を見つめていた。

 

 つう、と糸を引きながら離れるエミリオの口を濡れた瞳で見つめるシシュ。目を閉じ、しばらく何かを考えるかのように瞑目していたが、やがて目を開いたシシュは力強くエミリオへと頷いた。

 

「シシュ、ガンバル」

「ああ! シシュ! ありがとう!」

 

 ぎゅっと抱きしめるエミリオに、甘えた猫のように顫動音を鳴らすシシュ。

 エミリオが自分と添い遂げる覚悟を見せてくれた事で、シシュもまた氏族の使命よりこの愛おしい雄と添い遂げる覚悟を決めていた。

 

 シシュはエミリオの頭を優しく撫でた後、しっかりとした足取りで立ち上がる。そのまま洞窟の隅に置いてあった自身の装備を手早く身につけ、無骨なマスクを手に取りゆっくりと装着した。

 エミリオはその様子に頼もしさを感じながら見つめていたが、ふと自身の武器が無い事に気付く。

 どうやら川に飛び込んだ際に装備の殆どが流されてしまったらしく、エミリオは素手であのエイリアン達と戦う事を想像し、顔を引き攣らせた。

 

 やや情けないエミリオの姿を見たシシュはしばらく考えるような素振りを見せた後、背中に装着していた一本の金属製の棒をエミリオへ差し出した。

 

「grr!」

「あ、ありがとう……?」

 

 直径50センチ程の棒の両端には鋭利な刃が備えられており、見た目の武骨さからは想像出来ない程軽い材質で出来ていた。

 訝しげに棒を見つめるエミリオであったが、持ち手にある小さなスイッチを押すとジャキン! と、勢い良く棒の両端が伸び、金属製の棒は両端に刃を備えた2メートル程の槍へと変化した。

 

「槍か……」

 

 エミリオはシシュから渡された槍、コンビスティックを手慣れた手つきで取り回す。

 祖父から叩き込まれた古武術には杖術も含まれており、長物の扱いには些かの心得があった。

 ヒュン! ヒュン! と空気を裂きながらコンビスティックを振り、しっかりと手になじませる。

 その感触に確かな手応えを感じたエミリオは、これならばエイリアンとの近接戦闘も戦えると自信を滲ませながら槍を携えていた。

 

「ありがとうシシュ。これならあいつ等とも戦え……」

 

 振り返ったエミリオは、シシュが棒立ちでこちらを見つめ続けているのを見て一瞬言葉が詰まる。

 シシュはマスク越しでも分かり易く、ぼーっとエミリオの槍を取り回す姿を見つめ続けていた。

 

「シシュ……? シシュさーん……?」

 

 シシュの前に立ち、マスクの前で手をひらひらと振るエミリオ。

 しばらくぼんやりと佇んでいたシシュであったが、やがてハッとした様子で頭を振り、やや急ぎ足で洞窟の入り口へと歩いていった。

 

「……?」

 

 やや焦り気味で入り口に仕掛けられたレーザーネットを回収するシシュの後ろ姿を、首を傾げながら見つめるエミリオ。

 エミリオは知るべくもなかったが、この時のシシュはエミリオの堂に入った立ち振舞いに“見惚れて”いた。

 最早エミリオの一挙一動がシシュの愛情の琴線に触れる事に気づかないまま、エミリオはシシュと共にジャングルへと赴いていった。

 

 

 

 

「kshaaaa……」

 

 洞窟から出る二人の様子を、遠方の樹上から一体の異形が見つめていた。

 居住区やジャングルに出没したエイリアン達と同じような男性器を思わせる異様な頭部を持ち、体長は2メートルをゆうに超えている。

 ただしその頭部はシシュ達の氏族と同じドレッドヘアーのような管状の器官が何本も生えており、またその口器も4本の外顎を備えており、まるで怪物(エイリアン)怪物(プレデター)をかけ合わせたような異様な姿であった。

 

 怪物は低い唸り声を上げながらジャングルへ入るエミリオとシシュを見つめる。

 その手にシシュと同じようなマスクを被った異星の狩人の死骸を掴み、低い唸り声を上げていた。

 狩人のマスクの額には、怪物のインナーマウスによって大きな穴が空けられており、緑の血と共にその脳漿を垂れ流している。

 やがて怪物は狩人の死骸を放り捨てると、唸り声を上げながら跳躍し、猛然とジャングル内を駆け抜けていった。

 

 既に日は傾き始めており、エミリオがBG-386の地獄の戦場へと赴いてから、2回目の夜が訪れようとしていた。

 

 

 

 

──────────────

 

 月軌道上ステーション

 植民地海兵隊艦艇停泊場

 バイソンM級高速輸送艦USSサルマキス号

 

「やれやれ……今まで何度も急な出撃がありましたが、今回は特に急ですなぁ少佐」

 

 USSサルマキス号の船内にて、口ひげを生やした一人の士官がぼやきながら冷凍睡眠装置の前に立つ。

 船内には12基の冷凍睡眠装置が設置されており、既に9基の装置内には第13独立部隊の精鋭達がその身を横たえてらせていた。

 USSサルマキス号にはこの場所以外にも100基以上の冷凍睡眠装置が設置されており、武装は最低限に止められているがその分兵員輸送能力と航行速度に優れた艦艇であった。

 

「まぁどんな連中(カカシ)が相手だろうが、俺達ならまばたきする間に」

 

 パチン、とスナップ音を鳴らし、口ひげの士官はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「皆殺しに出来る」

 

 指を鳴らしながらニヤニヤと笑みを浮かべる口ひげの士官に、冷凍睡眠装置を操作するアラン・ダッチ・シェーファー少佐は眉を顰めながらその厭らしい顔を見やった。

 

「勘違いするなよベネット大尉。俺達の任務は救助(レスキュー)だ。殲滅(デストロイ)じゃない」

「もちろんです。プロですから」

 

 ベネットと呼ばれた士官は不敵な笑みを浮かべながら装置へと腰を落とす。

 その様子を見たダッチはうんざりとした表情を浮かべつつ装置のパネルを操作していた。

 

「さっさと装置に入りなさいよクソ髭! 1秒でも早くBG-386に行かなきゃならないってのに!」

 

 同様に装置を操作していたリン・クロサワ中尉が苛立った声をあげ、ベネットを睨みつける。

 ベネットは相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべながら、小声でダッチへと囁いた。

 

「少佐、今回の任務はメスゴリラも同行しているんですかねぇ?」

「キツいジョークだなベネット……」

「早くしなさいよクソ髭!」

 

 腰に手をあて、苛立った様子で仁王立ちするリンを見て、ベネットはゆったりと装置へと身体を横たわらせた。

 

「最近のメスゴリラはキツいや」

「面白いクソ髭ね。気に入ったわ。殺すのは最後にしてあげる」

「ハハハハ……くたばりやがれぇ……」

 

 捨て台詞と共にベネットが横たわる冷凍睡眠装置のカバーが閉じられる。

 相変わらずニヤニヤと口を吊り上げながら目を閉じるベネットを憎々しげな視線を向けるリンを見て、ダッチは溜息をつきながら装置のパネルを閉じた。

 

「リン。焦る気持ちは分かるがサルマキス号でも目的地には2週間はかかるんだ。もう少し余裕を持って……」

「エミィが死んじゃうかもしれないのよ! 余裕なんて持ってる場合じゃないでしょ!」

「いや弟さんが心配なのは分かるが……」

「ダッチも早く装置に入って! チンタラしているとそのキンタマ握り潰すわよ!」

 

 バシバシとダッチに割り当てられた冷凍睡眠装置を叩きながら、リンはその美しい顔立ちを増々歪ませる。

 再び大きな溜息を吐いたダッチは冷凍睡眠装置へとその大きな身体を横たわらせた。

 

「リン、自動航行の設定を再確認して……」

「おやすみ!」

 

 バタン! とダッチが横たわる装置のカバーを乱暴に閉じたリンは、素早く自身の装置へと向かう。

 身体を横たえながら、リンは先日地球の駐屯地で第13独立部隊司令官フランクリン・カービィ准将から下された任務を反芻していた。

 

 惑星BG-386へと向かった植民地海兵隊第501大隊からの救援要請。

 501大隊を運んだUSSアスタミューゼも撃沈され、現地では正体不明の敵性生物の襲撃を受けている。

 海兵隊総軍は急遽救援部隊を差し向けるべく大規模な部隊を編成していたが、その初動はお世辞にも早いとはいえなかった。

 救援要請を傍受していたカービィ准将は、物資の補給を遅らせているウェイランド・ユタニ社の動きを察知し、一連のウェイランド社の動きに陰謀の臭いを嗅ぎ取る。

 そこでカービィ准将は早急に501大隊を救出し、ウェイランド社の陰謀を白日の元へ晒し海兵隊からウェイランド社の影響力を一掃するべく独自に救援部隊を差し向ける決断を下した。

 癖のある第13独立部隊の精鋭達であったが、その戦闘力の高さは海兵隊でも随一を誇っており、どのような状況下でも確実に任務を達成する事ができる能力を有していた。

 

 カービィ准将から直々に任務を言い渡されたリン達は急遽部隊をまとめ、月にある軌道ステーションへと向かう。

 まごまごしていると501大隊は全滅してしまう。最愛の弟が所属する部隊の危機を聞いたリンは、相棒であり上官のダッチですら怯む程の切迫した様子でサルマキス号へと乗り込んだ。

 一刻も早くBG-386へと向かうべく、リンは隊員達の尻を蹴り上げ、瞬く間にサルマキス号の自動航行の設定を終える。

 リンにとってウェイランド社の陰謀や501大隊が遭遇した怪物の事などどうでもよく、最愛の弟の安否だけがその心の大半を占めていた。

 

 リンは逸る気持ちで装置のカバーを閉じ、最愛の弟……エミリオの姿を思い浮かべながら目を瞑る。

 

 目を覚ました時、エミリオは果たして無事でいるのだろうか。

 

「待っててねエミィ……お姉ちゃんが直ぐに助けに行くからね……!」

 

 最愛の弟の名を呟きながら、リンの意識は深い闇へと誘われる。

 意識が途切れる刹那、リンの脳裏には幼い頃、手を繋いで歩いた幼少のエミリオの姿が浮かび上がっていた。

 

 

 植民地海兵隊第13独立部隊の隊員を乗せたUSSサルマキス号は核パルスエンジンを起動させ、亜光速でBG-386へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




肉密度1000%

※シシュの語彙は他の連中が地球へ行った際に収集した言語データをしっかり自分のコンピュータガントレットへとインストールしているので実はそこそこ豊富です。という後付。
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