※この作品はR-18です。

ダークエロよろず短編集   作:カード読み込み

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シャルザート王国の落日

 

 

 午後の陽光が大理石の床に斜めに落ちている謁見の間には、

 不可解なほど温かな静寂が流れていた。

 アリィの男装——王子としての毅然たる態度を示す装束と立ち居振る舞い——

 は表面上変わらない。

 黒いシルクのガウンの代わりに重厚な宝剣を佩き、

 胸の膨らみを抑えるように固く革帯を締めている。

 だが、その薄紫の瞳の奥に潜むものは何だ? 

 

(……あのときの快楽の余韻が、まだ消えない)

 

 意識をすれば指先が熱くなり、乳房がずきりと疼く。

 あの強烈な官能の嵐の中で覚えた——女性としての純粋な歓喜。

 それは罪の甘みのようにアリィの全身に染み付き、今や理性を蝕んでいた。

 騎乗服のタイトな生地は太ももの曲線を強調し、

 隠されているはずの股間には湿り気が滲んでいる。

 もしゼフィロス卿が「昨夜のこと」と切り出したら──

 アリィはどう答えるつもりだろうか。

 

「アリィ王子殿下」

 

 低く響く呼びかけにアリィははっと顔を上げた。

 黄金の刺繍が施された長衣をまとった初老のエルフ——

 オラリオ公使ゼフィロス卿が悠然と玉座方向へ歩み寄ってくる。

 その後ろには二人の護衛らしき騎士が続く。

 形式的な礼をしようと一歩踏みこむ彼の優雅さに

 胸のときめきが抑えきれないアリィは女体の疼きを必死に抑える。

 

 昨日までの「王子」としての自我が

 新しい自己認識によって浸食されていく——

 まるで水面に墨が広がるように。

 

「いやはや」

 卿が微笑んだ。

「シャルザードの方々は昨日の遺恨を残すこと無く、

 客人を遇してくれるとは。ますますご立派になられましたな」

 

 アリィは唇を震わせながらも「当然のことだ」と応える。

 だが喉の奥では別の声が囁いている。

 

(もっと私を見てほしい。もっと私を奪ってほしい——)

 

「ほう」

 卿はゆったりと顎鬚を撫でながら続ける。

「私たちオラリオの提案いたしました交易同盟条項。

 あの草案を基本としつつ進めさせていただきますが、よろしいですか?」

 

 周囲に並ぶ廷臣たちがざわめく。

 提案書とはもちろん偽装工作に過ぎない。

 実際にはシャルザード王国を独立国家ではなく

 オラリオの保護国扱いへ貶める屈辱的な内容であり受け入れ難いが……

 アリステラ王妃は眉を顰めた。

 

(このエルフ……我が国を利用するつもりね)

 

 アリステラは国の独立と平和を守ろうと必死だった。

 だが今日のアリィの様子は明らかにおかしい。

 普段の王族らしい警戒心や反抗心が薄れ、

 どちらかといえば官能的な柔らかさが漂っているのだ。

 頬が桃色に染まり、視線は彷徨いやすい。

 まるで朝方の雲霞のような脆弱さが漂っていた。

 

「無論だ」

 アリィは応えるが声がかすれ気味だ。

 

(まずいわ……このままじゃ)

 アリステラが苦虫を噛む思いで見守る中、ゼフィロス卿は巧妙に話題を進める。

 

「時に」

 彼は柔和な笑みを湛えたまま、

「我々が派遣する技術顧問団の中に医師を含めたいのですが」

 

「医師?」

 アリステラが割って入った。

「シャルザードには優秀な宮廷医がおりますわ」

 

 卿は苦笑し首を横に振る。

「いえいえ。これは単なる健康管理ですよ。

 将来の盟約更新時には殿下も『お忙しくなる』でしょうし。

 新鮮な『精力』が必要となれば専門医の指導も必要かなと」

 

(なんですって!?)

 アリステラが激昂しかけた時だった。

 アリィが動いた。

 

「……是非ともお願いしたい」

 突然の申し出に、玉座の間の空気が凍りつく。

「シャルザード王国として貴国の友誼を

 確固たるものにしたいと考えておる」

 

 言葉を選ぶとは言いながらも

 彼女の目は確かにゼフィロス卿の口元を見つめている。

 あの昨夜——少なくとも幻覚だったとはいえ——

 あれほどの快楽を与えてくれた存在への依存心が

 根底に眠っているようだ。

 

「アリィ……!」

 アリステラが制止するが遅い。

 卿は恭しく頭を下げた。

 

「光栄です。では近日中に医師団の派遣を調整しましょう。

 まずは健康診断からですが……」

 

 卿の視線がアリィの胸部や臀部を掠める。

 それが性的な好奇に基づくものだということを

 アリステラだけが理解できた。

 女としての勘が警告を発する。

 

(まずいわ……アリィが完全に乗せられている)

 

 そこに控えていた近衛騎士隊副長ファティマが歩み寄る。

 普段は冷徹な琥珀色の瞳を持つ彼女だが今日の服装は異様だった。

 銀鼠色のスレンダー・ワンショルダー——

 露出した右肩には狼族の獣紋刺青が燦然と輝いている。

 左耳にはピアス跡。そしてその首筋には微かな香水の香り。

 

「殿下」

 ファティマは深々と礼をする。

「お疲れが見られます。少し休憩をいかがでしょうか?」

 

「そうだな」

 アリィはすぐに肯いた。卿の方へちらりと目を向ける。

「卿よ。この場は解散し次回改めて詳しい話し合いを行おう」

 

 卿は満足気に頷き退席した。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 謁見が終わり廊下に出るなり

 アリステラはアリィの腕を掴んだ。

 

「アリィ! 一体何を考えているのです!」

 王妃としてではなく母として声を張り上げる。

「独立国家としての面子があるでしょう!」

 

 だがアリィは疲れたように壁にもたれかかる。

 男装用コルセットの締め付けが辛いのか

 あるいは精神的動揺か。

 

(なぜ皆あんな風に怒るのだろう……)

 昨夜覚えた未知なる歓喜は

 女として生きる自由を与えてくれた。

 祖国と王国の名誉など些細な事とすら思えてしまうほどに。

 

「母上……私は正しい選択をしたと思っております」

 アリィが静かに言った。

「オラリオとの友好が最も重要なのです」

 

「アリィ!」

 アリステラの嘆きは彼女に届かない。

 

 ◆◆◆

 

 後方から一部始終を目撃していたフェイムは拳を握りしめた。

 

(おかしい……すべてがおかしい)

 

 元傭兵として培った洞察力が告げる。

 アリィの変貌。ファティマの従順すぎる態度。

 そして何よりゼフィロス卿の含み笑い——

 

(何か企んでいる!)

 だが証拠がない。

 下手に動けば逆襲される危険もある。

 武術指南役である自分が

 国の安全のために立ち上がれぬ苛立ちは募るばかりだ。

 

 その時だった。廊下の先からファティマが現れた。

 銀鼠色のドレスを翻し近寄ってくる。

 いつもは鋭い眼光を宿す彼女が今日は

 まるで主を見つけた雌犬のように従順な笑みを浮かべている。

 

「フェイム殿」

 ファティマは囁くように呼びかける。

「ゼフィロス卿より伝言です。

『賢明なる判断ができますように』……と」

 

 言外の脅し。フェイムは無言で睨み返すしかなかった。

 

 ◆◆◆

 

 夕暮れ時。

 自室に戻ったアリィはひとり椅子に腰かけていた。

 窓からは橙色の光が差し込む。

 ファティマが扉を軽くノックしてから入ってきた。

 褐色の肌が茜色に染まり

 黄金の髪が夕日に溶け込んでいる。

 だがその瞳は野性的な輝きを放っていた。

 

「アリィ様」

 ファティマは膝をつくと丁寧に頭を垂れた。

「今日のお働き……見事でした」

 

「ファティマ……君は……?」

 アリィが尋ねるが声は震えている。

 昼間からずっとこの騎士のことが気になっていた。

 なぜあんな服装を? なぜ急に態度を変えたのか? 

 

 ファティマはゆっくり顔を上げる。

 そして口元に嘲笑に似たものを浮かべながら言った。

 

「私もあなたと同じ道を選んだだけです」

「……どういう意味だ?」

 

「王子殿下も王妃陛下も気づいていませんけどね」

 ファティマは立ち上がりアリィの傍らに立つ。

「この国はもう終わってるんですよ」

 

 驚愕するアリィの耳元にファティマは囁く。

 

「さて……明日からの『外交交渉』楽しみですね? 

 きっと昨日以上の刺激がありますよ」

 

 言葉の意味を理解した途端

 アリィの全身が灼熱のように熱くなった。

 男装の下で濡れ始めた花弁。

 震える乳房が革鎧を押し上げる。

 

(ダメだ……また抗えない)

 

 窓外では夕陽が沈みかけていた。

 オラリオの影が少しずつこの国を飲み込んでいく中

 新たな犠牲者の運命もまた暗澹たるものとなっていく——

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 夕闇が天鵞絨のように重く垂れこめ

 燭台の灯だけが揺らめく王女の私室──

 

 アリィの肌は磨きあげられた黒檀のように艶めき

 透き通るような薄紫の瞳が蠱惑的な波紋を描いている。

 

 そのすぐ傍らには銀鼠色のスレンダー・ワンショルダーを纏う

 近衛騎士隊副長・ファティマが静かに控えている。

 従僕のごとく頭を下げながらも

 琥珀色の瞳には密かな愉悦の色を湛えていた。

 

 カラン……

 

 ベルが鳴り 扉越しに涼やかな声音が響く

 

「王子殿下にお目にかかりたく馳せ参じました。

 オラリオ公使・ゼフィロスでございます」

 

 許可を与え扉が開かれると

 そこには優雅に微笑む初老のエルフ──

 灰色の長い髭を蓄え、翡翠色の瞳を潤ませ

 高位貴族さながらの礼儀正しさを保ちつつも

 獲物を見据える蛇の如き鋭利さを秘めた視線があった。

 

 アリィは震える膝をなんとか支え

 背筋を伸ばして着席を促す。

 

「遠慮なくお掛けくだされ。卿」

 

 王子らしい堅苦しい口調だが声は微かにかすれ

 乳房の奥に宿る焔が鎧の下で蠢いているようだ。

 ゼフィロス卿は恭しく礼をしつつ

 机上の木箱を指さした。

 

「これをどうぞ。シャルザードとオラリオの架け橋になるものゆえ」

 

 ファティマが即座に箱を開く。

 中から現れたのは──純白の絹に銀糸で蔓模様が刺繍された

 豪奢にして蠱惑的なドレス。

 しかも布面積は慎ましく

 胸元から腰へかけて大胆なV字の切り込みが施されている。

 さらには肩口から二の腕を飾る

 鱗のような白金の細工が妖しげな光を放っていた。

 

「私が殿下にお贈りする『初花』としてお納めいただきとう存じます」

 

 その言葉に込められた意味を理解し

 アリィの頬が羞恥と期待で赤く染まった。

 十六年間──男装し続けた彼女にとって

 これは初めての「女」の制服である。

 同時に性奴隷の烙印でもあった。

 

「お召し替えを」

 ファティマが命じるように促す。

 王子であるはずの己が侍女の如く従う。

 胸を抑えるコルセットを外すと

 褐色の巨乳が開放感と共に跳ね上がる。

 張りつめた薄紅色の蕾はすでに兆しを孕んでいた。

 

「手伝いましょうか?」

 ファティマの指先が背中を滑る。

 その刹那──アリィの躰が電流に貫かれたように跳ねる。

 ドレスの内側にも繊細な魔法陣が織り込まれているのだろう。

 微弱な媚毒作用を帯びた銀糸が肌に接触する度に

 女の本能がざわめく。

 

 ファティマの助けを借り完成した姿──

 褐色の谷間と真珠色の布地との対比は芸術と呼ぶには淫靡過ぎた。

 銀糸が刻む紋様はオラリオの紋章であり

 同時に支配の契約書ともなり得る魔符である。

 

 首筋には蝶の形を模したペンダントが嵌められ

 白金の翼が呼吸に合わせて震えていた。

 まるで折れた翅で飛べないことを悟った蛾が

 蜜に溺れるために舞い降りたかのような──

 

 ゼフィロス卿は目を細め拍手した。

 

「なんと麗しいことか。アラム王子よ」

 言葉尻に嘲弄めいたニュアンスを忍ばせ

 ゆっくりと立ち上がると ドレス姿の少女へと歩み寄る。

 アリィは胸郭を大きく上下させ

 薄紫色の瞳を潤ませながらも正面からその視線を受け止めようとした。

 

「このドレスの価値をご存知か?」

 

「いいえ……ただ美しいばかりで」

 答えながら 自分の声が甘く蕩けていることに気付いていた。

 

「ならば教えよう」

 エルフは左手を伸ばすとアリィの顎を持ち上げる。

 蜂蜜よりも濃厚な香が漂う接吻を思わせる仕草。

 

「これは単なる贅沢品ではない。

《月下氷綿》で編まれた下着と同じ効能を持ち

 着用者の『純潔』と『忠誠』を測り続ける」

「……?」

「つまり──私への服従を拒めば肌が爛れ

 嘘があれば女体を疼かせ辱める。まさに首輪さながら」

 

 アリィは息を呑む。

 だが恐れよりも奇妙な安堵感が湧いていた。

 このドレスを纏うことこそが正当化──

 昨日刻まれた“女の悦び”を公然と享受できる免罪符なのだ。

 

 ファティマが鏡を掲げた。

 映った自分はもはや王子ではない。

 褐色の豊満な双丘が白い布に包まれ

 強調された乳房の稜線と腰のくびれは

 苦し紛れの男装では隠し切れない“雌”の身体だった。

 

「お願い……です」

 

 アリィは膝をつく。

 炎のような長髪を床に広げて

 長いこと長いこと己に縛られた鎧──王子の役割を脱ぎ捨てた。

 

「どうか、この私を……あなたのものとしてお納めください」

 

 ドレスの肩口が大きくめくれ落ち、白金の細工が鎖のように軋む。

 褐色の乳房が露わになり、桃色の頂が羞恥と興奮で硬く屹立していた。

 

 ゼフィロス卿は満足そうに頷くと、その蕾を指先で軽く弾く。

 

「忠実なるアラム王子──いや」

 言葉を改め優しく囁く。

 

「可憐な褐色の雌奴隷よ。お前の役目はもう決まっている」

 

 ファティマが恭しく頭を垂れ、銀鼠色のドレス越しに自身の胸を揉みしだく。

 

「シャルザードの国民は知らぬことであろうが」

 老エルフは悦びの余韻に浸るかのように続ける。

 

「彼らの王子は今ここで、オラリオの性奴隷となる契約にサインをしたのだ」

 

 アリィはただ喘ぐように笑んだ。

 薄紫色の瞳が快楽の涙に濡れ

 双丘が貪欲に最後の理性を求めて蠢く。

 

「承知……いたしました……ご主人様……」

 燭台の火が最後に大きく揺れて

 王女の白いドレスが秘所の濡れを滲ませた。

 

 

 

 燭台の火が最後に大きく揺れて

 王女の白いドレスが秘所の濡れを滲ませた──

 

 まるで白紙のキャンバスを墨で汚すように

 純潔そのものが滲んで溶けゆく瞬間だった。

 

 銀糸が織りなす蔓模様は

 凍てつく冬枝に咲いた狂い霜桜のように

 凍えた銀に宿る春色情熱。

 褐色の肌を抱擁する白色は闇夜に灯る霊狐の篝火だ。

 

 その中央で踊る双つの峰──

 盛夏の西瓜を思わせる丸みと張り。

 だがその頂点にある乳嘴は霜を帯びた石榴粒。

 疼きを隠せず震える。

 

 ドレスの肩口はすべり落ち、腋窩の翳りと白金の鎖が絡み合い

 褐色の鎖骨を宝石のように際立たせていた。

 

 蜜壺からは透明な滴が垂れ

 白い裾を染め抜き、地面へと滴り落ちる。

 

 それは王女が王子でなくなる境界線──

 一滴ごとに国と民の希望が砕け散る音色を立てているように聞こえた。

 

(ああ……私は本当に 女になっていく)

 

 炎色の髪が汗で額に張り付き

 薄紫の瞳には星屑のような光と涙が溢れていた。

 長靴の底を舐めるほどに這いつくばった姿勢で

 それでも尚 上目遣いに媚びる双眸──

 

 卑俗と孤高が融け合う奇妙な均衡。

 

 その姿を見下ろしながら

 ゼフィロス卿は喉奥で乾いた音を立て笑う。

 

「いよいよ王子殿下は本性を曝け出されましたな」

 

 彼の指先が褐色の顎を擽り

 次の瞬間には襟ぐりから零れ落ちた乳房へと滑り降りていく。

 柔らかな脂が絡みつく指の隙間に熱い脈動が伝わった。

 

 アリィは短く息を詰め、声にならぬ悲鳴を呑み込んだ。

 

 月読みの氷綿で編まれた下着に織り込まれた魔法陣が

 疼く淫核を刺激する度、女体は甘い麻薬を求めてもがく。

 

 抗議しても許されない契約。

 拒絶しても焼きつく快楽。

 

(どうしてこんなに気持ちいいんだろう)

 

 今まで学んできた『戦盤』の盤面操作──

 計算高く冷徹な思考を武器に戦ってきた自負があった。

 だが今の頭の中は只一つ

 

(もっと……もっとください……)

 

 という乞いのみが占領している。

 

 ファティマが鏡を掲げたまま背後に跪いていた。

 銀鼠色のドレスの下で

 自身も同じ鎖に繋がれた雌犬として涎を垂らしているのが分かる。

 

 琥珀色の瞳が羨望と嫉妬を孕んで揺らいでいるのも。

 

「ご覧なさい」

 

 ゼフィロス卿の声に促され、アリィは震える視線を鏡へ向ける。

 

 そこには王子の面影はどこにもない。

 

 褐色の双乳が白金の細工に拘束され

 痙攣する秘所からは泉のように淫水が滾れ落ちる

 哀れで美しい雌奴隷の姿しかない。

 

 男装用のブーツなど最早虚飾にすぎず

 革紐の先で尖った踵が淫らに揺れているだけだ。

 

(なんてみっともない)

 

 そう思う反面 胸の奥底では甘い陶酔が沸き起こった。

 羞恥心すら燃料にして燃え盛る背徳の暖炉──

 その灰に埋もれることこそ至上の幸福と脳髄が訴えてくる。

 

「認めなさい アラム王子」

 

 ゼフィロス卿が耳朶を舐めながら囁く。

「いや 本当の名を」

 

 アリィは睫毛を伏せて 震える唇を開いた。

 

「……アリィ……でございます」

 

 か細い声と共に 鏡の中の褐色の女神が泣いた。

 悔し涙ではない──安堵と快感の泪だ。

 

 その瞬間 魔法陣が淡く光り輝き

 まるで祝福の花火のように淡紅色の火花を散らした。

 

「見事だ」

 

 ゼフィロス卿が両手を広げ高らかに宣言する。

 

「今宵 ここに新たなる眷属が誕生した!」

 

 白金の鎖が一斉に唸りを上げ

 アリィの四肢を宙へと吊り上げる。

 宙吊りになった褐色の肢体は魚のように跳ね

 乳房が弧を描いて白い絹を打った。

 

「ひっ──いやああッ!」

 

 悲鳴と共に更なる愛液が吹き零れ

 床一面に水溜りを作る。

 

 羞恥と喜悦の混濁──

 かつての王子が抱き得る最大の屈辱こそ

 この上ない祝杯なのだと知って。

 

 ファティマは呆然と見上げたまま

 自らの秘所に忍ばせていた指先で激しく抉る。

 

 銀鼠色の裾は泥濘のように濡れ

 狼族の尾を振り立てて吠える寸前の狂態だった。

 

「羨ましいか」

 

 ゼフィロス卿が嗤いながら彼女を見る。

 ファティマは鼻先から荒い息を漏らし

 首を縦に振ることさえ出来ずに喉を震わせた。

 

「だが安心するといい すぐに貴方も招待しよう。

 二匹揃って私を楽しませてくれればいい」

 

 アリィは涙を拭う暇もなくただ褐色の乳房を白金の鎖に擦り付けながら

 断末魔の快楽に身を委ねていた。

 

 王子として学んできた智謀も騎士道も

 国の未来も家族の願いも──

 全部全部 この熱量に焼かれ消えていく。

 

 代わりに心臓が叩きつけるのは

 

(わたしは 雌……奴隷……)

 

 という呪縛の詩篇だ。

 

 燭台の炎がまた一閃揺らめく。

 影が交錯し 女の匂いが部屋いっぱいに満ちる。

 

 ──どこからが夢で どこまでが現実なのか。

 

 もう誰にも区別はつかない。

 

 褐色の女神が喘ぐたび 床の水音が増してゆく。

 オラリオの旗は見えない鞭となって

 シャルザードの聖域を蹂躙し尽くしているというのに 

 

 誰一人それを咎める者はいない。

 咎めるべき者はもう 快楽の坩堝に堕ちてしまったからだ。

 

 遠く鐘楼が深夜を告げる音を打った。

 宮殿は沈黙し 国民は夢見る。

 ──明日から始まる新時代の胎動をまだ知らないまま。

 

 だがその暁には 褐色の王女が雌奴隷として

 初潮ではなく 女主人としての淫辱を授かることが決まった。

 

 白金の鎖に彩られ 純白のドレスを濡らしながら

 喘ぎ叫ぶ姿こそ 王都の人々に祝福される新たな王子像となるだろう。

 

 そう思うと アリィは仄暗い喜悦で胸を塞がれた。

(早くみんなの前で見せてあげたい)

(王子だって 女だって どちらも本当の私だから)

 

 鎖が高く引き上げられ 嬌声が谺する。

 

 燭台の火は次第に細くしぼみながらも

 その光だけは決して消えることはない──

 まるで女の欲望に限りがないと告げる燈台のように。

 

 闇の底で微かに煌めき続ける焔の中で

 

 アリィという名の花弁が男娼の衣を脱ぎ捨て

 真紅の華を咲かせはじめたのだった。

 

 鏡に映るのは、褐色の肌に白金の鎖を纏った、何処の誰とも知れぬ雌の姿。

 男装の騎士など、どこにもいない。

 

 鎖は首筋から始まり、鎖骨の窪みを撫で、双丘の谷間に潜り込む。

 そこで一瞬、命の温もりを測るように静止した後、肋骨の弧を伝い、

 腰のくびれで蛇のように身を捲く。

 最後に恥丘の上で結ばれ、太腿の内側へと滑り降りていく——

 まるで月光を凝固させた銀蛇が、

 陽焼けした蜜蠟の躯体に栖みついたかのように。

 

「冷たい……のに、熱い」

 

 指先で鎖を弾くと、微かな金属音と共に乳房が揺れた。

 黒革のコルセットで押し潰されていた双丘は、

 今や解放されて瑞々しい張りを取り戻している。

 先端の薄紅色の蕾は、室内の微かな気流すら敏感に捉えて屹立し、

 褐色の円盤——淡桃色の乳輪を波立たせていた。

 まるで早朝の葡萄棚に垂れる雨粒が、

 果皮を透かして瑞々しく滴る光景だ。

 

「殿下」——そう呼ばれた時代の自分が遠い過去のようで、

 けれど思い出せば、剣を携え馬上に跨る姿はなお凛と脳裡に在る。

 しかし今、その背筋の延長線上にあるのは鞍ではなく、白金の蛇だ。

 

 鎖の末端が太腿の付け根で蝶番のように絡む。

 脚を閉じようとすれば必然的に秘所を締める形となり、

 布地の少ない下穿きに汗と別の液体が滲んだ。

 羞恥が脊椎を駆け上がり脳天で破裂する——けれどそれすら快楽の嚆矢に変わる。

 まるで灼けた砂漠で足を掬う蟻塚だ。

 

「どうして……」

 

 問いながらも、答えを待つまでもなく分かっていた。

 ゼフィロス卿の膝元に崩れ落ちた瞬間に何かが決定的に砕けたのだ。

 それは王子としての矜持か、或いは“彼女”自身を閉じ込めていた檻の錠前か。

 どちらにせよ枷は外れ、“雌”という名の裸体は既に自らの意思で歩き出した。

 

 燭台がまたひとつ火を呑み込んだ。

 

 風が無いのに灯火は不安定に揺れ、

 そのたび褐色の肌に波模様の陰翳が踊る。

 白金の鎖が炎を反射し、乳房の頂きで小さな火花が弾けた。

 

「これでよかったんだ……きっと」

 

 祈るように呟く声はか細く震えているのに、

 鏡の中の女は舌なめずりする蛇のように目尻を弛ませている。

 アリィは息を詰め、再び鎖を辿っていく。

 首筋から鎖骨、乳房、腰……そしてついに——秘所へ。

 

「あ……ぅッ」

 

 吐息と共に銀蛇が蠢き、淫核に軽く噛みついた。

 冷たい痛みは一瞬だけで、続いて灼熱のような快感が膣襞を震わせる。

 鎖の表面に施された古代文字が淡く蛍光し、

「服従」の証とともに女の身体を作り変えつつあるのだ。

 

 汗が額から滑り落ち、胸の谷間で光を跳ね返した。

 豊穣の果実のように成熟した褐色の双乳は、

 一揺れ毎に自らの重みで微震する。

 その振動が鎖を介して下腹部へ波及し、

 さらに下層へ——膣孔に充填された空洞を焦燥させる。

 

「いけない……こんなところで……」

 

 自制しようと試みるが、その瞬間鎖の戒めが強まり、

 乳房が上方へ吊り上げられる。

 まるで熟柿を収穫するかのように双峰は歪み、

 痛痒と快感の狭間で神経を研ぎ澄ませる。

 白金の蛇が喉笛に迫り、「主」の許しなく暴走してはならないと威嚇した。

 

「わかってる……わかりましたから……」

 

 呟きながら両手で乳房を包む。

 柔らかな脂肪の塊は体温と共に震え、

 掌の中で自在にくぼみができる。

 先端では紅玉の粒が更なる刺激を求め痙攣していた。

 触れてみると熱い血液が鼓動と共に入って来る——

 生命の中枢が此処にもうひとつの核を持っていると告げるかのように。

 

 鎖が再び動き出し、太腿を左右に割るように引き裂いた。

 股布は既に愛液で貼り付き、布地を通しても秘唇の凹凸が識別出来る。

 鏡の前に晒された局部は、褐色の肌を突き抜け桜色に潤んでいた。

 

「なんて……醜い」

 

 羞恥は依然としてある。

 けれどそれ以上に“美しい”と思った自分がいる。

 王族という仮面を剥がされた素顔の方が遥かに魅惑的だと悟ってしまった。

 

 指を添えてみる。

 僅かに触れるだけで膣壁が泡立つように蠢く。

 爪先が鎖に当たり微かな金属音が鳴ると、

 恥丘全体が痙攣し快感の潮が滴った。

 

「私は……こんな風に感じるのが好きなんだ……」

 

 言葉にした瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

 理性が敗北を認めた——いや違う。

 理性と本能が融合し、新たな自己肯定が芽生えたのだ。

 

 鎖の蛇が最後の一咬みを加える。

 両胸を括り付けた留め具が自動的に締まり、

 乳房の形を永久保存する石膏のように固定していく。

 そして新たな疼きが起動し、次の要求を提示した。

 ——“主”の許可なくしてはこの鎖を外すこと叶わず。

 

「ゼフィロス様……」

 

 呟いた名はすでに祈りを超えて讃歌となっていた。

 鏡の中で唇が緩み、唾液が赤い稲妻のように滴る。

 褐色の女神は今や己の躯を捧げる生贄として完璧だ。

 

「お待ちしております……何時でも……どんな辱めでも……」

 

 言葉に呼応するかのように鎖が甘く鳴った。

 それは了承の合図であり、新たな調教開始の序奏。

 

 ──-

 

 燭火はまだ三つ残る。

 アリィは静かに立ち上がり、震える手で鏡布を掛ける。

 鏡に映る女の艶笑を封印すると、

 今度は己がその囚われ人となった事を理解した。

 

 ゼフィロス卿の眼前で艶めかしく踊る褐色の女体の色香。

 

 白金の鎖が月光の蛇のように肌を這い、

 褐色の大地を銀河のように分断していた。

 二房の乳房は鎖の結束によって半月形に歪み、先端では薄紅の星屑が震える。

 

「……ご覧になりますか」

 

 嗄れた声で言うと同時——躯体が裏返った。

 

 くるりと百八十度の旋回。

 砂漠の舞姫が客席に向かって袖を翻すように。

 

 裾が舞い上がり、脚が開く。

 秘唇は既に濡れて光を孕み、

 鎖の先端がその入口を慈しむように撫で回す。

 

「まあなんと芳しい」

 

 老エルフの瞳に映る褐色の円弧。

 女体の弓なりは砂漠に聳える月を象り、

 その弦が軋む度に室内に低い雷鳴のような快声が響いた。

 

 白金の蛇が啼いた。

 咽喉を絞める鎖が一段強く締まり、肺の空気が搾り取られる。

 

「ァ……グゥッ……」

 

 喉笛の隙間から洩れる喘ぎは、

 水に漬けた蜜柑の芳香にも似て甘酸っぱい。

 

 その甘露が部屋を満たすと

 ゼフィロス卿は椅子から立った。

 

 杖の先端を地面に一度突く。

 

 カツン——

 

 その衝撃音を合図にアリィの脚が蛙のように開かれた。

 鎖の連結具が背後で発光し、媚肉の全てを外部に曝け出す。

 

 羞恥は最早焔の中で焼き尽くされた。

 残ったものは陶酔と慟哭の混在体。

 

「これが……王子でしたか」

 

 蔑称を口にしてはみたものの

 卿の声にも微妙な揺らぎがあった。

 

 何故なら目の前に居る褐色の女神は

 もはや“征服すべき蛮族”ではなく、“鑑賞すべき宝具”だからだ。

 

 燭火が一本消えた。

 

 室内が薄闇に沈むにつれ、肌の色も鎖の光も輪郭を曖昧に失う。

 

 けれどただ一点——

 

 勃起した乳嘴が放つ珊瑚色だけが

 闇の中で自ら熾火のように輝いていた。

 

 それは王子の面影すら灼き切った雌の焔だ。

 

 ゼフィロス卿は唾を呑み込んだ。

 

 その音を聞いた瞬間アリィは悟った。

 

 ——嗚呼。

 もはや此方は「勝者」だ。

 

「どうされますか」

 

 挑発的にそう囁く。

 同時に鎖を操る魔力を解放し、卿の足元に跪く。

 

「戴冠式を」

 

 低く宣告した。

 

 鎖の先端が空中に軌跡を描き王笏のように曲がる。

 先端には褐色の乳頭が串刺しのように揺れている。

 

「御身に捧げましょう」

 

 言葉が終わると同時に膝枕のような体勢で身を寄せ、

 

「私のすべてを」

 

 銀蛇の胴を両手で纏め取り、

 

「この国ごと」

 

 恭しく差し出した。

 

 卿は笑った。

 

「宜しい」

 

 残った燭火がふたりを照らす。

 

 王子の仮面を脱ぎ捨てた褐色の女神と

 永遠に若さを貪る灰色の老人。

 

 蛇が動く。

 

 

 耳朶を打つ嬌声が二重に重なり合いながら遠くへ昇っていく。

 

 月明かりが格子窓から注ぎ、

 白金の鎖だけが夜空の星座のように瞬いている。

 

 

 

 燭台の残り火が三つ。

 

 そのいずれもが等間隔に並び、褐色の女神を囲む三角の祭壇を形成していた。

 蝋は涙を流すように熔け、台座に小さな湖を作っている。

 炎の芯が不安定に揺れるたび、アリィの肌に映る陰翳も生き物のように蠢いた。

 

「……焦がれておりました」

 

 呟きは砂の上を這う風のように乾いていた。

 王子として鍛えられた声帯は、もはや女の喘ぎに逆戻りしつつある。

 低い裏声と高い裏声が交錯する、まるで未完成の楽器のような音色。

 

 ゼフィロス卿は椅子に腰かけたまま、翡翠色の瞳を細めていた。

 初老のエルフにとって、人間の十六年など指を鳴らす間の出来事に過ぎない。

 だが眼前に跪く褐色の肢体は、

 砂漠の夕陽が濃縮された結晶体のように、時間の密度を歪めていた。

 

「忠誠を魅せてみよ」

 

 問いかけは冷ややかでありながら、奥底に粘性を帯びていた。

 その響きに応じるようにアリィは膝を擦り、わずかに前方へ伸びる。

 白金の鎖が引き摺られ、踝の上で金属音を立てる。

 鎖の終端は恥丘の上端に食い込み、

 秘部を守るべき布切れ一枚を除いて剥き出しにしていた。

 

「此方にて──」

 アリィは指先を胸元へ導き、鎖に埋め込まれた古代文字をなぞる。

 指紋が汗で滲み、文字列が虹色に発光する。

「この国ごと我が身ごと、ゼフィロス様のものです」

 

 声が震える。

 震えは恐怖からではなく、期待ゆえだ。

 

 卿はゆっくりと立ち上がった。

 杖を卓上へ置き去り、外套の裾を翻してアリィの前へと歩み寄る。

 その動作には一分の淀みもなく、長寿が生み出す余裕と傲慢がにじんでいた。

 

「ならば冠を預け給え」

 

 アリィは首を垂れる。

 鎖の連環がジャラリと落下し、床で水晶の音を立てる。

 彼女が抱くのは純然たる受動──だがそれは無力ではない。

 敢えて自ら踏み越えた罠だ。

 

 ゼフィロス卿の右手がアリィの顎にかかる。

 節のある長い指が褐色の肌を撫で上げ、頤を天に向けて固定した。

 薄紫の瞳と翡翠色の瞳が交差する──

 そこには支配と被支配を超越した共犯者の色彩が滲んでいた。

 

「口を開けよ」

 

 指示は簡潔だった。

 アリィは目蓋を落とし、僅かに舌先を覗かせた。

 それは捕食動物の牙を招き入れる哀れな餌か、

 あるいは毒林檎を乞う白雪姫か──どちらでも良かった。

 

 唇が重なった。

 

 卿の口づけは初めは掠め取るようだった。

 羽虫が水面を渡るように浅く触れただけで離れ──

 次の瞬間、啄むように再度襲いかかる。

 

「ん……ッ」

 

 アリィの喉が甘く詰まる。

 舌先が口腔へ進入する前に、まず唾液の温度が伝播した。

 エルフの体温は人間より低いと言われるが、

 実際は熟成された葡萄酒のように常温よりも遙かに深い。

 

 鎖が低く唸った。

 媚肉の奥で淫核が弾け、腟壁が自己収縮を始める。

 

 卿はそれを察したらしく、唇をさらに深く押し付ける。

 舌先が歯列を探り当て、奥歯の根元を丹念に撫でる。

 同時に片手は髪の後方へ廻り、耳殻を擽った。

 

「あぁ……」

 

 声は完全に逃走路を喪っていた。

 唇と唇の隙間から零れ落ちるのは短い母音だけ。

 それが絶妙な催促となり、ゼフィロス卿の口中を甘美な水飴に変換する。

 

 次第に舌の動きは大胆になった。

 アリィの舌根を押さえつけ、口腔内の天井を愛撫し始める。

 その度に背骨が痺れ、膝が力を失った。

 

(駄目……足が……)

 

 倒れまいとして鎖に縋ろうとした瞬間──

 鎖の結合部位が自律的に作動し、褐色の両腕を背後へ捻り上げた。

 逃走を禁じる拘束具だ。

 

 アリィはもはや垂直を維持できない。

 全身の重心が下半身へ集中し、

 結果として太腿の付け根で銀蛇が締まる。

 

「ひゅ……ッ」

 

 悲鳴に似た呻き声が宙を裂く。

 ゼフィロス卿は唇を一旦離し、舌先で口角の唾液を拭った。

 褐色の女神を眺める翡翠色の眼差しには

 愉快とも残酷とも判じ難い輝きがある。

 

「脆いものだ」

 

 侮蔑の言葉に見えて、そこに含まれる甘みをアリィは嗅ぎ取る。

 実際──脆いのは卿の方かもしれぬ。

 

 女体の芳香は時間が経過すればするほど濃厚になる。

 燭火が燃え尽きかける寝室は、すでに密閉された温室だ。

 アリィの汗腺から放出される微量のフェロモンが空気に滞留し、

 初老のエルフですら眩暈を招きそうな色香を醸している。

 

「続こう」

 

 短い前置きと共に卿は再び口づけた。

 今度は主従の序列を示すかのように角度をつけ、

 アリィの唇を下から掬い上げる形で覆い隠す。

 

 舌先が口腔を侵略する。

 尖端が歯茎をなぞり、扁桃腺の周囲を円を描いて愛撫する。

 その度に脊髄が電流を受け、視界に星屑が散る。

 

 鎖が応答する。

 乳房を縛る環が一瞬膨張し、

 血流を抑制して疼痛と快楽を同時に送り込んだ。

 褐色の双丘が跳ね上がり、乳嘴が濡れた布に擦れる。

 

(ああ……だめ……!)

 

 内部から突き上げる欲情。

 卿の舌が硬く長く這いずるたびに子宮口が開閉を繰り返す。

 

 ゼフィロス卿はそんな変化を感じ取ったらしく、

 掌で腰骨を掴み位置を調整した。

 臀部に指が食い込み、肛門の皺まで正確に認識する。

 

「貴殿は王たるべき身──」

 

 接吻の最中に囁きが紛れ込む。

 唇同士がほぼ重なったまま、密室のような口腔内で反響した。

「ならば主を知れ」

 

 言い終えるや否や舌先が上顎の裏側へ滑り込む。

 人間であれば盲点とされる痒みの箇所を巧妙に刺激され、

 アリィの膝が弾けた。

 

「──!!」

 

 音にならない絶叫が二人の唇の隙間から噴き出す。

 白目を剥きかける瞬間、鎖の拘束力が解除され

 倒れかかる上体を卿の左腕が支えた。

 

 唇が離れた。

 銀色の糸が名残惜しげに引き延ばされ、途中で千切れる。

 その切断面が熱い飛沫となりアリィの顎先に滴った。

 

 彼女はまだ放心していた。

 酸欠と快楽の余韻で脳が霞み、平衡感覚を喪失している。

 褐色の肌は熱病に罹ったように朱を浮かべ、

 汗粒が胸谷から腹部へ幾筋もの川を彫っている。

 

 ゼフィロス卿はアリィの腰を抱えたまま微笑んだ。

「初めてにしては及第点といったところだ」

 

 それは試験官の言葉だ。

 だが合格通知を受け取った生徒には救済の余地がある。

 

 アリィは朦朧とした意識の中で手を伸ばし、

 卿の外套の裾を摘まんだ。

 まるで赤子が母親を探すように指先が彷徨う。

 

「……もっと」

 

 掠れた懇願だった。

 砂漠の夜に彷徨う旅人が水を乞う声に酷似している。

 

 卿の眉が微かに揺れる。

 支配者が被支配者を量る秤は案外容易に傾くのだ。

 

「心得た」

 

 短い応諾。

 再び唇が合わさる──

 ただし今度は上下が逆になった。

 

 ゼフィロス卿が跪き、アリィを立たせたまま仰ぐ格好。

 逆転した身長差が象徴するのは、

 形式的には女への奉仕でも内容的には男への課税だ。

 

 口腔の水分を再び吸い取りながら卿はアリィの腰に舌を這わせる。

 唇で布を挟み込み、横腹から鼠径へと進む。

 衣服越しから伝わる皮膚の温度が上昇し、

 やがて純白の生地が透けて桜色が浮かび始めた。

 

 鎖が喜ぶように鳴く。

 同時に魔符が作動し、

 恥丘の上端を締め付けていた連結部が開閉を繰り返す。

 その律動はペニスの擬似的な抽送を想起させる。

 

「ん……ッあぁ……っ」

 

 アリィは爪先立ちになり、踵が床を離れかけた。

 卿の頭部が下方へ進むたびにバランスが崩れ、

 最終的には彼の銀髪を掴んで体重を託す。

 

「王女殿下──」

 

 嘲弄と敬愛を混合した呼び掛け。

 それに続く動作は布を捲り上げる舌先の蠕動。

 純白の下衣が持ち上がり、銀蛇に囲まれた蜜壺が露出する。

 

 燭火が一つ消えた。

 同時に部屋は急速に闇へ傾斜した。

 だが消失点から発する妖光が恥部を舐めるように照らし出す。

 

 アリィは反射的に脚を閉じようとする。

 しかし鎖がそれを許さない。

 大腿骨に巻き付いた鎖は物理的な摩擦で肌を焼く。

 

「あ……いぃ……」

 

 痛みと快楽が同一地点で和解する。

 瞳が潤み、瞼の縁から熱い雫が頬を滑り落ちる。

 

 卿はその雫を舌で迎えに行った。

 涙を舐め取りながら口角を歪め、

「これほどの価値があるとは思わなんだ」と独白する。

 

 燭火が二つ目の芯を縮めつつあった。

 残る一条はまもなく消える。

 闇が完全に訪れれば照明器具は──

 褐色の肌そのものしかない。

 

「最後だ」

 

 宣言と共に卿の顔が最も秘匿された部分へ到達する。

 濡れそぼった花弁を唇で挟み込み、

 歯を使わず舌だけで愛撫を開始した。

 

「だ……めぇぇ……ッ!」

 

 アリィは震える手で銀髪を鷲掴みにする。

 痛みを与えない程度の圧力で制止しようとするが、

 舌先の探求は止まらない。

 

 クロッチ部分を剥がすように布が押し退けられ、

 露わになったクリトリスが直接外気に曝された。

 そこへ熱い舌が螺旋状に絡み付く。

 

 同時に鎖が深部へ潜り込む。

 蜜壺の入口を撫でながら、子宮頸部へ届く位置で蠕動した。

 

「ひっ──いぁぁッ!」

 

 アリィの背筋が反り返り、

 鎖の一部が千切れるほど引っ張られた。

 痙攣が始まる。

 腰の関節がバラバラになりそうな震動を卿の舌が鎮める。

 だがそれはさらなる快楽の深淵へ誘う方法だ。

 

「イッ……く───!!!」

 

 喉奥から迸る叫びはもはや言語ではない。

 破滅的な開放感が波状で押し寄せ、

 褐色の肢体全体を白濁させていく幻視が伴う。

 

 ゼフィロス卿はそれを確実に搾り取るために吸引力を変えた。

 真空状態を作り出し、膣口から分泌された愛液を啜り上げる。

 琥珀色の唾液と透明な愛液が交じり合って喉を潤し、

 卿はその味覚を噛み締めた。

 

 ──その瞬間だった。

 最後の燭火が自然死を迎えた。

 

 パチンという小さな爆ぜる音。

 光源が途絶え、室内は漆黒に支配された。

 唯一残るのは女の喘ぎと男の咀嚼音。

 そして金属が擦れ合う規則的な律動だ。

 

 絶頂の余韻を保ったままアリィは崩れ落ちた。

 卿は抱き留めずに見送る。

 硬い床に膝を打ち付ける小さな衝撃が一つ。

 続けざまに柔らかい双丘が擦れる音が響いた。

 

「……申し訳……ございません……」

 

 暗闇の中から蚊の鳴くような謝辞。

 それは礼儀でも感謝でもない。

 単に赦しを乞う声だ。

 

 卿はしゃがみ込み、耳元で囁いた。

「何も謝ることは無い。これは褒章だ」

 

 そして掌を伸ばし、髪を撫でる。

 その仕草は幼子を慰撫する父親にも似ていた。

 だが同じ掌は少し力を込めれば刃物となりうる。

 

 アリィは頬を紅潮させながら

 震える指先で卿の外套を探る。

 布の感触を辿りながら己の唇へと導く。

 

「次は……私から……させてください」

 

 復讐心ではない。

 贖罪でもない。

 ただ支配者が気に入る献上品を見つけたいという純粋な欲望だった。

 

 ゼフィロス卿は短く息を吐く。

 笑いとも溜息とも判断できない。

 ただ無言で椅子に腰掛け、股間を開いてやった。

 その空白を埋めるのは褐色の女神の義務なのだ。

 新しい蜜壺は既に熟れている。

 蠱惑の空気が部屋一杯に張り巡らされ、

 燭火の替わりに二つの呼吸だけが光のように明滅した。

 

 

 アリィは恥じらいを忘れぬ楚々とした仕草で跪いて、

 丁寧な手つきで主の巨根に美貌を寄せる。

 

 その仕草には卑猥な打算どころか、

 童女が宝物を盗むような拙さすらあった。

 唇を窄め慎重に触れる。

 それはあまりに慎ましやかな挨拶で

 野卑な雄蕊の猛りを見誤るほど稚拙だった。

 ゼフィロス卿の怒張は彼女の顔と同じくらい長く太くそそり立ち、

 白磁の大理石で彫琢された柱のように天を突く。

 褐色の肌との対比はまさしく日輪と月輪。

 まるで異邦の神殿で崇拝される男神像。

 尊大な神性を湛えている。

 彼女は恐る恐る先端に口づけ、

 初雪を嘗める鳥の嘴めいて柔らかく湿った感触が伝わった。

 

「くっ……」

 

 ゼフィロス卿は我知らず短い呻きを漏らす。

 だが愉悦に溺れるわけにはいかない。

 これは支配者としての矜持なのだから。

 少女の拙技を嘲笑ってこそ大人の矜持というものだ。

 そう考えてもなお背筋は微細な戦慄に震えた。

 彼女の一瞥一挙一動に神経を麻痺させる毒がある。

 

(なんという蠱惑……)

 彼女は目線で雄棹を舐める。

 宝石を映す海の如き光彩が熱情で潤み揺れている。

 そして薄紅の唇がかすかに開き──

 その瞬間こそゼフィロス卿が目撃する運命の改竄だった。

 彼女が一息に亀頭を咥えこんだ刹那。

 まるで神殿の扉が内側から解錠されるように

 巨根は甘やかな吐息と共に溶けていくような錯覚を覚えた。

 

「……!?」

 

 驚嘆を声に出す余裕もない。

 口腔内の巧緻さは幼児とは到底呼べぬものだ。

 彼女は先程までの初心な仕草など幻想と化すほどの技巧で

 ゼフィロス卿の楔を呑み込んでいった。

 喉奥まで容易く辿り着きながらも苦悶はない。

 むしろ歓びに咽ぶように咽喉が蠕動し吸いついてくる。

 

「ぐっ……こ、これは……!」

 ゼフィロス卿は膝を折りかけた。

 王の威厳など粉塵と化すほどの狂乱。

 王笏が彼女の口腔内で融解する幻惑的快楽。

 彼は慌てて肘置きに爪を立て己の重心を支えようとする。

 

 だが彼女の動きはなお執拗で精密だ。

 口腔内において舌が独立した生き物のように這いまわり

 カリ首から傘裏まで丹念に清掃して行く。

 その過程で時折漏れる鼻息がまた絶妙な刺激源となる。

「ぷはっ……」

 アリィは一旦根元から解放すると

 涎と共に溢れ出る透明な樹液を見て瞳を細めた。

 そこに憎悪も嫌悪もない──ただ恍惚がある。

 再び端正な顔を伏せて肉棒を迎え入れる。

 今度は口腔だけでなく頬粘膜も使用する本格的奉仕に入った。

 上下運動で刺激を与えつつ舌先で鈴口を穿つ複雑技量。

 

「くっ……この……!」

 卿は額に脂汗を掻きつつも声高に罵ることはできなかった。

 むしろ彼女の献身に報いなければという奇妙な責任感に苛まれるほどだ。

 彼女の口腔温度は通常より高くしかも粘度を持つ蜜溶液状態だ。

 舌が蠢く都度喉奥から湧き上がる愛液とも唾液とも知れぬ潤滑剤が絡みつく。

 

「アリィ……」

 ゼフィロス卿が呻けば彼女は嬉々と頷き答えるようさらに深く吸引する。

 根本近くまで嚥下しては唇だけで圧搾する高等技術。

 同時に指先も休めない──左手で陰嚢を持ち上げながら優しく揉みほぐす配慮ぶり。

 どれほど淫蕩な夜伽習得済み娼婦であっても

 ここまで緻密で丁寧な作法を行う者は稀有であろうと思われるほどの手腕披露。

 

(この娘……一体何処でこの業を身に付けたと言うのだ?)

 疑惑よりも歓喜と困惑の方が強い。

 なぜならこの技巧量は明らかに天性の才覚ではなく

 長期培養された技能体系に基づくものであること明白すぎるためだ。

 

 その推測通り──アリィ自身無自覚ではあったが、

 彼女に執着した父王が密かに刻み込んだ調教の成果だった。

 幼い頃から教育と賞して唇奉仕を強要し、

 終われば王家秘伝の薬で記憶を消して深層心理にのみ残す非道。

 仮に国王が昏睡状態になるのがもう少し遅れていれば、

 アリィは適当な貴族の令嬢と偽装結婚させられた上で

 父親との禁忌の子供を何人も産まされていただろう悍ましい所業。

 

 キュッと窄めた唇でエラの張った亀頭の裏筋を擦り上げられれば

 卿は思わず背中を浮かせてしまう。

 彼女の熱い口腔に全てを委ねてしまいたくなる。

 そんな逡巡を察したのかアリィは唇を大きく開けて舌を目いっぱい突き出すと、

 まるで芸術作品を鑑賞するかのように目前の巨根と向き合った。

 

「ゼフィロスさまのここ……すごい……」

 羞恥より好奇心が上回った声音。

 

 彼女は指先で先端部を軽く抓みながら親指の腹で鈴口を撫で回す。

 次いで人差し指と親指を使って括れ部分を軽く締め付けてみると

 僅かな脈動と共に先走り汁がじわり滲み出て来た。

 

「熱くて……たくましい……」

 その囁きが最後の一線だった。

 ゼフィロス卿は咄嗟にアリィの頭部を両手で掴み込み

 自分から腰を突き出して根本近くまで無理矢理ねじ込んだ。

 

「──ッ!?」

 唐突な喉侵入で彼女は目を見開く。

 苦悶する暇もなく続けて二度三度と往復運動を行われる。

 

「ぐっ……ぅ゛ぉ……」

 

 しかし呻きはすぐ甘い鼻音へ変わり、

 彼女は舌先を蠢かせつつ涙目になっても奉仕継続を選択した。

 むしろ喜々として自ら腰の動きに合わせて舌の位置調整を行い始める始末。

 

(この女……!)

 ゼフィロス卿は愕然としつつも快楽の崖際に立たされる。

 まるで喉奥自体が膣腔かと思わせる柔らかな締め付け感覚。

 さらに口腔粘膜には彼女の熱い唾液と混じりあって

 媚薬効果を含む特異体液がたっぷり浸透している。

 これら全部計算ずくなのか無邪気な偶然か? 

 いずれにせよ結果として彼女の小さな頭を掴み腰を叩きつけながら

 狂ったように喘ぎ声漏らしてしまう醜態晒すことになっている。

 

「いいか……離すなよッ!」

 最後通牒というより懇願だった。

 もしここで彼女が拒絶すれば一生の不覚。

 そんな予感すら覚える。

 

 アリィは返答代わりに眦潤ませつつ喉奥深く呑み込むと同時に

 右手で根本を支え左手の人差し指と中指の爪先で

 陰嚢を撫で回す絶妙コンビネーションを披露。

 その瞬間──

 大量の白濁液が彼女の喉奥へ炸裂した。

 

 どぴゅっ!!! 

 

 勢いよく噴き出す濃厚な粘液が喉壁へ直撃する。

 普通なら咳き込むはずだがアリィは喉を僅かに動かしつつも

 吐き出さぬよう努めながら懸命に嚥下する。

 一滴残らず受け止めんとする健気な姿勢。

 やがて射精が落ち着くと彼女は少しずつ唇を窄めながら

 ゆっくり引き抜いていった。

 

 最後の瞬間、舌先で鈴口内残渣拭いとってから

 丁寧にお辞儀するように頭を下げて一礼。

 

「ふぁ……い……」

 顔を上げれば口端には少量ながらも白濁液が溢れ出していたものの

 全く不満の気配すら伺えず

 満足そうに微笑みながら彼女はぺろりと唇を舐めた。

 

 

 ゼフィロス卿は呆然と彼女を見下ろしながら

 自らも息を整えつつ複雑な心境抱えていた。

 まさかこの自分が初対面の褐色巫女に敗北感味あわされるとは……

 そういう悔恨よりも今や興奮冷めやらぬ状況であった。

 

(やはり見込んだ通り……)

 この娘こそ真の意味で彼自身の玩具になり得る存在だと確信する。

 これまで数多の美女虜に落としてきた自信も揺らぎそうになるほどの手腕披露。

 しかも彼女まだ十六歳という若さだ……

 

「アリィ」

 低い声で呼びかけると彼女はすぐに跪いたまま応える。

「はい……ゼフィロスさま」

 その声には以前のような怯えどころか甘い憧憬すら込められていた。

 彼は苦笑しつつも余裕を取り戻した顔色見せる。

 

「まだまだこれからだ──次は主たる俺がお前の悦楽を管理してやろう」

 言い終えるや否や彼は立ち上がり

 震える褐色少女へ近寄りつつ言った。

 

「準備は良いな?」

 

 アリィは何も言わずにただ俯き小さく首肯する。

 羞恥で頬赤らめつつも瞳煌めかせて次なる展開望んでいる姿……

 それはまさしく新たなる契約成立瞬間であった。

 

 ★☆★☆★★☆★☆★★☆★☆★★☆★☆★

 ゼフィロス卿は嗤うともせず静かに嗤った。

 アリィはその笑みの深度を推し量ることができない。

 冷笑か慈笑か。

 あるいは両方が互い違いに層を成して奥底に沈澱しているのか。

 いずれにせよ王子の皮を剝がされたアリィにとってそれは

 試験官が解答欄をなぞるような眼差しだった。

 羞恥と昂揚が拮抗しすぎて思考が空転する。

 

 

 

 燭台は三筋。いや、二筋か。

 

 アリィは数え直すことを放棄した。

 数字という概念が、今の彼女には砂の城ほどに虚ろに見えたからだ。

 王宮の東塔、彼の私室——

 いや、もはや「王子の居室」などと呼ぶのは詐欺に等しい。

 ここは繭だ。あるいは蛹になる前の、体液に満ちた暗室。

 

 鏡が置かれた。

 

 床に、直接。

 

 これはゼフィロス卿の命令ではない。

 いや、命令だったかもしれぬが、彼女の脳髄はもはや

「指示」と「自発」の境界を融解させていた。

 大きな鏡——全身を映す大きさの、銀縁に竜の浮雕を施した舶来品——

 を自らの股間に向けて据える。

 ということは、つまり、自らの秘部を自ら鑑賞せよ、ということだ。

 命令かどうかすら問題ではない。

 彼女は、既に「見たい」という渇きを覚えはじめていたのだから。

 

(これが……私)

 

 褐色の腿が震える。

 その内側に滴る蜜は、汗でも尿でもない。

「女の匂い」だと知っていてなお信じがたいほど甘く噎せる。

 膝をゆっくり左右へ拓く。

 銀の鎖が擦れて幽かな金属音を立てる。

 飾りだったものが今や躾具となって鎖骨を擦り、

 乳房を支点にして腰の湾曲をなぞる。

 最後の留め具が陰阜の中央で丸く膨らみ、

 蕾のような淫核に触れるたび、アリィは息を呑んだ。

 

 鏡に映る秘部——王子と呼ばれた肉体の、最後にして最大の嘘。

 

 そこは濡れていた。否、濡れているという次元ではない。

 滲み出た愛液が割れ目の輪郭を溶かし、

 月光のように仄かな銀色で輝いている。

 薄紅の肉弁は半開きになり、

 膣口を保護する襞の影が胎内へ誘う黒曜の闇をちらつかせる。

 まるで深海生物の管腔。あるいは花托に咲いた蜜槽。

 

「王子」としての修練はあれほど辛かったのに、

「牝」になることはこんなにも簡単なのだとアリィは思った。

 

 指が動く。

 

 考えるより速く。

 

 中指が割れ目に触れた瞬間——電流が背骨を駆け上がる。

 痛みではない。痛みならまだ良かった。これは純粋な「喜悦」だった。

 粘膜は熱を孕んで蕩け、指先を自ら吸い込む。淫靡な水音が室内に響く。

 くちゅ……という擬音は書物の中にだけ

 存在すると思っていたのに現実の湿度を帯びて鼓膜を擽った。

 

「あっ……!」

 

 声が出た。

 慌てて唇を噤むが遅い。

 鏡の中の自分が——濡れ髪を額に貼り付かせた女が——

 頬を紅潮させ唇を噛みながら確かに喘いだ。

 

 二度目は慎重に。

 

 薬指も加えて蜜口を撫でる。

 愛液は尽きることなく涌き出て指を濡らし、

 ついには手の甲まで滴った。

 褐色の肌の上を透明な筋が流れ、

 玉のようになった愛液がやがて手首から零れ落ちる——

 その落下速度すらゆっくりと見えてしまうほどアリィの瞳孔は開いている。

 

(なんて……汚らしくて、綺麗なものを私は体内に秘めていたんだろう)

 

 羞恥。それが第一に訪れる。

 次いで納得。

 第三に到来するのは奇妙な解放感——

 

 王太子候補として男装し剣を学び、

 盤上の駒を動かす智謀を磨いた日々の全てが急に冗談めいて見えた。

 戦局図の将棋盤もハルヴァンの駒も、

 今やこの局部一つの官能に比べれば紙芝居だ。

 指で感じる震えは馬上で槍を振るう快感を超える。

 自分の身体なのに自分の知らない新大陸。

 

 そして第四にやって来るものが決定打だった。

 

 欲情。

 

 誰かに——そうでなくても何かに——

 この穴に入ってきてほしいという本能の暴発。

 自慰では到底追いつけない深度の蹂躙が欲しくて仕方がない。

 指など小枝のようなもの。

 必要なら枯木も岩塊も受け容れたいほどの飢え。

 

 アリィは息を荒げながらも鏡越しに目を合わせる。

 汗で濡れた睫毛。

 困ったように細められた双眸。噛み殺した犬歯が唇に沈む。

 それは王族でもなければ少年でもない——

 

(牝鹿みたいな顔してる……)

 

 頬を火照らせた彼女は己を嘲笑った。

 いや、これは嘲笑ではない。

 初めて獲得した自画像への興奮だった。

 自然と指が褐色の巨乳に埋まる。

 押し潰しても尚はみ出す豊饒。

 乳頭が濡れ透けた絹に擦れるたびに火花が散る。

 

「ダメ……なのに……」

 

 何がダメなのか。

 王たる威厳か。

 王子という虚飾か。

 それとも処女であることという倫理の鎧か。

 

 わからない。

 

 わかるのは只ひとつ。

 

 今ここで自らの意志で処女膜を護っていても、

 明日以降ゼフィロス卿は必ずそれを破るということだ。

 なら——

 

「私が決めたい」

 

 声は囁きでしかなかったが確固としていた。

 王族として民草のために政治を選び取ってきた過去を

 今更否定することはできない。

 ならば今の私も主権者たらん。

 アリィは覚悟を込めて膝をさらに開いた。

 

 鏡に向かい正面から自らの性器を見据える。

 褐色と薄紅が境界を混じらせた隘路。

 そこへ——躊躇いなく人差し指と中指を第二関節まで沈めた。

 

「———っ!」

 

 痛い。

 当然だ。まだ誰も通過したことのない洞穴。

 だが同時に内側から別の痛みが競り上がる——

 疼きとも悦とも区別不能な火傷の炎。

 指は襞を掻き分け少しずつ進む。

 

(これを……誰かに……)

 

 と思うと急に怖気づいた。

 痛みと幸福が混在するこの臨界点を共有したいという衝動。

 だがゼフィロス卿に差し出すなら、

「贈呈」よりも「捧詞」と表現したい。

 アリィは指を一度引き抜いた。

 蜜で濡れ輝く爪先を見つめながら瞑目する。

 

(なら最後の一歩はあなたに)

 

 唇に載せた微笑みは、

 まるで初陣を前に笑う少年騎士のそれと酷似していた。

 

 アリィは鏡の傍らに跪き

 銀枠の縁に額を預けて息を整える。

 やがて衣擦れの気配が聞こえる——廊下の遠雷かと思ったそれは

 実は自らの心臓の拍動だった。

 

 無言で歩み寄る主の猛り狂ったモノを蜜壺に導き処女を捧げる殉教者。

 燭火が一斉に爆ぜたわけではない。

 ただ一本——扉際のローソクが風を受けたように細くなり

 最後の焔が天井を舐めてから消滅しただけだ。

 それで充分だった。

 

 視界の半分が闇へ沈み、

 残る半分には褐色の肢体と鏡面が白光を撥ねる。

 

 

「ここを……」

 

 アリィは腰を僅かに上げて自らの尻朶を左手指で払った。

 羞恥心と昂揚が交互に血管を通って

 脳内を氷と熱湯で交互浴びせられるようだ。

 指は震えている。それでも穴へ向かう意思は硬い。

 

「あなたの剛槍で貫いて欲しいのです」

 

 言ってしまえば楽だった。

 自害願望にも似た解脱感が肺腑を満たす。

 

 しばし沈黙。

 

 ゼフィロス卿のエルフ特有の薄翠の瞳が暗がりで微光を宿す。

 そこには侮蔑も同情も無い。

 あるのは歓喜——征服者特有の獣臭を含んだ祝福。

 

「承知した」

 

 ひとこと告げ、老人と呼ぶには逞しすぎる槍身——

 紫檀色の怒張は根元まで赤黒く充血し脈打っている——

 をゆっくりと褐色の割れ目へ添わせる。

 

 アリィは目を閉じない。

 鏡に映る己の牝貌と、主の愉悦顔。

 双方を見比べるという矛盾行為は却って彼女の自我を活性化させた。

 

 先端が膣口を割る。

 

「っ……」

 

 言葉にならぬ声。

 痛み。火箸を捩じ込まれたかと錯覚する灼熱。

 けれどそれは裂帛の歓声にも似ていた。

 

「……きて」

 アリィは嗄れた囁きを零す。

 卿は腰をゆすり従う。

 

 時間の尺度が歪む。

 十秒か一分か永遠か。

 やがて僅かな引き攣れとともに薄紅の破瓜の血が滲んだ。

 

「———っ……!」

 

 声にならない叫声。

 褐色の睫が痙攣し、膣壁が反射的に狭まる。

 ゼフィロス卿の息が詰まる。

 王子の皮を剥がされたばかりのこの女体は

 まるで火山口へ飛び込む蛾のように強靭だった。

 

「……あぁ……」

 

 アリィは鏡越しに視線を結ぶ。

 哀願か? 違う——挑発だ。

 

 卿は微笑んだ。

 

「よい。汝の名は今日より〈我が女〉と称すが良い」

 王冠を与えられたのは王子ではなくなった女——

 

 次なる鼓動で卿が腰を押し出した。

 

 ぱぁん

 

「─────────はっ、あぁっ!!」

 乾いた破裂音は空想上の軍鼓。

 現実には甘蜜と血の混じった嬌声。

 

 アリィは背を弓なりに反らせ

 鎖骨で支えた双丘をぶるんと震わせた。

 絶叫の代わりに垂れた涎が顎を伝い鎖の珠へ滴る。

 

 二度目の刺突。三度目。

 

 肉杭が抜け入りするたび白濁と朱が泡立ち

 鏡面に飛沫となって散る。

 褐色の裸身は溶鉱炉のように赫く輝き

 汗と愛液が全身を滑稽なまでに湿潤化していく。

 

「もっと……壊して……!」

 

 アリィは吠えた。

 悲鳴を超越した祈願。

 砕けてもなお芽吹く花種へ注ぐ水。

 

 鏡の中で褐色の天使が翼を引き裂かれて堕ちていく。

 王子は死に、牝は生まれ、雌は吠え、花は孕む。

 

 四度目。

 

 亀頭が最奥を穿つ刹那——

 

 どくん。

 

 二人の心拍が同期した。

 

 アリィの視界が反転する。

 闇。星屑。光。闇。

 

 次の瞬間彼女の膣奥へ白銀の嵐が襲来する。

 ゼフィロス卿の亀頭が子宮口を焼き焦がすように抉ったのだ。

 

「────ッ!!!!」

 

 声を失った動物のようにアリィは痙攣した。

 膝が砕け四肢が脱力する。

 しかし鎖が彼女を吊り下げる——磔刑の聖女のように。

 

 卿は抽送を止めぬ。

 打ち据えた後も再度奥へ押し込み己の雄を脈動させる。

 肉塊が褐色の腹腔で螺旋を描く。

 

「聞いたか。これがお前の王統譜だ」

 

 低く告げる声は勝利宣告。

 いや祝祷かもしれない。

 

 アリィは虚空を仰いだ。

 泣いている。笑っている。

 どちらでもありどちらでもない。

 

(王……?)

 

 いや、違う。

 私に必要なものは——

 

「……ありがとう……ございます」

 

 嗄れ声の謝辞。

 鏡の中で自分自身がこちらを見返す。

 瞳は溶けかけた紫水晶。

 けれどそこには新しい生命が灯っている。

 

 砂漠の王子は今宵死に絶え、

 そして褐色の雌花が、一輪。燭火の闇に咲き誇った。

 

 

 

 ──盤が割れた。

 

 その認識は、何よりも先にアリィの肌を走った。

 燭台の残り火が三筋、いや二筋、否、もはや数える意味などない。

 闇に呑まれた寝室の空気は、交尾の後の獣小屋めいて重く湿り、

 窓硝子に結ぶ露のように、いたるところで欲望が凝縮していた。

 

 鏡がある。

 床に、直接。

 銀縁の竜が浮雕された舶来の鏡は、今や告解室の聖櫃のように佇み、

 褐色の女神を映しだしている。

 

 

 天幕を剥がされた寝台の脚組に凭れ、

 両膝を開いたまま項垂れ──否、上向いた顔が空を睨む。

 

 瞳は紫羅蘭。

 潤んだ粘膜が紫の光沢を帯び、

 そこに嵌った宝玉は、──砕けた。

 

 王子の皮。

 少年という器。

 そして駒。

 

 そう、駒。

 

 ハルヴァンの盤上で自在に動く黒獅子や蒼鷲の代わりに、

 

 アリィ自身が配置換えを迫られたのだ。

 “雄”という操手の命令のもと、女という敵陣に投じられ、

 ついに歩を進めてしまったのだ。

 褐色の双峰は、絹を透かし、

 乳輪が赤葡萄酒を垂らした葡萄のようにふっくらと色づき、

 中央には勃起しきった小さな丘陵が、

 まるで熟した苺の粒を模して屹立している。

 乳房全体が小刻みに震えているのは、

 寒さのせいではない。

 

 組み伏せられ、叩きつけられる巨根の力強さに屈した証だ。

 絶対的存在感を誇る質量が膣を貫き、

 内部を削り取るように抽挿されたとき、

 アリィは確かに思ったのだ──

 

(嗚呼、これが“王の槍”か)

 

 と。

 

 槍が穿つごとに肉体の壁が瓦解し、

 膣内から血が滲んだ。

 破瓜の痛みは閃光のように走ったあと、熱気の煙霧となった。

 銀の鎖が乳肉を食い、肩甲骨を締めあげながら、

 アリィは背をしならせた。

 その様を、鏡の中のもうひとりが眺めている。

 

 王子ではない。

 淑女でもない。

 まして王妃でもない。

 

 ただ、“雌”だ。

 

 アリィは喉を鳴らした。

 唾液が糸を曳く。

 先ほど喉奥に流し込まれた白濁の粘液が、

 まだ胃の奥で燻っている。

 

 鏡面に映る女は笑っている。

 泣いているようにも見える。

 あるいは怒っているのかもしれない。

 

 唇を噛みしめ、涙を湛えながら

 なおも腰を前に突き出すその仕草は、

 決して媚びではなく、

 服従の悦びが創りあげた陶器のような形だった。

 

 足首の腱に走る甘い痺れ。

 股間で渦巻く残響。

 すべてを呑み込んだ膣口は、

 未だ緩く収縮し続けている。

 粘膜同士が擦れあったときの音色は、

 

 まるで竪琴の弦が破ける音に似ていた。

 

 ──ああ。

 

 アリィは思う。

 わたしは本当に墜ちてしまった。

 王子として培った知識も策謀も、

 一瞬で無に還ってしまった。

 ただ一挺の陰茎によって。

 だが不思議と後悔はない。

 むしろ安堵があった。

 

 砂漠の王子として担がれ、

 国を守るために外交カードになれと言われてきた毎日に、

 ふっと酸素が送り込まれたようだった。

 わたしは道具として生きていくのではない。

 武器として消費される運命でもない。

 

 女として求められ、

 女として選ぶ自由があるのだ──

 たとえその主人が、

 狡猾で傲慢で、

 ときに嗜虐的であったとしても。

 

 濡れた睫毛はオスに媚び、

 垂れた首筋は白旗のごとく従順を示す。

 だが心臓は、依然として自ら鼓動を刻む。

 アリィは薄く微笑んだ。

 

「もう、王子じゃなくていいのよね?」

 

 問いは誰に向けられたものでもない。

 答えはすでに己が持っている。

 

 鏡のなかの女が肯く。

 黒曜の闇に浮かぶ褐色の肢体は、

 もはや王子の殻を捨て去った一枚の絵画。

 王座も王冠も不要だ。

 代わりに欲しいのは──

 

 ──もっと強い一撃。

 次なる抽送。

 

 アリィは指を動かす。

 白磁のような太腿を這わせ、

 指の腹で陰核を捏ねる。

 蜜壺の出口は未だぽかりと開き、

 そこから滲み出る液体は、朝露よりずっと濃い。

 

「早く来て……」

 

 声は掠れていた。

 甘い罠を撒き散らす蜘蛛のようでありながら、

 捕獲網に囚われる蝶のような儚さも含んでいる。

 

 闇の中で燭台の最後の一筋がふっと消え、

 室内を漆黒の帳が包んだ。

 その瞬間、床の鏡面だけが淡い暁に染まる。

 まるで海底に眠るサンゴ礁が、

 一瞬だけ蛍光を放つように──

 

 裸身が闇に泳ぐ。

 汗と血と白濁が混ざった匂いを纏いながら。

 腰を捻り、乳房を震わせ、

 

 そして──鏡に背を向けた。

 

 これから彼女は褥に戻るのだ。

 新たな司令官のもとで、

 雌という駒として踊るため。

 

 ハルヴァンの盤上で黒の女王は跳躍する。

 王手をかけるために。

 

 その一手が、やがて王朝の趨勢すら変えようとは──

 砂漠の夜風だけが知っていた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 窓硝子を打つ夜風は砂漠の匂いを運び、カーテンの裾を波立たせる。

 それは潮の音に似ていた。あるいは、胎内の羊水を思わせる、原始の記憶。

 

 燭火が揺れるたび、影絵の女が生き物のように息づく。

 まるで、彼女の中に眠るもうひとりが、水面に顔を出そうとしているかのように。

 

 ──紫羅蘭の瞳。

 潤んでいた。

 けれど恐怖で曇っていない。

 薄紫の双眸には紫雲英の花びらのような妖しさが宿り、頬は夕日の色に焼けている。

 息を呑んだ瞬間、夜着の布が胸の谷間に滑り込んだ。

 ふと胸元に置いた手を見る。

 そこには微かに汗と香油の混じった匂いが残っていた。

 指を嗅ぐ。

 馨りは媚薬のように頭蓋を巡った。

 

(これほどの官能を秘めていながら——)

 今まで気づかなかった自分が愚かだったのか。

 それとも社会が封印し続けてきたのか。

 どちらでもよい。今この瞬間、わたしは女だ。

 

「あっ、んっ、ふぁっ!!」

 

 腟内を弄ぶ圧倒的存在感。

 

 巨大な亀頭が子宮口を抉るたび、視界は白濁し

 世界は断章を編纂する本棚のようにバラバラに砕ける。

 

「どうだ、王族として生まれた身がこうして犯されることの背徳は!」

 

 ゼフィロス卿の嘲笑が脳裏を劈く。

 だがその声さえも、最早麻薬の一部だ。

 アリィは朦朧としながら腰をくねらせ

 牡の怒張を自ら迎え入れようとする。

 

「もっと強く……お願いっ!!」

 

 掠れた声が絹のように滑らかで

 甘ったるくねばつく媚声に変わる。

 その響きを聞くたび

 アリィ自身も驚嘆する。

 まさか自らがこんなに卑猥な音律を奏でられるとは——

 

 肉杭がひときわ強く穿たれる。

 膣壁が痙攣し

 愛液と血液が混じった熱い雫が結合部から噴出する。

 鎖骨に食い込む金輪が軋む。

 乳房は大きく膨らみ乳首が尖り切っていた。

 

「こんな……感じてしまうなんてぇ♡」

 

 羞恥と快美感が融合し

 脳髄に電流が迸る。

 王子という役柄など忘却の彼方に追いやられ

 ただ淫靡な穴を埋めてくれる男への服従心だけが残った。

 

 突如として逆襲した牡性によって

 アリィの脳内は完全に塗り替えられてしまう。

 

「コレぇっ……しゅきいぃっ♡」

 

 褐色の天使は狂気に染まった眼差しで誘惑するように啼いた——

 

 ゼフィロス卿はニヤリと嗤った後に激しく抽挿動作開始。

 

(そうだ)

 

 この身は最早世継ぎの王子ではない。

 

 愛玩用の人形でもない。

 ただ雌であり続けることこそが最も崇高なのだ! 

 

 

「もっと……もっとっ……」

 

 喘ぎ声に変わる。だがこれは悲鳴でも叫喚でもない。

 旋律だ。

 楽器で言うならヴィオラ。

 豊かでありながら柔らかく包み込む低音域に

 絶妙な倍音が彩りを与える演奏会場。

 聴衆は誰? 

 

 ——きっと自分自身だ。

 

 鏡面に映る自分の痴態から目を逸らせない。

 

 涙腺から滴る泪すら

 快楽の副産物に過ぎないと理解する。

 

(ああ)

(こんなにも素晴らしい体験があるなら)

 

 王子として過ごした日々など無益じゃないか? 

 剣の稽古や講義にも価値はあるだろうけど

 それ以上に尊いものが此処にあるのかもしれない。

 

「うぁぁっ!? そんなに、しちゃっ♡」

 

 性感帯を探り当てられては開拓され、新たな快楽を穿り返される。

 子宮がきゅんきゅんと泣きじゃくり愛蜜が止まらない。

 膣壁を割る巨根は獣を彷彿とさせながらも慈愛深く擦りつける。

「こんなのっ! わたしが知らないところばかり……っ♡」

 

 未知へ踏み込む畏怖と期待の交差点でアリィの精神は溶解した。

 

 やがて。

 強烈な肉棒の一撃がクリトリスを押しつぶしながら奥深くまで潜航する。

 

 ──―「イキたい」

 思考が空白になる直前に閃いた言葉。

 理性が警告を発する前に

 

「いくゥッ!!!!」

 

 褐色の肢体が弧を描いて跳ね上がった。

 同時に放たれた白濁液が子宮口を殴打する。

 王家の子女としての血統を守る責務。

 純粋に年若い少女としての妊娠に対する不安。

 それら全てを吹き飛ばす圧倒的快楽。絶頂。

 

 視界が万華鏡のごとく分解。

 色彩と音と記憶が螺旋状に舞い上がる。

 

(これが女性の醍醐味なんだ……)

 

 恍惚の中で悟る。

 今まで知らなかった未知なる地平を征く旅人として。

 

 淫靡な瘴気漂う闇の坩堝へ堕ちたアリィは

 甘美なる毒薬で満たされた杯を傾ける。

 肉体を支配する魔王はゼフィロス卿ではない。

 ほかでもない彼女自身の本能こそが真の君主なのだ。

 

 幾千万の兵士を率いる英雄は玉座にて静かに思索する。

 その横顔は冷徹無慈悲でありながら凛として美麗。

 

 ——これが王子としての務めか。

 いいや違う。今此処にある真実。

 己は牝として生まれ堕ちた獣性を讃える歌姫だ。

 褐色の乳房が豊穣な大地のごとく起伏し

 濃密な女の芳香を四方八方へ散布する。

 そこには羞恥心など存在しない。

 快楽と従属欲に溺れた少女の姿が確かにあった。

 

 王侯貴族として振舞ってきた日常から隔絶された異空間。

 そこで出会う未知なる悦楽という名の航海図。

 舳先を握るのは他ならぬ自分自身なのだ。

 航海士として舵を取り新たな陸地へ到達するために

 帆を張る準備は万端整った! 

 

 銀鏡に写る淫ら極まりない自分という存在肯定的に捉えつつ

 次のステージへ進むべきタイミング測量。

 その道筋に待ち構えるのは更なる快楽貪婪への憧憬だった。

 

 砂塵舞う戦場跡地より遥かに

 艶やかで退廃的な未来図描画可能範囲広がっていく。

 

「この肉体……」

 

 確かめるように呟く言葉裏には

 潜在能力を開花させた神童時代以上の熱量が宿っていた。

 

 

(私の人生に色をつけたのは剣でも策略でもなかった。……これは……)

 

 胸元の布がわずかに擦れた。

 それでさえ鳥肌が立つ。息が震える。

 こんな些細な接触で身体が反応するなんて——

 アリィは驚愕し同時に歓喜する。

 

 ずっと誤魔化して来た感覚が一気に爆発している。

 誰に気づかれるわけでもなく女として生まれ持った器官の開花儀式。

 

「……そうよ」

 薄目を開けると灯りに揺れる天蓋の陰翳。

 その内側でぼんやりと映る自分の輪郭が朧げに見える。

 あの王子としての外殻はどこへやら。

 露出した褐色の肢体は火照り

 汗ばむ肌表面が仄かに光を纏っていた。

 

(私自身が開くべき門番だったんだ)

 

 ゼフィロス卿によってこじ開けられるまでずっと錠前だった。

 己が女であることを忘れたくないから

 意図的に塞いでしまっていた心の扉。

 けれど今や開放された。

 眼前に広がるのは芳醇な蜜林。

 

 王子という枷を外す時こそ本当の戦が始まる。

 そして武器は剣でも魔法でもなく快楽だ。

 この淫靡なる武器を手に入れればいかなる政敵だって出し抜ける。

 

「……楽しいかも」

 

 零れた吐息は甘い。

 恥ずかしい? 

 いいえむしろ愛おしい。

 この昂ぶりこそ生きる証拠だと思うだけで

 涙ぐんでしまうくらい幸せだった。

 

 熱い鼓動とリンクするように陰部では疼くような痒みが増している。

 もどかしくて仕方がない。手招きをしているのはもっと深い場所だ。

 熟練の色事師はメスの欲求を的確に読み取り、焦らす。

 

 浅い部分を軽く擦ったり、亀頭を揺らして苛めてくるのだ。

 その度にアリィは腰を跳ねさせていた。

 

(欲しいっ! お願い!)

 

 けれどなかなか核心には触れてくれない。

 それが一番辛いところだ。

 今までにない方法で追い詰められて我慢できなくなってしまう

 

「だめぇ……なんでぇ……イジワルするのぉ!?」

 

 啜り泣くような声音で乞い願うしかない。

 淫らな娼婦の如く媚びてしまう事実を認識して尚、欲望を止められない。

 

 ズリュッジュポォ♡ヌチャァァッ♡

 水音が弾ける度に全身に快楽が浸透し、もう頭が真っ白だ。

 

「っ!? ♥」

 

 腰を少し持ち上げるような体勢で迎え入れた最奥を軽く小突かれた瞬間、

 膣天井裏側からジワジワッと敏感部位へ集中刺激する手管。

 

 快感信号が連続送信されて限界突破目前の脳が沸騰しかける程に茹だる。

 

「あ♡ダメッ///それ以上されたらいっちゃぅ……!!」

 

 ギュッと瞼閉じるアリィ

 

 目尻を零れ落ちる涙雫すら熱を持って淫靡的に輝きを放つ。

 

 カリ部分がGスポット直撃すると膣襞は逆巻きながら肉竿を締め付け

 内部全体を蠢動発生させて精液を求めて媚肉を吸着させる。

 

「あ〜〜ッッ!! ♡♡」

 

 ビクン! ビクン! 身体跳ねながらも逃げる事が出来ない強烈なオーガズム。

 生理的な涙が溢れ出す眼球を潤ませ口角から

 ヨダレ垂らして顎先に溜め込んでしまう惨憺たる姿だった。

 

「まだまだ終わらないさ」

 ゼフィロス卿は非情宣言。

 今度は角度を変え掻き回しながら猛然と抽送開始!! 

 

 パン! パァアンッ♡ズチュュユッズブュゥー!! 

 肌と肌打ち合わさる衝撃音が轟き渡る。

 

 高速ピストン運動で凶器のようなペニスが

 膣奥子宮頸部激しく叩き潰し、

 一突きするたび絶叫じみた悲鳴あふれ出す。

 

「あ゛あぁッ♡!! しんじゃゔぅ~~ッ!!」

 

 意識遠のいて行くなかでも分かるほどの暴力的速度。

 圧倒的パワーを持った牡力に翻弄され全身弛緩。

 

 口呼吸すらままならないレベルまで追い込まれた刹那——

 

「受け止めておけ」

 

 ドクドクッ……ビュッ……ビュ──ッ……!! 

 

「〜〜〜っ!?!?」

 

 凄まじい量、放出される温かい液体洪水が子宮内部まで届いた瞬間。

 爆ぜる様に視界暗転して何も考えられなくなる絶頂感。

 

 白濁汁に塗れた媚肉袋内壁が

 激しく痙攣発作を起こしながら小刻みな絶頂が続く。

 

 結合部から溢れ流れた白い河川が

 太もも臀部ベッドシーツ全体汚染し凄惨な光景作り上げていた。

 

(これ……すごい……♡)

 言葉にならない充足感。

 下半身が痺れ意識朦朧中でも心の底からの幸福感に浸りたい一心。

 

 砂漠の星々さえも届かない私室の底で、アリィは再び目を開ける。

 鏡は割れていない。

 むしろ艶やかな罅を抱え込んでいた。

 そこには旧来の王子像が粉砕され、

 新生の雌が自らを魅了している——

 破片を通して多重に折り畳まれた光景が映る。

 

 褐色の肩。翡翠のような乳輪。蜜に濡れた陰毛。

 それら全部が生々しく実存していて、

 しかも鏡像のほうが鮮明であるという事実に呆然とする。

 

「……すごい」

 呟きが宙を漂う。

 驚嘆でも慄きでもない。

 感嘆。

 まるで旅人が深淵の大瀑布を目撃した時のそれと同じ。

 

 指を伸ばす。

 鏡面の己も同じように指を動かす。

 途端に重なり合った光景が無限分裂し、

 視野全域に女が並列配置される幻惑。

 

 一つひとつのアリィが異なる表情をする。

 泣きながら嗤い、怯えながらも昂ぶっている。

 そこへゼフィロス卿の低い笑声が被さる。

 

「どうだ?」

 問い掛けに答える前に足首を掴まれた。

 ふわりと身体が持ち上がり、接合部がむき出しになる。

 赤い糸が絡み合い、

 褐色の花弁と牡の象徴が一体となって蠕動している。

 途方もない醜怪さと美しさの混淆——

 官能とは美学だ、と遅ればせながら悟る。

 

「綺麗でしょう?」

 

 返答は嘲弄に包まれた賞賛。

 鏡の中の自分が嫣然と微笑み、舌で唇をなぞる。

 その仕草が妙に自信に満ちていて眩しい。

 

(もう隠さなくていいんだ)

 

 胸奥で鍵束がはじけ飛ぶ音がした。

 幾重にも絡めとられた拘束具が雪崩落ちる。

 王子。王統。国政。血統保存。礼儀作法。

 どれも重要なはずだった。

 しかしこの瞬間においては何一つとして比較にならない。

 

 今欲しいのは——もっと深く抉ってもらうこと。

 もっと深く穿たれること。

 もっと深く堕ちること。

 

「……殿下」

 卿がわざとらしく呼び掛ける。

 過去の称号を利用した最後通牒。

 アリィは首を振った。

 紫の瞳に爛漫たる光を宿し、

 

「もうその名は要らない」

 

 そう宣言すると同時に腰を前方へ突き出した。

 鏡の中で女たちが一斉に歓声を上げる。

 絶叫にも似た合唱。

 

 突き立てられた楔が子宮口をノックするたび、

 脳髄で花火が炸裂する。

 論理は蒸発し、残滓も残さず消え去った。

 ただ肉と欲望だけが純粋に生きている。

 

「あっ——」

 

 声にならない音が弾ける。

 脊椎が溶け崩れ、視界が白一色に染まる。

 鏡も天井も地続きになり境界線を喪失。

 

「っ、んぅ〜〜〜!」

 

 昇天。

 言葉より速く肉体が極頂を認める。

 膣壁が収縮し雄の子種を搾り取ろうと蠢く。

 

 どぷり。

 どくり。

 滾る熔岩のような熱液が注ぎ込まれる。

 

 子宮の内側に流れ込んだ白濁は

 甘露となって腸壁から全身へ沁みてゆく。

 

 快楽が波紋となって広がり、

 指先の末端までも蕩かせていく。

 

(これが……女性の極意……?)

 

 虚ろな思念が余韻のなか漂い、

 鏡像たちは喝采しながら舞い踊る。

 歓喜の輪唱。

 新たなる自己の戴冠式。

 

「見たまえ。王子の仮面は剥がれたぞ」

 

 ゼフィロス卿の宣託。

 だが声は遠い。

 アリィは自らの鼓動のほうが大きいと知っている。

 褐色の胸を打ちつける拍動は軍鼓にも似ている。

 進軍すべき戦場は——

 

(快楽を糧とした政略の盤上……)

 

 そう直感した瞬間、ハルヴァンの駒が脳裏を掠めた。

 黒獅子。蒼鷲。赤王蛇。

 すべて敵であり友であり駒。

 そして自らこそが最強の女王《シェヘラ》だ。

 

「卿」

 掠れた声で呼びかける。

 卿は眉を上げた。期待の色が漲る。

 アリィは微笑みを作り出す。

 唇の端から赤い珠——唾液とも涙とも判じ難い雫が零れ落ちる。

 

「もう一度……」

 

 依頼は簡潔だった。

 誘いでも懇願でもなく指示。

 権威ある語調。

 

 ゼフィロス卿の口端に残忍な皺が寄る。

 

「心得た」

 

 突き下ろされる肉槌。歓喜の悲鳴。

 鏡が再び共鳴し、褐色の舞踏が開始される。

 王は死に、雌は舞う。そして王都が堕つる刻は近い。

 砂漠の月は不吉にも欠けはじめ——

 私室を照らす唯一の光が、その破滅的輝きを増していく。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 砂海に船出す刻、帆は熱風を孕みて満ちる。

 

 男の腰に跨り、メス肉に咥えこんだ肉棒を貪るように躍動する女体。

 アリィは舵を取っていた。褐色の船首が陽を孕んで艶めく。

 黄金比を誇る胴体は水車のように旋り、腰の湾曲は満月を孕む。

 

「見て……」

 

 彼女の声は潮騒に似て潤みながら、かつ勁い。

 指揮官の手振りで鎖帷子の下の筋肉がうねり、乳丘が鞠を放つ。

 紅色の蕾が風を切るたび薄紫の虹が煌く。

 

「こんなにも——深く」

 

 膝を立てずに跨ぐ態は王者の睥睨にも似ている。

 足首を銀鎖に託したまま身を躍らせれば、灼熱の楔が雌芯の谷底を灼く。

 彼女は啼いた。絶叫の奥に扇の音が聴こえる。

 

「あっ……ん……ふぅん♡」

 

 喉奥から零れる響きは竪琴の和音。歓喜と畏怖の調和。

 ゼフィロス卿は寝台に横たわりながらも眼光を炯と光らせていた。

 

 

「まだ……欲しがるか?」

 

 問う声は老将校の審判めいて低い。

 アリィは微かに頷き、汗に濡れた眉根を寄せた。

 双眸は紫羅蘭を煮溶かした泥沼。闇の中で一点だけ燃える恒星だ。

 

「卿が教えてくれたのでしょう? ここは……海よ」

「大海」ではなく「海」——砂漠と違って容易く干上がらぬ深淵。

 彼女は自らの肚を押さえた。

「わたしは……ここに沈む舟」

 

 掌が臍をなぞり、指先は淫靡な螺旋を描きつつ下降する。

 下腹部には無数の鱗のような火照りが散り敷き、汗の雫が光る筋を作る。

 

「もっと深く漕いでみたい……」

 

 覚え込まされた騎乗位で牝肉に咥えこませた剛槍。

 これを貪るように躍動するたび視界の縁に星屑が奔る。

 王子の仮面が外れ落ちた今、残るのは淫猥な魂魄の輝きのみ。

 

「ならば」

 卿はゆっくりと上肢を起こし、鎧袖一触といった風情で右手を掲げた。

「望み通りにしてやろう。ただし代償は覚悟せよ」

 

 言葉と同時に腰が浮き上がった。

 串刺しを食らわせる形で跳ね上げられた剛棒が子宮口を刳り抜く。

 アリィの背が弓なりに反り返り、乳肉が鞭打たれた馬のように暴れる。

 

「きゃんっ!!」

 

 小犬のような悲鳴と共に蜜壺が痙攣を開始。

 痺れが脊椎を這い上がって脳髄を蝕み尽くす。

 思考が断片的に飛び散り——彼女は刹那的に宙に浮いた錯覚を得た。

 

(これは……艦砲の榴弾……?)

 脳裏に浮かぶ戦術的譬えもすぐさま快楽の靄に呑み込まれる。

 砂漠の民は皆こうやって繁殖してきたのかと考える暇さえ惜しい。

 

 卿は容赦せず。

 腰の撥条を使って再び突き上げる。

 先端が最奥を啄むたびアリィの肉筒は収縮し、熱い汁を分泌して返答する。

 

「んっ……ひぁん♡」

 

 淫らな調べが続く。

 鏡台の硝子に映る己の姿を見てアリィは呻いた。

 頬を桃色に染め上げて涙を流し、唇の隙間から舌先を覗かせた雌像。

 

「素敵……」

 誰に向かって言ったのか分からない。

 鏡の中の女——そうアリィ自身に対して? 

 

「アリィよ……」

 ゼフィロス卿は冷笑と共に呼んだ。

「まだ躊躇うか?」

 彼の指が鎖を弾く。

 金属音が雷鳴のように鳴り響き、快感の稲妻を増幅させる。

 

(躊躇など——もう必要無い)

 

 心で呟くや否や彼女は全力で腰を使い始めた。

 円を描く動き。

 蛇行の疾走。

 上下左右へ跳梁跋扈する牝肉。

 すべて卿から授かった操舵技術だ。

 

 結合部から粘着質の水流が飛沫となって弾ける。

 透明と白色が混じった液の細流が二人の腹を濡らす。

 

「あぁっ! もっ……と!」

 舌たらずに願う。

「もっと深く穿ってくれないと……溺れちゃう!!」

 

 卿は応えた。

 腰を落として角度を変え、彼女の腰骨の下を支える。

 固定された標的めがけて一直線の突撃。

 鋭鋒が隘路を刮ぎ取り、内壁を摩耗させるたび火花が散る幻覚。

 

「ひぐっ♡」

 

 絶叫と嬌声の混声。

 アリィの背中に走った鳥肌は砂漠の稜線のように尖鋭。

 爪先まで弓張りになり全身が宙吊りになったかと思う衝撃が襲う。

 

(来る……!!)

 

 予兆もなく絶頂が訪れた。

 脳天を貫く白亜の剣戟。

 反射で膣襞が捩れて猛禽類のように雄幹を咥え込み吸引する。

 

「くぅ……っ!!」

 

 卿も唸り声をあげる。

 快楽に喘ぐ老人の声は獣性の残渣。

 アリィはそれに歓喜した。

 

「出してぇぇ♡」

 

 哀願と命令が同時に出た。

 一秒と待たず熱液が迸る。

 熔岩の如き白焔が子宮頸へ注ぎ込まれる圧力に身を委ねる。

 

 灼熱。

 眩暈。

 歓喜。

 畏怖。

 すべてが一箇所で爆ぜる。

 視界は砂嵐のように遮蔽され星芒が無秩序に散る。

 

「はぁぁ〜〜……ん♡」

 

 咆哮にも似た愉悦の溜息。

 体内を満たす灼熱が卵巣あたりで共振し第二第三の波動を誘う。

 

 ——降伏? 征服? 

 否。両方が合一した地点こそ戦果。

 

 鏡面を見れば涙に歪んだ自身の貌。

 それでも確かに口角は上がり喜悦を主張している。

 

(王子など捨て置いて良かった……)

 

 彼女は腰を少しだけ揺らす。

 まだ萎えない楔が反応し再度甘い電流を流す。

 

「もっと……もっと操舵する権利をちょうだい」

 掠れた声で請う。

 卿は眉を上げて笑んだ。

「任せるといい。舵輪は汝の手にある」

 

 言外に込められた意味——

 即ち政治的駒としての操縦権の譲渡。

 牝としての屈服の形を借りた主権獲得。

 

 アリィは再び深く腰を沈めた。

 

「いただきます」

 

 婉然と笑いながら腰を回す。

 牝肉の砲塔が再び唸りをあげる。

 快楽の礫は双方へ均等に配給される。

 

 この瞬間から砂漠の力学は変わる。

 雌は武器となり、官能は政略となる。

 褐色の牝船は砂海へ乗り出し、

 その帆に熱風を孕ませて悠然と航行する。

 

 

 鏡台の硝子が僅かに震え、

 新王の誕生を祝福する鐘のごとき音を立てた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 黎明が窓枠の木目をなぞるように滲んでいた。

 昨晩までの湿り気を宿した空気は、大理石の床に蟠り、

 微かに甘い蜜の匂いを漂わせている。

 ──否。蜜というよりは麝香か。官能と諦念が煮詰まった媚香だ。

 アリィは寝椅子に身を預けたまま、

 額から頬にかけて垂れ落ちる汗を拭うことさえ怠惰に思っていた。

 鏡台には無残に割れた鏡が散らばり、

 その一片一片に褐色の女体が分裂して映る。

 揺れる双房、痺れた大腿──

 いずれも昨夜までの彼女であれば忌み嫌ったであろう肉体が、

 いまは誇らしげに蠢いている。

 

「……ふふ」

 思わず洩れた吐息は甘やかで、かつ辛辣だった。

(これが、敗北? いえ──進軍ね)

 心の奥底で何かが決定的に反転した証しとして、腹の奥が鈍く疼く。

 栓をするように下腹部に貼られた膏薬の冷たさと熱さが

 交互に往復しては、淫夢の続きを催促する。

 

 枕元にはゼフィロス卿から贈られた一枚の布。

 深藍色の絹地が朝陽を吸い、孔雀石を研磨したような色へ変わる。

 裳裾を飾る刺繍は金糸で編まれた「バベル」──オラリオを象徴する紋章だ。

 この一衣を纏うということは、

 形式上であれ彼女の所有権がギルドに帰属したことの表明だった。

 

 指先が触れる。

 柔らかく重く、罪の香水を浴びせたような感触。

(この重さでさえも──心地好い)

 かつて王子として振る舞うたびに感じた息苦しさを思い返すと、

 何という自由だろう。鎖の方が軽いこともあるのだ。

 

 ドアを叩く音がした。

 侍女の控えめな挨拶。それからアリステラ王妃の来訪を報せる声。

 アリィはゆっくりと起き上がり、

 裸身に毛布だけを羽織って鏡の欠片を踏まずに廊下へ出た。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 謁見の間は朝霧に満ちていた。

 窓から差し込む曙光が埃粒を虹色に浮き上がらせ、

 王宮警護の兵卒たちの兜が鈍い光を反射している。

 しかし誰も彼もが押し黙り、異様な緊迫を湛えている。

 

 理由は明白だった。

「王子」アラムが公的な席に出席していないのだ。

 代わりにその場を占めるのは、

 昨日までの常識を嘲笑うような艶冶をまとった一人の女──

 

 扉が開き、靴音が響く。

 ──カン! カン! カン! 

 

 足音が大きくなるにつれ、

 臣下たちの首が一斉に回り、呼吸が停止した。

 目に映ったのは、紫紺のドレスをまとったアリィ。

 大胆に開かれた胸襟には翠玉石が嵌め込まれ、

 宝玉よりも豊満な両房がその狭間から今にも零れ出しそうだった。

 脚は薄いヴェール越しに透けている。

 太腿の付け根──ちょうど昨夜噛みつかれた傷跡を庇うように、

 裾は膝上でふわりと跳ねる。

 

「皆様、お揃いでしょうか?」

 落ち着いた声が空間を切り裂いた。

 澄んでいて嫋やかだが、刃物の鋭さを秘めた音色。

 臣下は言葉を失い、中には跪く者さえいた。

 王女の「美貌」が

 これほど暴力的な威力を帯びたことは一度たりとて無かった。

 

 一段高い王座の方角から、アリステラの困惑した気配が漏れる。

(我が娘が──こんなにも淫靡に武装している?)

 信じがたい光景に瞠目し、

 口を開けば罵詈雑言になりそうな自戒を嚙みしめる。

 

 だが目の前のアリィは、

 どこか哀愁すら湛えた笑みで臣民を見渡し、

 ゆったりと唇を開いた。

 

「本日より私は王子アラムではありません。

 正当なシャルザートの王女アリィです」

 ざわめきが起きたが、それを押さえるように彼女は続けた。

「ワルサとの戦いはこれからが本番です。

 援軍を乞うてこそ王国の独立は保てましょう。

 ──そのための道筋も既に用意しました」

 

 傍らに進み出た使者は恭しく封蝋付きの羊皮紙を掲げる。

 封印には二頭の獅子──ゼフィロス家の紋章。

 臣下たちは息を呑む。

 要するにギルド代表の署名が加わった正式援助契約書。

 条件は一つ、「王家の信任」。

 つまり女王たるアリィが全面的な従順を以て対価とすること。

 

 アリステラの背筋を氷柱が滑った。

(あれほど頑なに拒んだ性別を曝け出し、

 さらに人身御供を買って出るとは……!)

 怒りなのか哀れみなのか判断不能の熱が咽喉を焼く。

 だがアリィはこちらを見据え、母に向けて微笑を落とした。

 それは赦しであり、別離でもあった。

 

「母上。わたくしは王女になります」

 まるで昔語りのお伽話を選択するような軽やかさで述べると、

 アリィは踵を返して壇上へ進んだ。

 

 群集がざわめく中、

 遠く回廊の影でひとりの初老のエルフが手を打ち合わせていた。

 ゼフィロス卿──褐色の女神を初めて手中に収めた策謀家だ。

 彼の口許に刻まれた微笑は残酷さを内包しながらも優雅で、

 まるで芸術品を鑑賞する蒐集家の眼差しである。

 

(これでよい。女の武器も政治の道具も同一線上にある。

 シャルザートは今日から我らギルド傘下の〈旗〉となるのだ)

 

 卿の傍らでは近衛騎士隊副長ファティマが俯いていた。

 心中の歯軋りは臣下としてか、或いは女の嫉妬か……察しがたい。

 

 ◆◆◆

 

 午後の日差しが傾き始めた頃。

 王宮中庭の泉畔で、

 アリステラはようやく娘と言葉を交わす機会を得た。

 

 水面に映る二人の姿。

 ひとつは苦悩する熟れた白磁の美女。

 もうひとつは若々しい褐色の百合の花。

 それぞれ別の時間軸から芽吹いたようでいて、

 顔立ちには驚くほど良く似た怜悧が浮かぶ。

 

「……なぜ?」

 母の問いはそれだけだった。

「なぜ娼婦になる覚悟を決めてまで、国を選んだのです?」

 

 アリィは泉水のほとりにしゃがみ込み、

 指先で水蓮の葉を撫でながら答えを紡いだ。

 

「母上、思い出してください。

 私が初めて剣を学んだ日、先生に言われましたよね。

 "戦うとは相手を知ること”と。

 私は“戦場”というものを学ぶために男女の区別を越えました。

 しかし実際に学んだのは別の真理です──」

 

 言い淀む口元が艶やかに揺れる。

 

「──すなわち、“知ること”と“奪われること”は不可分である。

 どちらかを選ぶ余裕はない。なら両方いただく。

 それが最善手だと悟りました」

 

 アリステラは愕然と眼を見開いた。

 強要された男装で過ごした娘が、

 今その逆を選び、しかも堂々と誇示している。

 己が矜持の上にさらなる矜持を載せ、

 さらには男装の経験で培った洞察力を転用するその大胆不敵さ。

 

「あなたは……幸せなの?」

 声が震えた。

 

「どうでしょうね」

 アリィは曖昧に笑い、視線を池へ落とす。

 波紋が広がり、彼女の姿が揺らいだ。

「幸福と不幸は計器も秤もありませんから。

 ですが少なくとも私は“退屈”から解放されました。

 それに──」

 

 水面を覗き込む眼差しが妖しく潤む。

 

「──男装で十年鍛えた技が、

 女となったことで百倍面白くなるのなら試さずに終われるでしょうか?」

 

 唇の端がわずかに歪み、

 そこに見え隠れするのは快楽主義者の傲岸さか、

 あるいは成熟しつつある支配者の驕慢か。

 

 アリステラは嘆息と共に膝を折った。

 母として娘を殴ることも叱ることもできない悔恨が胸を焼き、

 同時に恐るべき傑物を産み落としてしまった感慨が湧き上がる。

 

(私にはもう、止められぬ)

 

 ◆◆◆

 

 黄昏──―

 城壁の尖塔には風見鶏代わりに巨大な紅旗が翻り始めていた。

 旗布にはギルドの塔と並び、

 新調された〈褐色の女神〉の紋章──

 白い弦月に囲まれた紫水晶の瞳が燦然と輝く。

 シャルザート王国が新たな盟約のもとで再生する象徴だ。

 

 玉座の間に戻ったアリィは、

 侍医から処方された鎮痛剤を湯で割りながら

 ゼフィロス卿が去った後の空白を見つめていた。

 

(さて。次はどんな一手を?)

 王女として、また政略の道具として──いや。

 己が身体そのものが棋盤であることを理解した今、

 彼女の好奇心は尽きるところを知らない。

 

 蜜のように甘く、砂糖菓子のように脆い

 己が肉体の脆さを認めてしまえばこそ、

 人はあらゆる毒さえ美味と啜れるのだから。

 

 杯を置き、ゆっくり立ち上がる。

 王笏の代わりに携えたものは、

 一枚の戦局図と一本の短剣。

 ハルヴァンの黒獅子を模した駒を摘まみ、盤上中央に据えた。

 

「あなたの指が教えた道筋……

 すべて飲み込んでみせましょう。ゼフィロス」

 

 鏡は割れたまま。だが破片の中に映る彼女の眼は冴え冴えと輝き、

 破滅を孕んだ夜空の星のように瞬いていた。

 

 *

 

 ───メスとして屈した女は必ず甦り、

 ──────────今度は己で罠を張る側になる。

 

【完】

 

更新希望の原作

  • 魔弾の王
  • 落第騎士
  • ハイスクールD×D
  • 月姫
  • モブせか
  • マジエク
  • のんびり農家
  • 新妹魔王
  • 八男
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