※この作品はR-18です。

ダークエロよろず短編集   作:カード読み込み

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アスフィのお仕事

 

 

 黄昏時の朱が瓦礫の谷に落ちるころ、石畳の大路をゆく馬車があった。

 幌に家紋はない。

 御者は獣皮の外套を目深に被り、

 客席の扉を外界と遮る漆黒の布が風に呻くばかりである。

 その薄闇の裡、蜂蜜色の燭影に照らされた少女がひとり、膝上の拳を固く結んでいた。

 

 ──アスフィ・アル・アンドロメダ。

 水色の髪を伏せて俯きながらも、双眸は油灯を噛み砕かんと鋭利であった。

 囁き声さえ呑みこむ静寂の中で、胸の谷間に響く己の鼓動だけが嵐である。

 灰色のヴェールに覆い隠されたドレス──

 艶やかなワインレッドの生地には螺旋を描く銀糸が縫い込まれており、

 布を押し上げるFカップの輪郭は蠱惑的としか言いようがない。

 

 向かい合う坐席に腰掛けるもう一人の娘は、淡い琥珀色の瞳で遠慮がちに友を見守る。

 ──ローリエ・スワル。

 長い金三つ編みの房を膝上で遊ばせつつも、ふとももに宿る肉感は清楚な印象を許さない。

 鎖帷子めいた肋骨と膨らみすぎた果実との絶妙な不均衡を、

 絹のローブが辛うじて隠し通している。

 けれどローブの合わせ目に忍ぶわずかな隙間から、

 葡萄色の乳暈がかすかに零れ──それは燭影の中で葡萄酒の滴のごとく匂い立つ。

 

 第三の気配は広々とした馬車内で少し離れた座席に凭れかかった小柄な影だ。

 アーディ・ヴァルマ。

 陽炎じみて浮かぶ若草色の瞳の奥で、濁りかけた硝子を睨むように燃えている。

 麦藁帽子の奥に揺れる跳ね毛は今や萎れ、

 牧歌的であったはずの白衣は襟元から褐色の染みを晒していた。

 ──何者かがそこに残した“印”。

 その臭いを嗅ぎ分けてしまわぬよう、ローリエがそっと袖を伸ばす。

 

「……まだ怒ってる?」

 問いは小さく、けれど必死に温かな温度を宿していた。

 しかしアーディの睫毛は震えるだけで答えない。

 代わりにアスフィが静かに言葉を継いだ。

 

「当然よ。あの晩あなたを巻き込んだのは私たちだから」

 

 言い終えるや否や、アスフィは肘掛けの小さなトランクを開ける。

 蝋封を解けば水晶砂時計が嵌め込まれた携帯用通信札、

 そして古羊革装丁の一冊──〈赫焉草紙〉。

 頁を開けば無造作な走り書きで「二階北廊」「薔薇庭園地下」「温室炉」の文字。

 いずれも標的の屋敷の配置図であり、最終ページには真紅の羽飾りの印鑑──

『ゼフィロス卿へ捧ぐ』とある。

 

「今宵ここに潜るのは私とあなた。

 ローリエは地下水路を使って裏口から侵入。

 万一捕獲された場合は二通目を開封し解放剤を散布。いい?」

 

 凛然とした号令だった。

 だがローリエは胸の奥で脈を打つ痛みを堪えつつ微笑んだ。

 

「了解、団長殿。あなたの帰還まで決して独りにはしません」

 

 アスフィの唇がわずかに綻ぶ。

 が、その刹那、隠しきれない焦燥が彼女の喉元へ迫った。

 理由は明白──馬車の天井で鳴る蹄鉄の律動の合間、

 脳裏によぎる数日前の惨劇が血管を灼くのだ。

 

 ──薄暗い謁見室。

 ──腐爛した花蜜のような香水。

 ──そして愉悦に歪む初老のエルフの冷笑。

 

 

 水晶の砂時計が最後の一粒を落とす頃、記憶は濁流のように脳天を淹れた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ──二日前の朝。ヘルメス・ファミリアの本拠、商館三階の執務室。

 

 アスフィは主神を前にして卓上に両手を突きつけていた。

 銀縁のメガネが燭光に反射し、瞳を覗かせない。

 それが彼女の怒りの証拠であった。

 対峙するヘルメスは相変わらずの愛玩児のような笑みを湛え、

 窓辺に凭れる猫を撫でていた。

 

「つまり要件をまとめると、

 私は明日の晩にローリエを伴ってゼフィロス卿邸へ招待状を持って訪問。

 彼と会談しつつ密かに身辺調査……と言いましたか」

 

「その通り! もちろん表向きは宴席の視察。招待状はこちらで偽造しておく」

 

 神は指を一本立てて陽気に告げる。

 アスフィは溜息を嚙み殺しながら机上の地図を叩いた。

 屋敷北西の離れには大きく×印が入っている。

 夜襲を前提とした逃走路だった。

 

「問題は帰りの護送車輛ですね。奴は客人を容易に帰す性格ではない。

 私の身辺に何かあっても助けを求められないでしょう」

 

「大丈夫大丈夫。君なら脱出方法の十くらい考えつくでしょ?」

 

 その無責任な冗句が最後の一線を越えた。

 

「神格を汚すわけではありませんが……今回は冗談になっていません!」

 

 迸った咆哮に猫が飛び退く。

 壁際に控えるローリエが慌てて宥めに入ったところで、

 アスフィ自身が息を荒げていることに気づき顔を伏せた。

 悔恨ではなく、昂ぶりを鎮める為の沈黙だ。

 

 ──結果的に言えばこの叱責も神にとっては“娯楽”の一幕に過ぎなかった。

 

 ◆◆◆

 

 

 ゼフィロス邸に辿り着いた馬車を降りるなり、

 アスフィは足首に絡みつく甘ったるい芳香を感じた。

 庭園いっぱいに咲き狂う月下香。

 紫色の花冠が風もないのに揺れている。

 樹脂のような粘性が肺に貼り付く。

 アスフィは咄嗟に口許をハンカチで押さえた。

 

「……アスフィ? 大丈夫ですか」

 

 傍らのローリエが支える。

 金の三つ編みの根本から薔薇色の鎖骨が垣間見え、

 衣服の裂け目は昼寝の仔犬のように無防備だった。

 アスフィは内心で舌打ちする。

 

 ──ローリエは心の脆弱な部分を香で読む。

 この香りは魂胆を見透かす罠かもしれない。

 

 二人は石畳の噴水広場を横切り、玄関階段を上った。

 大理石の柱廊には鎧を纏った男女の彫像が並び、

 いずれも局部のみを翡翠で象嵌されている。

 古代の英雄譚と聞けば崇敬の念を抱くだろうが、

 ゼフィロス卿が蒐集した意匠と考えれば猥褻な意味合いしか思い当たらぬ。

 

 侍従に導かれ応接間に入ると、

 正面には長躯の初老エルフ──ゼフィロス卿が待ち構えていた。

 灰青の髭は精巧な蜘蛛の脚のように分岐し、

 翡翠色の瞳孔は底無し沼の水面を思わせる。

 灰色の外衣の下から覗く上腕には戦士の腱が稲妻のごとく浮いていた。

 

「よくおいでくださった。まさか君の方が尋ねてくるとは」

 

 声音は春川を流れる竹筒の如く艶めいている。

 だがその根底に潜む湿度を感じ取り、

 アスフィは脊椎を針で掻き混ぜられたように寒気が奔った。

 

「形式に則った挨拶は後にしましょう」

 アスフィは短刀のように言葉を投げる。

「我が主神より預かった資料をお渡しします」

 

 差し出した封筒を侍従が受け取り卿に運ぶ。

 ゼフィロスは興味深そうに眉を寄せ、

 

「ほう……神・ヘルメスも随分と物騒な玩具を持たれた」

 と言いざま悠然と腰を上げた。

 

「せっかくだ、客間より“愉しい”場所をご案内しよう。ローリエ嬢もどうぞ」

 誘いに従い歩き出すと、廊下の壁に穿たれた鏡が二人を映し返す。

 

 

 

 ゼフィロス卿の先導で踏み入れた回廊は、

 左右の壁面が磨き抜かれた銀鏡で埋め尽くされていた。

 燭台の火が千の眼を持つ蛇のように這い回り、

 二人の女体を断片的に、そして過剰に照らし出す。

 アスフィは足を止めずに歩きながらも、鏡の一枚に自らの姿を盗み見た。

 

 ワインレッドのドレスは螺旋を描く銀糸によって灯火を抱き込み、

 深海魚の鱗のように艶めいている。

 布の内側ではFカップの双丘が重力に耐え切れず揺れ、

 ドレスの胸元はまるで収縮を忘れた獣の臓腑のように布地を押し広げていた。

 腰の括れは紙一枚が入りそうで、それを見上げる裾は蜂蜜酒のように甘く垂れ、

 一歩踏み出すごとに太腿の奥で熱を孕んだ呼吸を孕んでいる。

 

 だが鏡の中に映る自分の姿は、

 それ以上に他人の眼差し——特に男の眼差し——を意識していた。

 メガネの奥の青い瞳が僅かに震え、唇の端が無意識に唾を拭っている。

 その自覚がアスフィの心臓を一拍早めた。

 

 すぐ後ろを歩くローリエは違う鏡で自身を見ていた。

 薄いアイボリーのドレスは雪花石膏のように清冽で、

 裾を翻すたび金糸が星座のように散る。

 金の三つ編みが肩胛骨を擦りながら揺れ、

 その動きに合わせて乳房が規則正しく上下する。

 表面張力ぎりぎりまで張った球体が呼吸のたびに弛緩し、

 また緊張するのが鏡にはっきり映り込み、ローリエは頬を染めた。

 

 しかも今日は隠し事をしていないという擬態を兼ねて腰周りの布地が少ない。

 歩幅を合わせれば肋骨から尾てい骨まで一線で繋がる肉線が、

 鏡ごとに新たな角度で剥き出しになり、豊かな尻肉が振り子のように左右へ撥ねた。

 裾下で太腿同士が擦れあう湿った音が聞こえるほどの鮮烈さだ。

 

 隅に控える訓練された使用人が男女問わず頬を染め、

 無意識に生唾を飲み込んでも咎められないほど扇情的で艶めかしい女体。

 二人の生真面目で凛とした美貌が蠱惑的な肢体と相まって立ち昇る芳しい色香。

 女傑と呼ばれる勇士とはこうあるべきなのだと人々に希望を与えるような妖艶さ。

 

「……ッ」

 

 ふと耳朶を撫でるほどの距離で視線を感じ、二人同時に振り返る。

 背後の無数の鏡の中に卿の笑顔が映り込んでいる。

 灰青の髭が焔のように蠢き、翡翠色の瞳が鏡の中から幾重にも覗き込む。

 

 その瞬間アスフィは理解した。

 これは招待ではない。

 裸身どころか内部を抉るように眺められる公開陵辱の序章なのだ。

 

「ローリエ」

 

 呼びかける声が掠れる。

 彼女は振り返らないまま小さく頷いた。

 指先に触れられる距離ではないが互いに指を握り締めているような錯覚を得る。

 

 鏡の中のローリエが視線を逸らし、再び前方を歩き出す。

 同時にアスフィも一歩を踏み込んだ。

 ドレスの布地が太腿の付け根を擦りあげるたび火花のような疼きが走る。

 鏡面を挟んだ別の自分たちは怯えた眼差しを隠せず震えていた。

 

「恐れる必要はない」

 

 突然卿の声が周囲から陰々と響いた。

 卿本人はやはり視認できないが、回廊いっぱいに谺し続けている。

「この奥には君たちの美しいものを正当に評価してくれるものが在る。

 ……もっとも、其れを望むかどうかは君次第だがね」

 

 評価されるもの——

 それは命か名誉か肉体か。

 答えを探す暇もなく卿は笑い声だけを置いて去っていく。

 

 アスフィは唇を噛み締め、隣を見やった。

 ローリエの翡翠の瞳孔が夕暮れのように霞んでいる。

 それでも瞳の底には刃物めいた意思が光っていた。

 

「行きましょう」

 短い宣告を共有し、二人は再び鏡の回廊を進み始めた。

 ドレスの裾が床を掃き、足首から踝の輪郭が白く浮き出す。

 無数の鏡に囚われた彼女たちの姿は

 等身大の人形の軍勢のように増え続けていく。

 

 鏡は蜘蛛の巣を編むように、二人を捕らえた。

 

 無数の銀鏡が並ぶ回廊は、視線の檻であった。

 燭台の火が千の眼を持つ蛇のように這い回り、

 二人の女体を断片的に、そして過剰に照らし出す。

 アスフィは歩きながらも、周囲の鏡に囚われた自らの姿を認識していた。

 

 ──そこにいるのは、ワインレッドのドレスに包まれた別の自分だ。

 ──螺旋を描く銀糸が燈火を抱き込み、深海魚の鱗のように艶めいている。

 ──胸元ではFカップの双丘が重力に耐え切れず揺れ、

 布地が獣の臓腑のように脈動している。

 

 だがそれ以上に恐ろしいのは、

 鏡の中に映る自分の瞳が別人のように潤んでいることだ。

 メガネ越しに見える翡翠色の瞳は揺れ、唇は唾を拭うように微かに開閉している。

 その表情がどれほど男たちの欲情を煽るものか──想像すらしたくなかった。

 

 すぐ後ろを歩くローリエは別の鏡を見て顔を覆った。

 薄いアイボリーのドレスは雪花石膏のように清冽なのに、

 歩くたび裾が翻り、金糸が星座のように散る。

 金の三つ編みが肩胛骨を擦りながら揺れ、

 それに合わせて乳房が規則正しく上下する。

 呼吸のたびに布地が張り詰め、弛緩し──

 その変化が鏡にはっきり映り込んでしまうのだ。

 

 しかも今日のドレスは腰周りの布地が少なく、

 歩幅を合わせれば肋骨から尾てい骨まで一線で繋がる肉線が剥き出しになる。

 豊かな尻肉は振り子のように左右へ撥ね、

 裾下では太腿同士が擦れあう湿った音が聞こえそうなほど妖艶だった。

 

 だが二人を苛立たせるのは、

 その羞恥を楽しむかのように響く笑い声──ゼフィロス卿だ。

 

「美しいものを飾るために、鏡というものは生まれたのです」

 

 卿の声が壁に谺し、翡翠色の瞳が鏡面ごとに覗き込む。

 まるで複数の男に同時に舐められているような錯覚に陥り、

 アスフィは無意識に股の奥を強く締めた。

 

 ローリエもまた、背後から感じる熱い視線に肩を震わせる。

 金の三つ編みを握る指先が白くなるほど力が籠っていた。

 ──こんな所で怖じ気づいたら負けだ。

 ──この先に待つ「評価」とは何なのか。

 ──だが今は進むしかない。

 

 鏡の回廊の突き当たりには鉄製の重い扉があった。

 卿が開ければ、螺旋階段が奈落へ続くように続いている。

 上を見れば鏡は途切れ、代わりに燭台の火が遠く霞むばかりだ。

 

 階段を降りる──重力が新たに肉体を弄ぶ装置となる。

 

 一段降りるたび、アスフィの乳房が跳ねた。

 Fカップの質量が空中に踊り、布地の内側で乳首が擦れあう。

 まるで見えない手に掴まれ、揺さぶられているかのように。

 

 ローリエも同じだ。金の三つ編みが背中で跳ねるたび、

 尻肉が階段に接触し、その衝撃が腰全体に痺れを走らせる。

 ──こんなのおかしい。

 ──調査のつもりがいつの間にか奉仕させられてるみたいじゃないか。

 

 だが現実は残酷だった。

 卿の言葉通り、彼女たちはすでに「評価」されていた。

 無数の鏡の中で、彼女たちは娼婦のように振る舞い、

 男の視線を浴びながら甘い吐息を漏らしていた。

 

 そして階段の終わり──そこにあったのは豪奢で、どこか薄ら寒い扉。

 

 アスフィとローリエは互いに手を取り合った。

 汗ばんだ掌が絡み合い、太腿が密着する。

 震える息が混じり合い、甘い香りが室内に充満していく。

 

 卿が微笑む。

 

「さて──本日のメインディッシュはどちらでしょうか」

 

 重々しく扉が唸った。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 闇は、光の届かぬ場所で根を張る。

 

 オラリオ——世界の臍と呼ばれる迷宮都市。

 その地下に連なる巨大なダンジョンから湧き出る魔石と、

 それを狩る冒険者たちの血と汗が、地上の繁栄を支えてきた。

 ディオニュソス・ファミリア、アストレア・ファミリア、ソーマ・ファミリア——

 無数の派閥が覇を競い、神々は人間の戯曲に酒を酌み交わす。

 

 だが、太陽の照らさぬ深海には別の生態系があるように、

 オラリオを中心とした秩序の及ばぬ僻地には、全く異なる闇の潮流が流れ始めていた。

 

 都市国家ウェヌスの崩壊。

 北方の交易都市セルノの住民失踪事件。

 シャルザード王国北部三州を襲った疫禍と飢饉。

 

 公式記録はそれらを自然災害や内紛として扱うが、

 現場の者ならば鼻で嗤うだろう。

 ——あれは人為的だった。それも組織的で巧妙な工作だ、と。

 影で糸を操る黒幕——闇派閥。

 

 彼らはオラリオの武力や情報をも嘲るように動き回った。

 彼らの勢力範囲は拡大し続け、

 既に迷宮都市と同等かそれ以上の規模に達していた。

 

 そして今、そんな闇と手を結び得る者が——冒険者ギルドの中枢にいる。

 

 ゼフィロス卿。

 長い灰色の髭に翡翠色の瞳を湛えた初老のエルフ。

 ギルド幹部にして高位貴族の品格を纏う男だ。

 

 その身の奥底に流れる蛇のような冷徹さは、

 彼自身が最も得意とする交渉と陰謀という狩猟器具を通じて研ぎ澄まされていく。

 彼は巧みな言葉と計算された微笑みで自らの意図を巧みに隠し、

 目標へとじわじわと接近して、自らの思いのままに動かした。

 

 表向きは融和政策の推進者、隣国ワルサとの交渉代表。

 だがその裏で、

 彼は貧困に喘ぐ小国シャルザードの王政を傀儡にしようと画策した。

 結果、王女アリィを籠絡し王権を弄ぶという暴挙に及び、

 その弱みを握ることでギルド内での勢力拡大と自らの享楽を追求する。

 

 冒険者ギルドは当初、オラリオを中心とした秩序維持を目指していたが、

 ゼフィロス卿の策略により内部からの浸食が始まりつつあった。

 特に若い世代を中心に「革命的変革」を掲げる勢力が急速に勢力を伸ばしており、

 彼らの多くがゼフィロス卿やその支持者に共鳴していた。

 

 一方で、一部の神々や有力ファミリアは事態の深刻さを察知し始めている。

 ヘルメス・ファミリア団長アスフィ・アル・アンドロメダ。

 彼女は明晰な頭脳と情報網を駆使し、ゼフィロス卿の真の狙いを探ろうとしていた。

 アスフィの洞察力と冷静な判断力は確かなものであり、

 仲間たちからも信頼されている。

 

 そんな彼女の耳に届いた噂。

「ゼフィロス卿邸に出入りする影にガネーシャ・ファミリアの聖女アーディの姿あり」

 

 アーディ。

 人好きのする明朗さで知られる彼女がなぜ? 

 疑問を抱きながらも慎重に探りを入れていくうちに、

 遂に直接対決を命じられ、今宵に至ったのだ……

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 鏡は嘘を吐かない——と言うが、此処の鏡だけは嘘を吐き過ぎた。

 

 つい先程、無数の銀鏡が並ぶ回廊に踏み入れた瞬間から、

 アスフィは得体の知れない熱を皮膚の下に感じていた。

 最初は燭台の火のせいだと思った。

 だが、それは違った。

 鏡面に触れる視線という視線が、生き物のように彼女の肉体に這い回り、

 葡萄酒色のドレスの下に潜む秘密を炙り出す。

 

 Fカップの双丘は鏡の中で自在に揺さぶられ、

 布地の内側で乳首が自己主張を始める。

 吐息が熱を帯び始め、太腿の付け根が妙に痒い。

 ──違う。これは、罠だ。

 

「団長?」

 すぐ後ろのローリエが不安げに問い掛ける。

 彼女の方はもっと重症らしい。金色の三つ編みが揺れるたび、

 乳房が甘く弾み、息づかいが不規則になる。

 蒼い瞳には明らかな混乱の色が浮かんでいた。

 

「大丈夫……」

 そう答えようとした矢先だった。

 

 扉の向こう側から聞こえたのは——聞き慣れた声。

「やっぱり来たのね」

 

 アーディ・ヴァルマ。

 ガネーシャ・ファミリアの「聖女」と讃えられる彼女の声だ。

 その声には明らかに憔悴の色が滲んでいる。

 

 罠を悟ったアスフィは必死に己の意志を掻き集めた。

 ローリエと視線を交わす。翡翠の瞳孔に浮かぶ恐怖と、微かな期待が見て取れる。

 互いに頷き合う。

 ──もう引き返せない。

 

 扉を開けた。

 

 そこには確かにアーディがいた。

 けれどその姿は、二人の知る「聖女」とはあまりにも違って見えた。

 

 ワインレッドのドレスは捲れ上がり、むっちりとした太腿があらわになっている。

 陽光に似た笑顔は憂鬱に曇り、

 若草色の瞳は困惑と悦楽がないまぜになった感情を宿している。

 唇の端には僅かな涎が滲んでいた。

 

 そして何より——

 アーディ自身の指先が、自らのドレスの隙間に滑り込んでいた。

 

 ◆◆◆

 

 数年前のことだ。

 当時10代前半だったアーディは、

 冒険者ギルドの幹部——ゼフィロス卿とちょっとした会談を行う。迂闊にも単独で。

 グラスにはとある技術者より提供された薬が注がれていた。

 酩酊するアーディを介抱すると称して卿は自宅に連れ込み、そして——

 

 記憶は曖昧だが、体はすべてを覚えている。

 ドレスの内側で痙攣する肛門と膣。

 何度も指で貫かれた菊穴の熱と痒み。

 腟内の最奥で爪を立てられた疼き。

 耳元で囁かれた罵倒と嘲笑。

 そして何より、抵抗すればするほど逆らえなくなった絶望。

 

 ——なんで感じちゃうんだろう? 

 ——本当に気持ち悪いはずなのに……

 

 ◆◆◆

 

 今もそうだ。

 ドレスの下、女体に食い込む縄の感触が股の奥の疼きと共振する。

 汗ばんだ腋窩から立ち上る自らの体臭が媚薬のように作用する。

 縄に擦れる皮膚の痛みが脳内で甘い電流へ変わる。

 そして目の前には親友たるアスフィ……とローリエの顔がある。

 

 ——お願いだから助けて欲しい。

 ——けれど私ったらなんて浅ましい。

 ——これじゃまるで娼婦じゃない。

 

 

 懊悩の淵に沈むアーディを、ゼフィロス卿は嬲る。

 

 その手捌きは、絃楽器の調律を思わせる——

 張り詰めた弦を、僅かに、僅かに擽るように。

 ドレスの内側に忍ばせた指が、縄の食い込む位置を確かめ、

 その圧迫が皮膚に与える疼きを計算されているかのように増幅させていく。

 

「どうだねアーディ嬢。昔日の感覚が蘇るだろう?」

 

 卿の声は囁くようでいて、鋼糸の硬度を帯びている。

 アーディは唇を噛み締め、屈辱を堪えようと努める——が。

 その努力こそがさらなる拷問の燃料となってしまう。

 

 ドレスの襟元が微かに蠢く。

 彼女が無意識に己の乳首を抓ったせいだ。

 拒絶の意思とは裏腹に、肉体は過去の記憶をなぞり始めている。

 ——嫌だ。嫌だ。嫌なのに……! 

 

 視界の端でその変化を捉えたアスフィは、瞬時に理解した。

 眼前の惨状に対する憤怒よりも早く、

 自身の肉体に蔓延する奇妙な熱が思考を蝕んでくる。

 

「団長……」

 ローリエの声は震えていた。

 黄金の三つ編みを握る手が白くなるほど力を込めている。

 彼女もまた、鏡の罠によって強制発情させられたまま放置されていた。

 

「ふっ……ぅんッ……」

 

 アスフィの口から思わず漏れた嗚咽。

 それだけで下半身がひくつくのを抑えられない。

 マジックトラップの効果は絶大だ。

 理性で自制しようとするほど逆に敏感になっていく。

 

 ——ダメだ。ここで私が狼狽したらすべてが終わる。

 ——だが……

 

 ゼフィロス卿がゆっくりとアーディから身を離す。

 解放されたはずの少女は膝から崩れ落ちた。

 琥珀色のドレスは乱れ、

 透けて見える白肌には汗が玉となって浮かんでいる。

 

 鏡の回廊で仕組んだ罠を見逃した時点で既に詰んでいた。

 今のアスフィ達には何の策も講じられない。

 目線で促されたアーディが羞恥と恥辱で嗚咽しつつ、

 ゼフィロス卿の股間に繊手を伸ばしても見ているだけ。

 

 むしろその様に興奮してしまう。耐え難いほど女体が疼いてしまう。

 

 嗚呼——これ以上醜態を晒したら死にたくなる。

 けどどうしても身体が言う事を利かない。

 

 絶望と陶酔の狭間で歪む美貌。

 それを見下ろす卿の瞳は愉悦に濁っていた。

 

「さて諸君。準備は整ったようだ」

 そう言い放つ声さえ蜜のように粘ついている。

 

 このままではまずい。

 わかっていてもアスフィの股の奥はじんわり熱く滾っている。

 ローリエは啜り泣きながら腰砕けになっていた。

 救うべき友人を前に無力な自分に失望する。

 

 ——それでも。

 

「卿……っ!」

 

 乾いた喉を振り絞るように声を張り上げる。

 視線は定まらず虚ろだったが鋭かった。

 その瞬間アスフィはまだ抵抗出来るのだと信じたかった。

 

 だが返答は冷酷な宣告だった。

「安心したまえ。皆平等に愉しませてもらうからね」

 

 言い終えると同時に行灯の火が揺れ燃える。

 炎に浮かび上がるのはアーディの苦悶する顔だ。

 ドレスの裾が捲れ上がり白い太腿が露わになる。

 

 

 燭台の火が揺れたのは、風のせいではなかった。

 

 ゼフィロス卿が自らの外衣を解いた瞬間、

 室内の空気密度が変わった。

 燭焔が一斉に傾き、影が壁を這い回る。

 まるで、火さえもその「顕現」に畏敬を示したかのように。

 

 アスフィの瞳が、メガネの奥で微かに震えた。

 それは恐怖というより──生理的な違和感。

 或いは本能の警鐘。

 

 オークでもなければミノタウロスでもない。

 人間の男の股間から屹立する物体とは到底信じ難い造形。

 だが醜怪ではあるものの、凶悪なまでに雄として完成された曲線美があった。

 

 血管という血管が生き物のように脈打ち、亀頭の先端は牡鹿の角めいた鋭さ。

 根元は山岳のような逞しさを誇りながらも、先端に行くほどしなやかな弧を描く。

 まるで一つの芸術作品のように。

 

「これが……?」

 

 アスフィは絞り出すように呟いた。

 己の記憶と照合するが該当例は見当たらない。

 それは過去に遭遇したどんな魔物とも違い、

 生物としての完成度が桁違いだった。

 

 隣でローリエは喘ぐように唇を押さえた。

 金糸の三つ編みが揺れるたび耳まで真っ赤になる。

 いつも冷静沈着な彼女がここまで狼狽しているのは初めて見る光景だった。

 

 更に問題なのは──

 アーディである。

 地面に蹲ったまま呆然としていた彼女は、

 視線を奪われてしまっていた。

 

 恐怖と嫌悪のはずだ。

 なのに頬が緩み、瞳が潤んでいく。

 それはまるで初恋に戸惑う乙女のようでいて、

 どこか中毒患者を彷彿とさせる恍惚の色を宿している。

 

「アーディ……?」

 

 思わず声を掛けると、我に返ったように身体を震わせた。

 だが遅すぎた。

 アーディ自身も愕然としている。

 

 なぜなら──

 自身の股座から滴り落ちたもので太腿の内側を濡らしていたからだ。

 

 汗ではない。生理現象でもない。

 この場の誰もが理解していた。

 女の匂いがむんと立ちこめている。

 

 アスフィは愕然としながらも悟らされる。

 コレは女の尊厳を剥ぎ取りメスに堕とす悪魔の兵器だ。

 アーディが昔これを挿入された時に発狂しそうになった理由が判る。

 

 そしてマジックトラップにより強制的に雌化された

 ローリエやアスフィのメスとしての本能が今まさに沸騰寸前だという事実を。

 

「なんと恥知らずな……!」

 ローリエが嗄れた声で罵詈を絞り出した。

 しかしその声には怨嗟と共に羨望の色も混じる。

 

「ふふ……良い反応だ」

 

 ゼフィロス卿が低く笑った。

 翡翠色の瞳が爬虫類のように冷たく光る。

 その眼差しがアーディに向けられる。

 

 次の瞬間──

 

 アスフィとローリエは同時に動いた。

 それぞれの得物──杖と短剣に手を伸ばそうとするが。

 四肢がいうことをきかないのだ。

 体中の血液が沸騰しそうに煮えたぎるばかりで体を思うように動かせない。

 

 まるで麻痺した蛙のように跪く羽目になる。

 

 一方アーディは震える手を動かし──

 なんと自分でドレスの裾を捲り上げるではないか! 

 

「っ!?」

 

 アスフィの驚愕は計り知れなかった。

 あの天真爛漫な少女が自ら恥部を曝け出してしまった。

 そしてそのまま恐るべき雄槍に顔を寄せていき──

 

「馬鹿っ!! 正気に戻りなさい!!」

 

 叱咤するがもう遅かった。

 アーディは泣きそうな笑顔のまま両手でモノを優しく包み込む。

 指が絡みつき撫で摩るたび粘液が滲み出てくるのがわかる。

 

 鼻先にその先端を寄せ嗅ぎ始めた。

 

 アスフィとローリエは目眩と共に腰砕けになってしまう。

 女の肉体は敗北を認めてしまっている。

 どんな英知も勇気も通じない世界に連れて行かれそうだった。

 

 燭台の火が一滴の蝋を零した。

 

 その音すら室内に響かぬほど、

 アーディの口腔が肉棒を呑み込む水音が濃密に満ちていた。

 

「──ん、ぅ……んむっ」

 

 嗚咽と呼吸の境界が曖昧になる。喉奥を占領する剛直が歯茎を押し広げ、

 胃酸と粘液が入り混じった甘苦い芳香が逆流する。

 舌を絡め、頬を窄めるたびに溢れる唾液が顎を滴り、首筋へと筋を描く。

 

 アスフィは見ているだけで吐き気がした。

 ローリエは膝を抱えたまま唇を嚙み切り、血の味で自我を繋ぎ止めている。

 

 だが二人とも視線を逸らせない。

 逸らせば敗北だとわかっているからだ。

 

 アーディの双眸は焦点を失い、

 蜂蜜色の光彩に涙が溶け込んでいる。

 頬には羞恥と喜悦の紅潮が交互に閃き、

 睫毛の影が震えるたび涙珠が畳へ落ちた。

 

「美味しいかね?」

 

 ゼフィロス卿が囁く。

 その声音は甘露に漬け込んだ毒蜜のように艶めいていた。

 

 アーディは答えない。否、答えられない。

 代わりに頭を上下に振って示す。

 喉の奥で鈴の音のような摩擦音が奏でられ、

 卿の股間から滲み出る先走りが彼女の口角を濡らした。

 

 ぷくりと膨れた陰囊が彼女の下顎を打つ。

 その衝撃で思わず咳き込みかけた瞬間、

 卿の手が後頭部を押さえつけた。

 

「逃げるなよ。中途半端は興醒めだ」

 

 抑揚のない命令。

 同時に突き出された亀頭が咽頭弁を穿ち、

 アーディの瞳孔が水面のように揺らいだ。

 

 窒息の一歩手前。

 酸素の欠乏と嘔吐感が脊髄を駆け抜け、

 脳が白い火花を散らす。

 

 にもかかわらず──

 彼女の身体は痙攣と共鳴し始めた。

 

 胸元を締め上げる縄が乳房を圧迫し、

 布地に隠された乳首が痛いほど勃起する。

 肉襞が勝手に収縮し、ショーツを透過して蜜液が垂れ落ちる。

 

「ぐぅ……ぁ……ッ」

 

 呻きと共に涙が滴る。

 それは生理的な苦痛ではなく、

 被虐の快感が臨界を超え始めた証だった。

 

 アスフィは拳を握り潰した。

 指先に刻まれたペン跡が血で滲む。

 視界が霞むほどの興奮と自己嫌悪──

 脳内で薬毒のように渦巻くマジックトラップの副作用。

 

「助けて……」

 

 アーディの声にならない声が震えた。

 嗚咽と嗚咽の隙間から洩れた祈りにも似た切望。

 

 だが卿は聞く耳を持たない。

 右手を彼女の金髪へ埋め込みながら、左手で懐中時計を開く。

 

 秒針が刻む音が拷問の旋律となる。

 

「あと三十息(ブレス)だ」

 

 宣告と同時に抽送が加速した。

 咽喉が楽器のように淫靡な倍音を撒き散らし、

 床にぽたり、ぽたりと唾液と涙が斑点を作る。

 

 アスフィは呼吸を忘れた。

 ローリエは肩を震わせ嗚咽を堪えた。

 

 そして──

 

「──―っ!!!」

 

 秒針が二十を刻んだところでアーディの視界が白濁した。

 同時に爆ぜた熱塊が喉奥を灼き尽くす。

 粘稠な精液が食道を直撃し、逆流した泡が鼻梁から噴き上がった。

 

 肺と心臓が悲鳴をあげる。

 だが同時に脳内麻薬の大洪水が訪れる。

 

 疼痛と多幸が神経を灼き払い、

 身体は赦しを乞うように痙攣する。

 

「よく出来た」

 

 卿の指がアーディの顎を掬い上げる。

 吐息は白煙になり宙を漂い、

 潤んだ瞳は虚空に微笑みかけていた。

 

 幾度ともなく注がれ、習慣づけられた唇奉仕が

 自らの精神を瓦解させるトリガーだという自覚もないまま

 アーディは涙に濡れる瞳で嗤っていた。

 

 アスフィの胃の底がひっくり返る。

 ローリエは涙を拭う指も動かせない。

 

 だが──

 

 燭台の火はまだ熾っている。

 闇に潜む罠の罠──更なる饗宴の序章に過ぎないと告げるように。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「や、やめて……! ヤメなさいっアーディッ!!」

 

 絶叫が、月下香の粘性を持つ空気を引き裂いた。

 

 アスフィの声は普段の冷徹さを欠き、

 メガネの縁に掛かった汗が頬を伝い、顎先で震えていた。

 その視線の先で、かつての親友は踊っていた。

 いや──貪っていた。

 

 アーディ・ヴァルマ。

 陽光を纏う慈愛の化身と讃えられた少女は今、

 

「あ゛っ……っ♡ きもちぃ……っ♡」

 

 獣のように舌を垂らし、ゼフィロス卿の腰を跨いでいる。

 桜貝のような乳首が葡萄酒色のドレスの生地を破りそうに勃起し、

 Eカップの双丘が規則正しい律動で上下するたび、

 彼女の身体から立ち昇る蒸気のようなものが霧となって部屋に充満した。

 

 その腰の振り方は技巧も恥じらいもなく、ただ本能だけが操る野生の躍動だった。

 膝をM字に開き、自らの手でドレスの裾をめくり上げて結合部を露わにした姿は、

 快楽に溺れた人魚が陸上で泳ぎ方を忘れてしまったような惨烈ささえ孕んでいる。

 

「うそ……ッ」

 

 ローリエの声は掠れ、金の三つ編みが肩に落ちた。

 翠の瞳孔が収縮する。そこに映るのは、信じたくない光景だった。

 

 アーディの下腹部──そこには確かに彼女自身の指が這いずり回っていた。

 一人で自分を慰めるのではない。まるで卿の剛直を迎え入れる道案内をするように、

 指の腹で陰核を押し潰し、膣口を指で掻き混ぜ、自らを濡らしていく。

 

「……どうだねアスフィ嬢。友情とは斯様にも脆いものか」

 

 ゼフィロス卿の声は静謐だった。

 その眼差しは爬虫類のように冷たくアスフィを見据えながら、

 自らも腰を突き上げてアーディの痙攣を加速させている。

 

「貴様ッ……何をしたッ!? アーディに何をしたあああッ!!」

 

 アスフィは杖を探す手を空中に彷徨わせる。

 だが指先は震え、爪は自分の手の甲を抉りそうで抉らない。

 

 マジックトラップの残滓が体内を巡る。

 銀鏡の回廊で浴びた媚薬成分はまだ効いている。

 

 Fカップの谷間に滲む汗が冷たくもあり熱くもあって、

 自分でもどう足掻いていいか分からない混沌とした快楽が神経を焼く。

 理性の堤防が決壊寸前なのを感じながらも、アスフィは叫び続けた。

 

「正気に戻ってェ……ッ お願いだからぁあああアーディィッ!!」

 

 だが──届かない。

 もはや言葉は届かない領域にアーディはいた。

 

 卿の両手が彼女の細い腰骨を掴み、

 下から突き上げるたび、

 膣壁の襞々が吸盤のように吸いつき離れまいと蠕動するのが分かる。

 結合部からは溢れた蜜が淫靡な水音を奏で、

 その音に合わせてアーディは背筋を反らして啼いた。

 

「もっとぉ♡ 奥まで来てぇっ♡ 壊れちゃう……ッ♡」

 

 嗚咽は既に嬌声へと変わり、

 涙は悦びの雫として頬を流れ落ちる。

 

 ローリエは短剣を投げ捨てた。

 刃物を持っても無意味だと悟ってしまったからだ。

 今はただ、絞り出すように呟くしかない。

 

「こんな……こんなところを見たくなかった……」

 

 アスフィは奥歯を噛み砕かんばかりに力を込め、

 視界の隅で何かを掴もうとするが掴めない。

 杖でも助け舟でもいい。現実を変えられる何かが欲しい。

 

 しかし現実は残酷なまでに鮮明だった。

 卿の指先がアーディの項に這い回るたび彼女の身体は海老のように反り返り、

 その度に乳首が桜色から朱に変わり、

 ドレスの縁から零れる吐息は甘ったるい麝香を帯びて漂う。

 

 やがてゼフィロス卿が囁く。

 

「そろそろ迎え火を灯そうか──」

 

 瞬間、アスフィとローリエの耳朶を焦がす破裂音のような快楽が迸った。

 

「─────ッッ♡♡♡」

 

 声にならない絶叫。

 アーディの背骨が弓形を描き、

 全身の腱が張り詰める。

 

 膣内に射精された熱量が逆流し、

 蜜液と共に小さな花弁を撥ねさせて飛び散る。

 白濁とした液体が内腿を汚し、

 零れ落ちた雫が絨毯に新たな星座を描いた。

 

 崩れ落ちるアーディを抱き止めもせず、

 ゼフィロス卿は悠然と立ち上がり、

 汚濁の痕跡も顧みずに外套を翻す。

 

 そして嗤う。

 

「次は君達の番だよ」

 

 その宣言を聞いた途端、

 アスフィは意識の境界が霞んでいくのを感じた。

 視界の端でローリエが泣き崩れるのを見て最後の糸が千切れそうになる。

 

 ——ここで終わるわけにはいかない。

 ——絶対に終わらせない。

 

 だがその強い決意さえも、

 媚薬と恐怖と羞恥が綯い交ぜになった奔流の中へ吞み込まれていった。

 

 燭台の火だけが妙に晴朗な音を立てて燃え続けている。

 

 その橙光の輪の中で、

 惨劇とも悦楽ともつかぬ幕間が始まろうとしていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 燭台の火が三度、蝋を零した。

 

 その滴る音すら室内に届かぬほど、

 アスフィ・アル・アンドロメダの呼吸が荒かった。

 銀縁のメガネが燭光に灼かれ、

 その奥の涼しげな瞳が熱に潤んでいる。

 

「く……ぅ……」

 

 声はかすれ、喉の奥で硝子の欠片のように響く。

 唇の端からは唾液が一条、顎を伝って首筋へ。

 知性の仮面を脱ぎ棄てた女の顔がそこにあった。

 

 背後の鏡に映る自分の姿を見て、アスフィは再び身を竦ませた。

 

 紫紺のドレスは侍の陣羽織のように斜めに裂け、

 胸元の編み上げ紐は解けて下乳が露出している。

 Fカップの膨らみは湯気を立てた岩棚のように隆起し、

 桜色の乳首が固く尖っていた。

 

 それは最早「隠すべきもの」ではなく「誇るもの」であり、

 羞恥と陶酔が拮抗しながらも微妙なバランスで吊り合いを取っている。

 

「素晴らしい眺めだ……」

 

 背後からゼフィロス卿の声。

 蜘蛛の網に囚われた獲物を弄ぶような静かさだった。

 

 卿の指先がゆっくりと接近する。

 アスフィの肌が粟立ち、汗腺が蜜柑の汁のように滲み出す。

 距離にして肘から拳一つ分。

 触れるか触れないかの宙をさまよう指に、

 身体は待ち侘びたように熱を高めていった。

 

「やめ……っ」

 

 制止の声が出ない。代わりに出たのは熱い吐息のみ。

 

 卿の手がドレスの裾を摘む。

 鼠径部を覆っていた布地が捲れ上がり、

 透き通るような大腿が剥き出しとなった。

 薄桃色のショーツ一枚という無防備な格好。

 その薄布一枚の下で割れ目は湿り気を帯びており、

 恥丘が呼吸の度に上下するのが見て取れる。

 

「ここが……昂ぶりの源か」

 

 卿の人差し指がショーツの上から陰唇を探る。

 それだけで電流が脊髄を奔り抜け、

 アスフィは思わず膝を折った。

 

「ダメ……いや……触らないで……」

 

 懇願する言葉とは裏腹に身体は迎合的だ。

 指の動きに合わせて腰が前後に揺れ始めている。

 

 鏡の中の自分──乱れた髪と潤んだ瞳。

 かつて男に襲われた日の記憶が蘇る。

 8歳の時と同じ「獲物」になった自分がそこにいた。

 

「おお……震えているな」

 

 卿が嘲るように呟くと、

 ショーツの紐を指先で引く。

 布地が横に滑り、秘唇の綻びが露わになった。

 

 蜜が滴る。その量は異常だった。

 媚薬混じりのマジックトラップ効果に加えて

 親友の痴態を目撃したことによる精神的刺激。

 理性の枷が悉く外れようとしている証左だった。

 

 卿の親指が入口を撫でる。

 くちゅり……と粘膜が指に絡みつく淫音。

 

「あっ……!」

 

 喉の奥で断末魔の鳥のように鳴く。

 片手で乳房を押さえても無駄だ。

 指が食い込み、乳首が更に肥大化する。

 掌の中で柔肉が溶け合い、乳管が痙攣するように脈打った。

 

 卿は徐に立ち上がり、アスフィを壁際に押しやる。

 鏡との間に挟まれる形となり、

 文字通り正面から陵辱される視線と対峙した。

 

「逃げられないだろう?」

 

 その言葉を聞いて心臓が一段高く跳ねた。

 

 壁と鏡の冷たさに背中を預けながらも、

 体温は夏椿の花弁のように熱を帯びていく。

 開いた脚の間に卿の膝が割り込む。

 そのまま体重を掛けられると

 自然と尻が突き出され腰が反り返った。

 

「ひっ……ん……!」

 

 卿の指が膣口から指の第二関節ほど挿入される。

 浅いところを搔き毟られると蜜液が弾け、

 壁に貼りついた水玉となって拡散していく。

 

「中も外も潤沢だ……」

 

 煽るような台詞に腸が捩れる。

 悔恨と慾情が交叉し、アスフィは遂に泣き出した。

 

「もう……許して……」

 

 蚊の鳴くような懇願。しかしそれが却って油を注ぐ結果となる。

 

 卿の眼差しが獣のそれに変わり、

 股間の雄槍が再び硬化を始めたのを確認した瞬間──

 

 燭台の火が大きく揺れ、室内の影が吠えた。

 

 アスフィは瞼を閉じた。

 だがそのすぐ向こうで待つのは

 絶望か快楽か、自分でも判断できない沼であった。

 

 鏡の中に映る未来は、

 8年前に見た悪夢の続きなのか

 それとも全く新しい地獄なのか──

 

 どちらでも良かった。

 大切なのは一つだけ。

 

(負けたくない)

 

 その思いだけが最後の防壁として残っている。

 

 だがその防壁も今まさに轟音と共に崩れ落ちようとしていた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 燭台の火が、また一滴、零れた。

 

 その滴る音が、遥か昔の記憶を呼び覚ました。

 ──石造りの納戸。埃っぽい藁の匂い。背中を抉る粗末な板床。

 年長の世話役の下男が、幼いアスフィの口を塞いだ手の汗の臭い。

 

「いい匂いじゃないか、お嬢さん」

 そう言って嗤う男の声が脳裏に谺する。

 八歳の自分がどれほど悲鳴を上げても、誰も気づかない。

 代わりに聞こえたのは、不埒な歓喜の唸り声。

 

 鏡に映る自分の姿──乱れた紫紺のドレス。

 あれはまさに十数年前、汚れを知らないお姫様だった自分と寸分違わない。

 

「違う……私は……」

 

 否定の言葉を紡ごうとしても、喉が塞がれる。

 ゼフィロス卿の指が喉元を撫でるたび、あの時の感触が甦る。

 男の指が滑るように肌を辿り、

 無慈悲に衣服を剥いでいく手順を追っているかのようだった。

 

「や……いや……ッ」

 

 震える声が漏れる。

 これは恐怖ではなく──誘惑。

 

 過去に教え込まれた惨劇が、今は甘美な予兆に変わって身体を苛む。

 Fカップの乳房が疼き、乳首が悲鳴のように屹立する。

 桜色の突起を自らの掌で押さえるも無駄だ。

 指の隙間から零れる桃色の肉塊が鏡の中で淫靡な影を落とす。

 

「おや、もう出来上がっているのか?」

 

 卿の声が囁くように耳殻を擽る。

 それは挑発であり共犯の囁きだった。

 

 18年の時を経て封印したはずの痛み。

 いや、正確には「快楽」かもしれない。

 レイプという名の凌辱の中で感じた禁忌の悦びが

 今は媚薬となって皮膚の下を流れていた。

 

「そんな筈が……ッ」

 

 必死で抗おうとしても身体は正直だ。

 割れ目から蜜が滴り落ち、

 絨毯に咲くのは恥辱の花紋。

 

 卿の指が再びショーツの薄布を探り始める。

 ゆっくりと入口をなぞり、少しずつ浸食するように進入してきた。

 

「っん……!」

 

 思わず声が洩れる。

 それは痛苦ではなく官能の疼きだった。

 

 鏡の中の自分が歪んだ唇で笑っている。

 これ以上無い程惨めに見えながらも

 同時にこれ以上無いほど色情的に見える矛盾。

 

 背後で卿の剛直が硬度を取り戻していることに気づく。

 その質量の記憶が胎内を擽る。

 かつて下男が自分に入れた時のように

 いやそれを遥かに超える圧倒的存在感が近づいてくる。

 

「待って……本当に……」

 

 声は泣訴なのか誘いなのか区別がつかない。

 どちらにせよその瞬間が訪れることは確定しており

 それだけが唯一確かだった。

 

 燭台の炎が踊り狂い

 鏡に映る自分の姿が蜃気楼のように揺らめく。

 

 十年を超えた恥辱の記憶が

 再び上書き保存される運命を迎えた瞬間──

 

 ゼフィロス卿の低く嘲笑うような吐息と共に世界は暗転した。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 燭台の火が、四度目の蝋を零した。

 

 その瞬間、アスフィ・アル・アンドロメダの世界は軸を失った。

 

「──ぁ、がっ……!」

 

 背後からゼフィロス卿の両手が膝裏を掬い上げる。身体が浮遊する。視界が傾く。

 次の瞬間、巨大な楔が蜜に塗れた秘裂を割り砕いていた。

 

「ひっ……あ゛っ──―!」

 

 悲鳴は咆哮のように迸った。

 Fカップの乳房が重力を帯びて揺れる。

 メガネは床に転がり、水色の髪が振り乱れる。

 鏡の前に晒された背面立位──足をM字に抱え上げられ、

 秘所はアーディの眼前に無防備に開帳されている。

 

「やめ……てッ……アーディ、見るな……!」

 

 声は涙と涎で喉の奥を擦る。だが親友は応えない。

 絨毯に伏した彼女の肩が微かに震えるのみ。

 それでも琥珀色の瞳はしっかりと開き、

 裸身を貫かれる友の姿を見据えている。

 

 ゼフィロス卿の剛直は蛇のように

 蜿蜒と蠢きながらも断崖絶壁のような硬度を維持していた。

 膣口は押し広げられる都度悲鳴を上げる──けれどそれは苦悶だけではない。

 下男に無理矢理教え込まれた官能の記憶が背筋を伝い上がって来る。

 子宮口を叩く衝撃が頭蓋まで共鳴し、脳髄の奥で火花が散った。

 

「すご……い……」

 

 思わず零れる呟きに我が耳を疑う。

 言葉という言葉がすべて理性の檻を蹴破ってしまう。

 

 卿の右手が自由になり、その掌が乳房を掴み上げた。

 

「ん゛ッ──!」

 

 乳首が根元から捻られ、白い肌に痛々しい痣が刻まれる。

 にもかかわらず、それは甘美な電流となって下半身へ疾走した。

 蜜壺が更に締まり、肉棒を離すまいと絡みつく。

 羞恥と快楽が同一線上に並び立ち、

 アスフィの精神は平衡を失って天秤ごと墜落する。

 

「おいおい、少し締め付け過ぎだぞ」

 

 卿が嘲るように腰を抉る。

 角度を変えながら弱点を試すように探る抽送。

 鏡越しに自分の顔を見る。

 頬は涙と汗と涎で爛れ、

 瞳は虚ろながらも奥底では快楽を貪っている。

 そんな醜態を見つめながら思考が融ける。

 

(これが私の“才能”……?)

 

 理知で積み上げた城が砂に還るように崩れ行く音がした。

 

 突如として卿はアスフィの腰を持ち替えた。

 膝裏を解放し、代わりに両腕で腋下を固定する。

 Vの字に開脚させられた身体が

 磔刑にされた聖女のごとく宙へ掲げられる。

 

「あ……ぁ……!」

 

 姿勢が変わったことで深度も変わる。

 猛禽が餌を啄むように最奥を穿たれる。

 膀胱の裏側が指先で弾かれるごとく熱を帯びた。

 

「お姫様抱っこだ。悪くはないだろう?」

 

 冗談めかした声と共に再度激しく突き上げる。

 結合部から溢れた蜜液が弧を描いて絨毯へ散った。

 

 その飛沫の向こう側でアーディが啜り泣き始めた。

「ごめんなさい……私……」

 

 謝罪の言葉。しかし身体は相反している。

 弛緩しきった表情で自ら秘所を撫でている。

 零れる蜜が彼女の指を光らせ、

 親指と人差し指の間で銀糸を引いた。

 

 ローリエはもう顔を上げられない。

 床に額を擦り付け、短い三つ編みだけが左右に揺れる。

 しかし耳朶が真っ赤だ。恐らく目は閉じていない。

 

(みんな……見られている……)

 

 そんな現実認識がまた官能の燃料となった。

 卿の雄槍が律動を増すたび脳髄に白い稲妻が駆け抜ける。

 

「もう……やめてぇっ……!」

 

 言葉は懇願だが声色は淫楽の色で澱んでいる。

 もはや誰も信じてくれないだろう。

 

(終わりたくない──終われない)

 

 そう思った瞬間、背骨を凍てつく悪寒が走った。

 これは懐かしい恐怖だ。

 8歳の時、下男に初めて犯されたときに感じた

 自己喪失の恐怖と同じであることを悟る。

 

 しかし恐怖の中心には必ず愉悦が潜んでいた。

 この男が教えてくれたのは恐怖と同居する快感だった。

 それを証明するかのように子宮口が

 肉棒の亀頭を待ち焦がれるように開閉している。

 

「逝け──」

 

 耳元で低く囁かれる。

 次の瞬間、世界は純白の焔に包まれた。

 

「~~~~ッ!!!」

 

 声帯が裂けるほどの絶叫。

 鏡に写る自分の顔面が崩壊する刹那。

 膣内射精の熱流が奔騰し、

 アスフィの人生最大の屈辱と快楽が同時爆発した。

 

 どくん……どくん……

 脈動が続く間、アスフィは喉の奥で鳥のような啼き声を続けた。

 脚が意思とは無関係に痙攣し、

 つま先が何度も宙を掻いた。

 

 ようやく地面に降ろされたとき、

 彼女は何度も嘔吐しようとしては胃液しか出てこなかった。

 

「あは……あはは……」

 

 乾いた笑い声。

 理性の最後の一片が吹き飛んだ証。

 

 横目で見ればアーディも自慰で達したらしく、

 絨毯に横たわって放心している。

 ローリエは震えながら顔を上げず、

 ただ嗚咽だけが続いている。

 

 ゼフィロス卿は衣服の乱れも直さずに踵を返す。

「さて──次は誰を選ぶべきかね」

 

 その背中に向けてアスフィが嗄れ声で言った。

「私が……まだ終わっていない……」

 

 卿は立ち止まり、冷ややかに笑う。

「ほう? ならば提案しよう。

 君と──そこで泣いている金髪の娘と、

 ついでに床に這う銀髪の少女。

 三人纏めて玩具箱に入れてやろう」

 

 その宣告にアスフィは理解した。

 自分達はすでに彼の所有物なのだということを。

 けれど奇妙なことに──膨らみは再び疼き始めていた。

 ◆◆◆

 

 燭台の火が五度目の蝋を零した。

 

 その滴る音が、まるで沙時計の最後の一粒のように、

 ローリエ・スワルの耳朶を擽った。

 

「いやぁっ!! はなっ、離せぇっ!?」

 

 絶叫は琵琶の弦を逆撫でしたような不協和音で、

 静寂という名の牢獄を突き破る。

 

 ゼフィロス卿の両手が金髪を梳くように髪の房を掴み、

 抵抗を嘲笑うかのようにゆっくりと身体を畳みこんで来た。

 

「暴れても良いのだよ? むしろそのほうが楽しめる」

 

 卿の声は温んだワインのように重く淀んでいる。

 大理石の床に押し倒されたローリエの背中は

 霜柱に叩きつけられた小鳥のように震えていた。

 

 両膝が引き裂かれるように開かれる。

 旅芸人に奪われた夜以来ずっと閉じていた扉が

 再び無理矢理こじ開けられようとしている。

 

「や……嫌……嫌だっ……」

 

 かつての記憶が潮のように押し寄せて来る。

 13歳の自分。

 祭りの喧噪に紛れて連れ込まれた狭い物置。

 旅芸人の男の脂ぎった腕が鎖帷子のように巻きつき

 裂帛の叫びも紙糊の如く剝ぎ取られた一夜。

 

 あの時と同じ熱い呼気が頬を撫でる。

「悪い夢は大人になっても醒めないらしいな」

 

 卿は嗤う。

 長い睫毛に覆われた翡翠色の瞳が恐怖に曇る。

 涙が眦を伝い落ち、大理石の表面で宝石のように輝いた。

 

 抵抗を示すために伸ばした爪は

 卿の革製グローブに阻まれ、かえって己の指先を痛めた。

 その痛みが心臓に直接届く。

 

「お願い……やめて……っ」

 

 祈りの言葉は掠れて潰れる。

 下腹に掌が触れた瞬間、全身が痙攣した。

 恐怖と別の熱が交差し始める。

 なぜならかつて植え付けられた

 忌まわしき樹木が蠢いているからだ。

 

 卿の人差し指がショーツの縁をなぞる。

 ほんの少しずつ布地を捲り上げていき

 柔らかな恥毛が顔を出す。

「見ないで……!」

 

 掠れた声に応えは無い。

 かわりに吐息がかかり、花弁が震える。

 

 卿は舐めるように丁寧に時間をかける。

 まるで枯山水の庭園に苔を移植する職人のごとく慎重に。

 ローリエの拒絶が徐々に掠れていくのを楽しみながら。

 

「ひっ……っ」

 

 震える身体の奥で、否定できない熱が立ち昇る。

 無理矢理広げられた股の間から

 透明な蜜が一滴、また一滴と零れ落ちる。

 

「おやおや。嫌と言っている割には準備完了らしい」

 

 卿が指を一閃するとショーツは破けた。

 露わになった秘所が夜風を孕んで震える。

 

 卿の掌が腰を固定し、

 剛直が狙いすまして突進してきた。

 

「っが──―!」

 

 雷槌が胎内を殴りつけたかのような衝撃。

 あまりの圧力に肺腑の空気が搾り出される。

 押し込まれるたび視界が点滅し、

 金の髪が撥ねて火花のように舞った。

 

「やだ……やだぁっ……!」

 

 叫ぶ声はもはや涙声でない。

 喉を裂く咆哮に変わり果てている。

 

 だが卿は一寸たりとも速度を緩めない。

 技巧を凝らした小技ではなく、

 原始的な凶器そのものを用いた蹂躙が始まる。

 

 一突きごとにエルフ特有の繊細な腰骨が軋み

 長身の躯体が弓のようにしなる。

 

 遠くでアスフィが呻吟する声が聞こえる。

 アーディは自らの口を手で塞ぎ嗚咽を堪えている。

 二人とも助けに入れず傍観するしかない絶望感が

 ローリエの孤立感を助長する。

 

(もう誰も救ってくれない──)

 

 そんな確信が胸中を占拠した途端、

 

「んんっ……!」

 

 今まで感じたことのない熱が下腹を渦巻いた。

 トラウマという名の氷結湖の底で眠っていた

 生殖本能の焔が酸素を得て燃え上がっている。

 

 卿の抽送が深くなるたび視界が眩む。

 嫌悪と快感が綯い交ぜになり

 意識の境界が曖昧になる。

 

「おかしい……はずなのに……っ」

 

 震える声。

 腰は逃れようとしながらも

 微妙に前へ突き出していることに気づく。

 

 卿は嗤った。

「身体は嘘をつけない」

 

 そう言い捨てると再び剛直を引き抜き

 ほぼ垂直に上から下へ杭打つように落とし込んだ。

 

「ひぃっ──!」

 

 声というより悲鳴。

 そして甘い。

 

 乳房が重力と衝撃に耐えかねて上下し

 桜貝のように小ぶりな乳首が硬く尖って

 衣服を透過し始めた。

 

 卿の左手がそこを捕える。

「っんん!」

 

 唇を噛もうとするも叶わない。

 下から上へ刮ぐように引っ張り上げられ

 脳天に鋭利な快感が疾走した。

 

 蜜窟が反射的に窄まり

 入り込んだ肉棒を呑み込むように搾り上げる。

 

「……よく締まる」

 

 囁きは冷笑的。

 しかし確実な賞賛でもあった。

 

 卿は一旦動作を停止したかと思えば

 耳介に舌を沿わせるように低い声で囁いた。

 

「お前を昔嬲った男はどうだった? 

 さっきまでの私と比べてどんな具合だった?」

 

 問われた瞬間記憶の扉が弾ける。

 あの時と同じ痛みも一緒くたになって押し寄せ

 ローリエは我慢できず涙を零した。

 

 

 

「今のほうが……ッ……悔しいのに……こわいくらい感じる……!」

 

 自分で吐いた言葉に愕然とする。

 羞恥が脳髄を灼き尽くす。

 

 だが次の瞬間卿の腰がまた動き出し

 容赦なく核心を突いた。

 

「ん゛──―っ!」

 

 脳内で閃光が炸裂。

 呼吸ができず眼球だけが上転する。

 

 卿は面白そうに肩をすくめながら

 一定のリズムで突き上げ続けた。

 それが死刑執行人の振り下ろす斧のように規則正しい。

 

 絶頂の淵へと導かれながらも

 ローリエは最後の矜恃で顔を背ける。

 しかし覗き見た鏡像は

 瞳の奥底に喜悦の火を宿していた。

 

「いくっ……!」

 

 唇から零れた言葉とほぼ同時に

 胎内の熱が爆ぜた。

 

 白い奔流が子宮を叩きつけ

 全身を針で突き刺すような快感が襲う。

 

 腰椎が断裂しそうな弓形となり

 爪先が痙攣のまま空中を泳いだ。

 

 卿は容赦なく最後の一滴まで注ぎ込むと

 ようやく巨躯を離した。

 

 崩れ落ちたローリエは

 麻痺した四肢を床に投げ出して喘ぐ。

 

 頬は涙と汗で化粧が剥げ落ち

 唇は充血して珊瑚のように朱い。

 けれど瞳の奥は焦点が合わず虚空を見ていた。

 

「可愛い顔だ」

 

 ゼフィロス卿が背後から覆いかぶさるように覗き込む。

「次は──一緒にどうする?」

 

 振り返るとアスフィとアーディもまた

 同じ輪の中で息を弾ませていた。

 

 アスフィは膝を抱えて俯き

 アーディは茫然と虚空を見ている。

 三人とも敗北の烙印を捺された捕虜のように

 床に座り込んでいた。

 

 ローリエはぼんやりと考える。

 これから何が起こるのか。

 何をしてしまうのか。

 

 想像しようとすればするほど

 下腹部で渦巻く疼きが促してくる答えがあった。

 

(もう二度と戻れない──)

 

 絶望でも諦念でもない。

 不可避の事実を認めざるを得ない悟り。

 燭台の火が六度目の蝋を零す音を聞きながら

 ローリエは自嘲ぎみに微苦笑した。

 ◆◆◆

 

 

 車輪の軋みが脊椎を伝う。

 舷窓から差し込む夕光は琥珀の蜜のように濃く、

 三人の女たちの肌に焼き付く。

 

 ローリエが膝を抱える。

 濡れた太腿に夕陽が照り返り

 忘れられぬ屈辱がまだ体内で脈打っているのか

 小さな肩が絶えず痙攣していた。

 

 アスフィは黙考する。

 指先で己の唇を押さえながら。

 そこには歯形が残っている。痛みも残る。

 だが同時に熱も。羞恥に代わる陶酔が。

 

 アーディが俯いたまま零す。

「やっぱり私……間違ってたよね……?」

 

 問いは宙を彷徨うが答えは帰らない。

 

 

(そうだ)

 アスフィは思う。

(我々はまだ囚われたままだ)

 

 ◇

 

 車内に戻る前──外廊下で卿はアスフィへ囁いていた。

「次に私の前に立ちはだかったときも

 同じような結果になると心得ておくといい」

 

 怒号のように湧き上がる感情。

 しかしその激情は同時に沸き立つ快楽と共存していた。

 この相反する感情の共演にアスフィ自身戸惑いを隠せない。

 

(私は──どうなってしまったのか)

 

 ◇

 

 馬車は大河の鉄橋を越える。

 欄干に掛けられた鎖が風に鳴り

 橋桁を叩く水流の音が耳を劈く。

 

 それはまるで警告の鼓動のように響く。

(立ち止まるな) (進め)

(堕ちろ)

 アスフィは瞑目し考える。

 次に挑む機会はいつ訪れる? 

 またしても敗北し穢されるのだろうか? 

 

 だが皮肉にも──彼女の乳房は呼吸と共に上下し

 谷間を伝う汗が滑り落ちるたび

 新たな疼きが産声を上げ続けていた。

 

 馬車は夜へ走る。

 星のない漆黒へ。

 誰ひとり抗うことのできぬ深淵へ。

 

 三人の女は各々の想いを抱え

 沈黙のまま次の舞台へ運搬されてゆく。

 敗北の美学に染まりながら。

 

 

 

更新希望の原作

  • 魔弾の王
  • 落第騎士
  • ハイスクールD×D
  • 月姫
  • モブせか
  • マジエク
  • のんびり農家
  • 新妹魔王
  • 八男
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