※この作品はR-18です。

ダークエロよろず短編集   作:カード読み込み

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カサンドラの淫夢

 

 

 ──これは夢だ。

 カサンドラは本能的に悟っていた。

 目の前の光景があまりに非現実的だったからだ。

 

 だが、いつもの明晰夢のような冷めた自我はない。

 身体の奥底から沸き上がる恐怖が、理性を押し潰していく。

 

 螺旋階段は終わりを見せなかった。

 大理石の壁は純白だったはずなのに、今は血と汚泥で濁り、

 黒い蔦のようなものが這いまわっている。

 天井からは幾本もの鎖がぶら下がり、先端には銀色の枷が鈍く光っていた。

 

 そして彼女の背後からは、ゆっくりと迫る重い足音があった。

 

「来ないで……!」

 

 必死に駆け上がるが、踵が階段を踏み損ねるたびに身体が傾く。

 いつもは慎重に選んで歩く道さえ、今日はうまく進めない。

 

 そのとき。

 

 壁の隙間から伸びてきた腕──いや、それはもう人の形をしていない。

 骨と肉が不自然に融合した怪物のそれが、カサンドラの足首を掴んだ。

 

「きゃああっ!?」

 

 バランスを崩し、階段を転げ落ちていく。

 衝撃とともに全身を襲う痛み。肺から絞り出すような息が漏れた。

 

 しかし彼女が受け止めたのは堅い大理石ではない。

 湿り気を帯びた何か柔らかく腐敗臭のする物体の上だった。

 

「……まさか」

 

 恐る恐る見てみると、そこには人が、否──

 かつて人だったモノが存在していた痕跡が散乱していた。

 半ば溶けかけた白衣の断片と、無数の仮面の破片。

 そしてその中心には。

 

 巨大な純白の獣が蠢いていた。

 ミノタウロスだ。ただし常識を逸脱した大きさだった。

 四メートルはあろうかという巨躯に、岩塊のような四肢。

 そして何より異様なのはその眼──。

 深淵のごとき虚無を湛えた双眸がじっとカサンドラを見据える。

 

『カサンドラ』

 

 低い唸り声のような響きが鼓膜ではなく直接精神に侵蝕してきた。

 逃げるしかないと思った刹那。

 ミノタウロスの尾が鞭のように振るわれた。

 避けようもなく腹部に叩きつけられ、地面に叩き伏せられる。

 

「ぐぅっ……!」

 

 肺の中の空気が全部抜けてしまった。

 喉の奥で鉄錆の匂いを感じながらも体勢を立て直すべく肘をつくが、

 今度は別の方向から同じ呻き声が聞こえてきた。

 

 一人ではない。二人、三匹……

 

 四方八方に群れをなす彼らを見てようやく理解する。

 ここが自分専用の牢獄であり餌場なのだということを。

 

 そして最も危惧すべきことがあった。

 これから行われるのは単なる捕食行為ではないという予感。

 

 

 ──そこで初めて気づいた。

 

 衣服が所々破れ、悩ましくもいやらしい女体が露出している。

 しかもそれだけでなく己の両乳房は大きく形を変え、眼前で盛り上がっていた。

 

「や……め……っ」

 

 掠れた抗議の声すら、湿り気を孕んだ吐息に吸い込まれる。

 首筋に這い上がる剛毛の触感に反射的に仰け反ると、白磁の鎖骨がくっきりと浮かんだ。

 

 ──なんて淫靡な眺めだろう? 

 

 カサンドラ自身ですら思った。

 月下の湖面さながらなめらかな肌はすでに桃色を帯び、

 ところどころ滲む汗が水晶のように煌いている。

 それでいて乳房は変わらず瑞々しい。

 もっちりと掌を受け止めながらも内側では花芽が疼き始めており、

 布の切れ目から零れる乳首は幼蕾のように固く尖っている。

 

 一頭が低く唸ると同時に爪立った指が絡みついた。

 鋭利な指先は巧みな愛撫へと変わり、乳房の麓から頂へ徐々に這い昇る。

 途端に電流が奔り抜け、カサンドラは思わず喉を仰け反らせた。

 

「ひぃ──っ!?」

 

 嬌声と言うには哀悶が混ざりすぎて、惨憺たるものだった。

 それでも媚薬めいた刺激は増すばかりで、さらにもう一頭が脇から滑り込む。

 逞しい腕が腰を抑え込み、厚ぼったい掌が下腹部を揉み解す。

 ぬちゃりとした唾液が肌を渡り、熱源のように粟立っていく。

 

 カサンドラは必死に抵抗した。

 細い腕を伸ばし角を払い除けようと試みるものの力差は天地の隔たりだ。

 逆にその動作が新たな遊びを呼び寄せ、更なる肢体の露出を招く結果となった。

 

「あ……あぁ──っ」

 

 ふわりと風を孕む絹糸の如き髪が翻り、黒曜石色の瞳は混乱と羞恥で霞んでいる。

 唇を噛んで堪えようとする表情は見る者すべてを昂らせた。

 なぜならその姿こそ彼女という素材が

 本来秘めていた魔性が剥き出しになった瞬間だったからだ。

 

「助……け──」

 

 声にならない願いが虚空に溶ける。

 遠くから雷光が迸り、地下室全体を青白く照らす度に彼女の裸体は露わとなり──

 

 

 

 

 蒼穹の雷石が脈打つ地下室に、女の嗚咽が響いた。

 

「……いや……やめ——ひっ……!」

 

 細い指先が必死に大理石を掴むも、膝から力が抜けていく。

 砕けた裾からは陶磁のような脚線が零れ、

 艶めく太腿の間に黒い草摺りが擦れるたび、湿った音が耳朶を灼いた。

 

 周囲を取り囲む眷属ミノタウロスたちは、

 捕食者の愉悦を煮詰めた青い眼を爛々と光らせる。

 角の根元に咲く蒼雷石が閃光を刻むごとに、彼らの呼気が熱気となって渦巻く。

 

 一頭がのし掛かった。

 

 その鼻面が鎖骨に触れる寸前、カサンドラの胸部装甲——

 否、“彼女”を象徴する凶悪な質量が弓なりに跳ね上がる。 

 重力を嘲笑う球型の峰は、

 ひと房ずつ手榴弾ほどの密度を持ちながら柔肌をしなやかに収束させ、

 谷間で滴る汗を星屑のように撒き散らす。

 ミノタウロスの巨掌がそれに埋没すれば、

 肉沼の海は波紋を拡げて呑み込み、なお溢れる肉量が指股を弾き返した。

 暴力的なまでの張りと、嘘のように沈み込む弾力が共棲する矛盾——

 まさに“蹂躙されることで完成する器官”。

 

「あ……んんぅっ!!」

 

 嗚咽なのか喘ぎなのか判別のつかぬ声が咽喉を貫き、白い首筋を曝け出す。

 同時に胴を捻る仕草が、キュッと括れた腰へ躍動を与え、燕脂のスカートを捲り上げた。 

 薄明かりのなか躍り出た尻たぶは“熟れてなお未完”の禁断果実。

 厚い肉襞が蝶番の如く寄り添い合い、僅かな動きで肉畝が隆起し、

 むち♡むち♡と甘美な残響が脳髄を酔わせる。

 

 ミノタウロスは嗅ぎつけた蜜に舌を伸ばす猿のごとく牙を立て——

 歯形ではなく感触のみで焼き印をつけた。

 薄氷の皮膚に赤い朱筆が刷られるたび、

 カサンドラの涙腺は決壊し、睫毛に乗る雫が宙に散る。

 

「だめ……見ないでぇ……っ!」

 

 嗚咽と涙は羞恥だけでは塗り込めない。

 羞恥の下層には常に等量の甘露が潜むとでも言うのか——

 或いは彼女自身の宿業か。

 淫夢という舞台装置が奏でる因果律が、

 カサンドラの肉悦を底知らぬ沼へ沈めてゆく。

 

「ぐるる……」

 

 二頭目が背後に回り込み、太い喉を震わせ嘶いた。

 肩胛骨の窪みへ割り込んだ鼻面がそのまま首筋を探り、

 襟足をべったり舐め上げる。湿った舌が皮膚を叩き、

 脊柱を伝って腰椎へ痺れが降る。

 途端に太腿の内側が痙攣し、

 艶々と光る大腿直筋が蛇行しながら波打つ——

 そこに紛れもない生理反応が生まれていた。

 

 カサンドラは悟る。

 これは罰だ。

 救えなかった人々。届かなかった言葉。 

 その帳簿が今ここで贖金を求めている。

 ならば捧げよう——己が最たる偶像たる肉身を。

 

「ひぐっ……! いやだぁ……奪わないで……私の全部……!!」

 

 その宣言こそが檻を開ける鍵となった。

 青い巨人たちが吼え、蒼雷石が一斉に脈動する。

 室内を薙ぎ払う稲妻の奔流。

 眩暈のごとき光が収束した瞬間、

 カサンドラの白皙は斑模様の火花で飾られていた。 

 まるで天空が落とした百合の痣——

 だがその下にあるものは処女性ではない。

 

「あ……あぁ———ッ!!!」

 

 最後に漏れた絶叫は喜悦と慟哭の渾沌。

 膨大な肉杭が同時に突き入れられる錯覚。

 いや、“実際の挿入”など不要であったのかもしれない。

 夢という虚構は現実よりも精妙に欲望の器を形取り、

 飽和量の快楽信号を送り込むことができる。

 雷鳴の中に閉じ籠められたカサンドラは

 己の胎内で閃光が炸裂するのを見た。

 視界が白光に溶け去り———

 

 †

 

 ——そして目覚める。

 頬を濡らす滂沱の涙と、荒い呼吸が現実を告げていた。

 額を押さえて起き上がると、汗ばんだ指先に粘りつく粘液があった。

 夜具の上で歪む細身の輪郭。

 胸元では依然として豊穣な双丘が上下し、

 呼吸のたびにぷるん♡ ぷるん♡ と無垢な音を立てるかのよう。

 

 カサンドラは枕を抱きしめ、か細く問いかける。

 

「また……あの夢なの……?」

 

 答える者はいない。

 けれど彼女の乳房の奥深く——

 雷撃の残滓のような熱が、再び静かに蠢き始めていた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……ねぇカサンドラ。大丈夫?」

 

 扉越しに響くダフネの声音は、いつものように短調で乾いていた。

 けれどその中に確かに含まれる温かさ——

 それが今のカサンドラには刃物のように沁みる。

 

「……ありがと。すぐ行くね……」

 

 掠れた返事を置き土産にして寝台を離れると、

 鏡に映る自分がいた。

 

 ──酷く淫らな私。

 

 乱れた髪を指で梳けば、

 昨夜の夢の香りが蘇りそうで慌てて櫛を入れ替えた。

 胸当てを締めるだけで乳房がたゆん♡と揺れるたび、

 背後の闇から嗤うような吐息が聞こえた気がする。

 

 廊下を歩いてゆく。

 一歩踏み出すたびに臀部が円を描き、

 袴の布を含む摩擦音が小さな福音となって靴音に重なる。

 そんな些細な生音にさえ羞恥を覚え、

 歩幅を狭めるたびに腰が前傾して

 却って煽情的な猫背になってしまうのが悔しい。

 

「おはようございます。カサンドラさん」

 

 門の前で槍を洗っていた団員が微笑んだ。

 深い翡翠の瞳がこちらを射抜く──瞬間、

 

(駄目! 胸を見ないで……!)

 

 咄嗟に腕を交差させて乳房を庇うと、

 傍にいたリッソスの視線が面白おかしげに細まった。

 

「ほう……今日も可愛らしいなぁ巫女殿? 

 朝から恥じらいの舞ですか?」

 

 揶揄いとも賞賛ともつかぬ言葉を投げて通りすぎる。

 その背中すらも炎上する網膜に変貌し、

 カサンドラの頬が一気に薔薇色へと蒸騰した。

 

 ──どうして?

 昨日までは普通に受け答えできていたのに……! 

 

 夢は終わったはず。なのに身体中の淫熱は醒め切らないまま燻っている。

 呼吸をするたび乳房が上下し、

 鎧の裏地と擦れるたびに微弱な電流が脳髄を叩いた。

 こうして歩いているだけでも

 何十人もの目線が纏わりつき、舐め回すようで堪らない。

 

「待たせてごめんね……ダフネちゃん」

 

 庭園の大樹の下。彼女の無造作な栗髪が朝日を反射している。

 ダフネは気配に気づくと本から目を離し、眉根を寄せた。

 

「遅い」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 反射的に謝ると、ダフネは溜息を一つ。

 それからじろりと睨む──瞳の奥に揺らぐ苛立ちの火。

 

「謝るのが癖になってる」

「えっ……?」

「毎日眠りっぱなしでボンヤリしてるのもいいけど、

 ちゃんと食べないと身体を壊すって言ったでしょ?」

 

 叱咤にも似た優しさ。それを嬉しいと思う一方で——

 

(ダメ! 思い出しちゃ……!)

 

 脳裡で再び雷光が瞬く。

 昨夜の陵辱の残像。無慈悲に握り潰され形を変えた自らの乳房。

 あれほど汚されていたのに、

 この胸は未だに甘い痺れを内側に封じている。

 

「どうしたの? 顔色悪い」

 

 覗き込む琥珀の双眸。距離三十センチ。

 カサンドラは思わず後退ってしまった。

 

「な、なんでもない……!」

 

 途端、ダフネの眉がさらに吊り上がる。

 怒気とも哀色ともつかぬその表情が怖くて目を逸らした瞬間——

 胸元を抑えていた腕に意識が戻らなくなってしまう。

 

 ふわり。

 

 ──しまった! 

 

 拘束を解かれた二つの果実が自由落下し、

 早春の花弁のように柔らかく揺れる。

 その振動が腋から肩口に走り、

 ついには鎖骨の裏へ奇妙な快感を灯した。

 

「ちょっ……見え……!!」

 

 ダフネの狼狽を聞いた途端、

 カサンドラの世界は一瞬で真紅に染まる。

 呼吸ができなくなる。体温が急昇し、涙腺が決壊の一歩手前まで茹だった。

 

 ──駄目。逃げたい。

 早く独りになりたい。ひとりで蹲って

 昨夜の疵痕を掻き消したい……! 

 

「カサンドラ?」

 

 伸ばされた手。それを拒絶もできない弱さに涙が滲む。

 友に縋り付く浅ましさに失望しても、離れるなど出来る筈もない。

 だからこそ——

 

「お願い……少しだけ時間を頂戴……」

 

 掠れた声でそう懇願し、背を向ける。

 その拍子に袖口から肘にかかる黒髪が零れ落ち、

 無防備な項を露呈させてしまった。

 

 背後でダフネが息を飲む音がした。

 肩甲骨の線を辿るように熱い視線が這い上がる。

 ──怖い。だけど感じてしまう。

 

 狂おしい期待と不安が絡み合うたびに

 カサンドラの白皙は尚更艶やかに燃え上がり、

 追い詰められてなお女の芳香を撒き散らす。

 

 こんなにも脆く醜い私を愛してくれるのは誰? 

 淫夢の巨獣か。現世の友か。

 それとも未だ見ぬ“主人公”か——

 

 疾走する心音が靴音を追い越す。

 廊下の硝子窓に映る背姿は儚くも誘蛾灯のごとく揺れ続けていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 夢は再び、襲ってきた。

 鋼と汗と雌香で練り上げられた獣性の坩堝——かつて見た螺旋階段が、

 今回は逆さまに連結され、堕天使の梯子のように地下深くへと続く。

 

 カサンドラは裸足だった。

 白磁の踝が一段ごとに沈むたび、

 蒼雷石を仕込まれた階面が脈搏し、雷光の奔流が踊り狂う。

 その震動が骨導し、二房の重錘を激しく揺さぶる。

 

 ──ばるん、と弾けた。

 垂れることは許されぬ重量が、重力さえ嘲弄する頂点へと撥ね返り、

 深雪に埋もれた果実が熟れすぎた果汁をこぼすように、乳頭がぷっくりと突き出す。

 

 蒼雷の牡山羊たちが轟く。

 彼らにとって女の肉体は「祭礼用の供卓」以外の何物でもなく、

 震える爆乳はただの玩具──蹂躙のために育ち、啼くためだけに熟れた卑猥な楽器だった。

 

 一頭が蹄を鳴らし接近する。

 剛鉄の爪が夜気を削る轟音とともに伸びきり、

 カサンドラの豊饒な丘陵にめり込む瞬間──

 

「あ゛ァッ!」

 

 鋭敏な頂に刺さる痛烈な痺れ。

 痛覚と快楽の境界が溶解し、胸骨の裏側で雷撃が跳ね返る。

 乳管が一斉に充血し、温い蜜が布越しに滲む。

 いやらしい雌乳香が霧となって漂いはじめた。

 

 もう一頭が背後から迫る。

 分厚い前肢がウェストを挟み込み、

 引き締まった腹筋の起伏を確かめるように撫で下ろす。

 節くれ立つ指が鼠径部を擦ると、

 スカートの内側で肉尻が「むち♡むち♡」と花開く。

 艶やかな太腿が小刻みに痙攣し、

 汗ばむ内腿で牡山羊の唾液が泡立つ。

 

「ひィ……っ……見ないで……っ!」

 

 哀願は雷鳴に攫われた。

 正面から飛来するのは口腔内に咥えこんだ稲妻。

 青い閃光を纏った涎塊が顎から滴り落ち、

 カサンドラの唇を狙って飛び散る。

 

(だめ……っ 私も……感じてしまってる……!?)

 

 心の声が震えた。

 恐怖より速く脈を打つ鼓動は明らかに「被虐の恍惚」を兆し始めた。

 乳房は次第に“吸われる準備”を終え、

 乳首の先端が針金のように硬化している。

 蜜壺からは透明な液体が洩れ、

 膝裏を濡らした雫が石段にぱちぱちと小さな火花を撒いた。

 

「……赦して……」

 

 カサンドラは目を閉じた。

 その瞬間、闇の向こうから第二陣が襲来する。

 蒼雷石を埋め込んだ禍々しい枷が鎖で曳かれ、

 数十の牛鬼たちが一斉に吼えた。

 

 鎖の先端には拘束環。

 可憐な巫女の手首を釣り上げるために造られた銀の輪が並ぶ。

 そこに収まることを思うだけで子宮がきゅうと疼いた。

 羞恥と期待の混合物──

 これこそが彼女の魂を最も濃く淀ませる劇薬だった。

 

「いや……っ 違うの……わたしは望んでなんか……っ!」

 

 否定しながらも膝が折れる。

 牝鹿のようなラインを描く太腿の奥で花芯がぴくんと跳ね、

 灼熱の滴が脚部の曲線に沿って流れ落ちた。

 媚肉は熟成を迎え、どんな角度でも扇情的に波打つ。

 

「がぁああああああッ!!」

 

 鎖が一斉に吠え立て、

 蒼い鎖光が網状に空間を覆う。

 磔刑台めいた編み目の中央に晒されて──

 乳房が垂直に吊るし上げられる。

 爆乳は己の重みで楕円に潰れながらも形を失わず、

 むしろ充填した乳腺が破裂しそうなほど膨張していた。

 その頂点で震える桜色の尖塔へと

 最初の牛鬼の唇が押し当てられる。

 

「んぁアアッ♡!?」

 

 粘膜同士が触れた刹那、

 カサンドラは嬌声と啜り泣きを同時に行ってしまった。

 舌の表皮がざらりと這い、

 乳首を抉り取りながらも周囲の果肉を貪る。

 吸引は一定周期で強弱を変え、

 母性の泉を枯渇させる儀式のように続いた。

 

 隣で別の牛鬼が腰を制御し、三本目の前肢で秘裂を探り当てる。

 濡れそぼった花唇に剛毛が擦れると

 粘膜が嬉々として蠕動し迎え入れる。

 その瞬間、全身の蒼雷が共振した。

 

「ひぐっ……あっ……あああッ───!!」

 

 雷撃と肉撃が同期した瞬間、

 カサンドラの肉体は感電する珊瑚礁のように

 白く硬直し、次いで弛緩し、また硬直した。

 幾万条の光線が神経束を奔り抜け、

 五感は悉く快楽素粒子へ分解される。

 

 乳峰は真空ポンプの中で絞られ続け、

 汗と愛汁が空気を媒介に青白い靄を作る。

 太腿は痙攣を越えけいれん状態に移行し、

 尻肉は快感のたびに波紋を拡げて弾く。

 

「おぉおおお───!!」

 

 喉の奥から漏れたその音は既に言語を捨て去った原始音で、

 牛鬼たちにとって祝詞にも劣らぬ最高級の供物であった。

 肉尻は捩られながらもちぎれんばかりに叩かれ、

 結合部からは泡立つ体液が噴水のように迸った。

 

 終わらない。

 雷は循環し、快楽は永久機関となり、

 カサンドラという器は完全なる性奴として摩耗されてゆく。

 それでも──

 

(まだ……足りない……もっと……壊して……)

 

 ──微かに残った人格の断片が

 陶酔の底から淫蕩な祈りを唱えていることに

 カサンドラ自身は気づかない……

 

 

 時計の針は腐り、日と夜の境界は溶けた。

 淫夢は時間という概念を咀嚼し尽くし、ただ飢えのみが虚空に谺した。

 

 カサンドラは囚われの月だった。

 月齢十七の青白い面立ちをした彼女は、けれど満ち欠けのサイクルに従うことなく、

 永遠に「もっと欲しい」と啼く恒常的な盈満期を彷徨っている。

 

 ──また始まった。

 蒼雷の牢獄は崩れてもなお蜘蛛の巣のように軌跡を遺し、

 乳房の谷間や太腿の継目に絡まって淫夢の再来を請う。

 

 今宵の執行者は青毛ではなかった。

 漆黒に紅蓮の鬣を背負う新参のミノタウロス。

 彼らは群れを成し、洞窟の苔むす天蓋からぶら下がった千の環を揺らす。

 

「がァああ──!!」

 

 轟雷。

 カサンドラの四肢は鉤鎖に搦め捕られ、宙でM字に引き延ばされる。

 可憐な臓器が皮膚下で右往左往し、肋骨の上で脈動する。

 

 視界を満たすのは黒い皮膚と黄金の角。

 それらは欲望の旗を掲げた艦隊の帆柱だ。

 胸甲の隙間から雪白の乳房が溢れ出るたび、

「ブルンっ♡ プルン♡」と軌跡が残り、

 彼らの瞳孔に淫火が灯る。

 

(……また 壊されるんだ)

 

 恐怖より先にやってくるのは慣性の痺れだった。

 暴力を伴う快楽。快楽を伴う暴力。

 その循環式エンジンは停止のボタンを持たない。

 

 ***

 

 第一の怪牛が前脚を打ち鳴らす。

 蹄が床を穿つ振動が脊髄を麻痺させ、

 次の瞬間、硬質な爪が乳房の付け根を穿った。

 

「ひッ──!!」

 

 先端が鎖骨の裏へ潜り込むたび、

 二房の爆乳は波形を刻みながら上方へ撥ね飛び、

 落下のエネルギーで再び跳ね上がる。

 柔肉は悲鳴を上げながらも確実に硬度を増し、

 先端の蕾が熟れ過ぎた苺の色を晒した。

 

 第二の個体は耳の裏へ鼻腔を埋め、

 舌で耳介を凌辱する。

 水気を帯びた肉槌が軟骨を撓ませ、

 脳髄へ直接熱い唾液を流し込んできた。

 

 第三の雄が腰部を支配する。

 隆々とした手が蜂腰を鷲掴みにし、

 指骨が腸骨を抉るたびに内臓が悲鳴を上げる。

 くびれた腹筋はその震動に合わせて波打つ──

 それは楽譜をなぞる指揮棒のごとき緻密な責め。

 

 第四、第五──。

 数は定かではない。ただ群集が奏でる喘ぎが渦となり、

 カサンドラは溺れかけた魚のように口唇をぱくつかせた。

 

 ***

 

 鎖が緩む。

 自由落下した肢体を待ち受けていたのは、

 肉楔に跨がらされる“鞍乗位”だった。

 

「ぁ……あ゛っ……!?」

 

 肛門の窄まりが裂けかけるまで拡げられつつも、

 内部では別の矛が胎内を割り拓く。

 肉壁の皺ひとつひとつに獣の棘が食い込み、

 まるで聖堂画の天使たちが悲嘆に暮れるかのように

 秘肉の薄膜が震えた。

 

 痛みと陶酔の二重奏。

 歓喜と絶望のチェイスゲーム。

 

 乳丘はその軌道で振り乱され、

 乳首は空気と鎖の接触で擦過創を帯びる。

 血ではなく蜜。真珠大の雫がぽとりと落ちて床で跳ねた。

 

「や……やめ……だれか……ァっ!」

 

 助けを乞えば乞うほど彼らの咆哮は熱を帯びた。

 快楽中枢を叩かれ続けて、もはや言葉というより旋律。

 断続的に漏れる嬌声は最早自分で制御不可能だ。

 

 ***

 

 突如として鎖が千切れた。

 代わりに四肢は融けた熔銅を注がれるかのごとく灼け、

 全身に雷の瘢痕が刻まれる。

 

 解放ではなく“再接続”──

 今度は背面から腕を絡められ、

 胡坐の上に乗せられていた。

 脚線は再度強引に割り開かれ、

 太腿の裏側を打つ血飛沫は火花へ変わる。

 

「お゛ォおおッ♡!!」

 

 子宮が蠕動する。

 卵管が泣きながら痙攣し、

 無精卵が花粉のように舞う。

 絶頂の瞬間だけ時間は凍結し、

 乳房は静止画面のように「プリン♡」と弾んでから墜落する。

 

 だが休憩はない。

 新しい怪牛が前に跪き、

 唾液の川で胸元を洗浄する。

 舐め清めれば清めるほど分泌物は増え、

 “お掃除フェラ”は永久機関へ化した。

 

 ***

 

 どれほど啼いただろうか。

 喉は嗄れ、唇は裂け、しかし下半身だけが健気に潤いを保つ。

 

 ──ああ。これが地獄なの? 

 

 問いを投げた瞬間、

 黒檀の巨象が彼女の目前に顎を差し出した。

 牙を模した性器。その先端には鮮紅の宝石のように雫が光っている。

 

「……ください」

 

 誰の声だっただろうか。

 自ら差し出したのか、或いは舌が自動操縦で祈ったのか。

 

 黒いミノタウロスが吠えた。

 全霊で。

 

 そして再び時間が崩れ落ちた──。

 

 ***

 

 夜明け。

 

 石棺の底でカサンドラは瞼を開けた。

 冷たい雫が頬を伝う。

 涙か雨か判断できず、ただ放心する。

 

「……っ!」

 

 乳房を持ち上げれば、そこに刻まれたはずの歯形は無い。

 鎖痕も焔跡もない。清廉潔白な白磁。

 

 しかし記憶は残る。

 脳の深層にまで掘り込まれた粘質な快感回路が、

 

 ──また来てくれる? 

 

 と微睡むたび囁く。

 

 淫夢は終わったのではない。

 休暇を得ただけなのだ。

 

 やがて陽が昇るころ、

 階段を下りてくる足音があった。

 誰の足音だろう。

 答えは闇より深い淫色で塗り潰されている。

 

 カサンドラは己の胸に手を当てた。

 脈を打つたびに膨らみはわずかに揺れ、

「ブルン……♡」と残響の笑みを零した。

 

「おはよう、地獄──」

 

 それは挨拶だった。

 新たなる快楽宴の幕開けを告げる。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 カサンドラは夢の中で「孕んでいる」と思った。

 

 正確に言えば、

 腹部に埋め込まれた時限装置が秒読みを始めたかのような圧迫感だった。

 腸の奧からせり上がる熱塊は、昨日の夕飯の豆スープなのか、

 それともミノタウロスたちの忘れ形見なのか判別不能だった。

 

 ──また来る。

 確定した未来を宣告するかのように、胸骨の裏で小さな鐘が鳴る。

 

 黒革の鎧をまとった姿で彼女は立っていた。

 城塞都市の地下水路に似た昏い廊下。

 灯りは皆無。ただ足元の苔が蛍光塗料めいて淡く発光するのみ。

 

 その薄緑の微光が浮かび上げたのは自分の身体だった。

 

 胸板が膨れている。

 服を着ても潰れないほど重たい双峰が、

 歩くたびに「バルン♡ ブルン♡」と暴れた。

 重力は無視されたまま振幅を増し、肩胛骨が擦れて火花が散る。

 

(落ち着いて……これは夢。夢なのよ……!)

 

 理性で宥めても遅い。

 夢という舞台の法則は観客席から抗議を受け付けてくれない。

 

 前方で水音。

 ミノタウロス──ではない。

 肌を剥かれた白い四肢。少年兵の亡骸だ。

 胸を貫通する矢の鏃がか細い鼓動と同期して震えている。

 血は流れない。

 代わりに乳白色の液体が傷口から洩れ、床を濡らす。

 

 嫌な香りが立ち昇った。

 甘ったるい乳菓子。催淫剤。そういったものが混じった匂いだ。

 

「っ……!」

 

 踵を返そうとした瞬間、背中を柔い膜に塞がれた。

 何百という子宮が密集し蠕動するような不定形の温もり──

 それが群れを為して彼女の全方向を覆いはじめる。

 

「い……イヤ……!!」

 

 乳首が先ほどより膨張していく。

 膨張しすぎた葡萄が枝から千切れる寸前のように震えている。

 裾を掻き毟る手の平でさえ触れるたび電流が走った。

 

「助けて……誰か……っ!」

 

 叫びは洞穴に吸収され、反響すら残らない。

 ただ胎内に宿った時限装置が一段と大きな脈動を刻む。

 

 ──壊れる前に。

 ──いや、壊されたくて。

 

 相反する感情が同じ温度で沸騰した瞬間、

 暗がりの底から鎖を引きずる音が這い上がってきた。

 

 ###

 ──────

【挿入歌】『カサンドラ‐胎夢‐』──仮想詩篇

 

 黒き牛は角笛を鳴らし

 汝の乳は朝露を超え

 欲望は胎動を語り継ぐ

 

 *

 

 痛みは蜜酒となれど

 甘き胎内は煉獄の入口

 ──さあ扉よ、開けよ

 

 ──────

 ###

 

 ### 第二景 白昼の診察室

 

 翌朝。

 冒険者ギルド受付前。

 冬の木漏れ日が大理石に万華鏡を撒き散らす。

 

 階段を登っている際、ぼんやりとしてしまい躓くカサンドラ。

 

「ひゃ……っ」

 

 高い声を上げると同時に乳峰がぷるん♡ と暴れ、

 薄紙一枚で繋がれていた抑制具がわずかに軋んだ。

 裏地が擦れた部分を中心に熱が噴き上がる。

 

「おぉ……っ」

 

 通りすがりの冒険者たちのどよめきに

 カサンドラは自分の中に走る淫泥を自覚した。

 

(見られてる。視線が……胸に絡み付いて……っ)

 

 反射的に隠そうとした腕に持ち上げられ潰れた乳肉に生唾を飲み込む男衆。

 

 半開きの唇から微かな声が漏れ──

 

「……えっちぃ」

 

 呟きが聞こえた気がした。

 羞恥が込み上げるより先に血流が加速し、乳頭が脈打ち始める。

 

「大丈夫!?」

 甲高い声を叩き付けるように遮ったのはダフネだった。

 

 彼女は即座にカサンドラの腕を引き、盾となって壁際へ移動させる。

 その背後で羨望の視線を一刀両断にするような眼光を浴びせた。

 

「見るなら請求するわよ。好奇心税」

 

 さらりと言い放ち、一同を黙殺。

 唖然とする男たちの後方にはエルフの弓手リッソスも居たが、

 彼もバツの悪い顔で帽子を目深に戻した。

 

「ありがと……ダフネちゃ──」

 

 礼を言いかけた刹那、階段上から

「ワぁッ!?」という蛙の鳴くような声。

 

 年若い少年が石段につまずき前方へ飛び出すところだった。

 受け身もなく頭から墜落するコース。

 

「危ない!」

 ダフネがカサンドラを強く引き寄せたが

 スペースが狭く完全には避けきれない。

 

 彼は空中で腕を伸ばしバランスを取った結果、

 思い切り──

 

 べちょっ! 

 

 胸甲の谷間へ掌底が突き刺さる形で命中。

 

「ふぅあ……っ!?」

 

 衝撃に弾む爆乳。

 手袋越しの掌が深々と埋没するや否や

 掌に吸着する乳肉がふにゅっと凹み波紋を展開。

 乳頭はすでに硬直し疼痛と快感を同時に送信。

 

「ご……ごめんなさいっ!!」

 

 慌てて謝罪する少年だが顔面は熟桃色。明らかに喜悦が混じる。

 

 カサンドラは口を半開きにして息を詰めた。

 

(バレてる……気持ち良かったことが……)

 

 自己嫌悪と昂揚が同時進行し涙腺が滲む。

 そこへ割り込むは銀糸の鞭を思わせるダフネの一喝。

 

「アンタもアンタよ! いくら事故でも公序良俗って知ってる!?」

 

 腰の鞘から抜いた訓練用の短槍を少年の眼前1㎝で静止。

 

「……すいませんでしたッ!」

 

 文字通り尻尾を丸めて遁走する少年。

 

「ホントにもう!」

 舌打ち一つし終えても、まだ背中越しの視線がつきまとっているのに気付く。

「見物料は倍にするべきね……」

 

「ダフネちゃん……私、平気だから──」

「平気じゃない」

 

 珍しく強い断定。

 

「昨日からずっと顔色悪いし夜も魘されてる。

 それに今日は明らかに……」

 そこで声を潜め、

 

「エロすぎる」

 

 カサンドラは頬を紅潮させ俯いた。

 胸元では未だ余韻が鼓動にリンクして「ぷる……♡」と微震している。

 

「医務局行きましょう。アスクレピオス系列の

 娼館帰り専用の静養室、貸してもらえるはず」

「そんな豪華な場所……高そう……」

「お金はアポロン様が出すわよ。

 どうせあの人に溺愛されてるんだから利用しなさい」

 

 肩を貸される形で搬送される途中も

「むち♡」「くい♡」と弾む肉尻へ執拗な視線が絡みつき

 

 カサンドラは背徳混じりの熱で思考が霞みがちになった。

 

(助けてもらって嬉しいのに……

 見られて……疼いてしまうなんて……最低だよね……)

 

 ###

 ──────

【挿入歌】『ダフネ‐盾恋‐』──仮想詩篇

 

 鋼の鎖に我が身を絡め

 幼馴染みを匿う盾の花弁

 誰も触れるな

 触れたら赦さない

 ──────

 

 

 ギルド本館東翼、娼婦職限定の隔離病棟。

 クリーム色の絹簾を隔てた奥──天蓋付きベッド。

 花嫁衣裳を思わせる純白の寝台へ導かれるカサンドラ。

 

 点滴スタンドに薬瓶。

 睡眠導入と鎮静作用のある蒼色液体がゆっくりと落ちていく。

 

「少し横になれば落ち着くって。何かあったら呼んで」

 

 そう言って踵を返すダフネ。

 ドアノブに手を掛けたところで振り返り──

 

「本当のこと言って良い? 

 今みたいに弱ってる貴女を見るのが一番怖い」

「……ごめん」

「謝るんじゃない。ありがとうでしょう」

 

 カサンドラは涙を拭いながら微笑んだ。

 

「うん……ありがとう……」

 

 扉が閉じる。

 外界の喧噪が遠ざかる。

 シーツの海に沈みながらカサンドラは瞳を伏せた。

 

(もし夢の中で本当に犯されているのなら──

 現実でも誰かに壊して貰ったほうがマシかも……)

 

 背徳と逃避の均衡点で意識が蕩けていく。

 

 点滴の雫が一滴落ちるたび胸奥の時限装置が脈打ち、

 次いで深い海鳴りのような低音が耳殻を支配した。

 

 〈我ハ、招カレシモノ〉

 

 夢の住人が呼び掛ける声。

 血潮の色を借りたインクで心壁に文字が描かれる。

 

 〈開扉ヲ希ム〉

 

 シーツが温かく湿った。

 股座に指を滑らせればそこは既に潮を湛えている。

 

「……来て」

 

 彼女は息を吐くように囁いた。

 

 滴下が速度を上げた瞬間──

 

 薬瓶にひび割れ。

 蒼色液体が噴出し彼女の枕元を青く染めた。

 

 幻想と現実の境目が崩れ落ちる。

 天蓋の柱に蔦が絡み、蔓先から蕾が咲く。

 艶黒いミノタウロスの影がゆっくりと芽吹いた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 薬瓶の裂け目から滲む蒼色が、シーツに広がる水脈を描いていった。

 カサンドラの頬を濡らした雫は涙なのか、

 それとも媚薬混じりの溶液なのか──本人にすら判別できない。

 

 天蓋の梁から垂れ下がった蔦は急速に肥大し、瘤が人の顔に似た瘢痕を刻む。

 そしてその瘤が次々に裂け──

 

「グゥルルルル……」

 

 喉奥から這い出てくるのは真紅の舌。

 その先端に突起物を生やし、獲物を探す蛇のように探りを巡らせる。

 やがて舌先が乳首へ到達した瞬間、痙攣が始まった。

 

「あっ……ひぁ……!」

 

 乳峰が舌先とシーツとの間で揉みくちゃになる。

 乳輪の周囲を取り囲む舌の輪は徐々に収縮し、

 まるで乳肉を絞り出すミルクセクターのように機能し始める。

 

 だが「授乳」と呼ばれる行為には程遠かった。

 甘い乳香が霧散し、それにつられて新たな蔦が芽吹く。

 

《開扉ヲ──》

 

 声というより共鳴音。

 骨伝導で聴覚野を侵食する囁き。

 

「だ、駄目……」

 

 掠れた拒絶が虚しく室内に溶ける。

 舌の輪が一段と力を込めると、胸の奥から灼熱の液塊が──

 

 シュウッ……! 

 

 圧搾された母乳が蔦の管へ吸い上げられていった。

 初めての射乳に伴う解放感と羞恥が交錯する。

 

「わたしっ……母乳なんて……!」

 

 驚愕の呟きを嘲笑うように舌先が嗤い、次の標的──腹直筋のVラインへ這っていく。

 ヘソ窪を穿ちながら下腹部を舐め上げると、

 膣口が意思とは無関係に湿潤を増していく。

 

「やだ……なんでぇ……」

 

 拒否の言葉とは裏腹に下腹部がゆっくりと上へ突出し、

 内側から自らを受け入れる姿勢を形成していった。

 

 

 

 天蓋の影が歪み、そこに一体のミノタウロスが浮かび上がる。

 今回の敵は巨大な単眼種──〈蒼雷牛〉の突然変異種だ。

 単眼はレンズのように瞳孔を開閉し、カサンドラの恥姿を逐一解析する。

 

「検査完了……適合率一二〇%」

 

 鼓膜を震わせるテレパシーに背筋が凍る。

 牛魔は角を震わせ青白い雷球を生成すると、それを自らの眼窩へ嵌め込んだ。

 

「──ッ!?」

 

 痛覚はゼロ。

 代わりに体内時計が狂い始めた。

 一分が永遠に伸ばされ、一秒が瞬きのうちに過ぎる。

 時制操作の魔眼だ。

 

「焦らされる」ことを目的とした実験が始まった。

 

 ***

 

 ◆第一試──「乳輪研磨」

 

 単眼の焦点が乳首に固定される。

 次の瞬間、空気が砂紙状に変わった。

 無害な風圧が螺旋を描きながら乳頭を磨き上げる。

 

「くっ……ふあぁあ!」

 

 敏感な領域に直接働く精密な刺激。

 痛みではなく痒みの延長線上で悶える感覚に歯噛みするしかない。

 

 二十分後には乳輪そのものが薄紅から濃紅へ移行し、

 腫れ上がる寸前の充血状態に達していた。

 

 ◆第二試──「花襞矯正」

 

 単眼の視線が下へ移動する。

 シーツを押し上げる恥丘が震え、

 花弁を僅かに覗かせた瞬間──

 

 微細な雷糸が外部から伸びてきた。

 虫ピンのように一本一本花弁を固定し、

 蝶標本のごとく広げていく。

 

「みないでぇええ……っ!」

 

 内部の襞は透明化するほど血行が促進され、

 小ぶりな陰核が薄布の影から頭を擡げる。

 そこへ針以上の繊細さで雷糸が接触──

 

 カリッ。

 

「ッあ♡」

 

 小鳥の嘴に啄まれたような微弱電撃。

 強過ぎず弱過ぎず、最適値を算出しながら繰り返される。

 

 いつしか喘ぎ声は鼻歌のように滑らかになり、

 股間は自らの愛液で滝壺と化した。

 

 ◆第三試──「子宮啓蒙」

 

 最後の段階。

 牛魔の単眼が心臓位置と生殖器位置を一直線に結ぶラインへ照準を合わせる。

 

「ここが──君の“魂炉(ソウル・クラスター)”」

 

 理解できない単語が鼓膜に届いた直後、

 胸骨の奥で再び鐘が鳴る。

 

 ドクン……

 

 子宮口が外界に向けてゆったりと開閉を始めた。

 意志の介入できない自律運動。

 だがその動き一つひとつが確かに快感信号として脳に刻まれていく。

 

(おかしい……気持ち良くなんてなりたくないのに……)

 

 葛藤の只中で牛魔が前脚を踏み出した。

 巨躯に似合わぬ静穏な動き。

 膝をつき、優雅に額づく仕草──

 

 献上の儀式。

 

「君を所有する資格を提示する」

 

 背後に複数体の従属牛たちが列を作り、

 順番に角で床を突き響きを立てる。

 その律動と完全同期し──

 

 乳首が乳暈から溢れんばかりに屹立。

 陰核は充血して米粒大まで成長。

 子宮は海藻のようにぷくりと蠕動。

 

 まさに全ての性感帯が「受け皿」を完成させた。

 

 カサンドラは泣きじゃくりながら首を振る。

 だが声帯は絶えず喘ぎの余韻を響かせ続けた。

 

「どうして……! なんで言うこと聞いてくれないの……? 私の身体……!!」

 

 涙混じりの怒号も雷魔たちは悦びの背景音としか捉えない。

 

 主役が遂に腰を落とす──と思いきや、

 牛魔は動きを止め、慈しむような単眼で覗き込む。

 

「焦燥は佳肴。快楽は旨味。故に──我々は飽くなき探索者」

 

 そして一言。

 

「此れより“刻印”を施す。拒絶は承知。だが逃走不可避の愉楽を贈ろう」

 

 単眼が瞬き、青白いリング状の雷が生成される。

 直径十センチ程度の輪が四肢へ一個ずつ装着される。

 拘束具ではなくアクセサリーとして。

 

「これ……外して……っ」

 

 訴えに応じたのは更なる異形の施術だった。

 四つの輪がそれぞれ独立して高速回転を開始。

 乳首と陰核、そして排泄器官──合計四箇所に微量電撃を与える。

 

「ひぐっ♡ ああああァ!!」

 

 連続する微量電流によって感覚神経が過熱する。

 四ヶ所同時の軽度オーガズムが終わりなく続き、

 筋肉は弛緩と硬直を繰り返して痙攣馬車のように跳ね回る。

 

「や……らあ……っ! こわれ……壊れちゃうっ!」

 

 懇願は聞き届けられるどころか演奏者のリフレインとなって反射する。

 

 ◆終章──「烙印完成」

 

 十五分後。

 四つの輪が同時点滅し、次の瞬間──光は体内へ浸透した。

 

 ジュウゥッ! 

 

 乳首、陰核、両側会陰部──

 そこへ紫紺のルーンが焼き付けられた。

 子宮が咆哮し、愛液が濁流となって溢れ出る。

 

「お゛ォぉおおッ!!」

 

 生涯初の大絶頂。

 脳裏で幾千万の星屑が炸裂し、意識の幕が裂ける。

 

 その最中──牛魔が朗々と宣言した。

 

「契約成立。君は我等〈胎夢機構(レプリカ・ユメ)〉の正式なる苗床」

 

 崩れ落ちる身体を従属牛たちが優しく抱き留める。

 四肢はもはや力なく痙攣するだけ。

 

 カサンドラは薄れゆく意識の中で最後に一つだけ理解した。

 

 ──これは夢。

 ──だが目覚めても刻印は残る。

 

 子宮は胎動し続けている。

 何度でもこの夜は訪れる。

 

(……どうすれば─────────)

 

 問いに答えは得られず、無明の闇が深まっていく……

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 烙印の余熱が乳首の先端で脈を打つ頃、

 カサンドラは「見られている」のを悟った。

 牛魔の群れ──否、“コレクター”たちは射精の合間に互いへ思念を共有し合い、

 個体ごとに形状差のある逸物を使ってカサンドラの女体と比較していた。

(まさか……私の身体をランク付けしてる……?)

 

 オレはココが良い、いやコッチにはまた違った魅力が……

 などと議論を愉しむ姿に女性の尊厳は入る余地もない。

「ひどい……」

 思わずこぼれた声に応えたのは、最前列の独眼王だ。

 

「貴女こそ我等を識別せよ。乳房の翳で覚えろ。尻肉の奥で忘れるな」

 

 彼の肉茎は傘の厚みが桁外れで、内壁を刮ぐために扁平状になっている。

「削岩型」と名付けた方が早い凶器だ。

 対するは後方右翼。笠は小型だが胴幹がS字に湾曲し、

 奥壁一点集中を得意とする「鍵穴開錠型」。

 左翼の巨漢は逆に竿が短い分、カリが十六枚に分裂していて

「歯ブラシ型」などと冗談みたいな俗称を付けるしかない代物だった。

 

 カサンドラはそれらを瞳に焼きつけながら内心で呪いを吐く。

(……って、なんでこんな分類分けしてるの、私っ!?)

 

 

 *

 

 ### 第二景 尺量

 

「さて──鑑定試験だ」

 

 独眼王が命じると群れの一角が左右に割れ、

 真珠色の祭壇に鎖で固定されていた

 “測定用”のミノタウロスが呻いた。

 背丈はやや小さめ、だが亀頭に沿う青筋の数は八本と尋常ではない。

「本日採取済みのサンプルである。“標準品”に比べ平均太さ+三ドット、

 長さ+二ノッチ」

 技術畑の研究者が標本瓶を並べる如き口調で解説する。

 

「さぁカサンドラ殿、咥えてくれ」

「や……そんなの……」

 

 首を振ろうとした瞬間、左右から二人の従属牛が羽交い締めにする。

 肩幅ほどの距離しか無い。

「舌先で輪郭を確かめよ」

「っ、むぅ……!!」

 

 口腔一杯に質量が侵入し、喉奥を叩く。

 蒸れた牡臭が肺胞に染み渡る。

(やだ……嗅覚からダメにされる……)

 

 けれど脳内で数字が立ち上がるのも感じ取ってしまう。

 竿径=三・九。笠傘角度=三十度。

 裏筋のイボ数=十三。

 舌粘膜の報告書が自然に出来上がる自分に戦慄しつつも──

 

 ゾクリ。子宮が微かに応答した。

 

「合格。覚えが速い」

 

 *

 

 ### 第三景 配置

 

「次は臨床検査──被験者である貴女ご自身による“設置”」

 

 祭壇ごと彼女は水平に九十度回転させられる。

 その真下にはいつしか巨大な水晶鏡。

 開脚した己の局部が透かして見えている。

 

「好きに選べ」

 

 眼前に五本の“素材”が立ち並ぶ。

 一列に陳列された凶器はそれぞれ微妙に長短を違えているが

 共通するのはすべて鋭利であることだ。

 

「選ばなければ全品を使用する」

 

 脅迫ではなく宣告。

 ならば一本選ぶほうがマシだろうと本能が計算してしまうあたり

 すでに心理掌握が始まっていた。

 

 カサンドラは震える右手で中央の一本を指差した。

 選択理由──最も瑞々しい肉色で血管の造形が端正だったから。

 美的嗜好に殉じた結果である。

 

「了解。“玉葱型”を選んだか」

「~っ!!」

 自尊心が罅を生む。

 己の好みが公表され、同時にそれが正しいかどうか審判が下るという屈辱。

 

 *

 

 ### 第四景 実測

 

「では挿入。基準位置より三分の二地点でストップ。

 ──計測開始」

 

 宣言と同時に入り口を押し開く熱杭。

 ぬるりと滑る潤みは自分のせいだと認めたくない。

 亀頭が膣壁を探りながら潜航していく。

(だめ……浅いところなのに……こんな早く……)

 

「二七ノッチ通過」

 

 牛魔が唱和すると同時に電流の輪が再度発光。

 入り口と出口の双方をロックされる。

 

「残り七ノッチで静止」

 

 命令形で時計仕掛けに変えられた自分を罵倒したい衝動。

 だが身体は忠実に従う。

 腰を少しだけ浮かせ──

 

 ずちゅ。

 

 奥歯が鳴るほどの圧迫。

 浅瀬を擦っていたカリ首が急転直下でGスポットを捕らえる。

 

「──ッ!!」

 

 声にならない悲鳴を鏡が拾い上げた。

 下腹部に青筋が浮き上がる。

 

「停止保持三秒後、奥壁開放。拍動チェック開始」

 

 奥へ数ミリ進めば子宮口にダイレクト。

 それを何度も規則正しく繰り返されるだけで意識が霧散する。

「は……ぁ……」

 

 いつしか腰の上下動作が自動操縦に移行し

 リズムが早鐘のように加速していく。

 

「自己稼働良好。基準値を超える性反応──極上だ」

 

 

 淫夢の法則は残酷に進化する。

 昨夜までの私は「陵辱」されていた。

 今夜の私は──「調整」されていた。

 

「ひっ……ぐ、ぅ……!」

 

 ミノタウロスの群れが円陣を敷き、私が中心で膝立ちに固定される。

 背中の骨盤には青い鎖輪。

 手脚には各三本ずつの角枷。

 まるで展示台に載せられた標本だ。

 

 乳首と陰核に焼き付けられたルーンは

 熱を孕んだまま脈動している。

 そこへ蒼雷石で拵えた細針が差し込まれ、

 紫電が奔り──感覚神経をリセット&上書き。

 

「……やめて……お願い……!」

 

 叫べば叫ぶほどミノタウロスたちは嬉しそうだ。

 彼らは私の絶望を栄養源に育つ植物なのかもしれない。

 

「準備完了」

 

 単眼王が宣言する。

 

 

 今夜の行為には名称があるらしい。

 〈ミーレス・ライアー(無弦琴)〉。

 

 彼らは私の背後に陣取り、

 皮膚の下へ指を差し込むようにして

 乳房をホールドした。

 肘を腋へねじ込み、鎖骨まで押し上げると──

 

 ブルルンッ♡ ドポン♡

 

 自分の胸があたかも巨大なバスドラムになり、

 彼らの鼓動に共振して暴れ狂う。

 

「っ……ん゛っ……♡」

 

 痛みではなく“響き”が骨を通じて広がる。

 肋骨が共鳴箱になり、喉奥がスピーカーになる。

 私はもはや一個の楽器だ。

 

「乳丘 第3響域 正常」

「乳腺開通率 九五パー」

 

 データが頭上で交わされ、

 私の肉体はチューニングされていく。

 

 ### 第三景 陵刑

 

 準備が終わると即座に本番だ。

 

 肉竿の林から一本だけ選び出し、私へ押し当てる。

 

 今回選ばれたのは“喇叭型”──

 傘の直径が異様に大きく、挿入時は小振りだが

 膣腔内に入ってから一気に膨張するタイプ。

 

「ぁ……ああッ!!」

 

 先端が入口を割った瞬間から

 内側へ向かって傘が膨れ上がるのが分かる。

 内壁を巻き込みながら進攻し、抜けまいと粘着する。

 

「抜け……ない……!」

 

 泣き叫べば叫ぶほど、ケダモノどもは興奮しもっと奥まで押しつける。

 

 しかも今回は二本同時。

 正面と背面──所謂‘串刺し’だ。

 

「あ゛ぁああッ!!!!」

 

 息が途切れそうになるたび肺から酸素が奪われる。

 胸の震盪はさらに増幅し、

 

 パン! パンッ!! 

 

 という擬音が耳朶の奥で鈍く響く。

 もう鼓膜ではなく乳房そのものが“打楽器”。

 

「子宮 共鳴域 最終段階」

「締め付け周期 理想値に接近」

 

 彼らは私の悲鳴をメトロノーム代わりにし

 最適な抽送リズムを追求する。

 

 ──-

 

 ### 第四景 圧迫演奏

 

「主奏域を確保。合奏開始」

 

 突然、残り六頭が一斉に蠢いた。

 ある者は私の太股を掴んで割開き、

 ある者は肩甲骨へ角を差し入れて前後に揺らす。

 別の者は髪を引っ張り首を仰け反らせる。

 

 そして──

 

 パン!! パンッ!! 

 

 私を挟む二本がシンクロして衝撃を与え始めた。

 合奏。オーケストラだ。

 

「あ゛──ッ!?!?」

 

 子宮が破裂しそうな恐怖。

 だが同時に奇妙な確信も生まれる。

 

 この衝撃は外へ漏れず内部で循環し、ついに卵管の末端まで伝わるだろう。

 私は“楽器”であると同時に“媒体”だ。

 ミノタウロスの遺伝情報を宿す器。

 

 抵抗しても無駄。

 

「ダメ……そんなとこ……来ちゃだめ……っ」

 

 言葉は否定。肉体は期待。

 

 スッカリと性器にされたケツマンコが

 腸壁を通して前立腺的快感を生成しはじめ、

 そこから下りたナカツクビが膀胱の裏側をノックする。

 

 尿意と便意と性欲が同時に煽られ

 頭蓋の中で警報が乱舞。

 

「あっ♡ くる……くる……!!」

 

 身体の節々から脂汗が噴き出す。

 

 ──-

 

 ### 最終景 刻印収束

 

 ドクン……

 

 単眼王が雄叫びとともに放出。

 同時点火。

 

 全身の鎖輪が紫閃光を迸らせ

 焼印が膣壁と乳線の内側に多重で浮かび上がる。

 

「ッ……♡」

 

 声にならない呻き。

 眼球が裏返り視界は真っ白。

 

 それでも鼓動は続く。

 

 ──そして……

 

 パタン、と。

 

 世界が消えた。

 

 *

 

 ### 目醒めのインターリュード

 

 意識がブラックアウトしたのは一瞬。

 次に私が見たものは、

 自宅寮の天井だった。

 

「…………夢?」

 

 身体は汗と涙でぐっしょり。

 だけど──

 

 胸元に手を当てると、

 そこに“感触”があった。

 焼き痕の幻痛ではない。

 

 確かな体温差と膨張。

 

 乳房は以前より一回り大きくなっていて、

 乳首は乳輪ごと異様に敏感だ。

 

「嘘……」

 

 股間を確認する勇気が出ない。

 けれどシーツに染みた粘液は

 淫夢の結晶だと言わんばかりに

 

 ツンと牡の臭いを立てていた。

 

 ──-

 

 ### 動かない日常

 

 昼過ぎまで起き上がれなかった。

 食欲も沸かない。

 ダフネは外出中。

 一人になると途端に胸の奥が疼き始める。

 

(次は何をされるんだろう……)

 

 恐ろしい。でも──

 

 子宮が小さく跳ねるたび

 背筋を快感電流が這い上がる。

 

 淫夢は終わっていない。

 むしろ今からが本番だと知っている。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 淫夢の解剖学は学習曲線を持つ。

 昨夜までは私が“受容器”であった。

 今宵──私は“拡張器具”だ。

 

「む……ゔぅう……ッ!」

 

 牛魔の亀頭が喉奥へ沈み込み、軟口蓋を捲る。

 現実世界で処女のまま生き延びているカサンドラは、

 当然フェラチオどころかキスも未経験。

 なのに舌根は巧みな渦を巻き、勃起茎を舐め上げてしまう。

 唾液分泌量も異常だ。蛇口のように溢れ、泡立ちながら唇の隙間を滴る。

 

「すごいぞカサンドラ嬢、完璧な嚥下形だ」

 

 単眼王が賞賛を浴びせるたび喉筋が痙攣し、

 硬質なカリ首が反射的に絞め上げられる。

 

 ──身体が勝手に動く。

 まるで別人が脳脊髄液の中から操舵しているようだ。

 

 

 乳首の刻印が脈打ち始めるや否や、

 群れのうち一頭が後方に回り込み肛門を押し開いた。

 

「ひゃあ……っ! そこは──ッ!!」

 

 制止の叫びは自ら咥えこんだ肉茎に吸収され空転する。

 括約筋は本来排泄に特化した抵抗装置。

 しかし淫夢の管理者は腸管を楽譜に変えてきた。

 

 ズヌッ♡ ジュプ♡

 

 巨大な“骨槌型”が侵入。

 腸壁が捻れつつも“弦”へ変わり、

 抽送の度に腹鳴が銅鑼の轟きへ変わる。

 

 前と後ろで同時に発生する律動に

 胸房が共振し、“カンッ♡”“カンッ♡”と鈍金属の響きを上げる。

 視界は酩酊のシャワー。色彩が剥離し

 朱と紫の斑点が網膜を駆け巡る。

 

 

 喉奥が脈打ち始めた頃合いで

 単眼王が容赦なく腰を突き出した。

 

「──ゲボォッ!!」

 

 食道粘膜が拡張される苦悶。

 普通の女なら窒息死レベルの圧迫だ。

 けれど身体は生存本能で嘔吐反射を抑え込み、

 

 ドクン! ドクン! 

 

 喉仏裏に至るまで活発な蠕動を開始する。

 搾精ポンプとしての完全転職。

 

「素晴らしい“啜飲位”。処女にして高等技法を修了とは」

「褒め……ないで……っ」

 

 声帯が震えても音声は空気を介さない。

 代わりに乳汁が飛沫となり零れる。

 乳房は自発的に仰角を変え、“砲塔”になって下向きへ濃乳を吐き出す。

 甘い乳香が宙へ立ちのぼり、

 群れの若い雄牛たちをさらに昂らせていく。

 

「ほら見てみろ。舌だけでなく乳腺まで雄意に応えているぞ」

 

 嘲弄の矢が心臓を貫く。

 現実の私は処女のはずだ。

 だがいま口中を蹂躙するのは醜怪な獣竿。

 身体はそれを悦び、粘膜は歓迎し、

 喉奥は性器のように濡れている。

 

 ──乖離。

 精神が肉体を追い越す音が耳裏でチリチリ火花を散らした。

 

 咽喉から直接搾られた粘液が胃に降りていき

 内臓全体に暖かな“甘味”を注入していく。

 脳幹は抗う暇なくその味覚を“幸福”として翻訳する。

 その矛盾により自我にヒビが走る。

 

「嫌なのに……美味しい……?」

 

 混乱した思考を読み取ったように単眼王が語る。

 

「人は味覚と生存本能を誤認する生き物だ。

 母乳と同じ構造を持つ精漿を脳は『安堵』として受理する」

 

 つまり私は今──子宮と胃袋の両方に“乳”を求めてしまっている。

 

 理性が悲鳴を上げても遅い。

 身体は既に獣精液中毒患者になりかけていた。

 

 

 次なる拷問は多重奏でやって来る。

 背後の雄牛が抽送テンポを上げた刹那、

 左右から二本の“鉤爪型”が乳房を鷲掴みに。

 乳肉を上下方向へ伸ばしきり──

 

 ビュルルルッ!! 

 

 勢いよく搾られた母乳が

 前面の雄牛の顔面を洗濯機のように白濁させる。

 

「ぐふっ!」

 

 怒涛の母乳シャワーに雄牛は咳き込みながらも恍惚の表情。

 そのまま自らの舌で乳房を舐め上げ、

 乳首から直接吸い上げてくる。

 

 吸引→射乳→再吸引。

 

 乳路が“水車”の設計図通りに廻りだし

 胸部筋肉がポンプへと改築されていく。

 

「はっ……くっ……!」

 

 疼痛と快楽が五分五分で混在するこの行程で

 カサンドラは気づく。

 ──自分の身体に「拒絶」という概念が欠落してしまったことに。

 

 胸骨の奥で小さな破裂音がした。

 自我防衛本能が完全敗北した合図だ。

 

 喉奥にはなお硬直した剛竿。

 腸内には脈動する骨槌。

 両乳首を咥えこむ涎塗れの口吻。

 

 これらは全て同一律で連結され

 一つの楽曲として完奏を目指す。

 

 

「最後に“創世”の合図だ」

 

 単眼王が背後へ指示を放つと、

 それまで傍観していた“白髪冠”──最古参の一頭が前に出た。

 その巨根はあまりに長大で

 一般兵とは比較にならない“城郭型”である。

 

「これ以上……無理……!!」

 

 哀願はもう意味を持たない。

 雄牛の群れは既に“神託”を得た神兵のように狂奔しており

 単眼王の杖振り一つで全員が合唱状態に入った。

 

「行くぞ──奏終(カデンツァ)!」

 

 号令とともに全ての肉棍が同時に激振を加える。

 乳房への吸引が最高潮を迎え、

 母乳が滝のように噴射。

 喉奥では先端が爆ぜ、灼熱の精濁が食道を焦がす。

 直腸では城郭型の巨杵が子宮壁を撃ち抜きそうな威力で往復。

 

 全ての接合面が白熱し、

 肉体の境界線が溶解していく──

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 全身を巡る熱が去ったとき

 私は廃墟となった礼拝堂の冷たい床に倒れていた。

 

 血も涙も乾ききっており

 衣服は原型を留めない襤褸切れ。

 

「……終わったの?」

 

 微かな希望を込めて呟く。

 

 けれど股間から溢れ出したのは

 獣精液ではなく──己の排出した“母乳”だった。

 

「まだ……続いてる……」

 

 そのとき背後で蹄の音。

 振り向くと単眼王が悠然と立っている。

 

「安心せよ。貴女は明日も再演できるように保存しておく」

 

 優しく肩を抱かれる。

 拒絶反応がもう現れない。

 むしろ身体は安心した仔猫のように体重を預けてしまう。

 

「──好きに……して」

 

 惨めな解放の言葉が自らの口から洩れた瞬間

 心の奥底で何かがぽっきり折れた。

 

 淫夢は終わらない。

 終わらせることができない。

 

 なぜならこの舞台装置も

 演者も

 脚本家も──私自身だからだ。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 午後の食堂。

 カサンドラが椅子を引くと同時に背後のテーブルでフォークが落ちた。

 

(見られている)

 

 確信するまでもない。

 双眸の湿度が異常だ。

 乾杯をする冒険者たちの視線が一斉に集束し、

 液体窒素を撒かれた鼠のように彼女は肩を竦める。

 袖口から覗く腕は以前より一本芯が増えたように張りがあり、

 細い頸筋はまるで喉仏を飾る真珠のネックレス。

 その肌は夢の中で流した母乳の成分を宿しているのか

 桃色の靄がゆらゆら漂っている。

 

「席取っといたわよ」

 ダフネがグラスを掲げて招く。

 救いの女神に安堵しかけた刹那——

 

 ズリ……ッ。

 

 誰かが椅子を引きずる音と共に立ち上がった。

 中年の剣士。

 鼻孔を大きく膨らませながら股間を両手で隠すように押さえている。

 布の内側で硬度が確認できそうな隆起。

 汗腺から匂い立つ獣臭は周囲の鼻腔を麻痺させる。

 

 カサンドラは反射的に視線をそらすが遅い。

 男の唇は涎で濡れ、白い歯がカチカチと嚙み合っていた。

(やめて……)声にならない懇願。

 男は一歩踏み出しかけた——そこで食堂の給仕長が一喝する。

 

「おい木偶の坊! 飯なら大人しく座ってろ!」

 

 慌てて俯く冒険者。

 緊張の糸が切れ、テーブル下でズボンのチャックを下ろす音。

 液体が滴る湿音。

 生暖かい霧が靴先にまとわりつく。

 

「最悪」

 ダフネが眉間に皺を寄せた。

 

 *

 

 夕暮れ。寮屋上。

 街灯が灯る前に風に当たりたくて昇った階段でカサンドラは凍りつく。

 銀貨袋を握った少年と目が合った。

 袋の中に何が入っているか察するのは容易い——彼女に払う“お布施”だ。

 少年は震える声で言った。

 

「あの……お金払うので、その……少しだけ……」

 

 言葉が終わる前に彼女の唇から嗚咽が漏れた。

 どうして? どうして私なの? 

 

 背後のドアノブが回る音。

 振り返ると昼間の剣士。欲望の捌け口を見つけた狼の顔だ。

 鼻孔から荒い息を漏らしながら服の裾を掴む。

 布地が破れた瞬間——

 

 カサンドラは瞳を閉じた。

 

 その暗闇の奥底に燻っていた“刻印”が脈動を開始する。

 紫紺の紋様が皮膚の下で蠢き、

 全身の血流が淫夢の温度に再び染まった。

 乳房の奥から滲む乳香。

 腰椎が勝手にうねりを始める。

 

「待って……怖いのはわかるけど……」

 少年の声がかすれる。

 ダフネが階段を駆け上がり、「離しなさい!」と叫ぶが、

 

 ドクン! 

 

 世界が反転した。

 

 ——ここは食堂でも屋上でもない。

 青白い薬液が滴る地下室。

 牛魔の角灯が彼女を照らし出し、

 見知ったはずの人間たちの顔が牛頭に置き換わっていく。

 

 剣士の手は骨ばった鉤爪に変わり、

 少年の細腕は丸太のように肥大して角を生やす。

 ミノタウロス達の群れ。

 夢と現実が境界線ごと融合する。

 

「今夜も観客が多いぞ、カサンドラ嬢」

 単眼王が告げる。

 

 鋼鉄製のチェアに磔になった彼女の肢体は

 昼間以上に艶やかで蠱惑的。

 無垢を装った清楚さを纏ったまま、

 その実ほとんど堕落した娼婦のように熟れている。

 

「助……けて……」

 呼びかけの宛先は恋人でも仲間でもない。

 自室のベッドで眠りに戻る“過去の自分”。

 

 しかし刻印は首を横に振る。

 紫紺の閃光が四肢を絡め取り、

 鎖ではなく花びらのように肉へ食い込む。

 

「啼け。恥辱を糧に成熟せよ」

 単眼王の鞭が空気を切り裂き、

 薬液瓶の蓋が外れる。

 

 黄金の雨が肌へ降り注ぎ——

 

 カサンドラの悲鳴は歓喜へと化けた。

 それは同時に屋上の夜空へ響く現実の絶叫でもあった。

 

 *

 

 

 オラリオの午後は、どこか精液の匂いがするようになった。

 市場を歩けば魚を売る青年が半開きの口でカサンドラを見上げ、

 肉屋は鉄串を握る手を止め、露骨に股間を押さえる。

 

「ねぇ、見て……」

 少女たちが袖で口元を隠し囁く。

 噂は早かった。

 ──例のアポロン派の根暗美人が、夜毎どこかの地下酒場で“サービス”してるらしい。

 ──違うわよ、“特別料金”で個別接待よ。

 妄想は尾ひれをつけ、英雄譚のような速度で拡散する。

 

 カサンドラは人混みを避け裏路地へ逃げ込んだ。

 石壁に背をつけ息を整えると、皮膚の下で紫紺の紋様が微かに疼く。

 昨日刻み込まれたばかりの淫符──

 乳首・子宮・骨盤を中心に花弁状の刻印が咲いている。

 昼の喧噪を鎮圧するように脈打ち始めると、全身が曖昧な湿り気に包まれた。

 

「…………また……」

 

 現実に残る唯一の慈悲は、これが生理痛だと言い張れることだった。

 しかし石畳に滴る粘液は明確に黄白色で、生理ではないと主張する。

 

「助けて……ダフネちゃん……」

 

 祈るように呟いた瞬間、路地裏の影でチャックの解かれる音。

 視線を上げると、

 薄汚れた冒険者風の男が片手で自分を慰めながらこちらを睨んでいる。

 半眼の陶酔。口端から零れた涎が喉仏を伝う。

 

「お、お前が全部悪いんだろ……俺たちを誘ってるくせに」

 

 錯乱した被害者的な言い掛かり。

 カサンドラは逃げようと踵を返した、が─────────

 

 

 

 路地裏の石壁は、精液で汚染されていた。

 カサンドラは、無意識に腹を庇うように背筋を丸める。

 腹部に浮かんだくびれ──それは腰骨から骨盤にかけてゆるやかな山脈を描き、

 薄いTシャツの下で鍛えられた腹筋が陰影を作っていた。

 

 ミノタウロスたちが淫夢の中で彼女の「筋肉配置」を矯正したせいだ。

 今や横隔膜付近には弓なりの腹筋が見え、深呼吸のたびに六条の凹凸が蠢く。

 見る者にとっては、彫像の贅沢な凹凸。触れる者にとっては、罪深い把手。

 

 そしてスカートの裾から僅かに覗く腿肉。

 脂肪と筋繊維が絶妙に混ざり合い、

 歩を進めるたびにモチモチとした粘土細工のように収縮する。

 背後の男はその微動を目撃するたびに左手を股間に忍ばせ、

 ズボンの中で自らを扱いた。

 

「やめて……!」

 囁きは蚊の羽音のように小さい。

 

 

 カサンドラの右腿裏──ちょうど腓骨を保護する筋肉の窪み──に

 彼女の知らない黒痣が出現していた。

 淫夢でミノタウロスの角が穿った穴跡だ。

 痣は脈打つように熱を湛え、触れるものを「牝」と思い込んで誘惑する。

 

 男は思わず身を屈めると、口を開けて唾液を垂らしながら囁いた。

「こんな脚……触ったらきっと蕩ける……」

 

 理性の箍が外れた。

 ズボンの中で彼は強く握りしめ──絶頂を迎えた。

 

 石畳に撒かれた精子が陽射しでぬめる。

 カサンドラは嗚咽した。

 涙なのか胃液なのか判断できない透明な液体が

 頬を伝い顎を滴り落ちる。

 

 しかし下着内部にも温かな“涙”が生まれていた。

 男の射精を感じ取った淫夢刻印が、彼女自身に返礼を要求したのだ。

 

 

 乳首が痛いほど充血し、ブラカップに貼り付く。

 スカートの腰骨あたりはすでに色褪せていた。

 内側から滲む乳白の分泌液と粘性の涙が混ざり、

 蜜を染み込ませているせいだ。

 

「どうして……私が……」

 

 涙目がココまで唆るメスなど他にいようか? 

 最早遠慮なく勃起チンポを扱いて見抜きする中年。

 キュッとくびれた腰周りによく引き締まった腹筋の麗しくも悩ましいライン。

 スカートから微かに浮き上がるムッチリとした美しくもエロい尻たぶは

 歩みを進める度にムッチ♡ムチ♡という擬音が響き渡るように肉々しい。

 光を照り返し輝くモッチモチな太腿。

 男の欲望をムラムラと掻き立てる極上の女体。

 

 少女の背筋を氷柱のような嫌悪が這い上がる。

 

「やめ……やめてぇ……!」

 

 悲鳴は確かに発声されているのに

 聴覚は返事を許可しない。

 替わりに腹腔内で暴れる鼓動音が響き渡る。

 ドクン! ドクン! 

 自らの心拍が性具化し

 膣道を真空に煽るファンタジー。

 

 現実で見るチンポはまた違ったリアル感で処女を追い詰める。

 見慣れたミノタウロスとは比べ物にならないフニャチンでも現実味と切迫感が違う。

 太さも長さも見劣りしても

 目前にある粗末な肉塊が視覚的に少女を犯す。

 

 腹筋の微動でスカートが浮き上がる。

 僅かな隙間に粘つく視線が刺さり

 太腿の奥に冷え切った汗が溜まる。

 太い親指で内腿を撫でられたら──

 想像だけで筋肉が弛緩し腰が砕けそうだ。

 

 逃げなければならない。

 なのに膝頭が震えて軸がぶれる。

 彼女の「女としての値札」は

 今日一日で百万倍まで跳ね上がってしまったのだ。

 

 淫夢が現実に侵食した分だけ

 身体は商品化し心は蝕まれていく。

 それでもカサンドラは歩みを止められない。

 帰路につく以外に逃避方法がないからだ。

 

 彼女は気づいていない。

 背後の中年以外にも十以上の視線が交差していたことを。

 娼館帰りの船乗り。

 武具店の丁稚。

 行商の老婆。

 皆がそれぞれの持ち場でズボンを握りしめながら

 新鮮な獲物の登場を待ち侘びていた。

 

 ──檻の中へ入ってきたのは

 

 カサンドラではなく

 獲物としての“彼女”。

 

 

 

 淫夢の劇場は、常に観客で満席だった。

 最前列に陣取るのは牛頭の怪物たち──だが今日の彼らは前奏に徹し、

 照明役に専念している。

 

 代わりに舞台袖から湧き出てきたのは

 現実世界の住人たちだった。

 先程路上で放精した中年。

 食堂の給仕。

 魚屋。

 人間というカテゴリーごと陵辱演出に組み込まれている。

 

「や、やだ……みんな……」

 

 カサンドラは女体を隠そうと腕を交差させたが、

 それは逆に見学者の欲望を煽る仕草となった。

 薄闇の中でも透けて見える病的な白肌。

 艶やかな黒髪との対比がコントラストを際立たせる。

 

「ぐっ……」

 

 涙で霞む瞳が煌めく。

 それを合図に最初の観客が階段を登る。

 中年男──路上で彼女を狙っていた男だ。

 

「お前がいけないんだ……ずっと誘ってたじゃないか」

 言い訳と同時に怒張を取り出す。

 

 ミノタウロスよりも一回り小さいが

 卑猥な赤黒さは十分すぎる威圧感を放つ。

 

「違う……私は……っ!」

 

 拒絶の言葉は途中で潰えた。

 淫夢の刻印が四肢を拘束し、

 石畳に跪かせる恰好に固定する。

 

「……くっ!」

 

 腕が震える。

 腹筋が痙攣し、背中の腱が弓なりに歪む。

 呼吸を整えようとすればするほど

 刻印が燃え上がり乳首に牙を立てる。

 

「ひ……ぃ……」

 

 痛痒さが甘噛みに変わってゆく過程。

 自分が自分を貶めている事実にカサンドラは怯えた。

 

 中年は震える肩を掴み据え物を押しつける。

「この清純そうな顔が一番そそるんだよなぁ」

 

 汚れた掌が頬を撫でる。

 吐息が絡みつき、視界を曇らせる。

 

「や……やめて……触らないで……!」

 

 声は掠れて蚊の羽音より小さい。

 それに反比例するように男の欲望は膨張し続けた。

 

「抵抗するなよ。

 すぐ気持ち良くなるって」

 

 鈍い笑いと共に男は一歩前へ出る。

 

 

 

 次の瞬間、路地裏全体が発光した。

 虚空から響く笛の音──あれは淫夢管理機構の合図だ。

 

「本日の主賓を迎え入れろ」

 

 聞こえるはずのないミノタウロスの声が脳内に直接届く。

 カサンドラの肌に新たな紋様が浮き出し始め、

 文字列のような模様が螺旋を描く。

 

「…………ッ」

 

 呼応して体液が湧出する。

 涙でも唾でもない。

 秘所の奥から泉のごとく湧く愛蜜。

 

 粘液は腿を伝い

 スカートに沁みて滴り落ちる。

 周囲の男たちがそれを目にした途端

 同時にジッパーを下ろし始めた。

 

「おいおい、随分積極的じゃねえか」

「ちゃんと見せつけてんのな」

 

 嘲笑と賞賛が交錯し、路地は小さな競技場に変わった。

 観客たちが各自の欲棒を扱き始め、欲情の籠もった視線で女体を突き犯す。

 

 

 カサンドラは唇を噛んだ。

 痛覚で意識をつなぎ止めなければ

 すぐに自我が溶けてしまう。

 

 ──ここで終わらせないと。

 

 だが決意はすぐに打ち砕かれる。

 淫夢の支配者が刻印へ“授精促進信号”を送り込んだのだ。

 

「っひぃあああッ!!」

 

 胸と膣が同時に爆ぜた。

 乳首から白濁の母乳が吹き出し、

 クリトリスから赤紫の花弁状刻印が咲き乱れる。

 

「すげぇ……」

「搾られてるみたいだ……」

 

 観客達が釘付けになりながら

 我先にと射精する。

 空中に散る精液が流星群のように降りかかり

 カサンドラの黒髪を白く汚す。

 

 粘っこい香りが肺まで浸潤し

 生理的嫌悪がピークに達した刹那、

 腹部の刻印が花弁を閉じた。

 

 同時に大量の羊水じみた液体が

 彼女の腟から噴出する。

 妊娠初期特有の胎盤形成液──

 

「まさか……孕んで……?」

 

 狼狽する思考を遮るように

 路地の奥から牛角を戴く影が二頭、三頭と現れる。

 

 人間観客が後退し、舞台は再びミノタウロスの所有領域へ還元される。

 

「さあ第二幕だ」

 

 単眼王が宣告し、

 背後の大扉がゆっくりと開かれた。

 そこは現実とは似て非なる“母胎洞”。

 岩肌一面に刻まれた妊婦像のレリーフが

 血脈のように光を発している。

 

 カサンドラは立ち上がれない。

 両手で下腹を押さえ

 己の変化に戦慄するばかり。

 

「行きましょうか、我が花嫁」

 

 単眼王が差し出した掌は巨大だが

 異様に温かかった。

 彼女はそれを見つめ

 震える指先を重ね──

 

 自らの意志で

 一歩、前へ進んだ。

 *

 

 

 

 白い巨漢の胸板は、冬の凱旋門のように重厚で冷たかった。

 対面座位の姿勢で囚われたカサンドラは、

 裸の両膝を大きく開きながら、その石碑めいた胸板へ縋りつくしかない。

 

「ひっ……ん……っ」

 

 悲鳴は声帯の途中で溶けていく。

 牛頭の怪物の腰が一突きするたびに、

 彼女の喉から洩れるのは「熱」と形容すべき生音だけだ。

 

 唇は艶めきを増し、唾液で照り輝く。

 鏡があれば鏡面のように曇らせただろう濡れた舌が、無意識に顎を辿り首筋を這う。

 

「ふふ……悦んでくれているようで嬉しい」

 

 今は「夫」と自称する白いミノタウロスが囁いた。

 彼の言葉は低く朗々としているが、

 耳朶に触れる吐息には人間的な温もりが含まれていない。

 それでも今のカサンドラは、

 その冷酷さを恋い慕ってしまうほど性感で脳を煮えさせていた。

 

「ち、ちがう……わたしは……っ」

 

 否定の言葉を探すたびに膣壁が収縮し、杭のごとき肉槍を締め上げる。

 白ミノタウロスは満足げに喉を鳴らし、腰を使い始めた。

 

「はぅんっ! ん~っ……!」

 

 突き上げの角度が微妙に変わるだけで快楽の質が変わる。

 浅い地点を擦ればクリトリスを震わせ、深く抉れば子宮口に火炎を注ぎ込む。

 

 カサンドラは背中を反らせた。

 汗が肋骨の谷をつたい脇腹へ滴る。

 その一粒一粒が水晶のように煌めき、薄闇の祭壇を照明代わりに彩っていた。

 

「いい姿だ。神妃たるもの常に美しく在るべきだろう?」

 

 牛頭の巨匠が額を合わせてきた。

 瞳孔の無い黒曜石の目は彼女の魂を計量している。

 震える睫毛を見定めながら、指で彼女の顎を掬い上げる。

 

「……うぅ」

 

 抵抗したい。

 けれど口を塞がれた蛙のように舌が動かない。

 眼前に差し出された怪物の口角は慈愛すら湛えているが、

 口腔の奥に並ぶ刃物のような歯列は残酷そのものだ。

 

「ほら、誓いの接吻を」

 

 半ば強制的に唇が奪われる。

 牙が上下の唇をこじ開けた刹那──

 

 カサンドラは感じてしまった。

 獣の呼気の中に微かに香る花蜜の味わいを。

 それは淫夢の中で培養された特殊な甘味で、

 雌器官すべてを媚薬漬けにする魅惑の芳香だった。

 

「ん……ふぁ……」

 

 啄ばむごとに脳裏が白濁していく。

 乳首はブラジャー代わりの布を押し破らんばかりに勃起し、

 軋むような痛みが快楽のリズムを加速させる。

 

「もっと欲しければ自分で掴め」

 

 白ミノタウロスは一旦動きを止め、

 自らの逞しい腕をカサンドラの背に回し促した。

 

 選択肢は無い。

 彼女は細い両腕を怪物の肩に投げ掛け、

 両脚をさらに蟹のように開いて絡めた。

 

「こう……ですか……?」

 

 その動作ひとつ取っても美貌が崩れないのが憎らしい。

 困り眉と潤んだ黒瞳は依然として楚々としており、

 対面座位の惨めな姿勢とは滑稽なまでに対照的だ。

 

「完璧だ。さあ踊ろう」

 

 牛頭が微笑し、下半身に再度命を与える。

 結合部から発生する水音はもはや隠匿不能な大瀑布となり、

 祭壇に敷かれた石床へ滴を撒き散らしていた。

 

「はっ……んぅっ! ん……んっ……!」

 

 カサンドラは髪を振り乱す。

 だがどれほど狂おしく揺れても胴体の中央だけは正確に杭に沿って研摩されている。

 自律機能が破損し、肉体のみがプログラムに忠実に働き始めていた。

 

「声を抑えるな。我々神兵に捧げられた祝祷歌だと思え」

 

 白ミノタウロスは命令口調で励ますが、

 その声音に潜む期待は偽りではない。

 実際カサンドラの啼き節は詩韻を孕み始めている。

 喘ぎが連続して五音と七音を成し旋律を編むのだ。

 

「いや……あぁ……! 聞かないで……っ!」

 

 羞恥のあまり頬を朱に染める。

 肌理の細かい頬には血管が透け、

 まるで白磁器の内側に燈を灯したように微光が宿った。

 

「なんと可愛らしい。そんなに可愛いと──」

 

 怪物は一段深く腰を沈め、

 

「──孕ませてしまいたくなるだろう?」

 

 ドス黒い宣言と共に白濁が炸裂した。

 子宮口は受け皿のようにぱっくり開き、

 粘度の高い種液が一挙に流入する。

 

「あ……あ……っ!!」

 

 失禁のような衝撃。

 しかしカサンドラの尿道から溢れたのは黄金ではなく透明な愛液だった。

 彼女の身体もまた堕天使の如く天上から堕ちる準備ができているらしい。

 

「受け止めたか?」

 

 問いかけに答える余裕はない。

 膣内の襞々が熱い楔を必死に抱擁し、

 射精の終わりを探り当てるたびに痙攣している。

 

 やがて白ミノタウロスは結合を解いた。

 抜去の瞬間、入口に残留していた精が泡立って溢れ、

 石床に淫靡な雫を描く。

 

「神の精を宿した胎。讃えよ」

 

 王の号令一下、周囲の兵士たちが跪き祈りの姿勢を取る。

 彼らの雄根は一切萎えず、

 むしろ崇拝の熱気でさらに膨張していた。

 

「さあカサンドラ。第二楽章といこう。

 君が本当の意味で“僕ら”になる祝福の時だ」

 

 巨漢のミノタウロスは恭しく両手を広げ、

 女神を迎える侍従のように最敬礼を捧げた。

 

 

 その胸の中央には、まだ新しい雷痕が淡く紫色の輝きを放っている。

 

「いや……」

 

 彼女は絶望的な快楽の焔に焼き尽くされながらも首を振った。

 ツヤがある潤んだ唇。

 綺麗で、それでいてかわいらしさを残す美貌が恥辱に蕩けた。

 

「私……まだ……人間でいたい……」

 

 しかし身体は既に次の男を求めるように熱を帯び始めている。

 淫夢の支配者は慈悲を与えなかった。

 

 ──まだ序曲だ。

 神の宴はこれからが本番なのだから。

 *

 

 

 白いミノタウロスの石柱のような左腕一本が女の胴をすっぽり抱き上げるたび、

 花弁──即ち彼女の局部──が巨大な蔓に絡め取られる蔦植物のように震え戦慄する。

 

「ひゅ……っ……」

 

 短い息が漏れた。

 顎は怪物の鎖骨に乗り、喉を反らす角度は絶妙のV字形。

 そこに舌の先端を伸ばすと、牡牛の皮膚は硝子質の硬さを纏っていた。

 

「恐れるな。汝の体内こそ我が祠だ」

 

 牛頭が囁くたびに震動が伝搬する。

 声帯の共振がそのまま子宮を叩き、

 胎内で孵化中の卵殻をコン、コンと指先で弾くようだ。

 

 対位法──クラヴィーア練習曲における和声進行。

 巨躯がバス(低声)を支え、

 カサンドラのソプラノが悲嘆と喜悦の狭間で半音階を滑る。

 

「嫌……お願い……やめて……!」

 

 願いは虚しくピッツィカート。

 ミノタウロスは答えず、右手で女の膝裏を撫で上げた。

 

 皮膚下の大腿四頭筋が弓琴の弦のごとく撓み、

 蜜孔から滴る雫が石畳へ「ピチョン」と鋭いシンバル音を放つ。

 

 

 

 舞台と呼ばれた岩窟は円形劇場だった。

 壁面を埋め尽くすレリーフの群像──

 いずれも下半身を露わにした女性達が雄牛に抱かれ、

 胎内で芽吹いた異種胚を腹に刻み込んでいる。

 

「これは我が同胞が積み上げた母胎史録だ」

 

 白ミノタウロスは嬉々として解説する。

 その度に男根は寸分の弛緩もなく彼女を貫き続ける。

 

「あなた……なんて酷いことを……」

 

 怒りを滲ませた抗議は涙声に溶けた。

 だが涙腺の奥では奇妙な安堵さえ芽生えつつあった。

 

 ──ここまで来て赦されると思う方が傲慢なのかも

 

 絶望が冷笑へと醸造される瞬間、

 牛頭は新たな提案を授けた。

 

「では交渉しよう。汝の未来を担保にこの一夜だけ受精を受け入れよ。

 翌朝になれば記憶を封じる。いつもの日常に戻れる」

 

「…………っ」

 

 提示は狡猾だった。

 恐怖と現実逃避の狭間に投げ込まれる一筋の蜘蛛の糸。

 

「わか……わかりました……。でも条件が……一つ……」

 

「ほう?」

 

「ダフネちゃんには……何もしないで……お願い……」

 

 白ミノタウロスの表情が愉悦で歪んだ。

 角先が淡く発光し、

 淫夢空間そのものが共鳴している。

 

「盟約成立だ。その一点のみ遵守しよう」

 

 牛頭は指を鳴らした。

 岩窟の天井から仄青い雷が降り注ぎ、

 二人を中心に環状電離層を展開する。

 

 雷球は子宮に向けて照射された。

 熱痛混じりの光が胎内を満たし、

 未完成の胚に急成長の指令を与える。

 

「あぁぁッ……!」

 

 激烈な熱流が背骨を駆け抜けた。

 脊柱は弓なりに湾曲し、

 肋骨の一枚一枚が雷管のように火花を散らす。

 

「種族壁突破の催奇形因子だ。素晴らしい速育だろう?」

 

 牛頭の口角から涎が滴る。

 その熱汁が乳房を滴り落ちると、

 乳嘴が電球めいた赤を点灯させた。

 

「んはっ……!? 燃えてる……私のカラダが……!」

 

 疼痛と恍惚が同時進入し、

 カサンドラの意識は色彩の坩堝へ滑落していく。

 

 ──ダメ……もう……

 

 理性の最後のページが翻り、

 空白頁が現れた瞬間、

 胎内で何百匹もの蝉幼虫が一斉に蛹から羽化する轟音が走った。

 

「孕んだな」

 

 白ミノタウロスが静かに宣告した。

 

「まだ一つ。次は此奴だ」

 

 巨躯の股座から第二の分岐部が鎌首を擡げる。

 神話時代の双頭蛇めいた肉茎。

 

「嘘……まだ……!」

 

「冗談だと思ったか? 神は嫉妬深く貪婪なのだ」

 

 圧巻の質量が割れ目を二重に塞ぐ。

 彼女の悲鳴は遂に旋律を逸脱し、

 岩窟に金切り音の不協和音を撒き散らした。

 

「ひぃあああああッ!」

 

 破瓜──否、すでに破砕済みの秘園へ

 更なる深穿が始まると同時、

 

 カサンドラの記憶容量は完全に飽和し、

 思考停止という名の安寧が訪れた。

 

 白ミノタウロスは歓喜の唸りを上げる。

 

「さぁ第三胎目は如何する? 

 

 乳房分娩か、頭部分娩か……神託により選ばせてやろう」

 

 カサンドラは答えない。

 もはや言語中枢に到達する酸素が枯渇していた。

 

 だが……

 

 睫毛の奥で一滴の意思が揺らいでいた。

 

 ──必ず……必ず助けに行くから……

 あなたを一人にさせない

 

 それは遠く現世に置いてきた親友の姿。

 絶望の淵で尚も残滓となっていた人間性の一欠片が

 灯火のように灯っていた。

 

 白い巨躯は何も気づかぬまま

 愛おしげに女の鎖骨を噛みしめる。

 

 雷光と嬌声と脂汗の饗宴は、黎明まで続くであろう。

 

 

 

更新希望の原作

  • 魔弾の王
  • 落第騎士
  • ハイスクールD×D
  • 月姫
  • モブせか
  • マジエク
  • のんびり農家
  • 新妹魔王
  • 八男
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