※この作品はR-18です。

ダークエロよろず短編集   作:カード読み込み

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ヒロヤン
リクエストお願いします

原作 落第騎士の英雄譚

キャラ 兎丸 恋々

竿役 解放軍
シチュエーション

解放軍のアジトに慢心して1人で乗り込んだら返り討ちにあい、敗北してレイプされる話をお願いします。




一輝の学生生活

 

 夜明け前の空は、まだ濃紺の墨を流したような闇に沈んでいた。

 破軍学園の広大な敷地内、鬱蒼と生い茂る木々の間を縫うように走る影が一つ。

 黒鉄一輝である。彼の呼吸は一定のリズムを保ちながらも、その吐息は白く濁り、

 肺の奥で鉄の味を撒き散らしていた。頬を伝う汗は夜気によって冷やされ、

 肌に張り付くシャツを湿らせている。

 

  ただひたすらに足を動かす。地面を蹴る。腕を振る。思考を空っぽにするために。

 身体という器に苦痛を満たし、他の余計なものが入り込む隙間を埋め尽くすために。

 だが、走れば走るほど、血液の巡りが良くなるほどに、

 脳髄の奥底に沈殿した忌まわしい泥が沸き立ってくるような錯覚に襲われる。

 

  ふと、肺に冷たい氷が突き刺さったような感覚。走る足が一瞬、重くなる。

 視界の端で白いものがチラついた。幻影だ。分かっている。幻影だと。

 

  ──お兄様……。

 

  脳裏に焼き付いたあの日の光景が、腐った膿のように溢れ出してくる。

 山奥の寂れた道場。自分が木刀を振るう音のすぐ裏側で響いていた、甘く湿った女の喘ぎ声。

 森の木霊ですら覆い隠せなかった、肉と肉がぶつかる水音。

 そして、帰還した自分を出迎えた最悪の現実。白無垢に身を包みながら、

 その布の下で別の男に抱かれて悦びに身をよじる妹の姿。

 西園寺智樹という男の腕の中で、恍惚と崩れ落ちた珠雫の、

 あの氷のように冷たく、しかし情欲にどろりと濁った瞳。

 

  「っ……!」

 

  一輝は顔を歪め、かぶりを振った。

 胃の腑からこみ上げてくる酸っぱい塊を無理やり嚥下する。

 違う。あれは珠雫じゃない。俺の妹は、俺のためにそこまで堕ちるはずがない。

 だというのに、網膜に焼き付いた彼女の痴態は、

 真実として一輝の精神を千々に引き裂いていく。自分の不在中、

 自分が泥にまみれていたその間に、最愛の妹は調教され、

 堕とされたのだという絶対的な事実。

 それがまるで呪いの刺青のように、心臓に刻み込まれている。

 

  「……違う、んだ」

 

  掠れた声で否定する。走る速度を上げた。より速く。より強く。

 地面を蹴りつけ、大腿筋が悲鳴を上げようとも止まらない。

 この足が動かなくなるまで、この身体が粉々になるまで走り続ければ、

 あの粘着質な記憶の触手から逃れられるかもしれないと、

 酷く矮小で愚かな希望に縋り付いて。

 

  一輝が破軍学園への入学切符を手に入れるために臨んだ死闘など、

 過去の傷口に塩を塗る行為に過ぎなかったのかもしれない。

 志摩崎巌との戦いで肉体的な限界を超えた時でさえ、

 珠雫を奪われた精神の崩壊に比べれば、それはまだ甘美な痛みだった。

 物理的な痛みは、いつか癒える。だが、魂の欠損はどうだ。

 自分の剣では、奪われた妹の心も身体も取り戻せないという無力感だけが、

 一輝の背中にのしかかっている。

 

  やがて、東の空が白み始め、鳥の囀りが聞こえ始めた頃、

 一輝はようやく足を止めた。肩で息をする。汗が顎から滴り落ち、

 アスファルトに小さな染みを作る。学園の敷地内にある学生寮が、

 朝靄の中に巨獣のように横たわっているのが見えた。

 

  「……戻ろう」

 

  誰に言うでもなく呟き、一輝は重い足取りで寮へと向かった。

 これから始まる学園生活での目標はただ一つ。頂点に立つこと。

 自分のような非才の者でも強くなれることを証明し、同じ境遇の人々を救うことだ。

 そのためには、どんな絶望も過去の遺物として封印しなければならない。

 

  寮の入り口をくぐり、指定された部屋番号へと向かう。

 廊下は静まり返っており、他の学生たちはまだ夢の中だろう。

 一輝は自分の部屋の前に立った。ノブに手をかける。

 金属の冷たさが汗ばんだ掌に伝わってくる。

 

  深呼吸を一つ。過去は置いていく。今はただ、剣士として前に進むだけだ。

 

  ドアを開けた瞬間、濃厚な男の香りが一輝を包み込んだ。

 

  部屋の中には、すでに先客がいた。窓際に置かれた椅子にふんぞり返り、

 朝日を浴びて鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒している一人の男。

 古代ギリシャの彫刻をそのまま引き剥がしてきたかのような、

 美の極致にある筋肉の鎧。だが、その容姿は神聖などという

 生ぬるいものでは決してなかった。切り揃えられた眉は挑発的に吊り上がり、

 切れ長の瞳には絶対の自信と他者を見下す傲慢さが湛えられている。

 蠱惑的な唇は不敵に歪められており、

 その顔立ちは老若男女問わず魂を奪いかねない魔性を宿していた。

 

  蛮場流輝。

 

  破軍学園の学生名簿で同室になった名前を、一輝は思い出していた。

 

  「あぁ? なんだテメェは」

 

  流輝は面倒くさそうに一輝を見やった。その視線には、人間を見る目ではなく、

 路端の石ころを一瞥するほどの価値しか見出していない冷徹さがあった。

 

  「黒鉄一輝だ。……君がルームメイトか」

 

  一輝は相手の圧倒的なまでの「何か」に気圧されそうになりながらも、

 努めて平静な声を絞り出した。

 

  「ルームメイト? ハッ、冗談も休み休み言えよな。

 俺様とこの底辺野郎が同室? 運命の女神も酔ってやがるのか、

 それとも単なる悪趣味なジョークか?」

 

  流輝は組んでいた足を解き、立ち上がった。その動作一つとっても、

 野生の猛獣が伸びをするような優雅さと危険さが同居している。

 

  「……誠に遺憾だが、事実だそうだ。僕も今日からここで世話になる」

 

  「チッ……世話ねェよ。空気読めねェカスが

 同じ屋根の下にいるだけで反吐が出る。さっさと荷物置いて消えろよ。目障りだ」

 

  流輝は露骨に不快感を示し、再び椅子にドサリと腰を下ろした。

 

  一輝はその傲岸不遜な態度に眉を潜めつつも、

 黙って自分のベッドへと荷物を置いた。この男とは上手くやっていけそうにない。

 だが、今の一輝に他人と摩擦を起こしている余裕はない。

 己の内なる傷を抱え、茨の道を進むためには、無駄な雑音は排除しなければならないのだ。

 

  しかし、運命というのは往々にして皮肉な巡り合わせを見せるものだ。

 最底辺のFランクと呼ばれた落第騎士と、

 おそらくはこの学園においても頂点に君臨するであろう唯我独尊の天才。

 水と油ほどに相容れない二人が同じ部屋で暮らすというこの異常事態は、

 彼らが歩むことになる修羅の道の序幕に過ぎなかった。

 

  一輝は窓から差し込む朝日を眩しげに見上げた。

 その光の中で、ふっと珠雫の幻影が笑った気がして、

 彼は無意識に自身の手首を強く握りしめていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 [

「消えろだって? 随分と偉そうだね」

 

  一輝は荷物を置く手を止めず、淡々と言葉を返した。

 感情の籠もっていない、あくまで事実を述べるかのような平坦な声。

 しかしその双眸には、燃え尽きた灰のような虚無と、

 その奥底で燻ぶるどす黒い焔が揺らめいている。

 

  「あァ? テメェ、今なんて言った?」

 

  流輝は苛立たしげに鼻を鳴らし、椅子から立ち上がった。

 その動作一つにも、王者の風格と呼ぶにはあまりにも暴力的な圧迫感が伴う。

 筋肉という名の鎧が蠢き、体温が跳ね上がるかのような錯覚。

 室内の空気が、彼という存在だけで粘度を増していくようだ。

 

  「聞こえなかったのか? 僕はここに留まると言ったんだ。

 部屋割りは学園の決定だ。気に入らないなら君が出ていけばいい」

 

  一輝が振り返り、流輝と対峙した。

 中性的で優しい面差しの中に、歪んだ鉄のような強靭さが見え隠れする。

 その瞳は流輝を捉えているようで、実は何も映していない。

 妹を奪われたあの日から、彼の視界には常に地獄が焼き付いているのだから。

 

  「ハッ……! 面白れェ。底辺の分際で俺様に喧嘩売るたぁな。

 イイ度胸だ。その腐った根性、叩き直してやるよ」

 

  流輝の唇が三日月型に歪む。それは慈悲など欠片もない捕食者の笑み。

 彼の右手が虚空を掴んだ瞬間、空間が歪み、ドロリとした半流動体が滲み出した。

 固有霊装《無創》。

 形を持たず、すべての形になり得る混沌そのもの。

 

  「……固有霊装を? ここでか?」

 

  一輝もまた、手を伸ばして己が魂を呼び覚ます。

 黒刀《陰鉄》。

 漆黒の刀身が彼の手の中に顕現し、冷たい光を放つ。

 学生寮の狭い室内。剣戟など交わそうものなら、壁も家具も紙切れ同然だ。

 だが、二人の間に引く者などいない。

 

  「安心しろよ。すぐに終わらせてやる」

 

  流輝が告げた瞬間、《無創》が沸騰した。

 ドロリとしたスライム状の液体が瞬時に凝固し、一本の刀を形作る。

 黒い。艶やかな漆黒。

 それは一輝が握る《陰鉄》の忠実な模倣だった。

 形状、質感、長さ、重さ。すべてが瓜二つ。

 

  「模倣……!?」

 

  一輝の目が微かに見開かれる。

 だが、驚く暇など与えられない。

 流輝の足が床を砕いた。

 

  速い。

 先ほどまでの怠惰な空気はどこへやら。

 彼の肉体が生み出した加速は、瞬きすら許さぬ神速。

 模倣された黒刀が、空気を切り裂いて一輝の喉元へと迫る。

 

  「────!」

 

  一輝は咄嗟に《陰鉄》を引き上げてそれを受けた。

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が、狭い部屋に響き渡る。

 だが、衝撃はなかった。

 まるで柳の枝で風を受けたかのように、《陰鉄》が弾かれ、

 一輝の体勢が崩れる。

 

  「遅い。弱い。脆い」

 

  流輝の声が耳元で囁くように響いた。

 いつの間にか懐に入り込まれていた。

 模倣刀の柄頭が一輝の鳩尾に吸い込まれる。

 

  「ぐッ……!」

 

  発勁。

 内臓を直接震わせる衝撃に、一輝の肺から空気が強制排出された。

 膝から力が抜け、床に崩れ落ちそうになる。

 だが、流輝はそれを許さない。

 一輝の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。

 

  「コレがテメェの剣かァ? 笑わせんなよ。

 そんなチンケな腕で、何を守るつもりだったんだ?」

 

  侮辱と共に放たれる掌底。

 頬骨が軋むほどの打撃に、一輝の視界が揺れる。

 口の中に鉄の味が広がった。

 

  「……あぁ……」

 

  一輝の口から漏れたのは、苦悶の声ではなかった。

 唇の端から血を垂らしながら、彼は虚ろな目で流輝を見上げている。

 その瞳孔は開ききり、焦点が定まっていないように見える。

 だが、その奥底で何かが疼いている。

 

  身体の芯に走る激痛。骨が軋む感覚。

 それらが脳髄を焼き尽くす熱となり、背骨を駆け上っていく。

 かつて西園寺の屋敷で味わった絶望的な無力感。

 最愛の妹が目の前で陵辱され、自分には指一本動かせなかったあの日の敗北感。

 それが今、この男の暴力によって蘇る。

 

  そして、その蘇生は、一輝にとって呪いであると同時に

 歪んだ歓喜でもあった。

 

  (奪われる……。また、奪われる……!)

 

  物理的な痛みが、精神の傷口をこじ開ける。

 その摩擦熱が、倒錯した快楽として彼の神経を逆撫でするのだ。

 守れなかった絶望。踏みにじられる屈辱。

 それらが混然一体となり、彼の内なる深淵へと沈み込んでいく。

 

  「ハッ、何だその顔。イイ気味だぜ」

 

  流輝は一輝の反応を快楽に歪んだ敗北者の表情と勘違いし、

 嗜虐的な笑みを深めると無造作に窓ガラスを蹴り破った。

 夜明けの冷気が雪崩れ込んでくる。

 

  「さァ、次は外だ。俺様の洗礼はまだ始まったばかりだぜ」

 

  流輝は悠然と窓枠に立ち、朝靄の中へと飛び降りた。

 その背中は、「ついてこい」と言わんばかりに傲慢であった。

 

  一輝は床に這いつくばったまま、荒い息を吐く。

 痛みが全身を脈打つ。内臓が悲鳴を上げている。

 だが、その苦痛の中で、《陰鉄》を握る手には力がこもっていた。

 

  「……洗礼、か」

 

  口元から血を拭いもせず、一輝は立ち上がった。

 その瞳にはもはや虚無はない。

 代わりに、暗く濡れた光──狂気と隣り合わせの歓喜の焔が宿っていた。

 

  彼は窓枠に手をかけ、流輝を追って夜明けの中へと身を躍らせた。

 ◆◆◆

 

 朝靄が立ち込める破軍学園の中庭。

 まだ誰も起きていないはずの時間帯に、二人の伐刀者が対峙していた。

 

  「さァて、始めようか。落第騎士サマ」

 

  流輝は手にした漆黒の模倣刀をだらりと下げ、

 まるで散歩でも楽しむかのような気怠さで言い放った。

 その顔には、底なしの軽蔑と愉悦が張り付いている。

 

  「テメェみたいな底辺のモノマネなんざ、したくもねぇ。

 だがな、俺様は慈悲深いからよ、テメェと同じ刀、同じ魔力、

 同じ身体能力に抑えてヤルよ。ハハッ、舐めプってやつだ!」

 

  哄笑が朝霧を震わせる。侮辱的な宣言。

 だが、一輝は何も言い返さなかった。《陰鉄》を構え、じっと相手を見据える。

 その瞳は濁りきっていて、どこか熱に浮かされたように潤んでいた。

 

  「……来い」

 

  短く告げた瞬間、一輝が地を蹴った。

 第七の魔剣『雷光』。人間の動体視力を凌駕する神速の斬撃。

 空気を裂く鋭い風切り音と共に、黒い軌跡が流輝の首筋へと走る。

 

  しかし。

 

  カキンッ! 

 

  澄んだ金属音が響き、一輝の一撃は容易く弾かれた。

 流輝は一輝とまったく同じ軌道、同じ速度で剣を振り抜いていた。

 ただ一つ違うのは、その角度が僅かに最適化され、

 最小限の力で最大の効果を生み出していること。

 

  「遅いな。ソレがテメェの全力か? ワンパターンすぎて眠くなるぜ」

 

  流輝は皮肉を吐き捨てると、今度は自分から踏み込んできた。

 一輝が放ったばかりの『雷光』。

 それを流輝の手で再現し、さらに研ぎ澄ませた業が襲いかかる。

 

  (……同じ、だ。いや、違う!)

 

  一輝は戦慄した。目の前の男は、自分が生涯かけて編み出した剣技を瞬時に理解し、

 それを上回る精度で叩きつけてくる。模倣絶技。

 ただ真似るだけではない。それは理想への昇華。一輝が泥臭く積み上げてきた剣理が、

 流輝の手にかかれば芸術品のように洗練され、残酷なまでの効率美へと変貌する。

 

  「がっ……!」

 

  腹に衝撃。模倣刀の峰が脇腹にめり込む。

 骨がきしむ音と共に、胃液が逆流するような嘔吐感。

 一輝は数メートル吹き飛び、芝生の上を転がった。

 

  痛みが脳を焼く。鋭利な針で神経をかき回すような激痛。

 だが、その苦悶の中で、一輝の唇が歪んだ。

 

  (あぁ……また、奪われる……)

 

  身体の奥底から、どろりとした熱が湧き上がってくる。

 かつて西園寺に妹を奪われた時の無力感。

 あの時味わった絶望の味が、今の痛みと重なり合う。

 守れなかった自分。踏みにじられるだけの弱者。

 その事実が、倒錯した快楽として一輝の脊髄を走る。

 

  (そうだ、僕は奪われるだけの存在なんだ……!)

 

  精神が軋む音がする。理性が崩壊し、本能が露出する。

 痛みが快楽に反転する瞬間。背徳の歓喜が全身を痺れさせる。

 

  「おいおい、もう終わりかよ? 舐めプとはいえ、

 俺様は本気で遊んでんだぜ? もっと喘いで見せろよ」

 

  流輝は冷酷に見下ろし、ゆっくりと近づいてくる。

 その歩みは捕食者が獲物を追い詰める愉悦に満ちていた。

 

  一輝は震える腕で体を起こした。

《陰鉄》を杖代わりにし、ふらつきながら立ち上がる。

 口元から血を滴らせながら、彼は笑っていた。虚ろな目は焦点を結ばず、

 ただ目の前の圧倒的な暴力を求めるように見開かれている。

 

  「……まだだ。まだ、足りない……!」

 

  一輝は再び剣を構えた。だが、その構えには以前の洗練された美しさはない。

 獣が爪を剥き出しにするような、ただ暴力を振るうためだけの殺意の塊。

 完全掌握が告げる。目の前の男は絶対的な強者であり、自分には勝ち目がないと。

 だが、その絶望こそが今の一輝には至高のご馳走だった。

 

  「ハッ、イイ顔してきたじゃねェか。そのドス黒い目ェ、気に入ったぜ」

 

  流輝は不敵に笑い、模倣刀を振り上げた。

 

  「なら特別にサービスしてやるよ。

 テメェが到達できなかった頂を、その身で味わわせてやる!」

 

  踏み込み。斬撃。

 それはもはや一輝の手には負えない領域の神速だった。

 模倣されたはずの剣技は、原型をとどめないほどに昇華され、

 圧倒的な質量を持った暴力となって一輝を叩き潰す。

 

  「ぎゃあああああっ!」

 

  悲鳴。だがその声には苦痛だけでなく、歓喜の色が混じっていた。

 骨が砕け、肉が裂ける感覚。それが電流となって股間を刺激する。

 自分のすべてが否定され、踏みにじられる快感。

 意識が白濁し、思考が溶けていく。

 

  (もっと……もっと壊してくれ……! 僕を、僕たちを奪ったあの男のように……!)

 

  一輝は倒れ込みながらも、流輝の足元にすがりつこうとした。

 その瞳には光はない。あるのは深淵のような闇と、

 永遠に満たされることのない飢えだけ。

 

  「チッ、汚ねぇ雑魚が」

 

  流輝は一輝の手を無造作に振り払うと、

 顔面を蹴り上げた。鈍い音と共に一輝の意識が闇へと沈んでいく。

 

  「今日はここまでだ。次会う時までに、もっとマシなモノ見せろよ」

 

  捨て台詞を残し、流輝は背を向けて歩き出した。

 朝日が昇り始め、その背中を照らし出す。

 

  芝生の上で伸びる一輝。

 その口元からは血と一緒に、粘着質な笑いが漏れ出していた。

 

  「あは……あははは……。あぁ……いいよぉ……すごく……いい……」

 

  壊れた人形のように四肢を投げ出し、

 彼は自身の身体を這うように抱きしめた。

 砕かれた骨の痛みすらも愛おしい。

 奪われる悦び。支配される歓喜。

 それらが混然一体となり、彼の中で新たな何か──

 魔人への胚を孕ませていく。

  黒鉄一輝という男は、今日この場所で確実に死んだのかもしれない。

 そして、別の何かが這い出ようとしていた。

 ◆◆◆

 

 それ以来、黒鉄一輝の学生としての生活は唐突に終わりを告げた。

 

  正確には、学生としての枠組みに収まることを自ら放棄したと言うべきか。

 朝、目覚めれば蛮場流輝の顔を見る。

 昼、教室へ向かう足は気付けば寮の中庭へと向かう。

 夜、夢に見るのは白無垢の妹と、己を打ち砕く天才の剣。

 授業? 講義? そんなものは彼にとって空白の時間でしかなかった。

 黒板に書かれる魔力制御の理論など、彼が今抱えている渇きを満たす何物でもない。

 彼にとっての学び舎とは、蛮場流輝という絶対的な強者と向き合い、

 己の無力を再確認し、その無力感に耽溺するためにあるだけの場所へと変貌していたのだ。

 

  「……来たか」

 

  一輝は毎日のように流輝の前に立った。

 iPS再生槽に投げ込まれ、物理的な傷は治癒されていく。

 しかし、再生槽が修復してくれるものはあくまで肉体の損傷だけだ。

 心に刻まれた恐怖と屈辱、そして倒錯した快楽の残滓は拭い去ることができない。

 

  「飽きねェ奴だな、テメェも」

 

  流輝はいつも退屈そうな顔をしている。

 まるで玩具に飽き飽きしている子どものように、一輝という存在を眺めている。

 彼にとっても一輝は、少しは弄んで楽しいがいずれ飽きるだろう消耗品でしかない。

 

  「今日はどこを砕いてやろうか? 手首? 足首? 

 それとも肋骨全部折ってやろうか? テメェの泣きっ面が歪むところ見てやるぜ」

 

  その日も洗礼が始まった。

 流輝は一輝と同じ《陰鉄》の模倣刀を掲げ、

 軽やかなステップで間合いを詰めてくる。

 その動きは昨日よりも洗練され、鋭利になっていた。

 まるで一輝が一晩かけて治療を受けている間に、

 彼の動きのすべてを観察し尽くし、咀嚼し、己の糧として消化したかのように。

 

  カァンッ! 

 

  金属の擦れ合う音。

 一輝が放った渾身の一撃は容易くいなされる。

 流輝の剣筋は一輝の剣筋そのものだが、完成度がまるで違う。

 

 

 

 一輝が血と汗と涙をこね繰り回して捏ね上げた土人形のような剣技が、

 流輝の手の中では天に届く塔のように美しく整えられている。

 同じ土からできているはずなのに、一方は泥にまみれ、一方は輝く磁器。

 その残酷なまでの対比が、一輝の胸の奥を抉り取る。

 

  「がッ……!」

 

  腹に深々とめり込む模倣刀の切っ先。

 皮膚が裂ける感触はない。幻想形態だ。

 だが、脳髄に焼き付く痛みは本物よりも鋭利で、

 内臓が裏返るような嘔吐感を伴う。

 一輝はその衝撃に身を委ね、芝生の上に転がった。

 

  「なんだァ? もう終わりか? 

 テメェの自慢の剣技は、そんなモンなのかよ?」

  流輝が見下ろしてくる。その瞳には哀れみすらない。

 

「がはッ……!」

 

  肺から空気を搾り出すような呻き声と共に、一輝は膝から崩れ落ちた。

 視界が明滅する。全身の血管が悲鳴を上げ、心臓が肋骨を内側から殴打している。

 だが、まだだ。まだ終わっていない。

 彼は震える手で《陰鉄》を握りしめ、己の奥底に眠る獣の首輪に手をかけた。

 

  「……一刀修羅」

 

  呟きと同時、一輝の心拍数が跳ね上がった。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 エンジンの始動を思わせる重低音が胸部から響き渡り、全身の血管が怒張する。

 体温が急激に上昇し、皮膚が赤黒く変色していく。

 生存本能のリミッターを外し、血流を強制加速させる禁断の絶技。

 それが黒鉄一輝の切り札であり、彼が非才の身で最強格と渡り合うための唯一の翼だった。

 

  「おォ……来たか。テメェのその自爆スイッチ」

 

  流輝は充血していく一輝を見下ろし、鼻で笑った。

 その顔には呆れと、微かな期待のようなものが浮かんでいる。

 一輝は赤黒い瞳で流輝を睨みつけ、地を蹴った。

 速度倍増。神速の領域へと踏み込んだ一撃が、流輝の首元へと迫る。

 

  しかし。

 

  「遅いなァ。相変わらず不細工な身のこなしダサすぎるぜ」

 

  流輝は動かなかった。ただ、その口元を三日月型に歪めただけだ。

 一輝の刃が届くその瞬間、流輝の全身から莫大な熱気が噴き出した。

 

  「一刀修羅、だったか?」

 

  呟き。ただそれだけだった。

 爆発的な加速も、血管の破裂も、皮膚の変色もない。

 ただ、そこに「結果」としての神速が存在した。

 

  ドォォォォン! 

 

  衝突の瞬間、空気力学を無視した暴風が二人を中心に円状に弾けた。

 一輝の一撃は虚空を切り裂き、流輝の手刀は一輝の腹部に深々とめり込んでいた。

 防御すら許されない圧倒的な質量差。

 一輝の体は紙切れのように宙を舞い、中庭の石畳へと叩きつけられた。

 

  「がッ……はッ……!」

 

  石畳が砕ける音。口から大量の血反吐が溢れ出す。

 内臓がひしゃげた感覚。脳が揺さぶられ、視界が真っ白に染まる。

 だが、それ以上に一輝の精神を砕いたのは、明確な「差」だった。

 

  「テメェのソレはなんだ? 自転車に乗った猿みてェなモンだぜ」

  流輝はゆっくりと近づきながら、冷徹に言葉を放つ。

 

  「魔力制御もへったくれもねェ。ただ垂れ流してるだけじゃねェか。

 もっと丁寧に魔力制御に気を使えッつってんだよ、グズが」

  流輝の全身からは、依然として膨大な魔力が漏れ出していた。

 だが、それは制御され、無駄なく収束されている。

 彼の一撃には迷いも無駄もない。必要な時に必要な分だけ出力を絞り、

 叩きつけた瞬間だけ全開へとシフトする。ONとOFFの完璧な切り替え。

 燃料を垂れ流す一輝など足元にも及ばない燃費と出力。

 

  「見ろよ。これが完成形だ」

 

  流輝が右手を掲げる。その指先に収束した赤黒い光。

 一輝が生涯かけても到達できなかったであろう理想郷が、そこにはあった。

 あまりにも美しく、あまりにも残酷な才能の結晶。

 

  「あぁ……あぁぁ……」

 

  一輝は石畳に大の字になりながら、その光景を見つめていた。

 理解できなかったわけではない。最初からわかっていたのだ。

 自分とこいつでは背負っている運命の質量が違うことを。

 それでもなお、その圧倒的な事実を突きつけられた時、

 彼の中で何かが決定的に壊れた音がした。

 

  (奪われた……)

 

  まただ。また奪われた。

 自分の切り札すらも、この男にとってはただのおもちゃに過ぎない。

 西園寺に妹を奪われたあの日と同じだ。

 自分は何一つ守れない。ただ奪われるだけの存在。

 

  その認識が、背骨を駆け上がり、脳髄を直接叩く電流となった。

 身体の芯から這い上がってくるどす黒い衝動。

 絶望が反転し、歪んだ歓喜となって全身を支配していく。

 

  (そうだ……僕は奪われるためにいるんだ……!)

 

  「あは……あははは……!」

  一輝は血まみれの口元を歪ませて笑った。

 砕かれた肋骨が肺を刺す激痛。引き裂かれた内臓の感覚。

 それらすべてが甘美な愛撺のように感じられる。

 

  「あぁ……いいよぉ……すごく……いい……」

  恍惚とした声で呟きながら、彼は自分の腹部を這うように撫でた。

 流輝に穿たれた傷口から溢れる血を手ですくい取り、

 まるで聖水でも浴びるかのように自らの顔に塗りたくる。

 

  「テメェ……イカれてんな」

  

 

 

 流輝の声には、明確な軽蔑と、微かな──本当に微かな──戸惑いが混じっていた。

 

  目の前で血まみれになりながら、恍惚とした表情で自らの血を啜る男。

 痛みに悶えるのではなく、歓喜に身をよじる男。

 その姿は、流輝がこれまで見てきたどんな敗者とも違っていた。

 敗北を認めない意地でもなく、狂戦士の暴走でもない。

 ただ純粋に、傷つけられることに快楽を見出しているような、

 倒錯したメスの眼差しだった。

 

  「……気色悪ィ」

 

  流輝は吐き捨てるように言った。

 そして、《無創》をスライム状に戻すと、

 汚いものでも見るかのような目で一輝を見下ろした。

 

  伐刀者ってのは、多少、特殊な力が有るだけで個人差だと思っていた。

 実際、実家の近所に住んでいたおばさんが伐刀者だったが、

 スーパーの特売日に倍のスピードで走り回る以外は至って普通の人間だった。

 だが、こいつらは違う。

 剣聖だの剣帝だのと肩書きを並べ、血と汗と鉄にまみれた生活を美徳とし、

 勝つためなら手段を選ばず、負けるくらいなら死を選ぶような連中。

 武人? いやいや、ただの暴力ジャンキーだろ。

 根幹が武人、殺伐とした武家上がりの連中とはどうも話が合わない。

 流輝はそう確信しつつあった。

 

  「進学先、ミスったかもなァ……」

 

  溜息交じりに独りごちる。

 健全な男子高校生が楽しむべき青春の1ページなど、

 この學園には存在しないのかもしれない。

 あるのは泥と血と、倒錯した快楽だけ。

 花も恥じらう乙女とキャッキャウフフするのが高校生だろうが。

 なんで俺様が、こんなイカれた男の相手をしなきゃならねェんだ。

 

  「ま、いいや。いい加減授業出ろや、不良騎士」 

 流輝は背を向け、その場から立ち去ろうとした。

 夕日が長く伸びる影を落とし、血まみれの一輝を置き去りにする。

 その背中には、明確な拒絶の意志が漂っていた。

 

  芝生の上で伸びる一輝は、去っていく流輝の背中を虚ろな目で見つめていた。

 その瞳には光は宿ってはいない。ただ、体内を巡る熱い衝動だけが、

 彼の心臓を早鐘のように打ち鳴らしていた。

 

  「あは……はは……。また……来るよ……」

 

  壊れたレコードのように呟きながら、一輝は空を見上げた。

 夕焼けに染まる空が、まるで自分の体内のように赤黒く見えた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 魔導騎士とやらは、総じてイカれている。

 

  薄暗い廃倉庫の中、湿ったコンクリートの匂いを嗅ぎながら、

 蛮場流輝は改めてそう確信した。電子生徒手帳に

『待機』の二文字が表示されたかと思えば、次の瞬間には『出動』。

 特別招集。なんと勇ましい響きだろうか。

 だがその実態は、まだ学生である十代の若人を

 犯罪組織の壊滅などという生臭い戦場へと放り込み、

 血と鉄の味を舐めさせるための仕掛けに過ぎない。

 

  破軍学園も破軍学園だ。

 唯々諾々と学生を差し出すとは、教育機関としてのモラルは犬に食われたのか? 

 それとも、これが彼らの言う「実戦経験を積ませる」という教育なのか。

 ならば彼らの言う教育とは、屠殺場で豚を捌く作業を見学させるようなものだ。

 狂っている。紛れもなく狂っている。

 

  そして何より、隣を歩く男もまた、同類だ。

 

  「……ねえ、蛮場君」

 

  黒鉄一輝が怪しげな熱を孕んだ声で呼びかけてくる。

 その目は潤んでおり、頬は紅潮し、呼吸は荒い。

 まるで愛しい恋人の腕の中にいるかのような甘美な表情だ。

 だが、彼が見つめているのは流輝ではなく、

 廃倉庫の奥から聞こえてくる銃声と怒号だ。

 

  「今日の任務……危ないよね? 怪我するかもね……?」

  その声には明らかな期待が含まれていた。

 かつて西園寺智樹に妹を奪われたトラウマが、

 痛みと敗北を倒錯した快楽へと変換された結果がこれだ。

 傷つけられることに飢えた堕天使。

 

  「テメェ……さっきから何回も同じこと聞きやがって。

 心配すんな、俺様がいりゃテメェは死なねェよ。その代わりボコボコにはなるがな」

  流輝は鬱陶しそうに答えた。

 正直なところ、こいつとペアを組まされたこと自体が不運だと思っている。

 せっかくの美少年が台無しだ。もっとこう、

 健気で純粋な心を持った少年なら、弄びがいもあったものを。

 

  (チッ……マジでテンション下がるぜ)

 

  流輝は舌打ちをした。

 せめて女子生徒とペアを組ませてくれれば良かったのだ。

 この學園には美しい女が多い。それは認めよう。

 だが、いかんせん男どもが揃いも揃って修羅かマゾかサディストばかりで、

 せっかくの女たちも空気を読まずに剣を振り回す戦乙女ばかりだ。

 

  ふと、廃倉庫の影から数人の男たちが飛び出してきた。

 解放軍の構成員たちだ。手には機関銃やナイフが握られている。

 彼らの目は血走り、伐刀者への憎悪に満ちていた。

 

  「見つけたぞ! 連盟の手先だ!」

  「殺せ! 下等人類の狗め!」

 

  銃口が火を噴く。轟音と硝煙。

 鉛の雨が降り注ぐ中、流輝は涼しい顔で歩を止めなかった。

 

  「あぁァ? 犬ってのはテメェらだろ? 

 牙を抜かれて、鎖に繋がれて、大人しく吠えてりゃいいんだよ」

  流輝は《無創》を鞭のように伸ばした。

 半流動体の黒い鞭が大気を裂き、銃弾を弾丸のように弾き飛ばす。

 そして次の瞬間、その鞭は男たちの武装を易々と奪い取り、

 四肢を縛り上げた。まるで蜘蛛の糸で絡め取られた蝶のように。

 

  「ひぎゃああああッ!」

  男たちの悲鳴が響く。骨がきしむ音。

 だが流輝は無表情のまま、さらに鞭を締め上げた。

 相手が非伐刀者だろうと容赦しない。これが戦場だ。

 慈悲などあるわけがない。

 

  その時だった。

 

  「あぁッ……!」

 

  一輝の甘い吐息が聞こえたのは。

 流輝が横目で見ると、一輝は一名の構成員と対峙していた。

 男はパニックになり、無造作にナイフを振り回している。

 その刃が一輝の頬を掠め、赤い血筋が走った。

 

  「はぁ……はぁ……いいよぉ……」

 

  一輝は恍惚とした表情でその傷口に指を這わせた。

 溢れ出る血液を指先ですくい取り、唇へと運ぶ。

 赤い液体が白い肌を伝い、舌先で舐め取られる。

 その姿はあまりにも淫靡で、背徳的だった。

 

  「僕を……もっと……傷つけて……!」

 

  一輝は男に向かって自ら突進していった。

《陰鉄》を構えることなく、ただ身体を投げ出すようにして。

 男は驚愕し、反射的にナイフを突き出した。

 刃が一輝の肩に突き刺さる。

 

  「あぐッ……! あぁぁ……!」

 

  一輝は喉を反らし、天井を仰いだ。

 その瞳は焦点が合っていない。ただ快楽に浸りきった雌の目だ。

 肩に突き刺さったナイフを抜こうともせず、

 むしろその傷口を自らの手で掻きむしるように押し広げる。

 

  「……イカれてんな」

 

  流輝は再度呟いた。

 この世界は狂っている。こいつも狂っている。

 そして何より、こんな狂った世界に身を置いている自分もまた、

 どこか正常な感覚を失っているのかもしれない。

 

  (まぁいいさ……少なくとも)

 

  流輝は視線を廃倉庫の奥へと向けた。

 そこには、同じく特別招集を受けた女子生徒たちの姿があった。

 戦闘服に身を包みながらも、その肢体は艶めかしく輝いている。

 汗ばんだ肌、息遣い、躍動する筋肉の美しさ。

 

  (女子生徒は美人が多いんだけどなぁ)

 

  流輝は不敵に笑った。

 この狂った世界で唯一の救いは、そこだけだ。

 美しい女。甘い蜜。それだけが彼をこの地獄に繋ぎ止める鎖だ。

 

  「さて……さっさと終わらせるか」

  流輝は《無創》を振るい、残る敵を掃討するために歩き出した。

 背後では未だに一輝の甘い嬌声が響いている。

 それをBGMにしながら、流輝は再び戦場へと身を投じた。

 ◆◆◆

 処は変わり、湿った闇が澱む解放軍のアジト。

 

  そこに君臨するは、

 岩窟が人の形を取ったならばさぞやこうであろうという男、梶野兵吾。

 かつて陸軍情報局という謀略の迷宮を十四年にわたり彷徨い、

 上官への反逆という形でその迷路から脱した落伍者。

 今は反体制組織「曙光」を牽引する革命家を自称しているが、

 その実態は世界への怨嗟と己の劣情を吐露することしか能のない亡者に過ぎない。

 

  右眼窩には赤錆びた義眼が填め込まれ、そこから伸びる血管模様が

 異彩を放つその顔貌は、畏怖と嘲笑が同居する悪鬼のようだ。

 白髪混じりの天然パーマが鬣のように拡がり、鼻梁は高く彫りが深い。

 全体的に荒削りで野卑な印象を与えるその姿は、

 どこか男性的な魅力を漂わせていると同時に、

 底知れぬ孤独とコンプレックスの臭いを放ってもいた。

 

  「チッ……雑魚どもが!」

 

  兵吾は舌打ちをした。

 目の前で繰り広げられているのは一方的な蹂躙のはずだった。

 彼の配下たちが構える自動小銃からの鉛の雨は、

 如何なる魔導騎士といえど無傷で突破できるものではない。

 ましてや相手はDランク程度の小娘。数で押し潰せるはずだった。

 

  だが、現実は兵吾の予想を裏切っていた。

 

  「うおぉぉっ! 速すぎる!」

 

  配下の悲鳴が木霊する。

 弾幕を掻い潜り、疾風となって迫る影がある。

 橙色の閃光。兎丸恋々。

 その二つ名「速度中毒(ランナーズハイ)」の通り、

 彼女は動けば動くほど速度を上昇させ、

 停止しない限り延々と加速し続ける怪物だった。

 

  (あの脚……なんて美しいんだ……)

 

  兵吾は本能的に息を呑んだ。

 戦場にあるまじき恍惚とした眼差しで、

 彼は迫りくる少女の肢体を舐め回すように観察していた。

 

  マッハグリード。

 その伐刀絶技によって強化された脚力は、

 銃弾の速度すら凌駕する神速の領域に達している。

 だが兵吾の目には、その速さがもたらす肉体的な躍動こそが

 極上のエロティシズムであるかのように映った。

 

  弾丸を避けるたびにしなやかにしなる腰。

 ショートヘアの先端から飛び散る玉のような汗。

 健康的な小麦色の肌は湿り気を帯びて艶めかしく輝き、

 張りのある乳房が激しい動きに合わせて弾むたびに、

 まるで熟れた果実が誘惑するかのように揺れる。

 

  (あぁ……いい。なんて良い腰付きだ)

  

 兵吾の視線は恋々の下半身に釘付けになった。

 小ぶりで引き締まった臀部。

 空手と陸上で鍛え上げられたその筋肉の塊は、

 ただの運動器具などではなく、

 男を跨いで激しく腰を振るためにこそ

 存在しているのではないかと思わせるほどの蠱惑を秘めている。

 

  (あのガキにハイヒールを履かせて……ガーターベルトで縛り上げたい……)

 

  兵吾の脳内で、歪んだ欲望が暴走し始めた。

 彼が抱える重度のED症候群。

 25歳当時の失恋トラウマにより機能を失ったその下半身は、

 本来ならば反応するはずもないはずだった。

 だがしかし、目の前の健康的な肢体はあまりにも魅力的すぎた。

 

  (いや、待てよ……ああいう元気なタイプの子ほど……)

  (縛り上げられれば……泣いて喜ぶんじゃないか?)

  (あのサファイアブルーの瞳を涙で潤ませ……屈託の無い笑顔を歪めて……)

  (恥辱に咽び泣く痴態こそが……最高の救いなのだ!)

 

  妄想が膨らむほどに、彼の股間では久しく忘れていた熱が燻り始めていた。

 昨夜の夢精。あれは決して偶然ではない。

 己の中に眠るドSの血が、目覚めようとしているのだ。

 

  「ハハッ……ハハハハッ!」

 

  兵吾は狂ったように笑い出した。

 配下たちが次々と殴り倒され、悲鳴を上げる中、

 彼だけが愉悦に浸っていた。

 

  「来いッ! その脚で俺を踏みつけに来いッ!」

 

  彼は固有霊装である野太刀〈腐蝕螺鈿〉を抜き放ち、

 その刃先を恋々へと向けた。

 腐爛属性を宿し、触れるもの全てに侵食病変を移す妖刀。

 

  「瘴泥沼(しょうでいしょう)ッ!」

 

  地面が腐蝕し、毒泥が湧出する。

 動けば動くほど膝下から融解していく煉獄。

 だがそれは致死性を持たない拷問のための沼だ。

 

  (逃げ場などないぞ……)

  (ゆっくりと……じっくりと……)

  (その健康的な肉体を汚してやる……)

 

  毒沼の中で足止めを食らった恋々が、

 困惑した表情で立ち尽くす。

 その姿はまさに蜘蛛の巣にかかった蝶。

 兵吾は濡れた唇を舐め回し、狩猟の喜びに身を震わせた。

 

  「さぁ……宴の始まりだ」

  男の笑い声と少女の荒い息遣いが、

 湿った闇の中で溶け合い、背徳的な調べを奏でていた。

 ◆◆◆

 

 

  「くっ……ううっ……!」

 

  兎丸恋々は苛立ちと焦燥に唇を噛んだ。

 普段ならば風となるはずの足が、鉛のように重い。

 動こうとすればするほど、足元の毒泥がねっとりとまとわりつき、

 彼女の自由を奪っていく。

 マッハグリード。その加速の恩恵を受けるためには、

 大地を力強く蹴るための足場が必要だ。

 だがこの沼は、それを根底から否定していた。

 

  (動け……動けよ……! アタシの足……!)

 

  焦れば焦るほどに泥は深みへと引きずり込んでいく。

 まるで底なし沼に嵌まった蟻のように。

 そして恐怖は、すぐそばまで忍び寄っていた。

 

  「あッ……? なにこれ……?」

 

  ふと違和感を覚え、視線を落とした恋々は息を呑んだ。

 黒く濁った泥が、彼女の足首を包み込んでいたブーツを浸食し始めていたのだ。

 革がドロドロに溶け、中身の白いソックスが露わになる。

 だが驚愕する暇もなく、そのソックスさえも飴のように溶かされ、

 健康的な小麦色の素肌が泥に晒されていた。

 

  「ひッ……! 溶けてる……アタシの服が……溶けてる……!」

 

  愕然とする恋々。

 泥は留まることを知らず、さらに這い上がってくる。

 白いプリーツスカートの裾から侵入し、生地をむさぼるように侵食していく。

 シルクの滑らかな手触りは失われ、ボロ布のように無残に崩れ落ちていく。

 

  「いやぁっ……! やめて……やめてよぉッ!」

 

  スカートが溶け落ち、ついに彼女の下半身が露わになった。

 空手と陸上で鍛え抜かれた引き締まった太もも。

 無駄な脂肪など一片もない、しなやかな筋肉の曲線美。

 それが鈍く光る毒泥の中で、白磁のように浮かび上がる。

 

  「おおぉ……」

 

  その光景に、梶野兵吾は陶然と溜息を漏らした。

 彼の義眼が爛々と輝き、赤黒い血管模様が脈打つ。

 腐蝕螺鈿を構えたまま、彼はゆっくりと近づいてきた。

 

  「なんて美しい脚だ……」

  

 ねっとりとした声が鼓膜を犯す。

 兵吾の視線は、恋々の太ももに釘付けになっていた。

 

  「鍛え上げられた筋肉……健康な血色……」

  「あんな短いスカートで走り回り……男たちの視線を集めていたんだろう?」

 

  「ち……ちがう……! これは……戦うための……!」

  

 恋々は必死に否定したが、その声は震えていた。

 羞恥心が胸を締め付ける。

 戦闘服として選んだミニスカートだが、

 今この瞬間だけは、それが男たちの欲望を煽るための衣装に見えてしまった。

 

  「嘘をつくな。テメェは気づいていたはずだ」

  「男たちがテメェの尻を見ていたことに……」

  「その脚で走り抜けるたびに、股間を熱くさせていたことに……」

 

  「やだ……言わないで……!」

  

 恋々は太ももを擦り合わせようとしたが、

 泥の抵抗に阻まれ、動くことさえできない。

 ただただ無防備に、男の視線による陵辱を受け入れるしかなかった。

 

  (ああ……なんて惨めなんだ……)

 

  速さだけが取り柄だった。

 誰よりも速く走り、誰よりも速く敵を倒す。

 それが自分の存在意義だと信じてきた。

 だが今、その速さを封じられ、

 ただの無力な少女として足元を汚されている。

 

  「安心しろ。すぐに終わりにはしない」

  兵吾は野太刀を突きつけながら、猥雑に笑った。

 

  「その脚によく似合う革靴と……白いガーターベルト……」

  「それらで俺を蹴り上げてくれるなら……」

  「俺はテメェを最高に気持ちよくしてやるぞ」

 

  狂人の妄言。

 だがその瞳にあるのは純度百パーセントの欲望。

 歪みきった愛情表現。

 毒泥はさらに這い上がり、今や彼女の太ももの付け根まで到達しようとしていた。

 白いショーツが泥に染まり、淫靡なコントラストを描き出す。

 

  「あぁ……あぁぁ……」

  恋々は力なく首を振った。

 絶望と羞恥の中で、彼女のサファイアブルーの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 それは毒泥の中へと吸い込まれ、跡形もなく消えていった。

 ◆◆◆

 

「腐哭餓蛆(ふこくがしょ)」

 

  梶野兵吾が野太刀を一閃させると同時に、

 刀身から立ち昑いた腐液が霧散し、甘い腐臭を孕んだ桃色の瘴気が満ち渡った。

 それは嗅覚という物理的な感覚を超越し、

 直接脳髄へと侵入する精神汚染の霧。

 自己暗示の牢獄に囚われる者すら出るというこの伐刀絶技は、

 今や彼の歪んだ欲望によって「媚毒」として機能していた。

 

  「んぐっ……ぅ……!?」

 

  兎丸恋々は反射的に口を覆ったが、すでに遅かった。

 桃色の霧は彼女の毛孔という毛孔から浸透し、

 健康的な血液と混ざり合って全身を駆け巡り始めたのだ。

 

  (なに……これ……熱い……!)

 

  身体の芯から湧き上がる熱波。

 まるで細胞の一つ一つが発情したかのような猛烈な熱量。

 先程まで戦闘のために張り詰めていた筋肉が、

 急激にその緊張を解きほぐされ、別の意味での弾力を帯び始める。

 

  「はぁ……はぁ……ぁぁ……」

 

  荒い吐息が漏れる。

 それまでの戦場に似つかわしくない、甘く粘着質な喘ぎ声。

 恋々は自身の異変に気づき、愕然とした。

 太ももの内側に走る痺れ。下腹部で疼く空虚な渇望。

 それらは明らかに、雌としての本能が目覚めた証だった。

 

  「おやおや……もう効いてきたか?」

 

  兵吾は愉悦に歪んだ顔で近づいた。

 泥沼の中で力なく膝をつく少女の姿は、

 さっきまでのボーイッシュで快活な麗姿とは似ても似つかない。

「仮にも魔導騎士が……」

  「こうもあっさりとメスの顔をするとはな」

 

  その言葉通り、恋々の顔つきは変貌していた。

 サファイアブルーの瞳は潤み乱れ、焦点が定まらない。

 健康的な小麦色の肌は羞恥と欲情で紅潮し、

 汗ばんだ肌は艶めかしく光り輝いている。

 触角のように立っていたアホ毛も今は力なく垂れ下がり、

 彼女の無防備さを強調する飾りへと成り下がっていた。

 

  「いやぁ……こんな……こんなの……ぁぅッ!」

 

  恋々は無意識に自分の身体を抱きしめた。

 だがその手は皮膚を愛撫するように動き、

 張りのある乳房を押し潰すように揉みしごいてしまう。

 乳首が服の上からでもわかるほど硬く尖り、

 布地と擦れるたびに背筋を駆け上がる快感に身をよじる。

 

  (ああ……ダメ……触っちゃダメなのに……)

  (なんか……おかしくなっちゃう……もっと触りたい……)

 

  媚毒は確実に彼女の精神を蝕んでいた。

 戦う意志は霧散し、代わりに肉棒を求める渇望が湧き上がる。

 これは自己暗示の牢獄だ。

「自分は男に犯されるための雌だ」という強烈な刷り込みが、

 彼女の理性を食い破ろうとしていた。

 

  「ふふっ……良い眺めだ」

 

  兵吾は舌なめずりをした。

 彼のフェチズムであるガーターベルトとハイヒール。

 それらをこの少女に履かせたいという妄想が、

 現実の光景と混ざり合い、脳内で極上のポルノ映像を再生させる。

 

  (ああ……白いガーターベルトで縛られた太もも……)

  (ハイヒールで俺を踏みつける屈辱的な表情……)

 

  実際の恋々は泥にまみれながらも、

 そのボーイッシュな肢体からは計り知れない色気が漂っていた。

 鍛え上げられた腹筋の溝が汗で濡れて光り、

 その下にある秘所は痙攣するように愛液を垂れ流している。

 

  「あぁンッ……! おかしい……アタシ……おかしくなるぅッ!」

 

  恋々は頭を振り乱し、甘い嬌声を上げた。

 もう誰が見ているかなんてどうでもいい。

 ただこの身を焦がす熱を鎮めてくれる強い腕を求めている。

 速さを誇った彼女の足は今や、

 男の腰を挟み込むために開かれることを渇望していた。

 

  「どうした? 速さ自慢の脚はもう使わねェのか?」

 

  兵吾は野太刀の切っ先で恋々の顎を持ち上げた。

 冷たい金属の感触に、恋々の身体はビクンと跳ねた。

 恐怖ではなく、期待による跳ね上がり。

 

  「あぁ…………助けて……アタシ……変になっちゃったぁ……」

 

  助けを求めながらも、その視線は兵吾の股間へと吸い寄せられていた。

 ED症候群であるはずの兵吾だが、

 この極限状況と少女の堕落ぶりによって、

 股間では久しく忘れていた血潮が奔流となって脈打ち始めていた。

 

  (俺のだ……このメスは俺のだ……!)

 

  支配欲と性欲が混ざり合い、彼の中で爆発する。

 腐蝕螺鈿が再び輝きを増した。

 

  男の狂気と少女の甘い吐息が交錯し、

 廃倉庫は深淵のような快楽の坩堝と化していた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「安心しな。テメェのその脚にガーターベルトを履かせてやる」

  「最高に淫らな雌にしてやるよ」

 

  狂人の宣告。だがそれは、今の兎丸恋々にとって救いの言葉のように響いた。

 媚毒が回った脳髄は正常な判断力を失い、ただ男からの刺激を渇望している。

 彼女は潤んだ瞳で兵吾を見上げ、無防備に唇を開いた。

 

  「あぁ……ぁぁ……お願ぃ……」

 

  懇願。速さを誇った戦乙女の口から出たとは思えない、甘ったるい喘ぎ。

 兵吾はその瞬間、全身の毛穴が開くような快感を覚えた。

 右眼窩の義眼がギョロリと動き、赤黒い血管模様が脈打つ。

 彼は泥沼の中に膝をつき、少女の顎を鷲掴みにした。

 

  「んっぅ……!」

 

  強引な接吻。

 荒削りで野卑た男の唇が、恋々の柔らかなピンク色の唇を塞いだ。

 だがそれは愛の口づけなどではない。

 侵略であり、汚染であり、魂の拷問だった。

 

  「ふぅ……ぅぅ……!」

 

  兵吾の口から、濃密な桃色の霧が恋々の口腔内へと吐き出された。

 腐哭餓蛆。直接粘膜から流し込まれる媚毒の原液。

 それはたちまち恋々の喉を伝い、

 食道を焼き尽くすような熱さで胃袋へと沈み込んでいった。

 

  (あつっ……! なにこれ……! お腹の中が……熱いッ!)

 

  内臓から直接犯される感覚。

 毒は血液に溶け込み、全身の神経末端を痺れさせ、快楽へと変換していく。

 筋肉を硬直させたり緩めたりする電流信号が、

 すべて性的な歓喜として処理されていくのだ。

 恋々は兵吾の胸板を弱々しく叩いたが、それは拒絶というよりは、

 背徳的な前戯のようにしか見えなかった。

 

  「んちゅ……ぢゅる……れろぉ……」

 

  舌が絡み合う水音が響く。

 ねっとりと、粘つくように口腔内を蹂躙する男の舌。

 恋々の小さな舌は翻弄され、絡め取られ、根こそぎ汁液を啜られていく。

 唾液が混ざり合い、糸を引いて滴り落ちる。

 その光景は余りにも淫靡で、背徳的だった。

 

  (やだ……こんなの……キスなんて……初めてなのに……)

  (なのに……気持ちいい……っ! 頭が真っ白になっちゃうぅ……!)

 

  悲哀。屈辱。そして抗えない快感。

 恋々の目からとめどなく涙が溢れ出した。

 サファイアブルーの瞳が潤み、長い睫毛に涙の雫が絡みつく。

 それは戦場での悔し涙ではなく、女としての情けない涙だった。

 

  「ぷはッ……! はぁ……はぁ……ぁぁんッ!」

 

  唇が離れると同時に、恋々は甘い嬌声を漏らした。

 透明な糸が二人の唇を繋ぎ、すぐにプツリと切れた。

 彼女の顔は紅潮し、口元にはだらしなく涎が垂れていた。

 ボーイッシュで快活だった少女の面影はどこにもない。

 そこにいるのは、ただ男の精気を求めて息づくメスだけだった。

 

  「どうだ? 俺の毒の味はよォ」

 

  兵吾はニタリと笑い、親指で恋々の唇を拭った。

 その指先は彼女の愛液と男の涎で濡れていた。

 

  「ひぅッ……! いやぁ……汚い……汚いのに……」

  「もっと……もっと欲しいって……体が言ってるぅ……!」

 

  恋々は自身の身体を抱きしめ、首を振った。

 わかっている。これは媚毒のせいだ。精神汚染のせいだ。

 本来ならば決して抱くことのない男に、体だけが反応してしまっているだけだ。

 だが、その理屈すらも霞んでしまうほどに、今の彼女は快楽に溺れていた。

 

  (アタシは……速さ自慢の兎丸恋々なのに……)

  (こんな……臭いオジサンに……キスされて……感じてるなんて……!)

 

  あまりにも惨めな現実。

 だがその惨めさこそが、更なる快感へのスパイスとなっていた。

 征服される屈辱。汚される羞恥。

 それらが複雑に絡み合い、彼女の子宮を痙攣させる。

 

  「へへッ……素直じゃねェなァ」

  「体は正直だぜ? ほらよ」

 

  兵吾の手が恋々の身体を這い回った。

 泥にまみれた制服の上から、乳房を鷲掴みにする。

 鍛え抜かれた胸筋の弾力。それが男の手の中で形を変える。

 

  「あンッ! そこ……ダメぇッ!」

 

  乳首が硬く尖り、布地越しでもわかるほど主張している。

 兵吾の親指がその先端を擦り上げると、

 恋々は背中を反らし、蛙のように跳ねた。

 

  「いい反応だ。さてはテメェ、乳首でイクタイプだな?」

  「ち……ちがう……! んぁッ……! んくぅッ……!」

 

  否定する言葉は甘い喘ぎに変わる。

 兵吾の手はさらに下へと滑り落ちた。

 泥に溶かされたスカートの残骸をかき分け、

 太ももの内側へと指を這わせる。

 

  (ああ……そこは……!)

 

  恋々は息を呑んだ。

 太ももの付け根。最も敏感な部位に男の熱い指先が触れようとしている。

 速さの象徴であったその脚は今、男の手によって開かれようとしていた。

 

  「ひッ……! いやっ! 触るなぁッ!」

 

  恐怖と期待。拒絶と歓迎。

 二つの矛盾した感情が胸の中で激突する。

 しかし媚毒は容赦なく彼女を選択へと追いやった。

 

  「さあ……本当のテメェを見せてみろよ」

 

  兵吾の指がショーツの上から秘所を押し潰した瞬間───

  恋々は大きく口を開け、絶頂の嬌声を上げた。

 

  「あああああッ♡!!」

 

  ボーイッシュな仮面が剥がれ落ちた。

 そこにはただ、快楽に溺れゆく一人の哀れな少女の姿があった。

 毒と欲情に塗れた廃倉庫で、少女の尊厳は音を立てて崩れ去る。

 

 

  「はぁ……はぁ……あぁぁ……♡」

 

  絶頂の余韻に身をよじらせる兎丸恋々の姿は、

 あまりにも無惨で、そして淫らだった。

 ボーイッシュなショートヘアは汗で張り付き、

 サファイアブルーの瞳は快楽の虜となって虚ろに泳いでいる。

 速さを誇った両足は泥の中で無様に開かれ、

 戦うための拳は今や男の背に爪を立てるためだけに震えていた。

 

  「へへッ……良い眺めだぜ。破軍学園のエリート様がよォ」

 

  梶野兵吾は下卑た笑い声を漏らした。

 彼の手は容赦なく恋々のショーツに掛かっていた。

 白い布地は既に愛液と泥でぐしゃぐしゃに汚れ、

 彼女の恥部を隠す機能など果たしていなかった。

 

  「いやっ……! 脱がさないで……お願ぃ……!」

 

  恋々は弱々しく抵抗したが、それはむしろ男を煽る挑発にしかならなかった。

 兵吾は乱暴にショーツを引き裂いた。

 ビリビリという乾いた音が響き渡り、

 健康的な小麦色の肌とピンク色の秘所が、

 濁った空気の中に完全に晒される。

 

  「ひぃッ……!」

 

  直射日光のような羞恥。

 恋々は咄嗟に足を閉じようとしたが、泥の抵抗と男の腕に阻まれた。

 彼女の秘所は小さく痙攣し、とめどなく蜜を垂れ流している。

 それはもはや戦乙女の武装ではなく、

 雄を誘うメスの蕾だった。

 

  「おおぉ……」

 

  兵吾の喉から感嘆のため息が漏れた。

 彼の義眼が爛々と輝き、視線が太ももの付け根に釘付けになる。

 だが彼の手はまだそこには触れず、

 一旦離れ、自身の野太刀の柄を握りしめた。

 

  (ああ……ガーターベルトだ……)

  (白いガーターベルトで縛られた太もも……そこから覗く秘所……)

  (ハイヒールで踏みつけられる屈辱……)

 

  彼の中にある強迫観念的なフェチズムが猛然と首をもたげた。

 ただヤるだけなら今すぐにでもいける。

 だが彼はそれを拒んだ。

 彼が欲しいのは「飾られた雌」だ。

 ただの裸体など糞食らえだ。

 拘束具と高跟鞋による征服こそが、彼の枯渇した性器を蘇らせる唯一の薬なのだから。

 

  「残念だなァ……今は手元にテメェに似合いの革靴とガーターがねェ」

 

  兵吾は残念そうに呟きながらも、

 その太い指で恋々の内ももをなぞり上げた。

 

  「だが想像するくらいはイィだろォ?」

 

  「え……?」

 

  「テメェのその脚に白いガーターを巻き付けてる姿を想像してみろ」

  「黒い網タイツで縛り上げられ……ハイヒールで俺の胸板を踏み砕く姿をよ」

 

  耳元で囁かれる猥雑な言葉。

 それは想像力という翼を与え、恋々の脳内に鮮明な映像を描き出させた。

 自分がそんな倒錯した衣装を身に纏い、

 目の前の薄汚い男に踩躙されている姿。

 屈辱だ。吐き気がするほど惨めだ。

 だが、その惨めさが背徳的な熱となって子宮を焦がした。

 

  「いやぁ……そんなの……変態じゃない……!」

 

  「否定すんな。テメェのここは喜んでるぜ」

 

  兵吾の中指が濡れた秘裂に沿って滑り込んだ。

 溢れ出る愛液が指を受け入れ、ヌルリと音を立てて侵入する。

 

  「あンッ♡!」

 

  背骨を駆け上がる電流。

 媚毒によって過敏になった粘膜が、異物の侵入を歓喜して迎え入れた。

 兵吾は容赦なく指を奥へと進めた。

 熱く脈打つ肉壁が彼の指を締め付ける。

 

  (ああ……入ってくる……! オジサンの指が……!)

 

  速さを誇った自分が、指一本で弄ばれている。

 逃げることもできず、ただ快楽の波に翻弄されるだけ。

 その無力感が、さらに彼女を深淵へと突き落としていた。

 

  「おォ……キツイな。それに熱い」

  「まるで溶鉱炉みてェだ」

 

  兵吾は指を動かし始めた。

 抽送。かき回す。膨らんだ肉壁を押し潰すように愛撫する。

 そのたびに恋々はビクンビクンと跳ね上がり、

 抑えきれない嬌声を漏らした。

 

  「あッ! あッ! そこ……ダメぇッ! 壊れちゃうぅッ♡!」

 

  「壊れちゃいねェよ。テメェはまだ始まったばかりだ」

 

  さらに本数を増やし、二本、三本と挿入される。

 秘口が限界まで押し広げられ、秘肉が指に絡みつく。

 恥ずかしい水音が響き渡り、彼女の理性を削り取っていく。

 

  (ああ……アタシ……犯されてる……)

  (気持ちいい……もっと奥まで……掻き回してほしい……っ!)

 

  もはや拒絶の言葉は出なかった。

 あるのはただ、より深い快楽への渇望だけ。

 恋々は自ら腰を振り始めた。

 泥の中で不格好に蠢きながら、男の指を貪るように腰を使う。

 

  (ああ……なんて浅ましいんだろう……)

  (でも……でも止まらないよぉ……!)

 

  悲哀と快楽のコントラスト。

 それは兵吾にとって最高のご馳走だった。

 彼の股間では、久しく忘れていた男が完全に蘇り、

 痛いほどにそそり立っていた。

 

  「へへッ……準備万端ってところか?」

 

  兵吾は指を抜き取り、ベルトのバックルに手を掛けた。

 じゅぽんという粘着質な音と共に指が引き抜かれ、

 愛液が糸を引いて光る。

 

  「さあ……いよいよ本番だぜ」

 

  少女の運命は、泥沼の中で完全に塗り替えられようとしていた。

 

 

 

 

  梶野兵吾はベルトのバックルを引き下ろした。

 錆びついた金属音が響くたびに、

 兎丸恋々の心臓は早鐘のように打ち震えた。

 恐怖か、それとも期待か。

 媚毒に蝕まれた彼女の理性には、もはやその区別さえつかない。

 

  ドサリとズボンが落ちる。

 そして現れたのは、彼が抱えるコンプレックスの塊であり、

 同時に久しく忘れていた男としての証だった。

 

  「あ……」

 

  恋々は息を呑んだ。

 充血し、怒張したそのモノは、

 彼女の知らない世界への入り口のように悍ましく、

 それでいて抗いがたい魅力を放っていた。

 

  「見ろよ……テメェのせいでこんなになっちまった」

 

  兵吾は自身のモノを手でしごきながら、ニタリと笑った。

 25歳の時の失恋トラウマによって凍り付いていた血流が、

 目の前の少女の壮絶な痴態によって融解し、

 奔流となって股間へと集中している。

 

  (ああ……すげぇ気分だ……)

  (俺は……生きてる……!)

 

  彼は泥沼の中に膝をつき、恋々の両足を大きく割り開いた。

 泥にまみれた太ももが白磁のように輝き、

 その奥にある秘所が無防備に露出する。

 溢れ出る愛液が糸を引き、彼を誘っているようだった。

 

  「いくぞォ……!」

 

  兵吾は腰を押し込んだ。

 亀頭が秘唇をこじ開け、熱く脈打つ肉壁の中へと侵入していく。

 処女喪失の痛みが走るはずだった。

 だが媚毒はそれすらも快楽へと変換し、

 彼女の脳髄にただ一つの信号だけを送り届けた。

 

  「あぐッ♡! あぁぁぁッ♡!!」

 

  悲鳴か嬌声か。

 恋々は背中を反らし、トランポリンのように跳ね上がった。

 目の前が真っ白になる。

 異物が体内にねじ込まれる圧倒的な充填感。

 それは彼女が今まで味わったことのない「速さ」よりも、

 遥かに激しく彼女を突き動かしていた。

 

  「おォ……! きっつ……! きつすぎるぞコラァ……!」

 

  兵吾もまた呻いた。

 彼の竿部中央にある小さな疣痔のようなコンプレックスが、

 肉壁のヒダを擦り上げるたびに強烈な摩擦を生み出す。

 それは彼にとって恥ずべきものでありながら、

 今この瞬間だけは少女を責め立てる凶器となっていた。

 

  「ひぃッ♡! なに……これ……! 何か当たって……!」

 

  「へへッ……当たってるんじゃねェよ。食い込んでるんだ」

  「テメェの中に……俺の全てがなァ!」

 

  兵吾は腰を打ち付け始めた。

 ズンズンとリズム良く、しかし容赦なく。

 泥沼が波打ち、汚れた水飛沫が上がる。

 その中で繰り広げられるのは、

 人間としての尊厳など欠片もない獣のような交尾だった。

 

  (ああ……ダメ……壊れる……!)

  (アタシの中で……オジサンが暴れてる……!)

 

  恋々は頭を振り乱した。

 速さを誇った自分が、男の腰使い一つで翻弄されている。

 逃げることも逆らうこともできず、

 ただ快楽の波に漂う木の葉のように揺れるだけ。

 

  (もっと……もっと奥まで……!)

 

  だが同時に、彼女の心の奥底で声が響いた。

 媚毒が描き出す自己暗示の牢獄。

 そこにはガーターベルトで縛られ、ハイヒールで踏みつけられる

 もう一人の自分がいた。

 倒錯した支配。被虐の歓喜。

 それらが現実の感覚と混ざり合い、

 彼女を至高の快楽へと導いていく。

 

  「あッ♡! あッ♡! そこ♡! そこ良いぃッ♡!」

 

  「どォだ! どォだァ!」

 

  兵吾は喘ぎながら叫んだ。

 彼の脳内でもまた妄想が暴走していた。

 目の前の健康的な少女の姿が、

 いつしか白いガーターベルトを身に纏った幻影へと重なる。

 

  (そうだ……踏みつけろ……! そのハイヒールで……!)

  (俺を罵倒しながら……俺の上で腰を振るんだ……!)

 

  「見ろよ! テメェのその脚にガーターが見えねェか!」

 

  「えっ……? ガーター……?」

 

  「白い革のブーツで……俺を蹴り上げろッ!」

 

  狂人の妄言。

 だが媚毒に侵された恋々には、それが現実として知覚された。

 自分の太ももに白い革ベルトが巻き付けられ、

 足先には鋭いヒールのあるブーツが履かされているような幻覚。

 

  「あぁ……♡ 見える……見えるぅ……♡」

 

  「踏みつけてやる……♡ オジサンなんか……踏み潰してやる……♡」

 

  禁断の言葉が口をついて出た。

 それは彼女の本心ではなく、

 兵吾の歪んだ欲望が描き出させたシナリオだった。

 だがその言葉を聞いた途端、兵吾は限界を迎えた。

 

  「くぅッ……! 出るッ……! 出ちまうぞォッ!」

 

  彼は大きく腰を引き、そして深く突き刺した。

 亀頭が子宮口を殴打する。

 同時に大量の精液が注ぎ込まれた。

 

  「ああああああッ♡!!!」

 

  恋々は白目を剥き、絶頂した。

 脳髄が溶け出すような快感。

 子宮が精液を貪るように収縮し、男の種を受け入れる。

 それはあまりにも残酷で、

 あまりにも甘美な敗北だった。

 

  「はぁ……はぁ……」

 

  二人は重なり合ったまま荒い息を吐いた。

 泥沼の中で冷えていく体とは対照的に、

 結合部だけが熱く脈打ち続けていた。

 

  (アタシは……負けたんだ……)

 

  恋々は虚ろな目で天井を見上げた。

 速さも強さも意味を持たないこの場所で、

 彼女はただのメスとして敗北したのだ。

 

  (でも……まだ……足りない……)

 

  子宮の奥で疼く渇望。

 それはまだ癒されていなかった。

 媚毒は彼女に永遠に終わらない快楽地獄を約束していた。

 

  「へへッ……まだまだ終わらねェぞ」

 

  兵吾は耳元で囁き、再び腰を動かし始めた。

 彼の中で蘇った男は、

 一度や二度の放出では満足できないほど飢えていたのだ。

 

  「さあ……次はテメェが上に乗れよ」

 

  「そのガーターベルトで……俺を支配するんだ」

 

  梶野兵吾の狂気じみた命令が、兎丸恋々の耳孔を犯した。

 媚毒に蝕まれた彼女の脳髄は、その命令を絶対的な福音として受信する。

 彼女は泥沼の中で不格好に体勢を入れ替えた。

 ズブズブと音を立てて兵吾の肉棒が抜け落ちると、

 空虚感が子宮を襲い、思わず切ない声が漏れる。

 

  「あぅ……♡ 寂しい……♡」

 

  だが彼女はすぐにその空虚を埋める方法を知っていた。

 恋々は兵吾の腹の上に跨り、泥にまみれた太ももで男の腰を挟み込んだ。

 本来ならば蹴り上げるために鍛えられた脚。

 それが今は、雄を受け入れるための肉の枕へと成り下がっている。

 

  「へへッ……そうだ……その脚だ……」

 

  兵吾は恍惚とした表情で、恋々の太ももに手を這わせた。

 ごつごつとした男の手が、張りのある肌を弄ぶ。彼の義眼には、

 少女の素肌に白いガーターベルトが巻き付けられた幻影が焼き付いていた。

 レースの縁取り。弾力のある肌を締め上げる革のベルト。

 それは彼の萎えた心を刺激する最強の媚薬だった。

 

  「見ろよ……似合ってるぜ……白いガーターがよォ」

 

  「あぁ……♡ 見える……♡ アタシの脚に……白いベルトが食い込んでる……♡」

 

  恋々もまた幻覚を見ていた。

 自分の太ももに食い込む異物感。

 それは拘束の屈辱であるはずなのに、

 倒錯した快感として脳内に響き渡る。

 

  (ああ……アタシは飾られた雌なんだ……♡)

  (オジサンのフェチのために……脚を飾られるだけの雌なんだ……♡)

 

  哀れな戦乙女は自ら腰を沈めた。

 ヌルリという水音と共に、再び肉棒が秘所をこじ開ける。

 自分の体重を利用した深い侵入。

 子宮口まで押し広げられる充填感に、彼女は背筋を震わせた。

 

  「んぐっ♡! 入ってくる♡! 奥まで……奥まで入ってくるぅ♡!」

 

  「おォ……! すげぇ締め付けだ……!」

  「まるで処女みたいじゃねェか……!」

 

  兵吾は下から突き上げるように腰を揺らした。

 泥沼の中で重なり合う二つの肉体。

 それは交尾というよりは、泥遊びに興じる獣のようだった。

 だがその快楽は極上のものだった。

 

  恋々は動き始めた。

 かつて彼女が誇った「マッハグリード」。

 動けば動くほど速度が上昇するその特性は、

 今や別の形で発揮されようとしていた。

 

  (速く……もっと速く……!)

 

  腰を振る速度が上がっていく。

 最初はゆっくりと前後させていた腰が、

 次第に加速度を増していく。

 ピストン運動。

 前後左右、円を描くように回転させたり、

 垂直に打ち下ろしたり。

 

  「あッ♡! あッ♡! あッ♡! あッ♡!」

 

  嬌声のリズムも速くなっていく。

 空手で鍛えた腰の筋肉が唸りを上げ、

 男の肉棒を貪り尽くす。

 汗と愛液が混ざり合い、結合部から飛び散る。

 

  「おっと……! なんて速さだ……!」

  「テメェ……走るのが速いだけじゃねェな……!」

 

  兵吾は驚嘆した。

 目の前で踊る少女の腰使いは、

 到底15歳の初経験者とは思えないほど熟練していた。

 いや、これは経験ではない。

 純粋な身体能力と媚毒による解放が生み出した、

 原始的なリズムだった。

 

  「へへッ……良いぞォ……! もっと速くしてみろよ!」

 

  「うんっ♡! もっと速くっ♡! もっと気持ちよくしてやるぅ♡!」

 

  恋々はさらに加速した。

 泥水を蹴散らし、猛烈な勢いで腰を振る。

 サファイアブルーの瞳は完全に快感に溺れ、

 口からはダラダラと涎を垂らしながら、

 ただ快楽だけを追求する機械と化していた。

 

  (速い……速いよォ……♡)

  (止まらない……もう止まらないぃ……♡!)

 

  マッハグリードの呪い。

 一度動き始めたら停止するまで延々と加速し続ける恐怖の異能。

 それが今、彼女自身を快楽の深淵へと突き落としていた。

 

  「くぅッ……! キツすぎる……! 締め付けが強すぎるぞコラァ……!」

 

  兵吾もまた限界に近づいていた。

 彼の手が恋々の臀部を掴み、

 泥と汗で滑る肌に爪を立てる。

 

  「出すぞ……! また出すぞォッ!」

 

  「あぁッ♡! 出してっ♡! アタシの中に全部出してぇッ♡!」

 

  拒絶などあるはずもなかった。

 彼女は歓喜してその瞬間を待ち受けた。

 ドクンッという脈動と共に、

 大量の精液が子宮へと注ぎ込まれる。

 

  「ああああッ♡!!!」

 

  絶頂。

 魂が肉体を飛び出していくような猛烈な絶頂。

 恋々は白目を剥き、身体を大きく反らせたまま硬直した。

 ガクガクと太ももが痙攣し、

 結合部からは精液と愛液が入り混じった白濁液が溢れ出す。

 

  (アタシは……速さで負けたんじゃない……)

  (オジサンの精液で……メスとして負けたんだ……♡)

 

  あまりにも惨めで、

 あまりにも甘美な敗北宣言。

 彼女の尊厳は泥沼の底で完全に沈殿し、

 代わりに一匹の淫らな牝犬が産声を上げた。

 

  「はぁ……はぁ……あふぉ……♡」

 

  放心状態の恋々は兵吾の胸に崩れ落ちた。

 ボーイッシュなショートヘアは汗で濡れそぼり、

 荒い吐息が男の胸毛をくすぐる。

 

  「へへッ……悪くねェ眺めだ」

 

  兵吾は満足げに笑い、少女の頭を無造作に撫でた。

 彼の中にはまだ勃起が残っていた。

 ED症候群だった男が、

 一人の少女を堕とすことで完全に蘇ったのだ。

 

  「さてと……休憩は終わりだ」

 

  彼はまだ終わるつもりはなかった。

 ガーターベルトとハイヒール。

 その妄想を現実のものとするためには、

 もう少しこの少女を調教する必要があった。

 

  「次は……四つん這いになって吠えてみろよ」

  狂った宴は泥沼の中で永遠に続きそうだった。

 

 

  梶野兵吾の命令は、兎丸恋々にとって神の啓示よりも重くのしかかった。

  彼女は泥水の中で四肢を突き、犬のような姿勢をとった。

  本来ならば決して取ることのない無様な体勢。

  しかし今の彼女には、それが至上の喜びであるかのように感じられた。

 

  「あんっ♡ わんっ♡……♡」

 

  虚ろな瞳で見上げながら、舌を出して喘ぐ。

  媚毒が描き出す幻覚の中で、彼女は首輪を付けられた雌犬だった。

  白いガーターベルトが太ももに食い込み、

  泥にまみれた尻尾を振って主人の寵愛を乞うている。

 

  「へへッ……良い声だ……。もっとだ、もっと吠えろよ……!」

 

  兵吾は背後からその尻を叩き、再び肉棒をねじ込んだ。

  ズブリという音と共に愛液が飛び散り、

  恋々は甘い悲鳴を上げて背中を反らした。

 

  「ああッ♡! ご主人様っ♡! 深いッ♡! 子宮に届いてるぅッ♡!」

 

  倒錯したプレイ。

  だがそれは外部から見れば、あまりにも惨めな虐げに過ぎない。

  尊厳も矜持も粉々に砕かれ、

  ただ快楽の亡者と化した少女の姿がそこにあった。

 

  ──ドォォォォォォンッ!! 

 

  その時、廃倉庫の壁が轟音と共に吹き飛んだ。

  瓦礫と砂塵が舞い上がり、

  濁った空気を一瞬にして塗り替えるような圧倒的な突風が巻き起こる。

 

  「随分と汚ねぇ真似してんな、クソジジイ」

 

  低く、冷ややかな声。

  煙の中から姿を現したのは、

  古代ギリシャの彫刻のような完璧な肉体を持つ美青年だった。

 

  蛮場流輝。

  破軍学園の超人。

 

  彼は泥沼の縁に降り立つと、

  汚らわしいものを見るような目で交尾中の二人を見下ろした。

  雨粒すらその身に触れることを拒否する超越した美影身。

  泥飛沫一つ彼に掛かってはいない。

 

  「てめぇ……何モンだ……!」

 

  兵吾は驚愕し、慌てて身構えた。

  だが流輝は彼など眼中にないといった様子で、

  ただ呆れたように溜息をついた。

 

  「豚の交尾かよ。見世物にするにゃあ度胸がいるぜ」

  「それとも……その汚いチンポで泣くほど気持ちよくしてやれると思ったのか?」

 

  挑発。

  だがそれは事実だった。

  流輝の纏う空気は圧倒的であり、

  兵吾の放つ腐臭など一瞬で塗り潰されるほどの覇気を放っていた。

 

  「んだとォ……! 舐めてんじゃねェぞコラァッ!」

 

  兵吾は激昂し、野太刀〈腐蝕螺鈿〉を振りかぶった。

  伐刀絶技・瘴泥沼。

  地面から噴き出す毒泥が流輝に向かって襲いかかる。

 

  「死ねェッ!」

 

  しかし流輝は避けなかった。

  彼の足元に迫った毒泥は、

  彼に触れる直前でまるで意思を持ったかのように軌道を変え、

  左右に分かれていったのである。

 

  「なっ……!?!?」

 

  「汚ねぇもん触らせんなよ」

 

  流輝は不愉快そうに眉を寄せた。

  彼の肉体は精神と肉体の絶対性を体現している。

  汎ゆる知覚に対する干渉を無条件に完全無効化する損なわれぬ五感。

  毒などという下賤な物質が彼を汚すことなど不可能だった。

 

  「な、なんだコリャ……!」

 

  兵吾は戦慄した。

  目の前の男はランクなどという枠にはまらない異質さを纏っていた。

 

  「チョロい野郎だ。一撃で沈んでくれよ」

 

  流輝は一歩踏み出した。

  それだけで空気が歪むような錯覚を覚える。

  彼の固有霊装〈無創〉が右腕に纏わりつき、

  一本の巨大な鞭のような形状へと変化した。

 

  「消えな」

 

  鞭が空を切った。

  音すら追いつかない神速の一撃。

  兵吾の腹部に深々とめり込むと、

  彼は糸の切れた凧のように宙を舞い、壁を突き破って飛んでいった。

 

  「がはっ……!」

 

  苦悶の声。

  それきり動かなくなった男を見届けることもなく、

  流輝は泥沼の中で呆然としている恋々に視線を落とした。

 

  「……ふん」

 

  彼女はまだ四つん這いのままだった。

  媚毒の効果が切れておらず、

  虚ろな目で流輝を見つめている。

  その瞳には拒絶も恐怖もない。

  ただ貪欲に快楽を求めるメスの顔があった。

 

  「手ェ出す価値もねぇ顔しやがって」

 

  流輝は冷酷に言い放ったが、

  足は彼女の方へと向いていた。

  彼は泥沼の中に踏み入り、

  汚れることのない白い革靴で恋々の顎を持ち上げた。

 

  「あぁ……♡ ダレぇ……? 新しいご主人様……? ♡」

 

  「身の程を知れよドスケベ雌犬」

 

  パチンと指を鳴らす。

  その瞬間、恋々の体中を駆け巡っていた媚毒が、

  別の熱へと書き換えられた。

 

  流輝の放つ圧倒的な魔力波。

  それは兵吾の卑しい毒など比べ物にならないほど純粋で、暴力的な刺激だった。

 

  「ひッ♡!? あぁぁぁぁッ♡!!!」

 

  恋々は突如として絶頂した。

  何も触れられていないのに。

  ただ彼の気配を感じただけで。

  全身の神経が喜びに打ち震え、

  白濁した液が太ももを伝って噴き出した。

 

  (なに……これ……!? 今までの……今までのオジサンなんか比べ物にならない……!)

 

  (すごい……♡ すごすぎるぅ……♡)

 

  彼女の中で「支配」が塗り替えられた。

  汚い中年男への服従など消え失せた。

  目の前に立つ美しき王者への絶対的な帰属心だけが残った。

  

 

 

 

  泥沼の中で四つん這いになり、犬のように喘いでいた兎丸恋々。

  その瞳に映っていたのは、汚らわしい獣ではなく、

  天から舞い降りし神のような絶世の美男子だった。

  蛮場流輝。

  

 

  再度、パチンと指を鳴らす。

  その瞬間、恋々の体内に蓄積していた梶野兵吾の媚毒と汚らわしい精液が、

  まるで王の御触書を受けて追放される賤民のように、

  勢いよく体外へと排出され始めた。

 

  「ひッ♡!? あぁぁッ♡!!」

 

  何も触れられていないのに。

  ただ彼の気配と魔力波を受けただけで。

  全身の神経が喜びに打ち震え、子宮が痙攣する。

  太ももの内側を白濁した粘液がヌルリと伝い落ち、

  泥水の中に汚らわしい輪を描いていく。

  それは排泄の快感であり、同時に聖別の痛みでもあった。

 

  「はぁ……はぁ……あふぉ……♡」

 

  放心状態の恋々。

  だが流輝の手は止まらない。

  彼は屈み込み、固有霊装〈無創〉の一部をスライム状の半流動体へと変化させると、

  それを無造作に恋々の秘部へと押し込んだ。

 

  「ひゃぅッ♡!? 入ってくるぅッ♡! なにこれぇッ♡!」

 

  ヌプッという卑猥な水音。

  だがそれは陵辱ではない。

  〈無創〉は恋々の膣内に侵入すると、

  粘膜にこびりついた汚れという汚れを舐め取り、吸い上げていく。

  媚毒の残滓。男の体液。それらが混ざり合った澱んだ情念を、

  流輝の魔力が「不純物」として浄化していくのだ。

 

  (ああ……掃除されてる……♡)

  (アタシの中の汚いのが……全部出ていくぅ……♡)

 

  それはまるで免罪符だった。

  屈辱に満ちた陵辱の記憶すらも洗い流され、

  代わりに圧倒的な征服感だけが心地よく焼き付いていく。

  恋々は恍惚とした表情で、自ら腰を突き出し、

  流輝の霊装を受け入れた。

 

  「ふん……大層な汚れっぷりだ」

 

  流輝は鼻を鳴らした。

  彼の美意識にとって、他男の体液などこの上ない不快物質だ。

  それが同級生の体内にあるなど、許容できるわけがない。

 

  「……で、だ」

 

  彼は浄化を続けながら、不機嫌そうに呟いた。

  脳裏をよぎるのは、作戦指揮を執っていた上級生たちの顔だ。

  『生徒の安否確認より組織の殲滅が優先だ』

  『任務遂行に支障をきたすなら切り捨てるまで』

 

  (ふざけやがって)

 

  流輝は内心で毒づいた。

  別に恋々たちと仲が良いわけじゃない。

  同じ学年というだけの他人だ。

  顔と名前が一致する程度の関係。

  だが、

 

  「だからって、見捨てんのはちげーだろうが……!!」

 

  思わず声に出るほどの苛立ち。

  騎士気取りが結局は数字しか見ていない現実。

  彼らにとって同級生は点数でしかなく、

  守るべき民ではないのだろう。

  それが気に入らない。

  傲慢な彼は、自分以外の人間を見下すが、

  見捨てることと見下すことは別次元の話だった。

 

  「……おい」

 

  浄化を終え、〈無創〉を引き抜く。

  ジュボッという音と共に清浄化された愛液が糸を引き、

  恋々はビクンと身を震わせて小さく絶頂した。

 

  「きれーになったな」

 

  「あぃ……♡ きれーに……なりましたぁ……♡」

 

  恍惚と服従の入り混じった顔で見上げる恋々に一瞥もくれず、

  流輝は背後へと振り向いた。

  そこには、黙って彼についてきた男が立っていた。

  黒鉄一輝。

  Fランクの落ちこぼれにして、不死身のマゾ騎士。

 

  「……てめェも随分と物好きだな」

 

  流輝は忌々しそうに顔を歪めた。

  自分について来たこの男への苛立ちが隠せない。

 

  「お前みたいな根暗なマゾ野郎がチョロチョロしてると、

  吐き気がするんだよ」

 

  「……」

 

  一輝は何も言わない。

  ただ静かに拳を握りしめ、前を見据えているだけだ。

  その姿が余計に流輝の神経を逆撫でする。

 

  「まァいい。役立たずでも肉壁くらいにはなるだろうよ」

 

  流輝は踵を返した。

  泥沼に足を踏み入れてもなお、

  その足跡は一切汚れないという奇跡的な歩み。

 

  「残りのゴミ共を拾いに行くぞ」

 

  彼が歩き出すと、恋々もハッと我に返ったように

  這うようにしてその後を追い始めた。

  もはや彼女にとって流輝は唯一絶対の支配者であり、

  その背中から離れることなど考えられなかった。

 

  「あの……! アタシも……! アタシも連れてって……!」

 

  「勝手にしろ。足手まといになったら置いてくぞ」

 

  冷酷な言葉。

  だが恋々にはそれが許し証のように聞こえた。

 

  (ああ……この人に従っていればいいんだ……)

  (速さなんていらない……この人についていけば……)

 

  哀れな速度中毒者は、新たな中毒へと染まりきっていた。

  流輝と一輝、そして恋々。

  奇妙な三名は泥沼を抜け、闇の奥底へと足を踏み入れた。

  残された生徒たちを救出するために。

  そして流輝にとっては、気に入らない上級生たちを見返すためにも。

 

  「行くぞマゾ騎士。ちったぁ役に立てよ」

 

  流輝の背中から漂うのは、

  腐臭とは対極にある圧倒的な王者の香りだった。

 




何故か、ツンデレと言うか、ツッコミになったオリキャラ

更新希望の原作

  • 魔弾の王
  • 落第騎士
  • ハイスクールD×D
  • 月姫
  • モブせか
  • マジエク
  • のんびり農家
  • 新妹魔王
  • 八男
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