第6節 ゲームの始まり
ある日のことだ。私が起き出して2時間ちょい。そのくらいのことだったと思う。
複数の足音が小屋の外の方から聞こえてきた。食事は先ほど運ばれてきた。じゃあ何のために。それにしても足音の数がおかしい。
嫌な予感がしてきた。こういうパターンの場合、絶対いいことは無い。
扉の前まで足音が迫ると、鍵を開けて、ドアが開かれる。目の前には、あの女と2人の監視役の屈強な男が立っていた。
私は立ち上がり、身じろいだ。
私のおびえた姿を見て、千種が愉快そうに笑っている。
「ふふふ。随分と怖がっているのね。無理もないか。」
「・・・何しに来たのよ・・・。」
体が震えている。ただ様子を見に来たわけではないのは明らかだった。
「ふふふ・・・あんたをゲームに招待しようと思ったのよ。」
「ゲーム?」
「そう。死をかけたデスゲームにね。面白いでしょ。」
「ふ・・・ふざけないで!そんな・・・私に何をさせる気!?」
「ふふふ・・・あんたには、天海春香と殺し合いをしてもらう。」
一瞬、言っている意味が理解できなかった。
「春香と・・・殺し合い・・・。」
「春香と千早、憎しみ合っている二人のうち、どちらかだけは生き残ることができるの。どう、刺激的でしょ。」
やっとこの女がやろうとしていることが分かった。心の底から強い憤りが湧いてくる。
「お願い!春香には手を出さないで!あの子は関係ないじゃない!痛めつけるなら、私を傷つけなさいよ!」
千種は、だから何?という表情をしている。
「だったら、あんたが春香に殺されればいいじゃない。まあ、だけどこのままだと、あんたが春香に殺されることを嘆願するだけで、ゲームがつまらないわね。アンタの記憶でも少しいじらせてもらうことにしますか。」
あの女が目で男たちに合図する。すると男たちが私の方へにじり寄ってきた。
「やめて!」
私はベッドの方に飛び乗り、抵抗しようとする。だけどそれは無駄だった。男もベッドに飛び乗ると、ハンカチを私の方に向けてきたのだ。そしてそれで、口と鼻を強く抑えつけてきた。
クロロホルムだ!と瞬間的にわかった時には、もうそれを吸引してしまった後だった。後は、暗い帳が下りてくるのを受け入れるしかなかった。
第7節 春香への遺言 残り3時間55分
「春香、ようやく繋がったわ。」
私は隣にいる春香に声をかけた。タイムカウンターは、あと3時間54分20秒を指している。
「繋がった、て何が?」
「私の記憶よ。生まれてから、ここに連れてこられるまでの記憶。」
「本当!?それは良かった!」
確かに、記憶を取り戻すことは私の願いでもあった。だけど、正直喜べるようなものでもない。
「うん・・・。記憶が戻ったことは、それはそれでよかったんだけど・・・。」
春香は、私がどぎまぎしている理由に気付いたようだ。
「ごめんね・・・。いい記憶じゃ・・ないんだよね。」
「気にしないで。真実は変えられない。ちゃんとした記憶を思い出せただけでも、万々歳なんだから。」
私は無理に作り笑いを浮かべた。でも春香の顔は浮かないままだ。
「失われないうちに、春香に話しておくね。一体何があったのか。」
「うん・・・。」
春香はまだ覚悟を決めきれていない様子だった。でも時間が惜しい。私は春香の心の準備ができるのを待たずに、話し始めることにした。
「まず、全般的に言って、さっき夢でうなされていた通りだった。」
「千早ちゃんを拉致したのは、秀幸さんの手の者だった。」
「そうみて間違いない。秀幸の手下どもは、私が匿われている別荘を襲撃した。剛三郎氏の手の者が抵抗したけど、ダメだったみたい。多分殺された。」
殺された、という単語に、春香は震えがっている。
「私は、具体的な場所は分からないけれども、東京からは遠く離れたどこかの山中に連れていかれた。そこにある山小屋のような狭い家の中に閉じ込められた。その小屋にはテレビがなく、時計もない。時間をつぶすための道具は、本しかなかった。」
「本当に・・・飼い殺しにしようとしていたんだね。」
「それだけじゃない。あの女は、私に恐怖を与えようとした。私が山小屋に連れてこられてから1~2週間くらい経って、あの女が姿を現した。あの女は、春香に危害を加えるという脅迫をして、私にAV出演を迫ってきた。断れなかった。春香を傷つけたくなかったから。」
「・・・・・。」
「それで私は、数日たって、東京のスタジオまで連れていかれて・・・そこで・・・。」
私は悔しさでぎゅっと口を真一文字に結んだ。
「分かった。もうそれ以上言わなくていいから。」
春香が私の言葉を制してくれた。
「うん、ありがとう・・・。それから私は、あの女の影におびえ続けた。アイツがいつ現れるんじゃないかって。本当は自殺したかった。こんな希望も何もない状況に追い込まれて、時間や曜日の変化もよくわからないまま、ただ漫然と、進んでいるようで何も進んでいない時を過ごし、いつ終わるかもわからない『監獄』に押し込められて・・・気がおかしくなりそうだった。でも私には、死ぬことすら許されなかった。凶器となるようなものは部屋にはなかったし、部屋には監視カメラがあったから、少しでも異変があれば、すぐに山小屋を見張っている奴が中に入ってきて、私を気絶させた。私は、気が触れることすら許されなかった。」
「・・・・・。」
春香は苦虫を噛み潰したような顔をしている。本当に苦しい、それが伝わってくるようだった。
「そしてまたあの女が現れたの。2作目に出るよう要求しに来た。あの女は、春香が1作目の作品のポスターを大学の掲示板に貼ったって言ってたけど・・・」
「それはウソ!私はあの女の要求には応じなかった!」
「分かってる。あの女のいうことなんだから、どうせ嘘に決まってる。私はあの女のことを殺そうとしたの。あの時・・・怒りで我を忘れていた私は、あの女を害することで、春香の身に危険が及ぶとか、そんなこと全く考えられなかった。ごめんなさい。その件で、あの女は春香に何か言ってた?」
「いや、何も言ってなかったよ。」
「そう・・・。私はあの時大きな辞書を持って、あの女の脳天目掛けて振り下ろした。だけどうまくいかなかった。あの女も多分予期していたんだと思う。その後私は、麻酔を打たれて・・・あの地下室の撮影場所に移された。」
「うん、分かった。その後は?」
春香は私に配慮して、酷い記憶の部分には触れないようにしてくれていた。
「撮影が終わって、私はほうほうの体で帰ってきた。それからしばらくの間は、何もない日が続いていた。ところがある日、三度あの女が現れた。あの女は・・・私と春香の間で殺し合いをしてもらうって言ったの。」
春香の目の色が変わる。
「あの女が本当にそう言ったんだね。」
「そう。私はそのまま薬を使われて、意識を失った。」
「次に気づいたらここだった。」
「いや・・・多分そうなんだと思うけど、それは分からない。」
「どうして?」
「私の記憶が消されていたからよ。あの女は、『このままだと、あんたが春香に殺されることを嘆願するだけで、ゲームがつまらないわね。アンタの記憶でも少しいじらせてもらうことにしますか』そういってた。だからあの女は、私の記憶を消したのよ。多分、春香もそう。このままだと多分・・・春香が私を恨みぬいて、私を殺すだけになっちゃうから・・・記憶を消されたんだと思う。ゲームを面白くするために。」
春香は顎に手を置いて、何かを考えている。
「ねえ、千早ちゃん。それ何かおかしくない?」
「おかしい?何が?」
「だって、千早ちゃんは『自宅』で拉致されたんじゃないの?」
確かに・・・私にはそういう記憶があった。でも私が拉致されたのは、狭い山小屋の中、あの女に抵抗しながらだった。
「確かに、そこは記憶が違っている。」
「あの女に記憶をいじられたんじゃないかな?」
それはあり得る。私が拉致される前に最後に見た光景、それはある意味「ネタバレ」に近いような光景だ。だから、記憶を消される過程で、別の記憶に上書きされたのかもしれない。
「多分そうなんだと思う。」
「・・・だとしたら、他の記憶もいじられているとか?」
他の記憶・・・?
「あいつらにとって、犯人たちにとって、都合の悪い記憶は書き換えられているかもしれない。前にも話したかもしれないけど、犯人たちにとって都合の悪い情報を、奴らは書き換えさせることができる。だとしたら・・・千早ちゃんが思い出した記憶の中には、何か『間違い』があるのかもしれない。私の記憶と突き合わせて、おかしなところがあれば、どちらかの記憶がいじられている可能性がある。」
「そんな・・・でも書き換えられたって、何を?それに二人とも記憶を書き換えられていたら、『間違い』には気づかないわよ。」
春香は首を振った。
「何が書き換えられたかは分からない。でも、私たちの記憶は書き換えられている可能性があるってことは、意識しておいた方が良いかもしれない。」
それによって、犯人たちにとって都合のいい展開に持っていこうとしているということか・・・。
「春香も、拉致されたときは『自宅』だったんだよね?」
「うん。私たちが住んでいたあの部屋だった。」
「それも書き換えられているかもしれないってことだね。」
「・・・そうだね。」
もし、私たちが犯人に拉致された瞬間が、犯人にとって都合の悪い瞬間だったら、それは書き換えられている可能性がある。少なくとも、私の記憶は、そこの部分は書き換えられていた。
「・・・それはともかく、私が思い出したことはこれで全て。生まれてから、拉致された瞬間までのすべての記憶よ。」
「分かった。ありがとう・・・辛い記憶なのに・・・頑張って思い出してくれて。」
「いいのよ。これは私が望んだこと。」
あともう一つだけ、私はやり残したことがある。
「春香・・・。」
「うん?」
「・・・あなたへの遺言、そろそろいいかしら?」
残り時間は3時間45分、もうそろそろ始めないと、手遅れになってしまう。
「・・・ね?いいでしょ?」
春香は何も言わない。でもそれを無言の肯定と私は受け取った。
「・・・もうこれが最期になるから・・・。思い残すことがないように、ちゃんと全部伝えるね。あの時私が何を考えていたのか、そして、春香にやってもらいたいこと、何もかも全部。」
「・・・・・。」
「私は・・・実に利己的な女だった。自分でも嫌になるくらい、歪んでいた。春香との出会いは、春香からすれば、少しドラマチックに見えたかもしれない。だけど私からすれば・・・なんてことはない。自分が苦しまないようにするために、あなたを助けたに過ぎない。」
「・・・もうお別れだっていうのに、そんな悲しいこと言わないでよ。」
「・・・春香だって知ってる事実よ。私は、春香の『能面』のような顔を見るのが怖かった。だから私は春香を笑顔にしようとした。これも本当のことよ。」
「私、きれい?」
まるで口裂け女のようなセリフだが、涙ぐみながらも、にっこりと見せる春香の笑顔は、最高にキュートだ。
「ええ。とっても!」
私は春香のボブヘアを撫でた。
「うれしい!」
「春香を苛めから救った後、二人で校庭でお昼ご飯を食べたのって覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。何を話していいかわからなくて、すっごくどぎまぎしていたよね。」
「そうそう。その時私、春香に向かって『笑って』って言ったよね。その時驚いちゃった。春香が笑った顔、凄くかわいいんだもん。」
「今みたいに?」
「ええ。今みたいにね。」
また私は彼女の髪を撫でた。
「私その時、『この子と友達でいられたら、きっと楽しいことになるな』って思ったんだよ。」
「その予感は当たったのかな?」
外れているとでも言いたいのだろうか。
「当たったわよ。だって、その後・・・すっごく楽しくなるじゃない。少し先の話になっちゃうけどね。」
私たちが3人で暮らし始めたときの話だ。
「高校一年生の時の私は・・・まだ春香に遠慮していたところがあった。春香がどういう気持ちだったのかは分からなかったし、私だって、不純な動機で春香と友達になったことへの罪悪感があった。」
「そういう私も、まだ遠慮してたと思う。私、千早ちゃんが親から虐待されているんじゃないかなってなんとなく感じてた。自分がそういう目にあってきたから、分かるんだよ。同類はね。もっと早く、同じ境遇なんだって分かれば、もう少し早く心を開いていたかなって思う。」
「そうね・・・。でもたとえ友達でも『あなた虐待受けてますか?』なんて聞けないもんね。」
「聞けない聞けない。」
春香はくすくす笑った。
「高校二年になって、クラス替えで春香と別のクラスになったと分かった時は、寂しかったなー。でもそれと同時に、少し安心してた。理由は、分かるよね?」
「・・・あの男のレイプのことがあったから?」
「そう。春香と別のクラスになって、これで関係が切れれば、彼女を巻き込まなくて済むっていう安心感があった。如月家のごたごたを春香のところに持ち込むわけにはいかない。」
「でも私は千早ちゃんのことを見捨てなかった。」
ふふっ、自然と笑みがこぼれてしまう。
「お弁当作戦は強烈だったわ。」
「毎日、献立を考えるのに苦労したなー」
「逆に私は、お昼の間ご飯食べられないから辛かったわよ。」
「素直に一緒に食べればよかったんだよ。」
「私は、素直じゃないの。」
「そうだったね。」
私たちは互いに笑いあっていた。
「7月になって、私が自殺をしようとしたときがあったよね。」
「うん。私が千早ちゃんを教室での話し合いに誘って、私が待っていた時のことだったよね。」
「あの時、私本気で迷っていた。春香の元に行けば、私は全てを話さなくちゃいけない。もう如月家だけの問題じゃなくなる。それに、春香に重大な迷惑をかけることになる。だけど、私は・・・正直死んでしまう勇気もなかった。多分初めていうかもしれないんだけど、私・・・屋上でずっと悩んでいた。夕焼けを見つめながら、このまま暗黒の闇に沈もうか、それとももう一度朝になるのを待とうかって。」
「何だか詩的な表現だね。」
「・・・そうやって冷やかされると、恥ずかしいわ。」
「顔が赤くなってるよ♪」
「もう、冷やかさないで。」
「ごめんごめん。」
春香は反省していない様子だ。
「そうやって考えているうちに私・・・自然と、春香が来るのを待っていた。死ぬつもりがだんだん薄れてきてしまった。本当に死ぬつもりだったら、私・・・もっと早く校舎を抜け出していたと思う。学校じゃなくて、もっと別の場所、どこでもいい。春香がやってくることのない高いビルの屋上から飛び降りて、死んでいたと思う。私は卑怯な人間、死ぬことすらまともにできなかった。」
「生きたいと思うのは、とても自然な感情だと思うよ。」
「春香がそうしてくれたんだよ。それまでの私は、『死にたい』という感情におびえていた。だから、感情を殺した。だけど私は・・・春香と一緒にいて、『生きたい』という感情におびえるようになった。生きて楽しいことを二人でしたい。そんなことを願うようになってしまった。」
春香はポンポンと肩を叩く。
「いいことじゃない!」
「良くないよ!だって、私・・・耐えられなかった。春香に相談してしまった・・・。その結果・・・どうなったか知って・・・私は愕然とした。春香にとんでもないことをさせてしまった・・・そう気づいた時には何もかも遅かった。」
「・・・前にも言ったけど、これは私自身の望みだったの。あの男のことが許せなかった。別に千早ちゃんの為に殺してあげた訳じゃない。あんなひどいレイプをする男が許せなかっただけ。勘違いしないで。」
春香は少しムキになったように、表情を曇らせる。でも私は知っているよ。春香は、そうやって私のことを慰めてくれているんだ。
「私は罪悪感を抱いていた。そして春香との関係で、私は一生頭が上がらないと感じた。春香が私をあの家から解き放ってくれた。籠の鳥だった私を、自由な世界へ羽ばたかせてくれた。正直、春香と話していて、とても辛かった。私は秋月先生と一緒にいて、今日は先生に料理を教えてあげた、とか今日は一緒にテレビを見た、とか休みの日には映画を見に行った、とか、そんな話に春香は、まるで自分のことのように喜んでくれる。だけど、私は何もすることはできない。それが辛かった。ねえ、春香はあの時、期待していたの?私があなたの母親を殺すこと・・・。」
春香は少しだけ考えて、そして答えた。
「・・・期待していなかったと言えばうそになる。正直言えば、私はあの家から一刻も早く抜け出したかった。けどだからと言って、母親を殺したいと思う気持ちは殆どなかったし、千早ちゃんにもほとんど期待してはいなかった。なんて言うかうまく言えないけど・・・二面的な感じなの。早くあの家からは逃れたい、だからと言って母親に危害が加わるのは嫌だ。なんだかんだで、私は自分を生んで育ててくれた母親に感謝していたし。」
「私が殺したと、そう思ってみてどう感じた?」
「・・・複雑だった。でも、千早ちゃんがやってくれたなら、私はその気持ちはうれしかった。」
「でも、実際はそうじゃないと知ってしまった。」
「・・・何が言いたいの?」
「私は、春香の期待を利用した。春香が私の父親を殺したように、私が春香の母親を殺す。そういう期待を利用して、私は春香に、私が春香の母親を殺したのだと信じ込ませた。そうすれば、お互いが『対等』になるから。」
「それで?」
「・・・私は怖かった。時間が経てば経つほど、言い出せなくなって・・・春香が勘違いしてくれるなら、ずっとこのままでもいいかなって。」
春香は微笑する。
「私、千早ちゃんが殺していないって知ってても、私たちの関係性は変わらなかったと思う。」
「嘘よ!少なくとも・・・私の中では認識が変わる。」
さっきまで和やかだったのが嘘のように、また空気が重くなるのを感じた。
「秋月先生と私たちは家族になった。」
春香の顔がぱあっと明るくなった。
「あの頃は楽しかったよね。」
私もつられて笑顔になる。
「本当に。天国のような場所だった。あそこに居ることができたおかげで、私は人間らしさって何なのか、学べたような気がする。」
「私たち、本当の家族みたいだったよね。」
果たして、本当にそうだといえるのだろうか。私たちは、本当に『家族』になれたのだろうか。
「秋月先生は、私たちのこと、本当に家族だと思ってくれていたのかな?」
「な・・・何言っているの?秋月先生が、私たちのことを『家族』だと思っていないって言いたいの?秋月先生は、私たちのためにいろいろと手を尽くしてくれたんだよ!住む場所も、食事も、服も、それだけじゃない。大学に行くための学資だって出してくれた。赤の他人にそんなことする!?」
春香が言っていることは尤もなことだ。だけど、私たちは、そして「お母さん」は、敢えて触れていないものがある。
「じゃあ『お母さん』は、どうして私たちの過去について聞かなかったんだろう。」
「過去?」
「私だって春香だって・・・どう考えても普通の人生を送っていない。それは秋月先生も重々承知していたはず。だから、普通は聞くはずじゃないかな。過去に何があったのかって。」
「・・・先生は敢えて聞かなかったんだよ。デリケートな話だし、私たちを傷つけるから。『お母さん』は『敢えて聞かないんだ』って、そう言っていたじゃない。」
「確かに『お母さん』はそう言ってた。私も昔はそれを信じていた。だけど、よくよく考えると、そうじゃないんじゃないかって思うようになったの・・・単純に聞くのが怖かったんじゃないか、そう思うようになったの。」
私はなんとなく感じていた。秋月先生は・・・「お母さん」は・・・確かに私たちのことを本当の娘の様に思ってくれていた。だけど・・・「お母さん」は多分・・・私たちのことを「恐れていた」。
「そんな・・・。」
「少なくとも私は恐れていたの。もし秋月先生から、『今まで何があったのか?』そう聞かれることをね。それは、秋月先生も同じだったんじゃないかしら。先生も私たちのことを恐れていた。得体の知れない人物だと、心の底では恐れていたのかもしれない。」
「そんな言い方ないよ!」
春香が反発するのもわかる。私だって、こんな言い方はしたくはない。でも最期だから、妥協するわけにはいかない。
「春香だってそう思っていたところがあるんじゃないの?秋月先生に聞かれることを恐れていた。全てを洗いざらい吐いてしまうことを恐れていた。だから春香は・・・私もだけど・・・大学に入ってからお母さんに会いに行かなかったんじゃないの?私が恐れていたのは、私たちの過去の話だけじゃない。実家に帰れば、当然お母さんがあれやこれやと大学時代のことを追及してくる。・・・テニスサークルのことだって話さざるを得なくなる。お母さんに、私たちが深みにはまっているところを見せなくちゃいけなくなる。そんなところを見せたくなかった。そうでしょ?」
春香は顔を沈ませた。その落胆こそが、私の主張の何よりの論拠だ。
「お母さんもそうだった。お母さんもきっと、私たちが普通の大学生活を送っていないことに気付いていた。だけど、敢えて何もしなかったのは、私たちが『怖かった』から。別にお母さんを責めるわけじゃない。私なんか責める資格なんてあるわけない。私が望んでいるのは・・・ここを出た後のこと。」
「・・・打ち明けろっていうの?お母さんに・・・。」
「春香はどうするつもりだったの?ここを出た後、無事に出れたとして。」
「・・・そんなこと、まだ分からないよ。」
「じゃあ先に釘を刺しておこうかな。『お母さん』には、全てを打ち明けておきなさい。本当に、秋月先生の家族になりたいんだったら、ね。」
「・・・そんなことしたら、自首しろって言われるかも。」
私は春香の手を掴んだ。
「本来は、そうするべきなのよ。いや、むしろどちらにしろ自首した方が良いかもしれない。私たちは、本当は受けなくてはいけない禊ぎを、不当な形で免れた。これだけは、変わらない事実なんだから。」
「それは、千早ちゃんの『遺言』なの?」
「もちろん。」
「私の幸せを願ってのこと?」
「・・・この事件の犯人が野放しになれば、その矛先は生き残った春香へと必ず向かう。先手を打っておくの。春香が自ら自首をすれば、情状酌量もあるから、春香が罰を受ける可能性は高くない。犯人の思惑をつぶせる。」
「・・・分かった。考えておく。」
「じゃあ続けるね。」
私はいったん深呼吸をして、手を放した。残りは3時間32分だ。
「私たちは大学に入った。そこで運命のテニスサークルに入った。」
「千早ちゃんのいうことを聞いて、別のサークルに入っておけばよかったなー、そうすれば、こんなことにはならなかったはずなのに。」
今更後悔してもしょうがない。そして春香の愚痴に付き合う暇も残されていない。
「・・・私は、望月先輩を好きになってしまった。」
「最初は、彼が思い出の『加藤君』に似ていたから、好きになったんだよね。」
「そう。でも私は・・・とどのつまり彼のやさしさに惚れたの。私が、望月先輩に犯罪者と疑わせるようなひどいことをしても、逆に私を気遣ってくれた。私の身の周りの男性で、そんな人いなかったから・・・。」
「千早ちゃんはホの字になった。」
「うん・・・。私はずっと先輩のことが好きだった。春香には隠しているつもりだった。私は春香にはずっと負い目を抱いていたから、春香には幸せになってほしかったし、私が彼のことを諦めることで・・・二人を応援することで、たとえ大学時代だけでも二人が付き合えて、それで春香が幸せになれるなら、これほどうれしいことはないって本気で思ってた。」
「私への負い目って、私が千早ちゃんの父親を殺したことだよね?」
「そう。それと、春香をだましているって負い目。」
「千早ちゃんが殺したわけでもないのに、私には千早ちゃんが、私のお母さんを失踪させたと思い込んでいるっていう騙しね?」
「・・・その通りよ。だから私はずっと隠していたの。彼への気持ちは。」
「バレバレだったよ。」
「いつから気づいていたの?」
「最初から。望月先輩に『加藤君』のことを話したら、スッキリするって言ってたのに、望月先輩とデートをしてからも、心のモヤモヤが解消していないっていうのが見え見えだった。千早ちゃんが先輩に惚れている、だけどそれを隠そうとしているってすぐに分かったよ。一緒に住んでいると、すぐわかっちゃうんだから。」
私は苦笑した。
「春香に隠し事は禁物ね。・・・私は動揺していた。春香が『先輩を巡って勝負しよう』なんて言い出して、私もその場のノリでつい引き受けてしまった。春香は、何もかも私たちは対等だと思っている。お互いに虐待を受け、お互いを守るために、互いの親を殺し、そして今、お互いに好きな人を取り合っている。でも、実際はそうじゃない。春香が虐待を受けたのは・・・結局望月財閥が悪い。春香は悪くない。私は・・・妹を見殺しにしたことが原因、自業自得なの。それに・・・。」
「私をだましていた。」
私は頷いた。
「その通り。だから私は、望月先輩を奪うことは絶対に許されなかった。それでも私は迷っていた。だから美希と伊織に相談を持ち掛けた。」
「どうして先輩を譲ってくれる気になったの?」
「簡単よ。私が魔性の女だってはっきりわかったから。先輩は私のことを好きになってくれたんじゃない。私の不幸なオーラで先輩を魅惑していただけ。こんなのただのイカサマだよ。だから私は、この争いから降りたの。」
「でも実際は、諦めてなかったんでしょ?」
春香がチクリと刺してくる。
「信じてもらえないかもしれないけど・・・私は本気であきらめていた。完全に譲ったの。気持ちの上では。だから、サークルをやめて、バイトに専念することにしたの。でも・・・先輩が私が勤める喫茶店を訪れたせいで全てが変わってしまった。」
「どうして・・・自分が襲われる役を志願したの?・・・正直な所を教えてほしい。」
「正直も何も・・・前に言った通り。あんな危ない役、春香にさせるわけにはいかなかったから。それ以外の理由は何もないわ。私は、春香に負い目を感じていた。もしタイミングが遅れれば・・・怪我だけじゃ済まない、そんな危険なこと・・・春香にさせるわけにはいかなかった。信じてもらわなくてもいい。でもこれだけは言いたい。私はもうすぐ死ぬ。だから私は、本音で語り合いたいの。嘘偽りなんて全部脱ぎ捨てて、裸の会話をしたい。私が嘘をつく必要なんて全くないし、嘘ついたってしょうがないじゃない。」
春香は顔を落とす。半信半疑といったところなのだろうか。でも、これは私の本当の気持ちだ。嘘で塗り固めてきた人生だったけど、この瞬間は・・・全て本音だ。
「千早ちゃんは、先輩を奪うつもりだった?」
私は首を思いっきり横に振る。
「あり得ないことよ。正直に告白すれば、確かに私は、先輩と一緒に過ごしていて楽しかった。このまま本当の恋人同士でいられたら、どんなに幸せだろうって、何度も想った。だけど私は・・・決して!春香から奪うつもり何てなかった!」
「じゃあああなんであんなことに!?」
私はゆっくりと口を開いた。
「・・・理由は分からない。だけど・・・先輩はどういう訳か・・・春香のことを避けているみたいだった。」
「千早ちゃんのことを好きになったからでしょ?」
私は叫ぶ。
「違う!そうじゃない・・・。先輩は・・・確かに私のことを好きになっていたかもしれない。だけど春香のことだって好きだったはずなの。」
「どうだか・・・。」
私は春香の肩を揺さぶる。
「冷静に考えて。たとえ私を好きになったとしても、春香を嫌いにならなければ、その結果はどうなる?二人とも好きになるんじゃないの?」
「・・・私への恋が冷めたのかも。」
「そう感じたの?」
「・・・・・。」
春香は黙して答えない。
「私の仮説を唱えていい?」
「・・・・・。」
「私、ずっと不思議だった。先輩と演技をしていて、どうも先輩は過剰に私の気を惹こうとしているみたいだった。春香は、『私が魅惑したから』そういうかもしれない。だけど、そういうのとは違う。少なくとも私は魅惑しているつもりなんてなかったし、そんなことをする必要はなかった。私が思うに、先輩は・・・止む無く春香から離れようとしたんじゃないかしら。」
「私を愛せない理由があるんじゃないかってこと?彼が私たちの身辺を洗っている間に何かを見つけたから?」
どうしてそのことを春香が・・・。あっ。
「春香、まさか・・・聞いてたの。」
春香は小さく頷いた。全く・・・この子ったら。私は軽く春香にデコピンをした。
「いたっ」
「抜け目ないんだから。」
「伝えるよ。ちゃんと。千早ちゃんの想い。」
「・・・ありがとう。」
ここで話が終わるわけにはいかない。
「春香を愛せない理由・・・それって春香が思い出したことと関係があるような気がするの。」
「私が思い出したこと?具体的には何だと思うの?」
「私も春香も、大学生になって先輩に出会うまで、先輩とは何のかかわりもなかった。そして私たちの過去は・・・確かにお互い酷い過去だったけど、ある種似た者同士だった。確かに春香は・・・殺人に手を染めていた。だけど私だって、妹を見殺しにしてしまっている。同じ犯罪者。それに春香の事件の方だって、今更殺人事件としての立証は不可能なはず。私の事件もきっとそう。なのに、先輩は春香から離れて私の方に近寄っていった。もし、そのことに・・・私に惚れた以外の理由があるとすれば・・・春香のお母さんが関係しているんじゃないかな?」
「私の母親・・・?」
「春香の生みの親、本当の母親。・・・彼女は、望月財閥によって拉致された過去がある。そして恐らく、今も望月財閥の手の中にある。人体実験・・・そしてその実験の過程の中で孕まされ、そうして生まれたのが春香だった。春香には・・・春香のことが好きなのにもかかわらず、結婚することをためらわせるような何かがあった。」
「それは・・・何なの?」
春香が息を飲む。しかし、そこから先が分からないのだ。
「ごめん、それは私にもわからない。でも、これしか考えられないんじゃない?というより、私たちが完全に見落としていた要素だった。生きて帰ったら・・・検証してみる価値・・・あるんじゃないかな?」
春香の顔が暗くなる。
「もし、千早ちゃんの推理が正しければ・・・私は・・・先輩の大切な人にはなれないんだね。」
しまった。確かにそういうことになってしまう。
「・・・私の推理が正しいかどうかなんてわからない。もしかしたら、ただ単に私の勘違いかもしれない。」
「・・・そうだといいね。」
春香はすっかり気落ちしてしまったようだ。
「・・・続けるわ。私は先輩の子供を孕んでしまった。正直言って、ヤった時は、後先のことなんて考えてなかった。お酒で頭が回らなかったこともあったかもしれないけど、危険日は避けていた。妊娠するなんて思いもしなかった。生理が来ないって分かってから・・・やばいって思ったの。」
「随分、ぶっちゃけるのね。その気はなかったって言いたいんだね。」
明らかに春香が不機嫌になっている。
「ごめん・・・。」
「私が今なんで怒っているか・・・千早ちゃんは分かってないね。」
春香が怒っている理由、それは春香を裏切ったから・・・。
「私を裏切ったことで怒っていると思っているんでしょ?」
「えっ・・・違うの?」
「もちろん、それも無いとは言わないよ。ていうか、それも結構ある。だけど、私が一番怒っているのは自分の子供を・・・危険に曝したことよ。千早ちゃんさ・・・あのまま殺されちゃえば都合がいいって思ってたんじゃない?というより、その為に、本当に殺されに行ったんでしょ?」
返す言葉がない。
「ふふっ・・・。『もう一人の千早ちゃん』が考えそうなことだね。」
「『もう一人』?」
「私・・・ずっと、別の千早ちゃんを見ていたの。私のことを裏切る目的で先輩に近づいて、まんまと子供作って、優位に立っている、そういうゲスい千早ちゃん。そういうゲスい千早ちゃんだったら、楓を殺すために、わざと先輩に連絡しないってこともあり得るなって思ってた。だけど、私が見ていた千早ちゃんは、ただの虚像だったみたい。本当の千早ちゃんだったら・・・真っ先に考えそうなんだよね。自分の子供もろとも死んじゃうって・・・。千早ちゃん、傲慢で身勝手な所があるから。」
「くっ・・・。」
否定できない。いろんな人に言われてきたような気がする。
「私がこういうこと面と向かって言うのも初めてだと思う。お腹の子・・・もういないけど、言うね。・・・私は心の底から・・・この子は産んでほしかった。たとえ、地の果てまで逃げることになったとしても・・それでも産んでほしかった。」
「・・・レイプされてできたにもかかわらず、生かしてくれたから、そう思うの?」
「そうよ。どんな命であれ、無くなっていい命なんてない。レイプでできようと、人体実験でできようと、学生同士の遊びの結果だったとしても、出来た命を失わせていいはずはない。だって・・・生きているんですもの。生きていれば・・・幸せになる可能性はいくらでもある。殺してしまったら・・・そこで全てが終わってしまう。」
春香が言うと重みが違う。私への説教だけでない。自らが失わせてしまったいくつかの命の重みも背負っているようだった。
「正直、私驚いていた。伊織から、春香が私に子供を産んでほしいって聞いて。私、春香の為に、子供をおろすことばかり考えていたのに。」
「私のこと、よくわかっていない証拠だね。」
春香の言う通り。春香だったら・・・一番言いそうじゃないか。子供を産めって。私も・・・ありもしない『別の春香』を見ていたのかもしれない。
「私・・・産むつもりだった。春香の気持ちを知って、私は決意していたの。あのことがなければね。」
「さぞかし、かわいかったんだろうな。もし生まれていたら。だって、優しい顔の先輩と、きりっとした顔立ちの千早ちゃんの間の子供だもん。さぞべっぴんさんでかっこいい子だったろうにね。」
春香は別に嫌味でもなんでもなく、本気で惜しがっている。私は、そういう純粋な春香が好きだ。
残りは3時間12分。
「結局、私たちが再会するのって、あの病院以来なんだね。」と私は言った。
雪村さんを殺して、その後運び込まれた病院だ。春香が私の妊娠を知った、あの病院。私たちにとっては、訣別の瞬間だった。
「そうだね・・・。」
「私・・・ずっと後悔してた。こんな結果になるくらいだったら、春香を引っ張ってでもテニスサークルから引きはがすべきだった。でも、一番心残りだったのは、春香に、私の正直な気持ちを話せなかったこと。話す勇気が無かった。私の気持ちはこうだった、そう言ったって、どうせ信じてもらえないと思った。そうやってうじうじしている間に、本当に連絡が取れなくなってしまった。私・・・もう二度と春香と会話を交わすことなんてないと思ってた。二度と、謝罪することもできないんだ、許しを乞うこともできないんだって思って・・・。なんだか悲しかった。全部自業自得なのにね・・・バカみたい・・・。」
「千早ちゃん・・・。」
私は精一杯の作り笑顔を浮かべた。
「だから、こうやって・・・話せてよかった。信じてもらえなくてもいい。単なる自己満足だから。・・・春香、幸せになってね。春香には・・・かけがえのない人が・・・山ほどいるじゃない。先輩、律子先生、美希、伊織、みんな・・・春香の味方なのよ。大丈夫。春香なら・・・私の分まで幸せになれる。」
笑顔を作っているのに、その端々から涙が頬を伝う。何で泣いているんだろう。悲しいのかな、嬉しいのかな、悔しいのかな、楽しいのかな?
「春香・・・どうやってお別れすればいい?」
「・・・・・。」
春香は黙して語らない。
「もう、いいよ。私は・・・もう満足だよ、もう。」
「・・・・・。」
私は俯いて静かに泣いている彼女の両手を掴んだ。そして私の喉元へ。
「さぁ、力を入れて。」
「・・・・・。」
私は彼女が力を入れてくれるのを待っていた。しかし・・・彼女の手は震えている。
「春香・・・勇気を出して。」
「・・・・・。」
私は自らゆっくりと力を籠め始める。だんだんと呼吸ができる部分が細くなっていく。
「もう・・・こえ・・・でない・・・から・・・。」
春香の力が入らない。けど私はお構いなしに強める。
「ちか・・・いれ・・・。」
しかし春香は力を入れない。私はさらに自分で首を絞めつける。
「おね・・・。」
春香が嗚咽を漏らす声が聞こえる。
「・・・さよう・・・な・・・ら・・・」
次の瞬間だった。
「嫌だ!」
春香は私の手を払いのけた。突然気道が確保され、むせてしまう。
「げほっげほっ・・ごほっ・・・。」
「私まだ何も言っていないよ!言いたいことも言えてない!なのにお別れなんて嫌だ!」
「はる・・か・・。やるべき時に・・・やらないと、タイミングを逃すわ・・・。」
「私言いたいの!ずるいよ!一方的に逝っちゃうなんて!」
「はるか・・・。」
春香が私に抱き着いてきた。
「ずるい、ずるいよ。千早ちゃんばっかりいい所総取りなんだから。私だって、言いたいこと沢山あるんだよ。自分だけだと思わないでよ!私・・・千早ちゃんを赦す!心の底から本気で赦すよ!千早ちゃんって、やっぱりバカなんだよ!」
「どうして・・そう思うの?」
「だって・・・千早ちゃんっていつも自分勝手なんだもん。いつも自分の都合で行動して、いっつも自分を他人に押し付けて、他の人の迷惑を考えない。それってすごくバカだと思うよ。」
「ふふっ、そうね。」
「それでもって、私に盲目で・・・私のこと大好きで、大好きすぎて暴走して、勝手に自滅してる。ホンッと、バカの極みだよね。」
言えてる。
「そうね。素の私は、本当にバカ。」
「そう大バカ!」
春香の体は温かい。この温もりに包まれることも、もう無いのか・・・。だったら・・・。
「ねえ春香、大バカついでに、一つわがまま言っていい?」
「何?」
「春香と愛を交わしたい。春香が攻めてほしい。」
「・・・いいよ。その代わり、私の話も聞いてくれる?」
「もちろんよ。時間の許す限りね。」
私たちは一時の抱擁を止めると、お互い、無言で服を脱ぎ始めた。