第2節 手紙
私は三つ折りにされた手紙を開いた。中にはこんなことが書かれていた。
春香へ。
寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。私は今、水瀬の家の中で、こうやって寂しく手紙を書いています。
こんなことになってしまって本当にごめんなさい。全ては私がいけなかった。私が水瀬の家を裏切って、秀幸お兄様にお父様が研究していた不老不死の秘法を渡してしまった、そのせいでこんなことになってしまった。
秀幸お兄様は、俊と剛三郎お父様の失脚を狙っている。そのために、彼は恐ろしい計画を立てているの。それは、俊に、春香と千早の殺し合いを演じさせることなの。秀幸お兄様は、俊は雪村さんと許嫁の関係にありながら、春香と千早の二人に三股をかけていたという事実を知っていた。そして、今や私の裏切りのせいで、私との結婚も破談になり、俊は誰とでも結婚できる状態にある。
秀幸お兄様は、それを利用して、「俊は、春香と千早の両方から結婚を迫られているけど、どちらと結婚すべきか分からなくなって、殺し合いをさせて生き残ったほうと結婚する」という犯罪を起こさせようとしているの。もちろん俊がそんなことするはずがない。だから、秀幸お兄様は、俊の犯行だと見せつけるような仕掛けを施してある。
このままだと春香、近い将来秀幸お兄様に拉致されて、千早と殺し合いをしなければならなくなる。だから、早くその場から逃げてほしいの。逃げて、俊に匿ってもらうの。この状況から脱することができるのは俊しかいない。だから、俊に頼って!
手紙の内容は、私にとって衝撃的なものだった。
「なに・・・これ・・・。」
秀幸さんが、私と千早ちゃんに殺し合いをさせる・・・しかもそれを先輩の凶行に見せかける・・・?訳が分からない。
だが、とにもかくにも、状況が切羽詰まっていることは容易に想像ができた。この状況から何とかしてくれるのは、伊織の言う通り、先輩しかいない。
私は震える手で携帯電話を手に取り、先輩へと連絡をつけた。
幸いなことに、今回は4コール目で電話がつながった。普段つながらないことが多いだけに、不幸中の幸いだった。
「春香・・・どうした?」
「先輩!大変なんです、このままだと私・・・秀幸さんに拉致されちゃう!」
「ど・・・どういうことだ。詳しく説明してくれ。」
「実は・・・秀幸さんが先輩と剛三郎さんの失脚を狙って、先輩をはめようとしているんです。伊織から手紙をもらったんですけど・・・そこに、秀幸さんが私と千早ちゃんを拉致して殺し合いをさせて、その罪を先輩に着せる、って書いてあったんです。」
先輩はあまりのことに言葉を失っているのか、しばらく無言のままであった。
「もしもし・・・先輩?」
「・・・ああ、悪い。とにかく伊織に電話してみるよ。」
「多分、伊織は電話に出れないと思います。水瀬家の中で缶詰めにされていて、携帯電話もつながりませんから。」
「そうか・・・。もしかしたら、事態は一刻を争うかもしれない。。こっちも大変なことになってる。とりあえず、今日の午後6時に新宿にある望月グランドリゾートホテルに来てほしい。そこで話を聞く。ロビーで待ち合わせだよ。いいね。あっ・・・それと、長期間家を空けることになると思うから、それなりの荷造りはしておいてほしい。それと、パスポートもね。春香パスポート持ってるよね?」
パ・・・パスポート・・・。
「ええ。持ってますけど。」
「うん。じゃあ、そういうことで。今日の午後6時だからね。」
それだけ言うと、先輩は一方的に電話を切ってしまった。
なんだか物々しい胸騒ぎを感じる。先輩の口調からは、本当にとんでもないことが起きてしまっているという雰囲気が感じられた。
とにかく、時間が無い。私は押し入れから、上京するときに持ってきた大きなスーツケースを取り出すと、そこに複数着の着替えや日用品セット、それに預金通帳と印鑑、キャッシュカードなどの金銭類、それに暇つぶしの為のゲームなどを詰め込んだ。
おっとパスポートも持っていなかきゃ。私は小物入れの中から、パスポートを探り当てると、それは普段大学に通っているときに持っていっているカバンに詰め込んだ。
パスポートを持ってこいということは・・・海外に行くということだ。私の逃げ場は、もう国内には残っていないということか・・・。
荷物はできるだけ多く持っていこう。海外での滞在が長時間に及ぶのだとすれば、資財は多いにこしたことは無い。私はスーツケースとカバンにありったけの荷物を詰め込んだ。
そして私はさっさと着替えた。ピンク色の半袖の服に、中に緑かかった服が見える。下はグレーのショートスカート。足元は、水色のハイソックスに茶色のロングブーツといういで立ちだ。外はちょっと寒いだろうから、フリースも着ていこう。
私は、玄関へと向かった。
改めて玄関口から部屋を振り返ってみる。もうしばらく・・・下手したら一生見ることがない部屋の内装。多くの荷物を詰め込んでしまったせいもあるのだが、部屋の中はどこか閑散としている。
どことなく、ワンルームの部屋が広く感じられる。千早ちゃんと一緒に住んでいた時のことを思い出した。彼女と一緒に住んでいた時は、すごく狭かったのに・・・今ではこんなに広くなってしまったのね・・・。
切ない気持ちになってきたが、感傷に浸っている時間はない。ここから京王線で新宿駅まで行かなければならないのだ。さっさと移動しなくては。
「さようなら、私のマイホーム。」
誰もいない寂しい空間に向かって呟き、軽く一礼をして、私は部屋を後にした。
新宿へと向かう電車の中、まだ長くない陽が傾いていくのが分かる。今日は晴れだった。
さっそく私は、新堂さんとの約束を果たせそうにない。私はこのあと海外に高飛びする。そしてきっと長いこと伊織には会えないんだろう。伊織だけじゃない。美希にも、お母さんにも・・・・千早ちゃんにも。
伊織は、私に身の危険が迫っていることを教えてくれた。でも、伊織はどうなんだろう。伊織は今や一族の裏切り者だ。彼女の身は・・・大丈夫なんだろうか。
新堂さんの言う通りなのだ。今や伊織のことを守ってあげられる人はいない。私しかいなかった。いや・・・美希がいるじゃないか。彼女だったら、伊織のことを・・・。任せられる・・・。電車を降りたら、美希に電話をかけよう。
きっとこれから逃亡生活が始まるのだ。不謹慎なのかもしれないけど、少しワクワクしている。私は生まれてこの方一度も日本を出たことがない。パスポートをとったのは、先輩に勧められて、いつか千早ちゃんと一緒にアメリカとヨーロッパに行くという夢の為だった。
どこに行くことになるのかは分からない。それがどれだけの長期間になるのかも、全く想像できない。だけど、どこか少しワクワクして心待ちにしている自分がいるのも確かだった。
我ながら能天気だと思う。自分の身がどうなるか、分からないというのに、どこに逃げるか楽しみにしているなんて。
陽がすっかり落ちかけたころ、私は大都会新宿駅に到着した。私は駅のホームに降りると、美希に電話をかけることにした。海外に行っても、電話はすぐに掛けられるはずだが、お別れの言葉も言わないで去るなんてやっぱり嫌だったからだ。
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
ダメだ。出てくれない。こういう時にかぎって、美希は電話に出てくれないのだ。しかも留守番電話にもならなかった。
仕方がない。美希に連絡をつけるのはあきらめよう。海外についてからでも、電話は遅くはない。
今度はお母さんに電話をしよう。お母さんにはさっき、「死にます」なんて親不孝な電話をしてしまった。きっと今頃不安でたまらないだろう。だからせめて、またしばらく会えないけど、無事でいることぐらいは伝えなくちゃ。
プルルルルルル
「春香!?春香なの!?」
お母さんは1コール目で電話を取っていた。
「うん。」
「春香!早まらないで!私、あなたの為ならなんだってするから!どんなことをしてでも力になるから!だからお願い!死なないでぇ!」
電話に出るなりお母さんはすごい勢いで、畳みかけてきた。私はお母さんを宥めるように言った。
「安心してお母さん。私、もう自殺なんてしないから。」
「本当!?よかったぁ・・・。」
その声に瑞々しい張りが感じられた。本当に心の底から安堵したといった感じだ。
「その代わり私、海外に逃げることになったの。」
「か・・海外!?高跳び!?」
私は苦笑しながら言った。
「別に犯罪を犯したわけじゃないよ。ただ、国内だとちょっと危ないから、海外に逃げるってだけ。大丈夫。確かにしばらくの間、お母さんとは会えなくなっちゃうけど、いつか必ず帰ってくるから。」
「いつかって・・・。春香・・・本当にあなたどんなことに巻き込まれているって言うのよ・・・。」
それを答えるわけにはいかない。それにゆっくりと話している時間もない。
「ごめん、お母さん。それは言えない。それに・・・もうあまり時間がないの。だから、また電話するね。私のことは大丈夫だから・・・だから心配しないで。」
「心配しないでって言われたって・・・。」
「今はどうすることできないの。逃げることしか。でも私、ちゃんと生きるから。だから・・・待っていて。私が帰るのを。」
「うん・・・分かった。その代わり、ちゃんと無事に帰ってくるのよ!」
「分かった。帰ったら、お母さんに、また料理作ってあげるからね。」
「その時は・・・ちゃんと千早も連れ帰ってくるのよ!」
「うん・・・。」
それはきっと、出来もしない約束になってしまうだろう。
「じゃあね、お母さん。元気でね。身体には気を付けてね。時々・・・電話するから。」
「・・・分かった。春香も・・・元気でね。」
私は静かに耳元から携帯電話を離し、通話を終えた。
私は都会の迷宮である新宿駅を抜けて、西新宿の望月グランドリゾートホテルへと向かった。約束の時間より少し早く現場に到着できそうだった。
林立する高層ビルの只中を、スーツケースを引いた私が通り抜けていく。周囲の人間からすれば、私はただの旅行客にしか見えないことだろう。
5分ほど歩いたところで、私はホテルに到着した。
眩い光に照らされて、豪華絢爛に光り輝いているホテルロビーの中央で、私は先輩が現れるのを待っていた。
6時5分前になって、彼が小走りでホテルのロビーに入ってきた。
「・・・先輩・・・。」
私を見つけると、先輩が急いで私の方に向かってくる。
「春香、お待たせ。待ったよね。」
うんうんと首を振った。
「そっか。受付を済ませてくる。荷物を貸して。今日はここで一泊するから。」
「そうなんですか・・・。」
「大丈夫。何もかも、僕に任せて。こんな形でしか協力できないのは心苦しいけど。海外に送り届けるだけなら、何とかなるから。」
先輩は私のスーツケースを受け取ると、そのまま受付の方に向かってしまった。しばらく受付でやり取りをして、先輩がこちらに戻ってきた。
「これから・・・どうなるんですか。私・・・。」
先輩は一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
「ここじゃなんだから、場所を移そうか。予約を取った部屋に行こう。食事もそこに持ってくるよう頼んであるんだ。さあ。」
先輩は私に手を差し出した。いきなりのことで少しドキッとした。先輩と手を繋ぐなんて、いったい何か月ぶりのことなのだろうか。
「はい・・・。」
私はおずおずと先輩の手を握った。先輩の手は、冷たかった。先輩のエスコートで宿泊予定の12階へと到着した。私が泊まるのは、エレベーターホールに近い、「1206」の部屋だ。
「さあ、どうぞ。」
カードキーを持った先輩が慣れた手つきで、ドアのセキュリティを解除する。中に入ると、そのカードキーを左側にある赤いランプのついたところに挿し入れる。部屋の中の電気が一斉についた。
部屋はシングルベッドで、壁には三面鏡と机が置いてある。そしてベッドの隣には、もう一つ背の高い机があり、その周りに4つ椅子があった。ごく一般的なビジネスホテルにちょっとしたデコレーションが加えられたような部屋だった。
「ごめんね。本当はスイートルームを用意してあげたかったんだけど、急だったからさ、こんな部屋しか取れなかった。」
「いえ・・・いいんです。私嬉しいです。」
本当のことだった。先輩が私の為に部屋を用意してくれた。それだけで、これほど安心させてくれることは無いと思った。
「じゃあ、そこに座ってて。のど乾いたでしょ。何か飲みたいものある?」
「いえ・・・なんでもいいんです。」
どうしてこんなに他人行儀になってしまうのだろう。私が愛した・・・私よりも大事な人が目の前にいるというのに・・・。
私は奥の窓側にある椅子に座った。先輩は冷蔵庫から緑茶の缶を取り出した。先輩はオレンジジュースを飲むということらしい。先輩も私と向かい合うように着席し、プルタブを開けて乾杯する。
お互いに一口飲み物を飲んで、飲み物を置いた。先輩がゆっくりと話始めた。
「これからのことなんだけど・・・春香には、明日ロサンゼルスに行ってもらう。」
「ロサンゼルスですか・・・。」
「そうだ。これがそのチケットだ。」
先輩は私に1枚の航空券を手渡した。午前11時45分の成田発の便だ。
「国外に出てしまえば、兄貴の影響力が及ぶことは無い。そもそもやくざはアメリカには入れないからね。ロサンゼルスに望月商事の海外子会社があるんだ。そこの社宅に住んでもらおうと思ってる。」
「そこは・・・安全なんですか?」
「もちろんだ。アメリカだからね、結構危ない人たちもいるし、仕事柄機密を扱うことも多い。身の安全はしっかり保障できるようにはしてあるよ。まずオートロックだし、玄関にはSPが何人もいる。だから、安全性については大丈夫だと思うよ。」
「・・・・。」
「一応、現地従業員の配偶者という資格になってる。ああ、だけど実際に誰かと同居するわけじゃないよ。名目上はそうなってるってだけの話だから。」
「そうですか・・・。」
先輩と会えて、こうやって二人きりで話ができているというのに・・・どういうわけか全然うれしくないのだ。明日日本を発ってそのままずっとロス生活になってしまうというのもあるのかもしれない。だけど・・・きっとそれだけじゃない。
「春香・・・早速だけど、いったいどんな手紙だったのか見せてくれないか。」
「えっ・・・あっ、はい・・・。」
きっと私はどこか虚ろな目をしているのだと思う。多分先輩もそれをわかっていただろう。私はカバンの中から、伊織からもらった手紙を取り出した。私はそれを先輩に渡す。先輩は、貪るようにそれを一読していた。
「くそっ・・・そういうことか。」
先輩の顔が怒気でゆがむ。こんな先輩の顔を見るのは初めてだった。深くて暗くて、おぞましいほどに苦々しい顔。そんな顔・・・私は見たくなかった。私は思わず顔を背け、斜め下の床の方を見つめていた。
「実は昨晩から、親父が行方不明なんだ。」
な・・・なんだって!
「剛三郎さんが・・・。」
「ああ。夕べ親父が家に帰らなかった。そういう時はたまにあるから、全然驚かないんだけど、今日出席するはずの会議にも親父は出なかったんだ。携帯にもつながらない。昨夜自宅の車で送迎されたことは守衛が確認している。」
「じゃあ、お父さんはどこに・・・。」
「分からない。ただ、僕らの見立てでは、親父は兄貴によって拉致された。多分運転手がすり替わっていたんだろう。目的が何なのかは分からなかった。だけど、伊織の手紙で合点がいったよ。」
私は黙って先輩の言葉に耳を傾けていた。先輩から語られたのは、秀幸さんが考えているであろう恐ろしい計画だった。
「兄貴は、不老不死の研究データをネタにして、そのおこぼれを獲得しようとする外部勢力とつるんで、望月財閥の乗っ取りを画策した。だけど、父の力は偉大でね・・・。結局、兄貴は合法的な乗っ取りに失敗したんだ。そこで、兄貴は次の手を打ってきた。僕は親父の指名で、望月財閥の後継者になることが決まっていた。だから、僕と親父を非合法的に排除することで、財閥を乗っ取ることを考えたんだ。だけど、兄貴と親父・僕の間の不仲は、財閥の内外を問わず有名だ。もし親父や僕が不審な死を遂げれば、当然疑いの矛先は兄貴自身に行く。それを避けるためには、僕が不祥事を起こして失脚する必要がある。」
「だから・・・こんな計画を・・・。」
「きっと親父は殺されているんだと思う。兄貴の筋書きはきっと、僕に親父を殺させることなんだ。僕が親父を恨んでいるというのは、逆に誰も知らない。多分、兄貴自身も知らなかったと思う。だから、ただ単に僕が親父を殺したとなれば、その動機が説明できなくなる。この事件を画策していた僕のことを見咎めた父親を殺したという形にすれば、存在しない動機を作り出すことができる。」
「だとしても・・・どうしてこんなひどい筋書きを・・・。」
先輩は顔を曇らせた。とても言いにくそうにしている。だけど覚悟を決めたのか、先輩が声を震わせながら話し始めた。
「兄貴は・・・あいつは・・・サイコパスなんだよ。」
「サイコ・・・パス?」
「簡単に言ってしまえば、精神異常者だ。健常者とは思考回路も何もかもが違う。残虐で残酷な・・・一種の障碍者なんだ。」
「障碍者・・・。」
「親父はもともと兄貴を財閥の後継者にするつもりだった。兄貴はかなり有能だった。はっきり言えば僕よりも優秀だった。だけど・・・兄貴は昔からおかしかった。毎日昆虫を殺したり、カエルやイモリを切り刻んでいたり・・・人に対しても・・・人体実験をしようとしていた・・・。そんな奴だったんだよ、兄貴は。」
「そんな・・・。」
「だから、兄貴は家族中から恐れられた。この男は何をしでかすか分からない。そういう風に見られていたんだ。・・・兄貴だったら考えられる。兄貴は僕のことをひどく恨んでいた。自分よりも無能な弟が財閥を引き継ぐことが許せなかったんだろうね。だから、僕に単なる殺人とは違う、最も汚名が残るような形で僕を財閥から排除しようとした・・・。きっとそれが真相なんだ。」
「・・・如月千種・・・あの女を使ったのも計画のうちだったということですか・・・。」
「・・・そうだと思う。ただ殺し合いをさせただけだと、そもそも楓と千早の二股疑惑が世間で報じられている僕が殺したと思われてしまう。だから、一枚かませることにしたんだと思う。あの女は春香と千早を強烈に恨んでいた。だから、表面的に見ればあの女が事件を仕組んだ風に見える。僕が考える偽装工作としては最適だ。」
あまりにも残虐で残酷な計画・・・。私はそのおぞましさに閉口していた。そんな時だった。不意にドアがノックされる。
「頼んでいた食事が来たみたいだ。」
先輩がドアの方に近づき、ドアを開けた。ドアを開けた瞬間、和風ソースのいい香りが部屋に立ち込めてくる。
「中に運んでください。」
先輩の誘導で、若いホテルマンが料理を乗せたカートを机の方にまで運んだ。
「和風ステーキセットでございます。お飲み物は赤ワインをお持ちしました。」
バチバチとクロッシュの中で、肉が踊っている。ホテルマンがクロッシュを開けると、さらにいい香りが立ち込めてきた。
ステーキのプレートにはステーキに、ポテトと人参、それにほうれん草が備わっていた。さらにお皿に盛られたライスに、コンソメスープそしてグラスの3分の1のところまで注がれたワイングラスが置かれた。
「ごゆっくりお楽しみください。デザートにつきましては、食後にお出しいたしますので、食べ終わりましたら遠慮なくお呼びください。」
そう言って、ホテルマンは部屋を去っていった。
「このホテルだと、こういうサービスもしてくれるんですか?」
先輩が少し照れながら答える。
「いや、僕が頼んだんだ。二人きりで過ごしたかったからね。」
「先輩・・・。」
正直嬉しい。だけど・・・なんだか物悲しい。きっとこれは、最後の晩餐なのだ。私と先輩が過ごす・・・。
「じゃあ食べようか。グラスを持って。」
グラスを持った先輩に促された私は、慌ててグラスを握った。
「じゃあ、乾杯。」
「かんぱい・・・。」
チーン。
先輩がナイフで肉を切り始めた。中はミディアムレアになっているようだ。私もナイフとフォークを使って肉を裁断していく。思いの外、肉にすんなりとナイフが通る。やっぱり高いお肉を使っているからなのだろう。
「おいしいよ、春香。」
先に肉を一口頬張った先輩がそんなリアクションを見せる。私も慌てて一口食べてみた。確かに、噛むと肉汁が飛び出してきて、肉自体は溶けるように柔らかい。
「うん・・・おいしいです。」
「慌てなくていいからね。」
私はゆっくりとうなずいた。
何だかとても不思議な感じだ。今私は、秀幸さんに追い詰められようとしている。先輩の父親が拉致されて、秀幸さんのおぞましい計画も明らかになって、見るからにピンチなのに、こうやってゆったりと、先輩と二人で食事をしている。まるで何事もなかったかのように。時間がゆっくり・・・流れていく。
先輩と食事を共にするのも本当に久しぶりだった。懐かしい。なのに・・・だからこそというべきなのか、どことなく空気が重い。気まずい空気が流れている。何か話しかけなくちゃ。そう思っていると、先輩の方から話しかけてきた。
「ロサンゼルスって結構観光名所もいっぱいあるんだよ。」
「・・・そうなんですか。」
「うん。春香が好きなディズニーランドもあるし、ビバリーヒルズとか、ベニスビーチ、それにユニバーサルスタジオもある。少し落ち着いたら、ロサンゼルス観光をしてみるのもいいと思うよ。」
「はい・・・。」
「・・・一人は寂しい?」
「・・・正直。」
「そうだよね・・・。いくらロサンゼルスといっても、あの大都会に一人はね・・・。」
「でも、大丈夫です!国際電話でいつでも家族や友達に連絡できますし。」
「そっか。最近はスカイプもあるしね。インターネット回線さえあれば、いつでもどこでも話せるから。」
「まずはパソコンを買わないとですね。」
「DELLが安いよ。アメリカのメーカーでは、このメーカーが一番だよ。ちなみに、社宅はインターネット完備だから。そこは安心してね。」
「わーい。お家に引きこもっちゃうよ!」
「ちゃんと、陽の光も浴びないとだめだよ。」
「分かってますって。」
お互いに笑顔を見せた。なんとなく、懐かしい。こんなやり取り。私はさらにお肉を切断し、口に運んだ。そしてナイフでライスをすくって、フォークの背に乗せて口に運ぶ。うん、おいしい。やはりお米にあわないお肉はないのだ。
「先輩は、ロサンゼルスって行ったことあります?」
「僕?あるよ。一度だけ。」
「そうなんですか。どこ行ったんですか?」
先輩が頭をポリポリ掻きながら答える。
「家族と一緒だったんだけど、なにせ子供のころのことだから、あんまり覚えてないんだよね。多分ディズニーランドには行ったかな。」
「どんな感じなんですか、ディズニーランド!」
「そうだね・・・。確か迫力が凄かったのが印象的だったね。ロサンゼルスのディズニーランドはカリフォルニアにあるんだけど、やっぱり荒涼とした土地に作られているから、自然にあふれていてね、日本の完全に人工的なつくりとは全く違う。とても素晴らしかったよ。」
「そうなんですか!行ってみたいなー。」
「ぜひ行ってごらんよ。絶対に楽しめるから。」
「いつか必ず。」
「ああ。」
先輩はワインを一口運んだ。心なしか先輩の顔が少し紅潮してきていた。
「春香・・・本当にすまない。うちのバカ兄貴のせいで・・・。」
「先輩は悪くないです。悪いのは、あの人なんですから・・・。それよりも先輩は、早くあの人を捕まえることを考えてください。そして、千早ちゃんを・・・早く助けてあげて・・・。」
「春香・・・。」
千早ちゃんは今も、きっとどこかに閉じ込められている。あの女に良いように扱われて、今こうして私がご飯を食べている間も、どこかで心細く過ごしている。そんな彼女を一刻一秒でも早く、助け出してほしいのだ。
「必ず・・・必ず千早を助け出すよ。それに春香もだ。春香をアメリカで独りぼっちになんかさせたくない。だから絶対、僕は負けないよ。」
「絶対ですよ。負けたら承知しませんからね。」
「ああ、もちろんだ。」
彼は堅い表情を見せる。決意に満ちた顔だった。だが、どことなくその表情は浮かない。強大な敵との戦いを前にして、怖気づいているかのようだった。
気づけば、既に半分以上お肉はなくなっている。今宵の憂さを忘れようとしてか、お酒が進む。気づけばグラスの中のお酒もなくなっていた。
「注いであげようか。」
先輩がワインボトルをつかみあげた。
「ありがとうございます。」
私はグラスを傾け、先輩が注いでくれるのを待っていた。やがて、赤い血のようなワインがグラスに注がれていく。
私は注がれたワイングラスを見つめていた。照明の光に照らされ、グラスが輝いている。そこに赤いワインが漆黒の闇のように佇んでいる。私はその闇を飲み干すがごとく、グラスを口元へと運んでいく。
さらに肉を一かけら切り取り、口の中へ。赤ワインの甘みと肉の脂が芳醇さが混ざり合って、口の中で不思議なハーモニーを奏でている。
私はさらにワインを口に運ぶ。このワインとお肉、とてもよく合うようだった。
「春香、少し飲み過ぎじゃない?」
飲むペースが早かったのか、先輩が少し心配そうに尋ねた。
「そういう先輩も、ペース早いですよ。」
私もボトルを手に取り、先輩のグラスに注いでいく。
「僕は飲みなれてるからね。でも、春香は違う。」
「バカにしないでください。こう見えても私、お酒強いですから。」
「そうなの?聞いたことないなー。」
「言ってないだけです。」
本当は嘘だ。多分、私もそんなにお酒は強くはない。だから今、少し頭がぼーっとしてきている。
気になることがあった。伊織の裏切りのせいで、伊織は許嫁の立場から外れることになった。そして、伊織を許嫁にした剛三郎さんは行方不明。となれば、もしもこのまま剛三郎さんが帰ってこなかったら・・・。
いやいや、そんな不謹慎なこと考えちゃいけない。罰当たりだ。だけど、どうしても頭の中を過ってしまう。もしお父さんが亡くなり、彼が自由に恋愛して結婚できるようになったら、彼はいったい誰と結婚しようとするのだろうか。
酔った勢いで聞いてみたくなる。でもそんなのあまりにも失礼な話だ。それに、私はその質問の答えを聞くのが怖い。正直言って、先輩に選んでもらえるなんて到底思えなかったからだ。今の私に、彼を振り向かせることができるほどの魅力はない。
千早ちゃん・・。やっぱり千早ちゃんは、先輩と結ばれる運命なんだよ。彼と千早ちゃんは、王子様と白雪姫。白雪姫を助けられるのは、王子様しかいない。私は・・・ただのお邪魔虫なのだ。
「春香。大丈夫?」
ずっと考え事をしていたせいか、私はずっとうつむていた。気持ち悪くなったのではないかと心配してくれたのかもしれない。
「だいじょ・・・うぶです。」
「冷蔵庫にジュースがあるんだ。もうワインは止そうか。」
「・・・嫌です。」
「春香、飲み過ぎはよくないよ。」
「今夜は・・・酔いたいんです。」
「お酒じゃ問題は解決しないよ。」
「解決しなくたっていい。今日だけは・・・忘れたいの。何もかも。」
私はグラスにに残ったワインを一気に飲み干す。そして私はグラスを先輩の前に差し出す。先輩は困ったような表情を浮かべていた。
「先輩!」
彼はボトルを取ろうとはしなかった。私は自分でボトルを奪い取ると、ふらつく手でワインを注いだ。
「春香、君らしくないよ。お酒の力に頼るなんて。」
私は彼の言葉を気にせず、お肉を口の中に放り込み、ワインで流し込む。
「私は、決して強い女でも何でもない。多分、先輩が知っているような人間でもない。私は、さもしい女なんです。好きな人を奪い取られて、親友に嫉妬して、死んでもいいとさえ思ってしまった・・・。そしてそのせいで、その親友は本当に死のうとしてしまった!」
「落ち着いて・・・春香。」
目頭が熱くなる。今頃になってようやく気付いたのだ。私なんかに勝ち目はなかった。最初から・・・。
「千早ちゃんは・・・本当にやさしい子なんです。辛い目にあって、だから人の痛みが分かる。自分を犠牲にして、人を幸せにしようとする。美希は、自分を犠牲にしてまで、私と先輩を幸せにしようとする、そんな千早ちゃんの姿が好きだったんです。そんな健気な姿に、先輩も惚れた・・・。当然ですよ。千早ちゃんの想いは純粋だったんですから・・・。それに比べて私は、ただ嫉妬していただけ。千早ちゃんに先輩を取られそうになって、楓と一緒になって千早ちゃんを恨んで、楓をけしかけて、千早ちゃんを襲わせようとした。先輩が私から遠ざかっていくのも当然ですよ。」
震える手でグラスをつかむ。興奮して、酔いがさらに回ってきたのか、頭がくらくらする。
「春香、もうダメだよ。」
先輩が私の元からグラスを取り上げる。
「先輩!先輩は、私のこと嫌いなんでしょ!?本当は千早ちゃんのことが好きなんですよね!?」
思わず叫んでいた。涙が止まらない。目の前の景色がぼやけて見える。
「私は演技していただけなの。本当の私は、嫉妬して、醜くて、野心家で、根暗な人間なの。先輩に好かれるような人なんかじゃない!それに比べて千早ちゃんは、本当に・・・本当にいい子なんだよ・・・。それなのに先輩はどうして私なんかにかまうんですか!?いいじゃないですか、このまま放っておいたって。」
体がふらふらする。私は左手をテーブルの上についていた。
「春香。」
先輩が立ち上がって、私の肩を持った。
「春香、少し休もう。こっちへおいで。」
先輩が私を立たせた。そのまま肩を抱き、シングルベッドの方へと私を移動させ、そこに私を寝かしつけた。先輩は自分が座っていたいすを反転させて、そこに座っている。
「先輩、どうなんですか・・・本当のところは・・・。」
私は先輩の方を向いて尋ねた。お酒のせいで頭がくらくらするのか、先輩の顔がゆらゆら揺れている。先輩が私の左ほほに手を触れていた。
「春香・・・。僕は春香のこと、好きだよ。」
「でも・・・千早ちゃんの方がもっと好きなんでしょ。」
「そんなことないよ。」
「嘘よ!」
そういった瞬間、先輩がゆっくりと近づいて、私の唇にキスを重ねた。先輩の吐息が私の中に入ってくる。びっくりしてますます頭がくらくらとしてきた。
「これでも信じてもらえない?」
「・・・・・。」
予想外の行動に、何も言い返せなかった。先輩は続ける。
「春香が僕の気を引こうとしていろいろしてくれていたことは最初から分かってたよ。そういう風にしてくれる人は、周りにもたくさんいたしね。春香の行動が演技だったってこともなんとなくわかってた。」
「だったら・・・どうして私のこと・・・好きでいてくれるんですか?」
「たとえ演技だったとしても、僕を喜ばせるためだけだったとしても、テニスサークル全体を明るくしてくれたのは、春香だからだよ。春香・・・キミがどれだけ辛い目にあってきたか、僕は曲がりなりにも知っているつもりだ。だから、いつもすごいと思っているんだよ。あれだけのことがあって、それでも春香は明るくいられる。そして、みんなを元気にしてあげることができる。そんな君がうらやましかった。」
「そんなの・・・違います。あのテニスサークルは、私なんかいなくても成り立っていたんです。」
「そうかな?僕はそうは思わないよ。春香がいて、みんなとゲームをして、一緒に話をして。ムードメーカーになってくれる。そんな役割は、君にしかできなかった。千早はいつも君のことを気にかけていた。それだけ、彼女に愛されていたんだね。僕も千早の過去は知っている。千早が苦境に陥った時に、常に助けてくれたのは春香だった。春香は・・・キミは・・・自分の両手を汚してでも、千早を救いたかったんだろ。そして千早を暗い闇の中から救い出した。」
知っているというの・・・私が犯した犯罪を・・・。
「今、千種に追われているのもそれが原因なんでしょ。千早を暗い闇の中から助け出した。そのことが原因。僕は・・・たとえ犯罪だったとしても、春香がした行動は正しかったと思ってる。あんなこと・・・許せるはずがない。だから・・・優しい春香は、千早を・・・。」
「違う!違うんです・・・私は・・・やさしいひとなんかじゃない・・・。私は・・・私は!・・・千早ちゃんのことが好きだった・・・。だから私は・・・アイツのことが許せなくて・・・それで・・・。」
「十分優しいよ。お人よしとは違う、芯を持った優しさだと思う。誰かのために、それも大切な人の為に、自分のことを犠牲にしてまで何かをできる人って・・・すごく素晴らしいと思うんだ。だから僕は、春香のことを本気で好きになった。」
「だったら・・・どうして千早ちゃんと・・・関係を持ったんですか?」
先輩は言いにくそうにうつむいた。
「僕はだんだん千早に惹かれていたんだ。あの子の不思議な魅力にね。いつの間にか虜になってた。だけど・・・千早と別れてみて、初めて冷静になれた。僕は千早のことを愛していたんじゃない。あの子の不幸せな人生に同情していただけなんだ。同情して、僕なら何とかできると思い、彼女の心に取り入った。そんなことしたって、彼女を幸せになんかできやしない。だって僕は、彼女を愛していたわけじゃないから。たとえ、千早と何日、何年と過ごしたって、彼女を愛することはできないと思う。多分同情してあげるだけ。そんなの幸せじゃないよ。彼女を幸せにできるのは・・・一人しかいない。」
「それって・・・。」
「君だよ。春香。千早は、君といるときは本当に幸せそうだった。多分、心の底から、自分のすべてを預けてもいいと思える人なんだと思う。僕は、きっと彼女のそんな人にはなれない。なれるとは思えないんだ。」
「先輩・・・。」
「だから・・・僕は、3人で暮らしたいんだ。僕と春香が夫婦で、千早がその子供。たとえいびつな家族だったとしても、僕たち3人は家族としてうまくやっていけると思うんだ。」
先輩の言葉、素直に信じていいのだろうか。先輩は言っていた。3人で仲良く暮らしていく、そんな道を目指していく。最初は本当に冗談だと思った。だけど、先輩は本当にそれを目指しているというのだろうか。
「先輩、信じていいんですね・・・。」
「ああ・・・。必ず。実現してみせるよ。だから、春香はロサンゼルスで待っていてほしいんだ。安全に暮らせるようになるその日まで。」
「・・・きっと、長いんでしょうね。ロス生活。」
「いや・・・意外と短いかもしれない。春香がロスに行ってしまえば、兄貴のこの計画は完全に崩れる。その間に、態勢を立て直せれば、案外早く打開できるかもしれない。」
少しだけ私は笑顔になった。
「期待して、待っています。」
「ああ。待っていてくれ。必ず迎えに行くから。」
先輩は私の頭をポンポンとたたいた。
「じゃあ、僕は帰るからね。」
先輩はゆっくりと立ち上がった。
「待ってください・・・。」
私は体を起こした。
「帰っちゃうんですか?」
「ああ。まだやることがあるんだ。親父がいなくなってしまって、会社はまだごたごたしているからね。ちょっと社の様子を見ておきたいんだ。」
私は先輩の手を握った。
「帰っちゃやだ・・・。」
「春香・・・。」
困ったような表情を浮かべる先輩に、私はうるんだ瞳を先輩にぶつける。
「私、今日酔っているんです。このままだと明日の便に乗り遅れちゃうかも・・・。それに・・・。今日は少し寒いですから。一緒にいて、温めてほしいんです。」
先輩はクスリと笑った。
「まるで小動物みたいだね。」
「うるうる。」
謎の擬音を発してみる。
「・・・分かったよ。今日は一緒に泊まっていこうか。」
「やったー。」
私はベッドの上で飛び跳ねた。
「ふふふ。本当に子供みたいだな、春香は。」
「よく言われます。」
「それもどうなんだか。」
その後、先輩がホテルマンを呼んで、お皿を下げてもらった。そしてそれと引き換えに置かれたデザートは、プリンアラモードだった。
「先輩、私に食べさせて。あーん。」
私は幼児に戻ったかの如く、先輩に食べさせてもらうよう求めた。
「いいよ。待っててね。」
先輩は小さいカップ型に入ったプリンを手に取ると、イチゴの部分をスプーンですくって、私に近づけた。
「はい、あーんして、あーん。」
「あーーん。」
私は前かがみになって、イチゴを頬張る。
「おいちーい!」
「どれどれ」
先輩は対になっていたもう一つのイチゴをぱくりと食べた。
「あーん、ずるい。それ春香の!」
だんだん酔いが少し醒めてきて気持ちよくなったのか、どんどん赤ちゃんに戻っていくみたいだった。
「もう一つのあげるから、我慢して。はいじゃ、あーんして。」
今度はカスタードの部分を救い上げて、口元に近づけてくる。プリンがプルプル震えて、今にもこぼしそうになりながら、口へと運んでいく。
「プリンもおいちーい。」
「赤ちゃんっぽい春香も可愛いなー。」
「こんな姿、千早ちゃんにも見せたことないんですよー。先輩だけなんですからね。」
「はいはい、分かってますって。千早を助け出したら、真っ先に報告しなくちゃね。春香の可愛い姿。」
「あー、いじわる!」
「ははは、冗談だよ冗談。こんな春香の可愛い姿、ほかの誰にも見せたくないよ。たとえ千早だとしてもね。」
「先輩・・・。」
うれしい・・・嬉し過ぎる・・・。先輩が私のこと、ここまで愛してくれていたなんて・・・。全然予想外だった。
「泣かなくたっていいじゃないか。」
ぽろぽろ涙を流している私を見て、先輩がそんな風に言った。
「だって・・・嬉しいんです。私・・・先輩さえいれば・・・あとは何もいらない。」
「春香は大げさだな。」
「本当ですよ。」
「じゃあ、ほかに要らないなら、このプリンは僕がいただいちゃうね。」
そう言って私の為のプリンをすくって口に運んだ。
「それはだめです!あー、酷い。先輩!」
「おいひー。」
一口で半分くらい食べられてしまった。
「じゃあ私はあっちのプリンは全部いただいちゃいますからね。」
「はいはい、分かりましたよ。ごめんね。春香、あーん。」
私は口を尖らせながらも、先輩に言われた通りおちょぼくちを開けた。先輩が今度はキウイのところを掬って私に差し出した。
口の中身に酸味が広がっていく。
「すっぱーい。でもおいしい。」
「どれどれ。」
そういってもう一つのキウイを先輩が食べてしまうのだ。
「あーん、もう先輩ったら。」
困った子だよ。先輩も。でもこんなおどけたかわいい先輩の姿も初めて見た。
「今度は私が食べさせてあげますよ。」
私はベッドから立ち上がり、まだふらつく足でプリンを取った。
「大丈夫かい。無理しなくていいよ。」
先輩がふらつく私の腕をつかみ、支えてくれた。
「大丈夫です。少しは酔いも醒めましたから。はいあーん。」
生クリームのところを掬って、先輩の口へと近づけいく。
「何だか恥ずかしいな・・・。」
そう言いながらもスプーンを目の前に差し出されると、条件反射のように顔が反応してしまうらしい。先輩はスプーンにむしゃぶりついた。
「おいしいですか?」
「おいしいよ。特に、春香が食べさせてくれたプリンはね。」
「酷いお世辞ですね。」
「ははは、さすがに露骨すぎたかな。」
「レディーを誘惑するときは、もっと自然にやってもらわないとね。」
「勉強になります。」
「はい、じゃあ今度はイチゴだよ。おいしそうなリアクションをしてね。あーん。」
私がいちごをすくいあげて、先輩の口元へと運んでいく。
「うん!おいしい!」
「・・・普通ですね。」
「なんか気の利いたこと言えなくてね・・・。」
「それじゃ、人の心をつかむことはできませんよ。イチゴだったら、そうだな・・・『お口の中がイチゴ農園や~』くらい言わないと。」
「思いっきりパクってるよね。」
「・・・はい。」
先輩はゲラゲラ笑っていた。
「パクリ以外のネタを探すね。」
「それがいいですね。じゃあ今度のお題は、プリンですよ。はい、あーん。」
「えっ、いきなり?」
先輩は戸惑っているようだが私は容赦ない。
「あーん!」
先輩は困惑しながらもゆっくりと口を開ける。私はそこにプリンをねじ込んだ。さて、どんな反応をするだろうか。
「いやー、プルプルのカスタードに甘美なソース、本当にうちのプリンはおいしいですね。」
「食レポっぽいですね。」
「どう?」
「・・・だめー。」
「なんでよ!?」
「やっぱり普通なんですよ。もっと気の利いたこと言わなきゃ。『いやー、本当においしいですね。うちのプリンは三ツ星レストラン御用達ですからね。』とかね。」
先輩が笑いながらツッコミを入れてきた。
「嘘言ってどうする。嘘言って。」
「やっぱりだめですかね。」
「それこそダメだよ。捕まっちゃうよ。」
「また別のプランを考えましょう。」
「大喜利は続けるのね。」
こんな感じでお互いにプリンを食べさせあいながら、楽しいひと時を過ごしていた。やがてホテルマンがプリンを下げていった。私はベッドの中で、彼は椅子に座りながら外の夜景を見ていた。
先輩のぬくもりがほしくなる。
「先輩・・・寒いです。」
「そうか、じゃあ暖房の温度を上げようか。」
「そうじゃ・・・ないんです。」
先輩は少し戸惑ったような表情をする。
「こっちにきて。」
私は先輩を手招きして、布団をめくり上げた。先輩は笑顔を見せて、ベッドの中に入ってきた。私と先輩は、お互いに体を起こしながら、窓の外の方を見つめている。私は先輩の肩に首を傾けて、彼の左手に私の右手を重ね合わせる。意外なことに、彼の手は冷たかった。
「先輩・・・手冷たい。」
「今日は冷えるからね。」
「私が温めてあげます。」
私は両手で彼の手を覆った。
「あったかいよ春香。ありがとう。」
先輩の呼吸の動きを感じる。肩を寄せ合っていると、とても安心する。このまま眠ってしまいたいくらいだ。でも、今は眠ってしまいたくない。彼と一緒にいられる貴重な時間なのだ。一分一秒だって無駄にしていたくはない。
「先輩・・・だいすき。」
「僕もだよ。春香。」
「こっちを見て言ってください。」
先輩が私の方を振り向く。私と先輩が見つめあう。その距離は、もう30センチもない。
「春香。好きだよ。愛してる。」
「私も・・・。」
彼の唇に触れてみたい。もう一度だけでいい。私のわがままを聞いてほしい。
私はゆっくりと顔を近づける。目を瞑り、唇を近づけていく。彼も私の意図に気づいたのか、唇を近づけてきていた。やがて、温かくて柔らかいものが唇に触れていた。
何秒か唇が触れ合って、その後少しずつ唇が離れていく。ゆっくりと目を開く。そこには、彼の優しくて、かっこいい顔があった。
「先輩・・・もっと・・・もっとキスして。」
先輩はまたゆっくりと顔を近づけて、そして今度は私の唇にやや強くしゃぶりついてきた。私も彼の求めに応じて、唇に食らいついていく。
「んっ・・・。」
彼の唇の動きに反応して、自然といやらしい声が出てきてしまう。
しばらく私たちは唇を重ねあっていたが、やがて彼の方が積極的になって、舌先を私の口内に挿しいれようとしてきていた。
私も彼の舌先を受け入れた。口を開けて、彼の舌と私の舌を舐め合わす。唾液がお互いの口内を行ったり来たりしている。お酒の味とさっきのプリンの味、色々な味が混ざり合って、不思議なハーモニーを口の中で奏でている。
やがて、私が少しずつ彼の顔から口を離した。口内に唾液がたまって、少し苦しくなったのだ。
「大丈夫?春香。」
「うん。全然平気。おいしいです。先輩の愛の味。」
「恥ずかしいな、そのセリフ。」
私たちは見つめあっている。また先輩が私に顔を近づけてきた。私は目を瞑り、彼を受け入れる態勢に入った。
唇がふれあい、今度はお互いがお互いを求めるかのように、激しく舌ベロをお互いになめずりまわすのだ。
クチュチュルルクチュチュッッ。
口内でいやらしい音が伝わる。その音を感じて私の体がどんどん熱くなっていく。気づいた時には私は彼の手を私の胸に押し当てていた。
彼がびっくりした様子を見せる。だけど、そんなこと気にせず、彼の左手を私の右手で動かして、胸を揉ませるのだ。
「うんっ・・。」
やがて彼が自律的に左手を動かしてきた。鶏肉を揉むときのように、優しくなでるように揉んでいく。
私の胸は、高校時代の時は83センチだった。大学生になった今、私の胸はさらに大きくなっている。
私は唇を離し、彼の唾液を飲み込んだ。
「どうですか?先輩、気持ちいいですか?」
「ああ。すごいよ春香。気持ちいい。」
「千早ちゃんとは違うでしょ?」
彼は苦笑して答える。
「ああ、そうだね。」
「両手で揉んでください。私の敏感なところ・・・。」
お酒の力を借りて、いやらしい言葉をつぶやいてみる。先輩は少し戸惑いながらも、残りの右手で私の左胸をわしづかみにする。
「ああんっ。」
「痛い?」
「うんうん。気持ちいいです。」
彼の手は下乳のあたりをもみほぐすように揉んでいき、そこから胸をすくい上げるように上に押し上げると、中心をつかんで指先を器用に動かしながらもみほぐすのだ。
「あんっ・・・いい・・・最高です。」
胸のあたりが刺激で熱くなる。気持ちよくて顔がゆがむ。
「私・・・暑くなってきました。」
そういった時には、服を脱ぎ始めていた。先輩が私の胸から手を離した。
「僕もだよ。」
彼も笑顔を見せながら服を脱ぎ始めた。一心不乱に服を脱ぎ続け、気づけば私たちは全裸になっていた。
「先輩、私のおっぱい直に触ってください。」
私はベッドで横たわっていた。
先輩はベッドに飛び乗り、正常位の姿勢になりながら、私の胸を撫でまわしている。
「あんっ・・・気持ちいい!」
彼は顔を近づけて、私の唇をむさぼっていた。
「んんんっ・・・。」
彼の舌が容赦なく私の口内を襲い、私の舌ベロと交雑していく。そして、それだけでなく、私の歯茎、歯の先まで丁寧に嘗め回して、どんどん彼の唾液が送り込まれてくる。
「んふっ・・んっ・・・ぐっんっ。」
彼の唾液を飲みほし、さらに欲しいと舌先で催促する。だけど、いじわるするかのように彼は顔を離した。ゆっくりと放たれた唇からは、淫らな透明の橋が架かっている。唾液による愛の架け橋だ。意識がとろんとしていたが、どうやらおっぱいへの直接の愛撫もやめてしまったらしい。
「かわいいよ、エッチな顔も。」
普段の先輩とは違う、優しくてかっこいい彼の口調と表情で、もう何も考えられなくなる。
「・・・スケベな私は嫌いですか?」
私は少し不安になりながら尋ねる。
「スケベな春香も好きだ。普段の春香より好きかも。」
「もう・・・先輩ったら。あんっ!」
先輩が私の右のおっぱいにキスをするのだ。右手で左胸を愛撫することも忘れない。
「先輩・・・気持ちいいです・・・。」
それを聞いてうれしくなったのか、先輩は右胸をもっと責め続けた。最初に乳頭にキスをしたかと思うと、敏感でコチコチになった乳頭の周辺を舌先でくるくる嘗め回してくる。そうしてさらに敏感になったところで、歯を使って器用に甘噛みしてくるのだ。
「あああんっ!!それ気持ちいいぃぃいいぃ!」
そして今度彼は右胸に唇を当てて、ゆっくりと吸い始めたのだ。右胸の最も敏感なところに、唇と舌先の感覚が襲ってくる。
「あんっあんっ!」
自然と声が漏れてしまう。本当に気持ちいい。
チュパチュパとわざとエロい音を紡ぎだしている。
「いやだ・・・先輩・・・赤ちゃんみたい。かわいい。」
今度は左胸も同じように口で愛撫し始めた。今度は左手で私の右胸を撫でまわしている。下乳のあたりをもみほぐしたり、指先で勃起した乳首の先端をつまみあげたり、乳輪のあたりを指で刺激したりしている。
「あんっ・・・すごい・・・頭が変になりそう・・・。」
「もっといやらしくしていいんだよ。」
先輩が唇を離して私に話しかける。
「私、もっとスケベになります!」
「かわいいよ、春香。」
「あんっ!またおっぱいに・・・。」
先輩は左のおっぱいを丹念に吸っていた。
「先輩・・・小さい胸より大きいほうが好きでしょ?」
先輩は私の問いかけには答えず、乳首を甘噛みした。
「あんっ、それそれっ!!・・んっ!」
最も敏感な部分に強い刺激が訪れた。気持ち良すぎて、意識が飛びそうになる。余韻で気づかなかったのだが、気づけば先輩は私の胸から顔を離し、私の股の方に顔を近づけていた。
「足を広げて。」
私は先輩の指示に従い、股を広げた。彼が両手で私の膝の横を押さえつける。
「春香・・・いやらしいおつゆがいっぱい出てるよ。」
「先輩・・・恥ずかしいです。」
私はとっさに顔を覆った。自分でもわかる。先輩の愛撫に興奮して、愛液が膣から流れ出ているのだ。きっともうシーツを汚してしまっているに違いない。
先輩は私の膣に顔を近づけていた。
「舐めるよ・・・春香。」
「はい・・・。」
私は恭しくうなずいた。
「あんっ!」
彼の舌先が右側の大陰唇に触れただけなのに、気持ち良すぎて声が出てしまうのだ。彼がゆっくりと舌先を這わせていき、小陰唇のびらびらした部分の淵を口に含ませた。
「うんんんっ~。」
あまりに声が出すぎて恥ずかしいので、腕で口元を覆って、声が出ないようにしていたのだが、それでも気持ち良すぎて声が漏れ出てしまう。
「春香。隠さなくていいんだよ。気持ちいいときは、どんどん声を出してくれていいんだよ。そっちのほうが嬉しいから。」
「だって・・・恥ずかしいんだもん・・・。」
「君の恥ずかしがっている姿を見たいんだ。」
「いじわる・・・。あんっ!そこは・・・!」
先輩がクリトリスにキスをしたのだ。
「クリトリスもこんなに勃起させてるね。いやらしい春香。」
「や~ん、言わないで~。恥ずかしい~。」
先輩はクリトリスを舌先でチロチロと愛撫するのだ。そのたびに膣から熱い蜜が流れ出る。
「シーツが・・・汚れちゃうよ・・・。」
それでも先輩は舌先の動きをやめない。
「シーツなんて洗えばいいんだよ。」
「あんっ!」
先輩がクリトリスを甘噛みした。最高に気持ちいい。脳髄がエクスタシーでくらくらする。
「今の気持ちよかった?」
「・・・さいこう・・・。」
「かわいいな、春香は。」
「やんっ・・・ん~。」
先輩がクリトリスにキスをして、両手で膣全体を大きくろ広げていく。そして今度は膣内の表面、膣前庭を舐め始めた。
「春香の愛液・・・とてもおいしいよ。」
ジュルジュルジュルジュル
先輩が膣内から湧き出る愛液をいやらしい音を立てて吸いだしていく。
「あ~んっ、ダメです・・・おいしくなんてないから・・・。あんっ!」
先輩が膣前庭をゆっくりと嘗め回していく。膣内からは先輩の求めに応じるかのように自然と愛液が漏れだしていく。気持ちよさとくすぐったさで、足をバタバタとさせているが、先輩が顔をうずめてしまったので、股を閉じることもできない。
すっかり頭の中がほんわかしてきているが、それを覚めさせるように彼の左手の人差し指が膣内に差し入れられた。
「ひゃんっ!」
「中もトロトロだね・・・。」
先輩はゆっくりと人差し指で中をかき回していく。
「あんっ・・・あんっ・・・あんっ・・。」
彼が指を深く挿しいれるたびにエッチな声が出てしまう。
「ああああ~んっっっ!!」
それに加えて彼が、クリトリスを舌先で嘗め回すのだ。隆起したクリトリスに舌先がチロチロと当たっている。
彼は人差し指で膣内をいろいろと探っている。たぶん、最も気持ちいいところを探しているのだ。私の最も快感なところを・・・。
「あんっ・・あんっ・・・。」
普段オナニーなんてしないから、自分でもどこが気持ちいかなんてわからない。今までにない感覚で頭の中が真っ白になる。
「あんっ・・・ああああぁぁああぁぁん~~!!そこそこっっっ!」
彼が膣内のある突起の部分をさすり始めた。
「ダメダメダメっ!いっちゃうぅぅぅううぅ~っっっん~!!」
彼の指が容赦なくその気持ちいいポイントを責め続け、舌先でクリトリスを舐めるスピードもますます早まっていく。
「も・・・もうだめ~~いっっっちゃうぅぅうぅ!!」
その瞬間だ。頭の中に強い電流が走った。
「ぐはっ・・・んんっ・・・」
不随意的に体がびくびくと痙攣している。これがきっとうわさに聞くオーガズムなのだ。今までに感じたことのない絶頂に、私は達していた。
私がイったのを確認すると、先輩は私の膣から指を引き抜いた。クリトリスを愛撫するのもやめていた。
「いっちゃったんだね。」
私はそれにこたえる余裕もない。ただびくびくと痙攣しているだけだった。
「気持ちよかった?」
「・・・ふん・・。」
彼が私のもとに近づいて、一緒に仰向けになった。
「なんらか・・・あらまはぽーっとひます。」
言語感覚がおかしくなる。口を結んで話すことができない。
「しばらく休んでいようか。」
「・・・はひ・・・。」
その後もしばらく体が震えていた。暑くて全身から汗が噴き出していた。先輩がその様子を見て、エアコンのスイッチを切った。次第に部屋の中の空気が冷めていくのが分かった。
しばらくして、少し正気を取り戻していた。
「春香・・・今度は僕のことも気持ちよくしてくれないか?」
「はい・・・先輩。」
私はゆっくりと起き上がり、先輩はベッドの中央に移動すると足を広げて、先輩の勃起したおちんちんを差し出した。
「先輩のおちんちん・・・大きいですね。」
「勃起すると、男はみんなこれくらいになるよ。」
「そうなんですね。」
私は四つん這いになると、体を上げて猫みたいなポーズをして、彼のおちんちんに顔を近づけた。生臭いにおいがする。それがかえって私の興奮を刺激している。
彼のおちんちんを右手で握り、ゆっくりと上下に動かした。
「・・・男の人は、みんな毎日・・・こうやってるんですよね自分で。」
「まあ、そうだね。」
「先輩も?」
「・・・毎日じゃないけど、たまにね。」
「先輩は・・・オナニーするときに、何でシているんですか。」
「えっ・・・素材のこと?まあ、ビデオ使ったりとかかな。」
「私は?」
「うん?」
「私のこと・・・思ってシてくれたことあります?」
「・・・・・。」
先輩は沈黙を保っている。なんて答えていったらいいのか困りあぐねている様子だった。
「シてくれてたらうれしいなって。」
「・・・あるよ。」
「たとえ嘘でも嬉しいです。」
「本当だよ。」
「・・・じゃあ、明日からはずっと私の体のこと思い出してシてほしいんです。私がいない間はずっと・・・。何なら、今度送りますよ。私の恥ずかしい写真とか動画、それでどうです?」
先輩は笑って答える。
「ありがとう、春香。でも大丈夫だから。」
「私も・・・もしさみしくなったら、先輩のこと思い出してシますから。だから・・・浮気しないでくださいね・・・たとえオナニーだとしても。」
「うん・・・わかった。」
それを聞き終えると、私は彼のおちんちんに顔を近づけゆっくりと口に含ませた。弾力のある海綿体が上あごにあたる。今までに味わったことのない不思議な感覚だ。
そのまま私はゆっくりと口を使って上下する。
「んんっ・・・ふんっ・・・。」
吐息がいやらしい声となって漏れる。彼が余った両手で私の胸をぽよぽよさせてくるのだ。気持ちよくて、彼のおちんちんももっと気持ちよくさせたくなる。
ジュップヌップニュップジュップ
しばらくして、口内の唾液がたまり、それが口の中で擦れ合って卑猥な音を立てている。彼のおちんちんを上下する速度も、慣れと口内の潤滑油が相まって、ますます加速していく。
「春香・・・気持ちいいよ。」
その言葉でがぜんやる気が出てきた。彼は私の胸から手を離してしまっていた。自分の快感に集中しようとしているようだった。
「春香・・・舌先でむき出しになっているところを舐めてくれないか。それと、手も使ってみて。」
先輩からの注文だ。うまく答えて、気持ちよくさせないと。
私は彼のおちんちんからいったん口を離して、海綿体になっているところを舌でぺろぺろと舐め始めた。さらに尿道口のところも舌先で嘗め回し、それと同時に右手の動きも早めていく。
「おお~、それいいかも。さっきのと組み合わせて。」
さっきの?ジュプジュプいやらしい音を立てながら、口に含むことか。
私は言われた通り、口に含ませた唾液で彼のものを咥えつつ、右手で彼のおちんちんの皮の部分を刺激し、さらに時々、カリになっている部分や海綿体の部分も舐め繰り回した。
「あぁあぁ~。」
彼がいかにも気持ちよさそうな声を出す。
彼のおちんちんの先から、何か苦いものが漏れてきていた。たぶんこれがうわさに聞くところの我慢汁なのだろう。それを逃したくない。私は彼の尿道から漏れ出る我慢汁を一滴も残さまいと、丹念に吸い上げて、飲み干した。
「先輩の我慢汁・・・。」
「飲んじゃった?」
「先輩の味がする・・・。」
「どんな味だよ。」
「ふふふ。おいしいあじ・・・。先輩、気持ちいいんですね」
「ああ。」
そうだ。いいことを思いついた。
「先輩、そこの椅子に座ってもらっていいですか?」
「そこに?いいけど、何をするの。」
私は不敵に笑って、自分の胸を両手で持ち上げた。
「ここで・・・気持ちよくしてあげます。」
先輩は少し笑って、立ち上がるとさっきまで先輩が座っていた椅子に座った。私はベッドから降りて先輩の目の前で立膝をつくと、そのまま私のデカぱいで彼のおちんちんをゆさゆさし始めたのだ。
「おお~気持ちいい。」
「さらにサービス。」
私は首を曲げて彼の敏感な海綿体をチロチロ嘗め回し、ヌップヌップと口に含んで上下するのだ。
「あー、気持ちいい。これはすぐダメになるかも。」
私は彼のものにどんどん刺激を加えていく。おちんちんをおっぱいで縦に揺らし、カリの部分から海綿体全体を素早く嘗め回していく。
「あーだめだ、いきそう。」
「いっひゃってくらはい・・・わらしのふひのなはにらして!」
彼を射精させるため、私は渾身の力を込めてラストスパートをかけた。
「ああー、ダメだ。出すよ!」
そういった瞬間、彼の尿道口からあったかいものが飛び出してきた。精液だ。粘性のあるあったかい液体が私の口の中の唾液と混ざり合っていく。
私は彼の愛の味を確かめるように、口の中で転がしながら、精液を味わっていく。そして十分に口の中で堪能した私は、そのまま彼のものを飲み込んだのだ。
ゆっくりと私は彼のおちんちんから顔を離した。
「飲んじゃった?苦かったでしょ?」
精液の味は苦いらしいということは知っていたが、確かに苦かった。
「確かに苦いですけど・・・先輩のものって考えたら、こんなにおいしいものはないです。」
「春香のフェラ、すごくよかったよ。」
「千早ちゃんと比べてどうでした?」
「千早とは・・・しなかったんだ。」
えっ、そうなの?
「どうしてですか?」
「なんとなく、そんな雰囲気にならなくてね。」
「千早ちゃんなら、それくらいの礼儀があると思ってました。」
「まあ・・・しなきゃいけないわけってことじゃないしね。」
「でも・・・私とシて良かったでしょ?」
「もちろんだよ。今度は、春香の中に入れたい。」
私は笑顔になった。
「いいですよ。さ、続きをしましょう。」
「もう少し休んでからにしようか。まだ、僕も回復していないし。」
確かに先輩のおちんちんは、少ししぼんだように見える。出した後は、すぐに動かせないんだっけ。
「そうですね。」
そういうと私は、ベッドの上に飛び乗って、一人で秘部を触り始めていた。
「普段、私・・・オナニーってしないんです。」
「ふーん、そうなんだ。女の子だとしない子もいるからね。」
「だから・・・どうしたら気持ちよくなるか、わからなくて。」
「僕もあまり分からないけど、クリトリスのあたりを刺激すると気持ちいいらしいよ。さっき僕がしたみたいにね。」
「指でさするんですか?」
「うん。あと、中に指を入れて、気持ちいいところを擦るといいんじゃないかな?知ってる、春香。女性の膣の中には、『Gスポット』って言ってとても気持ちいいところがあるんだって。」
さっき中で刺激されたところかもかもしれない。少しばかり、探ってみるのも面白いかも。
「一人の時に・・・試してみますね。」
先輩が「いや・・・」と切り出す。
「ここで、やってみない?」
えっ、先輩の前で?
「だって・・・先輩が見ているじゃないですか。」
「僕と合体したいんでしょ。春香がオナニーをすれば、すぐに中に挿れられるし、春香のエッチなところを見れば、すぐ元気になると思うんだ。どう?」
どう?って言われても、先輩に薦められれば、断るわけにはいかない。それに、先輩に見られてるって思うと、なんだか興奮してきた。
「いいですよ。じゃあ、先輩は正面で見ていてください。」
「わかったよ。」
彼は自分が座っていた椅子をベッドの正面にもっていった。私は、ベッドによっかかって、股を開き、両足をくの字に曲げて固定した。
「中に指を入れるときは、指を口で湿らせてからのほうがいいよ。あと、おっぱいも感じやすいんだったら、そこも刺激するといいかもね。」
先輩が真正面からアドバイスをしてきた。先輩の屈強な裸体が目に入る。
うー、先輩が目に入ると集中できないよ~。目を瞑ろう。目を瞑ってやろう。
私はゆっくりと目を瞑り、まず自分自身でおっぱいをもみほぐし始めた。両手で乳頭の部分をさわさわしながら、徐々に乳首を勃起させていく。そして両手で指先を使いながら、もみもみとほぐしていく。
精神的にオナニーをする体制を整えたら今度は、恐る恐る右手を下腹部へと差し向けた。恐る恐る腹部から忍ばせるようにして、クリトリスにゆっくりと手を触れた。
「おおぉ~。」
別に触ったことがないわけではないのだが、こういう目的で触るのは初めてだった。ちょっとした刺激に興奮を覚えつつ、クリトリスにふれた右手人差し指で上下にクリトリスを撫でていく。
「あ~気持ちいいです。」
正面から先輩の声が飛んでくる。
「好きな人を想像しながらすると、すごく気持ちよくなるんだよ。僕に触れられてるって想像しながらするとかね。」
さっきまで自分で触れているようなイメージでおさわりしていたのだが、先輩に言われて、目の前の空間に先輩を出現させてみた。空想上の彼がかがんで、さっきみたいに私のクリトリスを指で愛撫している。
「あんっあんっ・・・これきもちいい~。」
その姿を想像しただけで、脳みそがとろけてしまいそうだ。
もっと強い刺激が欲しくなった私は、クリトリスを人差し指の爪でこしこししながら、左手の人差し指を湿らせ、恐る恐る私の中の蜜ツボの入り口に触れてみた。
さっきから興奮しっぱなしの私の膣は、もうどんな巨根が入ってきても大丈夫なくらいに濡れているのだ。
私はそのまま膣の中に左の人差し指を挿入する。
「あんっ・・・あんっ。」
き・・・気持ちいい。さっきも痛くなかったし、今も全然痛くない。むしろ全然気持ちいい。
自分で入れるのも初めてだから、むしろ初めての感覚にすごく驚いていた。中は思った以上に凸凹している。子宮の中は口の中と同じくらいの温度で、その壁の部分が凸凹しているのだ。
先輩がさっき触っていたところは、どこだっただろうか。快感すぎて何も覚えていない。だけど、なんとなくこのあたりだったと思う。
「おぉーん!」
狼みたいな声が出てしまった。ここだ!さっき先輩にいじくってもらったの。
「あっ・・あんっあんっ・・・見つけました。気持ちいいところ!」
「そこを擦ってごらん。どんどん気持ちよくなるはずだよ。」
言われなくてもやっている。膣の上側の突起になっているところだ。左手の人差し指でずんずんさすっていく。
膣から愛液がドバドバ出てきている。頭の中もほわーんとなっていく。
「あんっあんつあんっ!」
声もどんどん大きくなる。
「もういきそー!あああぁああぁんっ!・・・。」
体が無意識にビクンビクンする。またイッてしまったのだ。先輩の見ている前で。私はとんだド変態だ。
先輩が椅子からたちあがったような感じがした。私はゆっくりと目を開いた。先輩がベッドの上に載ってきている。
「イッちゃったんだね。春香って、僕が思っていた以上にエロい子なんだね。」
私は力なく首を横に振る。だけど、そんなのお構いなしって表情だ。
「僕の方はもう準備ができたよ。」
確かに先輩のおちんちんが元気に復活していた。いかにもはちきれんばかりだ。
「1回イッちゃったあとにすぐすると、連鎖反応で何回もイけるんだよ。だから、もう入れちゃうね。」
えっ、そんな、まだ心の準備が。
「あわわ」
先輩は私の両足をもって、引きずり倒し、強引に仰向けの姿勢にすると、正常位の体位を作った。
「大丈夫、さっきより太いけど、今の春香ならすぐに普通に入るからね。」
「れも・・・まらこころのゆんひか・・・ほれにわらし・・・しょじょなんれす・・・」
「大丈夫。少しずつ入れるから・・・。力を抜いてね。」
私は処女なのだ。そんな心の準備もなしに入れられたら・・・あっ・・・入ってきた。
彼のおちんちんがゆっくりと私のおまんこの中に入れられた。
「どう?痛い?」
あれ?不思議とそんなに痛くはない。
「思っていたよりかは・・・痛くないです。」
「もう濡れ濡れだったからね。このまま・・・ゆっくりと動かすよ。」
正常位の体位のまま、先輩はゆっくりと体を上下させて、おちんちんをピストンさせていく。少しでも痛みを和らげようと、彼は両手でおっぱいを刺激刺激したり、私の唇にキスをしたりして、少しでも快感を得させようとしている。
「んっ・・・んっ・・・。」
全然痛くない。むしろ、ちょっと気持ちいい。
「大丈夫?」
私はゆっくりとうなづいた。
「気持ちいいです。」
私の笑顔を見て安心したのか、彼はピストンの速度を少しはやめた。
「あんっ・・・あんっ・・・。」
彼のおちんちんが私の中で蠢いている。膣全体が彼のおちんちんの刺激で、気持ちよさを感じている。
「春香・・・結構締まりがきつい。すぐに出してしまいそうだ。」
「あんっあんつあんっ!先輩!出すときは外に!」
「わかってる。」
彼のピストンがどんどんと早くなっているようだ。それに伴って、どんどん快感が増してくる。セックスがこんなに気持ちのいいものだなんて、初めて知った。
「あんっあんつあんっ!もうダメ、もう私イッちゃいそう!」
「僕もだよ!」
先輩のピストンが最高潮に高まる。
「ああっああっああっああっああっああああぁぁああぁぁん!」
「がっ!」
先輩は勢いよくおちんちんを膣から引き抜くと、私のおなかの上に射精した。その瞬間私も絶頂に達した。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
彼は息を切らしている。私は私で体が痙攣して何もしゃべれない。
しばらくの間私たちは、そのまま動くことができなかった。
それから20分くらいたって、私たちは布団をかぶり、裸のままで抱き合っていた。
「夢みたいでした・・・。先輩とこうやって過ごせたこと。」
「夢じゃないんだよ。」
「愛し合うって・・・こんなに楽しいことだったんですね。」
「ああ・・・。痛くなかった?」
「全然。先輩が優しく愛撫してくれたから、少しも痛くはなかったですよ。シーツは汚しちゃいましたけど。」
シーツには、愛液と精液と血液の跡が残されていた。
「シーツは、ホテルの人が洗うよ。普通のホテルだから、そういうことも普通に想定しているしね。」
しばらく無言になった。何を言えばいいのか、わからない。もうしばらく会えないというのに。言いたいことは、沢山あるのに。この限られた時間で、伝えたいことはたくさんあるのに。
やがて、先輩の方から話しかけてきた。
「春香、本当にすまない。兄貴のせいで、言いようもないほどの苦痛を味合わせてしまった。どんなに、謝ったって、一生かけても許してもらえない罪だよ。」
「もういいんです。先輩は悪くない。悪いのは秀行さん。先輩は、彼を倒してくれればいい。それが私への罪滅ぼしですよ。」
「必ず、すぐに迎えに行く。」
「期待しないで、待ってますよ。」
「いや、期待しててくれ。春香はその間にロス観光でも。」
私は苦笑した。
「はいはい、わかってますよー。」
「僕のこと信頼していないなー。」
「いえいえ、望月俊様のお言葉ですから、信頼しないはずありませんよー。」
「やっぱりバカにしてる。今度という今度は本気だ。親父も今回は味方だしね。」
「そのお父上は行方不明ですけど。」
「・・・・・。」
やばっ、まずいことを口走ってしまった。いくら父親のことを嫌っているとはいえ、実の父親なのだ。軽口をたたけるような話題ではない。
「ごめんなさい・・・。口が過ぎました。」
「気にしないでくれ。」
なんだか空気が重くなってしまった。せっかく先輩と二人きりで過ごしているのに、暗い空気のままなのはいやだ。何か話しかけなくては・・・。そうだ。こんな提案をしてみよう。
「先輩。」
「うん?なに?」
「もしも、この事件が一段落ついて、みんな無事に帰ってこれたら、みんなでヨーロッパ旅行に行きませんか?」
「みんなでヨーロッパ旅行?」
「はい。私や先輩、千早ちゃんに伊織と美希、今回の騒動に関わってしまったこの5人でね。もちろん、費用は全部先輩持ちで。」
先輩は苦笑した。
「望月財閥によるお詫び旅行ってわけね。まあ、いいでしょう。出世払いでも何でもして、費用は工面するよ。」
「やったー!私本気にしてますからね。絶対忘れないで下さいよ!」
「約束する。必ずみんなをヨーロッパに連れて行ってあげる。」
その時の彼の眼には、この事件を解決して、幸せになってみせるんだという、彼の強い決意が狂おしいほどに伝わってきていた。
そんな彼に、私は肩をゆだねていた。
それからしばらくした後のことだ。私たちは日頃の疲れがたまっていたのか、そのまま眠りこけてしまっていた。
突然、廊下の方からいくつかの足音が聞こえ、ドアがガチャリとあけ放たれた音がしたのだ。おかしい。オートロックのドアが突然開くということはあり得ない。寝ぼけ眼ながら、私は上体をゆっくり起こした。
「だれ?」
その刹那のことだ。
「むぐっ」
私はいきなり何者かにハンカチで鼻と口を抑えられたのだ。いきなりのことに抵抗しようとするのだが、相手の力が強くて何の抵抗もできない。しかも部屋が暗いから、この暴挙の人物がいったい誰なのかもわからないのだ。
どうやら、薬品が浸みこまれていたらしい。
私は何の抵抗もできず、何も理解が及ばないまま、意識が闇の向こうに溶けていった。