第5節 私の大好きな人
私は「トクナガ先生」のことがますます大好きになった。私は「トクナガ先生」のことを「お姉さん」のように慕うようになった。
私に「友達」ができたといって一番喜んでくれたのは、ほかでもない「トクナガ先生」だった。私のお母さんに話しても「ふーん」で終わった話が、「トクナガ先生」と話すと、30分にもなった。
私に友達ができたおかげで、図書館を訪れる回数は減った。だけど、先生はそのことをむしろ喜んでくれたのだ。先生としては、私が、幼いころの先生の様に寂しい思いをしていないことが何よりうれしかったのである。「トクナガ先生」は本当にやさしい人だった。
小学3年生になったある日のことであった。「トクナガ先生」とお話をしたい気分になった私は、例の図書館を訪れた。案の定、「トクナガ先生」はその日も受付カウンター付近で暇そうにしていた。
私は急いで先生の下へとかけていった。
「先生。こんにちは!」
「春香ちゃん、こんにちは。館内は走っちゃだめよ。あと、声をかけるときはもう少し静かにね。」
「はい、こんにちは。」
「こんにちは。春香ちゃん、今日は本を返しに来たの?それとも借りに来た?」
「ううん。今日は、先生とお話がしたくて来たんです。」
先生は少し苦笑いをした。
「そうなのね。まあ・・・」
と言いつつ周りに目配せする。サボってもいいという合図が出たようだ。
「じゃあ、受付カウンターで話しましょうか。お客さんが来たら、そこで中断だからね。」
「はい、わかってます。いつもの通りでしょ。」
「もう、それじゃ私がいつも仕事してないみたいじゃない。」
「あ、ごめんなさい。」
先生はくすくす笑っている。
「まあ、実際いつものことなんだけどね。さ、こっちに来てちょうだい。」
私はいつもの通り、受付カウンターの方へと招き寄せられた。私が席に着座すると、早速私の方から切り出した。
「先生、先生って今好きな人いる?」
先生は思わず吹き出しそうになっていた。
「す・・好きな人?唐突ね。」
「いる?」
先生は少し困惑したような表情を見せたが、何かを思いついたみたいだった。
「ええ、いるわよ。」
「ホント!?誰誰?」
先生は私を指さした。
「春香ちゃん。」
私はガックリしてしまった。
「もー、そういうことじゃないんだけどなー。」
「あら、じゃあどういうことよ?」
「好きな男の人はいるって話、」
そういわれて、また先生は考えこんだ。
「トンチはもうなしだからね。」
「分かりましたって。あっ・・・ところで、どうしていきなりそういう話になるのよ。あっ、まさか春香ちゃん好きな子ができたの?」
先生は突然恋愛話を振ってきた訳を聞いてきた。
「いや・・・そうじゃなくて。実はね、先生。友達のマキちゃんが、5年生の先輩を好きになっちゃって。どうやったら振り向いてもらえるかって相談されたんだよね。だけど、私男の子を好きになったことなんてないし、どうしたらいいかわからないから。」
「大人なこの私に聞いてきたってわけね。」
「うん、そう。で、先生、男の人と付き合ったことある?」
「うーん。」
先生は少し悩んでいるようだ。何を悩んでいるんだろうか、どう答えていいのかを悩んでいるというところだろうか。
「男の人と付き合ったことは、ないわ。はっきり言って。」
「そうですか・・・」
「だけど、好きな男の人はいたわ。」
それを聞いて、私はテンションが上がった。
「本当ですか!?誰なんですか!?」
「シーッ、声が大きいわよ春香ちゃん。」
「ごめんなさい・・・。」
「うーんとね、どうしようかな・・・それはヒミツということで。」
「えええーーっっ!どうして?」
「どうしても。乙女には秘密にしておきたいことの一つや二つくらいあるってものよ。」
すると、横で話を聞いていた同僚の女性が話に入ってきた。
「あんたの好きだった男は、高校時代の1年上の先輩でしょ。」
「ちょっちょっと何言っているのよ、タマキ!」
「別に子供相手に隠すような話じゃないでしょ。私にだってしてくれてるくらいなんだから。さっさと話しちゃいなさいよ。」
「もう、好き勝手なこと言わないでよ!私にだってプライドがあるのよ。プライドが!」
「はいはい、図書館ではお静かにねー。」
二人はいいコンビだ。この同僚の女性は、「タマキ」さんという人らしい。セミロングの茶髪で、髪にウェーブがかかっている。「トクナガ先生」と同じくらい華奢な人だ。おまけに、美人・・・。初めて見た顔だった。最近配属された人なのだろうか。
「まったく・・・。」
「タマキさんって、「トクナガ先生」のお知り合いなんですか?」
「別の図書館から配属になってきた人で、私の高校時代の友達よ。確かに高校時代は、あの子に相談したんだけど・・・。」
「トクナガ先生」がぐぬぬという表情をしている。やがてそれも収まった。
「しょうがないわね。じゃあ、話すとしますか。で、どうやって、先輩を落とそうとしたかって話だったわよね。」
「はい。でも、できれば好きになった経緯とかも・・・。」
「それはだめよ。関係ないんだから。」
「ちぇー」
しょうがない、それは後でタマキさんに聞いてみよう。
「私ね、こう見えて結構オクテな方なの。だから、なかなか先輩に声を掛けられなくって。」
「へえー、そうなんですか。」
今の「トクナガ先生」の性格を考えれば、なんだか意外な感じだ。
「あっ、今嘘っぽいって思ったでしょ。」
私は笑いながら否定した。
「思ってない思ってない。」
「まあ、とにかく、しょうがないからダメモトでラブレターでも送ってみようかなって思ったんだけど。それだけじゃ、パンチが弱いかなって思って。それで、彼のためにお弁当を作ろうかなって思ったの。」
「お弁当ですか。」
「ええ。料理できるところをアピールしようかなって思って。」
「さすがです。「トクナガ先生」は何でもできるんですね。」
先生はなんだか浮かない顔だ。
「どうしたんですか?」
「お弁当を作ることは作ったのよ。それで、ラブレターと一緒に手渡した。」
「・・・ダメだったんですか?」
「結論を言うとそういうことね。」
「どうして!?」
言いにくそうにしているところに、タマキさんがまた介入してきた。
「彼にはもうすでに彼女がいたのよ。それでお弁当も結局食べてもらえなかったってわけ。」
「それ、ひどい。」
タマキさんがすかさずフォローする。
「仕方ないことよ。彼もその彼女にお弁当を作ってもらっていたんだから。一人で2個は食べられないし、彼女がいるのにほかの女性のお弁当も食べていたら、彼女怒るでしょ。」
なるほど、確かにそれなら仕方がない。タマキさんは続ける。
「それでそのお弁当は、彼の友達が代わりに食べてもらっていたってわけ。本人はあくまで自分が食べたふりをしていたけどね。」
「それって、「トクナガ先生」をだましていたってことじゃないですか。」
「違うの、春香ちゃん。それは先輩の私へのやさしさ。私を傷つけまいとして、『やさしい嘘』をついてくれただけなのよ。」
そういうものなのだろうか、その時の私はそこまで深くは考えてはいなかった。
タマキさんが述べた。
「とにかくリサーチ不足がいけなかったわね。彼に彼女がいるって知ってたら、もっと早くあきらめがついたし、食べてもらえないお弁当を作ることにもならなかったんだから。」
一つ気になることがあった。
「「トクナガ先生」は、どうしてその彼女さんから、先輩を奪おうとはしなかったんですか。」
その言葉に「トクナガ先生」もタマキさんも驚いている様子だった。タマキさんが私を諫めるように問いかける。
「春香ちゃん、人のものをとったら泥棒って言葉わかるわよね。」
「う・・・うん。」
「そういうことよ。人の気持ちはモノじゃないけど、簡単にとったりしたらいけないものよ。誰かが不幸になるでしょ。」
しかし、私はあきらめがつかない。それでは自分が不幸せを我慢しなくちゃいけないということじゃないか。
「でも、それって自分が一番苦しむんじゃないですか。もし先輩に彼女がいることが分かって、それで告白を辞めてしまったら、『好きだ』っていう気持ちをずっと抑え続けなくちゃいけなくなるじゃないですか。」
今度は「トクナガ先生」が諭してくる。
「もしそうやって、告白して先輩を奪ってしまったら、今度は先輩の彼女が傷つくことになるんじゃないかしら。二人は好き同士で付き合っているというのに、私の一方的な好きという気持ちで、彼女から彼を奪ってしまったら、私はきっとものすごく恨まれると思うわ。」
「そ、そういうことよ。いい男なんてほかにいくらでもいるんだから、彼にこだわり続ける必要なんてないわけよ。」
そういうものなのかな、その時の私は2人の言葉に納得がいかなかった。
「結論を言えば、お弁当を作るのはやめた方がいいかもね。」と「トクナガ先生」は言った。
「そもそも、小学3年生で初恋って早すぎるんっじゃないの。子供のころの初恋なんて、相手のことが好きなのか、相手に恋している自分が好きなのかすらよくわからない年齢じゃない。それに二つ上の小学5年生なんて、そもそも触れ合う機会すらほとんどないでしょ。諦めた方が賢明だと思うわ。初恋の思い出は、それはそれできれいなまま胸にしまっておいた方がいいということもあるわよ。」
タマキさんの意見も尤もなように聞こえた。
「でも、思いを伝えることで何かが変わることもあるかもしれないわ。これまで何にも意識してくれなかった彼が、告白することで意識するようになって、本当に好きになってくれるかもしれない。仮に今はその気持ちがなくても、また十年くらい経って再開したときに、恋心が再び芽生えるかもしれないわ。」
なるほど、「トクナガ先生」の言い分も尤もだ。
タマキさんが続けた。
「とにかく、今はリサーチしてみることね。まあ、小学5年生の子供じゃ彼女なんていないと思うけど、彼女がいたら諦めさせなさい。それと、お弁当作戦はNGね。そもそも、学校なんだから給食があるでしょ。まあせいぜいやれるとしたら、ラブレター作戦くらいかもね。アケミが言ったみたいに、告白することで何か変わるかもしれないから、彼女がいなかったらイチかバチかでアタックするのはアリかもしれないね。」
「分かりました。友達にはそう伝えてみます。」
「うん、分かればよろしい。」とタマキさん。
そういえば、先生は料理が得意なんだろうか。好きな人にお弁当を作っていくくらいなのだから、多分得意なんだろう。
「「トクナガ先生」は料理は得意なんですか?」
「え、ええ。まあ、普通に作るくらいよ。」
タマキさんが口添えする。
「なに謙遜してるのよ。本当はすごく得意なくせに。」
「えっ、そうなんですか!?」
うらやましいと思った。私なんて包丁すらまともに握ったことがないのだ。
「ええ。まあ、ね。春香ちゃんには前に言ったけど、私はボシカテイだったじゃない。」
「ボシカテイ?」
「お父さんがいない家庭のことよ。それで、お母さんが夜まで働いていたから、料理を作るのは私の役目だったわけよ。そのおかげで自然と料理が上達したってわけ。」
「そうそう。アケミは私と違って料理上手だからね、こんな男っ気のないところで働いていなかったら、もうとっくにお嫁に行ってるわよ。」
「ちょっ、ちょっとタマキ!」
私はくすくすと笑っていた。二人は本当に仲がいいみたいだ。
今度は「トクナガ先生」が聞いてきた。
「春香ちゃんは、お母さんから料理教わってる?」
「いいえ・・・。」
「そっか・・・。春香ちゃん、料理習ってみたい?」
「はい。やってみたいです。」
「うちの図書館には、料理のレシピ本もあるから、それを借りてみるのはどうかしら?」
そういうものも置いてあるのか。ちょっと覗いてみるのもいいかもしれない。
「分かりました。ありがとう、「トクナガ先生」とタマキさん。」
「うん、じゃあね春香ちゃん。」
「私だけなんで『先生』じゃないのか気になるけど、まあいいか。じゃあね春香ちゃん。」
私は二人に手を振ると、そのまま図書館の中に入っていった。
その翌日、私は風呂敷に包んだ大きなお弁当箱を持って図書館を訪れていた。中には、私が初めて作ったお弁当が入っていた。大好きな「トクナガ先生」に食べてもらいたかったからである。
「あら、それなにかしら?」
カウンターへ近づくと、早速「トクナガ先生」が私に声をかけてきた。
「さてなーんだ?」
すると、後ろの方からタマキさんもやってきて答える。
「分かった。お弁当でしょ。昨日レシピ本借りていって、早速作ったんだね。:
「正解!」
「トクナガ先生」が驚いた顔をしていた。私はカウンターの椅子に座って、お弁当を机の上に載せた。
「あら凄い。もう早速料理を作ったのね。お母さんに手伝ってもらったの?」
「ううん。全部ひとりで作ったの。「トクナガ先生」に食べてもらいたくて。」
「私に?」
「うん。あとこれも読んでほしくて。」
そういって私は、肩掛けカバンから一枚の手紙も差し出した。
「これって・・・。」
「ラブレターね!」
うれしそうにタマキさんが答える。
「う・・・うん。」
そういう風に直球で言われるとは思わなかったから、少し恥ずかしい。
「どうして・・・これを。」
「トクナガ先生」が両手で顔を覆い隠している。ビックリが隠せないという様子であった。
「私にとって、大好きな人は、「トクナガ先生」だから。だから、『告白』しようかなって。」
「やだ、この子かわいい・・・。」
タマキさんも頬を染めているみたいだ。それ以前に、「トクナガ先生」の瞳がウルウルしているのに気が付いた。
「あれ、先生泣いてるの?」
先生は首を縦に振った。
「すごく、うれしくて・・・。」
タマキさんが少し茶化してくる。
「アケミはこういうの弱いからね。すぐ泣いちゃうんだから。」
「トクナガ先生」がタマキさんを軽く小突いた。
「もう。馬鹿にしないでよ。春香ちゃん、ありがとうね。とっても嬉しいわ。でも・・・。一人で食べるには少し量が多いんじゃないかしら。」
風呂敷に包んでいたのだが、その「お弁当箱」は正確に言えば、ただの重箱だ。
「量が分からなくて、作りすぎちゃったの。」
中は何ということはない。日の丸弁当にゴマを掛けたご飯、そしておかずは形が崩れている卵焼きと、出来の悪いウインナー、そしてゴロゴロと乗っけただけのプチトマトだ。
「それに・・・初めて作ったから、あんまり自信なくて。一応味見はして大丈夫だったから平気だと思うけど。」
タマキさんが手をパタパタさせた。
「まったく、春香ちゃんも素直じゃないなー。私にも食べさせたくて持ってきたんでしょ。」
いや、別にそういうわけではなかったんだけど。
「・・・二人で食べてくれると嬉しいです。」
すると突然、「トクナガ先生」が机越しに私に抱き着いてきて、ほほをすりすりさせながら「ありがとー」と言ってくれたのである。
「先生、あついあつい。」
「ありがとー、春香ちゃん。」(スリスリ)
普段見ない「トクナガ先生」の愛くるしいしぐさに、とても朗らかな気分になったのを覚えている。
後ろでタマキさんもケラケラ笑っていた。
しばらくして、「トクナガ先生」が私から離れた。
「早速食べたいところだけど、まだ夕飯には早いのよね。」
「ですよね。」
時刻は午後4時過ぎだ。
「じゃあ、これは後でタマキと一緒に食べさせてもらうわ。」
「はい!ぜひ食べてください。」
「ええ。ありがとうね、春香ちゃん。」
「トクナガ先生」は私にそう述べると、タマキさんと一緒に、お弁当を持って事務室の方へ戻っていった。
それから3日くらい経ったある日のことである。私は料理の本を返すために、図書館を訪れていた。カウンター付近を見回すと、周囲で本の整理をしているタマキさんを見つけた。カウンターに近づいて声をかけてみよう。
「タマキさん、こんにちは。」
声に反応して彼女が振り向く。
「こんにちは、春香ちゃん。どうしたの?本を借りるの、返すの?それともアケミに用?」
「ええっと・・・本を返そうかなって。」
「そう、分かった。じゃあ準備するから、本貸して。」
「はい、わかりました。」
私はカウンターに近づいて、椅子に座った。
向かいのカウンターにタマキさんが座ると、早速先日のお弁当の感想を述べてきた。
「お弁当、なかなかおいしかったわ。」
「ありがとうございます。」
「初めてにしては、上出来だわ。料理の才能があるんじゃない?」
「そ・・・そんな・・・うれしいです。」
褒められるとなんだか気恥ずかしい。自然と頭を下げてしまう。
「そうそう、お弁当箱返さないとね。アケミ呼んでくるわ。なんだか他に渡したいものもあるみたいだし。」
そう言って、タマキさんは料理本をよそに、「トクナガ先生」を探しに行ってしまった。渡したいものって何だろうか。その正体に少しワクワクしながら、タマキさんが戻ってくるのを待っていた。
しばらくして、奥の事務室から風呂敷に包んだお重(お弁当箱)を持ってきた「トクナガ先生」が、タマキさんに連れられてやってきた。
「こんにちは、「トクナガ先生」。」
「こんにちは、春香ちゃん。この間はお弁当ありがとうね、とってもおいしかったわ。」
「トクナガ先生」は満面の笑みだ。私もついつい笑みがこぼれてしまう。
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、うれしいです。」
「あっ、そういえば手紙の方には何て書いてあったのよ?あの後読んだんでしょ。」
タマキさんが「トクナガ先生」に尋ねた。
「タマキ、人の恋文をむやみやたらに聞いちゃだめよ。これは私と春香ちゃんだけの秘密なんだから、ねー。」
「トクナガ先生」は顔をニコニコさせて、首を傾けながら同意を求めてきた。
私も同じように「ねー」と繰り返す。
「それもそうね、二人は『お熱い仲』だもんね。」
「そうよ。私と春香ちゃんはラブラブなんだから、ねー?」
「ねー。」
その後、タマキさんが羨ましがって何かを言っていたような気がする。
「そうだ。そうそう、今日は春香ちゃんに渡したいものがあったの。」
思い起こしたようにポンと手を叩いて、「トクナガ先生」がそう述べた。
「なになに!?」
私は少し身を乗り出して、「トクナガ先生」の様子をうかがった。
「ちょっと待ってね。」
「トクナガ先生」がエプロンのポケットを弄った。
「はい、これ。この間のお弁当のお礼にこれあげる。」
そういって「トクナガ先生」が手渡したのは、赤いリボンの髪飾りだった。
「これって・・・。」
「春香ちゃん、付けてあげるね。」
「トクナガ先生」が私の正面に立ち、慣れた手つきで、髪飾りを私のおかっぱな頭に取りつけていく。
しばらくして、リボンをつけ終わったみたいだ。
「はい、できあがり。なかなか似合っているわよ。」
タマキさんも絶賛していた。
「ほんとね、髪飾り一つだけでこんなに印象変わるのね。ビックリだわ。」
そんなに言うなら私も見てみたい。
「えー、見たい見たい。」
「ちょっと待って、手鏡を渡すから。」
そういって、「トクナガ先生」は急いで事務室へと戻っていった。
「アケミも良い趣味してるわね。」
そういいながらタマキさんは、私の髪飾りと頭を交互に撫でていた。
「「トクナガ先生」も付けてたんですか、こういうの?」
「いや。付けてない。多分あの子似合わないでしょ。」
「えー、そんなことないと思いますけど。」
「いやいや、似合わない似合わない。」
そんな軽口を叩いていると、奥から「トクナガ先生」が戻ってきた。
「なんだか、私の悪口が聞こえたような気がするけど。」
「気のせいじゃないかしらー。」
「トクナガ先生」がタマキさんをジロっと睨んだ。
「まあ、いいわ。はい、どうぞ。」
手鏡を渡された私は、それを表にした。するとそこには、かわいらしいリボンがついた私の姿が目に入った。
「うわー、かわいーいー。」
「気に入ってもらえたようね。」
「うん!気に入りました!」
「そう・・・それは良かった。」
私は手鏡を下ろして、「トクナガ先生」の方を見やった。すると、「トクナガ先生」は眼を細ませて、私の方を見つめているのだ。
「春香ちゃん・・・私は・・・ずっと春香ちゃんの味方だよ。だけど・・・私・・・ただの図書館司書だから、きっと春香ちゃんのことをあんまり助けてあげられないと思う。」
「先生・・・。」
「だから・・・何かあったら、この髪飾りを思い出してほしいの。どんなことがあっても・・・私はそばにいる。それだけは忘れないで欲しい。」
「つまり・・・この髪飾りは、先生の身代わりなんですね。」
「トクナガ先生」は微笑した。
「『身代わり』っていう言い方が正しいのかどうかはわからないわ。だけど、私は春香ちゃんの味方で、春香ちゃんのそばにいるってこと、それは忘れないでね。」
「うん!私ずっとこのリボン着けるよ!そうすれば「トクナガ先生」は、ずっと私のそばにいてくれるんだもんね!」
「トクナガ先生」はにっこりと笑った。
「ええ、そうよ。」
それにつられて私お笑顔になる。
「先生!私、このリボン一生大切にします!」
「トクナガ先生」は手を横に振って笑う。
「一生なんて大げさよ。まあ、しばらくつけてくれればそれでいいから。」
「はい、ありがとうございます。ずっと大切にします!」
タマキさんも笑っていた。
「春香ちゃんって本当に素直でいい子ね。」
「本当に。タマキにも見習ってほしかったわ。」
「なんで私に飛び火したし。」
「トクナガ先生」は、「フフフ」と笑っていた。
それから私は、「トクナガ先生」からもらった髪飾りをずっと付けておくようになった。私にとっては、大事な宝物だったのだ。