第5章 千早との出会い 残り92時間 天海春香
第1節 脱出計画
私は、千早ちゃんと一緒にここから脱出するための方法を考えていた。
部屋の監視は完全だ。出入り口は1か所しかないし、上部の換気扇からは逃れられない。そして部屋全体を見渡すように、出入り口の上部には監視カメラが備え付けられている。きっと四六時中誰かが見張っているのだろう。
ここから逃げる方法は一つしかない。1日に1回、監視の男が私たちの食事を運び、汚物入れを回収しに来る。その時、正面の出入り口が開く。その開け放たれる瞬間をついて、そこから外に向かって逃げ出す。これしかない。
しかし、この方法はあまりにもリスクが高い。そもそも、外につながる出入り口がどこなのかはもちろん、ここがどこなのか、犯人はいったい何人いるのかすら分かっていない。
そんな中で逃げ出そうとするなんて、あまりにも無謀だ。しかし、これしかない。それに勝機が全くないという訳ではない。タイムカウンターの後ろに隠すように置いてある汚物入れ、そこには私たち二人の1日分の糞尿が溜まっている。
汚物入れを回収しに来た男に対しては、このバケツの中身をぶちまけてやればいい。そうすれば、この部屋を開けた男も怯むはずだ。あとは、廊下に出て、出入り口を探す。途中の廊下で武器になりそうなものを拾って、追手が来たらそれで応戦すればいい。
恐らく、ここは地下室なのではないか。だから窓がない。そして私は、犯人は少数だと思った。大した根拠はない。根拠らしい根拠と言えば、今から約24時間前に現れたあの男は、一人だった。多分これは、単純に犯人の人数が少ないからだったのではないか。そうでなければ、わざわざ一人でここを訪れたりはしないはずだ。
そして汚物入れを回収するまでの間に隙はある。汚物入れは部屋の隅にあって、sれを運び出すまでの間、扉はフリーになる。一応扉を閉めてはいたが、逃げようと思えば逃げられる。これは敵も油断しているということだろう。犯人からしてみれば、厳重に拘束していると思い込んでいる。よもや私たちが逃げ出すとは考えていないのではないか。
・・・甘い推測なのだろうか。
どちらにしろ、あと数時間以内に男が汚物入れを交換しにやってくるはずだ。この作戦を実行するなら、千早ちゃんに相談しないと。
「ねえ、千早ちゃん。」
私は、先ほどから隣でタイムカウンターに向かい合う形で壁にもたれて座っている千早ちゃんに声をかけた。
「何かしら?」
「耳を貸して。」
千早ちゃんは、私の方に耳を近づけた。私は耳元で囁いた。
「ここから逃げ出しましょう。」
千早ちゃんはびっくりした様子で、こちらを振り返る。
「正気なの、春香?」
「うん、本気だよ。」
千早ちゃんが耳打ちしかえす。
「どういうプランなの?」
それから私たちは耳打ちで会話をすることになった。
「あと数時間で、犯人が食事とバケツを取り換えにやってくると思う。その時扉が開くから、犯人がバケツに気を取られているうちに、逃げ出そうという訳。」
「危険すぎる・・・。」
「汚物が入ったバケツを男に向かってぶちまければいい。そうすれば男が怯んで脱出のチャンスが生まれるよ。あとは扉から外に逃げればいい。」
「逃げればいいって、そもそもどこが外に繋がっているかなんて分からないじゃない。」
「確かに、そうだけど。私は犯人は少数だと思う。」
「どうして少人数だと思うの?」
「今まで、私たちは2人犯人に出会ったわよね。一人目が、あのスピーカーの人間、そして二人目は、私たちに食事を運んできた男。でも・・・それ以外の犯人を私達は見ていない。私たちの部屋に入ってくるときも、犯人は一人だった。それは多分・・・犯人は少人数だからだよ。そうでなければ、私たちの部屋に入ってくるとき、もう一人くらい監視で寄越すと思わない?」
「確かにそうかもしれないけど・・・。」
千早ちゃんは何かを気にしている様子だった。
「何か気になることがあるの?」
「・・・こんな大それたことをする犯人たちが少数だとは思えない。」
「犯人たちは油断していると思う。だから、昨日ここを訪れた男は扉を開け放しにしていた。意外にチャンスはあるかもしれない。」
しかし、千早ちゃんは納得していない様子だった。
「罠かもしれないわ。」
「罠?」
「私たちに、犯人は油断していると思わせるための罠かも・・・。」
私は千早ちゃんの危惧を一蹴した。
「どうしてそんな罠なんて仕掛ける必要があるの?私は考えすぎだと思うけど。」
「・・・・・。」
「どちらにしろ、ここで一緒に逃げなければ、二人で一緒に助かることはできない。やるしかないよ、千早ちゃん。それとも、千早ちゃん、何か他の考えがあるの?」
千早ちゃんは少し戸惑いを隠せない様子だった。
「・・・分かったわ。やりましょう。」
でも最後には、納得してくれたようだった。
「千早ちゃんなら、そういってくれると思ってたよ。」
千早ちゃんはかすかに顔を緩めた。
「春香って、結構大胆なこと考えるのね。そんなことを考える印象なんてなかったのに。」
その言葉に私の方こそ笑ってしまった。
「何言っているのよ。お互いさまでしょ。」
「えっ?」
千早ちゃんはキョトンとしている。
「私、さっき思い出したの。私と千早ちゃんがどうして友達になったのか。」
千早ちゃんは色めき立って私に尋ねてくる。
「ぜひ、聞かせてくれないかしら。」
「もちろんだよ。」
それは私にとって大切な思い出だったんだから・・・。