※この作品はR-18です。

『監獄の掟』   作:ミスターN

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第5章千早との出会い 第4節如月千早の接触

第4節 如月千早の接触

 

 9月中旬のことであった、

 あるお昼休みのこと。私はいつも一人で、自宅で作ってきたお弁当を教室で食べるのが日課だった。高校に学食はあったが、貧乏な私にはとてもそんなお金はなかった。

 そのお弁当を食べられない日があった。あの3人組が私のお弁当を時々、ゴミ箱に捨てていたのだ。授業の合間の移動の際、無防備になったカバンを狙われるのだ。この日もそうだった。

 私は自分のカバンを開けて、弁当箱を取り出そうとした。そして、その重さがやけに軽いことに気づき、私はため息をついた。私はその中身を確かめることもせず、そのままカバンにしまい込み、机に突っ伏した。

 前はお昼休みに本を読むのが楽しみだったが、いじめの対象が移ってからは、それも安易にできなくなった。私が読んでいるのは、図書室や図書館から借りてきた本だ。もし、そこにいたずらでもされたら、たまったものじゃない。

 だから、私はお昼休みの間は、机に突っ伏して一眠りすることにしていたのだ。その間は無防備になる。あいつらに何をされても気づかない。でも、気づいたところでどうこうできるわけでもないのだから、結局全部同じことだった。

 その時、私に近づいてくる足音が聞こえた。どうせ、あの3人組かその取り巻きだろうと思い無視していると、透き通るような声が聞こえた。

「天海さん・・・一緒にお昼ご飯を食べませんか。」

 普段聞かない声に驚いてゆっくりと顔を上げると、そこには、同じクラスの如月さんの姿があった。

「如月さん・・・どうしたんですか、いきなり。」

 私は突然の彼女の来訪を訝った。私に声をかける人は、たいてい邪悪な意図を有しているのだ。そしてその殆どが、「魔王エンジェル」達にけしかけられた人たちだったからだ。

 だから、きっと彼女もそうなのだろうと思った。私は彼女の申し出をやんわりと断ることにした。

「ごめんなさい、如月さん。私今ダイエット中だから、今日のお昼は抜いてるの。」

「そう・・・じゃあ、一緒に話し相手になってくれるだけでもいいの。一緒に学食に行きませんか」

 予想外だった。どうして、そこまで私と一緒にご飯を食べようとしているのか、それが分からなかった。彼女の意図が分からなかったのだ。理由が分からないことほど恐ろしいことはない。このままホイホイついていってはいけない。十中八九「魔王エンジェル」達の差し金に違いない。

「如月さん・・・私今眠いの。一人にしてくれない?」

 そう言って机に私は突っ伏した。でも彼女はあきらめなかった。彼女は姿勢をかがめて「大事な話があるの。大丈夫・・・別に私はあの3人に命じられているわけじゃないの。お願い・・・信じて。」そう耳打ちしてきた。

 ますます訳が分からない。彼女たちに命じられたわけでもないのに、どうして私に話しかけるのか。そんなこと、如月さんにとってメリットなんて何もないし、あの3人に目をつけられる危険だってある。

 多分罠だろう。そう確信した私は、彼女の言葉を聞いていないふりをした。

「・・・今日の放課後、午後4時30分に、時間が合えば、この教室で会いましょう。私、待ってるわ。」

 そう言って、彼女は教室を去ってしまった。

 午後4時30分。それは不可能な時間じゃなかった。今日はバイトが無い日だし、お母さんの帰りも遅い。少し話をして帰るだけだったら、家事をこなして、お母さんが帰ってくるまでに料理を作り終えることもできる。

 如月さんの意思が本気だということはわかった。そこまでして、彼女は私に何かを伝えたいらしい。

 私は、もしかしたら如月さんは本当に「魔王エンジェル」達の差し金ではないのかもしれないと感じた。今まで私にちょっかいを出してきたやつらは、ここまで真剣に私を誘おうとはしなかった。遊び半分か、いやいや半分。だけど、今日の如月さんの誘い文句には、そうした砕けた要素が一切なかった。

 単に演技が抜群にうまいだけかもしれない。彼女の意図は分からないのだ。邪悪な意図を含んでいるのかもしれない。でも、だまされてみる価値はあるような気がした。たとえ罠であったとしても、警戒していけば、どこかで引き返せるはずだ。

 私は如月さんのことを考えてみた。如月さん。名前は「如月千早」。顔は美人だけど、そこまで目立つ人じゃない。むしろ、根暗な方だと見られていた。女の子たちのグループには入っている。本当にただ入っているだけで、あまり楽しそうには見えなかったが。

 私と如月さんの間には、何ら接点はない。私が彼女に話しかける理由が無ければ、その逆に彼女が私に話しかける理由も何もないのだ。にもかかわらず、私に何かを持ちかけようとしている。私は訳が分からなかった。

 ずっと迷っていた。行くべきか行かざるべきか。行けば何かが変わるような気がする。でもそれは単なる身勝手で甘い推測なのかもしれない。中には誰もいなくて、魔王エンジェル達が、そんな様子を見てほくそえんでいるかもしれない。ろくでもない事にしかならないような気もする。

午後4時25分。

 私は、6時間目が終わった後、図書室にこもり、時間を潰していた。そして約束の時間の5分前に図書室を出た。このタイミングなら、ちょうどいい時間にたどり着けるはずだ。

 胸がドキドキしていた。どうせろくでもない話に違いないだろうという確信めいた予感と、もしかしたら、何か状況がひっくり返るかもしれないという淡い期待が交錯する。

 そして私は時間通りに、自分のクラスへと到着した。

 ドアを開けずに、中の様子を伺ってみた。中には、如月さんが既に到着していた。他には誰もいない。「魔王エンジェル」は勿論、その取り巻きと思われる人物は、人っ子一人いなかった。私はゆっくりとドアを開けて、静かに教室の中に入った。

「こんにちは、天海さん。」

 如月さんがそう話しかけてきた。

「こんにちは、如月さん。」

私もそう返事を返した。

 私は静かに自分の席へと向かい、腰を下ろした。如月さんは自席で待っていたが、私が自席に就くと、私の隣の席へと移ってきた。

 私は如月さんに聞いた。

「で、お話って何ですか?」

「いきなり、本題から入るのね。」

「私も忙しい身ですので。あんまり時間が取れないんです。」

 私は如月さんを警戒していた。もしかしたら、これから如月さんにひどいことをされるのかもしれない。私はいつても逃げ出せるようにカバンを膝の上に抱えていた。

「じゃあ、本題に入りますね。天海さん、あなたはどうしてあの3人組のいじめを受け続けているの?」

 本当に直球だ。だったら、私も直球で返そう。

「仕方がないんですよ。誰かが犠牲にならなくちゃいけない。もし抜け出そうとしたら、犯罪者に仕立て上げられて、この学校にいられなくなる。それは・・・困るんです。」

 本当に正直に答えた。私がいじめを甘んじて受け続ける理由、それはこの学校にい続けなければならなかったからだ。

「本当に抜け出せない・・・そう思っているんですか?」

「抜け出せたら、とっくに抜け出してるわよ。」

 私は少しイラッとして、そう返した。彼女はこのいじめの実態を知らないから、そんなことが言えるのだ。

「じゃあ、もしも私があなたの代わりに、彼女たちのいじめを告発して、あの3人を学校から追い出すことができたら、どうかしら?」

 私はその言葉に耳を疑った。どういうことだ。どうして、如月さんが私のいじめを解決しようとするのだ。これはますます怪しい。

「そんなことしたって、あなたの得にはならないじゃない。それに、そんなことをすれば、あなたにいじめの標的が行ってしまう。」

「私は、妥協はしないし、容赦はしないわ。あの3人を学校から追い出すまで続ける。そうすれば私がいじめられることはないし、天海さんへのいじめも終わる。」

 そういうことを言っているんじゃない。現に今、如月さんはいじめを受けていない。だったら、それでいいじゃないか。どうしてそんなリスクを冒して、状況を変えようとしているのか、私はそこが聞きたかった。

「如月さん、あなたの目的が分からない。どうして、私を助けようとするの?そんなことをしたって、一文の得にもならないよ。」

 如月さんは決然と答えた。

「ほっとけないのよ・・・、天海さんのこと。」

「ほっとけない?」

「ええ。ほっとけない。これ以上、こんな状況にい続けたら、天海さんは、きっとダメになってしまう。そんなのは、私見たくないの。」

 ほっとけない?嘘だ!ほっとけないんだったら、どうしてもっと早く助けてくれなかったの。私を助けるチャンスなんていくらでもあったのに、どうしてこのタイミングで。そんなことを言い出す訳?

 恐らく、こういうことなのだろう。きっと如月さんは、「魔王エンジェル」の指令で、私に踏み絵を踏ませようとしているのだ。私が如月さんの申し出を受けて、あの3人を討とうとする気配を見せえたら、それをあの3人に密告するはずだ。もしそうなってしまったら、私はこの学校にいられなくなる、何か犯罪をでっち上げられるに決まってる。ここはきっぱりと断るべきだ。

「・・・別に如月さんがほっとけないのは構わないですよ。ただ、私は誰の助けも求めてなんかないです。」

「もしかして・・・罠だと疑ってます?」

図星だ。でも実際そうなんだから仕方がない。私は素直に白状した。

「はっきり言って、如月さんのことは信用できません。大して面識もないのに、突然話しかけられて、『このいじめを終わらせよう』なんて、そんな虫のいい話、信じられると思います?」

「・・・確かに・・・そうよね。信じろって方が無理あると思う・・・。でも、私は本気よ・・・。」

 本当なんだろうか。仮に本当だったとしても、この状況を変えるなんて、出来るわけがない。

「本気なら、如月さんだけでやってください。私は巻き込まないでください。・・・これ以上話しても時間の無駄ね、私はこれで失礼します。」

 そう言って、私は立ち去ろうとした。その時、如月さんは最後に一言だけ言葉を発した。

「・・・大丈夫。私は絶対、あなたを守るわ。天海さん。」

 如月さんは、そう言うと、ニカっと笑って見せた。そういえば、如月さんが笑顔を見せるところ、初めて見るような気がした。

 私はそんな彼女の態度に、少しドキドキしながら、「失礼します」と言って、教室を去った。

 不思議だった。なぜ「ドキドキ」してしまったのだろうか。別に心を高ぶらせる要素なんて何もなかったはずだ。

 とにかく、如月さんは変な人だ。罠だというなら納得だ。でも、最後に発した彼女の言葉、「私を守る」と言ってくれた言葉、私は、それが嘘だとは思えなかった。

 

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