第2節 処女喪失
高校2年生になってすぐのこと、あるほの暗い春の日のことであった。
まだ春休みを数日残したこの日、外は春の嵐を予感させるように、どんよりとした曇天で、それでいてまだ肌寒さを残していた。
私は、この日はバイトがなく、何もすることがなかったので、英語の単語帳を開いて勉強にいそしんでいた。
家には私一人しかいない。父も母も働きに出ている。
午後4時過ぎのことだ。突然、家の扉がガチャリと開いた音がした。おかしい。両親が帰ってくるのは、いつもだったら、もっと後の時間のはずだ。だから、私はまだ夕ご飯の準備もしてない。
もし両親のどちらかが帰ってきたのだとすれば、大変だ。早くご飯の支度をしなくちゃ。それにしても、どうしてこんなに早く帰ってきたのだろうか。とにかく、その理由も含めて確認しに行かなくては。
そう思って私は、単語帳を閉じ、自分の部屋の扉を開けた。玄関には父親の姿があった。
私は、その様子を一瞥して、驚いた。父はダイニングキッチンの椅子に腰を下ろすと、参ったという表情で頭を抱えていたのだ。父はひどく憔悴していたようだった。
声をかけようかと思った。もしかしたら体調が悪いのかもしれない。こんな時間に帰ってくるなんて、それ以外に考えられない。
「おかえりなさい・・・。」
父は私の呼びかけに何も返さない。私の声に気付かなかったわけではあるまい。私を無視しているのだ。いつものことだ。でも、父の様子は明らかに、いつもとは違っていた。
私は自分の部屋とダイニングの境目で佇んで、父の様子を観察したが、なんだかその様子が不気味だった。どうも、父は体調が悪いようではなさそうだ。咳一つしていない。ただ、父は頭を抱えたまま静止している。
とりあえず私は料理の支度を進めようとして、キッチンに向かった。
「・・・すぐ料理を作るからね・・・。」
だけど、父は何も反応しない。キッチンにあるエプロンを取り出し、それを身に着けようとした時だ。
「千早・・・話がある。」
父はそう呼びかけた。突然の呼びかけに、体が強張る。それでもエプロンを身に着け、冷蔵庫から食材を取り出そうとした。
「・・・自分の部屋に戻れ。」
父は冷たく言い放った。私は冷蔵庫に手を伸ばしていたが、手を引き戻し、「わかった」と述べると、エプロンをテーブルの上に載せ、自分の部屋へと足を運んだ。そして続いて、父も私の部屋に入ってきた。
私は、自分の勉強机の椅子に座った。父親は近くにあった椅子を取り出して、腰を下ろす。
不気味な静寂が部屋を支配する。父はいまだに頭を抱えたままで、部屋に呼びつけた割には、何も語ろうとしない。
「・・・お父さん・・・?」
私はおずおずと父に話しかけてみた。すると父は私を責めるような苦笑を浮かべながら、口を開いた。
「・・・お父さん・・・か。お前に俺をそう呼ぶ資格があると思っているのか?」
全く話が読み込めない。
「・・・なんのこと?・・・」
父は私を嘲るような口調で言った。
「千尋のことだ。何か思い当たる節があるんじゃないか。」
妹のこと?どうして・・・今更・・・。もうさんざん話しつくしたじゃない。
私が恐ろしかったのは、今目の前で対峙しているあの人の表情、しぐさ、そして滲み出る暗いオーラだ。
ドキッとした。こんな責められ方をしたのは初めてだった。今まで何度となく、父には千尋のことを責められた。だけど、それはいつも激情的で、私が千尋の目を離したことを責めるものだった。
だけど、今日のあの人は違う。あの人は、あの事故の真相に手を伸ばそうとしているのではないか。私の中で封印していたもの、それに触れようとしているのか。心の内奥をつかれたようで、私は血の気が引いていくのを感じた。
父はその様子を見逃さなかった。
「何か思い当たる節があるようだな。」
なぜ父親は、千尋のことを、今・・・。
父親は何を知っているというのだ。まさか・・・私が見殺しにしてしまったことを、どこかで知ってしまったというのか。
「・・・あくまで、だんまりを決め込むつもりか。」
そう言い放つと、突然父は立ち上がって、私の目の前にまで歩み寄ると、その大きな手で私の頬を鋭く叩いた。
「この人殺しめ!」
明らかにいつもとは違う。今までは、私がついていながら、妹を一人にしてしまったことだけを責められていた。確かに「人殺し」と罵られたことは何度もある。だけど、今日の責め方は、いつもと違う。明らかに「殺人」を念頭に置いたものだ。
私は頬を抑えながら、首を振った。そして絞り出すように声を出した。
「ちがう!私は殺してなんかいない。」
「嘘をつけ!」
鈍い音とともに、今度は右ほほを裏拳で殴った。
「散々俺たちをだましてきたんだな。お前は・・・。そんなに千尋のことが憎かったか。そうだよな、千尋のせいで、お前は母親の愛情を受けられなくなった。疎んじられるようになった。千尋のことを恨まないはずがないよな!」
その言葉に私は激しく反論した。
「違う!私は、千尋のことを愛していた。確かに、妹のせいで、母の愛は受けられなくなった。でも、私は妹のことが好きだった!」
「だったら、なんで殺したんだ!お前だろ!あの河川敷で妹を突き落としたのは!」
「ちがうちがう!ちがう!突き落としてなんていない!千尋は、川底に落ちていたのよ!」
「今・・・なんて言った・・・。」
はっとした。とんでもないことを今口走ってしまったことに気付いた。私は、事故の公式報告書では、現場にいないことになっていたのだ。川底に落ちていた様子を見ることはできないはずだ。にもかかわらず、その様子を見ていた。ということはつまり・・・。
「やっぱり、お前はあの時あの現場にいたんだな!」
「チガウ・・・ソンナコトハ・・・」
自分でも、言葉から力が抜けていくのを感じた。
「くそっ!お前というやつは!」
父はもう一度私を殴りつけた。鈍いビンタの音。私は、意識が飛んでしまいそうになった。でも、ビンタの痛覚が私の意識を保たさせた。
父は力なく、ふらふらと、椅子に腰を下ろすと、今日あったことを淡々と話し始めた。
「警察関係者の知り合いがいてな・・・今日話したんだよ、あの事故について。実はあの事故には目撃者がいたんだ。そしてその目撃者が証言してたんだよ。河川敷で膝を落として佇んでいる一人の『青髪の』女の子がいたってな。そして、その女は、踵を返して現場から走って逃げたらしい・・・。事故はその目撃者が通報した。警察は、事件性はないと判断して、その女の子の存在を公式報告書には書かなかったんだそうだ。書くと、いろいろ面倒なことになるからな・・・。」
私は、目撃されていたのだ。確かに、あの時、私は気が動転していて、誰かに見られているとか、そんなことを気にする暇はなかった。でも、誰も何も私のことを言ってこなかった。だから、私の存在は気づかれていないと思っていたのだ。
あの人は、静かに問いかける。
「その目撃者は、お前が千尋を突き落としたところまでは見ていないらしい。目撃したのは、お前が河川敷で膝をついて、そして逃げたところまでだ・・・。だが、本当はどうなんだ。お前が・・・犯ったんだろ。・・・」
「ずっと・・・嘘をついていてごめんなさい・・・。あの時・・・確かに私はあの場所にいた・・・怖くて、怖くて、逃げてしまったの。千尋が川の底に沈んでいる・・・私のせいで、千尋が死んでしまう・・・。そんな現実に耐え切れなかった。だから、私は逃げてしまったの・・・でもこれは信じて!私は決して殺してなんかいない!あれは事故だったの!」
あの人は、静かに私を嘲笑した。
「怖かったから、逃げただけだ?そんな、世迷い事信じられるわけねーだろ!お前には動機がある。親の愛を奪った千尋が憎いって動機だ。そして目撃者もいる。決定的瞬間は見ていないが、殺せるとしたらお前しかいない!大体ありえないだろ、どうして千尋がわざわざ河川敷まで行かなきゃいけないんだ?誰かの目に留まるはずだろ、あんな小さい子が一人で歩いていたら。」
まくしたてるように、「私の犯行」を述べていく。
私は力なく首を振って、抵抗することしかできない。
いらだちが募っているのか、父親は声を荒げる。
「悔しいが、はっきりとはお前の犯行は証明できない、だがな、お前がやったことは、少なくとも保護責任者遺棄致死という犯罪行為なんだよ!」
そういうと、あの人は立ち上がって私につかみかかり、そして乱暴に床に押し倒したのだ。
私は突然のことに、驚き慄き、恐怖の面持ちであの人の鬼気迫る表情を見つめていた。あの人は、私の上に馬乗りになり、顔を近づけて私を罵った。
「本当は、お前を刑務所にぶち込んでやりたいが、お前を告発すると、俺は犯罪者の父親になってしまうんだよ。俺にも世間体があるんでな、お前を犯罪者にして家庭崩壊を世間様にさらしたくないんだよ。だがな、俺はお前を許さない!女として、最も屈辱的な方法でいたぶってやる!」
あの人は、私の服に手をかけた。
「何するの・・・やめて・・・。」
私は力なく抵抗することしかできない。ショックと恐怖で体に力が入らない。あの人は、私のカーディガンのボタンを荒々しく外して脱がせると、インナーのポロシャツも脱がせた。
あの人は、恐怖で抵抗できない私の服をどんどん脱がせ、そして、私はブラジャーに下着という格好になった。
あの人は、私を犯そうとしている。だけど、それは性的欲望に基づくものじゃない。ただ単に私を女として痛めつけたい、それだけのために、私を犯そうとしているのだ。
目が怒りに満ちている。私は恐怖で涙も声も出ない。ついに、あの男が私のブラジャーを荒々しくはぎとった。決して豊かでない乳房が露になる。
あの男は、その露になった乳房に顔を近づけると、乳房を吸い始めた。右胸に感じる味わったことのない感触、その気色悪さに、私は顔をゆがめた。左胸も同じように、ちゅうちゅうと吸った。
そして、あの男は、私の下着に両手で手をかけた。
「やめて・・・私、処女なのよ。」
私の言葉など何も関係がないようだ。抵抗もむなしく、あの男はずるりと下着をずり下し、それもはぎとって乱暴に頬り投げた。陰毛の生えた大陰唇は、さながら茂みのようであった。
そしてあの男は、ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ捨てると、ズボンもそしてトランクスも脱いだ。
おぞましいあの男のモノが目に入る。そのモノは妖しく勃起しているようだった。私は恐怖で目を閉じた。
「娘に・・・こんなことをしていいと思っているの・・・。」
蚊の鳴くようなか細い声しか出せなかった。
「千早・・・俺はお前を娘だと思ったことはないぞ。お前はただの同居人に過ぎないんだよ・・・それもただの邪魔者だ。」
そう言い放つと、あの男は膝をついて、あの男のモノを私の恥部に押し付けてきた。
「やめて・・・やめてよ・・・。」
恐怖で声が震える。でも、あの男はそんな言葉を聞こうとはしない。
そして、しばらくして、下腹部に鈍い激痛が走った。あの男のモノが、私の中に入ってきたのだ。
「痛い痛い!抜いて!抜いてよ!」
私は何とか力を振り絞って叫ぶが、あの男は口をふさいできた。何とか噛みついてやろうと思ったが、うまく噛みつけない。それに、下腹部に走る痛みで集中力が途切れる。
あの男は何とか騒がれないようにしようと、自分のワイシャツに手を伸ばし、それで口をふさいだ。
痛い。男がゆっくりと動き始めたのが分かった。あの男が動くと、自分の下腹部が男のモノに合わせてうねうね動いていることが分かった。気持ち悪い。そしてとにかく痛い。
私は涙目になりながら、叫ぼうとするが、ワイシャツで口を抑えられている以上、どうにも抵抗できない。もうだめだと思った。あの男の行為を受け入れる以外に、方法はないのだ。
そう思い、歯を食いしばりながら、痛みと気持ち悪さと、屈辱に耐えることに決めた。
怖い、あの男が覆いかぶさってくる。そして私の乳頭を舌で刺激してくるのだ。気持ち悪い、そして時々歯で甘噛みしてくる。痛い。そしてあの男は私の乳房だけでなく、いろいろなところを嘗め回してきた。私の鎖骨、二の腕、そして私の脇腹。
目をつぶっているから、恐怖感が増してくる。でも、目を開きたくない。目を開いて、あの男の表情や体、そしてつながっている下腹部を見たくない。耳は閉じれない。あの男の息づかいと、振動の音が耳に入ってくる。
理性が壊れそうになる。涙だけがぽろぽろこぼれてくるようだ。あの男は、どんな表情で私を犯しているのだろうか。とにかく何も考えないようにしよう、何かを考えるとそれだけで理性が壊れそうだ。何を考えていればいいんだろう。私には、何もないじゃないか!
春香・・・春香しかいなかった。彼女を笑顔にさせるために私が近づいたあの子。春香お願い、助けて!私をこの苦しみから救って、たとえ空想の中だけでもいいから!
私は必死に春香との思い出を、頭の中でひっくり返した。あらゆる五感を意識から切り離して、私は春香のことを思い出した。
一緒にベンチでおひるごはんを食べたこと、一緒に駅までおしゃべりして帰ったこと、思えばそれくらいしかなかった。春香との関係は、学校の中だけにとどまっていた。家の中で、春香に電話したことも、メールしたこともなかった。そもそも私は、携帯電話を持っていないのだ。
春香との思い出を掘り起こすと、少しでも気がまぎれるような気がした。この痛くて気味悪い時間が、早く終わりさえすれば、何でもいい・・・。
思い出は突然、中断された。あの男のピストン運動が突然早くなったのだ。痛みで意識が飛びそうになる。射精が近いということなのだろうか。「中にだけは出さないで」そう言おうとしたが、口封じのせいで、まともな言葉にならない。
だがあの男もそれは分かっていたようだ。
「お前に言われなくてもわかってるよ。俺の子を孕ませるなんて、まっぴらごめんだからな。」
そして、あの男は私の膣からモノを引き抜くと、私の腹部で射精した。
痛みが和らいで、私はゆっくりと瞼を開いた。あの男は、自分のモノを近くにあったディッシュでふき取っていた。
そしてしばらくして、ため息をつき、トランクスを履きだした。私は茫然として、あの男の拘束がなくなったのにもかかわらず、金縛りにあったように動けなかった。
あの男は、私の口を押さえつけていたワイシャツを取った。肌着を着込んだ男は、すべての衣服を持って、この部屋を出ていくようだった。
出ていく前に、あの男は言い放った。
「このことは、母さんにも内緒だ。警察に突き出されたくなかったらな。あと、そこの血、ちゃんと掃除しておけよ。」
少しだけ首をあげて確認した。床には血がべっとりとついていたのだ。
私は、せめてもの抵抗として、あの男に聞いた。
「・・殺人鬼を犯して、満足しましたか・・?」
あの男は何も言わずに立ち去った。
それからというもの、私は週に1回のペースで、あの男に乱暴されるようになった。母の帰りが遅い日を狙って、あの男は私を乱暴してきたのだ。
私はあの男に抵抗しなかった。
私は、本当だったら刑務所に送られている身なのだ。だけど、私は不当にもこうやって生活を続けている。だから・・・私があの男に乱暴されるのは、私が犯した罪に対する罰。刑務所に送られない代わりに、私は体で罰を受けている。
私は、あの男の気が済むまで身をささげようと思っていた。そう思っていた。そう思っていたのに・・・私はだんだんあの男を受け入れることができなくなっていったのだ。