第3節 「能面」のような顔 残り82時間
その後、男たちは順番に私たちを犯していき、一通り射精して満足したところで、部屋から悠然と立ち去っていった。
私は部屋の右隅で、春香は左隅で大の字になって倒れていた。立ち上がる気力もなかった。
部屋は男の汚い精液の匂いが充満している。いくら換気扇を回しても、これが取れるまではしばらくかかるだろう。
犯されている途中、聞こえていた春香の叫び声はとうとう聞こえなくなった。泣き叫ぶだけの余力さえ奪われてしまったということなのだろうか。
私は、ゆっくりと起き上がり、まずは下腹部を弄り、自分の膣内に放出された精子を掻きだした。あんな気持ち悪いもの、全部掻き出さないと下着なんて付けられない。
手も洗いたい。本当はシャワーを浴びたい。全身がカピカピになっている。男が舐めまわした唾液の成分が固着して、体中で粉を吹いているのだ。
でも、水道施設なんてあるはずがない。あるのはおしりを拭くためのトイレットペーパーだけだ。
そうだ!春香はどうなっている?
「春香・・・。」
私は弱弱しく声をかけた。しかし反応がない。私はそこら中に脱ぎ捨てられた私の衣服を集め、大事なところを隠しながら、春香の下へと向かった。
「春香?」
はっとした。
春香の「表情」が死んでいるのだ。
その表情は、私の思い出の中に出てきたあの「能面」のような表情、いやそれよりもたちが悪い、顔から血の気が引いて、顔中が青白く変色している。その上、瞳孔が開き、仮面をかぶってしまったように顔に凹凸がないのだ。
「春香!?春香!」
私は衣服をその場に投げ捨て、春香を抱き寄せた。するとやっと目が動いた。
「ちはや・・・ちゃん・・・わたし・・・やられちゃった・・・。」
力ない言葉の上に、涙がハラハラと落ちてくる。
「春香・・・」
私はそのまま春香に抱きついた。
「春香・・・気を確かに持って・・・。」
春香は小刻みに震えていた。私はそんな彼女の背中をゆっくりとさすっていた。
「ねえ・・・ちは・・や・・・ちゃ・・ん・・。」
「何?春香?」
恐怖で小刻みに震えた春香が、声まで震わせて私に問いかけてくる。
「ち・・・はやちゃ・・んは、・・・ずっと・・・こんなだった・・・の?」
ずっとこんなだった・・・?
まさか、春香も思い出したというの?私があの男に・・・。
「ちは・・・は・・・お・・・おおおお・・。」
だめだ。この精神状態じゃ、まともにしゃべれない。とにかく、早く服を着させなくちゃ。
私は正面扉の赤い点を睨み付けた。あの監視カメラは、私たちの裸を一刻一刻捉えているのだ。これ以上二人の裸をさらすわけにはいかない。
「春香、服を着ましょう。ああ、そうだ。春香、ちょっとだけアソコに指を入れるね。あの男たちの精液を掻きだしてから、下着をはかせるから。」
私はいったん、春香を寝かせて、春香の股に顔を近づけた。
春香の膣には、大量の精液がねじ込まれているのが傍でも分かる。あの野郎ども、春香が抵抗できないのをいいことに、何回も何回も・・・春香の大事な中に・・・!
「指、入れるよ。」
私は春香に痛みを与えないように慎重に右手の人差し指を差し入れ、中に溜まった精液を丁寧に掻きだしていく。
「痛かったら言ってね。」
しかし、春香から反応がない。私は早く春香に服を着せるため、作業に集中した。やがて、彼女の膣内から白濁液はほぼ取り除けた。
「春香、終わったわ。ちょっと待って。トイレットペーパーで軽く拭くから。」
私はペーパーを使って、膣の周りを丁寧にふき取って汚物入れの中に入れた。ついでに、自分の手についた男の精液もふき取っていく。
「春香、終わったわよ。」
そう述べて私は春香の下に顔を近づけた。しかし、その瞬間私は思わず顔をそむけてしまった。春香は涙を流しながら無表情なのだ。相変わらず顔色も悪い。
「はる・・か・・・。下着から・・・付けるわよ。」
春香の表情は、はっきり言って怖いし、気味が悪い。こっちが吐いてしまいそうだ。
脱ぎ捨てられた春香の下着を見つけると、私は体の反応がまるでないマネキンのような春香の体に衣服を着させ始めた。最初は下着、次にブラジャー。そしてスカートに、インナー、とりあえずここまで着せた。
春香に服を着させている間も、ずっと春香の顔から目を逸らしていた。
さっき春香は、私が春香をひどい苛めから救ってくれた。そこから友達関係が始まったんだ、という話をしてくれた。
それで私は完全に思い出した。私が春香を苛めから救ったのは、そして彼女と友達になったのは、彼女の「能面」のような表情を見ないようにするためだった。
私は中学時代、自分の感情を封印することに成功していた。そして私の心はようやく静穏を取り戻し始めていたのだ。
あの子の顔を見るまでは。
天海さんの「仏頂面」、いや「能面」のような顔。あの顔は、私の心を動揺させたのだ。あの顔は、「無」の顔。デストルドー。私が封印したはずの「感情」、「死にたい」という衝動を掻き立てる。
私は最初無視しようと思った。「死にたくなるような顔をしてるから、それをやめてください」なんて言えるはずもない。それに、あの子に関わらなければいいのだ。そうすれば、そんな表情を見る機会は減るはずだ。
にもかかわらず、私はどうしても天海さんを強く意識してしまったのだ。考えまいとすればするほど、却って、彼女への意識は高まってしまう。私はこれ以上春香のことを「放っておけなくなった」。
私にとって、あの顔を放置することは、喉元にナイフを突きつけられているのと同じことだ。だから私は、どんなリスクを背負ってでも、あの顔を変えなければならなかった。
それまで私は、誰がいじめられようと、自分さえ関係なければそれでいいと思っていた。そんな利己的な私が春香を救った動機は、たった一つしかない。ひどく不純で、褒められたようなものではない動機だった。
そしてこの事件の犯人像も少し見えてきた。犯人は、とにかく私たちを恨んでいるのだ。それこそ、これほどまでに陰湿で絶望的な方法を採用するくらいに。そして、犯人は私たち両名を恨む動機がある人物だ。
そう考えると、思い浮かぶのは、あの「魔王エンジェル」達ではないだろうか。もしそうだとすれば、完全なるただの「逆恨み」だ。でも筋は通っている気がする。
確かに彼女たちが学校を追い出されたのは、完全なる自業自得だが、学校を追い出されて、人生が変わってしまったとするなら、その原因となった私と春香の二人に相当の恨みを抱いてもおかしくない。とはいえ・・・ここまでするのだろうか。
人間のやることだ。とりわけ「異常」な人間がやることは、「異常」なこと。こんなことが起こってもおかしくはない。それに「魔王エンジェル」達は、確かかなりのお金持ちだったはず。これだけの大掛かりな犯罪を行う資力はあるはずだ。
そんなことを考えながら、私は春香に服を着させ終わった。
私はそんな春香を、そのまま左隅の壁によりかからせていた。
「ち・・はやちゃ・・ん。」
不意に春香が私を呼びかけた。
「何かしら?」
私は彼女の顔を見ないようにしながら、質問に答えようとした。
「ちはや・・・ちゃんは・・・ずっと・・・こんな・・・かんじ・・・れいぷ・・・されて・・・いた・・・の・・・?」
「春香!思い出していたの・・・。」
「ねえ・・・どう・・・なの?」
正直、答えたくない。男たちに犯されるのが「慣れていた」なんて。
「・・・春香、今はゆっくりと休みなさい。」
私は春香の言葉を遮って、自分の衣服をまとい始めた。