第2節 ライバルは誰か
5月以降、状況は変わっていった。
彼にアプローチすればするほど、私の中で望月先輩への想いはますます強くなっていった。最初の方は、「彼がお金持ちだから」「彼がイケメンだから」そんな理由で彼に惹かれていた。だけど彼と話してみて、段々と彼の人間的な魅力に気づいてきた。
望月先輩は、とても優しいのだ。そして話していて楽しい。一緒に居ればいるほど、彼に惹かれていくのが自分でもよく分かった。
自分の中で、彼がかけがえのない存在に変わっていくのを日々感じていた。そして日にちが経てば経つほど、彼のことを譲れないという思いが強くなっていくのだ。
私の中の気持ちの変化を、きっと千早ちゃんも感じているのかもしれない。
千早ちゃんからはいくつかのことを聞いた。
千早ちゃんからは、あずささんは、望月先輩を狙う意思がないのだと教わった。何でなのか。千早ちゃんによるとあずささんはこう答えたのだという。「彼には許嫁がいるから。」そして、「彼を奪ってしまうと、望月グループに影響が出る」。
本当にそうだろうか。結婚、そして血という要素がなければ、本当に企業間の提携はできないのか。私にはそんなことはわからない。一つ言えることは。雪村さんとの結婚は、望月先輩本人が望んでいないということだ。こんな婚姻押し付けるほうが間違っている。
彼と結婚することは、多分叶わないのかもしれない。だとしたら、せめて大学時代の間、あわよくば彼が雪村さんと結婚するまでの間だけでいいから、私は先輩の彼女になりたい、そう考えるようになっていた。
あずささんが、あきらめると言ってくれたのは好都合だ。ライバルが一人減ることになったからだ。
雪歩もライバルにはならなさそうだ、彼女は、確かに望月先輩に恋心を抱いているようだ。だけど、彼女は本質的に「レズ」なのだ。もっと具体的に言ってしまえば、真のことが好きなのだ。だとすれば、彼女に関しては、真に恋心が向かうようにすればいい。望月先輩も、雪歩に関心が向いているわけではなさそうだ。
あとは四条さん。彼女も多分ライバルにならない。四条さんは、不思議なオーラを出す人だ。だけど、それ故に先輩は四条さんと、あまり親しくなれない感じだった。
私にとっての障害は、雪村さんだった。彼女は、私が先輩に近づこうとすると、いつも邪魔してくる。いつも先輩の隣の席を争う相手であった。でも、先輩は雪村さんよりも私のほうが好きでいてくれているみたいだ。
でも一番問題だったのは、千早ちゃんだった。千早ちゃんは、5月のあの日、先輩にすべてを打ち明けていた。千早ちゃんは「いうべきことは、全部言った。だから、もう大丈夫」って言っていた。
けれど、千早ちゃんの気が晴れたようには感じられなかった。むしろ、さらにもやもやを深めたようであった。先輩も先輩で、そんな千早ちゃんのことを気にかけるようになっていた。
私と先輩と千早ちゃん、それから雪村さんの4人で過ごす時間が増えていった。まあ、4人で過ごす時間も悪いものじゃないんだけどね。ただ、先輩が千早ちゃんに気をかけるようになっていたのが、とても気がかりだった。
当の千早ちゃんは、「先輩のことは確かに気になっているけど、春香から取ったりしないよ。」と言っている。本当だろうか。千早ちゃんが、ますます先輩のことを好きになっているのは、見え見えなんだけどな。
確かに、千早ちゃんが先輩と付き合うんだったら、私もうれしい。千早ちゃんの苦労は私も知っているし、千早ちゃんのことは好きだから、千早ちゃんが幸せになってくれるのは、私にとっても幸せだ。
だけど、それとはまた別に、そうなったら、とても悲しい。というより、悔しい。私だって幸せになりたいのだ。千早ちゃんと先輩が、何不自由なく幸せに生活していく中で、それを横目に見ていなければならない。そんなことを想像すると、うまくは表現できないが、イライラしてしまう。
だから、私は千早ちゃんには負けてはいけないのだ。だから、私は今日も先輩を射止めるために、猛アタックを仕掛けるのだ。
「合宿ですか。」
「うん、そう。うちの敷地を使ってやるんだ。」
望月先輩が、そう言いだした。期末試験も近づいてきた6月下旬のことだ。私たちは、サークル室で大貧民をして遊んでいた、参加していたのは、私、望月先輩、千早ちゃん、雪村さん、音無さん、真の6人だ。
「うちのサークルでは、毎年・・・といっても去年からなんだけど、夏に2泊3日でテニス合宿を行うことにしているの。まあ、普段からテニスなんてほとんどしない私たちだから、合宿って言ってもほとんど遊びに行っているだけなんだけどね。」
音無さんが、そう解説した。
「俊が経営しているホテルに泊まって、俊の経営しているテニスサークルを貸し切って使っているのよ。」
雪村さんが鼻高々に解説した。
「別に僕が経営しているわけじゃないよ。僕の財閥の『望月グランドリゾートホテル』と『望月テニスクラブ』の一部を貸してもらっているだけなんだよ。」
望月先輩は、謙遜していったのだが、全然内容が謙遜しきれないほどにすごいものだった。
「へえーすごい!『望月グランドリゾートホテル』って言ったら、超高級ホテルじゃないですか。あっ、でもそうなると宿泊費が・・・。」
真は合宿費を心配しているようだった。これは他人ごとではない。私や千早ちゃんだって、そんなお金工面できない。
「大丈夫。この合宿の間だけ、部屋を借り上げてあるんだよ。お金は全部望月家がポケットマネーで出すから、心配しなくていいよ。」
マジで!?
「そんな大盤振る舞いしちゃっていいんですか!?」と私は驚いた。
「いいのよ。これが望月財閥の力なのよ。ねー、俊。」
だから、どうして雪村さんが鼻高々なのよ。
先輩は迷惑そうに顔をしかめながら言った。
「まあ、楓はもう少し言い方を自重したほうがいいと思うけど、要するにそういうこと。僕がプライベートで出しているお金だから、そのことは気にしなくていいよ。」
「うちとしても、宿泊費やら何やらって徴収しなくていいから、いろいろと助かってるのよ。」
音無さんが、せんべいを頬張りながら、ホクホク顔で語った。
「場所はどこなんですか?」と千早ちゃんが聞いた。
「逗子だよ。」と先輩が答える。
逗子か、海がきれいなところだ。
「いいですね!海もきれいだし、楽しい合宿になりそうですね!」
「そこでみんなでバーベキューやったり、花火をやったり、まさにここでしか味わえないことがてんこ盛りだわ!」
音無さんが目を輝かせた。
「まあ、とりあえずひと夏の思い出作りには協力できるかな。」
望月先輩は相変わらず謙虚だ。
「去年は肝試しとかもやったよね、俊。」
「ああ、そうだったね。」
「私と俊が一緒に回ったけど、私なんか怖くて、始終俊にくっつきっぱなしだったわ。」
「ああ、何かそんな感じだったっけ。」
雪村さんが頬を膨らます。
「もう!俊ったら忘れちゃったの?」
先輩はタジタジだ。
「で、具体的な日程はいつなんですか?」と私が尋ねた。
先輩は答える。
「お盆の時期を避けて、8月の末にしようかなって考えてる。休日だと人が込み合うから、できれば平日にしたいなかってところ。」
こうして、8月24日~26日の日程で、逗子に観光・・・ではなくて合宿に行くことになったのだった。