※この作品はR-18です。

『監獄の掟』   作:ミスターN

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第13章合宿 第3節お家の使命

第3節 お家の使命

 

 8月24日(火)、この日は前日同様よく晴れていた。大学で集合した私たちは、先輩たちが借りてきたレンタカーに乗り込んで、逗子へと向かった。

 日程は2泊3日。初日はまず海で遊ぶ。そしてホテルに帰っておいしい食事で疲れをいやす。2日目は、望月先輩が所有するテニスクラブに行って、テニスの練習をする。そして夕方から海へ出かけ、そこでバーベキューと花火を行う。3日目は、もう一度海に入り、逗子にお別れをするのだ。

 お天気は、予報によると3日間とも良さそうだ。これは楽しい合宿になりそうだ。

「きれい!海が輝いているよ!」と私は述べた。

 逗子の海に近づき、目の前に太平洋が広がると、夏の陽の光に照らされて、海がてかてかと光り輝いていた。

「ほんとね。素敵・・・だけど、結構暑そうね。」と、千早ちゃん。

 気温は30度近い。車の中はクーラーが効いているからいいが、外は間違いなく暑い。

「天海さんも、如月さんも海に行ったことのないの?これくらい普通じゃない?」

 雪村さんが挑発してきた。正直、私も千早ちゃんも海は初めてだ。

「私初めてよ。」

 千早ちゃんがそう述べた。

「私も。」私が続ける。

「そっかー、二人とも初めてなんだね。じゃあ、思いっきり楽しんでよ。僕が精いっぱいおもてなしするからさ。」

 運転をしている望月先輩がそう言った。さすが望月先輩。懐が深い。

「何よ、俊。この2人にデレデレしちゃって。」

 助手席の雪村さんが不満を垂れた。先輩は一瞬顔を歪ませたように見えた。

「楓、笑顔笑顔。せっかくの合宿なんだから、楽しくいこうよ。」

 望月先輩に言われてしまうと、さすがの雪村さんもたじたじだ。

「まあ・・俊がそういうなら、仕方ないわね。」

 私たちは近くの駐車場に車を止めると、音無さんが号令をかけた。

「はい、ちゅうもーく!これから、海に入るけど、ホテルに帰るのは6時だから、5時半にはここに集合ね。遅れないでね。」

 みんな浮かれきっているのか、だれ一人聞いてない。

「もう、みんなわかった!?」

 音無さんの怒声でようやくみんな反応したくらいだった。

 それから、私たちは更衣所に行って水着に着替えた。望月先輩ら男子陣、そして音無さんは、パラソルなどの準備をしているようだ。

「千早ちゃん、あっちでビーチバレーをやろうよ。ボールはもう膨らませてあるんだ。」

「こういうときだけ、準備早いのね春香。」

「だって、楽しみなんだもん。真、雪歩も一緒にやろう。」

「うん、いいよ春香。」

「よろしくお願いします。」

 二人も快諾してくれた。

「よし、それじゃ、海にレッツゴー」

「うわ、待ってよ春香。走ったら危ないって。」

 私は千早ちゃんの手を引っ張って、海のほうへと繰り出した。真、雪歩は私たちにづついた。

「準備できた?」と私が聞く。

「OK」3人の声が聞こえる。

 4人が正方形になるように海辺に並んだ。

「じゃあいくよー、それ!」

 私が真に向かってレシーブを打った。

「OK、そい!」

 いきなり強烈なスマッシュ!雪歩は「あわわ」と慌てて取れない!そういうゲームじゃないから!

「真、ラリーだよ、ラリー。スマッシュはダメだよ。」

「あっ、そうなの?」

「もう、真ちゃんいきなりひどいよ。」

「ごめんごめん。じゃあもう一度だよ。今度は雪歩から打ってね。」

「うん。そーれ」

 今度は全然届かない。

「あれ?」

「どんまい、雪歩。もう一回。今度は、もう少し強く打ってみよう。」と私が名アドバイス。

「うん、わかった。そーーれ!」

 今度は高く上がったようだ。しかし、ふわり。風に流されて、ボールはあさっての方向へ。慌てて真がボールを取りに行った。

「もう、どうしてこうなるの?」と、雪歩はしょげている。

「しょうがないよ。風が吹いちゃったんだから」と千早ちゃんも、彼女を慰める。

 真がボールをとって戻ってきた。

「じゃあ、もう一回行くよ。せーの」

 いいレシーブ。ふわりと上がって、千早ちゃんのほうに。今度は風もない。

「はい、春香。」

 これもいいトス。

「はい、雪歩。」

 我ながら良い連続トス。

「はい、真ちゃん」

 雪歩もトスでつないだ。と思ったら、ふわふわり。また風に吹かれてあさっての方向へ。またしても真が取りに行った。

「ふえ~、何で私の時だけ。」

「風は雪歩のこと好きみたいだね」

真が雪歩に軽口をたたいた。

「こんな時は好かれたくないです。」

「もう少し、範囲狭めてやってみよう。」

 私が提案して、正方形をもう少し狭めてみた。これならラリーも続くだろう。

「じゃあいくよ、ぽーん」

 真が雪歩に向かってレシーブを打った。雪歩もトスを上げて私につないだ。私もレシーブで千早ちゃんのもとへ。と思ったら。レシーブ失敗かなり低かった!

「うわっ」

 千早ちゃん空振り。

「案外続かないね。」

「トスだけにしてやってみたら、案外うまくいくかもね。」

 今度は千早ちゃんからスタートしてみた。千早ちゃんから、真、雪歩、私の順で次々にトスをしていく。風もないし、今度はうまくいきそうだ。

「12」

 これで4週目だ。今までで最長だぞ。

「面白そうだねー。僕も混ぜてよ。」

 あっ、望月先輩だ。

「やります?ビーチバレー。楽しいですよ!」

千早ちゃんが「春香、ボールボール!」と叫ぶ。

 あっ、忘れてた!

トン。

 ボールが頭に直撃して、ぽとりと落ちてしまった。

「もー、春香ったら。先輩が目に入ると、他は盲目になっちゃうんだから」

千早ちゃんが文句を言う。

「ごめんごめん。先輩、もう準備終わったんですか?」

「うん、まあ、あんな感じ。」

 先輩が指さした先には、パラソルが3本、さらに荷物置き場用にテントが張られていた。パラソルの下には、あずささんと貴音さんが、放漫なボデーを見せつけながら、座っている。

「俊がやるなら、私もやるわ。」

 雪村さんも参戦するみたいだ。別に無理して参加しなくてもいいんだけど。

 6人が六角形に並び、私がボールを持つ。

「よし、いくよー、それっ。」

 ボールを先輩のほうにはね上げた。

「千早ちゃん、いくよー。」

 望月先輩が優しく、千早ちゃんにトスした。

「はい。よっ」

 千早ちゃんもうまく返せている。今回は結構うまくラリーが続きそうだ。

「じゃあ、目標は20回ね。20回行ったら、みんなのジュースを奢るよ。」

 先輩がみんなに声をかける。

「やったー。じゃあがんばんなきゃ」私も本気出そう。

「こんなのではしゃげるんだから、天海さんは気楽でいいわね。」

雪村さんがすかさず、嫌味を述べた。

「海ではしゃげないほうが、よっぽど可哀そうですよ。」

私も言い返してやった。

「あと5回だよー。」

 先輩の声がこだまする。

「春香!行くよー。」

 千早ちゃんからトスが飛んできた。私で19回目、これで先輩が取れば終了だ。

「先輩!はい!」

「OK、春香ちゃん。」

 先輩もつないだ。これで20回だ!

「やったー。20回行った!」

 遠くのほうから真の喜ぶ声が聞こえた。結局、ラリーは23回続いたのだ。

「みんな、よくやったね!じゃあ、自販機で飲み物を買ってくるよ。」

 先輩はそう行って、ビーチを離れていった。私たちは先輩が戻ってくる、もうしばらくの間、ビーチバレーで遊んでいた。

 先輩からジュースをもらうと、私は少し疲れたので浜辺で休憩することにした。浜辺のパラソルには、四条さんが一人、物憂げに海を眺めている。四条さんがいるパラソルに近づいて、話しかけてみることにした。

「四条さんは、海に入らないんですか。」

「私は・・・、こうやって海を眺めるほうが、好きなのです。春香のほうこそ、海に入って泳がないのですか?」

 四条さんは、いつも誰に対しても敬語を使うのだ。

「私は少し休憩中です。ビーチバレーで疲れちゃったので。」

「そうですか・・・。それにしても、みんな楽しそうでいいですね。」

 四条さんの目線の先には、美希と伊織が水鉄砲で打ち合っていたり、望月先輩・京極さん・猿渡さんの3人が遠泳をしていたり、真と響ちゃんと雪歩が水の中ではしゃいでいたり。そんな楽し気な光景が広がっていた。

「みんな楽しんでますよ。だって、楽しいんですから。」

 四条さんは、優しく微笑んだ。

「春香・・・あなたに一つ聞いておきたいことがございます。」

 何だ。改まってどうしたのか。

「はい。」

「春香、どうしてあなたは望月俊を狙っているのですか。」

 唐突に聞いてきたと思えばそれか。

「質問を質問で返すようで悪いんですけど、逆にどうして四条さんは望月先輩のことを狙っているんですか。」

 四条さんは不敵に笑った。

「やはり、私は彼を狙っているように見えますか。」

 何だ。図星をつかれているはずなのに、どうして余裕な態度なのか。

「はい。そう見えます。」

「春香。あなたの言う通り、私は望月俊に好意を抱いておりました。」

 おりました、か。過去形で言っているということは今は?

「ですが、それも過去のこと。今は彼のことを狙っておりません。だから、ご安心を。」

「どうして、狙わなくなったんですか。彼に許嫁がいて、雪村さんに敵わないと思ったからですか。」

 四条さんは、ゆっくり首を横に振った。

「確かに、それもございます。けれど、私が彼に好意を寄せなくなったのは、他に理由がございます・・・。それは、私の望月俊への想いが弱かったからです。」

「気持ちが弱かった?そんなに好きじゃなかったってことですか。」

 四条さんは、しばらく考えていた。そして、口を開いた。

「正直に申し上げましょう。私が望月俊に近づいたのは、彼に四条家に入ってほしかったからでございます。私は、旧家である四条家の娘として生まれました。両親は、家を継げる嫡男の誕生を願っておりましたが、ついに男の子は生まれなかった。そこで、両親が私に課した使命、それが『四条家へ婿入りする男子を探すこと』。彼は、望月グループの総帥の男子。ですから、彼を射止めることができましたら、四条家は安泰です。ですから、望月俊を狙っていたという次第なのです。」

 やはり、四条さんはお家再興のために、望月先輩を狙っていたというわけだったのか。

「軽蔑されましたか。当然でしょう。一人の男性を、その人自身ではなく、その人の有する背景で見ていたわけですから。」

 私はとっさに否定した。

「いえ、そんなことないです。四条さんだって、お家を存続させるという使命を背負って生きているわけですし、それはきっと大変なことでしょうから。」

 四条さんは笑って返す。

「今の人の感覚ですと、『お家』がどうしてそこまで大事なのか、わかりにくいことと存じます。私の両親に言わせれば、『お家』というのは、一つの『世界』なのだそうです。」

「『世界』ですか・・・。」

「古来より続いてきたその『世界』、それが『お家』なのでございます。それが断絶するということは、『世界の終わり』を意味するのです。だから、私も必死なのでございますよ。」

「だったら、どうして先輩を諦めるんですか。そこまで必死なら、がむしゃらにでも狙いに行けばいいのに。」

 四条さんは首を横に振る。

「『愛』ですよ。」

 愛?

「『お家』の存続は大事です。ですが、家の中に入ってもらうためには、その相手に私、そして四条家への愛情がなければなりません。ただ入ってもらえばいいというわけではないのです。私がお見受けするところ、彼の『愛』は、少なくとも私には向いておりません。その時点で、いかに彼を射止めようとしても、無理筋というもの。」

 確かにそうだ。むしろ、これは当たり前といっていいかもしれない。お互いに好きであるから結婚する。逆に言えば、好きでない相手とは結婚できないし、こちらが望んでも、相手が自分を好きになってくれなければ結婚できない。

「当たり前のことですよね。結婚は、好きな人同士がするものなんですから。」

 貴音さんは、持ってきていた水筒のふたを開けて、一口飲みこんだ。

「それは、今の価値観では、ということです。私が知るところによれば、恋愛結婚が主流になりましたのは、つい数十年前であるという風に聞き及んでおります。実際、私の両親もお見合い結婚でございました。」

 四条さんは、ふう、と一息ついた。

「私は『四条家に婿を迎えろ』と教わってきましたが、そのためにどうすればよいかは教わりませんでした。両親の頭の中には、『恋愛結婚』ということが頭になかったのでしょうね。没落してしまった四条家を再興させるために、私がどうすればいいか、そこまでは想いが行かなかった。」

「今の四条さんには秘策があるんですか?」

 四条さんは、人差し指を唇に当てた。

「私、セクシーでしょう。」

「はあ、確かに。」

「ですから、私も芸能界に入ろうと思いますの。」

ええっ!そうなんですか、そんな話初めて聞きましたよ。

「初耳ですよ!四条さん。」

「それは、誰にも言ってませんからね。あずさと望月俊以外には。」

 この二人には言ってあったのか。

「望月俊にお願いして、芸能界に入って、そこで婿入りしてくれる人を探そうと思うのです。私の体を駆使して、男の人を射止めようと。」

「あずささんと同じように、そこで『運命の人』を見つけるわけですね。」

「ええ。だから、もう私はあなたのライバルではありませんよ。」

 やっぱり、そのこと気にしていたのか。まあ、気にするよね普通。自分の恋敵と仲良くするってふつうあり得ないし。

「さ、今度は春香が教える番です。どうして、あなたが望月俊を狙っているのか。」

 どうして狙っているのか。簡単だ。キュンとなって、好きになってしまったからだ。

「初めて彼を見た時に、一目ぼれしてしまったんです。彼はかっこいいし、優しいし、包容力もある。それでいてお金持ちでもある。こんな彼を好きにならない人はいないんじゃないでしょうか。」

「そうですか・・・。」

 四条さんは、そう言ったきり、海の一点を見つめたままだ。その視線の先には、望月先輩と千早ちゃん、そして雪村さんの3人が戯れている。

「何か言いたいことがありそうですね。」

 私は四条さんにそう話しかけた。

「春香・・・あなたには言いたいことが沢山あるんですけど。うまくまとまりません。」

 どんなことを言おうとしているのだろうか。

「簡単に言ってくれていいんですよ。別に、何を言われても傷ついたりはしないですから。」

「そうですか・・・では一言だけ。幸運を祈ります。」

 なんじゃそりゃ。どうまとめたら、そう短くなるのだろうか。

「望月俊を射止める競争、まだライバルは多いようですから。」

 なるほどね、そういうことか。

「四条さんは、私の味方をしてくれるんですか?」

 四条さんは、遠くを見つめたまま、何も答えてくれない。つまり、私の味方はしてはくれないということか。

「じゃあ、そろそろ行きますね。」

 私が休憩も済んで、また3人のもとに戻ろうとした時のことだ。

「春香・・・誰かの幸せを願うことは、時として、誰かの不幸せを願うことと同じことなのです。だから私は、申し訳ないですけど、誰の味方にも・・・なれません。」

 私はうなずいた。

「大丈夫です。」

 私は駆け足で、四条さんから離れていった。

 

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