※この作品はR-18です。

『監獄の掟』   作:ミスターN

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第14章太陽と月 第3節太陽と月

第3節 太陽と月

 

 10月下旬のことだった。この日、私と春香は、部室で語学の課題に取り組んでいた。

「あー、もう全然終わんないよ。千早ちゃん、半分だけでいいから、宿題手伝って。」

 春香はドイツ語の翻訳の課題に悪戦苦闘していた。

「春香、自分で課題をやらないと意味ないでしょ。」

 私は春香を嗜めるが、春香も切羽詰まっているらしい。

「明日、ドイツ語の翻訳の発表なのよ。私が担当なのすっかり忘れてて、今大変なのよー。お願い、手伝ってくれたら何か奢るから。」

「もー、しょうがないわね。じゃあ、私の電子辞書貸してあげるから、それでやってみなさいよ。結構サクサク進むわよ。」

「ほんと!ありがとう!」

「春香もドイツ語翻訳付きの電子辞書買った方がいいわよ。ゲームばっかり買ってないでさ、全然効率が違うんだから。」

「うん・・まあ、お金が溜まったらね。」

 春香はいつもこうだ。春香はお金が溜まると、すぐ新しいゲームを買ってしまうのだ。一緒に住んでいるから、私の電子辞書を貸してあげられるけど、私のに頼りっきりなのは何とかしてほしかった。

 しばらくして、望月先輩が部室に入ってきた。どうやら、今日は雪村さんは一緒ではないらしい。

「望月部長、いらっしゃい。」

 春香が声をかける。

「春香ちゃん・・・その『部長』っていうのやめてくれない。なんか、照れくさくってさ。」

「そうですか・・・、かっこいいんだけどなー『望月部長』って。」

 もしここに雪村さんがいたら、こんな風に突っ込んでいただろう。

(「望月部長」じゃなくて、「望月社長」と呼びなさない。彼は私と結婚して、将来社長になるんだから)

 そして、望月先輩が苦笑いをするのである。

「二人とも、勉強しているんだ。」

 望月先輩が声をかけた。

「ええ。思いの外静かでしたから。」

 部室には、私たちのほかに、美希、伊織、雪歩がいたが、美希は昼寝をしているし、伊織は音楽を聴きながら読書にふけっている。雪歩はなにやら書きものをしているみたいだった。

 春香が偉そうに言う。

「私は、どんな環境でも課題をやるつもりでしたけど。」

「春香ってば、明日発表のドイツ語の宿題、今から手を付け始めたんですよ。それで、終わらないから手伝ってて。信じられないですよ。」

「うわー、ばらさないでよ。」

 先輩はハハハと笑っていた。先輩が、春香のもとに置いてある私の電子辞書を指さした。

「あっ、ドイツ語付きの電子辞書ついに買ったんだ。これがあると便利だよね。」

「いえ、それ私のです。」

「あれ、そうなの?」

「いざとなったら、千早ちゃんが貸してくれるから、買ってないんです。」

「よくも堂々と・・・、春香、もう次は貸さないわよ。」

「ひえー、それだけはご勘弁を。」

 先輩はまたしても笑っていた。

「じゃあ、せっかくだし僕も課題をしていこうかな。」

 先輩はサークル室に上がり込むと、春香の隣に座り、カバンの中から、レポート用紙を取り出した。

 春香が先輩に尋ねた。

「望月先輩、それは?」

「政治社会学のレポート。」

 あれ、確か望月先輩は法律学科のはず。そんな科目取らなくていいはずなんだけど。

「先輩って確か、法律学科ですよね。どうしてそんな科目を?」

 私は先輩に尋ねた。

「面白そうだったし、将来の参考になるかなって思って、履修したんだけどね。結構レポートがあるみたいで、大変な科目だよ。」

「そうなんですか。」と春香。

「法律学科の授業ってあまりレポートないから、新鮮なんだよね。」

 春香がいたずらっぽく聞いてみる。

「先輩、その科目だったら私も取ってますから、レポートの中身を見せてあげましょうか。」

「いや、大丈夫だよ。自分で考えないと勉強にならないからね。」

 さすが、先輩。春香とは身構えが違う。

「そうですか・・・」

 そこまでがっかりしなくてもいいじゃない。私が先輩に言った。

「時間がありますから、ゆっくりやりましょう。分からないところがあったら、聞いてください。私もその授業履修していますから。」

「ありがとう、千早ちゃん。参考にさせてもらうよ。」

 春香が「私も私も」と指をさしてくる。

「分かった分かった。春香にも聞くから。」

 こうして、各々が作業を開始した。恐らく1時間ほど課題に取り組んでいたと思う。春香が「疲れたから休憩しよう」と言い出した。

「お茶淹れてきますね。望月先輩と千早ちゃんは、そこで待っててくださいね。」

 春香が給湯スペースへと向かっていった。

「千早ちゃんは、課題進んだ?」

「ええ、春香が静かなお陰で進みました。」

 先輩は笑っている。後ろを振り返ると、春香が睨んでいる。

「僕のほうもだいぶ進んだよ。あと1時間くらいあれば、完成しそうだね。」

「そうですか・・・。課題は難しいですか?」

「そんなことないよ。今まで習ってきたことを駆使して考えれば、そこまで難しくはない。そっちはどうなの?ドイツ語のほうが難しいような気がするんだけど。」

「いえ。確かに、紙の辞書で引くと面倒なんですけど、電子辞書さえ使えれば、そんなに大したことはないです。」

「そっか。でも今は電子辞書取られているよね。」

「そうなんですよ・・・だから、紙の辞書で引かなくちゃいけないから大変。」

 と言って、春香の方をにらんでみる。春香はどこかそっぽを向いていた。

 先輩はゲラゲラと笑っていた。

 ふと、望月先輩がこんなことを言い出した。

「それにしても、春香ちゃんと千早ちゃんって対照的だね。」

「えっ。」

「春香ちゃんは明るく元気で、千早ちゃんは物静かでおしとやか。まるで太陽と月みたい。」

 太陽と月か・・・。

「えっ、何々?私がかわいいって?」

「春香、かわいいとは言ってないわ。『明るく元気』とは言ったけどね。」

 私が春香に突っ込みを入れた。

「春香ちゃんは、『明るくて元気で“かわいい子”』だよ。」

「ほら、やっぱりかわいいって言ってたじゃん。」

「今追加してくれたのよ。春香が催促するからね。」

 先輩はケラケラ笑っていた。

 望月先輩が私たちに尋ねた。

「二人は対照的だと思うけど、こんな対照的な二人が、どうやって友達になったのか、その馴れ初めを聞きたいなー。」

 馴れ初めね・・・。はっきり言って、普通の出会い方はしていない。だから、なるべく話したくないのだ。

 私たちは顔を見合わせた。

 そして私の気持ちを汲み取ったのか、春香がこんな風に言った。

「それは秘密です。乙女の秘密。」

「何それ、気になるなー。」

 春香は私の方を見つめていった。

「私と千早ちゃんの出会いは、とても大切な思い出なんです。だから、たとえ望月先輩でも、それは教えられません。」

「ええ。春香の言う通り。これは私と春香だけの秘密です。」

 ありがとう。春香。私は心の中でそう念じた。

 

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