第6節 繋がる過去 残り115時間
「天海さん。」
「はい・・・。」
「私、いろいろと思い出しました。」
「本当ですか!」
天海さんは嬉しそうに身を乗り出した。
「いえ、思い出したといっても、私の幼少のころの記憶だけなんですけど。」
「そうですか・・・何かこの事件の犯人にたどり着きそうなことは、見つかりました?」
「いいえ・・・。」
「そうですか・・・。」
天海さんはますます悲しそうな顔をした。
「天海さん、あなたの記憶はやっぱり正しかったですよ。」
「えっ?」
天海さんは意外そうな表情を浮かべた。
「どういうこですか?」
「実は私・・・あなたが言ったように、母の連れ子だったんです。幼い時に、実の父が亡くなって、それで母は再婚したんです。だから私は母の連れ子。そして、そんな私は再婚相手の父親から嫌われていました。まさに、あなたの記憶通りだった。ただ・・・とは言っても、養子縁組はしていませんでしたから、法律上は親子でもなんでもないんですけど。」
天海さんは、少ししょんぼりとした顔を浮かべていた。
「きっと恐らく、私はあなたに話していたんだと思います。私の家族がどういうものだったか、その記憶が断片的、あるいは海馬の深いところに眠っていた。だから、ああやって言い当てることができたんだと思うんです。」
「だとしたら・・・それは何を意味しているんでしょうか。」
私は決然という。
「おそらくですけど、すべての記憶を消されてしまったわけではない。お互いの記憶の中に、真実へと至る鍵が残されているのです。だから、一緒に、記憶を紡いでいきましょう。」
天海さんは、顔をゆがませる。
「そんなことをして・・・いったい何になるというんですか。私たちが過去のことを思い出したところで、何かが変わるわけではない。」
天海さんが言うことはもっともらしく聞こえる。私たちが何かを思い出したところで、状況は全く変化しない。しかし、それは本当なのだろうか。
「私は、そうは思いません。」
「どうしてですか!?」
天海さんが叫ぶようにして問うてくる。私は凛として答えた。
「記憶が消された意味です。」
「意味・・・ですか。」
「スピーカーの男は言っていましたよね。私たちは『親友同士』だって。」
「ええ。」
「だとしたら、どうして私たちの記憶を消し去ったのでしょう。」
「それは・・・なんでですか。」
「犯人が私たち二人の記憶を消し去ったのは、私たちが犯人にとって都合の悪いことを知っているからなんじゃないか、私はそう思っているんです。そうでなければ、私たちの記憶を消す理由が分からない。もし私たちが親友同士ならば、私たちを怨んでいる犯人からすれば、その二人の殺し合いを見たいはず。だけど、私たちは記憶を封印されて、今は『赤の他人』も同然。これって、おかしくないですか。」
天海さんは下を向いている。納得できないという感じだが、それに反論する根拠もないようだった。
「だから・・・天海さん、あなたのことも教えてほしいんです。あなたがどうやってこれまで過ごしてきたのか。少しでもいい。なにか・・・覚えていることはありませんか。」
天海さんは、うつむいたまま私の質問には答えない。
「おもい・・・出せませんか。」
天海さんはゆっくりと頷いた。
「ごめんなさい・・・。」
「そうですか・・・。」
思い出せないものは仕方がない。
私はもう一度上を向き、赤い点を睨むようにして見つめた。犯人は、私たちのことを見ている。でもそれは、同時に、私たちが犯人を見ているということでもある。
私はその「赤い点」を通して、犯人の心の中を見透かそうとしていた。