醜い勇者の大冒険 ~転生したのは豚人(オーク)でした~ 作:ガリアムス
「次は確実に当てるぞ、豚」
その女は俺に本物の長銃を向けながら、静かに。強烈な殺意を向けて、宣った。風に茶髪が揺れる姿は中々様になるのだが…。
改めて自分自身が何者であるのかを、酷く思い知らされた。自分は豚人、ファンタジー物では女を襲う[化物]で、忌み嫌われる[種族]である事を。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は何もしていない!この世界が何なのかも分からないんだ!」
「何もしていない…?ふざけるな!近くの村が豚人等[ヤツラ]の群れに襲われたと凶報を受けて、私は此処に来た。お前はその群れからはぐれた豚人[ヤツ]だろう!!」
長銃の銃弾を再装填し、女は片膝を着き、大毅の眉間に狙いを定めた。最早、自分と話が通じる相手ではない。このままでは自分がハムやベーコン、ソーセージに加工させられてしまう。それだけは防がねばならない。
「此処で死ぬなんて、まっぴらゴメンだ!」
大毅は近くに落ちていた石ころを拾い上げ、大きな腕を振って投げ付ける。だが彼は瞬間的に気付く。人間の頃は出す事さえ叶わなかった、1度は出したかった、野球における夢の豪速球。
それが朝飯前のようにヒュン!と言う風切音と共に、女の身に付けた南蛮装束の肩当てに容易く突き刺さり、留め具を破壊し、肩肉を押し広げたのだ!!!
「え"っ!?」
「な、に…!?」
両者、突然の事態に驚愕。
大毅は自分の身体能力が、人間の時とは比べるまでもなく強化された事に対して、女は目の前の豚人がたかが石ころで鎧を壊した事に対して、相当ショックを受けた様子だ。そして同時に直感する。
(全力で手加減しなきゃ、あの人が死ぬ!)
(全力で殺す!!!)
石が刺さった時に出来た余力で女は後ろに下がり、身体を捻りつつ肩に刺さった石を抜き、再射撃可能な体勢へと瞬時に立て直す。
その様子を見た大毅は、投石攻撃は通用しない事、さらに自分の身体は重い為、回避は二手以上先を読んで行う必要が有ると推測した。
この間、僅か3秒。大毅が先に仕掛ける!
「おおおおおおお!!」
地面を両手で貫き、鼻息を荒げながら、脚を踏ん張り、腕で地面の一部を畳返しの如く引き起こしたのだ!
「食らえ!」
同時に放たれる弾丸は、唸り叫び、豚人(オーク)を仕留めんと差し迫り、彼が作った土壁を、指で障子の紙に穴を開けるよう、簡単に穿つ!
「どうだ!」
「俺は…!此処だぁ!!!」
土壁の右側から現れた大毅は自身の巨体を力一杯に回転させ、巨腕を全力で殴り付けたのだ!!!直撃地点から壁全体に次々に亀裂が走り、収まらぬ衝撃が天然の散弾となって女へ襲い掛かる!!!
「ちぃ!猪口才な!!!」
先ほどの単発投石とは違って、威力こそ無いが数は数倍に増加したそれは、女の『動きを止めるだけならば』、十分な働きだ。
大毅はその隙に左手に石を手に取り、女に接近。彼女も豚人[オーク]が銃弾の装填で時間を食った事を見抜いたと考え、すぐに腰に添えた短刀を鞘から抜刀し、近接戦闘に移行。
彼が一歩地面を踏む度に、女の殺意と張り詰めた空気で身体がビリビリするのが分かる。あの短刀に皮膚を肉を斬られたら、それは痛いだろう。
(あの人を殺さずに、この戦いを終わらせるには…!)
左手の石を親指・人差し指・中指ギリギリで固定して、止まらず突進。女は短刀を構えたまま豚人[オーク]が飛び掛かった瞬間、出っ張った腹を一撃で斬り裂いて、腸をぶちまけて惨い死に様にする算段だ…!!!
(まだ…!あと、少し…!)
「取ったぁ!!」
振るい迫る白の閃光!
刹那帯びる一迅の斬撃!
激突せし両者!
「が…か!?は、ぁ…!?!」
二人の足下に紅雫が幾田に滴り落ちる…。
大毅の身体が一歩、また一歩と後ろに…下がった。
そして…倒れたのは…
「…………………きゅうぅぅ~ん」
女の方であった…!口から蟹のように白い泡を吹き出し、目を回して倒れたのだ!
「…って!?畜生、思いっきり掌斬られた…!」
手で水等を掬う形に変えると、斬られた場所から血が滲み出て、ピンクの手は真っ赤に染まり、大毅の右中指が大きく腫れ…。
あの激突の一瞬。大毅は女が放った短刀斬撃を石で止めるも切り裂かれ、掌に斬り込み肉を割いた。痛みも有り、血も出た。それでも彼は短刀を止めて刀身をガッチリと鷲掴んだのである。
そして、彼女を殺さず無力化する為に大毅が仕掛けた攻撃…それは(デコピン)で南蛮兜に強烈な振動を与えて、彼女の脳を揺らして気絶させる…という、無茶苦茶な方法だった。
そもそも彼自身、バトル小説等を読んだ事が有るために、1度で良いからやってみたかったというのは内緒。
「上手くいったが、こんなんじゃ魔王との最終決戦が思いやられるぞ…」
痛みを堪え、どうしたものかと悩んでいると某RPGのレベルアップの音楽が頭の中に流れてきた。突然の事態に困惑していると、声が響く。
(レベルが1から2にアップしました。
初めてのレベルアップ時の共通の能力[スキル]として、回復[ヒーリング]を会得しました。豚人能力[オークスキル]として雑食[オールイート]を会得しました)
「…回復[ヒーリング]、雑食[オールイート]。どうゆう効果かな?」
異世界転生を果たした矢先で、初めての戦闘を経験し、初めてレベルアップした。彼は能力を知るため脳内に響いた声に、内容を問うと能力[スキル]の説明が流れる。
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回復[ヒーリング]…初心者向け能力[ルーキースキル]であり、軽い傷ならば一瞬で癒す事が出来る。ただし使いすぎると倒れるので注意。冒険者が旅に出るならば必ず身に付けるべき必須能力[スキル]の1つ。レベルアップで効果も倍増する。
雑食[オールイート]…豚人能力[オークスキル]の1つで、粗末な食べ物からでも最大級の栄養摂取が出来る。ただし毒物を食べる為には能力[スキル]:解毒[シャートポイズン]が必要不可欠。レベルアップで効果も倍増する。
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「ものは試しか。回復[ヒーリング]」
先程斬られた掌に向けて能力を実行。真っ赤な光が放たれると白い煙を立ち昇り、傷口がみるみる塞がって血が止まる。流石は初心者向け能力と言った感じだ。
彼は続けてデコピン時に負傷した右中指に回復[ヒーリング]を実行し、女の方を見る。
今も尚絶賛気絶中の彼女。そして豚人(オーク)の自分…薄い本なら既に事案になる状況なのだが、そうは問屋が卸さない。
「まぁ…どんな理由があれ、額に傷付けちゃったもんな」
責任を感じる大毅は彼女の南蛮兜を外し、前髪を避けて能力:回復[ヒーリング]を実行。デコピンで出来た赤い腫れは、静かに引いて元の肌に戻る。
「このまま放っといたら、それこそ危険だよな…。うん、流石に可哀想だ。男(?)が廃る」
少しばかり悩んだが、彼は女を脇に抱えて川岸から森の中に入る。彼には試したい事が1つ有ったのだが、果たしてどうなる事か…。
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彼が入った森の中は昼間とは思えぬくらいに静かで、小鳥の囀り1つさえも無い、寂しい場所だった。風が木々を揺れ、ざわめく音が悪魔のように歪で不気味な為、怖さが増し、際立つ。
「入る場所…間違えたか…?」
不安を煽るように、生暖かな風が森に入ってくる。急ぎ足で数分程歩いた辺りに、丁度良い木が有った為、彼は女を下ろし、長銃と短刀を没収。刀がもう1振り有るのだが、何か只ならぬ気配を感じて触るのを避けた。
そして近くに生える蔦を何本も集めた彼は、それを何重にも束ね集めて、ロープを作ると彼女の手足を縛り、身動きを封じ込める。
また不意討ちを食らわぬ為の、あくまで一時に過ぎない保険だ。
「さて…」
大毅は深呼吸から静かにゆっくりと目を閉じて、ピンクの鼻に意識を集中しつつも突き出しながら、(匂い)を嗅ぎ始めたのだ。
「匂うな…しかも良い。高級な香り…」
まるで自分の本能を根本から揺さぶられる。そんな強く、熟成された、優しくて甘い、香りに導かれ、暫く歩くと木の根っこの隙間に辿り着いた。匂いは此処から、ごうごうと発っせられている。彼は其れに引き寄せられるかのように、直ぐ様地面を慎重に掘り返し、やがて(白くて丸く、ゴツゴツした何か)を地面の中から見つけたのだ。
「これが正体か、しかし小さいな。もうちょっと探すべきか」
再び匂いを嗅ぎ、その場所へ向かい、掘り返す。次は黒て大きな物が見つかった。その後もこれを繰り返して、最終獲得総数は白3個と黒8個となる。掌一杯に抱えられ、鼻に至近距離で伝わる匂いは、彼の食欲をダイレクトに刺激し、最早待ったとは言わせない。
「アカン、これはヤバい…!」
大急ぎで女の元へと戻る大毅。口から垂れそうになる涎を何度も硯り込み、やっとこさ帰還する。
「あぶね~…全部食べちまいそうになった…」
「ほぉ…漸く本性を見せたな。汚らわしい豚め」
ギロリと此方を睨み付け、女はそう言った。腕と上半身を何度も捻り、蔦のロープを外そうとしているらしい。
1度敗れたとはいえ、彼女の覇気と殺意は本物。下手にのさばらせては、此方に明日は2度と来ない。
「待っていろ。こんな即席の縄なんぞ、直ぐに引き千切って、貴様を3枚に卸してやる…!」
…と、強がって言うてはいるも、蔦のロープは三つ編み×3で作られたが為に、一向に解ける所か窶れもしない。
「こ、こんな縄など…!」
「引き千切って3枚卸しにするんじゃないの?」
「五月蝿い!私に掛かれば…!」
少々煽ってみたが、彼女の逆鱗に触れた様子。大毅は南蛮兜を持って川に水を汲みに行く…。
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それからと言うと、彼は枯れ枝や木の実を拾ったり、火を起こしたりして時間を潰す事、17分後…
「こな…ぐず…これ、ぐらい"…」
まるで解ける気配の無い縄に悪戦苦闘した結果、彼女の心が先に負けてしまったようだ。涙目で今尚闘う姿を見ていた大毅は、流石にもう良いだろうと判断。
「ちょいと待ってなさいな」と彼女を止めて、ロープを形成する蔦の1本を彼女が使った短刀で引き斬り、3分費やし解放する。
「ぐず…えっぐ…」
「ほれほれ泣くなって…今から飯を作るから、焚き火で暖まりな」
ざわめく森に1匹の豚人と、1人の女。転生からまだ90分の出来事。果たして大毅は、この異世界でどのようにして生き残るのだろうか?