イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの奪還――救出? いや、奪取には成功した。
……と、言うのも、どうであろう。なにしろ、幼いイリヤとの、その再会を切望していた人物自身が死んでしまったのだ。幸薄い親子が久しぶりに顔を合わせた時間は、ほんの2、3時間といったところであった。
泣いて縋りつく愛娘の頭を撫でながら、その父・衛宮切嗣は静かに息絶えた。概念武装として体内に封じていた聖剣エクスカリバーの鞘・アヴァロンを自分から抜き出し、久宇舞弥の身体に移し変えていたことが仇となった形である。
この無謀な潜入劇に、早初期とはいえすでに妊娠していた舞弥まで随伴したのは本人が頑なに望んだ為、また戦力があまりにも不足していた為……
切嗣によって召喚され、彼のサーヴァントとなった英霊アルトリア――俗に騎士王アーサー・ペンドラゴンの名で知られる彼女を含めるとは言え、たった3人による作戦である。この時点で無理が生じていたのは否めなくはあった。
吹雪荒れ狂う森の結界を潜り抜け、広大なアインツベルンの城内へと忍び込み、イリヤの部屋にまで辿り着けたまでは重畳だった。が、すぐに見つかり、城から脱出する最中、切嗣は敵の攻撃により致命的な傷を負ってしまう。
傷の深さは、即死でないのが不思議なくらいであった。舞弥は、身体の治癒能力を驚異的に高めるアヴァロンを切嗣に再装着させようとした。が、彼はそれを拒んだ。アインツベルン側の追撃は苛烈を極め、そんな余裕はなかったのだ。
その後は、まさに執念としか表しようがない。城から脱し、森を駆け抜ける間、切嗣は逃走しながらの応戦を続けた。彼自身が無敵のサーヴァントにでもなったかのような鬼気迫る戦いぶりであった。
やっと、とりあえずは追っ手を凌ぎきった時、とうとう彼は銃を取り落とし、力尽きることになる。イリヤに看取られて、どこか満足げに切嗣は逝く。それは、アルトリアも同様に、現世から消え去らなければならない運命となったことを意味していた。
サーヴァントはそのマスターである魔術師によって、聖杯の力を介し召喚される。そしてサーヴァントは呼び出された世界に現界し続けるために、マスターからの魔力供給を受けなければならない。切嗣から送られていた魔力の流れが途絶えれば、アルトリアも数日のうちに消滅を余儀なくされる。
アインツベルン家の追っ手による襲撃は、その後も執拗に続いた。舞弥とアルトリアとで迎え討ち、そうこうするうちに最後の数日は瞬く間に過ぎ去っていった。聖杯は舞弥を新たなるマスターの1人として認めず、切嗣からの残された魔力も全て費やされ、現界の維持すら、もはや不可能となる。
イリヤスフィールは、これからどうなるのだろう。切嗣はもういない。だが、だからと言って舞弥はイリヤの身柄をアインツベルンに返還したりはしないだろう。誇りを傷つけられた魔術の名門・アインツベルン家が、そしてその当主ユーブスタクハイトが、自分たちに対し狼藉におよんだ舞弥を、どんな謝罪をしたとて今さら赦すはずがない。むしろ、イリヤはこの先、舞弥にとっての大事な人質となり続けなければならないのである。イリヤの生存が、舞弥の身の安全を幾ばくかは保障するだろう。
周囲の思惑に翻弄され、訳も分からないままに数奇な運命を辿っている少女の行末を、アルトリアはただ憂えていた。
しかしながら為す術も無く、彼女もまたこの世から消えた。
その声が聞こえてきた時、まず聖杯のものかと漠然と思った。
もちろん、根拠なき憶測である。万能の願望機とされる冬木の聖杯が、如何なる形状を成し、どのような手段をもって人の望みを叶えるかなど、アルトリアは知らない。だが、マスターを失い、死んだサーヴァントは聖杯の中へ取り込まれる。まどろみ、朦朧としながらも彼女がそのように推し測ったのは、むしろ当然であった。
そこは、聖杯の中であるはずなのだ。
どうです……私のこの……どうか……ご気分は……応えよ……この求めに……
よく聞くと、どこかで耳にしたような気もする。だが、誰のものかまでは思い出せない。
声は、アルトリアの体調というか、意識の状態を確認しているようであった。その声質は陰鬱で、しつこく粘りつくようで、礼節の上でも心地良いとは形容しがたい響きがあった。しかし、それが彼女を覚醒させたのもまた事実で、やはりアルトリアは返答に応じた。
良くはない……
すると、声の主――その気配に、変化が生じた。呼びかけに対し、反応があったことへの悦び。そして、その深みに見え隠れする、かに見える、どこか邪な情念。濁りを感じさせる高揚、それはすぐに忙しない音によって掻き消されていった。
静かに、次第に大きく鳴り響いてゆく、雨の音である。匂いを感じた。深い森に立ち並ぶ樹々の薫り、かすかに察せられる獣たちの気配。
……無理もないでしょう。なにしろ、外は、ひどい豪雨です。貴女は……いえ、そうですね、貴女たちは、真夜中の深い森の奥に建つ一軒家の中にいるのです。
何を言っている、と思った。だが、言われてみると薄暗い家屋の、簡素な造りの天井がぼんやりと視認できるようになってきた。狩人か木こりが建てた小屋だろうか。暖炉には火が入り、赤々と揺らめく光が周囲を朧げに照らす。
どこだろう、記憶にない。なぜ、こんなところにいるのかさえも。
屋内には、貴女の他にもう1人……男です。貴女たちは森の中を移動中、突然の土砂降りに遭い、やむなくその小屋で雨宿りをしているのです。服はずぶ濡れ……2人は着ているものをすべて脱がなければならなくなりました。
「う……」
背筋がぞくりと震えた。雨に濡れた身体で、夜を過ごすわけにはいかない。だが、人気の無い森の中で男と2人きりとは、良からぬ雰囲気だ。というより、雰囲気があり過ぎる。アルトリアは、女である前に騎士であると自負している。常なれば、こんな急を要する場合に肌を曝すことを恥じらいなどしない彼女だが、それでもこのあからさまな事態に、危険を感じずにはいられない。
決断は、なかなかつかなかった……はずであったのだが、アルトリアはいつの間にか、自身が着衣を脱ぎ終えていることに気づいた。そう、すでに全裸なのだ。そして、湿った床の上を仰向けに寝転がっている。どういうわけか、立ち上がることが出来ない。身体が、重い。
裸になった貴女たちは、やがて肌を重ね合わせます。それは、貴女が望んだことではなく、男のほうが強引に求めてきた結果でした。
「んん……く……!」
そんな馬鹿な。いくら裸であったとしても、騎士たる自分が卑劣漢ごときに後れを取るはずがない。だが、戸惑いながらも、アルトリアは次第に分かりかけてきた。自分が今、この時どうなっているか、朧げだった現況が、だんだんと。
「う…………ん、あ……っ」
組み敷かれていた、床に、力強い四肢によって。胸板の厚みといい、汗の臭いも疑いなく……男のものであった。
息苦しい。抱きつかれ、頬と頬とが擦れ合い、肌と肌とが完全に密着している。身体のところどころが痛いのは、きっと、襲い掛かられ、押し倒されたから。
実感、出来てしまった。アルトリアは、犯されていたのだ。
「は……あ……あ……んううっ!」
全身に力が入らない。男を押し退けられない。
おかしい……意識が目醒めた感覚はある。それにつれ、色々とこの小屋に辿り着くまでの経緯を思い出しかけている……気がする。しかし、妙だ。この「現実感」は不自然すぎる。
謎の声はなおも続く。
貴女は奪われてゆきます。唇、乳房……
「あ……ん……ん……ん、んあ……はぅあっ! ああぁ!」
唇を割り、男の舌がアルトリアの口腔を蹂躙する。舌が舌に絡みつき、それでもやはり、彼女は噛みつくことすらできなかった。乳房を胸板で擦りあげられ、股も開かされてしまう。
そして、性器さえも。
すぐに、女陰に男根が挿し込まれた。
「ああ……あ……ん……あぁ……あっ……あ、あ……あ……」
男は、アルトリアの抵抗が無いことを確かめながら、思うがまま腰を打ち付けてくる。容赦のない責め苦を、自分が愉しむために。
時折、リズムや、テンポを少しだけ変えながら、突いてくる。無遠慮に快感を求めながらも、手ごたえを探っているようだった。彼女が、否応なく感じてしまう速さ、強さを。
最初は戸惑うだけだった貴女も、やがてその気持ち良さに身を委ねていきます……
拒まなければならない状況であった。だが、どちらにせよ手足が、思うように動かない。まるで、夢の中のような状態だったが、それにしては意識がやけにはっきりしている。矛盾を孕んだ「現実」――おそらくは、魔術による精神攻撃。
動揺しては敵の思う壺だ、とアルトリアは思った。落ち着け、昂ぶるな。まずは心を鎮めなければ。
「く…………ううっ……んんん!」
心をほぐし、平常心を取り戻そうとするが、駄目だ。それでは刺激に対して無防備になり、甘い声が口から零れ出てしまう。どうしようもなく、気持ちいいと感じてしまう。このままでは淫欲に囚われてしまうかもしれなかった。
まずい事態だった。アルトリアは覚醒などしていなかった。それどころか何者かの術中に嵌まり、まさに精神を穢され、絡め取られる瀬戸際にあるのだ。
早く、早く目醒めなければ、この夢から。
何を言っているのです? サーヴァントは自分の夢を見ないのです。それは、貴女も承知のはず。
「っ……は……あう…………く……」
男の責め方が変化した。アルトリアの性癖をある程度把握したのか、自分が愉しむ責めから、彼女を愉しませる責めに重点が移る。
「ん……ふ……んん……あ、うぅん……」
苦悶していただけの頬の強張りが、緩んでゆく。アルトリアが嬉しいと感じる部位を、痛いと感じるくらいの強さで責めあげ、それから優しくゆったりと間断なく。
焦燥を抱かせようとする、作意。
女のほうから求めさせ、甘えさせるための卑劣な手口だ。しかし、心地良い。そして、物足りない。もっと、この身を撫でさせ、舐めさせ、苛めさせたい。ただ乱暴にされるより、熱く求められているような気分にさせられる。肉体だけでなく、気持ちまで凌辱されてゆくようであった。
「はあ……はあ……はあ……あぁん……あ……ふふ……あ! は……は、あっ!」
まるで、行為を悦んでいるような笑いが洩れ、アルトリアは狼狽えた。
「……あはぁ……はあ、は……嘘……そん、な……あ……ああ……はあ……やめ…やめ、て……」
恫喝を発することが、出来ない。声が思うように出せず、無理に咽喉を通すと、弱々しく、か細く、震えるように出てしまう。
貴女を抱いている男は、元来であれば、けっしてこのような関係になるはずもない、言わば天敵のような者でした。ですが、幾度となく突き込まれ、悦びに打ち震えているうちに身体だけでなく、心までも開いてしまい、彼の劣情を満たすための道具と化してゆく。
「そん、な……こ、と……」
騎士にあるまじき、ましてや王たる者に相応しからぬ感情が胸に渦巻く。この奇妙に毒々しい気持ち、とても言葉には表し難い……敢えて言うなら「肉体が屈辱を欲している」といったところだろうか。
汚らわしい肉棒で、膣壁を擦り上げられるたびに、彼女の背筋にえもいわれぬ痺れが走り抜ける。快感というよりも……もっと、根源的な、嬉しいという感動そのものが直接、体の奥から噴き上げてくるかのような感覚。抑えることも、できないほどに。
断じて、認めるわけにはいかなかった。こんな一方的な仕打ちに抵抗できず、あまつさえ喜悦を感じるなど有り得ない。騎士の誇りにかけて、心までも明け渡すなど、絶対に。
だが、そんな必死な思いすらも、不可解な悦びが呑み込んでゆく。抗おうとする気持ちを抱き続けることさえ難しくなってゆく。
貴女を思うがまま、存分に犯し抜こうとする意図を隠しもしない……その男、無論、貴女のよく知る人物です。
「は……はあ……はあ……ああ……はあ、あ……ん……ん! んはぁ……」
森の中を、連れ立って馬で旅していた男、誰だろう。名が、思い出せない。しばらく行動を共にしていたのは間違いないはずなのに。乳首を吸っている男の顔に触れてみた。顎から頬にかけて、無精髭が生えている手触り。暗ければ目で顔を確かめるところだが、暖炉の灯りだけでは判別つかない。しかし、2人きりでいたはずなのに、こんなことをしているというのに、その容貌も思い出せないとは。
その時、外で稲光が閃きました。一瞬の眩しい光が、あたりを照らし出します。男が誰だか、お分かりになりましたか?
「んん! ん、あ……あっ……は……」
青白い閃光によって、周囲の様相がアルトリアの瞳に映り込んだ。だが、駄目だ。顔は見えなかった。男が彼女の胸を舌で責めていたから。クセが強い、短い髪しか確認できない。
それでも、その髪に、見覚えのある気がした。
「くうぅ……っ!」
男の責めが激しくなった。呻き、いや、快感による喘ぎを堪えることが、アルトリアには出来なくなっていた。男は、無言で、欲望に滾ったモノで膣を突いてくる。男の舌が乳頭から離れ、また、性器を擦り上げる速度がさらに増した。いよいよ、彼女の中に精液をぶち撒けることに専念するらしい。
男が上半身を起こし、その頭が上がってゆく。アルトリアは両手でそれを引き戻す。次の雷光で誰であるかを、絶対に確認しなければならなかった。男の唇が顔や首筋に襲いかかってきて、抱き締める両腕に甘い痺れが走る。それでも、彼女は放さなかった。
「はぅ……はあ……あ! あ……あくっ……!」
膣内を激しく掻き回され、アルトリアは下腹部に力を入れた。衝動を堪えきれず、思わずそうしてしまったのだが、男根の蹂躙を何としてでも止めたかった。憎らしい男の性器をきつく、強く締めつける。裡側で暴れ回るモノの動きは鈍りもしなかった。女性器の中は、溢れ滴るほどの愛液で濡れそぼっているのだ。いくらでも滑り出て、滑り入る、渾身の力で締めつけても。
淫虐は終わらない。
また、落雷です。今度は、先ほどよりも近い……さて、誰でしたか?
「あ……ああ……あ……」
2度目の閃光で、アルトリアは凌辱者の顔をはっきりと確認した。一瞬のまばゆい輝きで、その容貌が眼球に灼きつく。予想した通り、見知った顔であった。その男とは――
誰です?
「あ……あ! あぅん!」
有り得ない、絶対に、こんな事など。
アルトリアにとって、最も身体を許したくない男だった。しかも、妻帯者である。その妻というのはアルトリアが敬意をもって接する高貴な品格の持ち主で、万が一にも裏切るわけにはいかない女性だった。
「く、はぁ……あ! あ……ん……う! んんっ!」
されたくない……嬉しいと思いたくない……それなのに、どうしようもなく興奮する。逆に、どんどん昂ぶっていってしまう。気持ち良さと悦びを抑えきれなくなる。
相変わらず、手足に力は入らない。しかし、絶え間なく擦り上げられている性器からは、逆に、力が抜けなくなってゆく。気持ち良くなってしまうというのに、意思に反して、そこにだけは力を籠めてしまう。
男の頭が両手による戒めをすり抜け、上がってゆく。男の腰の動きが、胎内への刺激が、さらに速く、力強くなった。
誰なのです?
「ん……き……あ……ん! あ! あはぁっ!」
じっくりと、性感と性癖を掌握し尽くした女体に、一気に止めを刺しにきたのだ。速さといい、強さといい、アルトリアが到底あらがえない、狙い澄ました嬲りようであった。
気持ち良すぎた。抵抗しなければ、逃げなければならないのに……やめさせたくない。誤解しようもなく、男にはアルトリアを孕ませようとするつもりがあった。しかし、歯向かえない。手足は萎えたまま動かない。むしろ気力が、急激に削がれてゆくのを感じる。
抗しえない? 歯向かえない? いいえ、貴女は望んでいるのですよ、心の奥底ではねえ。その男を受け入れることが、貴女にこの上ない快楽を生じさせるのです。そして、2人の行為が、誰かを傷つけることになるとすれば、それは、やはり至高の愉悦――
「ち、ちがっ……はあ、はあ、わたし……わたっ…しぃ……っ!!」
男には明確な意図――悪意があった。拒絶するアルトリアを快楽で狂わせ、彼女に望まぬ受胎をさせようとしている。
それと知りつつ、アルトリアはなおも股を開き、男根を女陰で締め上げ続けている。男の精液を自分の奥へと注ぎ込ませるために、自らを、孕ませるために。
それは要するに、同意しているということであった。少なくとも、身体の上では。そうだ、だから2人きりで旅をしていたのだ。そして、こんな森の奥へ……すべては、この逢瀬のため。
「あ! ああ、あ…あ! ん…あ! あ! あ! あ! あ! あ!」
男の思惑がどうであろう、関係ない。アルトリア自身が快悦を得られるか否か、だけが問題であった。これで、あの……女の幸せに満たされているような、あの女を少しでも苦しませることが出来たなら――
「違うっ!」
アルトリアは叫んでいた。誤った、邪な方向へと心理誘導されている。はっきりと、その危険性を認識できるほどに。
「ああ……嫌、いやぁ……はあ、はあ……そん、な……ああっ……!」
このままでは、ただ刹那的な衝動に身を任せ、淫に耽るだけの女になる、されてしまう。アルトリアが求めているのは、そんなものではなかったはずなのだ。
では、何を?
声が訊ねる。
聖杯……聖杯だ。冬木の地に現れ出でる、万能の願望機。
アルトリアは、そう答えた。
ですが、貴女は今、その聖杯に取り込まれつつあるのです。そうなれば、貴女の願いは夢で終わる……お分かりか、再契約が必要なのです。
「再……契約?」
そう、新たにマスターを選定し、サーヴァントとして契約を結ばなければ、貴女はもうすぐ自我を失い、聖杯の一部となってしまう。その前に、例えば私と――
「する……あ……け、契約、するっ!」
アルトリアは思い出した。声の言葉は真実であった。聖杯に取り込まれてしまっては、すべてが終わる。まだ間に合うというのであれば、即刻にでも再契約を果たす必要があった。
いつの間にか、アルトリアは屋外にいた。豪雨の中、大樹に縋り、後背から尻を抱えられて、なおも激しく突かれていた。
こんな体位、女の方にもその気がなければ絶対に不可能だ。いつ猛獣に襲われるかもしれないというのに、素裸でこんな場所に……より強い刺激を得るという理由だけで。
では、聖杯の寄るべに従い……
「早く! もう、もたない……誓う! 早く! 早……くぅっ!」
アルトリアの全身から痛みが、熱さすらもまったく感じられなくなった。羞恥も拒絶も無く、快感と悦びに包まれながら、ただ繋がりあった性器の感覚にだけ意識を向ける。どうすることも出来ず、絶頂を迎えるしかない寸前の、状態。
「………………!!」
次の瞬間、ぬるっとした幸福感が膣内に広がった。アルトリアが達したとき、男もまた同時に射精したのである。
目醒めは、間に合わなかった。再契約の前に、凌辱のほうが成立してしまった。
契約は、たしかに完了しました……
声は告げる。しかし、何も変わらない。悪夢は終わらなかった。
「はあ、はあ、はあ……そんな」
ご心配にはおよびません。すぐに、気にならなくなります。貴女にとって、最早これこそが、現実。これそこが、願い。聖処女の偽者たる、恥知らずの貴女なら……
「そんな……」
契約したというのに、これでは――いや、そもそも契約すれば、この夢から醒められる確約も、確証もなかった。
「あん」
アルトリアは男に振り向かされ、深く唇を重ね合わされた。冷めかけた心がまた熱くなってくる。雨水が肌を流れ、男の指が肩に食い込む。夢から醒めることはなく、さらなる現実感を増し、アルトリアの凌辱は続いてゆく。
男根が早くも硬さを取り戻し、彼女の膣に挿入された。その回復力に少し違和感を覚えたが、それも一時のこと。すぐに、どうでもよくなった。
堪らない気持ち良さの中に、意識が埋没してゆく。
己の胎内に男の欲望を受け入れ、舌の絡ませ合いに夢中になりながらも、アルトリアの心にかろうじて留まった理性の残滓はこんなことを考えていた。
願い、とは何だっただろう。自分が聖杯に託そうとした、叶えたい願望、それは――滅亡の運命にある故国の復活。
アルトリアは、そのためにサーヴァントとなったはずであったというのに……