アイリスフィールが、身も心も宿敵・言峰綺礼のものと成り下がっていた頃、彼女の夫・衛宮切嗣は、まだ武家屋敷の土蔵から一歩も出てはいなかった。
話は、その前日、土蔵からアイリスフィールがライダーと思しきサーヴァントによって連れ去られた晩からはじまる。
遠坂邸から、拠点である武家屋敷へと切嗣が戻ってきたとき、とうに日は落ちていた。騒音は聞こえてこない。やはり戦闘は終わっているようだ。舞弥から危機を知らせる電話があってから、すでに1時間は経過している。襲撃者はとっくに逃げおおせていることだろう。
彼は高い塀に囲まれた屋敷の門をくぐり、敷地の隅にある土蔵へと向かう。入り口の鉄扉は破壊されていた。
中を確認する。朝、出掛けるときには衰弱した妻・アイリスフィールが土間床に描かれた魔法陣の上に横たわっていた。しかし、その魔法陣も今は壊されており、そこに倒れていたのは、深手を負った久宇舞弥であった。
「舞弥!」
彼がその傍らに駆けつけると、舞弥は閉じていた目を開いた。どうやら眠っていたらしい。
「…………」
舞弥は無言のまま切嗣を見つめる。
「何があった? 襲撃してきたのは、どの陣営だ」
意外と無事そうに見えたので、切嗣は訊いてみた。一番可能性が高いのは遠坂時臣のアーチャー陣営……と、言いたいところだが、それは最もありえない。遠坂邸を捜索した結果、時臣がすでに死んでいるのは確実だからだ。と、するとバーサーカーとライダーだが……などと思考した切嗣だったが、しかし、直感的に彼は見抜いていた。
考えたくはない。だが、恐らくはあの男……言峰綺礼が首謀した策略に違いなかった。
「…………」
舞弥は、やはり何も答えないまま、突然、上着の前面を閉めている留め具を外しはじめた。妙な態度に、切嗣は違和感を感じたが、彼女が負傷の具合を見せようとしているのだろうと、とりあえずは自分を納得させてしまった。
留め具をすべて外すと、舞弥は大胆に上着の前を掻き開いた。溢れ出た甘い香りがあたりに広がってゆく。
「う…………!」
思わず、切嗣は呻いた。舞弥は、上着の下に何も着ていなかった。そして、素肌には怪我をした痕跡などなかったのである。上着にはあれだけ血糊がべったりと付着していたというのに。
呆然と見つめていると、艶かしく、辛そうに、その腰が跳ねた。
「舞弥……これは、どういう……」
月明かりに照らされた彼女の裸身は、ぬらぬらと光っている。肩から、腰まで、もちろん、乳房の先にまで粘性の強い液体が塗り込まれていた。匂いから、すぐに分かった。夢魔の体液から作り出された催淫効果のある霊薬の一種――いわゆる媚薬だ。このタイプはどちらか一方の性別にしか効果がないが、舞弥の身体に塗られているのは女性用のものであるらしい。近くにいるだけで熱気を感じるほど、彼女の肌は火照り、強烈なフェロモンを周囲に発散している。
舞弥は、続いてズボンも脱いだ。太腿や脹脛も同様のありさまだった。下着は穿いておらず、性器には特に念入りに、奥にまで詰め込むようにして薬液が塗り込まれている。この、容赦の無さ。残酷な何者かが彼女に対して行なった仕打ちであることは疑いなかった。
「ん……」
自分の肉体の恥ずかしい状態を見せつけると、舞弥は腕を伸ばし、腰を落している切嗣の頭を自分のほうへ引き寄せた。
まずいことになった、と切嗣は思った。舞弥に使われている媚薬は、少量でも効果を発揮する強力なものだ。それをこれだけ大量に塗りつけられていては、自分で慰める程度ではまったく足りないだろう。下手をすると気を狂わせかねない。
とりあえず命に別状は無さそうだし、気絶させてしまうという手もあった。しかし――切嗣は舞弥にされるがまま、唇を重ね合わせた。荒療治は、少し相手してやってからでも遅くないと思ったのだ。
「……んん……ん」
「…………うっ!?」
舞弥はすぐに、舌を挿し込んできた。その舌に、何かが塗り込まれていた。すぐに察し、切嗣は彼女の顔を引き剥がそうとする。しかし、逆に抱きつかれ、捻り込むようにして押し倒された。
舞弥の口の中に含まれていたのは、男性に効く媚薬だった。不覚にも、切嗣はそれを呑まされてしまったのだ。
「舞弥……」
何とか口を離したが、薬の効果はすぐにあらわれた。身体が熱くなり、特に股間がじーんと痺れてくる。舞弥の膝が切嗣の股を割り、怒張をはじめた性器をズボン越しに強く擦りあげる。切嗣が、また呻く。女性を犯したい、性の快楽で傷めつけたいという、どす黒い感情も湧きあがってくる。夢魔の霊薬は身体だけでなく、精神にも著しく作用する。
「ぐっ……ぅ」
「ふふ……」
苦悶する彼を見て、舞弥が涼やかに笑った。
「あなたの令呪の力でセイバーがここに現れ、すぐに飛び出して行った後です。あの男が……言峰綺礼がやって来たのです」
口の中にあったものを切嗣に呑ませ終えたことで、ようやく舞弥は喋りだした。
「奴は魔術で私の傷を癒し、そして……私の、身体を」
股間を嬲る膝に力を篭め、舞弥は組み敷いた切嗣の服を脱がしてゆく。
「でも、奴は私を弄び、肌を穢しはしましたが、犯しませんでした。奴は……私を、欲求不満にして、切嗣……あなたを、ここへ釘付けにするために」
剥き出しにした切嗣の肌にキスの雨を降らせながら、舞弥の唇は下へ向かっていた。すでに彼の股間を苛むものは彼女の膝ではなく、指先になっている。
「舞弥、やめろ。待て……!!」
切嗣の必死な制止を無視し、彼のズボンのファスナーを下ろした舞弥は、ためらい無くブリーフも引き下ろして飛び出した肉棒にしゃぶりついた。
凄まじい幸福感が、切嗣を襲う。今までも、舞弥には何度も口でさせたことがある彼だったが、これはかつてない強烈さだ。媚薬のせい――呑まされただけでなく、舞弥の口に残っていたものも舌で直接塗られている、そして一刻も早くアイリスフィールを捜さなければという焦りのせいもある。
舞弥は、わざとらしくいやらしい音を立てながら切嗣に吸い付き続けた。頭を押し離そうとする切嗣の手も物ともせず、口一杯に頬張り、陰嚢も親指で指圧し続ける。
「こんな…ことを、している場合じゃ……な……!」
ここ数日続いた死闘の連続で、精神は極限の緊張を強いられたままだった。そんな時に、突然のこの快感である。切嗣に抗し切ることなど不可能だった。
彼の性器は、精液を舞弥の口腔にぶち撒け、呑ませる為の準備を着々と進めていった。
だが、いよいよ達しようとした刹那、彼は口による責めから解放された。唾液が糸を引きながら、舞弥の唇から切嗣の男根がこぼれ出た。突然に快感を失った彼の性器は、その苦しさで逆にのた打ち回りだした。
「可愛い……」
舞弥は熱く息を吐くと、悶える亀頭を愉しげに舌先で小突き、いじめはじめる。彼女自身が受けたという綺礼による仕打ちを、切嗣に対して行なっているのかもしれなかった。
「はあ、はあ、はあ……もう、そろそろ、切嗣」
獣のような欲情ぶりを隠しもせず、舞弥は切嗣の上に乗りかかった。
「舞弥、アイリが、危ないんだ!」
「じっとして」
「う……っ!」
局所に対する愛撫で静かにさせ、媚薬まみれの女は自身の欲情に苦しみながらも慎重に腰を下ろしてゆく。冷酷な殺人者の性器を、自分の性器の中に迎え入れた。
「あぁーーーーーーー……」
疳高い声を放ちながら股を限界まで開き、しっかりと根元まで咥え込むと、舞弥は腰を揺すりだす。短い黒髪を振り乱し、汗の飛沫が切嗣の顔にかかった。
「これ…は、罠だ。言峰、綺礼の……」
「そうです。これは、あの男の策略」
切嗣をゆったりとしたリズムで悦ばせながら、舞弥は肯定した。当然とばかりであった。
「ですが……あん……奴はもともと、あのような『怪異』を専門に狩っていた男。私たちより、その扱いに長けています。ここは……むしろ任せておくべきです」
「『怪異』だと?」
「奥様は……あなたがアインツベルン家と手を組むため、妻とするよう押し付けられたあのホムンクルスは……『聖杯の運び手』です。聖杯の力を発動させるには……どうせその儀式を行なうために殺す必要があるではないですか」
「舞弥……」
「言峰綺礼は、私に言いました……あん! は、あ……あの、女の姿をした人形を滅茶苦茶にすると。いい気味……本当に、いい気味です……ふふ……あ! 逃げちゃ駄目ぇ」
不意を突き、押し退けて脱出しようとした切嗣の手を、舞弥は難なくかわし、股間に力を篭めた。彼女の裡に納まっているものを締めつけ、キツくお仕置きする。
「ぐぁ……っ!」
悶絶する切嗣を眺めやり、舞弥はくすくすと笑った。
「ふふ……奥様がそんなに大事ですか? でも、あの女はそういう造りになっていることを忘れてはいけません。持ち主の男を悦ばせ、気に入られることを目的にして製造されたものなんです。アインツベルンのアハト翁が、あなたを、裏切らせないために。それなのに、あなたは、良い旦那様、良い父親になれたような顔をして、馬鹿みたいでした……ふふ……あなた、なんかが、そんなものになれるワケ……ふふふ」
切嗣は歯噛みした。媚薬の力が、舞弥が心の奥に隠している、牝としての彼女を剝き出しにさせていた。それに伴い、平時は抑え込んでいる気持ちも表層に現れている。
「それ以上……言うな。早く、どけ、舞弥……」
舞弥は、切嗣が大人しくなると腰の速度を落し、暴れだすと激しく振る。
「奥様が産んだっていう、あなたの娘……写真を見ても、ぜんぜん、あなたに似てませんね」
そして、言葉で切嗣を責め続けた。彼の語気は、だんだんと荒くなっていった。
「いい加減にしろ!」
「自分の複製を作る機能が備わっているだけなのでは、あの女に?」
「おい!」
「だって、あなた、私を孕ませられなかった。なのに、あの女とは、すぐに……」
「うう……」
「きっと、あなたは女を孕ませられないのに、あの女は――」
「黙れ!」
「ああ! あの女、あなたが妊娠させてくれないと知って、あん、ん…仕方なく、独りで自分の複製を作って、さぞ、あなたに孕まされたような顔をして……ああん!」
「もう黙れ、黙れぇ!」
言い争っているうちに、いつの間にか切嗣のほうが舞弥の上に覆いかぶさっていた。そして彼が夢中で腰を振り、舞弥の裡側を責め立てていた。
「あ、あ、あ……あはぁ……信じられない。私、あなたの子が生まれるなんて。信じない。だって、出来ないのに。タネ無しなのに!」
「違う! ふざけるな! イリヤは、イリヤスフィールは間違いなく僕とアイリの子だ」
「信じて欲しければ証明して。私を孕ませればいいじゃない……今すぐに!」
「くそぉぉぉぉぉぉぉっ!」
怒りにまかせて、切嗣が乱暴に突き込んでゆく。壊されるかもしれないという、その緊張を伴う快感に、舞弥の背筋が硬直する。
「あ! あ……あ……あ……あ、ん…………ん、んん、ん……ん…………っ……ああ! ん! ん! あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
両手の指を絡め合わせようとしてくるのを拒み、切嗣は泣き叫ぶ舞弥の両乳房を握り締めた。惜しみなく、舞弥は泣き声をあげ続ける。
「あ! あん! あ! あ……ああああああああああああああああああああああっ!」
獣と化した男女が、ともに果てた。
最後に軽い睡眠を取ってからすでに1日以上経過している……この射精による、切嗣に生じた快感は疲労によるストレスを吹き飛ばすのに充分だった。
「はあ、はあ、はあ……はあ……うっ!」
舞弥の中で、切嗣の男根が再び勃起した。塗り込まれた霊薬がさらなる快楽を彼に要求していた。
「ああ…………早く、切嗣」
舞弥が甘い声で誘うと、切嗣は自分が動きやすいように彼女の身体を土間床に押しつけ、さらなる責め苦を与えはじめた。
その後、久宇舞弥は衛宮切嗣の子を身篭った。彼と共に暮らすには到らなかったものの、それでも比較的平穏な余生を送ったという。