※この作品はR-18です。

愉悦の記録(Fate/Zero)   作:間宮卓郎

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その3 遠坂葵

 酔いが回っているのもあるのだろう。もしかすると、あのワインの中に妙な薬でも入っていたのだろうか?……いや、それはない。

 先に呑んだのは、この男。

 でも……これは……

「ふ……ふ……う……ふううっ……うーー……ふ」

 葵の咽喉から、悩ましい喘ぎが搾り出る。気管を通る自分の吐息が、焼けるように熱い。涎が、胸元に滴る。黄金で出来た棒状の轡を、強く噛み締めている、歯形がつくほどに。だから口を閉じることが出来ない。喘がずにはいられなかった。

 葵の口にそれを嵌めたのは、この男。

 彼女の素肌を抱き締め、股を開かせ、そして――汚らしいモノを、突っ込んでくる。性器と性器を交接させ、濡れた音を立てさせている。

 男の、金色の細い髪が、葵の汗で濡れている。意外に逞しい胸板に、それに……妖艶、と表現するのが相応しい浮世離れした眼差し。女の心を、単なる娯楽か食い物のようにしか見ていない、邪悪な蛇の目つきだった。

「っ……ふう……ふ……うぅ……」

 興奮する。どうしようもなかった。感じすぎてしまう。

 真実を知ってしまったからだ。だから、昂ぶる。この男の指に、舌に、そして執拗に苛んでくる男根に、葵の肉体が余計に反応する。

 黄金の部屋の、黄金の寝床。その上で、葵はずっと犯されている。凌辱の昂ぶりで気を失い、凌辱の刺激でまた目が醒める。そんな毎日を続けていた。この部屋に閉じ込められてから、ずっと。

 時臣の顔が思い浮かぶ。唐突に、雷鳴が閃くように。

 違うの。そんな顔しないで。心の中でいくら言い訳しても、亡き夫の顔は冷たく翳ったままだ。哀しみに悶え、もどかしさに呻く。その顔にさらなる恐怖を感じてしまう、真実を知ったが為に。

 それを葵に聞かせたのが、この男。 

 人が心を弱くする術を知り尽くし、惑うことなくそこにつけ込んでくる悪魔の所業が、葵をどこまでも追い詰め、苦しめる。

「……はっ!?」

 しかし、いつの間にか男の腰の動きに、悶え逃れようとしているはずの葵の腰の動きがぴったりと調和していることに気づいた。

 いけない、私、また……

 慌てて腰を止めようとする。しかし、止まらない。葵が止めようとしても、幾度もの強淫で覚え込まされた動きを、勝手に始めるのだ、彼女自身の腰が。どうしても、その「息が合った」状態を破れない。葵の陰唇が、絶妙の速さ、リズムで出入りする肉棒にしっかりと喰いついてしまっている。男は、それを葵に自覚させるための腰遣いを行なっていた。

 いやらしい……いやらしすぎる……こんな、望んでいないはずなのに……

 女の扱いを熟知しているのだ。とても敵わない、抗えない。この淫欲に溺れるしかないと、葵を諦めさせるに充分な仕打ち。この上なく、夫以外の男の凌辱に感じてしまっている。しかもその気持ちを、男にはとっくに、完全に見透かされていた。

「そろそろ、イきたかろう?」

 宣告が、熱い吐息とともに囁かれた。女の誇りをこれから、またも粉々に砕け散らすという予告である。

「う……うんぅーーーーーっ!? ふ、う、ふ…んっーーー、んぅーーー!」

 男の責めが激しくなる。葵の膣が苛烈な性虐に泣きだした。

 乱暴にされ、強い痛みとともに、咽喉を超える熱さが下半身から噴き上げてくる。わずかに感じていた心地よさは消え、苦しい、痛い、熱い……それでいて、心の飢えが満たされてゆく。

 己の身を蹂躙する男に向けられた、燃え盛る気持ち――それを戒めるかのように、時臣の顔がはっきりと見えてくる。

 駄目。信じないで。これは私の、本当の姿じゃない……仕方ないの、どうしようもない……止まらない……

 官能に脳が痺れ、一瞬、気が緩んだ。心を、完全に連れて行かれそうになる。だが、すぐさま、急いで引き返せる――はずだった。

「!?……ふぅううううううううううううううううううううっ!」

 わずかに出来た綻びを狙い澄ました強烈な刺激が襲う。

 乳房を揉み潰され、首筋に歯を立てられ、腰と腰とが密着し、否応なく、葵の意識が漂白される。

 射精。男の精液が、仰け反る葵の子宮に注がれていた。それに合わせるように、無意識のうちに葵は、彼女自身が最も感じられる体勢をとっていた。またしても、であった。抵抗できなくなった瞬間、すべてを奪われた……心まで。

 切り揃えた前髪を掻き上げられる。優しい……どうしても、そう思ってしまう。

「ふ……ふ……、……ふ……う、うう……」

 不貞である。明らかなる、夫への裏切り。羞恥と屈辱が全身を苛む。それを上回る快感もまた。

 気持ち良い疲労感と喜悦が、張り詰めた神経を解してゆく。頭の中の熱が、冷めやらない。猛烈な眠気が襲ってきた。

 嫌。ここで眠ってしまうと、絶対に、あの人の夢を見てしまうというのに。

 

 

 第4次聖杯戦争が始まって、約2カ月が経過した。

 しかし、その終結の兆しは微かにも感じ取れない。

 戦況が停滞してしまった原因――その最たるものとして挙げるとすれば、やはりキャスタークラス陣営の暴走であろう。あらゆる願いを叶えるという聖杯を巡る魔術師たちの闘争、聖杯戦争から逸脱し、快楽を得るための殺人を繰り返していた彼らは、ついに魔術による冬木市の壊滅を企てる暴挙に出る。

 キャスター陣営はそのマスターからして、凶悪殺人犯ではあったのだが、彼によって召喚されたサーヴァントもまた人格の歪んだ、英霊と呼ぶに相応しくない男だったようである。

 キャスターは冬木市を縦断する未遠川にて巨大な海魔を喚び出し、西岸の深山町側を蹂躙。甚大な被害を与えて何処かに消えた。

 その戦いにおいて、衛宮切嗣はキャスターのマスター・雨生龍之介の狙撃、殺害に成功。だが、キャスターは消滅しなかった。巨大な触手を無数に有する大海魔が、人々を殺傷することにより得られる魔力は、サーヴァント単体による現界維持を可能とさせてしまったのである。

 その後、キャスターの操る大海魔は世界各地の大都市に神出鬼没しては大量殺戮を行ない、聖堂教会や時計塔を煩わせているという。

 以上の経緯で聖杯戦争は事実上の破綻をきたしており、全クラスの陣営が、この閉塞を打開するための糸口を完全に見失ってしまっていた……

 

 

 当世風のファッションに身を包み、急ピッチでの復旧が進む冬木市西部を見て回り、また赤い鉄橋を渡って来た道を辿る。片手に提げたビニールの白い買物袋から、ガラス瓶同士の擦れ合う涼しげな音をさせながら。

 日本人とはかけ離れた金色の髪と風貌は、やはりそれなりに目立ちはする。だが、この冬木市は北側を海に面し、古くから対外貿易で栄えた港町である。異国情緒豊かな街並みが点在し、今でも外国から移って来た者が多く住む。道ですれ違う人々からも、さほど奇異な視線が向けられることはなかった。

 散歩がてらにわざわざ街の反対側まで出向き、買物を済ませてまた戻る。アーチャーのサーヴァント、英雄王ギルガメッシュは根城とする冬木教会へと帰った。

 その際、新都側に戻った後、一組の家族と道すがらすれ違ったのだが、その夫婦が連れていた赤毛の少年がなぜかひどく気になっていた。

 どこかで逢ったか? いや、そんなはずはない。

 何かがひっかかる……あるいはあの少年もギルガメッシュ当人と同じく、かつて生きていた時代から、この現世への転生を果たしたのかもしれぬ――などと、止め処もなく思索を巡らせる。

 とは言え、重大事というわけでもなく、礼拝堂の横を通り、中庭から地下へと降りる頃になると、彼はそのことをすっかり忘れてしまった。

 地下へと続く階段は扉の前で行き止まり、それを開けると底が深い縦長の部屋の上層に出た。石造りの階段が壁に張り付くようにして下へ続いており、到達点の石床には赤い魔法陣が仄かに光っていた。その円陣の上では、2人の人影が妖しく蠢いている。

 1人は、この冬木教会の神父・言峰綺礼である。

 綺礼の為体(ていたらく)は、出掛ける前とほぼ同じであった。即ち、暗く冷たい地下室で全裸にて木椅子に座り、もう一人の銀髪の女に跪かせて己の性器をしゃぶらせている。彼らの足元に浮かび上がる魔法陣は、女の体力を回復・維持させる為のものだった。

 勿論、女も全裸だった。か細い背筋から形の良い尻に至る素肌は、本来ならば雪のように白いはずだが、それを薄赤くなるまで火照らせている。

 その長い真っ直ぐな銀色の髪に欧州系の顔立ちを持つ女とは、言うまでもなくアイリスフィール・フォン・アインツベルン――綺礼が宿敵と見定める衛宮切嗣から横取った生きている人形である。

「……ん……う、ん……」

 魔術により造られた人間、哀れにも拉致され慰み物にされているホムンクルスの女の、前髪を掻き上げながら漏らす幽かな喘ぎがギルガメッシュの耳にまで立ち昇り、届いていた。熱く擦れた声といい、陰茎をすする音といい、男を欲情させ、嗜虐心を煽ることを追及し尽くしたかのような淫猥さである。

 アイリスフィールは呪いの一種によって心を蝕まれ、綺礼の言葉に逆らうことはできない。正確には、施術者たる綺礼から命じられたことに抗しがたい興奮を感じ、その意に従うことに堪えがたい衝動を抱き、やり遂げることにこの上ない性的な悦びを得る状態にされてしまっている。

 単純に命令に逆らえないようにする、としない迂遠さは、いかにも綺礼らしい感じがする。本人の弁明によると、アインツベルン家や衛宮切嗣によって、すでにそういった魔術による束縛がアイリスフィールの精神に組み込まれている可能性があり、また強制術式に対する防護措置を取られている場合も鑑み、事前に避けることを選択したのだという。

 以来、綺礼は彼女に可能な限りの性虐を加えることに腐心していた。

 そのアイリスフィールとの行為がよほど良いのか、宿敵の妻というのが燃えるのか、とにかく飽きもせず、暇さえあればずっと犯し続けている。

「フハハハハハハッ! 無様なものだな、綺礼よ」

 胸元で両腕を組むと、ギルガメッシュは高みから、綺礼へと哄笑を浴びせつけた。

「この期に及んで、まだその人形めに未練があるのか? やれやれ、見るに堪えぬなあ、お前のその、戯けた妄執ぶり。最早、それは愉悦などではない。あたかも、その女の飼い主がお前ではなく、お前の方がその女の奴隷のようだ! すでに、俺の目にはそう映っておるぞ、綺礼よ」

 無惨なる笑みを浮かべて言い放つ。さらに、ギルガメッシュは続けるのだった。

「斯様なくだらぬ房事に耽るよりも、お前には他にやることがあるはずだ……ただちに、その器の女を絶命させ、聖杯を現界させよ! お前が悪戯にそやつを生き永らえさせておるから、いつまで経っても肝心の願望機が顕れんのだ!」

 はるか古の時代、幾万の国民をひれ伏させた、荘厳なる王の言葉。

 しかし……綺礼から返事はなかった。

 恍惚と目を閉じ、女の頭を撫で、それと同時に女の咽喉にも触れていた。アイリスフィールが唾液と入り混じる体液を呑み込んでゆくのを指先で感じ取っていたいのだろう。

 じっと待っても、綺礼からの返答はない……仕方ないのでギルガメッシュは、組んでいた両腕を下ろした。手にしている買い物袋の中身がけたたましい音を立てる。そして入ってきた扉を開き、忌々しげに綺礼たちを睥睨すると最大の侮蔑を篭めて吐き捨てた。

「ふん!」

 憤り冷めやらぬまま、ギルガメッシュはその場を立ち去り、綺礼の執務室へ向かった。もともと、彼は真っ先にそこへと向かうつもりであったが、ちょっとした気まぐれで綺礼の顔を見に行ったのだ。

 綺礼がアイリスフィールという玩具で愉しんでいるように、彼には彼の愉しみの相手がある。

 ギルガメッシュは、その女性に逢いに行くつもりだった。

 執務室にたどり着き、ドアを開けた。だが、その中には誰もいない。構わず、ギルガメッシュは入室した。

 綺礼らが劣情に蠢く、地下墓地へと続く部屋ほどではないにせよ、窓のない室内は薄暗い。そこに見えるのは、簡素な机、本棚、ソファとテーブル、床に転がる数本の酒瓶――そして壁に掛けられた1枚の絵画。

 それは、すべてが黄金に輝く部屋の寝台に横たわる、黒髪の裸婦画である。水彩画でも油絵でもなく、原料不明の具材を用いて精緻に描かれている。

 派手さはないが長くまっすぐな髪が目を引く、清楚な趣のある整った顔立ちの女が、金に色とりどりの宝石を鏤めた装飾品を額や腕、胸元、足首などに身に付け、硬そうな黄金の寝台――祭壇と捉えるべきなのかもしれないが、そこに寝そべっている。

 本来、質素で飾り気のない服装や調度類が似合いそうな美女が、邪神に奉げられる生贄のように肉体美が強調された、不釣合いな格好をする様は、なんとも扇情的であった。

 が、この絵の最大の見所は、別にある。

 その時、絵の中の裸女が身体を起し、金色の部屋を見回しはじめた。そして部屋隅の1点で目を留める。そう、この絵は、魔術的な力によって動いているのである。

「んん?」

 絵の中の女を眺めやっていたギルガメッシュの目つきが鋭くなった。その女の様子に、不穏なものを感じ取ったのだ。

 よく見ると、絵の隅に、ちょうど女が見つめているあたりから黒い染みのようなものが湧き出し、床にわだかまっていた。それは小柄な人間ほどに膨れ上がると、女のほうへゆっくりと迫っていくのだった。

 

 

 遠坂時臣の妻、葵にとって、けして忘れられない夜があった。

 許容しがたい恐ろしい、おぞましい出来事が、立て続けに次々と起きた悪夢のような一夜であった。それからすでに2カ月が経過したが、葵は今でも、思い出すだけで背筋が凍る寒気と、熱く爛れた興奮を全身に覚えるのである。

 葵の嫁いだ遠坂家は魔術の名門であり、その当主である時臣は冬木における魔術師同士の暗闘、聖杯戦争において勝利を収める宿命を課せられていた。

 だから、それが開始されて以後、葵は夫からの言いつけで娘とともに冬木を離れ、実家の禅城家に帰っていた。

 その夜の事件の数々は、言峰綺礼の突然の来訪から始まる。

 午後11時ごろ綺礼が何の連絡もなく禅城家に現れ、「ご主人に大変なことが起きてしまいました。今すぐ奥様に逢われたいと」などと言って、車で迎えに来た。葵は、碌に身支度もできないまま、その車に乗せられ冬木教会へ向かう破目となった。

 車庫に車を戻すので、と先に礼拝堂に行くよう促され、ひとりで教会内に入る。時臣はそこで葵が来るのを待っているらしい。

 たしかに、彼女の夫・遠坂時臣はそこにいた。無造作に床に横たわり、瞬きもせず。その横で狼狽えている間桐雁夜とともに。

 そして、始まった。

 変わり果てた夫との、無言の再会と死別。

 逆上した雁夜に首を絞められての、気絶。

 気がつくと雁夜の姿はなく、代わりに現れた2人の男に犯されていた。真裸に剥かれ、冷たくなった夫の面前で。

 しかも、その内のひとりは綺礼であった。時臣は、魔術の弟子であり神父でもある綺礼を、厚く信任していた。夫が心を許す彼の人格と品性を疑うことなど、葵はそれまで考えたこともなかった。

 そんな綺礼によって後背から抱かれ、辱められていた。抉られていた。後ろの穴――肛門を、火傷するほど熱く太い、肉棒を捩じ込まれて。

 そして前もまた、膣口をも別の男の性器によって栓がされていたのだ。どんなに潤ませても苦しく、きつい……しっかりと、深く、奥まで挿し込まれていた。金髪の若い、端正な顔立ちの男だった。葵の乳房を思うが儘に吸い、濡れた音を立てさせながら、欲望のままに身体の裡を何度も、馴染ませるようにして貫いてゆく。人妻から未亡人になったばかりの女の膣内を。

 忘れることは出来ない。

 激情に駆られる葵に向けられた、月明かりに照らし出された男たちの勝ち誇った表情。耳許で打ち明けられた、夫を殺したのは自分だという、綺礼の告白。支度する暇が充分に与えられなかったせいで、葵は下着までは着け替えられなかった。2人に脱がされたのは、密かに買い集めていた、夫にも内緒にしていた淫靡なデザインの上下であった。それを揶揄され、また感度が良いとか、腰遣いとか……羞恥を煽るための挑発的な賞賛。

 綺礼も金髪の男も、自分たちが気持ち良くなるよりも葵を感じさせるための、巧みで、悪意に満ちた凌辱を行なってきた。

 心正しくあろうとする葵の必死の、涙の抵抗を嘲笑うように、前後の穴をゆったりと責めあげてきて――

 そこで、葵は回想を中断した。

「ああ……」

 純金で造られているという冷たい寝台に寝そべり、枕元に乱雑に並べられた指輪や首飾りを手に取る。この黄金の部屋には衣服の類はないが、数多くの、女の身を飾るための装飾品があった。

 以前なら、心がときめくどころではなかったであろう、見事な細工が施された年代ものばかりである。一見して、高価なことが窺える品々しかない。だが、誰にも見せびらかせない今の状態では、まったく気持ちが動かない。何の値打ちも魅力も感じない。

 あの運命の夜、凌辱の果てに再び気を失った後、目が醒めると、今度は全裸のまま、この黄金の部屋に寝かされていたのである。

 温かみがある物が、何もない部屋だった。そして、出口らしき扉もなく、閉じ込められていることは即座に察しがついた。

 家具は、寝台と、小さなテーブルと、黄金の壺が載った台座、背の低い箪笥が1つ。いずれの調度も黄金で出来ていた。ただし、箪笥の抽斗は重くて開かない。

 きらびやかなだけで、じっとしていると、心の底まで寒くなってくる、そんな部屋である。初めて目の当たりにしたときは、その豪華さに感動を覚えもした。今では、不安と狭苦しさしか感じない……

 不思議なことに、ここでは空腹になることはなかった。よって、温かい食事を摂る必要もなく、運ばれて来ることもない。

 また、ここでは汗をかいても、いつの間にか乾いていて、垢も臭いもつかなかった。よって、風呂に入る必要もなく、入らせてもらえもしない。

 室温は、常に暑くも寒くもない。それでも、葵は温もりに飢えてしまっていた。

 だが、もうしばらく待てば、帰ってくるはずなのだ。この部屋の主――あの金髪の若者が。葵の肉体を否応なく熱くするために。金色の細く短めの髪に、思わず見蕩れそうになるほどの美貌の持ち主だった。訊けば、魔術によって蘇った、古代バビロニアの王だという。

 この部屋に閉じ込められてからというもの、葵はギルガメッシュと名乗るその男の奴隷であった。主である男の望む時に、望むように身体を開くだけの、自由のない日々。今、葵が黄金の装飾品で全身を飾っているのも、そのギルガメッシュに身につけるよう命じられたからであった。

 とにかく、気難しく、また気まぐれな男で、女を肉欲の捌け口ぐらいにしか思っていない。しかし、それでも、今の葵が触れられる、唯一の温かいものが彼であった。

 ふと、脳裡に時臣の顔が浮かぶ。

 しまった、と思った。まどろみかけてしまったのかもしれない。

 葵が憂えていることは、閉じ込められていることだけではなかった。彼女を悩ませるもう1つ……それは時臣の顔である。

 教会での凌辱以来、葵は時臣の夢しか見なくなった。いや奇妙にも、夢の中での男たちの顔が皆、時臣にしか見えなくなってしまったというほうが正しいだろうか。たとえ、あのはじめて犯された夜の悪夢であっても、男たちの顔がみな時臣になってしまうのである。

 それは、夫を裏切る罪悪感などとは少し異なる感覚だった。

 おかしいのはそれだけではない。ギルガメッシュや綺礼に犯される最中、葵の口が勝手に、自分の舌を噛み千切りそうになるのだった。その度に、ギルガメッシュが金の轡を葵の口に出現させ、それを阻止する。

 その現象も、やはりあの教会の夜からはじまったことであった。綺礼やギルガメッシュはその理由を知っているようだが、教えてくれないし、まだ訊いてもいない。

 自分の身体はどうなってしまったのか。それを思うと、葵は戦慄を禁じえなかった。今はまだ落ち着いていられるが、この症状がこの先も続くとなると……どうなるか分からない。正気を保っていられなくなるかもしれなかった。

 あの人、いつになったら帰ってくるのかしら……

 葵は、ギルガメッシュを、彼女自身を凌辱した相手を待ち侘びていた。寂しげな夫の面影を心に抱きながら。

 

 ……おお、おった、おった。よもや、こんなところに仕舞い込まれておるとはのぅ。

 

 くぐもった、不気味な声が聞こえてきたのはその時だった。

 飛び起きた葵が周囲を確認すると、部屋角に黒い靄が湧き上ってくるのが見えた。それは、溢れるように噴出しながら急速に凝固すると、小柄で腰の曲がった、年老いた男の姿を形作る。その頭部が異様に大きく禿げ上がった老人に、葵は見覚えがあった。

「雁夜君の、お爺様……」

 ゆっくりと、杖を突きながら葵に近づいてくる老爺――名は間桐臓硯といった。

「久しぶりだのお、葵ちゃん。しばらく見んうちに、ずいぶんとぉ女らしくなって……」

 日常的な慣用句の挨拶、そして口調。

 こんな状況でなければ一礼し、「お爺様も、お変わりなく」とでも返すところだっただろう。だが、葵は胸元と局所を手足で隠し、寝台の上を座ったまま後ずさった。

 

 

 遠坂家と同様、冬木の地に古くから根付いている魔道の名家・間桐家。臓硯はその当主であった。

 禅城家とも親交があり、葵も子供の頃から、この老人を知っていた。

 よく見ると、本当にその頃と、まったく変わっていないようであった。臓硯の見た目が、である。初めて顔を合わせたときにはすでに、痩せ細ってかなりの高齢に見えたのだが、それから20年近く経つ今もほとんど変化がないとは。

 だが、間桐家当主ともなる魔術師ならば、さほど驚くに値しないことなのかもしれない。

「私を……ここから連れ出しに来てくださったのですか?」

 恐る恐る、葵はそう訊ねてみた。とても、そんな雰囲気はなかったが、少しでも可能性がある以上、訊かずにはいられない。

「んん? いーや、そういうわけでは……いやあ? そうなるかのぅ……ふっふっふ……」

 臓硯の口から漏れ出す、不気味な笑い。嫌な予感だけが、ひしひしと伝わってくる。

「探しておったのだ、お前さんを。雁夜めのしでかしたことは、儂から謝らせてくれんかのぅ……で、いきなりで申し訳ないとは、思う。儂もこんなときに言い出すのはどうかと思ってはおるのだが…葵ちゃん、遠坂の倅が死に、独り身になったそうじゃないか。で、うちには、もうひとり息子がおるでな。まあ、もうそれにも嫁がおるには、おるが……あー、まあ、率直に言えば、そっちの息子の相手をしてくれんかのぅ……なんなら、儂でも構わんぞ……ふぇっへっへっへっへ……」

 絶望が身を裂き、葵の顔から血の気が失せた。

 孕ませるつもりだ……魔術師は常に、魔術の才能が優れた子を欲している。魔術の力は、魔術刻印によって代々受け継がれることにより、力を増す。魔術の才が豊かな子を持てば、その子孫もまた強い魔力を持てることになる。この人もまた、私を犯そうとしている、と、葵は感じた。自分たちの望む子を産ませるために。

「へっへ……どぉれ、まずはどうあれ、儂が、確かめて……」

 臓硯が寝台の縁に手を掛け、葵の目前に迫ってくる。

「あ……はあ……」

 葵の身体が緊張に強張り、子宮が疼く……

「ぐああああああああっ!」

 醜悪なる老怪の、枯れ木のように細い腕は葵には届かなかった。眩い閃光とともに臓硯の絶叫が耳をつんざく。

「下種な魍魎の類が、我が宝物庫の中に図々しくも入り込んでくるとはな」

 その傍若無人な声色は、紛れもなくこの部屋の主。

 おずおずと、葵が目を開ける。やはり、彼女の前に立ちはだかるのはギルガメッシュの背中であった。その向こうには、重傷を負った臓硯が見えるが、素人目に見ても明らかに致命傷としか思えない深手であった。それでも、臓硯は苦しむ様子もなく平然と立っている。

 はっとして左右を見ると、葵の周囲の壁には剣や槍がいくつも突き刺さっていた。無尽に蓄えているという武具で、ギルガメッシュが老魔術師を攻撃したであろうことは明白だった。

「……いきなり背後からとは、なかなか驚かせおる」

 ずたずたに切り裂かれていたはずの臓硯の身体が、何の前触れもなく完治した。そして、まるで「後ろから突然声を掛けられ、びっくりした」とでも言っているかのような調子でぼやく。

「抜かせ、痴れ者が! 今更容赦の余地などないが、一応訊いておいてやろう。俺の宝物に、蟲ケラ風情が何の用だ?」

 ギルガメッシュにも、それで怯んだ様子はない。

「聖杯戦争が終わらぬでのぅ。お主らがもたもた、ちんたらやっとるものじゃから雁夜の奴め、辛抱堪らずおっ死(ち)んでしまいおったわ。で、儂も暇になってのぉ、あちこち散策に出歩いておる次第、というわけよ」

「だからと言って、こんな所にまで入ってくるでない」

 ギルガメッシュの身体のまわりに10を超える光点が出現する。その1つ1つからそれぞれ異なる武器が顔を出すと、すさまじい勢いで小柄な老体めがけて射出された。様々な形状の切先が、微塵の慈悲もなく標的を突き刺し、斬り裂いてゆく。

「ぐおおあああああっ! おのれ、口惜しやあああああああっ!」

 断末魔をあげ、再び全身を貫かれた臓硯は影となって霧散した。

 しかし、ギルガメッシュは舌打ちする。

「ち、妖怪1匹、討ち損ねたか」

 と言ったわりに無念そうな素振りもなく、英雄王はスーパーのビニール袋を抱え、壺と台座のほうへ持っていった。

 たった今まで戦っていたことなど、一瞬で失念してしまったのだろうか。臓硯の気配が消え失せた途端、ギルガメッシュが漲らせていた殺意もすっかり鎮まってしまっている。また、あれだけ壁や床に刺さっていたはずの武具も姿を消し、その形跡すらも、文字通り跡形もなく修復された。

 黄金の部屋は、争いが起きる以前の状態を完全に取り戻していた。

 ギルガメッシュが台座の前に立つ。はたして、ビニール袋から出てきたのは安物のワインであった。同じ赤ワインを3本、壺の横に並べてゆく。

 その瓶に貼られたラベルに、葵は、はっとなった。

「898円……」

 彼女が調理用の名目で購入し、よく台所にて呑んでいたのと同じ銘柄だったのだ。味は推して知るべしだが、値段のわりにそこそこ旨い。ただし、時臣の前にはとても出せなかった代物である。

 その粗酒の封を3本とも外すと、ギルガメッシュは金色の壺の口へと中身をすべて注ぎ込んでいった。

「ンーーーーッフッフッフ!」

 そして、上機嫌で虚空から小さな袋を出現させると、その中から金色の粉をひと摘み壺内の酒へと加えた。

「んーーーー……」

 壺を2,3度振り、今度は金の杯を出現させ、それにワインを注ぐと旨そうに呑む。呑み乾すとさらに注ぎ、今度は葵にその杯を手渡す。自信に満ち溢れた笑みとともに。

 葵は逆らうことなく、金杯を受け取ると照り輝く縁に唇をつけた。

「あら、美味しい」

 よく知る味のはずだった。しかし、葵は感嘆の声をあげる。かつて口にしていたものとはまったく異なる、深みある味わい、芳香。信じられないほどの上質な酔いが葵の胸に沁み込んでくる。

 静かに、小さく、打楽器のような音色が、空気を震わせはじめた。遠くから聞こえる冬木港のさざ波のように、耳に心地良く聞こえてくる。

 それは、ギルガメッシュの噛み殺した哄笑。

「ククク……どうだ、葵よ。ワインであれば、如何に不出来なものでも、この壺に入れ、秘蔵の粉を混ぜれば最高の味になる。この味に勝る酒は、この世のどこにも無い! 我が至宝・ゲートオブバビロンの中には、珠玉の逸品しか存在せぬのだ!」

 彼によるとこの部屋は、そのゲートオブバビロンという宝物庫の中の1つらしい。異空間に繋がっており、このような部屋が無限にある。

 そこで、この空間の支配者は遠い目になった。

「だが、時には他の粗悪品が無性に呑みたくなる時もある、そんなワイン……」

「…………」

 前触れもなく訪れた、気まずい沈黙。それを致し方なく破る形で、葵は遠慮気味に口を開いた。

「あ、あの……私を、どうして閉じ込めているのですか?」

「ふっ、お前は我が宝だ。ここから出すわけがあるまい」

 ギルガメッシュは即答した。そして葵が手にする杯を取り上げ、彼女に酌をするよう身振りで促す。葵は仕方なく金の壺に手を掛けた。それは意外に軽く、苦もなく持ち上がった。

「お前は自分の価値というものをよく分かっておらぬようだな。先ほどの妖怪めも、狙っていたではないのか? お前の――ここを」

 自分の杯に酒を注がせつつ、ギルガメッシュの手が葵の下腹部に触れる。

「お願いです……もう、私を出してください…ここから、外へ」

 その手を振り払うことも、取り乱すこともなく酒を注ぎ終わると、葵は上擦った声で懇願した。

「ここから出たとて、あの爺や、有象無象の雑種でしかない魔術師に狙われるだけだぞ――――ふう……あやつらにとって、母体としてのお前は値の付け難い価値を有する。時臣が死んだ今、お前には自分の身を守る手段がない」

「でも……」

 再び差し出された杯に、葵はまた酒を注ぐ。

「それに、だ。お前の下腹にはもう、俺の子が宿っている」

「…………え?」

「当然であろう。お前は俺の宝物なのだからなあ。まあ、今のところは安心しておけ。まだ、お前に産ませる気はない」

「う、産ませる気……それは、どういう――!」

「俺の意思は、絶対。ここは、そういう空間だ」

 説明は、簡潔だった。つまりは、ギルガメッシュはこの空間で起きる事象を、意のままに制御することができるということのようだ。

「我が宝具であるこの部屋の中に囚われている以上、お前は俺の許可なく勝手に死ぬことも、歳を取ることも、赤子を産み落とすことも叶わんのだ。もし、この先、俺がお前に産ませたくなったとき、改めて命じよう。その時は、俺が決める、俺がな」

 王を名乗る若者は、あくまで傲然たる態度であった。

「夢もですか?」

 意を決し、葵は訊いた。

「……夢、とは」

 ギルガメッシュは口許の笑みを引っ込め、真顔となった。

「夫の夢ばかり見たり、自分の舌を噛み切りそうになったりするのも、貴方の魔術によるものではないのですか?」

 葵の告白した事実を耳にすると、今度は満面の邪悪な笑顔を浮かべる。

「そんな夢を見ているのか。ククク、時臣め。葵よ、お前はよほど、あの男に信用されてなかったようだな」

 心底愉しげに笑う王の横で、葵は蒼白になった。

 そこで初めて、その可能性に気づいたのだ。

 なぜ、分からなかったのだろう。最初に疑って然るべきではないか。

 夢の中で時臣以外の男が現れないのも、他の男のせいで気持ちが揺らぐと時臣の顔が強く心に思い浮かぶのも、時臣以外の男との性行為後に自分自身の舌を噛み千切りそうになるのも、すべては夫・遠坂時臣の魔術あるいは、呪いの効力ではないか、ということに。

 迂闊だった。失念していた。自分の脳天気ぶりに呆れた。葵はただぽかんとギルガメッシュの顔を見つめる。

「…………う」

 その顔に吸い寄せられるように、そう錯覚するほど自然に、葵は抱き寄せられ、唇を奪われた。

 すると、やはり――

「ん……んん……う、あ、かはっ……あ……」

 葵の口が一旦大きく開き、舌が、ぴんと歯と唇の外へと伸びる。そして、彼女の下顎が、そのまま素早く閉じられる寸前、黄金の轡が現れ、その口に装着される。

 一歩間違えれば、絶命していたに違いない瞬間であった。

「う……ふぅ……うう……」

 葵は横たえられていた。そして唇だけでなく、首筋、鎖骨、乳房と、様々な身体の部位を凌辱者の舌によって奪われてゆく。両肩を抑えつけられ、起き上がることもできない葵は、ただ涙を流し、身悶えながら轡を噛み締め続けた。

 

 

 葵の生家である禅城家は、かつては代々魔術を扱う家柄だったが、今はその魔力も失われ、魔術の世界からは遠ざかっている。しかし、その血筋には、いまだ優れた魔術の素質が眠っていた。

 葵の存在は、その禅城の「血筋の優秀さ」の証明といえた。彼女の両親は娘本人に知らせていないことがあった。彼女の母体としての性能――彼女が産む子供は間違いなく天性の素質を備えた魔術師となり得る。

 葵の評判はまだ幼いうちから、周辺の魔術師たちの間に広く知れ渡った。だが彼女の親たちは娘に1度もその事実を語ることはなかった。おそらくは彼女自身の幸福を願ってのことだったのだろうが……禅城家を知る魔術師たちは葵を欲し、特に冬木の遠坂家と間桐家は執拗に縁を結びたがった。

 結果として、禅城は遠坂を選んだ。そして葵は成人すると、すぐに遠坂家へと嫁ぐこととなったのである。

 禅城葵から遠坂葵へと姓を変えた彼女は、その際に魔術師特有の婚礼儀式として、羊皮紙の契約書に、何が書いてあるのかさえも分からず署名したのだが、それがセルフギアススクロールという、取り決められた誓約を破棄することのできない呪いを帯びた代物であったのだ。

 セルフギアススクロールの内容は絶対的・永久的な効力を持つ。ただし、その書面に署名する当事者すべてに魔術刻印が必要という条件があった。禅城家に伝わっていた魔術知識は、すでにそのほとんどが失われていたが、魔術刻印だけは何代前のかも知れないものが厳重に保存されていた。そして、その極一部が秘密裡に、葵の身体に移植されていたのである。

 それは婚儀が決まって間もない頃、葵が寝ているうちに遠坂家によって行なわれた。

 言峰綺礼が預かった、時臣の遺言状にはそう記されていたらしい。

 そして、その呪いの内容とは勿論、互いの不義密通の禁止である。葵の心が時臣から別の男へと移りかけたとき、それは発動する。時臣の顔がくっきりと脳裡に浮かび上がり、その浮気心を抑圧するのだ。しかし、それでも夫を裏切り、時臣以外の男に身体を許した場合、合意であろうと無かろうと舌を噛み切り死ぬことになる。

 その遺言状はギルガメッシュも読んだらしい。葵は彼により、犯されながらそれを聞いた。語られながらの凌辱、語り終わった後も変わらず続く。

 そして葵は胎盤を穢された直後、気を失ったようであった。

 ギルガメッシュは彼女が眠っているのを確認するとその口から轡を外した。どうやら、1度気を失えば、呪いの効力が解除されるようである。

 ……尤も、それはこの部屋が英霊ギルガメッシュの宝具である故のことだろう。セルフギアススクロールによる強制力が気を失った程度で失効するのは不自然だ。もし葵が轡もなく通常の世界へ戻ることがあれば、その瞬間、舌を噛み切り自害することとなるであろう。

 暇を持て余したのか、ギルガメッシュは部屋から消えた。そして彼の気配が完全に消えた後、間桐臓硯は再びその黄金の部屋の中で実体化した。あとには、黄金の寝床にその美しい肢体を無防備に曝す、遠坂葵が残されている。もちろん、臓硯の狙いはそれである。

「思ったより、早く出て行きおったな」

 独りごちり、臓硯は葵の許へと歩いていった。初めて顔を合わせたときは単なる幼女であった彼女も、今や2児の母。と言っても、その身体はまだまだ熟すには至らぬ瑞々しさに溢れていた。しかも、先ほどまで酔わされた上で性虐を加えられていたばかりであり、ほんのりと赤く火照りが残ったままだ。

「さ、葵ちゃん。今度は儂が愉しませてやろう……あの金ピカの子種など気にするでない。儂の可愛い蟲どもが、そんなものはすべて喰らい尽くしてやるでのぅ……」

 そこで臓硯は独白を止めた。自分の背後に立つ人影に気づいたのだ。振り向くと、やはり思った通りの人物であった。燦然と輝く甲冑を身につけた金髪の男が仁王立ちしていた。そして、光点とともに現れる無数の武具。

「歳のせいか、物忘れが酷くてのぉ……忘れ物じゃ――ぎゃごわあああああああああああああああああっ!」

 再び、臓硯の絶叫が響き渡った。

 

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