そのほうが、好みなのだろうか。多少の興味を感じた。ツーサイドアップにしていた髪留めのリボンを、背後の男の手が解く。
右側を、そして左側も。2本の帯が、はらりと絨毯に落ちた。
シャワーを浴びたかった。いや、一刻も早く、浴びなければならなかった。膣内に注がれたのだ、父の仇――言峰綺礼の精液を。それを早く体外へ掻き出し、洗い流す必要がある。
しかし、凛は立ち尽くしていた。自分の洋服しか入っていない箪笥の前で、背中から綺礼に抱き締められ。
「く……ぅ」
綺礼は、ただ後ろから抱きつき身体を密着させているだけではない。その片手は、凛の黒いミニスカートをたくし上げていた。さらに、深紅のショーツに2本の指先が、臍の下あたりから挿し込まれ、柔らかい毛質の茂みを掻き分けて淫核を探り当てていた。乳房も、服の上から揉まれている。
弱く、優しい力の、ゆったりとした刺激だった。凛をイかそうとしているわけではなく、気持ち良くなりたいという淫らな欲求を途切れさせないためのように思えた。陰唇は開いたままで、いつでも男を迎え入れられる状態だ。それを綺礼に知られていることが辛すぎた。
「はう……あ……ん……」
凌辱の舞台は1階の大広間から、すでに2階にある凛の自室へと移っている。彼女は紅潮した額を箪笥に押しつけ、擦りつけた。呼吸を整え、心を落ち着かせ、せめてあの組み敷かれた屈辱を思い出すまいと苦心していた。
散々に犯された挙句のことであった。あの大広間で、凛は淫欲によって我を失った。凌辱者に夢中で抱きつき、硬く尖った乳首をその胸板に擦りつけ、その唇を求めてしまったのである。そして、あろうことか、綺礼に激しく肩を揺さぶられるまで、正気を取り戻すことができなかった。はっと、自分のしていることに気づいた時にはもう遅かった。
綺礼は何食わぬ顔で服を着直しはじめ、凛も言い知れぬ恥辱の中で脱がされた下着を拾い上げた。さらに綺礼は、着衣の乱れを正したばかりの彼女に、ある「品」を一時的に返却するよう要求してきたのだった。
しかし、なんて、恥知らずな……凛は歯噛みした。彼女の処女を無理矢理奪った綺礼の思惑にまんまと乗せられ、淫楽の虜となって激しく、あの男を求めてしまった自分自身が許せなかった。あの時の気持ちは、まるで――
「嘘……」
思わず、凛は心の裡を声に出した。そうだ、有り得ない。こんな男を、自分が――
「どうした?」
「あっ……!」
不意に耳許で問いかけられ、凛は短く声をあげた。
いやらしい……こういった男特有の渋みが利いた、本当に、いやらし過ぎる声。言峰綺礼の声は、幼い頃に出会ってから日常的に聞いてきたが、これほどまで淫猥な声色であると認識したことはなかった。だが、今は鼓膜を振るわされただけで脳が蕩けそうになる。
「ん……う……」
零れ落ちた涙を指で掬い取られた。その頬も、耳朶も、真っ赤に火照っているのが実感できる。嗚咽というには、あまりに甘やかな声が洩れそうになるのを堪え、凛はようやく決意を固めた。綺礼が求めている「品」を隠しているのは、真ん中より少し上の段にある抽斗だ。彼女はそこに手を掛け、ゆっくりと引き出した。
「ほお……」
中にある物を目にして、綺礼が抱き締める力を少し強めてきた。それが、凛の不安をまた煽る。その抽斗には、彼女のショーツが揃えられていた。1つ1つ小さく折りたたまれ、綺麗に並べてぎっしりと仕舞われてある。
赤、水色、白、茶――様々な彩り、色合いの薄布の花畑。
「右のほうが新品で、左に行くほど使い古しなわけか。やはり、赤系統が多いようだな。しかし、随分と沢山あるな」
「う…………」
余計な感想を口にする綺礼に何も答えず、凛は開けた抽斗の奥のほうへ手を突っ込んだ。
「黒が無いな……お前のお母上は、そういった扇情的な色とデザインのものを穿いていたぞ?」
挑発的な笑いを含んだ綺礼の問いかけが続く。母・葵の下着に、黒や紫といった色調の物が多いことは知っている。以前に、興味本位で母親の洋服箪笥を開けてみると、ブラジャーやショーツはそんな大胆な色の物ばかりだった。
構わず、凛は探し続けた。手前側は仕切りを入れて上下2段に分けてあるが、奥は適当に放り込んである状態だ。使用したり、見て眺めるのは前に仕舞ってある物だけで、奥のほうは何となく捨てられなかった昔の物や、穿きたくなくなった物が詰め込んである。
綺礼に出せと言われている「品」は手の届きにくい、最奥に入れてある。薄い布地の山を掻き分け、手探りでそれに触れようとする。が、焦っているせいか、なかなか見つからなかった。
焦っているのは、反撃の機会が思い掛けず回ってきたからである。
アレを必要とする理由は分からない。それを推測している暇もない。意図はまるで読めないものの、当然、綺礼としても少なからず不意討ちを警戒はしているはずだ。チャンスは1度きり。失敗は許されない。怪しまれる前に早くしなければ、という焦燥ばかりが募る。性器や乳房への愛撫も、だんだんと辛くなってきていた。
「ん……ふ、う……」
徐々に責めが、きつくなっているのだ。乳首の位置を探り当てられ、集中的にそこを弄られていた。淫核への爪の当たり具合が絶妙で、連続した刹那の快感が途切れることなく股間を痺れさせ続ける。凛が独りで慰めるより、よほど良かった。性癖のすべてを見抜かれてしまっている気がした。
いつまでも、こうされていたい……
「何をしている?」
「あうんっ!」
凛は悲鳴をあげた。いつの間にか、気を抜いてしまっていた。今度は真後ろから、いきなり囁かれる。首筋に綺礼の息が当たって、耳許とはまた異なる嬉しさを感じた。
「手が止まっているぞ」
などと指摘されるまでもなく、凛はしばらく自分がぼんやりとしていたことに気づいていた。だがそれは、綺礼が性感を責めて欲情させようとするからで、だいいち、こうも強く抱き締められているのでは動きにくくて敵わない。苛立ち、凛は背後の男に振り向いた。
「お願い、この手だけはどけて。探しにくいから……ね?」
目が合った瞬間、無意識に笑みを浮かべていた。綺礼の頬から顎にかけて手を這わせながら、もう片手で胸元の手を掴む。乳房を弄っていた男のその手が腰のあたりまで下がった。
それだけでも、多少は動きやすくなった。綺礼の項あたりを擽るように撫でると、凛は下着に埋もれた宝の探索を再開した。緊張と、昂ぶりを感じた。所有する全てのショーツを見られていることにも大いに抵抗があったが、その「品」を手にすることをまだ躊躇していた。
とても大切な物だ……何のつもりかは知らないが、たとえ一時であっても、綺礼などに返すわけにはいかない。凛は、それをあの悪魔のような男に渡すと見せかけ、自分が用いるつもりであった。
しかし、果たして、そんな大それた事が自分にできるかどうか……また首尾よく終えられたとして、その後始末をどうするべきかも分からない。
「……!? は……あ……」
そこで、また愕然となった。信じられなかった。だが、思い当たり、我に返ることができただけ、まだ正気を保てているのかもしれない。
凛には、自覚がなかった。今の今まで、気づけなかったのだ。自分が先ほど、言峰綺礼に媚びてしまったことに。自然な気持ちのまま、何も考えずに、笑いかけ、甘え声で。見つめ合った時、安心感すら抱いていた。
ぞくり、と悪寒が走った。
やはり、まずい。認識しているよりも、もっと深刻な度合いで自分が変りはじめている。もしかして、自分はすでに望んでいるのだろうか、言峰綺礼との情交を。それで、無意識のうちに誘っているのだろうか、父を殺した凌辱者を自分の肉体の、奥へと。
このままでは、間違いなく変えられてしまう。今夜にでも、身も心も……さらに強固な決意が必要であった。
綺礼の手が凛の上着の内側に入り込み、臍まわりや脇腹の素肌の感触をじかに愉しみだした。
お父様――と、凛は心の中で祈った。
抵抗は無意味だ。今の凛では、魔術でも、拳技でも綺礼には到底及ばない。だが、身体を欲望のまま弄び続けるこの男が要求する「品」を用いれば、あるいは、いや、きっと。
探しているその「品」とは、小振りの剣。装飾品のような造詣だが、その斬れ味はなかなかのもので、そこらの包丁などよりはよほど鋭い。アゾット剣と呼ばれる、魔術儀礼用の剣の形をした杖であった。父・時臣から綺礼に授けられ、それから凛の手に戻ってきた、今や大事な形見。それで、彼女は父の仇を取るつもりであった。
渡しはしない。素振りを見せるだけだ。素直に応じたように見せかけ油断させ、綺礼を殺す――絶対に。この機会を逸すれば、自分はおそらく、綺礼に身も心も堕とされ、隷従してしまうだろう。だが、追い詰められてなどいない。むしろ、自分が今、綺礼を追い詰めているのだ。
「いやんっ!」
あられもない、声が出た。綺礼が、スカートの後ろ側も捲り、ショーツを剥いたのだ。性器とともに、柔らかな太腿ばかりか尻肉にも指先が這い回り、凛を被虐的な嬉しさで苦しめる。さらに――
「はうううんっ!」
思わず、肛門に全力で力を籠める。悔しさで気が狂いそうになった。肛門を触られたからではない。触られなかったからである。尻の割れ目を強く擦られたが、綺礼のその指は凛の肛門を掠めるようにして、ぎりぎりのところを避けて通った。そして、小さな菊門の、すぐ脇を指圧し、軽く引っ掻きはじめた。
「うう……ううん……っ」
大広間で尻穴に加えられた指技が、わずかにずらされた位置で行なわれていた。凛の肉体は覚えている。教え刻まれてしまった、その悦楽を。彼女の肛門が、激しく求めだす。その指先を、綺礼を。尻を振り、愉しげに笑いながら、おねだりをしろと催促する。
「凛、早くしないか」
「はあ……はあ……ん……はあ……」
興奮に息を荒くしながら、凛は唇から滴り落ちた涎を手で拭った。急がなければならない、と思った。早く、殺さなければ。財産や両親だけでなく、すべて、心まで奪われる。この10年、あのアゾット剣には、たっぷりと魔力を籠めてきたのだ。あれなら、綺礼が如何に気功の達人であっても、その胸に突き刺すことができるだろう。そこで魔力を解放すれば、さすがに一溜まりもないはず……父・時臣の仇が討てる。
「はあ……はあ……はあ……」
剣は、なかなか見つからなかった。仕舞ったのは、もう1つ上のブラの段だっただろうか、などという気もしはじめてきた。だが、それは違った。その時、凛の手がついに、求めていた硬い手触りに辿り着いたのである。紛れもなく、アゾット剣の柄に。
よかった、これで仇が討てる――凛はそう確信した。その、瞬間であった。
「あ……かはぁああああああああああああああっ!」
胸に抱いた刹那の希望は、呼吸に、汗に、あるいは弄られている性器の手触りに、気配として顕れてしまったのかもしれない。凛が唯一の勝機を手にした直後、はじめから狙いすましていたかのような発勁が、綺礼によって撃ち込まれた。微弱ながらも、極めて入念に練り込まれた、激しくも心地良い一撃が指先により、少女の淫核に。
これ以上にないタイミングだった。絶望に彩られた、倒錯的な喜悦。全身が痺れる。下着の山の中に、綺礼の手も潜り込む。かろうじて、剣を離さずにいる凛の手を追ってきていた。そして、どうすることも出来ず、力が入らない手からアゾット剣がもぎ取られたとき、凛の胸がさらに奮えた――感じてはならないと思えば思うほど燃え上がる嬉しさ、期待。
「あ……あ……」
奪われた剣が、裾を潜って服の内側へ忍び込む。布がきつく巻かれた刃のほうを持ち、綺礼は剣の柄を凛の乳房の谷間に挿し込み辱めてゆく。淫核も、強く擦られ続けている。腰から下が熱さで感覚が無くなった。だが、その場にへたりこむことは出来なかった。背後から抱き締める綺礼に支えられているからである。
気持ちいい……もっと、欲しい……という肉体的な気持ちが、心をも侵食していった。性的な蹂躙を受けたいという欲求以外のことが、考えられなくなってゆく。
「く…………」
口に手を当て、声が洩れるのを堪えようとすると、綺礼は彼女の両腕も巻き込むようにして抱き締め、それを妨げる。彼女の口から、女の声をあげさせよとしている意図が見え透いていた。
凛は両目を強く閉じ、唇も堅く噤んだ。肉体の奥から噴き上げてくる歓喜に、せめてもの抵抗を試みたのだ。性器への責めが、さらに苛烈さを増していった。いやらし過ぎる、赤面を禁じえない激しい責め苦であった。乳房に剣の柄頭が押し当てられた。
見なくても分かった。背後の男が微笑んでいることを。愉悦を感じているのだ。これから、何もかも失った凛の、羞恥を忘れて乱れ狂った痴態を存分に堪能できることに。
「……っ……!……」
自身の昂ぶりに堪えきれず、凛の背が弓のように反り返っていった。顔の筋肉が小刻みに痙攣し、全身がぶるぶると奮えた。凄まじい恍惚感に圧倒され、緊張を保つことは、もはや不可能だった。涙を流しながら目が開き、涎を垂らしながら口が開く。
首筋に、綺礼の唇が押し付けられた。堪らず、凛は剥き出しにされた尻を蠢かせ、背後の男の股間で熱く硬くなっているモノを探り当てると、ズボン越しにそれへ、柔らかな尻肉を強く擦りつけた。
凛には分からなかった。
なぜ、綺礼が今さらアゾット剣の返却を求めたのか釈然としなかった。彼女を殺す為というのであれば、わざわざ武器を用意する必要性はない。もし、その気であるのならば、彼女など素手で充分絶息できるはず。
だが、もう考えても仕方がない。判明したところで、どうにもならない。凛にとって、唯一残された勝利への可能性は永遠に失われてしまったのだから。
「き……綺礼……はあ、はあ……いい……もっと、奥で感じさせて……お父様を、奥で……」
黒ニーハイだけを身に纏い、応接間の絨毯の上で、凛はのた打ち回っている。
自室にて、舌と指先で何度も絶頂を迎えさせられた後、凛はこの応接間に連れて行かれ、アゾット剣によって服を切り裂かれ裸にされた。そして剣の柄を股間に挿し込まれてしまったのである。
「いい……気持ち……あん……お父様が……すごい……そこ……そこを、強くぅ……うう……」
股を大きく開き、甘い声で凌辱を懇願する。恥とかプライドとか、最早どうでも良かった。性的な快楽、ただ気持ち良くなりたいという衝動だけが、彼女の心を支配していた。
汗と熱さ、汚辱に塗れる悦びに酔い痴れる。父親を殺し、母親を犯し、財産を奪い去った男によって、その仇を討つために用いるはずだった剣の柄で膣内を乱暴に掻き回される苦痛。それがこれ以上にない快楽としか感じられない、そんな女に変えられてしまったことに興奮している。
より感じられるように、感じさせてくれる綺礼の手を邪魔しないように股を大きく開き、腰を捻り、仰向けの姿勢を調整する。そして、ねだる。喘ぎ混じりの声で、さらに嬉しくなれる擦り具合になるように。
硬く尖った10代の乳首を吸っていた綺礼の口が、離れた。
「お父様というのは、このアゾット剣のことかね、凛?」
「はうううううううううううぅんっ!」
綺礼の口が、凛の耳朶に触れ、小さく声を発した。その美声に、彼女の脳髄が蕩けてゆく。
「うん……?」
「もっと……はあ…ん……もっと、何か喋って。何でもいいから……もっと、んはあああっ!?」
凛の耳孔に、綺礼の吐息が長く、静かに吹きつけられた。侮蔑と諦めが籠もった息だ。
「……あん……もっ……あ……ふ……ほす……は……はあ、は……ん……んん!」
息も絶え絶えに、それでも凛は男を昂ぶらせるための甘え声をだし続けている。その唇が奪われた。悪意ある舌が小さな舌を絡め取り、口腔を責め尽くし、少女の頭の中をさらに淫火で煙らせ、痺れさせる。
「んはっ……ふ……ふ……ふ……きれ……い……もっと……」
唇と唇はすぐに引き剥がされ、凛はさらに男の唾液を欲した。
「まったく、つくづく幻滅させられる」
「はぁんっ! あ……ん……」
また耳許に毒のような言葉を吹き込まれ、凛の肉体が大きく跳ねた。
「仮にも遠坂家の当主たる者が、そんなことで務まるのか?」
「や…ん……んふう……ぁ」
「どうだ、何か言いたいことがあるのではないか?」
「……もっと、喋ってぇ……お願い、続けて……」
「…………」
綺礼は何も答えなかった。代わりに、柄頭の抽送速度を上げてゆく。
「あ……あ、あ、あ……あ! あ! あ! あ! あ! あ!」
たちまち、凛は喜びの喘ぎを甲高くあげはじめた。
「凛……愉悦を感じているか?」
「すごい……お父様を、奥……で、身体の……ああんっ!」
愉悦……そうだ、これ以上にない悦び。10年間、ずっと父・時臣の面影を重ねてきた形見の剣が今、淫穴の裡側を激しく擦り、愛液を分泌させてくれている。父の教え通りに魔力を籠め、時には頬ずりし、口づけをしたり……その剣と、凛はかつてない一体感を感じていた。1つになろうとしている、父親と。
「お父様……もっと、強く……ああん……もう少し……あ……あ! あ! あ! あ! あ! あ……ああっ!」
「そうそう、お前にまだ1つ、教えるべきことがあったな」
そこで、綺礼は静かに語り出した。凛にとっての、極めつけの事実を。
「お前の実父、時臣を私が殺害した現場だが……それが、この応接間なのだ」
「ああ……ん……」
「より詳しく言い表わすなら、お前が寝そべっている、まさにここ。この場所に倒れ、息絶えた」
「…………」
凛の喘ぎが消えた。だが、最後に語られた無慚なる真実は、それだけではなかった。
「そして、このアゾット剣が、その時に用いた凶器というわけだ」
「……止めて」
先ほどまでとは打って変わった虚ろな声が、凛の口から漏れ出でた。
「何だと?」
「止めて、ねえ……止めて、嫌……そん、な……止めて……止めて、止めて止めてぇ!」
なぜ、気づかなかったのだろう。凌辱中の女を、わざわざその自室から応接間へ移動させる理由、アゾット剣を進呈してきた理由、また返却させた理由……少し考えれば分かったはずのことなのに。
淫欲で頭を鈍らされていたのだ。それとも心のどこかで、綺礼にも幾ばくかは善意があることを信じたかったのだろうか。
慙愧に駆られる凛の裡側で、アゾット剣はさらに速度を上げた。逃げ出そうにも、大きく股を広げた姿勢で身体はきつく固められてしまっている。彼女が身動きできないようにというより、暴れ藻掻いて抜き身の刃で怪我をさせないためらしい。
「止め、て……やああ…ん……あはぁ……あ! あ! あ! あ! あ! あ! あ!」
一瞬、心は正気に戻ったと思った。だが、戻ったところで何もできないと確信したとき、凛の、牝の身体は再び急速に火照り、激しく興奮をはじめた。
「あ……ん……止め……止まら、ない……駄目ぇ……お願い、そんな……あ! あ!……んん……と、止まらないよぉ!」
黒ニーソも脱げかけた脚の片方が綺礼の肩に掛かっていた。もう片脚もしっかりと手で抱え込まれている。乳房も、尻も、口も放置されたまま、ただ性器への剣柄による責めだけで、凛は絶頂へ達しようとしていた。
「あ、あは……あ! あ!……すご……ああん! ああん! ああっ! あ! あっ! あぁん! ああーん!」
凛の膣内を、卑劣な剣戟が巧妙に、執拗に、また苛烈になってゆく。彼女の心を削り、砕いてゆく。濡れそぼる肉壺への、陰茎そのもののような激しくも無情な突き込み。
「ああ! きれ、イイ! イイ! もっと、ほしい! ああっ! ああっ!」
「…………フッ」
「もっと! おくにぃ……はあん! ああっ! あぁ!」
女の脳神経を灼き切らんとするばかりに容赦なく、強烈に淫猥な刺激が叩き込まれる。
「あはぁん……あぁ……あん……うはあああああぁああああああああああああーーーーーーーーーんっ!」
程無くして、凛はイった。父親を殺した剣の柄が、気持ち良過ぎて。
「あぁーーー……はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
眉間に皺を作り、顔をきつく顰めている。締まりのない笑顔にならないように。
ああ、プライドを捨てきることはできない。だが、凄まじい快感――こんなものを覚えさせられてしまった以上、もう抵抗することはできない。言峰綺礼……この男に、それを望まれているのであれば、牝犬になりさがるしかなかった。性の奴隷として、ただ快楽を得るための道具として生きる他はない。
愉悦に満ちた生活がはじまる予感に胸が高鳴るのを、凛は止めることができなかった。
何かが床を転がり、窓辺に置かれた椅子かテーブルに当たる音がした。たぶん、アゾット剣だ。窓の外は闇を塗り込んだかのように真っ黒だった。先ほどまでは、月や星々が見えていたというのに。急に天候が変わり、曇ってしまったのだろうか。
その時、凛の胸元に翳された綺礼の掌に、青白い光が宿った。治癒の魔術である。
「おっと、今治すと処女に戻ってしまうか……」
呟き、綺礼はすぐにその光を消した。2人の姿は、また完全なる闇の中に溶け込む。
「今度は、お前が上になってみるか?」
訊かれ、凛は綺礼の手を自分の頬に手繰り寄せ、頷いた。身体を起こし、優しく、ゆっくりと男を押し倒し、跨った。暗闇の中、手探りで神父服を脱がしていった。
綺礼は、自室での行為の間もずっと服を着ていた。自分を憎悪する娘にこれだけの羞恥を与え、狂わせたのだ。さぞ、たっぷり溜め込んだに違いない。そう思い、躊躇いながらも凛は背後に手を回し、男の股間に触れてみた。予想通り、そこは熱く硬く、ズボンの中で隆起していた。
窓の外に星はない。屋敷全体が、いや、世界そのものが、聖杯から溢れ出す夜よりも濃い闇に覆われつつあった。