遠坂時臣のことを思い出していた。
他の様々な記憶とともに、同時に、彼のものを口で咥えたことを回想する。
あなた、お願い。もう1人欲しいわ。
駄目だ。
いえ……作らなくてもいい。でも、たまにはいいでしょう? 避妊することだってできるし。
万が一ということがある。少しでも、子を孕む可能性がある限り、それは避けるべきだ。魔術師には敵も多い。良くないことは極力、やらないでおくことだ。何かが起きてからでは、遅すぎる。
でも――
私の後継として、凛の素養は充分すぎるほどだ。桜の行く末のことを考えるだけでも頭が痛いというのに……もう子供は不要だ。それが解らない君ではあるまい。
それで、夢中でしゃぶりついた。奉仕などではなく、自分の為に。淫欲を満たさせようとして、ある日、必死で口でしごいたのだ。
時臣は口腔にすら出さなかった。妻の唇から、己の男根を抜き出すと、その顔と胸元に放出した。臭い、女の本性を刺激する匂いが鼻にも掛かり、彼女の中の牝をますます飢えさせていった。
時臣さん……
夫・時臣は死んでしまった。背後から心臓を刃物で刺され、殺されたのだ。恐らくは、間桐雁夜の手によって。そして遠坂葵自身も、逆上した彼の手によって首を絞められ、殺害された……はずだった。
だが、彼女の意識はそのとき、まどろみの中にあった。生きていた。そして、心地良さの中にあった。
「ん…………」
眠い、眠っていたい。しかし身体がやけに熱い。炎天下の中、長時間テニスでもしているかのようだ。それに先ほどから、いやらしいことばかり思い出す。
「……あ」
だんだんと熱さに堪えられなくなり、葵の意識は完全に覚醒した。
「…………!?」
そして、自分が置かれている状況に、思わず絶句した。
明かりひとつ点いていない礼拝堂の中であることは、気を失う前と変わっていない。開け放たれた外への扉から、射し込む月光だけが床を照らしている。
まず目に留まったのは、やはり床に倒れた夫の遺体だった。椅子から転げ落ちた体勢も変わらず、しかしその赤いスーツの上に女物の洋服――萌葱色のワンピースが掛かっている。そして、その気品ある相貌にも、黒いショーツとブラジャーが投げつけられていた。それらの衣類は、葵がこの教会へ出掛けるため着用していたものであった。
そう、彼女は目醒めたとき、自分が全裸であることに気づいたのだった。ただ、一糸纏わぬ姿であっただけではない。前後から、男2人に挟まれていた。
強姦を受けている最中であった。
男たちも裸で、葵の身体を用いて獣欲を満たしている。4本の逞しい腕が未亡人になったばかりの女の自由を奪い、柔肌を這い回る。勿論、夫にしか許したことのなかった乳房もしっかりと捏ね回され、唇の感触までもすでに愉しまれた後であった。
それだけではない。男たちは葵の股も大きく開け、膣口と肛門、2つの穴を2本の男性器で深々と挿し貫いていたのだった。
「あ……ああ……」
知らぬ間に失ったものの大きさに、呆然とするしかない彼女の耳許に囁きがあった。
「お目覚めですかな、奥様」
その、背後の男の声には、聞き覚えがある。神父という職業に相応しい、耳を心地良くくすぐる声。言峰綺礼であった。
「……こ、言峰さん……あなたって人は――あん! い……痛……」
葵が起きたことを確認するや否や、綺礼はひときわ激しく彼女の肛門を突いた。太く硬い肉棒が濡れそぼる腸内を擦り、品のない音を立てた。
「覚えておいでですか? 奥様は、殺されかけたのです、間桐雁夜によって。ですが、もう大丈夫です。私が魔術によって、貴女を治癒してさしあげました」
葵の肛門を責め立てながら、その耳腔にも綺礼が息を吹きかける。
「っ……い、痛いいっ!……やめて……んんん!」
そして、激痛に涙を流すその首筋に、綺礼の口づけが襲う。熱く傷められた尻穴の疼きに、その湿った唇の感触は、あまりに甘美であった。
「…申し訳ありません。奥様の子宮を穢すのは、本来ならば貴女の夫を殺めた私の役目であるはずなのですが、前の男がどうしてもと聞かぬもので」
「何を言うか。孕んだ赤子の悉くが魔術師として天性の素質を持つという至高の一品だぞ。貴様のような雑種より、俺が後という話があるか」
面前の男は、端正な顔立ちと金色の髪を持った異国の若者だ。どこか人間離れした目をしており、それが蛇を連想させる。
「あ、あなたたち……は……ああぁっ!」
2つの右手が、異なる強さ、やり方で、同時に両方の乳首を抓りあげた。そして股間では、2本の肉棒がそれぞれのリズムで蠢いている。
時臣を殺したのは雁夜ではなく、この下劣な男たちであった。この2人が夫を謀殺し、彼女を脱がせ、その服を夫に被せて亡骸すら辱め、そして、そして――
「はあぁぁ……んん……あ!……ん……い、嫌…………」
この淫猥な現状を把握してしまったせいで、一気に昂奮が押し寄せてきた。首を絞められ殺されかけた恐怖の体験も手伝ってか、生理的嫌悪感は乏しく、快感だけが強く全身を苛んでゆく。
「嫌? ふん、それはあるまい。清楚な身なり、貞淑そうな振る舞いをしていながら、あのような淫猥な下着を身に着けていたクセに。本当はこうされたくて仕方がなかったのではないのか? どうだ、葵とやら」
「ふふふ……なかなかのものでしたよ、奥様の下着姿」
左右から嘲弄の声が、葵の耳を嬲る。
「くっ…………」
凌辱者たちの巧みな愛撫によって、葵の性欲が高められる。彼女の、柳のようにしなやかな肢体から滲み出す汗で、あたりには女の薫りが立ち籠めていった。男たちは容赦なく、乳肉を、脇腹を、内腿を指圧し、長く真っ直ぐな黒髪を指先で梳り、手入れの行き届いた肌を舐めて汚し続ける。
「はあ……はあ……はあ…………ん、んっ」
歯を喰いしばり、邪な刺激に堪える。夫の仇どもの手や、性器で、気持ち良くなるわけにはいかなかった。
「ん……んんう……あ、ふ……は、はあ……」
だが、牝の肉体が悦びを感じている。彼らを欲していた。少し気が緩んだだけで、夢中にさせられ、この肉悦を愉しんでしまいそうになる。絶望的な抵抗だった。男たちは女の身体の仕組みを知り尽くしていた。ただ貪るだけでなく、女の心をも淫欲で狂わせる術を会得しているのだ。
葵が本気で、彼らを迎え入れるのは時間の問題であった。
「ん…………ううん!」
男たちの膝の上で、葵は無理のある体勢を取らされていた。彼女が楽な姿勢を求めて身体をくねらせると、それに応じ、いやらしい2人はさらに苦しい体位に誘い込む。彼女が堪らず、膣と肛門で力み、男根を締めつけるように仕向けてくる。必死に悶え、抵抗するのを逆用し、自分の肉体の使い方を覚え込ませてしまおうとする。
「ん、ん……ん、ん、ん……!」
そうこうするうちに、葵は早くも、腰の使い方を身につけつつあった。
「どうにも淫蕩な女だな。本当に、あの時臣の連添いなのか。こうも享楽されては、犯し甲斐がないというものだ」
「ふ、無理もあるまい。聖杯戦争がはじまった直後から、実家に避難して夫とは別居。娘や親の目があって他の男とどうこうできる状況ですらない。ま、実際はどうあれだ。それに魔術師の妻というのは、慢性的にストレスを抱えやすい日常を強いられる」
「クク……言い訳には事欠かぬというわけだ」
金髪と綺礼との理不尽な決めつけに、葵は怒りを覚えた。しかし、それすら2人の計算の裡だ。怒りは興奮を生み、興奮は官能を呼ぶ。
「ん……んん……や、やめて…やめ……んっ! 嫌ぁっ!」
身体が、心が、嬉しさで痺れてゆく。理性が圧迫され、押し止めるのがやっとだ。まずい状態だ。しかも、夫のすぐ傍で……
腰が、勝手に動き出した。
「……はあ、はあ……だ、誰か……助けて……あなた……あなたぁっ!」
物言わぬ夫に助けを請いながら、なぜ、快感を堪えなければならないかが、分からなくなってきた。この気持ち良さを手放したくない。拒むなんて、有り得ない。
男たちのいやらしさが、女の肉体を支配する。
「ああ……嫌ぁ……止まらないの……お願い……うう……」
膣と、肛門から、力が抜けなくなった。締めつけてしまう。全力で、男たちを。腰も振りたくる。自分自身が悦楽を得るため、そして挑発するため。
彼らも悦び、さらに葵の裡側を擦りあげ、高みへと追い詰めてゆく。
「あ……ん……あん! あ! あ! あ! あ! あ!」
葵の腰の動きを阻害することなく、息を合わせて突き込み、快感を何倍にも増幅させる。
堪らなかった。しかも、すぐ横には時臣の遺体が、夫の目が恨めしげに見上げてくるのだ。女にとって、これ以上の愉悦はない。気持ちが入ってしまう。だから、葵は泣き叫んだ。男たちに聞かせるために。
「あなたぁ…ごめんなさい。ゆ、許して……ごめんなさい、ごめんなさい……」
男たちは、ただ笑っている。
「ごめんな……は、は……はう…………」
葵が、自ら股をさらに広げ、背筋をぴんと伸ばした。凌辱者たちは、それを「とどめを刺して欲しい」との意思表示と判断した。
「やぁっ……あ……ん……」
前後から力強く抱き締められ、下半身を強烈な摩擦で溶かされる。頭の中も痛みを伴う痺れで、せっかく取り戻した意識が今にも吹き飛びそうだ。
「は……は……んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」
法悦の悲鳴をあげたのは、そう思った直後だった。全身を仰け反らせ、葵が絶頂に達したとき、胸元に、背筋に、金髪と綺礼は自分たちの唇を強く押しつけていた。
各々の思う頃合いで、射精がはじまった。たっぷりと、膣と腸内に熱い牡汁が注ぎ込まれる感触が、屈辱の記憶として葵の心に刻まれてゆく。
「う……んぐ……」
だが、肉体は悦びに打ち震えていた。嬉しい……久しぶりの、快感。若い、あるいは若いつもりでいる女の肉に、至高の褒美であった。
「見ろ、綺礼。この女の、この顔を。気持ち良くて仕方がないという様にしか見えぬ。ククク、これから、何が起こるかも知らぬらしいな」
「喜んでいただき、何よりですよ、奥様」
男たちが嘲る。
「あなたぁ……うう……ひどい……こんな……」
自分の見える部分と、見えない部分との乖離に苦しむ葵に、その時、異変が起きた。
「は……が……!?」
大きく、口を開けた。開けずにはいられなかった。そして、舌を突き出す。可能な限り、全力で。
衝動が襲ってきたのだ。舌を噛み切りたいという、拒絶しがたい強烈な欲求が、心の奥から湧きあがって来た。
「おお、はじまったか」
「師の遺言通りだ」
金髪と綺礼が歓声のようなものをあげた。
しかし、葵にはそんな余裕はない。このままでは、本当に死ぬ。自殺してしまう。必死で舌を引っ込めようとしても、どうしても戻ろうとはしないのだ。狂おしい気持ちの中、自分の手を口の中に入れようとすると、その手首を金髪が掴む。
「よせ、指まで噛み切ってしまうぞ」
再び、半笑いの男たちによって身動きを封じられる葵。舌を出したまま、自分の口が閉じていくのを、ただ見ていることしか出来ない状況だった。今までとは違う種類の汗が、全身から滲み出す。
「ほら、いいのか? 気を抜いて」
「死んでしまいますよ、奥様」
「ううう……」
もう、駄目。気力が尽き、わなないていた顎の震えが止まり、閉じようとする力が増した。もはや躊躇いなく、一気に舌を噛み切る――瞬間、何か硬いものが口に挟まった。
金色の棒状の拘束具だった。馬に咥えさせる轡のような、口枷である。それが突然出現し、葵の舌を、彼女自身の上下の歯から守ったのだ。
「ち! もう終わりか。せっかくの愉悦だというのに。おい、もっと堪えなければ、つまらんではないか!」
不満げな金髪の声を聞きながら、葵は意識が遠くなるのを感じた。極度の緊張が一気に緩んだせいだ。どうやら、装着された口枷はこの男が魔術で出したものらいい。では、この、舌を噛み切ろうとする衝動の原因は一体……魔術的な力が働いたのは間違いない。と、すると彼女に術を掛けたのは誰なのか。
葵には、心当たりが1人しかいなかった。
遠坂時臣。彼女の夫。
そこで、意識が再び飛んだ。
夢の中で、今度は3人の男を、葵は相手していた。
ひとりは口で、ひとりは性器で、ひとりは肛門で、3本の肉棒を同時に慰める。舌を絡めてしゃぶり、股間では双方を強く締めつけて腰を振る。
慣れた手つきで、乳房や尻肉が蹂躙された。背筋や脇腹に舌を這わせられる。
男たちは3人とも時臣であった。
逃がしはせぬ。
他の男を、お前は愛せない。
不逞を働く妻に呪いあれ。
時臣たちは口々に侮蔑の言葉を葵に投げつけ、ゆったりとした所作で葵を犯し続けるのだった。