「ふぁ~あ……ねむ……」
大きなあくびをして窓の外を眺める。
天気は快晴、今日も夏の太陽がギラギラと余計なおせっかいを利かせている。
俺はエアコンの電源を入れながら、昨日の出来事を思い返す。
日本に着いたら優音に蹴り回され、学校では佐井本達に本格的に絡まれるわ、帰りには中央議会の者にも襲われるし……濃い一日だった。
それでもカヌの圧倒的な力で、中央議会の者は難なく退けたけど。
俺は……いや俺達はありふれた日常に戻ってきた。
学園の旅行で、急に地図上に現れたという御六島へ行き、それが戦争で残ったムーの大陸だったことが分かった。
現代人はマヤ文明という名を変えた、上層部の生き残りたちが幅を利かせ操ってることが判明した。しかも俺がマヤに対抗するムーの王だって言うんだぜ。それにマヤへの宣戦布告。
俺の日常は御六島へ行ったあの時、非日常へと姿を変え、完全崩壊した。
ムーの王ラムゥの記憶がない俺は一般人、市之倉隆としてどっちつかずの板挟みの状態だ。
それでも幼き時に誓った、心臓と手のひらの契約は続いている。
幼馴染の月村絵夢を、いつ襲ってくるかもしれない中央議会の手から巻き添えにならないように守りつつ、この日々を過ごす。それは、いつ壊れるかも分からないガラス玉のように脆い平穏だ。
それでも絵夢には、出来る限り、いつも通りの日常を過ごさせてやりたいんだ。
もし、襲われたとしても戦いに出るのはカヌとイザナヒメで、俺は守られるだけの傍観者。
だから、結局は俺のワガママでしかない。
それでもついてきてくれた、カヌとイザナヒメには感謝してもしきれない。
それが王宮奴隷戦士の努めだとしてもだ。
俺が起きたのとほぼ同時に、カヌが天井裏のフタを開け顔を出す。
「おはようございますリュウ様」
ハツラツとした明るい声。
民啓学園のアイドルでクールで、無口なクラスメイトの栗栖花濡。
圧倒的に強く気高く美しく、健診的な態度の王宮奴隷戦士クリス・カヌ。
どれも俺の知るカヌだ。
少し気まずい、何故なら神速の槍のことを昨夜聞いたら泣かせちゃったからなぁ。
謝ったら謝ったで、「「「奴隷の分際で、リュウ様に気を遣わせて大変に申し訳ございません!」」」
と――この場で、土下座でもする絵が容易に思い浮かぶからな。
昨日のことには触れないでおこう、いつも通りのカヌだし気を使わせたくない。
「おはようカヌ」
「はい! おはようございますリュウ様!」
「昨日は寝れた?」
「3時間ほどですが睡眠をとっておりました。ですが寝ている間も、家の周囲への警戒は怠っておりません。玄関、窓の進入口や屋根にでも近づこう者がいるなら、すぐにでも撃退できる準備は出来ております。蚊1匹も近づけさせません」
「さすがに、蚊は虫はどうにもならないだろ」
「警戒しておりましたから、蚊1匹たりとも近づけさせませんでした。ご心配でしたら、リュウ様の血を吸おうとする不届きな輩は、この世界から絶滅させましょう」
へっ?
とんでもないことを言いだすカヌ。
カヌが一流の戦士なのは、目の当たりにして知ってるけど、蚊の気配も分かるものなのか。
そもそも、警戒してれば近づかないものなのか?
そう言えば、絵夢が慌てふためいていたゴキ氏の気配もない。
「ですから命じていただければ、蚊の存在をこの世界からすぐにでも抹消致しますが、如何致しましょうか?」
「いや……いいよ別に、あまり目立ったことは控えてくれ」
目の前の少女カヌは至って普通に喋っている。
どういう風にやるのか少し興味が沸くけど、ついでとばかりに街や公園とかも破壊しかねない。
俺は中止を命じる。
「では、朝食はどうなされますか?」
「そうだな。昨日のカレーでいいよ」
鍋に入ったカレーを温め、手際良く皿によそおい持ってくるカヌ。
動きに無駄がなく流暢で、なんというか一挙一動に目をもっていかれる。ただ単にカヌが美しいというだけじゃなしに、一流のレストランとかの店員は、こういう動きなんだろうなと感心してしまう。
「美味いぞカヌ」
「はい! 光栄でございますリュウ様!」
太陽のように明るい笑顔を向けるカヌ。
それだけで、今日一日いいことがありそう。なんてご利益を感じてしまう。
材料は普通のスーパーで売ってるのを使っただけなんだが、本当に美味いんだこれが。カレー専門店のメニューで出しても、普通に売れるぐらい美味い。
そういえばイザナヒメはどうしてるんだろうか。
絵夢の家の近くで待機しているとかカヌは言ってたけど、やっぱり屋根とかで寝てたのかな。
「じゃあ学校に行くか」
「お供致しますリュウ様」
俺の横で、ピッタリと寄り添うように歩くカヌ。
道行くサラリーマンや学生の目線が痛々しい。
中にはすれ違ったのに、振り返ってまで恨めしい視線を投げかけてくる人までいる。
反応は千差万別、その興味が向けられている対象は、やはり隣にいるクリスカヌだ。
「……ちっ」
「何でアイツが」
露骨な舌打ちまで聞こえてくる。
そりゃあ俺みたいな人間が、カヌの横に並んで歩いてるのは不自然だろうけどさ、こっちにも事情っていうものがあるんだよ。
「なんと無礼な……リュウ様に舌打ちをするなでもっての他、ここはマヤの者達にリュウ様の偉大さを知らしめてやる必要がありますね、見せしめに腕の一、二本はとるべきかと」
眉間にシワを寄せながら、とんでもないことを言ってのけるカヌ。
「いいよ別に。被害はないし」
もし俺が首を縦に振ろうものなら全員土下座させ、腕の一、二本を軽々ととってしまうだろう。
そうなると警察が来て、警察じゃ無理だから自衛隊が来ても……歯が立たないだろうな。やっぱり中央議会の奴らが来るんだろうか。それでもカヌを止めることは無理だろう。
「では舌を引っこ抜いて来ましょう。そうすればリュウ様への舌打ちなど二度とできないことでしょう」
「……やめてくれ」
と道の真ん中で大きな声で言ってのけるカヌ。
俺とすれ違った人達が、怪訝な顔をして小首を傾げてから去っていった。
朝っぱらから、通り魔的惨劇で新聞の一面やニュースにはに載りたくもない。
はあ……ただ学校へ行くだけなのに前途多難だ。
学校の入り口の辺につくと、どうも生徒達の俺を見る奇怪な視線に気づく。
カヌと一緒に登校してるのが理由ではない。
それならカヌの方に視線が向くはずだから。
羨望、疑念、敵意。
昨日のように向けられる、無遠慮な好機の眼差しとは違う。
どうも、よそよそしいというか俺を避けてる感じ。
校門のところからクラスの違う女子や男子が、俺を走って追い越して行く。最初から走ってくるのなら分かるんだけど遅刻するような時間じゃないし、俺の後ろ辺りからいきなりダッシュして横を行くからすごく不自然だ。
俺、なんかしたっけか?
「リュウ様」
「ん、どうしたカヌ?」
「生徒たちからリュウ様へ、恐怖や危惧などの感情が多く向けられています」
「身に覚えが……あっ」
昨日の佐井本達の件か。
俺に絡むだけならまだしも、嫌がってるカヌや絵夢にまでちょっかい出すのがエスカレートしてるし、何かドス黒い感情が沸いてきて、文字通り佐井本を倒しちゃったんだよな。
まあ、非力な俺じゃケンカで佐井本には勝てないし指輪の力だ。
ズボンのポケットに忍ばせてる、指輪の感触を確かめてみる。
一体、どういう力が働いてるんだろうか。
俺から指輪を奪った、ドデモイにも力の向上が見られたし。
ムーの王ラムゥからカヌに託され、俺が今所持する指輪。
これを無くしたら完全にただの一般人だしな、中央議会の襲来もいつ来るか知れないし、無くさないように気をつけないと。
ポケットから手を離す。
しかし、あいつらのことだ。
まさか俺に返り打ちに合うとは思ってもみなかっただろけど、報復とかに来る可能性もある。
はぁ……朝から面倒くさぇなあ。
「そうだカヌ。昨日みたいに学校の中から、特に強い殺気とかは感じるか?」
「いえ。昨日のようなおぞましく禍々しい殺意は感じられません、微々たる気配なら、あちらこちらから感じられますが」
やはり、自分から正体を明かすつもりはないらしい。
自分の心すら一般人だと思い込み偽るセルケト。
カヌやイザナヒメでもその正体は今だ看破できない。
絵夢はまだ登校していないようだ。
イザナヒメが、ついていてくれるから大丈夫だろう。
F22の戦闘機を軽々と破壊するイザナヒメやカヌでも、警戒するほどの相手なんだ。さて気を引き締めて行くか。
爪白ニワトリ氏の、EDEN最終戦争少女伝説体験版ver4.3の続きの話です。
1人でシナリオ、原画、スクリプト、音楽まで作っていた伝説の作品。
一ファンとして、非常に続きが気になるので書いてみました。
文章力やシナリオの構成力は遠く及びませんが、気軽に見ていただけたらと思います。