※この作品はR-18です。

紅と黄金 Y.version   作:斬刄

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アルゼナル炎上と暗躍する義兄

マナのいる世界でノーマと断定された子供達は粗大ゴミとなり、アルゼナルへと収容される。小さな赤ん坊だったらその場所に飼育され、父母が誰なのかが不明となり、かわりにアルゼナル側で優しく育たれる。

成長期あるいは幼少期、言語を話せたり身体を動かせたり手間切る年頃になった少女達だとこれまでの人権を失い、嫌だと反抗されたら裸にされて身体検査が行われる。

 

命をかけて介入してくるドラゴンを殺すメイルライダー或いは別枠(医療や料理、保育者等)で懸命に働き、アルゼナルの秩序と法(ルール)を守っている。

その報酬を得て自分の好きなものを買う。フェスタというイベントを楽しみにする子達もいて、水着に着替える人たちもいる。

そうやって彼女らは、生きる為に生活していった。どうしてドラゴンが襲ってくるのか、ドラゴンとは何者なのか…そういった深い思考を空っぽにして真実を知らないまま、彼女らは与えられた物に満足している。

 

ーーーしかし、もうそんな彼女らに平和な時間(優しい世界)の終焉が刻々と迫っていた。

 

*****

 

これは、アルゼナルの襲撃前のこと。

 

レイゼルはレヴェンを使った技術を用い、マナの力のように似せた通信は、既に実証済みである。彼は姿も名前も偽装させ、ある人物に連絡をする。

 

『ジュリオ陛下』

「‼︎何者だ、貴様っ…⁉︎」

 

ジュリオからしたら誰なのかも分からない紅色のフードに仮面をつけた男が、突然連絡してきたことに驚く。

彼の側にリィザはおらず、ジュリオはそのまま警戒している。

レイゼルは、このまま話を続けた。

 

『私は…貴方の熱狂的なファンみたいなものです。或いはまぁ、狂信者とでも思ってください』

「ファン…だと?」

『マナの傲慢さを利用して、影では策謀を企む者達がいます。彼らの存在が危険だと判断した私は、今こうして貴方様に警告を伝えにきました』

「何を言っているのかがさっぱりわからんな…お前のような素性も知らない話をこの私が簡単に信じると思うか?」

 

ファン、狂信者であると自らのことをそう言っているが、ジュリオ本人からしたら信用性が全くもって皆無だった。信用しているのならば、姿を隠すような無粋な真似はしないと疑っている。

 

『遠い未来…貴方は間違いなく殺される。ドラゴン、ノーマ…彼らの様々な陰謀、それが明るみになった時…その真相を貴方が知るか否か…どちらにせよこんなはずじゃなかったと絶望して死ぬでしょう。

 

私は、崇高である貴方を救いたいのです。

忌まわしきノーマの輩が、本性を剥き出しにしてその脅威的な牙を研いでいたことが明るみになることも知っています。

 

ヴィルキスという機体はご存知でしょうか?

その機体も、ノーマ達の希望の一つであることも…今でも彼らは隠し持っております。

隠蔽し、反逆の機会を伺っている。

 

そこで本題になるのですが…是非、援助をさせて頂きたくこうして連絡致しました』

 

ヴィルキスという言葉に、ジュリオは耳を疑う。

前回のリベルタスで、その機体は破壊されたはずだとは他の国のトップから話は聞いている。しかし、破壊されずにノーマの手に渡ったとなれば、彼らの存在を危険視せざる終えない。

 

 

「貴様、なぜそこまで知っている?

どうやってその情報を手に入れた!」

『それは秘密です…先程も言ったように彼らはルールに準じて止むなしに従っても裏では反逆の牙を磨きつつある。

 

【能ある鷹は爪を隠す】…という言葉をご存知でしょうか?彼らもまた、ただ虐げられる程の存在ではないのですよ。

 

私の目的はこうして手を取り合い、必ず貴方に生きてもらいかつ、早急にノーマを無力化してもらいたいのです…ですので、私の正体とこれまでの会話を他の誰かに喋らなければ貴方は生き、同時に策謀を考えた裏切り者供を一網打尽にして始末することができます。アンジュリーゼも行方不明となってますが…彼女はアルゼナルに身を潜めて生きています』

 

何も言わなければいい。そうすることで命を救われることも、策略を未然に防ぐこともできる。

(ほぅ?私も、ここまで優秀な人材に好かれているとはな。聞けば聞くほどノーマも、姑息な手段を考えてくれる…それにまだアンジュリーゼが生きていたとはな。

既にドラゴンに食われたかと思っていたが…)

 

その話を聞いて、ジュリオの反応は余りにも単純だった。ノーマや反乱分子のような、マナで伝えている技術は少なくとも、マナ使いでなければその力は使えないと嘲笑っている。

『もう一度言いますが、私の存在を決して誰かに話さないこと。もし貴方様が私の期待を裏切り、約束を守らなかった場合は、誠に残念ですが貴方様がアンジュリーゼをその手で下す機会は永遠に得られません。

 

奴らは慎重で、かつ隠蔽することに長けているからです。他に企む者共も実際にいる以上、迂闊に話せば、ノーマ達に知れ渡る可能性があります。

アンジュリーゼを隠しているのも、彼女はヴィルキスの適任者だからです。

その彼女を殺せず、貴方の手で断罪を下することもままならないのは私にとっても、貴方にとっても大変悔しいことになるでしょう』

 

ここまで尽くしてくれる存在に、ジュリオはクスクスと笑いが止まらなかった。

 

(ヴィルキスとアンジュリーゼのことを断定できる証拠はないが…少なくとも何者かが私の暗殺を企てているというのだな?ならば…ノーマを助けに行くと見せかけて、その兵器を何としても探し、そして破壊せねばなるまい。父を処刑から始め、化け物の妹を死に追いやり…今度はノーマの策略を私の手で叩き潰してくれる!

息を潜めているアンジュリーゼを見つけ次第抹殺し、奴らの陰謀も捻り潰すことで…本当の意味で新生ミスルギ皇国は、全人類は安泰となるのだ!

断じて連中を見過ごすわけにはいかん!)

見下し、傲慢しているところを狙われさせまいと助言し、こうして命を救おうとしている彼らに敬意を評すると勘違いをしている。

レイゼルも彼の反応を見て、理解した。

 

(…マヌケは、見つかったようだな)

 

所詮、ジュリオは傲慢で裸の王子様止まりでしかなかったと。この馬鹿は忠告されようがされまいが、利用されていることに気づいていないと偏見な目をしていた。

 

『では、大量のドラゴンが軍事基地アルゼナルに襲撃した時を見計らって…頼めますか?』

「分かったよ…約束は守ろう。誰にも言わなければ良いのだな?」

『皇子の寛大さに、感謝致します』

(まぁ、その場所がアンタの棺桶になるがな?)

 

レイゼルはジュリオとの連絡を切り、深くため息をついた。世界を壊すためとはいえ、あんな三流王子と下らない会話をするのも馬鹿馬鹿しくなると思っている。レイゼルはあんな得意げなバカ皇帝相手に会話をするよりも、もっと他のことをしていた方が有意義な気もしていた。

 

「兄貴、よくあんなクソ野郎とご丁寧に会話できたね」

「自分の家族を見せしめに殺すような畜生だが、それを利用しないわけにはいかないだろ。

 

使えるものをそのまま勿体無く捨てることは、宝の持ち腐れだ。それにしてもアンジュもそうだが、兄までチョロい奴だったとはな?」

 

誰かの策略で動かされたような陰謀まみれの混戦が必ずやってくる。最早これまでのドラゴン狩りでは済まない、ジュリオ率いる艦隊をも巻き込んだ戦争になるだろう。

「でも、あいつ言うこと聞くの?そいつの裏の存在もいるのはまず間違いないし、動く可能性だって」

マナ達は約束事を押し付け、すぐに唐突な裏切りをするのは分かっている。ノーマと対峙した時、彼らは保身の為に言葉巧みに僅かな良心を突き、あらゆる手段で化け物を陥れようとする。

 

そんな姑息なことしか頭にない彼らを相手に信用することなどできなかった。

 

「まずジュリオが間抜けで助かったことだ。あの男が裏の存在に対する忠誠心もそうだが、そもそもこのことを誰かに話す必要がないんだ。

 

アンジュリーゼをアルゼナルに送り、ドラゴンで殺されることを望んでいたが…彼自身直接その手で倒し、首を持っていくことで罪人の一族という汚名を晴らし、民の名声と兵隊達の指揮が上がる。今頃あのバカ皇帝が国と民の為に、家族の皮を被った化け物をヒーローがやっつけるっていう能天気なことを考えているだろうな。

マナによる通信を似せたことで、こちらのことを少なくとも反乱分子の一味ではないと理解するだろう。奴が本当に軽口ならば、やむ負えないがドラゴンのみの襲撃を見計らって狙う。

 

だが、もし奴が約束を守り…妹をこの手で葬りたいという傲慢を抱いて黙っていたのならば。

 

喜べ、アンジュリーゼ。

君の望みがまず一つ、叶うこととなる」

 

そうレイゼルはアンジュリーゼに顔を向けて話した。地の底に落とされ、父母の仇である憎き兄を殺す事がどれだけ彼女にとって重要なことか。

 

「それにしても…あんな奴相手に会話を長々としたせいで、今でもストレスが溜まってるんだ…その後に何を言うか分かってるよな?

 

あと、この作戦は俺とアンジュリーゼだけだから帰るまで辛抱してくれ」

「あ、うんっ…」

ヒルダは顔を赤らめて察した。何をされるのかを、そのまま自室へ帰っていく。アンジュリーゼはレイゼルと兄であったジュリオの会話を聞こうとはしなかった。

「お前はまず、死んでいった父母の敵討ちだけを考えればいい」

「…わかりましたわ」

 

ノーマとはいえ愛されていた父母を殺したのは、ジュリオがアンジュを化け物として扱ったが故に死んでしまった。両親の死後も彼女は転落人生を辿り、堕ちるところまで堕ちた結果、彼女は報復として世界を壊すまで復讐者として生きる決心をした。

 

彼女の目に、輝きはない。

 

*****

 

アルゼナルの真上では突如シンギュラーが開かれ、ドラゴンの襲撃に備えていた。数えきれない大量のドラゴンが押し寄せてくると同時に、エレノア隊とベティ隊が大出力破壊兵器によって壊滅され、アルゼナルも大きな損害が出た。

 

(どういうことだっ…‼︎)

 

司令塔で指示をしているジルは舌打ちしつつそう思っていたのは、彼女自身アルゼナルの場所がドラゴン側に特定されるのはいつかやってくると覚悟はしていたが、予想以上に来るのが余りにも早すぎる。しかも、

 

「たった今、ノーマはこちらの救援を拒絶した。

これは我々、いや…全人類に対する明確な反逆である!断じて見過ごす訳にはいかん!全艦攻撃開始‼︎

ドラゴンもろとも、ノーマ達も根絶やしにするのだっ‼︎」

 

マナ達の哨戒艦艇までやってきてしまった。

アルゼナル側は何故人間達がこんなところにまではるばるやってきたのかといった意図は分からないままだが、どちらにせよ敵であることに変わりない。

 

エマ監察官はドラゴンの影響で気絶し、外部との連絡も絶たれており、詳しい事情は分からないまま。少なくとも彼らがドラゴンを襲われるノーマを助ける訳がなく、何かしらの目的がある上でアルゼナルまで向かっていたのだ。マナ側からドラゴンの討伐を手助けしようという提案だったが、司令官のジルがそんな戯言に耳を貸さない。

 

幸い、マナ使いの兵士達の殆どは上空にいる小型ドラゴンと交戦中なため、この機会を狙って急いでサリアに指示し、ヴィルキスの回収を急がせている。

 

 

それでも、三つ巴という最悪な状況になっていることには変わりない。

 

もしヴィルキスの事までマナの連中が知っているのならば、この基地の廃棄だけではなく最悪神と対抗できるヴィルキスの確保だけでも最低限必要だった。結局リベルタスの準備もままならなかったが、もうやむ終えない。

 

「これより、アルゼナル司令部は人間の管理下を離脱!反攻作戦を開始する‼︎作戦名はリベルタス…作戦に乗じる者はアルゼナル最下層に集結せよ‼︎」

とはいえ、人間と戦うことに覚悟がまだ持てないノーマもいる。

 

ヴィルキスはあっても、その適合者がいない以上反抗したところで勝算もない。とはいえ、アルゼナルにいるノーマ全員が人間の管理下にされるのも嫌になる。ドラゴンに振り回される艦艇の人間達はアルゼナルにまだ上陸しておらず、その間に地下に隠していたアウローラを起動させる。

 

ジルと共に、司令塔を任せられた彼女らが基地全体の状況を確認する。が、確認しようと端末に触れる前に停電も緊急電源も消され、真っ暗で何も見えなくなる。

 

「やはりというべきか…皇族の指輪はお前が持っていたな」

「き、さまっ…!その指輪を返せっ…‼︎」

「なら取り返してみたらどうだ?お前の力で」

 

既に侵入したレイゼルが先手を取っていた。

レヴェンのハッキングでアウローラに入り、ドラゴンを処理している間、今度はシステムに侵入して身を隠して操作していたからだ。

蹴倒されたジルは倒れ伏せ、レイゼルは落としてしまった指輪を手にとって持ち去る。

 

「何者かがこのアウローラに侵入した!

今はアルゼナル内に逃走している!

総員っ、見つけ出して…つっ⁉︎くそっ!」

 

この戦争は、他の誰かに仕組まれたものだとジルは分かっていたが、対抗できなかった。

彼らは事前に調べた上で行動し、ドラゴンとマナ使いの同時襲撃の時点で、ジルの持つ指輪とヴィルキスを狙っていた。

 

取り返そうとアウローラから指示しても、システム復旧に時間がかかっている。他のノーマ達に捕らえるよう指示できず、無闇に一人で追えば返り討ちにあうか、見失ってしまう。

 

(待て、なぜ指輪を狙っていた…⁉︎指輪やヴィルキスの真実のことは、サリアとメイ、マギー、ジャスミンのような信頼できる者にしか話していない。

何を企んでいる…‼︎)

 

ヴィルキス目的であれば、皇女でなければその機体は操縦できない、それは元ヴィルキスに乗っていた彼女が分かっている。アンジュリーゼも行方不明となり、他に知っている適任者はいない。

 

それ以外の目的なら、高価な物を奪い取って去ろうとする盗人という線もあったが、常識的に考えてこんな命がいくつあっても足りないような危険な場所に僅かな財宝目的でわざわざ向かうわけもなく、それなら貴族の家に侵入して財宝を掻っ攫えば良いだけの話。

 

(まさかっ…⁉︎)

 

ヴィルキスの適合者を、その彼が手にしているならば事態はより一層深刻なこととなる。

ヴィルキスも、指輪も奪われ、せっかく古の民が命をかけて手にしたヴィルキスを知らない何者かに利用されるのは避けなければならない。

 

(お勤め、ご苦労さま)

「な、なんだお前達は!」

 

だが、ノーマは命をかけてヴィルキスを最優先に運ぼうとしているのならば、アウローラへと送られている。既にメイルライダー全員がパラメイルに乗りながら外で戦っており、ヴィルキスを守っている彼女らは武装しているとはいえ、彼女らも無力化することは造作もない。

 

レイゼルとアンジュリーゼの二人でノーマを気絶させ、ヴィルキスを強奪する。

 

「これで全部か。アンジュリーゼ、これを渡す…あとは分かってるな?」

 

彼女は頷き、指輪を受け取って指にはめる。

ヴィルキスに乗ると突如光り出し、ボロボロになっていたパラメイルに輝きを取り戻した。

 

(さぁ、報復の始まりだ)

 

システムも正常に動き、そのまま外へ出ようとする。

 

*****

 

「黒いヴィルキスっ…⁉︎」

 

錆びれていたパラメイルが剥がれ、黒い光が輝いていた。不気味さを増し、ヴィルキスが悠々と空を駆け巡る。

 

「アンジュっ、無事だったんだ…!」

(でも、なんだろう。会った時よりも雰囲気が、それに…何なの、この嫌な感じは)

ミランダも死んだはずのアンジュの生還に喜びはしたが、第一中隊に全く見向きもしない。彼女は無視して、ジュリオの元へと向かっていく。

 

『本艦に急接近する物体あり!第一目標と、第二目標です!』

「アンジュリーゼっ…!」

 

艦艇の攻撃がドラゴンとパラメイルからアンジュリーゼに集中するが、攻撃は全て弾かれる。アンジュリーゼを守るかのように今度は別の機体がやってきた。

 

「なっ…⁉︎なんだあの機体は!」

『艦隊にある大量のピレスロイドも、十分空中にばら撒いてくれましたし。ドラゴン達の足止め程度にはしてくれるでしょう』

「その声…あの時のか⁉︎」

 

前にジュリオに情報を提供し、生きてもらいたいと約束をしたはずなのにアンジュリーゼを守って邪魔をした。

 

「は、話が違うぞ!なぜ私の邪魔をする‼︎」

『私の存在を誰かに話しても困りますし、貴方には十分役目を話してもらいました。

 

ですので、あの約束事はもう忘れて結構です』

「…は?」

 

狂信者は生きて欲しいとは言ったが、あくまでそれは計画潰しの間だけ。遂に、表向きの本性が明らかとなり今度はジュリオの命を奪おうとする。

 

愚かな皇子はこう思ってしまった。

ーーこんな、こんなはずじゃなかった。と

 

『確かに私は貴方に誰にも言わないでほしい、生きて欲しいと、そう言いましたね。

 

でも、その後は貴方を消しても問題は無いですよね?欲しいものは手に入れましたし、貴方に生きてもらいたいと言ったのは妹である彼女の仇討ちの為に死ねってことです。

 

約束を守ってくれて助かりましたよ。

お陰で手間が省けました。

父母を死に追いやり、妹を化け物扱いするような畜生を簡単に始末する事ができるのですから…情けなんて必要ないでしょう?』

「き、貴様らっ…⁉︎」

 

今のレイゼルの機体は、アルヴァアロンに乗ってアンジュリーゼの援護をしている。これでアンジュリーゼは目の前にいるジュリオを殺すことができた。

 

「ま、まて!待ってくれ!早まるなっ!

実の兄をその手で殺す気か⁉︎

要求は何でも聞く!そ、そうだ…実は、お前の皇室復帰を考えている‼︎

どうだ、悪くない話だろ!

だ…だから殺さないでく」

『だからさっきから言ってるじゃないですか。

 

皇室復帰とか、別に今のアンジュリーゼにはいらないんですよ。貴方の命以外欲しいものなんて無いって』

ジュリオが喋りきる前に、ヴィルキスに搭載されている銃器で滅多撃ちにした。艦艇には複数の弾丸の跡が残り、至る所から引火している。

 

「さようなら、お兄様」

「あ、ぁぁぁあ、うわぁぁぁぁっ‼︎」

 

兄の叫び声と共に艦艇は大爆発した。

アンジュリーゼは、兄殺しをやってのけた。

 

『よくやったな、アンジュリーゼ。まず復讐への第一歩ってところか』

「次は、シルヴィア…ですか」

 

これで艦艇側は壊滅状態に陥り、ドラゴン側は予想外の事態に一度引いた。ドラゴンをアルゼナルではなく、ヴィルキスと所属不明の機体に手を出すのは危険すぎると他のパラメイルやヴィルキスを襲わなかった。

 

(賢明な判断だな…)

 

もしヴィルキスがアルゼナルの方に肩入れしているなら、マナ使いの彼らよりも大出力破壊兵器を所持している危険性の高いドラゴン側を襲っている。

 

「アンジュちゃん…なの?」

「えっ、どうなってんの…だってこいつ」

 

行方不明扱いにされ、死んだはずの彼女がこうして生きている。ヴィルキスを扱えるようになり、ノーマ達を助けた。

 

「おかえりーっ!アンジュ‼︎」

「アンジュ…なの⁉︎」

 

アンジュリーゼはノーマ達を襲ってきたマナの兵士達を撃破し、ドラゴンを退けた以上敵でないことに他のメイルライダーの殆どが安心している。一部警戒しているが、それでもアンジュリーゼが生きていることに皆驚いていた。

 

だが、アンジュリーゼの異様に勘付いた隊長のゾーラはすぐに叫ぶ。ジルの連絡もなければ、仲間である保証もない。

 

彼女の瞳は、最初会った時のようなノーマに対する嫌悪であったが、もう彼女は第一中隊そのものを仲間として見ていない。

 

「助けてくれたんだ!アンジ「そいつから離れろっ‼︎」…え?」

 

彼女らがジル司令を陥れようとした時点で、既に答えは決まっている。

 

ジュリオの次は、狙いは近くにいたロザリーとサリアに銃口を向ける。ゾーラはアンジュに目を向けて攻撃する前に手を出そうと動くが、隊長とはいえ前方を守る突撃部隊の彼女と、後方部隊と中央の二人に追いつこうとしてもその距離が余りにも遠すぎるせいで、アンジュへの迎撃は不可能たった。

 

(クソッタレがぁぁぁぁっ‼︎)

 

それでも、彼女は部下を助ける為にやるしかないと出力を上げてアンジュリーゼを倒さんと撃つ前に仕留める。

多少大事な機体が破損しても、ひとまずメイに直して貰い、なぜアンジュリーゼがあぁなったのかも捕まえて根掘り葉掘り聞き出せばいい。

しかし、現実は非情だった。

 

「アンジュ…何でっ⁉︎」

「ゾーラ…ゾーラァァァァッ‼︎」

 

ゾーラを慕っていたクリスとロザリーは叫び、隊長機は崩れていく。レイゼルがGNフィールドでアンジュリーゼを守り、ビームライフルで打ち貫かれた。

ゾーラの叫びで我に返ったエルシャとヴィヴィアンの二人が咄嗟の判断でサリアとロザリーを助ける。結局ロザリーの機体そのものではなく、装備していた連装砲のみしか破壊しかできなかった。

「うそ、嫌だ!何で、そんなっ…‼︎」

 

ミランダは信じられない光景に開いた口が塞がらず、クリスも叫びは聞こえたが臆病な性格もあってか小声なまま、動けずじまいだった。

 

黄金の機体と、ヴィルキスへの警戒はロザリーに攻撃し、隊長を殺したことで完全な敵だと判断した。第一中隊はいつも隊長であるゾーラを中心にして動いている。レイゼルはゾーラ本人を狙っても決定打にならず、命中しても防御されてしまう。となれば、彼女の可愛い部下を身を呈して守ってくるところを狙えば確実に仕留める。

 

性欲で、とても荒々しい性格だが、その彼女にジル司令から隊長を任されている以上警戒を怠ることはない。だが、優秀であるが故に逆手に取られてしまった。

 

「てんめぇぇぇ!」

 

ロザリーはゾーラを撃墜されたことに感情的になっているが、レイゼルはロザリーの攻撃を避けるのは容易かった。こうしてゾーラが倒された今、現状は副隊長であるサリアがこの場の指揮を取るしかない。

しかし、

 

(どうしたら…どうしたらっ)

 

チームをなるべくバラバラにせず、サリアは陣形を整わせようとするが、まだ残っているピレスロイドのせいで前からも背後からも狙われている。

 

ロザリーは暴走し、クリスは色んなことが起こり過ぎるせいで頭が追いつかず、一人きりなまま右往左往している。更に

 

『エルシャ…だったか?こちらに構うよりも、子供達が危険だぞ?』

「⁉︎」

 

サリアが指示する前に、今度はレイゼルが嗾す。レイゼル達がやったのはあくまでジュリオと周囲の艦艇だけで、アルゼナルの潜入部隊の兵士達を仕留めただけ。予定よりも大幅に遅れ、レイゼル達がジュリオ皇子を殺したとはいえ、マナ使いの脅威が消えたわけではない。

 

音声を流すと、複数者の子供の泣き声が聞こえていた。

 

「エルシャっ!」

「…ごめん!すぐに戻る‼︎」

 

一人、また一人と離れていく。こんな混戦とした状況で、まともな指揮系統をとれる訳がなく、出来ることとすれば保身をするしかない。

(やるしか…ないの?)

ゾーラの事をいい隊長だと分かってきたのに突然の死を目の前で迎え、アンジュリーゼが裏切り、色々と複雑な気持ちではあったがそれでもミランダは構えるしかできなかった。

 

エルシャは子供達助けに向かい、クリスが動けず、ロザリーがゾーラを殺したレイゼルとアンジュリーゼを相手に血が上っている。サリアとヴィヴィアン、ミランダの3人が何としても今いる仲間をこれ以上死なせないように抗うしかなかった。

 

そんな時、調律者が出現した。

 

*****

この大混戦に乗じてヴィルキスと指輪の強奪に成功、更にはアンジュリーゼがその機体を操縦してジュリオを始末する事も出来た。

ジュリオについてはアンジュが指輪を装着してもヴィルキスに乗れないままだったら、機体を回収して別の機体を使って殺せばいいだけの話。

 

仮にドラゴン側も手を出すのならば、大出力破壊兵器よりも周囲のドラゴンを大量に殺せば危険だと判断して撤退せざる終えなくなる。どうであれ、正体不明の機体に手を出せるような無策は考えてない。

 

(ここまでは何も問題ないか、後は)

「…貴様達か?私の舞台に土足で入ろうとする無粋な輩は?」

 

ここまで暴れた以上、気づかれないわけがない。この計画の中で厄介な難敵の一人、エンブリヲという男の存在がいる。険しい顔で、レイゼルとアンジュリーゼの機体を凝視していた。

 

復讐者ーアンジュリーゼ

堕ちた紅ーヒルデガルド・シュリーフォークト

堕とされた黄金ーレイゼル・シュリーフォークト

アルゼナル司令官ージル

ドラゴンの姫ーサラマンディーネ

世界の調律者ーエンブリヲ

…物語の役者は全て揃った。

 

ーーどんな結果であれこの大混戦から、今後の展開は大きく刻まれることとなるだろう

 

複数もの入り混じった、抗えぬ抗争へと

誰にも止められない、暴走する時代に

 

【行き着く未来は世界の救済か、或いは破壊か】

 

 




*ジュリオってなぜ簡単に信じたの?
結局血筋もあってか、ジュリオもやっぱりアンジュリーゼと同じくチョロインとなりました。

アンジュリーゼのことになったら、ねぇ…

*リィザには秘密にしていたシンギュラーの位置情報を話しているのなら、レイゼルの密談も軽い気持ちで話すのでは?

スパイであるリィザが知りたい情報は反抗してくるアルゼナルの場所もそうですが、基本的にマナ側の対抗手段を潰し、アウラを見つけて、支配者であるエンブリヲも殺すこと。
仮にジュリオからリィザに話したとしても謎の狂信者が現れるという事だけでレイゼル側が手札を明かしていない以上、ドラゴン側は後からマナの艦隊達も来るってことを知った程度で、それ以上の対策を講じることはできません。

ドラゴン側がレイゼル達に手を出す事も可能でしたが、少なくとも散らばったピレスロイドもどうにかする必要もありましたし。只でさえ混戦としているのに今の状態でヴィルキスを相手にするのはリスクが高すぎるからです。


*ジュリオ爆散
まぁうん、アンジュが復讐ルートに向かったから仕方ないね。
原作だとエンブリヲが殺すことになるけど。

*ゾーラ死亡について
実は俺…ってな感じで死亡フラグが立ってました。前半嫌だった奴が、後半になっていい奴になるほど一気に死ぬ展開へと…

死亡者:ジュリオ・飛鳥・ミスルギ
死亡者:ゾーラ・アクスバリ
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