魔力供給、という言葉は果たして今となっては隠語として成立するのであろうか。
「くはっ、良い様よな?」
そんなことを茫洋と思いながら、目の前で笑う茨木童子を立香は見上げていた。何故か自身の部屋で自身の寝台に両腕を拘束され、床に座り込む形で。
魔力供給とは文字通り魔力を他者へと譲渡する行為のことを指すが、概ね効率が良い方法が体液の交換、つまりは性行にあることから、この界隈ではセックスそのものの隠語として知られている。
正直、魔力さえ譲渡できれば血を飲むのでもいいのだが、無理なく効率よくとなると性交が最も効率よく負荷も少ないため専ら魔力供給とは性交を意味するようになった。
つまり何が言いたいかと言えば、魔力が足りなくなった相手を助ける=アレとして知られている訳だ。
「うんうん、やはりヒトを玩弄するならば、攫ってからが一番」
そしてサーヴァントの動力は魔力であり、かねて行われた聖杯戦争においてはロマンスの一環で従者と主人がちゅっちゅらぶらぶとストロベリーな光景を展開する事案がままあった――青い王様調べ――とのことだが……ぶっちゃけ、このカルデアにおいてはあまり必要とされていない。
というのも、電力を魔力に変換するというカルデアの基幹システムが膨大なサーヴァントの維持魔力を肩代わりしているからであり、マスターそのものの魔力は基本的に現地で接続が切れるなどしないかぎり然程必要にならないからだ。
必然的にガス欠を起こすことが殆どなくなり、仲が悪かったり同性だったら気まずい所の話ではない行為をせずに済むのであるが……。
「さて、まずはどうしてくれようか」
娯楽として、そんな細かい全年齢向けにするための設定知った事かと言わんばかりに襲いかかってくるサーヴァントは珍しくない。このカルデアにおいてはとみに、ヒトを玩弄することに余念の無い鬼、茨木童子がその例に該当した。
ぶつり、と音を立てて特徴的なカルデア制服のベルトが切断された。刃の様に鋭い爪を持つ、かつて渡辺 綱に叩き落とされた化生の腕は、強化繊維で編まれた服であっても薄布と代わらぬ勢いで裂いてゆく。上衣、インナーと中身を傷つけぬよう繊細に爪が躍り、あっと言う間に肌が空気に晒される。
綺麗、とは言い難い肌であった。相応の鍛錬に引き締められた肉体に隙は無いが、その至る所に古傷が残されている。医官が随伴できぬ特異点修復の最中に負い、応急処置だけで済ませた傷の多くは古傷となって若い身体に刻まれてしまった。
かの小陸軍省が幕下に加わって以降は傷口の縫合も正しく行われているために新しい傷も減ったが、それ以前に受けた傷は如何ともし難かった。
その傷を喜悦の笑みに表情を歪めた鬼がなぞる。やはり獲物は喰らい甲斐のある方が良い。この傷は獲物の価値を示すトロフィーのようなものだ。名を馳せ、常に前衛に立ち続けた武者ほど玩弄し喰らうに満足する獲物など、大事に大事に育てられた姫を除いて他にないのだから。
この陵辱染みた状況は何の趣向かと問いたかったが、テンションが上がってロールプレイに入り始めた相手に聞くのも無粋かと思って立香は口を閉じた。そういえば、彼女は鬼にしても良識がある方ではあるが、交わりにおいては彼の如き強引なものを好んでいたような気もする。
要するに自分が昼下がりの食堂で幼児組――ジャック・ザ・リッパーをはじめとする精神年齢の幼い面々――とボードゲームで戯れているところを拉致したのは、きっとそういった趣向のプレイをしたかったが為であろう。
となると、合わせて自分も抵抗してやった方が良いか。立香は残った左目をきっと吊り上げ、精一杯の強がりをしているように見えるよう振る舞った。有無を言わせず拉致したということは、“こう振る舞うことを望まれている”に違いないのだし。
「くはは、何だその目は。吾に逆らう気か?」
触れれば斬れる鋭さの爪が、ついと顎を撫でる。痛みから逃れるよう自然にに持ち上げられた顎を弄び、矮躯の童女は自分よりも大分上背がある少年を弄ぶ愉しさに喜悦の笑みを零した。立香がノってくれたことに気をよくしたのだろう。彼女も本来持ち得る鬼としての性質を前面に押し出し始めた。
力強く顎を握られ、彼女の幼くも凄絶な美貌が肉薄してくる。あと少し動かせば唇同士が触れあう間合いで、瞳の奥を射貫く彼の如き視線が叩き付けられた。次いでにじみ出すのは、紛れもない殺気。腹や首、急所に嫌な感覚が去来してくる。
裂いて食ってやろう、本気でそう考えている殺気だ。
ヒトは脆いようで割と頑丈に出来ており、ショック死しなければ腸がこぼれ落ちても結構保つようにできている。臓器が破れておらず、その後の感染症にも耐えられるならば、元に戻せば何とかなるほど大雑把といってもいい構造だ。
つまり、加減さえ弁えれば、彼女が好む腸を引き摺り出して喰らいながらの性交も可能なのだ。人は命の危機を感じると本能的に種を残そうとして勃起するので、その必至な抵抗を組み伏せながら交わるのが楽しいのだろう。
「何を怯える? ん? 望むのであれば優しくしてやろうではないか」
プレイの一環にしても激しすぎるので引き摺りだされはしないだろうが、流石に鬼の殺気を浴びれば怯えもする。求められれば覚悟は決めるのだが、怖い怖くないは別問題なのである。さしもの立香とて痛いものは痛いし、怖いものは怖いのだから。
戦場であっても豪胆に笑う顔、先ほどまで強い表情で睨み返してきた目が恐怖に歪む様を見て、鬼は大層満足した笑みを作った。そして長い長い化生の舌がぞろりと溢れ、挑発するように顔を舐め上げる。顎から唇を通り、左目を擽るように異常な長さの舌が、てらりと光る軌跡を残して通り過ぎていった。
鬼の舌はヒトの舌よりもずっと熱かった。ヒトの体温よりも高い化生の血潮を感じさせる熱に思わず身体が跳ね、鬼は益々楽しそうに顔を舐め上げていく。顎、唇、鼻、額、目と望むが儘に舌先は整った顔を蹂躙していった。
そしてついに唇が奪われる。乱暴な、喰らい付くような接吻であった。唇を食み、扱き上げて軽く出血する程に噛む。鬼の乱杭歯は容易くヒトの肌を裂いて、人外にとっては甘露が如き魔力を含んだ甘やかな血をすすり上げた。
必要以上に音を立てて血や唾液を啜するのは、その音で威圧しようとでもしているのだろうか。歯列から口蓋までを丁寧に舐め上げられながら、怯えた表情のままに立香は下らない考察を巡らせる。下品な水音は興奮を煽ると聞くものの、確かに強引な性交という雰囲気は増すような気もした。
たっぷり十分ほども、酸欠になりそうなほど唇を蹂躙されたであろうか。苛烈な責めに粘膜は悲鳴を上げ、ともすれば喉奥まで長い舌が攻め込んできたこともあって、立香は喘ぐように呼吸をしつつ軽くえずいた。
対する鬼は未だ余裕たっぷりで、豪快に着崩した和装のインナーに手を掛ける。チューブトップにも似た独特のインナーを脱ぎ去ると、そこには長生きした鬼には不釣り合いな桜色の突起が息づいていた。彼女のそこは、激しい陵辱の興奮によって期待しきり完全に固まりつつある。
「どら、此方にも奉仕せい」
「んむっ!?」
咳き込む頭を強引に胸へと押しやり奉仕を強要する。普通であれば恐怖のあまり叫ぶか、苦悶の声が溢れる所であるが、流石に“慣れた”のか立香は文句も言わず口唇による奉仕を始めた。その奉仕も手慣れたもので、愚直に吸い付くのではなく何処を責めれば高まるのかがよく分かった動きだ。
それもそのはず、暇潰しがてら何度も蹂躙されていれば、相手の感じる所の一つ二つも覚えよう。
「くは、可愛いモノよな、気に入られようと、食われまいと必死に吾の良い所を覚えようとする……愛しくて哀れで情けなくて……」
舌は必死に肌の上を這い回る。乳房の付け根、脇にほど近いリンパの辺りを擽りながら各所を這って、思い出したように痛いほど張り詰めた乳頭に吸い付く。決して単調にならぬよう、飽きられぬようにと工夫した動きは回数をこなして身につけたもの。童女らしい見た目の割にはしっかりと起伏のある胸は、責めによって次第に赤らんでくる。
「喰らいたくなってしようがない」
「うあっ!?」
押さえつけていた頭を寝台へ叩き付ける勢いで押しやり、茨木童子は剣呑な笑みを作った。昂ぶり昂ぶらせ、辛抱たまらなくなってきたという所であろうか。
髪を掴んで引き剥がした頭。更に力強く動かして角度を変え、首を反らせる。がら空きになった肩口へ茨木は口を寄せ……大きく口を開けて噛み付いた。
「あああああああ!!!」
発達した牙が皮膚を容易く裂いて深々と肉に潜り込む。こじるように動かした牙が組織を傷つけ、魔力を含んだ血液を大量に溢れさせた。ぴったりと唇を押しつけ、その血液を一滴とて逃すまいとすすり上げてゆく。
激痛に目の前が明滅する。ともすれば意識が飛びそうな痛みを受け、立香は喘ぎながらも口の端を持ち上げた。分かるのだ、この容赦の無い痛みから、傷口を抉って血を出させようとする動きから、容赦なく飲まれる血液の流れから。茨木が心底満足していることが。
自分は今望まれて、望んだ相手を満たしているという実感。痛みはある、鬼に対する怯えが消えたとは言わない。だが、それら全てを飲み込むほどの喜悦があった。求められるのは愛されること、肯定されることだと考える立香の心が喜んでいた。右目を差し出した時のように。
適うことなら、その満足を与えてくれる愛しい鬼の頭をかき抱いていたことであろう。もっと飲んでも良い、もっと喰ろうてもいいのだと言うように。
痛みと失血で頭がふらりと来た頃、漸う鬼は傷口から牙を離した。吸血鬼が残す綺麗な噛み傷とは違い、乱杭歯が肉を削ぎながら開けた傷口は凄惨の一言に尽きた。血を吸われたことで出血は収まりつつあるが、不揃いな傷口の処理には難儀させられることであろう。
小さな肉片と血が滴る、鬼らしく発達した犬歯を舐め上げて茨木童子は笑った。汗を流し身体の芯から力が抜けた立香の姿は、征服欲と嗜虐心を大いに満たしてくれる姿であったから。浅く乱れた息を繰り返した彼の下半身は、命の危機を覚えてか哀れなほどに張り詰めていた。
「なんだなんだ、愛いやつめ。吾にここまでされて、尚いきり立つか」
刃の如き爪が翻り、ベルトとジッパーを引き裂く。引き剥がすように肌着ごとズボンが引き摺り下ろされると、出血しているのに下へ回す余裕があるのかと心配になるほどの怒張が露わになる。極東人らしく大きさは西洋人には至らぬも、平均より十分大きいと称せる逸物は恐ろしく硬く仕上がり、今にも張り裂けんばかりだ。
「くはは、吾を満足させようと必死か? よいよい、では存分に可愛がってやろうぞ」
見た目においては童女が年頃の男児に跪いているようであれど、実質的に捕食しているのは後者という倒錯的な有様。全く臆することも無く、その小柄な身体に全体が収まるかという怒張を握ると、茨木童子は端正な顔を寄せて小鼻をひくつかせた。
汗と潮のような匂いが混じった男児の香りがする。吐きかけられる熱い呼気に反応して跳ねる怒張を茨木は愉快そうに暫し弄んだ後、稚児でも可愛がるように唇を落とした。
ちゅっと音の出る可愛らしい口づけをくれてやってから、彼女は接吻と吸血で十分に潤んだ女陰を露わにする。下履きを鬱陶しそうに引きちぎり、正しく童女の持ち物といった風情のそれを迷い無く男根へと宛がった。
「さ、果てるなら好きに果てよ。出しただけ呑んで喰ろうてやる」
顎を掴み上げて項垂れていた顔を無理矢理向けさせる。残った左目は既に涙でにじんでおり、半開きになった口からは涎が一筋零れている。何とも嗜虐心を煽る表情に、鬼は背筋を得も言えぬ感覚が走るのを覚えた。ぞわぞわと全身がむず痒いような、それでいて満ち足りた感覚を覚える。
この陵辱に折れかかった表情が良い。正しく鬼の贄とでも言うべき表情。これこそが鬼の醍醐味なのだ。奪い、犯し、その全てを己がモノとする。これほど鬼らしく満たされることもあるまいて。
茨木童子はカルデア最後のマスター、この世最高の英傑になるべき男の最も恥ずべき姿を暫し堪能してから、涎の筋を舐め上げるように唇を奪った。
そして、唇を深く合わせたまま、ゆっくりと腰を落としてゆく。ぬれそぼった女陰は狭く、しかし心地よい締め付けで男根を責め上げた。若く締まった肉はひだが多く、正しく名器と呼ぶべき心地。腰が上下する度にぞろりと全体を撫で上げる感覚に立香の腰は震えた。失血と痛みで芯が抜けかけた身体が無意識に動き、腰の動きを同調させてゆく。
「んぅ……ん……はは、どうした、心地よいか?」
おなごが如き甲高い嬌声が途切れ途切れに立香の口から溢れた。甘い啼き声を飲み込むように深く唇を合わせ続け、茨木童子は笑う。腰元からやってくる快感と脳髄を揺らす喜悦の快感、相乗効果で自身がどんどんと高まっていくのが分かる。
知らず知らずのうちに喉が鳴った。鬼が剣呑に喉を鳴らす意味は食欲に焦がれてのもの。適うならば腹を割き臓物を喰らいながら、一心に蒼い目から光が消えるまで腰を振りたくりたくもあった。
だが今では無い、この瞬間ではないのだ。卵のまま割ってはならない。成った、成り果ててしまった英雄こそが彼女の望みなのだから。
我慢するため腰を振り、唇を貪る快楽に集中する。引き締まった膣で男根を擦り上げる度、自身もまた擦り上げられて悦楽に震える。童女を模した小さな身体に、殆ど出来上がった男のモノは大きすぎる。根元まで無理に飲み込めば臓腑を突き上げられるような衝撃と、痛みに似た快楽が迸った。
好物をほおばったかのようにだらしなく蜜が溢れているのが分かる。実際、茨木には作った表情ほどの余裕さはなかった。緩みそうになる顔を引き締め、見た目より逞しい身体に縋り付きたくなるのを抑えて動き続ける。魔力溢れる美味い血液を呑み、欲しいと思って喰らった右目の味を思い出すとどうにも溜まらないのだ。
そして至るであろう、英雄としての姿を想像すると止まらなくなる。
「くぅ……ああ……」
英雄とは本来化生を、怪物を倒す存在であり、茨木童子には英雄なんぞ喰らうことはできないのだ。彼女こそ倒されるべき存在であり、喰らうのは民草や英雄のなり損ないだけだから。
しかし立香は、このマスターは望めば喰わせてくれるだろう。世界を救った人理の英雄を、この人類史の中でも一時期暴れ回っただけに過ぎない鬼の己にだ。全ての化生が夢見る英雄喰らいを果たさせてくれると考えるだけで、益々女陰の潤みは増し締め付けは強まった。耐え難い快感を贈られた男根が同期して震えるのが分かる。
嗚呼、何と心地よいことか。
自分は敗者である。頭として扇ぐほど惚れ込んだ莫逆の友を討ち取られ、自らも腕を叩き落とされ無様に逃げて歴史の中に消えるしかできなかった。それがこうして気まぐれに訪れた先で、何と望外の誉れを得ることか。
讃えられる必要は無い。自身が満足できるのだ。鬼として最高の獲物を食らえた事に。その獲物が“こんな己を欲して”身を捧げてくれることに。
「くふぅ……んぃ……いいぞ立香、果てたくば果てよ。何度でも、何度でも絞ってやるからの」
否定され追われた者ほど受け容れられる事に弱い。聡く毅い鬼は分かっていた、自分がほだされていることくらい。それでも彼女は鬼だ。鬼らしくしなければ終わることも能わない。さにあらば……。
「んんん!?」
絡ませていた舌が初めて向こうから吸われた。舌同士を絡めてしごくように、滲んだ唾液の全てを飲み込まんとするかのように。篭められた力は大きく、ヒトであれば痛みを覚えたであろう。鬼の頑強な肉体は強く求める舌の動きに耐え、むしろ快楽として十分に受け取った。
同時にサイズ差から手に取るように形が分かる男根が膨れあがるのも分かった。
ああ、耐え難いのか、心地よいのか汝も。舌を吸われながら、鬼は求められているという事実に微笑んだ。
そして終わりがやってくる。最奥に達するほど深く腰を打ち付けた瞬間、胎の中で熱が迸った。白い命の種が宿るものなど何も無い胎へ解き放たれ、絶頂の悦楽に震えた。
「んに……あああ……!」
らしくない娘子のような甲高い声を上げ、茨木童子も同時に同じ高みへと導かれる。魔力が馴染んでゆく感覚、可愛らしい獲物を果てさせたという充足感、大事な大事な次代への種を奪い去ったという嗜虐心が脳の全てを悦びに染め上げていった。
男根はより奥へ種を届けようと精を放ち、快楽に敏感な女はより自身を狭めて悦びを表現する。互いに甲高い声を上げながらの絶頂は、魔術師や化生として体液を交換し合う房中術に似た効果で何倍にも増幅されて持続する。
背中の肉と皮が波打つほどの快感が収まるには、数分の時間が必要であった。
「ふぅ……随分と出したな? 心地よかったか?」
満足げに何時もの剣呑な“鬼”としての笑みを作って見せながらも、その実一杯一杯だった茨木童子は唇を一旦離した。そうして唾液や涙でべとべとになり、普段の凛々しい指揮官っぷりが嘘のように蕩けた男の子の顔を堪能する。
適うならば画像に残したいものだ。暇な時に眺むるもよし、マシュ辺りに見せて反応を愉しむも良しの素晴らしいアイテムになったであろう。惜しむらくは、この鬼も知識はあっても使い方は分からないというお婆ちゃん仕様であり、タブレットなんぞ持ち歩きすらしていないことであろうか。
喘ぎながら激しく息をする立香は答えない。はて、流石に派手にやり過ぎたであろうかと様子を見るため顎を掴み目線を合わせてみれば……。
「くっ……殺せ……」
「おおう」
涙でどろどろの顔でキッと睨んできた。その上、何やら嗜虐心を擽ってくる可愛らしい台詞付きでは無いか。黒髭辺りならマスターじゃなくて上乳王とかの台詞www と盛大に草を生やしながら煽ってくるだろうが、茨木にはドストライクであったらしい。
「くはっ、くはは、まだ生意気な口を利く余裕があるとは」
ノってくれているのなら、此方もノリ返さねば成るまい。いじらしくも此方の暇潰しに応えてくれるのだ。全力で愉しませて貰い、全力で快楽を与えてやらねば鬼としての面目がたたない。
「なら死にたくなくなるほど良くしてやろう。そして、その後で喰ろうてやる」
鬼は今を愉しむべく、牙を剥いて笑った。精々恐ろしい鬼に見えるようにと…………。
カルデアにおける第一の権力者は誰か?
普通であれば野戦昇進を繰り返した結果、可哀想なことに医官のトップに過ぎなかったのに司令官職へ宛がわれた童顔三十路ことDrロマンであろう。
だが、残念な事に20数名にまで減ったカルデア職員に聞いてみても、権力者というイメージは彼にはそぐわぬらしく彼の名はあがらぬであろう。
では、数多の英霊を束ねる藤丸 立香なのかと言われれば、それも違う。
そも彼は英霊の人格を尊重し無体は働かず、協調して戦う様から同盟者という称号の方が相応しかろう。実際、主と扇ぐより友や盟友として遇する者も少なくないし、立香自身が師事しているサーヴァントすら居るのだから。
ならば皇帝・王者を名乗る英霊達かと言われれば、それもまた違う。彼等は確かに支配者であったが、支配者とは支配する領邦と自らを王と仰ぐ領民あってのもの。従者として召喚された以上、肩書きとして自負や誇りを篭めて名乗ることはあれど、カルデア内において強権を振るおうとする者はまず居ない。
となると、その地位は誰にあるのかと言えば……。
「ふぎゃっ!?」
何とも形容詞し難い悲鳴と共に、硬質なモノ同士が力任せに叩き付けられる轟音が響いた。耳に優しくない不協和音は、聞く者に片方が盛大に拉げたのであろうなと知らしめる独特の音響をしていた。
音源の一つはカルデアの金属質な壁面であった。十分な硬度を誇り、外界からの攻撃を防ぐ防爆仕様であるはずのそれは、今や無残に拉げてもう一つの音源を飲み込んでいた。音源、即ち頭を掴んで壁に叩き付けられた“茨木童子”である。
彼女の頭は過半まで盛大に埋没していた。血が溢れていない辺り鬼特有の頑丈さを瞬間的に発揮させたのだろうが、それにしても酷い有様である。並の文化人英霊であれば問答無用で座に帰省させられていそうな状態だが、茨木は辛うじて生きていた。
「何度言わせれば気が済むのですか」
カルデア一の強権を誇り、誰にも有無を言わせぬ絶対権力者。その問に誰もが名を挙げる者。紅い軍装に身を包んだクリミアの天使、フローレンス・ナイチンゲールは茨木を盛大に叩き付けた手の埃を払い、鬼を病原菌か何かを見やるような冷たい目で見下した。
「戯れるのは良い、されど傷つけるなと。その頭はスポンジか何かですか。ヒトの喰らいすぎでクロイツフェルト・ヤコブ病でも発症しましたか」
親しみと畏怖を篭めて婦長と呼ばれ、医療部門のトップより強い権力を持つ彼女はカルデアにおいて最も高い支配力を発揮する。即ち、どいつもこいつも問答は要らぬので健康でいろ、健康で居られないようなら無理にでも健康にしてやる、と叩きつぶして回る異色の絶対権力者である。
あまりもの健康への傾倒っぷりに狂戦士のクラスすら割り当てられる、捉えようによっては清姫よりも始末の付けようが無い彼女は、茨木の荒淫に付き合わされたマスターの有様におかんむりであった。
それこそ普段“手加減”用に用いているペッパーボックスリボルバーを用いず、初手ネックハングからの壁に叩き付けるという残虐ファイトっぷりで怒りの程を察することができよう。座に還っても構わない、むしろ還れ病原菌がと言わんばかりの勢いに押され、医務室近辺に居た英霊は皆英雄であるのが嘘のように立ち去った。
茨木が適当にシャワーで汗やら何やらの液体を流した後、流石にこのままだと拙いかと思って医務室に運び込んだ立香を見て、第五の特異点より幕下に加わったフローレンス女史は瞬間湯沸かし器の勢いでブチ切れた。
さにあらん、何故なら連れてこられたマスターの容態は、正直下手な悪漢から強姦された乙女の方がまだ幾分かマシという有様だったのだから。
左肩には何度も噛み付いたであろう大きな裂傷が複数。張り飛ばされたらしく――後に気絶した立香を起こそうとしたのだと鬼は弁明する――右頬は痛々しく腫れ上がり、丁度伸び掛かっていた親知らずは軽くぐらついていた。剰え荒淫に長時間晒された粘膜は腫れ上がり酷い状況だ。
正直な話、霊体であり不変のサーヴァントに対して婦長の判定は一応甘い。かのラーマ王の時は負傷していたから厳しい処置を執ったが、健康であれば呪いでもぶち当てられない限り死にも体調を崩しもしないサーヴァントの物理面は――環境・精神面においては話は別――割とどうでもいいのだ。
だが、健康でいなければ死んでしまう人間、ことマスターとなると婦長の態度は一変する。何かしでかした者をウイルスか何かの如く敵性判断を下し、あたう限りの速度で排除し治療を始めるべく全力稼働だ。
遊ぶのは良い。火遊びにしてもサーヴァントには性病もへったくれもないのだから。多少羽目を外すのもいいだろう。アルコールとて少量であれば逆に健康的であるし、立香は十分に育ちきった青年と少年の中間点だ、あまりうるさく言っても仕方がない。
だが怪我はならない。たとえそれが当人が望んだものであろうとも。結果として、カルデアにおいて時折こういった激しい事態が勃発するのは、最早誰にとっても普通のこととなりつつあった。
例え殺してでも貴方を生かすという、もう何をしたいんだよアンタと常識人勢から言われる彼女に諫言した所で止まるはずも無いし、むしろ止まるくらいならバーサーカーなんぞに区分されてねーわなと諦められたが故の受け容れでもある。
「全く、このお人は……」
処理された病原菌にアルコールを数度吹きかけて消毒し――無論、彼女なりの嫌味である――寝台で安らかな寝息を立てるマスターの頬を婦長は撫でた。
初めて見たときから無茶ばかりする若者であった。戦場で英雄になろうとする血気盛んな、あのクリミアに幾人といた新兵ですら此処までの無茶は見せなかった。だのによくぞまぁ、今も四肢の一本も喪わずに生きているものだと感心する。これが童女と交わっただけの人間が負う傷と言えるだろうか?
本気にて大業は成らずという。果たして彼が正気であるかを論ずるのは難しいが、紛れもなく彼は婦長にとって病人であった。思考に捕らわれた病人だ。彼は捧げる事に捕らわれている。求められることと愛されることに。
彼女も自信の夢のために多くを捧げて来た者だから分かるのだ。人生を、平凡な女としての生を、家族や友すらも擲って前線へ出た。彼女もまた捧げる者、夢と目標のために己の全てを捧げる事が出来た者。つまりは、立香の先輩とも言える。
「さてはて、どうしたものでしょうか、このお人の病気は」
全ての病と傷病を根絶せんとした彼女には、ヒトの病や傷がよく分かる。ひいては精神的な病質性、人間的な欠陥までも。故に分かる、彼はおかしいのだと。
「まずは肩の傷ですね。挫滅した部分は除去するとして……」
難しい問題であった。治療するにしても人間性という部分は本当に難しい。感染症を防ぐために被弾した四肢を叩き落とすのとは訳が違う。如何に狂っていても、彼女の看護知識がヒトは頭を両断されて尚も生き続ける生き物ではないと教えてくれていたから。
切除して直るのならば幾らでも切除してやるところだが、如何せんこればかりはどうしようもない。ああ、何度自分のメスが精神も切り込めたらと夢想したことであろうか。さすればマスターは犠牲を前提にした奉仕になぞ身を染めることも無かったであろうに。
狂える看護師は魔力で以て医療用具を瞬時に構成し、弱ったマスターへの看護に取り組み始めた。まずは傷を塞いでやらねばなるまい。
しかし、嘆息する彼女も気付いているのだろうか。病気であると判断した後輩が己と同質の存在であるのなら、己もまた病気であるに他ならないと。
否、きっと気付きはしないし、気付いても変わらないだろう。彼女は一途過ぎたからこそバーサーカーとして顕現し、この有り様でも全てのサーヴァントが強権を一応の所で認めているのだから。
決定的な所は異なれど、非常によく似た主従の治療行為は迅速に片付いたが……数分後に再起動した鬼が激怒のあまり発狂し、もう第何次か忘れたカルデア大戦が勃発されたのは、また別の話である…………。
R-18タグがあるのだから、R-18な展開をしなければなるまいてと思い血まみれ吸血ックス。汗だくの二人が血を流しながらとか純愛だなぁと。後、私は婦長殿も大好きですよ、色々な意味で。
お気に入り400突破して少し驚いております。
自分が好きなニッチな所を満たすために書き散らしている自負はあるので、同調してくれているへん、もとい紳士諸氏がいらっしゃるとは望外の喜び。
さてはて、次は誰に拗らせていただきましょうか。