吹雪「おっぱい…ちく…び……」ガクッ
提督「どうした吹雪! 吹雪ィィィィ!」
火照った頬、だらしなく緩んだ口元。吹雪はそんな状態で気を失っている。執務室の床に横たわった彼女を両手で支えながら、俺は必死に推理していた。
失神なんて、余程の感情の高ぶりが無ければ起こらないだろう。そして吹雪は俺を見て、怯えるような、
まてよ、もしかして……。
「艦娘にしか見えない幽霊とか?」
そんなのが俺の胸元に憑依してたりして。
うわっ! やだなあ、お化けなんて深海棲艦だけで充分だ。自分で言っといて背筋がゾクゾクする。
もしかして除霊とかしなきゃいけなくなるのか!? そんなスキル無いぞ……。
あ!こういう時に頼れる艦娘がいたわ。あいつ。
「……とりあえず明石の所に行くかあ」
明石の開いてる保健室で吹雪を寝かせて、ついでに俺も診て貰おう。
うちの鎮守府の明石は、酒保・開発室・保健室……と数多の居場所をもつスーパー便利屋、じゃなくてスーパーウーマンなのだ。
あいつなら幽霊が憑いてても、除霊魚雷とか作ってくれるだろ多分。そう考えた俺は吹雪を背負って部屋を後に……しようとして、今の格好は(艦娘にとって、少なくとも吹雪にとって)良くない事に気付いた。
暑いけど仕方ねえ、詰襟着るか。
「吹雪ごめん、ちょっと待っててな」
俺はしぶしぶ自室のクローゼットから詰襟を取り出すと、袖を通した。Yシャツは着ていない。あれまで着たらそれこそ熱死するわ。
詰襟の内側でもう既に籠り始めた熱にちょっぴりイライラしつつ、改めて吹雪を背負った俺は執務室のドアノブへ手を掛けた。
†
「おーい明石、いるかー?」
鎮守府庁舎一階、『保健室』とプレートの下げられたドアを前にして、俺はその部屋の中へ届くよう声を張る。しばらくして、パタパタと向こう側からドアへ近づく足音。
「はーい…あら?提督じゃないですか」
がちゃり、と開かれて顔を出したのは、桃色の髪にエッチなスカートの明石。
「よかった、ちょうど保健室に居てくれたんだな」
「はい、備品の確認に」
酒保に居たり開発室にいたり明石は忙しいからな。
「しっかりしてるのはいいが、無理は禁物だぞ。お前が倒れたらこの鎮守府は立ち行かなくなる」
「いえいえ、提督こそお身体には──って、吹雪ちゃん!?」
一瞬俺の首元から脚までスーッと視線を流し、ちょっぴり頬を赤く染めた明石は、直後にぐったりとした吹雪に気付いた。ん? 吹雪に目が行くまでの様子に疑問を感じたけど…まあいい。吹雪の容態の方が大切だ。
「吹雪、執務中に様子がおかしくなって気を失ったんだ。とりあえずベッドに運ばせてくれないか」
「ええ、もちろんですよ! 入ってください」
「済まない」
明石は俺達を通すと保健室のドアを閉め、ベッドに横たわらせた吹雪に軽く触れた。
「…うん。とくに問題は無いみたい。疲れたんでしょう、寝かせていれば大丈夫ですね」
「そっか……よかった」
シャッと仕切りのカーテンを閉めながら、安心そうに笑みを浮かべる明石。俺もほっと胸を撫で下ろす。
そしたら、今度は俺を診てもらう番だ。
診察用の椅子に座ってPCを立ち上げた明石の横に、さらっと当たり前のように俺も腰かける。病院のよくある診察室のような風景だ。
「なあ明石」
「なんでしょう? もう吹雪ちゃんは大丈夫──」
さあ、除霊してもらって俺も執務にもどろう。
「俺の体…診てくれないか?」
「はい……はい?」
ぴしっ、と明石の流暢にキーボードを打ち込む指が固まった。
「いま、〝俺の
「え? うん、
「むむ胸っ!?」
おわっ! なんだよ急に。異様な速度で俺の方へ向き直る明石。心なしか鼻息が荒いような…。
「なんか俺の胸がおかしいんだ」
「えっ」
「触診とかできる?」
「ええええ!?」
とりあえず明石に診察してもらって、何ともなかったら吹雪がおかしかったってだけの話だ。
そんな風に心の中で思いながら、クイッと詰襟のホックを外しにかかる。
「ちょ、提督!? Yシャツは!?」
「着てない、暑いだけだし。邪魔だろ?」
襟がだらしなく開かれ、胸元に冷房の涼しい空気が入り込んだ。最高。
「あわわわわっ、
「ここじゃ駄目なのか?」
「ええあっ」
もう第2ボタンまで外した。あと1つも取れば診察に問題ない格好になるだろ。
詰襟のせいでじっとりと濡れた鎖骨の窪みに、首元から垂れた汗が流れ込む。ん、なんだか明石の視線が釘付けになってるような……?
……とその時。
「えっと、その……」
「なに? もうちょっとで胸出せるよ」
「~~~~っ!」
顔と髪が同じ色に見えるほど赤くなってわなわな震えてた明石が、ふいに立ち上がった。
「どしたの」
「こ、こういうのはじゅ、順序が大事だと思いまふっ!」
「は? ……あっ! おい!」
「失礼しましたっ!!」
彼女はそれだけ言うとドアまで駆け出し、バタム、とすごい勢いで出ていってしまった。
取り残される俺と吹雪(寝てるけど)。あいつPCもそのままでどこ行ったんだ。
「…なんだよ順序って……」
わけがわからん。もしかして診察券とか要るのか?
「というか、ここお前の使ってる部屋だろ……」
この鎮守府、一体どうしちゃったんだよ?
†
保健室のドアから廊下へ出て、頭にクエスチョンマークを浮かべながら執務室へ戻っていく提督。
そして、その様子を遠くから窺う1つの人影があった。
「ふんふん…そういう事ですか…フヒヒ」
物陰に潜んでいる
「これはワンチャンあるかもですねぇ! …あ、鼻血が…ふごっ」
薄紫の髪をひょこひょこしながら、彼女はティッシュを鼻の両穴に詰め込んだ。
次回
…君は知るだろう。
異なる世界に迷い込む事が、優勝への道とは限らないことを。
貞操を守ることが戦うことである限り、希望もまた争いの中にある。
全てを失う可能性を抱きながら、僕たちは未来を求めた。
違う道を選ぶことは、許されなかった。
というのは嘘。