※この作品はR-18です。

貞操観念あべこべな生活。   作:モンロー

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前回のあらすじ。

吹雪「おっぱい…ちく…び……」ガクッ

提督「どうした吹雪! 吹雪ィィィィ!」


2.

 火照った頬、だらしなく緩んだ口元。吹雪はそんな状態で気を失っている。執務室の床に横たわった彼女を両手で支えながら、俺は必死に推理していた。

 

 失神なんて、余程の感情の高ぶりが無ければ起こらないだろう。そして吹雪は俺を見て、怯えるような、竦(すく)むような目をしていたんだ。

 

 まてよ、もしかして……。

 

「艦娘にしか見えない幽霊とか?」

 

 そんなのが俺の胸元に憑依してたりして。

 

 うわっ! やだなあ、お化けなんて深海棲艦だけで充分だ。自分で言っといて背筋がゾクゾクする。

 

 もしかして除霊とかしなきゃいけなくなるのか!? そんなスキル無いぞ……。

 

 あ!こういう時に頼れる艦娘がいたわ。あいつ。

 

「……とりあえず明石の所に行くかあ」

 

 明石の開いてる保健室で吹雪を寝かせて、ついでに俺も診て貰おう。

 

 うちの鎮守府の明石は、酒保・開発室・保健室……と数多の居場所をもつスーパー便利屋、じゃなくてスーパーウーマンなのだ。

 

 あいつなら幽霊が憑いてても、除霊魚雷とか作ってくれるだろ多分。そう考えた俺は吹雪を背負って部屋を後に……しようとして、今の格好は(艦娘にとって、少なくとも吹雪にとって)良くない事に気付いた。

 

 暑いけど仕方ねえ、詰襟着るか。

 

「吹雪ごめん、ちょっと待っててな」

 

 俺はしぶしぶ自室のクローゼットから詰襟を取り出すと、袖を通した。Yシャツは着ていない。あれまで着たらそれこそ熱死するわ。

 

 詰襟の内側でもう既に籠り始めた熱にちょっぴりイライラしつつ、改めて吹雪を背負った俺は執務室のドアノブへ手を掛けた。

 

 

 †

 

 

「おーい明石、いるかー?」

 

 鎮守府庁舎一階、『保健室』とプレートの下げられたドアを前にして、俺はその部屋の中へ届くよう声を張る。しばらくして、パタパタと向こう側からドアへ近づく足音。

 

「はーい…あら?提督じゃないですか」

 

 がちゃり、と開かれて顔を出したのは、桃色の髪にエッチなスカートの明石。

 

「よかった、ちょうど保健室に居てくれたんだな」

「はい、備品の確認に」

 

 酒保に居たり開発室にいたり明石は忙しいからな。

 

「しっかりしてるのはいいが、無理は禁物だぞ。お前が倒れたらこの鎮守府は立ち行かなくなる」

「いえいえ、提督こそお身体には──って、吹雪ちゃん!?」

 

 一瞬俺の首元から脚までスーッと視線を流し、ちょっぴり頬を赤く染めた明石は、直後にぐったりとした吹雪に気付いた。ん? 吹雪に目が行くまでの様子に疑問を感じたけど…まあいい。吹雪の容態の方が大切だ。

 

「吹雪、執務中に様子がおかしくなって気を失ったんだ。とりあえずベッドに運ばせてくれないか」

「ええ、もちろんですよ! 入ってください」

「済まない」

 

 明石は俺達を通すと保健室のドアを閉め、ベッドに横たわらせた吹雪に軽く触れた。

 

「…うん。とくに問題は無いみたい。疲れたんでしょう、寝かせていれば大丈夫ですね」

「そっか……よかった」

 

 シャッと仕切りのカーテンを閉めながら、安心そうに笑みを浮かべる明石。俺もほっと胸を撫で下ろす。

 

 そしたら、今度は俺を診てもらう番だ。

 

 診察用の椅子に座ってPCを立ち上げた明石の横に、さらっと当たり前のように俺も腰かける。病院のよくある診察室のような風景だ。

 

「なあ明石」

「なんでしょう? もう吹雪ちゃんは大丈夫──」

 

 さあ、除霊してもらって俺も執務にもどろう。

 

 

 

「俺の体…診てくれないか?」

 

 

 

「はい……はい?」

 

 ぴしっ、と明石の流暢にキーボードを打ち込む指が固まった。

 

「いま、〝俺の身(・)体(・)を見(・)ろ(・)〟と?」

「え? うん、診(・)て(・)ほしいんだけど。胸」

 

「むむ胸っ!?」

 

 おわっ! なんだよ急に。異様な速度で俺の方へ向き直る明石。心なしか鼻息が荒いような…。

 

「なんか俺の胸がおかしいんだ」

「えっ」

「触診とかできる?」

「ええええ!?」

 

 とりあえず明石に診察してもらって、何ともなかったら吹雪がおかしかったってだけの話だ。

 

 そんな風に心の中で思いながら、クイッと詰襟のホックを外しにかかる。

 

「ちょ、提督!? Yシャツは!?」

「着てない、暑いだけだし。邪魔だろ?」

 

 襟がだらしなく開かれ、胸元に冷房の涼しい空気が入り込んだ。最高。

 

「あわわわわっ、こ(・)う(・)い(・)う(・)のは私の部屋とか、そ(・)う(・)い(・)う(・)ホ(・)テ(・)…でするべきじゃ…!」

「ここじゃ駄目なのか?」

「ええあっ」

 

 もう第2ボタンまで外した。あと1つも取れば診察に問題ない格好になるだろ。

 

 詰襟のせいでじっとりと濡れた鎖骨の窪みに、首元から垂れた汗が流れ込む。ん、なんだか明石の視線が釘付けになってるような……?

 

 ……とその時。

 

「えっと、その……」

「なに? もうちょっとで胸出せるよ」

「~~~~っ!」

 

 顔と髪が同じ色に見えるほど赤くなってわなわな震えてた明石が、ふいに立ち上がった。

 

「どしたの」

「こ、こういうのはじゅ、順序が大事だと思いまふっ!」

 

「は? ……あっ! おい!」

「失礼しましたっ!!」

 

 彼女はそれだけ言うとドアまで駆け出し、バタム、とすごい勢いで出ていってしまった。

 

 取り残される俺と吹雪(寝てるけど)。あいつPCもそのままでどこ行ったんだ。

 

「…なんだよ順序って……」

 

 わけがわからん。もしかして診察券とか要るのか?

 

「というか、ここお前の使ってる部屋だろ……」

 

 この鎮守府、一体どうしちゃったんだよ?

 

 

 †

 

 

 保健室のドアから廊下へ出て、頭にクエスチョンマークを浮かべながら執務室へ戻っていく提督。

 

 そして、その様子を遠くから窺う1つの人影があった。

 

「ふんふん…そういう事ですか…フヒヒ」

 

 物陰に潜んでいる彼(・)女(・)の伸びた鼻の下に、赤い液体がさらりと流れる。

 

「これはワンチャンあるかもですねぇ! …あ、鼻血が…ふごっ」

 

 薄紫の髪をひょこひょこしながら、彼女はティッシュを鼻の両穴に詰め込んだ。




次回

…君は知るだろう。
異なる世界に迷い込む事が、優勝への道とは限らないことを。
貞操を守ることが戦うことである限り、希望もまた争いの中にある。
全てを失う可能性を抱きながら、僕たちは未来を求めた。
違う道を選ぶことは、許されなかった。

というのは嘘。
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