とある鎮守府、深夜。
広大な施設の目と鼻の先、波打つ海にやや欠けた月の光が乱れて映る。空から海からと照された鎮守府庁舎は、その
穏やかな風に乗り、波の
──現在その中心で泣き叫ぶ、提督以外は。
「おおぉぉぉぉぉぉおん…おおぉぉぉぉぉぉおん…」
ここは提督私室。明かりの消えた部屋、他愛のない番組を映すテレビの前には、持ちうる全ての希望を打ち砕かれたかの様な提督が声を上げ続けていた。
彼は何故この姿となったのか? …その理由は、今から数時間前まで遡る。
†
──提督が発狂する数時間前。
「まじかよ…ここ、異世界って事か…?」
青葉を追い出した後に夕食を終え、執務を再開した
…が、ここが貞操観念だけが逆転した世界だということを知って、はいそうですかと割り切って職務に集中できるほど俺は賢くない。目の前の文書に意識が行かないのは当然の事だろう。
しかも
「あーくそ、中断だ中断。
だが、別に前の世界でも集中が途切れることくらい幾度となく経験している。そういう時のために、俺は秘策を持っていた。これを使えば、俺は精神的、身体的休息を経てベストコンディションへとなることができるんだ。
机の一番下の引き出しに手を掛ける。そこにはシンプルなケースに入ったブルーレイディスクが何枚か丁寧に並べられていて、そこから1つ取り出すと、俺はそそくさと私室へと入っていった。
「ふんふん♪」
鼻歌交じりに私室のテレビの電源を点け、それに接続されたブルーレイプレイヤーのラックにディスクを差し込む。
何を隠そう、このブルーレイディスクは……
百合はいい。最高だ…。俺はテレビの画面の前で正座待機する。もう間もなく再生されるな、あかりんを呼ぶ準備をしなきゃ。俺はスーハースーハーと呼吸を整える。
よし! 始まった。俺は両手を口の横にそえて声を発した。
せーの!
提督 「あっかり~ん!」
男共の野太い声 『たっかし~ん!』
そうそう、このコールが無いと──
……。
…………ん?
「………………ふぇ?」
この瞬間、頭の中で最悪のシナリオがよぎった。その間0.3秒。俺の全身の毛穴という毛穴から汗がぶわっとにじみ出る。
待て…待ってくれ…貞操観念が逆転……異世界……ってことは。走馬灯にも似た俺の果てしない思考の渦は、目の前に流れる番組によって半ば強引に断ち切られた。
たかし 「はァーーあーーい♪」
提督 「」
たかし 「
う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!
野太い声と共に画面下から現れたのは、
俺は瞬時に再生停止ボタンを凄まじい指圧で押し込み、ディスクを取り出した。これは、悪い夢だ、疲れてるんだ……。気を取り直して、桜trickを見よう。な? それが終わったら執務に戻るんだ。
心の中で必死に自分を励ましながら、執務室へと引き返す。俺は引き出しの前で屈むと、桜trickを探し始めた。
「ええっと…」
あのアニメのディスクには、しっかり『桜trick』って油性ペンで記してある。記してある筈なんだけど。
……おかしいな、『薔薇magic』しかない。ねえ…ねえ…僕の桜trickはどこ? こんな
いや、再生してみないことには……。やってみよう。ポチっ。
──この行為が、提督の精神を崩壊させる決定打となったのは言うまでもない。
アニメ・漫画の中も色々逆転。toloveるなんて目も当てられねえぜ。