※急で申し訳ないのですが主人公の名前と所属する鎮守府の名称をここに記させていただきます。
木南 真(きなみ まこと)
豊施(とよせ)鎮守府所属・帝国海軍中佐
・艦娘指揮の為の特任のため、階級にあまり意味はない。
場所や設定はスケベに関係ないのであんまり詳しくは書きません。よろしくお願いします。
「それじゃ、今日明日の業務はよろしくな」
「はい! お任せ下さい」
早朝。白んだ空、しかし未だ日は顔を見せないような時間に、これから出張する俺と鳳翔、それを見送りに来た数人の艦娘が鎮守府庁舎前に集っていた。
「頼りになるよ、吹雪」
「えへへ……」
見送りの内の一人である吹雪には、提督代理の任を負ってもらっている。普段から秘書艦としてしっかりと仕事をこなしてくれてるし、心配事はゼロだ。
「提督。約束、忘れないで下さいね!」
「ああ、大丈夫」
ただ一つ、出張から帰ってきたらドライブに誘うって話を、妙に鼻息を荒くして期待している事だけは気になるけどな。
──と突然、吹雪の後ろから
「提督ッ!」
「うおっ ……明石?」
ぎょっとして見やれば、俺の右手をたわわな胸元に寄せた明石が、大きな瞳を潤ませてこちらを見つめていた。やたらと距離が近い。明石のしっとりとした両手の
「ご一緒出来ないのは心苦しいですが……何かあればすぐ連絡して下さいね」
「わ、分かった分かった。ありがとう」
完全に気圧されていると、次に彼女の小さなお口から軽く爆弾発言が。
「ありがとうだなんて、そんな。
「は?」
「あなた一人の身体じゃないんですからね」
「ちょッ明石さん? 司令官困ってますから……!」
ええ……。言葉のパンチ力が強すぎる。
そうだ、あいつは以前のすれ違いのまま距離感を間違えているんだった……いやいや間違えすぎだろ! 子宝に恵まれた夫婦か!
よく真顔でそんなこと言えるな。そんな明石に、俺はなんて答えたら良いんだろう……。
とりあえず明石を
「え、えーと……さ、行こうか鳳翔」
「はい」
それじゃあ、と見送り一同に手を振ると、ここより少し先に停まっている黒塗りの公用車へと二人並んで歩きだす。
「「お気をつけて〜〜!」」
「はいはい、もう……」
「ふふ……っ」
もう結構な距離があるのにあいつら、大声で……。たかが一泊二日の出張に気をつけるも何もないだろ、と心の中で突っ込む。ほら、鳳翔に笑われちまったじゃないか。
「慕われているんですね」
「そうなのかね……。なんだか調子狂うなあ」
桜色の小ぶりなスーツケースを転がす彼女。穏やかに微笑みを湛えて歩くその姿はもう絵になるくらいの麗しさだ。……と、その端正な眉が少しだけ斜めになる。
「……提督? 私の顔に何か……?」
「……いやいや」
いけね、つい見惚れて……。
「そうだ、荷物をトランクに詰めるから貸してくれる?」
思わずそっぽを向いて、照れ隠しに話を逸らした。
「え……?」
「ん、どした?」
いわゆるセダンと呼ばれる形の公用車の後ろに付くと、トランクを開けてスーツケースを入れ──ようとして、鳳翔に慌てて制止させられる。
「て、提督! 私が居るのに男性にそんな事させられません!」
「え? だって力仕事は──」
「
ええ……女の仕事なの? こんなところも元々の世界と違うのか。運転席から降りてきた人も女性だし余計に戸惑う。
そんなこんなで運転手に荷物を渡して、車の後部座席に乗り込んだ。
ちらりと腕時計へ目を落とせば、予定通りの出発時刻。
車内から改めて鎮守府へ目を向ければ、朝日に包まれる庁舎や工廠、楽しげに水面を駆けて遠征に出る艦娘達を瞳に映すこととなった。
「綺麗……」
陽光が差し込む車内で景色に見惚れる鳳翔に無言で同意した。綺麗だし……何より平和だ。ここまで海を落ち着いた気持ちで眺められるのも、長く続いた深海棲艦の侵攻を凌ぎきった先代達の尽力の賜物。心の中で最大限の賛辞を贈りつつ、自らの気持ちも引き締める。よーし、出張頑張ろう。
エンジンがかかり、ゆっくりと動き出した公用車の中、俺達は鎮守府の景色を目に焼き付けた。
†
「あ〜か〜し〜さ〜ん〜?」
「はい?」
「はい? じゃないですよ!」
明石に詰め寄る吹雪の声が路上に響いた。提督達を見送った後もその場に残った二人、その間に流れる空気はひりついている。……のだが、明石はどこ吹く風といった顔だ。
「周りの人が誤解するような事を言わないで下さい!」
「え、私が? そんなこと何か言いました……? 」
疑問符を浮かべる明石は、本当に心当たりがないらしい。
「何かって……。 し、司令官と……いい関係なような事とか……」
ごにょごにょと返事しながら頬を赤らめる吹雪。だが、すぐに血の気が引いた顔で彼女は続ける。
「というか見ましたか? さっきの鳳翔さんの目……」
「え? ……ええと、微笑んでたような」
「冷えっ冷えでしたよ! 私、明石さんが視線で殺されるかと思いましたもん」
随分と大げさだな、と明石は笑い飛ばす。
「あっはは! まっさかあの鳳翔さんがそんなわけないですよ。見間違いじゃないですか?」
「いや、本当に……あれ? 私の勘違いだったのかな……?」
「勘違い勘違い。さ、部屋に戻りましょ」
鎮守府の
†
「お、見えた見えた。あれが横須賀鎮守府だよ。鳳翔は実際に見るのは初めてだよな」
時刻は
紹介するように振り返ると、下を向いて膝を擦り合わせる鳳翔の姿。
「鳳翔?」
「……え? あっ……よ、横須賀鎮守府ですか」
びくっ、とこちらへ顔を向けると、焦るようにその後ろの建物へ視線を移した。……そわそわしてどうしたんだろう。
「まだ
「深海棲艦の侵攻前からの……」
何せ港に軍艦を停泊させていたんだから。最初から艦娘と小型の船舶の運用しか想定されていない俺達の鎮守府とは、文字通りに桁違いの広さだろう。
検問を抜け、車は庁舎の手前の駐車場へ。
「提督、お荷物は私が降ろしますので」
「あー……ありがとう」
少しだけ頬をぷっくりさせた鳳翔(かわいい)。先程の俺の行動がそんなに異常だったんだろうか? 鳳翔に釘を刺されつつ車から降り立つ。
一呼吸すると、潮の匂いが鼻腔に広がった。嗅ぎなれているはずのそれだが、普段との若干の違いを感じる。地域差とかあるんだろうな。
ドライバーに一言感謝を述べつつ庁舎へ向かう。すると、玄関口のポーチに佇む艦娘の姿。あれは確か、重巡の──と思索しているうちに、彼女がこちらを見つけて歩み寄る。
「横須賀鎮守府所属、重巡洋艦・妙高です。遠くからご足労頂きましてありがとうございます」
「
うわ、随分と綺麗な人だなあ。太眉好きなんだよね。……とは死んでも口に出さないよう注意しつつ、形式的な挨拶を交わす。鳳翔も自己紹介を終えたところで、妙高がこちらの手元へ目を落とした。
「宿舎へご案内いたします。お荷物をお預かりしますね」
「お願いします」
鳳翔は2つのスーツケースを彼女へと手渡す。本当は俺が持ちたいくらいなんだけどな……。なんか申し訳なさを感じてしまうんだが。
妙高に先導されて鎮守府庁舎から少し離れた建物へと連れられる。質素ながらも小奇麗に維持されているここが宿舎と説明され、割り当てられた部屋へと向かった。
扉の手前で彼女から2枚のキーを渡される。妙高ともここでお別れか。
「カードキーは紛失されないようお願いしたします。それでは、私はこれで」
「案内ご苦労。……あー、俺が特任の提督なの知ってたでしょ? 肩肘張らなくても良かったのに」
久々の軍人らしい言葉遣いに疲れた俺は彼女に本音を打ち明ける。俺のような提督はただ妖精さんが見えるというだけで選ばれた、海軍所属とは名ばかりの雇われ者だ。実際、ほとんどの鎮守府は艦娘と提督は上下もほとんど無く仲良くやってるらしい。……いやまあ、というのは前の世界での認識なんだけども。
「い、いえ、そういう訳には……」
だから君もそんなにぴしっとしなくてもいいんだよ……と伝えたかったんだが、当の妙高は体裁もあってか未だぴしっとしたまま。
「そっか、ごめんごめん。ありがとね」
「はうっ///……失礼しますっ!」
せめてもの感謝を伝えたくて、ニコッと笑顔で別れようとしたんだけど……なんだろうあの反応? ぴしっとしたままというか、俺の言葉で余計に硬くなったかもしれない。踵を返す彼女の後ろ姿もなんだかぎこちないような……。 そんなにキモい笑顔してたかな……。
「提督」
妙高が庁舎へと戻っていくのを見届けた所で、鳳翔がこそっと耳打ちしてくる。
「どうした?」
「男性と話した経験のある女性はただでさえ少ないのですから、もう少しお手柔らかに接して頂けると……」
「……は?」
「ええと、その──」
……男とフランクに話すのが緊張しちゃってできないって? ……マジかよ。
「ええ……」
「男性の出生率が大幅に低下して長らく経ちますし、何より軍務は女社会です。 ……
「はえー…… 通りで憲兵も女性で……」
「はい。……すみません、提督、早くお部屋へ……」
ただ貞操観念が反転してるだけじゃ無いらしい。なんだかよく分からなくなってきた。ってか一瞬、ごにょっと鳳翔が言葉を濁らせたような気がするけど……まあいいか。
……結局のところ、この間風呂で結論を出した通り俺は俺のままでこの世界と接するつもりだ。これは確定事項。
†
気を取り直し、妙にそわそわしてる鳳翔に促されるままカードキーをかざして部屋の鍵を開く。中へ入れば、広めのベッドが2つにユニットバス。ビジネスホテルのそれを少しだけ広く、良質にしたような部屋が広がっていた。窮屈ではない、といったところか。
血税で建てられた施設なんだ。贅沢なんて言ってられないし、必要もないだろう。むしろもう少し程度が低くても文句を言うつもりは無かったくらい。
「お、部屋は想像より良かったかもしれな──」
ユニットバスを覗きつつ、綺麗で安心した……と鳳翔へ振り返ろうとした──のだが、彼女は俺の肩に手を添えて、優しいながらも力強い手付きで後ろへ引っ張ってきた。
「うおっとと!」
「て、提督! ごめんなさい、お手洗いに……!」
バランスを崩す俺の目と鼻の先でバタム、と白い扉が閉められる。俺の目に最後に映ったのは、太ももに手を添えて足をくねらせたままユニットバスへ消える鳳翔の後ろ姿。
「……?」
一瞬の出来事に思考が硬直するものの、続くゴソゴソと布切れが擦れる音に意識を取り戻す。
──やべっ!
俺は咄嗟に両手で耳を塞ぎつつ、部屋の奥へと移動する。
──き、聞くなっ、聞くな!
指の間をすり抜けて鼓膜に届く
心臓の鼓動が速まる。顔に、
「素数、素数を……!」
……
ただでさえ今日明日と自家発電が出来ないってのに、のっけからこれでは俺の息子が爆発してしまう……!
そうこう焦っている間にユニットバスから鳳翔が姿を現した。すごく申し訳無さそうな顔をして、俺に謝ってくる。
「すみません。朝から我慢していて、限界で……。こんなはしたない真似を……」
「い……いや大丈夫。言ってくれれば高速のパーキングにでも寄ったのに」
あ〜ヤバい! 鳳翔の言葉一つ一つが性癖に刺さる。謝罪に感謝で返してしまいそうになるのを必死で押し留めた。こんな状態で帰宅までおあずけ喰らうのかよ……! すんごい悶々とするからさっさと話題を変えよう。
「すっ少し早いけど、食堂が混み合う前に昼食を済ませよう。その後は腹ごなしの散歩がてら、横須賀の設備でも見て回ろうかと考えてる」
やべ、思わず早口に……。落ち着け俺……。我が鎮守府の良心──鳳翔を相手に興奮してしまった自分を心中で嫌悪する俺だが、当の彼女は自らを恥じらって頬を赤らめつつも、微笑を湛えて俺を肯定してくれる。
「はい。提督とご一緒であれば、どこへでも」
「ありがとう。それじゃ行こうか」
や、大和撫子〜! 鳳翔の爪の垢を煎じて明石に飲ませてやりたい。ただの慣用句に聞こえるだろうが、割と本気で飲ませる手段を模索したいところだ。
†
横須賀鎮守府所属、軽巡洋艦・川内。その日は
僚艦と談笑しつつ飯を口へ運び、いつも通り出撃に備えて軽く打ち合わせ。その後は艤装を背負って大海へ降り立ち、護国の任を全うする──筈だったのだが。
「なーんか鎮守府の雰囲気がおかしいんだよねー」
「それ! 噂だと妙高さんが応対した他所の提督が原因らしいよ」
「え、どういうこと? 半端ない鬼提督で、横須賀の空気にブチ切れだったとか?」
食堂も廊下も、すれ違う艦娘の顔つきがいつもと違う。厳しめの顔だったりポワポワした顔だったり、人それぞれだ。先程すれ違った妙高に至っては動きがぎこちなかった。あの妙高が混乱してる姿が見られるなんて一生に一度あるかないかの出来事だろう。
「逆に細マッチョの優男だったりして!」
僚艦の突飛な思考には笑うしかない。 すかさず川内も"艦娘内で共通認識の有名AV"の名前を出して馬鹿話に便乗した。
「ハハハ! そんなのが提督だったら
「あっははは!」
この時世、長期戦にもつれ込む戦闘はそうそうなく、夜戦など望むべくもなし。平和を謳歌しつつ若干の退屈さも持ち合わせた川内には、有り余ったテンションを友人とのふざけあいに投入するか、性欲として消費するかしか選択肢が無かった。
そんな日常。だからこそ食堂の入口から現れた人物は、川内にとって、いや──横須賀鎮守府にとって正に晴天の霹靂だった。
†
『この時間でも混んでるもんだなあ』
『ですね』
えっ!? 男ォ!!?
スラッとした背、短い髪、低い声……男。テレビとか雑誌とかでしか見たことがない存在。私にとって男ってそういうものだった。左隣とそのまた隣をちらっと見れば、五十鈴と長良も目を点にしてて笑える。いや、普段なら笑えてた。
「ね、ねえ川内……」
グリィッ!
「あいだだっ!? なに五十鈴!?」
あの提督に目を向けたままの五十鈴が、私の二の腕をつねる。
「いや、夢かと……」
「自分をつねってよ!?」
そんなことをしているうちに、彼とお付きの艦娘は今、奥のカウンターでランチを受け取っている。いやーすっごい。配膳の職員さんがメスの顔してら。あっオマケつけてやがる! なーにウィンクしてんだよ!
トレーを手にしてきょろきょろする
「ここ、座っていい?」
「えっ? あっハイっ!」
「ありがとう。鳳翔ー! こっちこっち」
ひえええ! 隣に、隣に座ったんですけど! うわ手大きい! 喉仏エロっ!
「日替わりメニューってこんなに豪華なんだな、びっくりしたよ」
「提督、相当なオマケをもらっていましたよ?」
「えっマジ? あーそういうことか! 嬉しいなそれは」
秘書艦かな? 鳳翔さんも提督の向かいの席に着いた。その彼女と親しげに話す提督の声、鼓膜に心地よく響く低音に酔いそうになる。や、やばあ……///
「……い、おーい」
「はあ……はッ!? はい!」
「うおっ」
いけない、思わず夢心地で聞き入ってた……って話しかけられてる!? 風が生まれるほどの速さで彼に向き合えば、切れ長の目がこちらを見ていた。
「ここの艦娘だよね? 」
「はい!」
「あのさ、工廠の場所って分かる?」
「工廠ですか、えっえっと──」
へ、平常心平常心……!
提督に目を合わせられず視線を落とすと、ごつごつとした大きな手。はふぅっ……不意に性癖のロケットパンチを喰らいつつ、鼻血だけはなんとか堰き止めて質問に答える。
「──を曲がった先か。ありがとう。鳳翔食べ終わった?」
「ええ。……食器は私が下げます。提督はお先に向かっていて頂いても」
「いや、鳳翔と一緒に行きたいから。 食堂の外でまってるよ」
そう言い残して食堂の出口へ向かう提督は、最後にこちらに振り向いて笑顔を見せた。
「教えてくれて助かったよ。それじゃ」
「い、いえ……!」
かっこいい……///
思わず彼の背中を追ってしまう……追ってしまった。
そのせいで、私は鳳翔さんの声に、放つオーラに気付くのが遅くなる。
「……の職員は」
「……えっ?」
思わずビクリと反応してしまう。 立ち上がった彼女と目が合う。彼女の瞳に光は無かった。
「ここの職員は男性に
ひっ!
「失礼、貴女に言っても詮無きことでした。それでは」
「あ……」
行っちゃった……。こ、怖かったぁ……。視線に殺傷力が有ったら私はチリ一つも残ってなかったかもしれない。
「ヤッバ……男がご飯食べる所ってあんなにエロいんだ……/// もはやあれがオカズじゃん」
「喉仏に吸い付いて舌で転がしたいわ……」
振り返れば、隣のバカ二人は鳳翔さんの事なんて眼中に無かったみたいで妄想の世界に浸ってる。なんで私だけトラウマレベルの眼力を受けることに……!
……いや、やめよう。私もバカに交ざろう。さっきの事なんて忘れて、あの人の手でイロイロと妄想しよっと!
†
「では定刻となりましたので、各海域における通商路防衛の減員の是非を巡る合同協議を開催したく──」
鎮守府庁舎内の大会議室。議事進行を務める士官さんが手際よくその任をこなす中、スムーズな会議とは裏腹に、俺は一つの事象を前にして思考がストップしていた。
「んな……何で……!」
思わず小声で呟いてしまう。汗が止まらない。何故。どうして。
「なんで皆女なんだよ……!」
右の席も左の席も向かいの席も。見知ったはずの提督達がほぼ若い女性になってやがる!?
こうして、おっさん臭かったはずの定例会議は──異例の良い匂いに包まれながらの開幕となった。
活動報告に目を通していただけると幸いです。