「……」
戦場と言う名のキッチンで調理マシーンと化してたら店内の音がいきなりやんだ。即席クラムチャウダーを煮詰める手を止めてホールを覗き見ると、なにやら店員客問わずに視線を集めてる人が1人。
ライトブルーのワンピースの上にサマーニットを着て、ストローハットを被った白い子。うん、シアちゃんが来てる。
ホールの子も突然の外人さんに驚いたのか、それともシアちゃんの容姿に驚いたのか呆気に取られてたけどすぐに席に案内してた。なんかぺらぺら英語喋ってたけど。
私も調理を再開してクラムチャウダーを完成させて、付け合わせ用に茹でておいたジャガイモを鍋から上げて潰して調味料をいれて混ぜてマッシュポテトを作った。
一応これで今日の仕事は終わりなんだけども……。
「さてさて、アレルギー表示の作業でもしますか」
使った材料、それとパッケージに表記してあるアレルゲンを見ながら項目にチャックをいれていく。
前にピーナッツを使った料理を作ったらアレルギー持ちの人が来たから別の物を作って出した事もあったから今日分が掃けるまで裏で待機か、補助にはいってる。
ひとまず日替わりデザートが間に合ってないからそこに。
今日はチョコケーキなんだけど……うん、昨日仕込んでたはずのスポンジがものの見事になくなってるよね。なんかここ最近品切れがやたら早い気がするんだけど。
わたわたしてるデザート係の子を尻目にホットケーキミックスにココアパウダーをいれて焼きあげた物を4枚作ってチョコソースをかけて、冷蔵庫にあったチョコアイスを添えて完成。
「はいケーキ」
カウンターに完成品を置いて次に取りかかる――
「あ、笹倉さん。限定メニュー、アレルギーの人いるんですけど」
「はいはい」
ふむ、海鮮系ともなると出てくるか。
ホールに呼ばれて出て行くと、そこの席には……。
「きちゃった」
「いらっしゃ。それで、アレルギーは何?」
満面の笑みを浮かべたシアちゃん。
「魚介類。おいしんだけどね、発疹でちゃうから」
「んー、何かリクエストはある?」
「ご飯ものがいいかな」
シアちゃんのリクエストを聞いて厨房に戻ると早速調理に取りかかった。短時間で出来るご飯もの……無難に親子丼にしとこうかな。
タマネギを切って鶏肉も一口大に切って鍋に投入。酒にみりん、醤油と砂糖と本だしも入れて加熱。火が通った頃に溶き卵を半分くらいをいれて鍋に蓋をしていい感じに固まるまで待つ。そして固まった頃にもう半分の溶き卵をいれて半熟になるまでさっと火を通して盛りつける。
店によっては専用の鍋があるけでど……ここにもあるけどいつもやってるみたいに鍋で作った。
さすがにマッシュポテトはこれに合わないからすまし汁も手早く作って持って行くと、お預けをくらってた犬みたいなシアちゃんがそこにいた。
「はい、お待ちどうさま」
「まってました~」
シアちゃんは待てを解除された犬のごとく親子丼を食べ始めた。さてさて、お味はいかがかなー。
「ん~おいしいっ」
お味はよろしいようで。
ひと段落ついた事だし厨房に戻りますか。
*** *** ***
「あー……」
「唸るの聞かせるために連れて来たんなら帰りますよ」
Lacrimでの仕事あがり、彩音さんに運転の元社長宅に連行されたんだけどもさっきからこうして唸ってばっかりなんだよね。
もう帰っていいかな。猫に群がられるのも毛だらけになるだけだし。
「ふぅ……いやな、最近ふたなり需要が地味に増えてきてるもんでね」
「うちってそんなにいないですよね、ふたなり」
椎奈に鏡香、あと社長の3人。まあふたなり自体そんなにいない――
「日本中探せば潜在的には数千か万人はいるらしいが、いざ探すとなるとなぁ」
「……はい?」
「言って見れば染色体異常でそうなるんだ。推定にはなるが、そのくらいはいるだろうとの統計はある」
え、そんなにいたの? 初耳なんだけど。
「この前の顧客、Lacrimに来たそうじゃないか。あんな感じで意外といるもんなんだよ」
人さまのお腹をむにむに押してくる仔猫達をソファ脇によせたりしながら聞いてるけど……うん。
ふたなりって結構いるんだねー。でも推定か。
「んー……シアちゃん、勧誘します?」
「とは言ってもまだ学生だろ? 青田買いするにしてもなぁ……」
んー……来年卒業とは言ってもいりようなのは今だし。
「ああ、それでしたら何の問題もないですよ」
「おい、さすがに現役JKはまずいぞ」
「あの子は学生ではありませんから」
「……根回しして退学に追い込んだとかじゃないだろうな」
根回ししたらそんな事できる権力持ってるの、ここって。というか学生じゃないってどういう事?
「すでに飛び級で高校は卒業してますから。うちで雇ってもなんら問題なしです」
「なんでそんな情報知ってんだ?」
「あの後追加で調べてもらいましたから」
えー……飛び級って事は頭そこそこにいいって事? あんな性欲の塊なのに?
「彩音さん、卒業はいつしてるの?」
「16歳の時ですね。入学して半年です」
「……まあ、いろいろハイスペックなのはわかった。由奈、勧誘は任せた」
「あ、はい」
アルビノでふたなりで才女か……無駄にハイスペックな子だね、あの子。
「まあ、これで人員問題は解決か。あとは、企画人員だな」
「そう言えば前も言ってましたね。AVでも撮るんですか」
「その企画じゃない」
お腹の上で立って今度は胸をむにむにとしだした猫達をどけながら。なんでこの子達は私に群れるのかな。
「こっちで選んだ顧客に話を持って行って、参加費形式でやる企画」
なんだろ、乱交パーティにしか思えない。それかハプニングバーの亜種。
「とりあえず由奈は参加な。メインキャスト」
「何かあるたびに強制参加なんですけど」
「その分報酬は上乗せしてるだろ」
まあ、うん……。
「それとさっき病院から電話があった。来月の頭には面会謝絶が解除になるとさ」
「……」
ぇ、あ……、会えるんだ。
「都合はこっちで付けと行くからそんときは行って来い」
やっと、会えるんだ。そっかそっか……。
群がってくる仔猫達を飼い主(社長)に仕向けたら素知らぬ顔をしてこっちに戻ってきたのを見ながら内心では来月が待ち遠しかったりする。
来月……後2週間ちょいだけど。
「うん、いいよ?」
「……考える時間なしだったね」
非番の日に適当にぶらついてたらシアちゃんと遭遇した。この子、アルビノの割にはUV対策して結構出かけてるよね。
とは言っても日差しに少し当てられてたのかふらふらしてたから近くの店に入って休憩してる。
そしてそこで勧誘の話をしたんだけど、考えたりすることなく返答が帰って来た。あれ、この子頭いいんだよね?
「だってこの前あんなにシたのにもう溜まってきたんだもん。仕事しながら解消できるならいいかなーって」
「まあ、シアちゃんがそれでいいならいいけど。でもさ、今日みたいな日って出歩いていいの?」
「うん。日に全くあたらないのも悪いから出歩く時もあるよ。なんだっけ、ビタミン作るのに必要だからだったかな」
ふらふらするまでうろつくのはどうかと思うけどね。
まあシアちゃんの確認も取れた事だし彩音さんに連絡して迎えに来てもらう事にした。
「でも月に7日くらいしか出歩いてないし、そこまで健康体でもないかな」
「でもふらふらするまで出歩いちゃだめでしょ」
「えへへ」
出会った頃はなんかビクビクしてたけど今ではこんな感じになってる。シアちゃんは多分人を見て仕分けてる。近づける距離、離れるべき距離……なんか勧誘しなきゃよかった感出て来た。
とは言ってもした後だし彩音さんも呼んじゃったし、
「また女の子をひっかけたんですか。女性限定でナンパしてみたらどうですか?」
「常日頃からナンパしてるみたいな風に言わないでくれませんかね?」
人をみるシアちゃんの勧誘を若干後悔しかけてたら飛ばしてきたのか彩音さんが店内にはいってきた。
いつも下ろして纏めてる髪を今日は綺麗にまとめてフレームの細い眼鏡をかけてる。いつも以上に秘書感が出てる。
「……」
そしてそんな彩音さんを見てるシアちゃん。私の横に座った彩音さんをじーっと見てる。
「青田買いなのは言いとして、高卒を雇う感じになるので仕事始めは4月からですね。最低でも18以上ですから、うち」
「で、茉莉の時ともども私がやるの?」
「ええ、直属の後輩の面倒は見てもらいます」
シアちゃんは未だに彩音さんの事を見てる。うーん、この感じが続くならちょいと厳しいかな。
「さて、うちとしては働いてもらう事に何ら問題はないのですが。親御さんもいる事ですしそこをどうするかですね。未成年なら通帳を作るにしても親御さんの印鑑がいりますし、仕事内容をどうごまかすか……まあ、最悪通帳はうちで手配します」
「ねえ彩音さん、うちで出来ない事って何」
「そうですね……メディアに取りあげられない限りの事はたいてい出来ますよ。人脈作りは念入りに用意周到にしてますから」
あれー……なんかとんでもない規模の人脈じゃないの、それって。政治家あたりでも繋がりがあるのかね、うち。
「シルヴィア・フォン・アルテシアさん、新ためて聞きますがうちに入社しますか?」
「……セックスは、いっぱい出来る?」
「ええ。それが仕事ですのでいくらでも」
「なら、いい」
シアちゃんの中で彩音さんは特に警戒するほどでもないけど近づきすぎるほどでもない感じに収まってるみたい。餌付されてほどよく人慣れした野良猫みたい。
「それでも必要書類の作成があるので行きましょうか」
店を出て彩音さんの運転の元社長宅に。その車内ではシアちゃんがやたらくっついてきたけど気にすることなく、据え置きしてあるiPadに椎奈とかが落としてあるゲームアプリで時間を潰した。
そして到着した社長宅。彩音さんが車庫入れしている間に私はすたすた家にあがってリビングに。そこにはまた目ずらしく仕事をしてる社長がいた。
「お、来たか」
「うわぁ、仕事してる……」
「なんだ、仕事しちゃ悪いのか」
目を通してた書類をまとめてテーブルの隅に寄せると、新しい紙を1枚テーブルの出した。
「立ってないで座れ」
見た感ガサツな社長を目にして警戒心をあらわにしてるシアちゃんをソファに座らせて私も横に座った。
「さて、雇用契約になるわけだが……まあ、はっきり言うとうちは非合法風俗店だ。ふたなり相手とはいえ本番行為があるからな。まあ、他にもいろいろ理由はあるが」
「届け出してないのと個人情報とかその他もろもろでしたっけ」
「まあその変も踏まえて説明するが、雇用形態としては基本週休二日の五日勤務で就業時間は要相談。生理休暇あり、健康診断も半年に一回。必須予防接種もうちもちでやってもらう」
「要相談って言うのは?」
「生活スタイルに合わせて時間調整可能って事だな。稼ぎたい奴はその変調整してるが、一応基本給は出るから無理して稼ぐ必要なければ基本就業で問題ない」
ふんふん、と社長の言う事を聞いてるシアちゃん。私の時もこんな感じだったなー。
その後もあれやこれやと言ったり聞いたりしてるのを聞きながら仔猫と戯れていると、雇用契約書の原紙と控えにシアちゃんが記入をしてた。
頭撫でたり鼻抑えたり、肉球をふにふにしてそれを見てたら……まあ、いきなり来たんだから持ってる訳ないよね。
「拇印でいいぞ」
インク台で指を赤く染めたシアちゃんが捺印項目に拇印をして契約完了。あとは給料振り込みの口座とかなんだけどね。
「さて、風俗で働くから通帳作りたいなんて言っても当然無理だろうし……通帳はこっちで用意する。用意し終えた後で心変わりしても契約破棄は出来るからそこにいる由奈か、私に言えばいい」
じーっと、何故か私を見てくるシアちゃん。コミュ障ってこういう状態かな。さっきから借りて来た猫みたいになってるけど。
「一応、18になるまでは内定扱いにしとく。由奈が担当に着くからそれまであれこれ教えてもらえ」
「社長、仕事出来るなら普段からしてください。そんなんだから仕事が溜まるんですよ」
「彩音、帰ってきて早々に言うのがそれか」
車庫入れにしては時間がかかってるとは思ったけど、一旦部屋に帰って着替えてたんだ。
今は黒のスキニージーンズのカジュアルな格好をしてる。
「それはそうと、小由利さんからコールが入ってますが」
「いつですか」
「明日の昼13時です。昼食、食べてくるかどうかだけ聞いて欲しいと言われてますね」
「んー……ご相伴にあずかろうかな」
「ではそう伝えておきます」
彩音さんはそう言うとリビングから出ていった。
そっかー、小由利さんか。なんか久々かも。
「ふぅ、これで企画運営できるメンツがそろった」
「乱交パーティの違いじゃないんですか」
「メインキャストはお前だから集中砲火にあうな。それこそAVみたく」
「そこは茉莉でしょ」
「……その躊躇なく後輩を突きだすのはどうなんだ」
「あの子、あんなんでもかなりエロイ子でしょ。どうにかなるんじゃないですかね」
ちょこちょこコールもはいってるみたいだし、茉莉のエロさにはまったのか顧客もついてるとかなんとか。
まあそれはおいといて、企画運営できるメンツがそろってとか言わなかった?
「まさかとは思いますけど、シアちゃんも参加させるきですか」
「本人次第だけどね」
「企画って何?」
「簡単に言うとね、こっちで何人か人選んで参加形式でやる乱交パーティ」
「まあ……短絡的に言えばそうだな。キャストの顧客から人選してあれこれやる感じだな」
非合法なのによくこんな企画やるな……というか場所どうやって抑えてんだろ。
「場所の確保は済んですから後はキャストの人選だけだ。そこにいる由奈と椎奈に茉莉、鏡香だろ……一応、桜もいるな」
「え、桜も出るんですか」
「ああ、出るぞ。よかったな、義妹が参加して」
「義妹?」
「勝手に言ってるだけ。妹は1人しかないないわよ」
にしても桜か。やたら私に懐いてる妙な子だけど、参加するのか。
あの子苦手なんだけど……。
「で、シアはどうする。でるか?」
「18になるの再来月だけど……いいの?」
「まあ、根回しにそんくらいかかるから別にいいぞ」
再来月……シアちゃんって9月生まれなんだ。
それはそうと面会も控えてるんだけどさすがに企画と予定はかぶらないよね。この企画自体、短日なのか泊まりがけなのかわかんないし紗季にどう言っておこうか。
「ん、紗季だ」
エロ妹の紗季から着信が来た。なんだろ、夕飯のリクエストかな。
『あ、お姉ちゃん? 今大丈夫?』
「うん、大丈夫」
「一応仕事の話し中なんだけどな」
社長がなんか言ってるけど無視。
『えとね、今日友達の家に泊まるから』
「んー」
『メーとわたにはご飯いれといたから』
「うん、迷惑かけないようにね」
紗季の言ってたメーとわた。この前紗季が貰って来たハムスターの名前……フルネームはメタボとわたげ。体形と毛質で名付けたけど、まあいいかなって。
そっか、今日は泊まりか……。
「なんだ、男のとこにでも行くって?」
「男なんて気持ち悪い、死ねばいいとか言う妹にいるわけないじゃないですか」
「……似た物姉妹だな」
「でも気持ち悪いのは確か。そして死ねばいい」
「シアちゃんも何言ってんのかな」
「出歩いてる時の視線が気持ち悪い。目玉刳り抜いてやりたい」
「うちの従業員はこんなのしかいないのか……」
「女専門風俗なら別にいいんじゃないですか?」
皆が皆男は気持ち悪いとか言ってるようなとこだしね。まあ例外もいるけど。
「はぁ、まあいい。とりあえずキャストは由奈に椎奈、茉莉に鏡香と桜、シアの6名。1泊2日予定、と」
「人選はこんな感じになってます」
「彩音さん、小由利さんどうだった?」
「楽しみに待ってる、との事で」
どういう意味の楽しみなのかな。
帰って来た彩音さんの持っていた紙には企画に呼ぶであろう顧客の名前が書いてあった。ちらっと見た限りじゃ小由利さんとか柚華ちゃん、夕衣ちゃんの名前が見えた。
「それはそうと由奈さん」
「何?」
「今日は自宅に?」
「うん、どうして?」
「いえ、自炊に飽きたので」
それはあれかな、泊まって行けって言ってるのかな。
「肉がいいです」
「私も肉食べたい」
「料理されてるならなんでもいい」
普段何食べてるのかな、ここの人達。料理されてるならって、普段は無加工でえ食べてるって事? それと、シアちゃんもさりげなく泊まる気でいるよね。
あとさ、私が泊まるのを察知したのか猫達が一斉に群がってきたんだけど。ねえ、私の胸むにむにして楽しい?
肉肉しい回。