8月5日は高律の0日設定。
いったいどんな日になるのだろうかというのはクラスタの興味の湧くところです。
そんな日が目前に迫っているので祭り気分のお話です。
いつものパラレルではないですが、やっぱりIFの世界なので妄想暴走しているところはご容赦を。
なんでも赦せる方のみご覧ください。
高律祭りその一
恩師が亡くなったという連絡が唐突にリツの元に届いて、イギリスに旅立ったのが丁度週の頭だった。
イギリス時代のリツが鬱々とした毎日を送っていたことはリツの友人の尚から聞いている。
少しずつあいつの手を借りてリツが立ち直っていったのだと。
そして尚がそれを告げる言葉には俺への糾弾が隠れもせずに込められていた。
あの頃の自分の何が悪かったのだろう。今をもってしてもはっきりとした答え、正しい答えは見つからない。
昔のリツは恥ずかしがり屋でモジモジしていることが多かった。しかしここぞという所では純粋で素直な気持ちを
フェイントをかましながらの攻撃に俺はすっかりやられてしまったのだ。
そういう気持ちの手札のない俺はポーカーフェイスを崩し、怒りと困惑から盤をびっくり返したはずなのにそのフェーズはそのまま続きリツと俺のターンは何度も何度も繰り返された。
そしてハタと気づく。
攻撃に思えたそれは、寂しさに凝り固まった俺の気持ちをゆったりと溶かして、俺の中で凍り付いていた人を愛するという種を芽吹かせてくれたのだと。
気づかせてしまった罪は重い。
俺は残ったささやかで最強の手札を一枚切り陣営に引きずり込むつもりだった。そして
しかしセオリーに則って踏んだはずのコンボは効かず、リツは目の前から消えた。
▽
リツが学校に行けなくなったという高校ー年の一学期、俺もまた別の理由であの学校に行けなくなった。
俺は東京からいなくなったから。
なんで?どうして?俺はこのままここにいたい。
めったに反抗のしない俺の抗議の言葉に『この家はもう買い手がついている』と母親は短く告げた。
もう東京に残る事はできないのだと。
母の実家の香川には今の学校の系列校があり、転入の手続きは済んでいて、特に問題もなくそこに行けるように手配をしていること。
あなたには不快かもしれないけど、私は別の人と家庭を持つことになってその人も香川の人たからと言った。
全てが寝耳に水だった。なんでそんなことになってんだ。
あなたも一緒に暮らすことになっているからと母親は言ったけど、冗談じゃないと思った。
何もかも勝手に決めて思う通りにしようとするすべてが憎かった。
「ふざけるな…。なんでそんな男と暮らさなきゃならないんだ!」
俺がそう言うと、母親はため息をついてそれなら祖母のところに住むように手配をすると言った。
元々思春期の息子に対する代替案はいくつか用意していたようで、俺の反発も想定内だったようだ。
ならばなぜ東京に残るという選択肢だけは否定する。父親はどうしたのだ。
ほとんど接点がなくなっていた父親にまで縋りたくなるほどに俺は焦っていた。
しかし父親もまた別な居場所があるのだと母は告げ、何を選んでも結果は同じだと
相手の男は母親の幼馴染で、それなりに交流は続いていたものの、このようになったのは比較的最近だったようだ。
息子の進路の面談にも来れないぐらい忙しいと言っていたくせに、男と暮らす算段をしたり、学校と話をしたりしていたのだという事にも腹が立った。
確かに俺はガキだった。
今ならもう少し話を聞いてやれば良かったのかもしれないと思わなくもない。
なにより俺が女だったら、娘とならもう少し話をしたのかもしれない。
まあ…、みな『タラレバ」の話ばかりだが…。
母の実家とはいえ、盆と正月ぐらいしか行ったことのないそこは馴染みも薄く、学校も系列という割には法人トップが同じと言うことぐらいで、制服さえも同じではなく、黒い詰襟の制服からやけに明るい青色のブレザーに変わった。
これはどちらかと言うと中等部の制服に似たもので、あとワンシーズンしか着ないのに値段ばかりが張り、急ごしらえのお仕着せは最後まで身体にはフィットしなかつた。
高校三年の転校は常識ではありえなく、受け入れる方も腫れ物に触るような感じだった。耳慣れない言葉、馴染まない清浄な空気、着慣れない制服、馴染のない名字。
ここが妙に俺に優しすることに背中がむずむずと痒いように感じる。
そう、居心地がいいことに戸惑う。
自分の立っている場所が何処なのかと不安定な気持ちばかりが湧いたあのころ。
俺の中の尖っていた何もかもは、その切っ先を向ける場所さえなくしてしまったのだ…。
▽
リツとの再開の後、初めてお互いがお互いだと認め合ったあの日、リツは俺のことを「いなくなった」と言った。
それは俺が引越しをしたことを指していたのだろう。その言葉にリツがあのあと俺を探してくれたのだとわかり、俺の事をただただもてあそんで捨てたのではなかったという確信を持った。
俺が必死でお前を探していた時にはお前は家で引きこもり、お前が探してくれたときには俺はもうそこにはいなかった。
リツとてたったー回フフンと鼻で笑っただけで深く傷つき俺を恨んで逃亡をしたわけではなく、リツもまた何度も何度も俺を求めて傷ついたということだったのだ。
あの日、俺がリツを逃さずに捕まえていたら、きちんとお互いを知り、俺が小野寺という苗字を知っていたら、
両親が離婚などせずに俺もまた東京にいられたなら、
今俺達はどうしていたのだろう。
昔のリツと今のリツ、同じリツだけどやはり違う二人…。
今のお前がいいって言ったけど、お前はそれを信じてくれているのだろうか。
大きな大きな高速道路のジャンクションのような分岐点はいくつも存在して、未来からそれを見返すとなんであの道を選んでしまったのだろうかと後悔ばかりが湧く。
悔いのないように一生懸命生きているつもりなんだけどな…。思うようにはいかない。
そんな風に…、リツのイギリス行きはどうにもできない事をぐるぐる考える数日だった。
▽
その日のタ刻、普段は催促しても連絡など寄越さないリツから『空港に着いたので今から帰ります』という短い連絡が入っていた。
飛び出していく時には急すぎて、たいした仕度もしていなかったから帰るときとてそれほど大荷物でもないだろう。しかしリツにとってのイギリスがどのような場所なのか考えると心に背負ってきた荷物はずしッと重い事だろう。
疲れ果てているに違いない。
飯と風呂の用意をしておこう。そしてもし何かを話してくれるならそれをゆっくりと聞きたい。
『帰る』と言ってくれたお前から…。
▽
簡単に食事を用意しておく旨の返事をするとこれも珍しく『日本食が食ベたいです』と返事があった。
昔のイギリスでは、マッシュポテト攻めでジャガイモ料理が嫌になったというぐらいだから、リツは洋食より和食が好きなのだろう。
カレーを食ベたりハンバーガーとポテトでタ飯を終えたりしていたからジャガイモ全般が嫌いとは思えない。
料理によって好き嫌いが別れる素材というものは往々にして存在するものだ。
そんなことを思うとリツが頬を染めて食事をするシーンが脳裏に浮かぶ。行儀がいいから口に箸を突っ込んだままでいることはないけど、それでもたまにぼんやりと椀を見つめたりしている。
多くの蔵書を読み解いてきたリツが脳内に多層に渡るデータを格納していることは知っている。
その記録に何かが触れた時、脳の発する電磁波はハイスピードでサーチするのだそうだ。そして
何考えてるんだろう?
いつだってその顔を見つめながら俺は思う。その神髄に触れたいと。
しかしリツの解は具現化することは少ない。語彙が少ないとか口下手だとか本人はあれこれ言うけどそれはきっと違うのだろう。
感情が豊かすぎてそれにあう言葉を選びきれないのだ。
用意されたテンプレートでは対応できないほどのオンデマンドを要とする内容なのだから…。
それでも言って欲しい。できれば俺の欲している言葉を。
そう思うけどそこをうかつに突っつくとハリネズミ攻撃が返ってくるので抱きしめられない。
俺が痛いだけなら我慢するけど、丸くなって自分の柔らかい所も刺してしまい、それさえも隠そうとしてしまうから。
そんなお前も可愛いと思っているのだと分かって欲しいけど、俺の言葉はお前の心に届いているのだろうか。
気持ちを察することもできないのに言葉もまた自由ではない。
難しいな。
▽
『最寄駅に着きました。今から帰ります。』
リツからそう連絡が来た時には食事の準備もほぼ終え、本人の到着を待つのみだった。
駅まで迎えに行こうと思ったけどそれはやめた。
マンションまではほぼ一本道ですれ違うことはないはずだけどやはり怖い、一秒でもロスをしたくない。
それでも気持ちが逸って、工ントランスの前で待っているとトランクを引きずったリツの姿が坂の下から見えてきた。
たった数日だったのに考えることが多かったせいか、ふわふわと揺れる茶色い髪さえ懐かしく感じる。
住宅地沿いの上り坂の道には人影はなく、姿が見えていても距離は少し遠いことがもどかしい。
あたりはすこしだけ暗くなっていて通る車もヘッドライトをつけようか付けまいか迷っているような時間だった。
やはり疲れているのか足取りも重そうだな。
早足で駆け寄りおかえりと言ってトランクを受け取ろうと手を伸ばすと、その腕を交わしてリツが腕の中にスルリと納まった。
とっさのことでびっくりしていると腕は背に回されリツの頬がシャツー枚の俺の胸にペたりと張りつく。
「ただいまです。」
驚きから戻れていない俺の腕は瞬間空中でさまよったけど、すぐにしっかりとその身を支えた。
指をうなじからリツの髪に差し込んで、頭の丸みにそって頭皮を撫でるように摩り、そのまま指を進めると汗を帯びた髪が揺れて鼻先にリツの香りが立つ。
頭蓋骨ごと掴むように力を入れ、背に回した手を引くとリツからすっと力が抜けるのが分かった。
リツが今ここにいるという実感が思慕や愛しさに変異し、二人の間に服や皮膚といった物質的な隔てるものがあることにイライラが湧いて、さらに腕の力を強めると、「痛いです。」と胸のあたりで小さいリツのアルトの声が漏れた。
甘いリツの存在がこの数日間の喪失の重さや寂しさを思い知らせる。
どうして10年間も離れていられたんだろう…。
そのまま右手でその腰を支えながらトランクのハンドルを左手で奪って、工ントランスから自宅へ移動する時もリツは腕にすがり身体をクタリと俺に預けた。
普段のリツならこんな無防備な姿を人目につく場所でさらさない。俺が抱きしめたとしても『外です』と激しく抵抗をしただろう。
やはり相当疲れているんだなと、リツを休ませる算段を再度頭の中で組み立てなおす。
風呂が先か?そしてその間に食事を温めなおして…。
ちょっとだけよぎった邪な思いは自分の中の理性に言い訳を任せ封印した。
▽
「疲れただろ?」
当たり前のように俺の家のドアを開いて招き入れると、ぼんやりとした目をしたままリツが「はい。」と小さい声で言った。
黒い革靴の靴紐を解くリツをのつむじを見送り洗面台で手洗いをしていると、
「景色もあまり変わらなくて、昔のまま何もかもがありました。本当に何も変わらないのに人だけがいなくなっていくんです…。」
というリツのつぶやきが聞こえた。
手を拭きながら見上げたリツの顔をみると苦いものでも食べたように顔を少しゆがめる。頬を親指で撫でてやると俺に抱きつき胸に顔を押し付けて何かを小さくつぶやいた。
背に回った手にギュウギュウと力がこもるのが分かる。葬儀に参列したのだ、色々な想いがあって当然だ。
一人で行かせてしまったことに軽い後悔が湧く。
「リツ、疲れてるね。お風呂湧いてるから入る?」
子どもをあやすように背をポンポンと叩いて言うと「はい」と返事が帰ってきたので少しだけホッとして「脱がしてやろうか?」と
リツの大きな緑がかった瞳が俺をじっと見る。なんだか急に恥ずかしくなって戸惑い、その行動が直前に俺が言った『脱がせる』という事に対する返事だと思い当たるのに少しだけ時間を要した。
リツの腕がくねくねと関節を無くしたようにしなやかに首に回る。
近づいた顔の角度が少し傾き、リツの瞼から力が抜け、それに伴ってまん丸だった目が怪しく細められていく。
息を吐くタイミングでうっすらと唇が開かれ、中にチロチロと見えるのは出番を待ちきれないと逸る赤い欲望に思えた。
首に回っていた手が軽く首筋に絡み、その指先が襟足の毛根をサワサワと刺激する。軽く掴まれ引っ張られる髪が動くとなんとも言えないむずがゆさがそろりと湧いて背筋に逆毛が立つような感触が上って来る。
「リツ…。」
少し張り出した肩甲骨の骨の形に沿って指を這わせると肩の薄い筋肉の盛り上がりがピクリと上下し、首の裏の窪みを支えて身体を密着させるように引き上げるとリツの唇は俺の顔に触れる寸前まで近づいた。
顔にかかる吐息が熱い。
リツの目は瞑ることなく俺を見据え、瞳の芯はいつもの濃い
秘められた場所に格納されていたはずの舌で俺の唇をペロリと舐める。
まるで別の生き物のような生暖かさやそれをもてあそぶ心地よさ、そこから連想される快楽に下腹がジンッと熱くなって、その熱がもたらす寒気が扱かれるように下から上へとゆっくりと競り上がってくる。
口をすぼめてリツの舌をチュッと吸い上げるとリツの膝が俺の足の間に差し込まれ、リツの腰骨が俺の熱の元を押し上げた。
ドキリとして口の力を抜くと今度は下唇が
そうしている間にも細く長い指が俺の髪を無造作にかきまわし、掴まれた髪ごと頭が引かれ、その力が強くなった瞬間にバランスを崩した俺の唇がリツの唇に重なった。
引き寄せられたせいで背を支えていた手はリツの顔を挟んで壁に着く形になり、首につる下がるリツはペチャペチャと俺の口をうまそうに舐める。
あ、気持ちがいい…。
生き物のようなリツの舌の動きが俺の舌をよこせとつついたり絡めたりしてねだるので、舌が攣りそうになるほどに奥に侵入して、柔らかい口腔の内壁を摩りあげる。
唇はその間も吸ったり押したりと忙しなく動き、敏感な所を余すところなく攻めていく。
「ふ…、ぅん…。」
息継ぎの合間に漏れる息が熱を含んで欲情を掻き立て、普段気にもしない場所さえも官能的なポイントと化していった。
柔らかい。そしてあまい。
何もかもが満たされるこの感じだ。
喪失感も、欲望も、愛しささえもすべてどろどろに溶けて混じってカラフルだったそれぞれの色が粘度の高い透明な液体になっていくようだ。
細く力を込めた舌が咥内のいい所にあたるとリツがブルっと身震いをする。リツが俺を感じているのがたまらずに、もっともっと喰いたいとばかりに舌の隅を甘噛みして、熱湯のように熱く蜜のように粘度を増して濃く甘く変化した唾液を啜りあげると喉がごくりと大きな音を立てた。
静かな部屋には衣を摩る音と子猫が母猫の乳を無心に吸うような本能の音しかしない。
なのになんでこんなに卑猥なんだろう。
ここにいる存在はもはや求めるだけの本能なのだ。
隔てるものを取り払うことができない二人が、それでもあがいてあがいて一つに近づくための欲求以外の何物でもない。
光る電灯に炙り出されるリツの長いまつげがフルフルと震える。咥内を凌辱されつつ逃しきれない快楽に揺れる姿が美してく、こんなに近くて一つになりたいのに一つでないことに快感を感じてしまう自分もいる。
壁を背にしたリツが逃げられないのをいいことに、強く押しながら喉の奥の限界点に達した時に、とうとうリツの膝がガクリと折れた。
「風呂入る?」
うっとりとした瞳に向かって意地悪くそういうと、リツが降参とばかりにこくりと頷いた。
頬を掴んでいた指で口の端をツルリとさすって、今度は熱を取り払った同じ指でポイボイつと服を脱がせて立ち上がれないままの身体を抱え浴槽に放り込んでやると、リツはふう~っと大きく安堵の息を吐いた。
さっきまでの欲情に塗れた顔を素の気持ちよさそうな顔に変えバスタブのヘリにもたれかかる。
リツについて来た何かに一旦は勝ったとその時俺は思ったのだった。